コンセプト
特にこれと言った衝突のない恋物語。
高校1年生の主人公とヒロインの物語。
主人公
芹沢肥土(せりざわ あくと)
黒髪短髪。
これと言って地味かと思いきや喧嘩は滅法強い。(理由としては生まれ持った特殊筋肉のため、見た目と違い筋肉が発達してるだけでなく、家で筋トレもしている)(特殊筋肉の設定は作者が見たことあるマンガにあった要素だったりします)
好きなものがないので、現在探している。
言いたいことをかなりはっきり言う。(例として女性の下着が不意に見えた時正直に「見た」という)
口調と言うか、喋り方が『Fate/Zero』の衛宮切嗣な感じ。
成績は中の中~上くらいの実力。
ヒロイン
川嶋玲衣(かわしま れい)
セミロングの黒髪。胸のサイズ80だが、見た目的には大きい。
肥土が入学式で学校に着く前に出会う少女。
かなり一般的な家庭。
合気道をたしなんでいる。
成績は上の中くらいの実力。
男友達
沢木仙司(さわき せんじ)
メガネかけの黒髪短髪(少し坊ちゃん刈り)
肥土の同級生。
成績は上の上くらいの実力。
情報通。
アニメ、ゲーム好き。
女友達
豊員絵梨(ほういん えり)
ロング金髪。胸のサイズは92。
お嬢様と言うほどではないが、それなりにいいとこ育ち。
性格は金持ちなどにありがちな歪んでおらず、結構人当たりのいい性格。
成績は上の中くらいの実力。
男友達
小川健(おがわ けん)
少し長い茶髪。
仙司の小学時代からの友達。
チャライ感じだが、芯はしっかりしているし、不良ではない。
若干中二病的なことをいう。
アニメ、ゲーム好き。
成績は中の下。
女友達
谷村釉(たにむら ゆう)
薄い短い青髪。胸のサイズは78。しかしサイズより大きく見える。
玲衣の中学時代からの友人。
おっとりしているが、自分の意見はきちんと言う。
成績は中の上。
先生(女担任)
緋田晴花(ひだ はるか)
黒髪ロングヘアー。
20代後半の2年目教師。
結婚を夢見ていたりする。
生徒達から、どこか親しみやすい人として人気。
ここは都会だが、どこか穏やかな町「喜一良町」。
この町にある一つの高校では入学式が行われようとしていた。
そして一つの一軒家から一人の黒髪短髪の少年が出ていく。
「行ってきます」
「いってらっしゃ~い」
ごく普通に少年を見送る少年の母。
少年は家を出る。
「高校か……」
少年は通学路を空を眺めながら歩く。
この少年は今までに心から好きになったものが無いのだ。
好きになったものはいくらでもあるし、楽しいと思ったこともある。
しかし、心の奥底から感じたことはないと少年は思っている。
「なんか好きになれそうなことないかな~」
少年が一つの曲がり角に差し掛かった時であった。
「あ、危ない!」
もう一つの角からセミロングの黒髪の少女が少年とぶつかりそうになり、何とか少女が横に避けるが、転びそうになる。
「あっ! あっ!」
少女は何度も転びそうになるが、けんけんで転ばないようにするが、前に倒れそうになった。
「やっ!」
少女は地面に両手を付けて、そのまま倒立をするかのように手を一瞬だけつけて、回転して着地する。
「危なかった……」
少女は後ろにいた少年を見る。
「見た?」
「何が?」
「私の……下着……」
転びそうになっただけでなく、前に回転したために、後ろにいた人からはスカートの中が見えてもおかしくない。
「見たよ。てか、見えた」
少年は正直に答えた。
少年側で考えると大抵の人なら、見えてないとか言って慌ててごまかすが、少年はそれをしなかった。
「…………」
少女側で考えると大抵の人なら、ここで見えたとか見えてないなど答えに関係なく怒る。
しかし、この少女は……。
「まあ、見えたのは仕方ないよね」
笑って許した。
「でも、あなた正直に答えるのね」
