No.561056

cross saber 第13話 《聖夜の小交響曲》編

九日 一さん

久しぶりの連続投稿ですね。

二日続けてやっていた “SP” 見た方も結構多いのではないでしょうか。 すごく感動しましたよね。
斬るという手段で悪を止めたり殺めたりするのではなく、“拳で悪人の正義を救済する” みたいなのもいいかもしれませんね。

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2013-03-31 08:55:58 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:429   閲覧ユーザー数:427

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第13話〜騎士(ナイト)を気取った勇者〜 『聖夜の小交響曲(シンフォニア)』編

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【side ???】

 

「お兄様。 助けて、お兄様……!!!」

 

少女は小さな草むらに隠れて、一人震えていた。

 

夜闇と共にまとわりついてくる恐怖を必死に取り払おうと大好きな兄のことを思う。

 

もう、長い年月を共に過ごした木材で組まれた家々も、よく懐いてくれた羊や牛もそこにはない。 村の自慢であった生い茂る木々も最早ほとんど見当たらない。

 

そして少女には家族や友達がどうなったかも分からなかった。 ただただ、言われ、恐るるがまま一心不乱に逃げ惑ったからだ。

 

いつの間にか少女は一人、唯一草むらの密集していたこの場所で、泣き叫びたい気持ちを必死に堪えて身を潜めていた。

 

その村の平穏な日常を濁流のごとく流し去ったのは、少女が今まで一度も見たことのない異形の獣の群れだった。 突如として現れたその一団は、思い出の詰まった大切なものを何もかも蹴散らしていった。

 

あの地獄のようなひと時からすでに一時間以上は経っているように思われたが、少女の中に深く刻まれた恐怖は主人の動きを完全に封じていた。

 

「お兄様……。みんな!!!」

 

少女はか細い両の指を組み合わせ、天上の有明月に向かって切に祈る。

 

ーーと、その時。 草木の向こうから、ガサリと音がした。

 

少女は一瞬肩を震わせる。 が、永遠にも感じる孤独な一時間に抑えきれなくなった不安は、何よりも温もりを渇望していた。

 

少女はそこに愛する友達が、家族が、兄が両手を広げて待っていると信じ、すぐさま草木を割って飛び出した。

 

「お兄様っ!?」

 

だが、少女の目の前には、彼女が心から望んだ存在はなかった。

 

ーーいや、言うなればその真逆。

 

そこにいたのは、人のような成りをしていながら明らかにそれでないと分かる、異形の生物。

 

山のように隆起していながらも強固に引き締まる筋肉。 獰猛に開かれた大きな口からはねっとりとした唾液が滴り落ちている。

 

「う……あぁ………」

 

その赤黒い肢体がゆっくりとこちらを向き、少女のはしばみ色の瞳と獣の黄色に鈍く光る眼光が交差する。

 

その目がギラリと瞬いたかと思うと、ズンッと、重々しい足音を鳴らしながらその獣がこちらへ歩みを進め始めた。

 

ーーいや……来ないで……!!!

 

拒絶の叫びも声になることはなく、どんなにその足を動かそうとしても張り付いたように虚しく震えるだけだった。

 

少女は必死の抵抗のために兄から貰った短剣を震える手でギュッと握りしめる。

 

だが、何をできるわけでもない。

 

そもそも彼女には剣の心得が全くと言っていいほどなかった。

 

『もしお前が望み、覚悟を固く誓うなら、この短い劔は何よりも長い刃となって敵を貫くだろう』

 

この短剣を渡す時に兄が示した意味深な言葉が脳内に蘇るが、それも泡のように消えゆく。

 

こちらへと歩く獣がさらにスローモーションに見えた。 これが、死の間際にいるということなのだろうかと少女は思う。

 

ーー私……ここで死んでしまうの? そんなの………やだよぉ。 もっと生きたい。 お兄様に会いたい。

 

今日までの楽しかった事も、苦しかった事も、記憶の断片が次々と頭の中に浮かび上がり、それぞれが少女の“生きたい”という感情を強くしていった。

 

「助けて………!!!!」

 

少女はあらん限りの声で叫ぶ。

 

「私はまだ、生きていたいっ………!!!」

 

 

 

 

ーーーそして、願いは届いた。

 

 

 

 

その獣が後数歩というところまで迫った時だった。

 

 

ーードオオォォォォン!!!!!

