No.561014

真•恋姫†無双 二人の遣い プロローグ

霞月さん

正史に対して外史があった。
それは無限にある多くの歴史の可能性。

そのうちの一つ、恋姫達が三国志を紡ぎあげる外史の世界。
そこは北郷 一刀という少年を中心に回る世界。

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2013-03-31 01:14:48 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1386   閲覧ユーザー数:1270

 

外史の世界。

それは正史とは別の歴史。

それは正史の人々が望んだ形での世界の顕現。

または、そうして生まれた外史の住人の望みの産物。

そうして無数の外史は生まれる。

 

例えるならば、玉石混交(ぎょくせきこんこう)。幸福な歴史の歩みを迎える外史もあれば、当然悲惨な道を歩む外史もある。

全てはその外史を作るに至った人々の想像力に委ねられる。

『管理者』と呼ばれる者に見守られながら今日も外史は育まれ、新たな外史が生まれていく。

 

 

「ちょっとちょっとちょっとぉ、どういうことよぉ~!?」

 

「わしも事態が飲み込めておらぬのだ、少し静かにしておれ!!」

 

バタバタバタバタと躍動する肉塊を山のように大きな肉塊が諌める。

諌めても躍動する肉塊ーー肉塊Aは止まる事をせず動き続けているのだが、一方の肉塊ーー肉塊Bは放っている。

 

肉塊Bは黙したままで何やら高速で文字が浮かび続ける画面を凝視する。画面に浮かぶ文字に多いのはError(エラー)。予想外の事態が起こったのは想像するに難くない。

しかし、この画面が教えてくれるのは異常が起きているという事だけであり、詳細は一切不明なのだから彼等が慌てるのも至極当然である。

 

「ぬううううん!分からぬわー!!」

 

何とか理解しようとしていた肉塊Bもとうとう匙を投げた。投げると同時に眼前を駆け抜けようとした肉塊Aに見事な右フックを叩き込んで運動ベクトルを強引に反対向きに作用させた。無論、八つ当たりである。

 

「ぶぐるしゃあー!!」

 

勢いよく飛んだ肉塊A。それこそトラックにでも跳ねられたのではないかと疑うような見事な吹き飛び方で壁に叩きつけられたかと思えば、ずるぅりと滑り……べちゃりと床に落ちた。さながら漫画のようであるが、肉塊Bは目もくれないままで鼻息を荒くしつつ画面を睨み付ける。

 

Error表示の止まない画面に時折浮かぶのは北郷 一刀(ほんごう かずと)の名。どうやら今回も彼が中心となる外史が生まれるらしいと把握した肉塊Bは、先程床に崩れ落ちた肉塊Aに声を掛けた。

 

貂蝉(ちょうせん)よ、お主この外史に紛れ込み北郷 一刀を上手くフォローせよ……今回は外史の人間としてじゃ」

 

「あらん、そんな特例中の特例、許可を取らずに行っていいのぉ?卑弥呼(ひみこ)らしくないわねぇん、どぅふふ」

 

肉塊A改め貂蟬と呼ばれたマッチョが頬を赤らめてクネクネとするのを見て、再び拳を握る肉塊B改め卑弥呼。

 

そらの拳から腕のラインはとんでもなく逞しい。正直逞し過ぎてその奇抜な服装にそぐわしくない。

 

股間には純白の(ふんどし)、胸には女性物の短いネクタイ、そしてマントじみた形だが変形紺ブレザー。髭を蓄え、髪はお下げ髪。にもかかわらず、筋骨隆々たるおっさんなのだから気持ち悪い以外に感想は湧くまい。

 

相方の貂蟬も似たり寄ったりで、ピンクのビキニパンツ以外にその逞しい体を隠す物は無く、立派な体躯が惜しげも無く晒されていた。あご髭があるにも関わらずしなを作る所作はまさしく嘔吐を誘発させる。

 

「だぁぁれがその気持ち悪さのあまりに泥酔からの二日酔いみたく一時間おきくらいに胃液をぶちまけさせるぐらいに不快な嘔吐誘発人間ですってえ〜〜!?」

 

「誰に向かって怒っておるのだ、貂蟬……」

 

「何故か怒らないといけない気がしたのよん。じゃあ、私はもう行くから、あとはよろしくねぇん……ぶぅるぁぁぁぁあ!!」

 

激しく激昂した貂蟬にげんなりした様子の卑弥呼。そしてそれに対して説明を加えてから、貂蟬は姿をくらませた。

 

残された卑弥呼が相変わらずわけの分からない画面を睨んでいると、不意に気配を感じた。体を捻って背後を見れば、そこにいたのは烏帽子(えぼし)を被り着物を身に纏ったの男。何というべきか、男の纏う気配は掴み所がなく、卑弥呼は彼を見た途端に目を細めた。

 

そんな卑弥呼を見て男はカラカラと笑いを漏らす。顔は整っており、間違いなく色男の分類に入るのであろうが、些か目が妖しい。色気とも妖気ともつかない魅力を有している。

 

「おいおい、そんな怪訝そうな顔をしなさんなって。俺だって管理者の一人何だからさ」

 

「お主がわざわざ儂の元を訪ねてくる事が珍しいのだから仕方あるまい……何の用じゃ?」

 

「いやいや、ちょっとお知らせに……おー」

 

胡散臭いものを見るような目で男を見つつも目的を問うた卑弥呼を適当にあしらいつつ、画面を見た男は歓声をあげた。それに対して卑弥呼はギロリと睨みをきかせる。その目は言外に問い掛ける。

 

『お主か?』

 

威圧的な雰囲気を発する卑弥呼を他所に、男は着物の胸元から煙草を取り出し、咥えてから火を着けた。何の道具も使わずに、ただ何かを呟くだけで。そうして紫煙をあげるようになった煙草をゆっくりと二吸い味わってから笑みを零した。

 

「いかにも、俺だよ」

 

何故、その一言を卑弥呼が発する前に男は続きを紡ぐ。その声は歌を歌うように淀みなく(うた)われる。

 

「面白い奴が居てさ、死なすには惜しいかった。かと言って“そこ”で生かすと厄介の種になる……だったら、厄介にならず受け入れてもらえそうなとこに紛れ込ませるしか無いだろ?」

 

さも当然と言わんばかりに語る男に対して卑弥呼は鼻を鳴らす。大方どこぞの外史で気に入った人間でも居たのだろうと推測して、口を開いた。

 

「まあ、外史の間を行き来させるのは問題だが、お主なら抜かりはあるまい……しかし、何故ここまで異様なことになっておるのかの説明が足らぬが?」

 

卑弥呼の言葉を受けて男は爆笑した。そして述べられる言葉は笑いによって聞き取りづらかったが、最後まで聞いて卑弥呼が怒声をあげるのだった。

 

「正史の人間を北郷 一刀以外にあの外史に行かせただと!?貴様、どういうつもりじゃ……!!」

 

男の告白は卑弥呼の声に遮られることなく続くが、その途中から卑弥呼の咆哮と共に攻撃が男に向かって振るわれることとなり、男は慌てて逃げ出した。卑弥呼が怒る程の大事が恋姫達の世界にもたらされることとなるのだった。

 

 

 
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