「別に今は嘘を言う理由がないからな」
「……今気付いたけど、あなた、閃烈高校の人?」
「これから入学式に出る、新入生だけど?」
「あ、私と同じなんだ」
少女は思わず、自分の手を叩いた。
「それじゃあ、一緒に行かない?」
「別にいいけど……」
「じゃあ、いこ」
少年と少女は並んで通学路を歩く。
それからしばらくして二人の通う公立閃烈高校に着いた。
「それじゃあ、私友達と待ち合わせがあるから」
少女はそう言って少年から離れた。
「……とりあえず、早いけど、体育館にでも行くか」
少年は体育館に行き、それから入学式に参加。
その後、決められた教室に向かった。
少年が教室に入ると、そこには既に自分と同じ教室に入るように指示された生徒達がいた。
「…………」
「あ……」
少年が教室を見ると、そこには学校前に出会った少女がいた。
「……」
しかし少年は気にせず、自分の席に座る。
「はーい、皆席についてー」
そこに女性の担任教師が入って来て、出席を取り、自己紹介をする。
「入学式でも紹介しましたが、1年2組の担任で日本史担当の緋田晴花(ひだ はるか)です。
まだ先生になって2年目の新米ですが、皆さんと仲良くなりたいと思っているので、皆さんもよろしくお願いします」
晴花先生が自分の紹介をする。
「それじゃあ、皆さんも自己紹介してください。ありきたりですけど、出席番号順でお願いします」
出席番号順で自己紹介が始まり、少年の前に少年が出会った少女の番になった。
「川嶋玲衣(かわしま れい)です。好きな事はこれと言ってないですが、皆と楽しくやれる自信があります。
中学でも友達はいましたが、高校でも新しく友達を作りたいと思っています。
皆さん、よろしくお願いします」
玲衣がお辞儀をして皆によろしく言う。
「なあ、あの子すごくかわいいよな」
少年の前の席にいるメガネをかけた黒髪短髪の少年が声をかけてきた。
「ああ、可愛いな」
少年は反論しなかった。
「なあ、お辞儀した時に気づいたけどさ……」
「うん?」
「あの子、お前の方向いてたけど、何かあるのか?」
「朝、ぶつかりかけてそんで一緒に登校した程度だ」
「いいな~」
メガネの少年がうらやましがる。
「こら、そこ。次の人の自己紹介が待ってますよ」
「あ、すみません」
晴花先生に言われてメガネの少年は会話をやめる。
「それじゃあ、次の人、どうぞ……」
再び生徒達の自己紹介が始められ、メガネの少年の順番になる。
「俺の名前は沢木仙司(さわき せんじ)です!
好きなものはアニメや漫画にゲームです。
オタクだと思われるかもしれませんけど、よろしくお願いします!」
仙司は勢いよくお辞儀して笑いを取る。
「そんじゃ、次はお前な」
仙司が少年に声をかける。
「ああ」
少年は立ち上がる。
「芹沢肥土(せりざわ あくと)です。好きな事は特になく、探している最中です。よろしくお願いします」
肥土はそれだけを言って、座る。
「それだけですか? 芹沢君」
晴花先生が声をかける。
「特にいうことが思いつかなくて……すみません」
「あ、いえ、いいのよ別に……」
肥土に悪いことをしたと思い、思わず謝ってしまう晴花先生。
それからも自己紹介が続けられ、最後の人まで終わった。
「今日のホームルームはこれで終わりです。それじゃあ、また明日、会いましょう」
晴花先生が教室を立ち去る。
「帰るか」
「………」
肥土が立ち上がるのを見て、玲衣が声をかけようとしたら……。
「玲衣ちゃん」
教室の扉から玲衣を呼ぶ声が聞こえてくる。
その声の主は薄い短い青髪の少女だった。
「釉」
少女の名前は谷村釉(たにむら ゆう)。玲衣の中学時代の友達であった。
「一緒に帰ろう」
「う、うん」
そうこうしているうちに肥土は教室を去った。
肥土が校門を出ようとすると……。
「よう、芹沢」