 

 

突如黄金色の旋風が眼前の地面に猛然と激突し、空をも揺らぐほどの爆音と衝撃を起こし、景色を全て黒土色に塗りつぶした。

 

白々延々。 漆黒の夜空へと巨大な嵐雲が立ち昇る。

 

少女が呆然とする先で、土煙の中から一人の少年が姿を現した。

 

ミディアムの金髪とエメラルドグリーンの瞳を称える彼は少女に一度微笑みかけると、「もう大丈夫だから」と優しげに言った。 そして、身長ほどの大剣を音高く抜き去り、煙の向こうで唸る獣に向かって掲げると、怒りを吐き出すように強く叫んだ。

 

「こんな可愛い少女を何の理由もなく傷つけた。 ……君を斬る理由はそれで十分だ………!!!」

 

 

 

 

 

 

【side ハリル】

 

「酷すぎるよ……こんなの………」

 

視界を照らすのが唯一月の明かりだけでもその悲惨さが分かる。

 

一面に散乱した残骸は所々で小高い山をつくり、時に小さな音を立てて儚く崩れていく。

 

人が生活していた事を示す痕跡は完全に崩壊しており、その光景にはぽっかりとした虚無と同時に締め付けられるような息苦しさが存在していた。

 

辺りを見回すと、皆が同じように沈痛な表情を浮かべている。

 

私は地面に視界を落とすこともできず、瞳を閉じて空を仰ぐ。

 

「酷い………」

 

この惨事を引き起こしたであろう亜獣に対する怒りは、どれだけ澄んだ夜空に飛ばしても私の中から消えてなくなることはなかった。

 

イサク君も血がにじむほどに唇を噛み締めて、何があるわけでもない闇をキッと睨んでいる。

 

そんな中で最初に口を開いたのはマーシャだった。

 

「……今から立ち止まってるようじゃだめよ。 一刻も早く捜索して、生きてる人を探さなきゃ」

 

「ああ、そうだな……」

 

イサク君の賛同に遅れて、皆がそれぞれ頷く。

 

私もコクンと頷き返し、腰のレイピアの鞘を撫でた。

 

ーーまだ、全部なくなってしまったわけじゃない。

 

そう思い直すと、今自分がすべきことがはっきりと受け入れられるようになった。

 

「それでは、手分けして探しますか?」

 

アラディフィスの研究員の一人が控えめに言う。

 

と、答えが返る前にマーシャが再び口を開いた。

 

「あれ……? そういえばカイトは?」

 

その言葉に全員が周囲を見渡す。

 

確かに、暗闇でも目立つ金髪と黄金色の大剣を背負ったカイトがいなかった。

 

「いつの間に………」

 

私は思い当たるところがあったが、状況が状況なだけに不安に襲われる。

 

ーー大丈夫かな……カイト…………。

 

カイトとは一緒の都市に生まれ、両親の付き合いで三歳頃からよく遊んでいた。 私にとってイサク君やマーシャ達よりも古い付き合いなのだ。 お兄ちゃんというイメージが正しいかもしれない。

 

それ故に、イサク君に対するものとはまた違った感情を抱いており、こういう時に隣にいないと妙な寂しさを覚える。

 

すると、そんな私と同じくカイトの突然の失踪の理由を察したのであろうイサク君が、私の隣に歩いてきて頭に手をポンと置くと励ますように言っててくれた。

 

「あいつは、皆に心配かけといて謝りに来ないような奴じゃないよ。 安心して待ってればそのうち出てくるさ」

 

彼の優しい気遣いに慰められると、私は少しうっとりしてしまっている自分に気付きブンブンと首を振る。

 

「う、うん。 そうだよね! カイトはバカみたいに真正面で、ちょっと神経質なところもあるけど、すっごく強いもん!」

 

私が自分に言い聞かせるように照れ隠しに言うと、イサク君は「そうだよ」と呟き、私の頭をゆっくりと撫でてくれた。

 

ーーイサク君には助けられてばっかりだ。

 

私は恥ずかしさに俯きながら、それでも微かな嬉しさに身を少しだけ傾ける。 同時に、自分の中にずっと抱いてきた一つの思いが強くなるのを感じた。

 

「私にも何かできることがあったらな……」

 

「ん? どうした、ハリル?」

 

「あ……えと………、ううん。 何でもない」

 

私は思わず口をついて出てしまった言葉を飲み込み、その代わりに胸の内で小さな決意をした。

 

 

ーーなんでもいい。 イサク君のためになることで、私にできることがあったら、その時は迷わずそれを実行しよう。

 

 

自分の中で自分だけに立てた秘密の誓いを胸に、私は今の現状に臆することなく向き合うことにした。

 

カイトの消息もおぼろげながら判明したため、私達は当初の目的に従って行動を開始する。

 

「それでは、編成をしたいと思いますがーー」

 

先ほどの研究員がそれぞれの役割と、念のため戦闘能力を考慮した上でメンバーを組み分けていく。

 

私はそれを耳にいれながら、周囲のダークブルーに染まった荒地をもう一度、警戒するように見回した。

 

 

 