後ろから肥土を呼ぶ声がしたので、肥土は振り向く。
そこには仙司と少しチャライ感じをした少し長めの茶髪の少年がいた。
「え~と、沢木だったか?」
「そうそう。そんでこいつは1組の小川健(おがわ けん)。
俺とは小学生時代からの付き合いなんだ」
「よろしく」
「それで俺に何の用だ?」
「いや、一緒に帰らないかってこと」
「まあ、一緒に帰ろうってもちょっと入学記念に街で遊ばないかってことだけど……」
「別にいいぞ」
「本当か? お前、いい奴だな」
健が肥土の肩に寄りかかる。
「別に……、断る理由ないし」
「悪いな。それじゃあ、行こうぜ」
肥土は仙司と健と一緒に街の方に行った。
男三人組が街に着く。
「さてと、それじゃあ、早速どうする?」
「考えてなかったのか」
「悪いかよ」
「カラオケは最後の方がいいだろうな」
「それじゃあ、まずはゲーセンでも行こうぜ」
健の提案でゲームセンターに行くことになり、ゲームセンターに向かった。
「まずは……」
「新作の格ゲーがあるぞ!」
健が格闘ゲームの台に座り、早速プレイする。
「あいつ、結構格闘ゲーム好きだし、強いんだよな。お前は?」
「少しはやるけど、やりこむって程じゃないな。けど、やってやるか」
肥土が健の向かいの台に座り、健のプレイしている格闘ゲームに乱入する。
「ふん! はあ!」
「…………」
健は興奮して声を出すのに対し、肥土は黙ってプレイしていた。
「これでトドメ!」
健の使うキャラが肥土の使うキャラを倒す。
「はあ……危なかった」
「芹沢、お前結構強いじゃないか」
「いやいや、小川の方が強かった。それに余裕がなかったからな」
「それでまた乱入するか?」
「いや、やめとく」
肥土がクレーンゲームの方を見る。
「クレーン、やるのか?」
「クレーンは店側が利益を取れるように難しいように配置してるからやらない」
「堅実だな。苦労して取るのに意味があるのに……」
「金がないわけじゃないけど、あまり使いたくないんだよ」
「そうか。じゃあ、カラオケの割り勘は……」
「別にいいさ。そのくらい……」
しばらくしていると女子二人組がゲームセンターに入って来る。
「可愛いぬいぐるみがあるよ。玲衣」
「そうね」
その二人とは玲衣と釉だった。
「玲衣、この人って……」
「確か……芹沢君」
玲衣と釉は後ろから肥土に声をかける。
「ああ」
肥土は振り返る。
「あそこにいるのは……小川君」
「よっしゃ! クリア!」
健が肥土達のところにやって来る。
「あれ? 俺と同じクラスの谷村じゃないか。もう一人は誰だ?」
「初めまして、川嶋玲衣です」
玲衣が自己紹介する。
「あ、どうも」
健は思わず頭を下げて挨拶を返す。
「で、このぬいぐるみが欲しいのか?」
肥土が釉にクレーンゲームの中にあるぬいぐるみを見る。
そのぬいぐるみは可愛らしいくまのぬいぐるみであった。
「だって可愛いから……」
「こういうぬいぐるみのクレーンゲームは買った方が安上がりだぞ」
「いやいや、そうでもないぞ、芹沢。
確かにぬいぐるみは簡単に獲られないように配置はしてあるけどな……、東京の秋葉原や大阪の日本橋にあるクレーンゲームと比べたらまだまだ楽なもんだぜ」
「やったことあるのか?」
「まあ何回か…な。それと比べたらこういう普通なゲーセンのクレーンゲームはまだ優しい方だぜ。
ってもぬいぐるみは獲れにくいと思うけどな」
「それでも獲りたい! やりたい!」
釉の目はキラキラしているように見えた。
「やってみたら」
肥土はそっけなく答える。
「やってみる」
釉はぬいぐるみを獲るためにクレーンゲームに挑戦する。
しかし1回100円のゲームを既に800円分プレイしているが、全然獲れない。
「あ、ちょっとまずいかも……」
「お財布ピンチなの?」
「今日の持ち合わせ的にこれ以上は使いたくないかな……」
「あとどのくらい出来るの?」
「2回……」
「…………代わってくれ」
健が釉に対して言った。
「小川君?」
「さっきから見てたけど、あと少しなんだけどな……。多分俺ならいけると思う」
健はそう言ってお金を入れる。
そしてクレーンを動かし、ぬいぐるみを掴む。
そのぬいぐるみは見事に商品口に入った。
「ほらよ」
健はぬいぐるみを取り出し、釉に手渡す。
「ありがとう」
「どうも。困ってる子見て、少しいてもたってもいられなくなっただけだけどな」
「かっこつけか? 健」
「そうなっちまうな」
「それでもありがとう」
釉に改めて礼を言われて、照れる健。
「それじゃあ、この五人でカラオケ行こうぜ」
「釉、大丈夫?」
「うん。カラオケの割り勘くらいは残したいって思ってたから大丈夫」
「それじゃあ、行こうぜ」
五人がゲームセンターから出てカラオケに行く。
カラオケに行く道で五人は複数の男子に詰め寄られている一人の金髪少女を見つける。
男子達も少女も肥土達と同じ学校の制服だった。
「ねえねえ、俺達と一緒にカラオケ行こうぜ」
「いえ、結構です」
「そう言わずにさ~」
男子達の方はいかにもガラが悪そうであった。
「おやめください」
「いいじゃんかよ~」
「やめたらどうだ?」
肥土が男子達の後ろにやって来て、声をかける。
「芹沢……」
それを少し遠くから見る四人。
「やるのか? 手前?」
「やる気はない。ただ、嫌がる人を無理に誘うのをやめたらと勧めてるだけだ」
「やっぱやる気じゃねえか」
男子の一人が手を鳴らす。
「やめた方がいいぞ。見たところ、俺と同じ1年だろ?」
「ああそうだ。けど、それがどうした?」
「いきなり問題事は停学もんとか……」
「関係あるかってんだ!」
手を鳴らした男子が肥土に向かって拳を振るう。
「危ない!」
「芹沢君!」
金髪の少女と玲衣が思わず声を上げた。
しかし肥土は無関心のようにただ左手の掌を広げて、男子の拳を受け止め、掴んだ。
「へっ、やるじゃねえ……………」
男子は離れようにも離れられない。
肥土が手を掴んでいるからであるが、力で抜こうにも抜けなかったのだ。
「なんてパワーしてやがるんだよ」
「別に……確かに鍛えてたりしてるけど……」
「この!」
男子が肥土を蹴ろうとして、肥土は足を曲げてその攻撃を止めた。
すると……。
「痛ってーーーー!!」
痛いと叫んだのは肥土ではなく、蹴った男子の方であった。
男子は手を掴まれているので、まともに倒れることが出来ず、その場で膝をついてしまう。
「ああ! 手前!」
「お前達、何をしている?」
そこに一人の男性が見かねて入ろうとする。
「あ、あいつは……ちょっとやばい!」
「逃げるぞ! 立てるか?」
「な、何とか……」
肥土は手を放す。
「覚えてろよ!」
「覚える気はない」
肥土はそう返した。
「まったくあいつらときたら……。大丈夫ですか?」
「大丈夫です。むしろ怪我したのはあっちだと思う」
「まあ確かに蹴ったはずの相手の方が痛がってたけど……、君も蹴られて痛いだろ」
「いや、別に痛いってことは……」
「あの……」
肥土と男性が話していると少女が声をかける。
「助けてくださってありがとうございます」
「別にいいよ」
「そうそう、悪いのはあいつらだし……」
「ところであいつらの顔見知りですか?」
「まあ近所のな…。高校に入ったら悪さはやめろって注意してたんだけどな……」
「そこは任せますわ」
肥土が立ち去ろうとする。
「あの……何かお礼を……」
「別にいいよ。お礼が欲しくて助けたつもりはないし……」
「ですが、それでは私の気が……」
「芹沢!」
そこに少し離れていた四人が戻って来る。
「本当に大丈夫か?」
「大丈夫大丈夫」
「怪我は?」
「怪我したとしたらあいつらの方」
「喧嘩したの?」
「いや、ただ受け止めただけ」