ーーその時、私は少し離れた闇の中に、こちらをじっと観察している奇妙な気配の二人組がいることに気付いた。

 

 

 

 

 

 

【side カイト】

 

僕は小さい頃から第六感のようなものが優れていた。 何故かは分からないが、そのピリッと背を這う電撃のような感覚は緊迫した状況で最悪の展開を回避するのに大きな効果を発揮してきた。

 

そしてその直勘の様なものは、この村に入った瞬間に反応した。 殺気と恐怖がぶつかり合って共鳴することによって発される独特の気配。 僕はそれを感じ取るとすぐさま身体を動かしていた。

 

イサク達に伝えるべきだとは思ったが、確実性のない事を知らせることによって動揺を招くような事態に陥ることだけは避けなければならないと判断し、単身こうして多大な危険が待ち受けているかもしれない場所に足を踏み入れたのだ。

 

ハリルのことも心配だったが、イサクやレイヴンが一緒にいる限りは大丈夫だろう。 それに、どうやら僕は自分の心配をした方がいいらしい。

 

目の前にいる亜獣は僕が今まで見てきたどれとも異なり、比べようもないほどその威圧感を増していた。 おそらくこいつがイサク達が対峙したという“進化した亜獣”なのだろう。

 

鋭く尖った狐のような顔、ビルダーなど目でないほどに筋骨隆々のゴリラのような巨体、腰の辺りから伸びる硬い鱗に包まれた図太い尻尾のようなもの。 どれをとっても異質と言うに相応しい。

 

ただ、こいつがその時の亜獣と全く同じならよかったが、僕が見る限りどうやらそうではないらしい。

 

月夜に照らされてねっとりとした光を放つ赤黒い筋肉は聞いていたものよりずっと剛健に張り詰められている。 そして何より、僕の顔を軽く握りつぶせそうなほど巨大な手中では比例するような大きさの野太刀が鈍く光っていた。

 

奴がもし、さらに進化した亜獣なのだとしたら、俺は間違いなくただでは皆のもとへ帰れないだろう。

 

だが、自分で決断してこの状況を選んだのだから今更何を後悔しても無駄だ。

 

それに、登場早々ああして少女の前で格好をつけてしまったからには負けるわけにはいけない。 それでは男が廃るというものだ。

 

僕はチラリと少女の方を見た。

 

最初はかなり小さい女の娘だと思ったが、こうして改めて見てみるとそれとは真逆だということが分かる。 おそらく身長は、女子にしては長身のマーシャにも劣らないほどだと思われる。 縮こまって震えていたこともそのイメージに拍車をかけていたのだが、若干落ち着いた今の彼女からは品の良い女性といったような雰囲気さえ感じる。

 

瞳と同色のはしばみ色の髪は腰ほどまであり、月明かりを受けて白銀に美しく輝いていた。 顔や服はきっと逃走中に汚れてしまったのであろうが、それを差し引いても見惚れてしまうほどに端麗な容貌だ。

 

僕は思わず引き込まれそうになった自分を叩き起こして決意を固めるために、混乱と心配の表情で僕を見つめる名も知らない少女に話しかける。

 

「……僕が必ず護るから、君はそこで待っててね」

 

少女は俺の言葉を目を一杯に見開いて聞いていたが、やがてせきがきれたように大粒の涙をポツリポツリとその瞳から落としながら一瞬だけ精一杯の笑顔をつくって消え入りそうな声で「ありがとう」とやっと一言呟いた。

 

ーーこれで余計に負けられないな………。

 

僕はそんなことを考えてふと気恥ずかしさに襲われたので、一度視線を外してからそれをごまかすように少女に問うた。

 

「もしよかったら……君の名前を教えていただけるかな?」

 

少女は少しだけ戸惑ったが、目の端に溜まった涙をすっと優美な動作で拭い、ぎこちないながらもとても美しい微笑みを浮かべて途切れ途切れ答えた。

 

「……セシリア………。 私は……セシリアです。 ………貴方は……?」

 

「……僕はカイト。 ……頼りないと思うけど、今だけはこの騎士(ナイト)を気取ったただのバカに……君の信頼を預けてくれるかな?」

 

闇夜をも照らす天使のような少女、セシリアの微笑みに、僕は絶対に護ると、もう一度誓いを交わした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《あとがき》

 

さて、今回のカイト君はなかなか上手くかけていたのではないでしょうか?

果たしてイサクとハリルが二人がかりでやっと倒せた、“進化した亜獣”を相手に彼はどう戦うのか。

 

そしてもちろん、イサク達sideもこのままではいきません……。

 

次回は一週間以内に投稿できると思いますので、楽しみに待っていただけたら幸いです。 それでは、また次回!!

 

 

 

 

 

 


 
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