「あのこの人達は……」
少女が玲衣達を見る。
「ああ、全員、今日知り合ったばかりだ。
あの子とこいつが、俺と同じクラスで、あっちがあいつの友達で、あの子がその子の友達」
肥土が簡単に説明した。
「始めまして、川嶋玲衣です」
「谷村釉です」
「小川健で~す」
「沢木仙司と言います」
「俺が芹沢肥土」
「自己紹介が遅れましたわね。私は豊員絵梨(ほういん えり)と申しますわ」
「豊員さんですね」
「でも豊員さん、その……そぶりからして……お嬢様ですか?」
「お嬢様って程ではないですわ。ただそう振舞うよう徹底しているだけで……」
「そうなんだ。でも本当にお嬢様みたい……」
「まあ……、一般的な家庭から見たら、確かに財産は多い方ですけど……」
「やっぱお嬢様じゃん」
健がそんなことを言ってしまい、絵梨がかしこまってしまう。
「おい、健。かしこまっちまってるぜ」
「あ、悪いことしちまったかな。ごめん」
健が絵梨に謝る。
「いえ、構いませんわ」
「あの、豊員さん…」
「何かしら?」
「もしよかったらですが……、私達とカラオケに行きませんか?」
「……ええ、いいですわよ」
絵梨は笑顔で答える。
「さっきは断ってた気がするけど?」
「それは先ほどの方たちが少し……」
「ああ、それは言えてるかな……」
「ですが、あなた達なら安心していけますわ」
「じゃあ、行くか」
そして絵梨を入れた六人でカラオケに行き、楽しんだ。
それから夕方になり、解散することになったが、帰り道の関係上、仙司と健、釉、絵梨、そして肥土と玲衣に分かれた。
帰り道、肥土と玲衣が一緒に歩く。
「あの、芹沢君」
「何だ?」
「教室の自己紹介の時に芹沢君、好きな事を探してるって言ってたよね?」
「ああ、言ったけど、それが?」
「そのことなんだけど……」
「?」
玲衣が肥土の前に出てくる。
「私のこと好きになってみない?」
それは少し遠まわしな告白であった。
「…………」
肥土は少し考えたようだが、すぐに答えが出た。
「別に断る理由がないから、いいぞ」
「あ~、ヒドイ、そんな答え方」
「本当に断る理由がないんだ」
「そうじゃなくてね……」
玲衣は頭に手を乗せて、やれやれと思ってしまう。
「彼氏彼女になろうって言ってるんだよ。少しは嬉しく返事してくれないと……」
「いや、嬉しいんだけどね。これでも…」
「本当~」
玲衣が肥土の顔を覗き込む。
「本当だ」
「なら、信じる」
玲衣は笑みを見せる。
「それで明日から何だけどさ。初めて会った場所で待ち合わせしない?」
「あの角でか? いいけど……」
「よかった。それと携帯のアドレス交換したいんだけど……」
「俺、携帯持ってない」
「え?」
「今まで必要なかったからな。いつも用がある時は公衆電話を探してたし…」
「そうなんだ……」
肥土の以外なところに驚く玲衣。
「それじゃあ、これが私の携帯の電話番号とメールアドレスが書いてるメモ。
これ見て、登録して」
「わかった」
そして二人は歩き、分かれ道に着く。
「それじゃあ、また明日ね」
「ああ」
二人は分かれ、肥土は家に帰った。
それから夜になって、普通に晩御飯を父の威(かい)と母の巽(せん)と中学2年生の妹の佑梨(ゆり)と一緒に食べていた。
「なあ、父さん、母さん」
「何だ? 肥土」
「携帯買ってくれない?」
「どうしたの? 急に?」
「いや、必要になったからさ」
「必要になったってどうしたの? お兄ちゃん。あ、もしかして、入学早々に彼女が出来たの~?」
佑梨がからかうように尋ねると……。
「ああ」
「マジで?」
「マジだ。今日の帰りに『私のこと、好きになってみない?』って言われた」
「それでOKしたの?」
「断る理由がなかったからな。OKした」
「でもその子…、なんて名前?」
「川嶋玲衣って名前」
「その川嶋玲衣さん、そういう風に言ったって……、あなたまた『好きな事を探してる』って言った?」
「言ったよ」
「はぁ~」
巽は思わずため息をついた。
「……まあいいわ。携帯ならあるわよ」
「え?」
「ご飯食べ終わったら出すわよ」
それからご飯を食べ終わると、巽が携帯電話の入ってる新品の箱を出す。
「なんで買ってたの?」
「高校になるとやっぱり必要になるでしょ? そう思ってお父さんと相談して買っておいたのよ。
まさか、入学して早々に必要になるとは思わなかったわ」
「俺も思った」
肥土は巽から携帯電話をもらう。
「さてと……」
肥土は説明書を読みながら、携帯電話をいじる。
「これでよし」
玲衣からもらっていたメモを見て、玲衣の携帯情報を登録する。
それから肥土は家の電話で電話をかける。
かけた先は……。
『もしもし、川嶋です』
「もしもし、芹沢肥土と申しますが、同じ閃烈高校の川嶋玲衣さんは?」
『あ、今代わるわね』
相手は玲衣の母だったようで、玲衣と代わる。
『もしもし、芹沢君? どうしたの?』
「いや、携帯電話を買ってもらったらから、早速登録したって連絡」
『そうなんだ。でもなんで私の家の電話番号知ってたの?』
「連絡網見て」
『あ、そっか。連絡網、もうもらってたんだった。けど、携帯に直接電話すればよかったのに……』
「登録しているやつ以外の拒否してる可能性あると思ったから、こうして家に電話した」
『随分考えてるんだね。確かに私の、登録以外は拒否設定してるわね』
「それじゃあ、今から俺の番号とアドレス教える」
肥土は玲衣に自分の携帯電話の電話番号とメールアドレスを教えた。
「それじゃあ、切るな」
『うん。また明日。おやすみ』
「おやすみ」
肥土は電話を切る。
「さてと、風呂入って寝るか」
肥土は風呂に入って、いつもの筋トレをした後、すぐに寝た。
こうして肥土のある意味忙しい一日が終わった。
入学式の次の日。
肥土は玲衣に言われた通り、待ち合わせの場所である曲がり角に行った。
「まだ来てないか」
肥土が曲がり角の先に出て、玲衣が来る方を見てみると、玲衣が歩いてきているのを見つける。
「あ、ごめん!」
玲衣が走って、肥土のところに来る。
「待った?」
「いや、今来たところだ。しいて言うなら、5秒待った」
「本当にはっきり言うわね」
「本当のことだからな」
「まあ、いいけど……。それじゃあ、いこ」
「ああ」
二人は並んで学校に行った。
それから授業を受け、放課後になる。
「さてと……」
「なあ、芹沢」
仙司が肥土に声をかけてきた。
「何だ? また一緒に帰ろうとかか?」
「いや、違う違う。お前、部活どうするんだって話」
「部活か。特に入る理由もないし、面白みのある部活もないから、入らない」
「そっか」
「ねえ、芹沢君」
次に玲衣がやって来た。
「何だ? 一緒に帰ろうかって話か?」
「違うわよ。部活の話。入らないって聞こえたけど……」
「ああ、面白いのがないしな」
「それだったらさ、私達で部活作らない?」
「部活を作る?」
「そう」
「どんな部活を作るんだ?」
「そうね……。芹沢君の好きなことを探すための部活……『探究部』ってどう?」
「探究部か……、別に構わないけど、俺に好きなものを作るために俺とお前は彼氏彼女になったんじゃないのか?」
「そうだけど……」
「え? 二人とも付き合うことになったの? いつから?」
「お前達と別れてすぐだな。俺が好きな事ないっていうのを聞いて、『私を好きになったら』ということで付き合うことになった」
「お前……」
仙司は開いた口がふさがらないような顔をする。
「明らかにこの川嶋さんはこのクラスの中でも……いや、学年の中でもトップクラスの美少女だろ?」
「トップクラスの美少女って……」
玲衣は恥ずかしがる。
「いやいや、川嶋さん、誇っていいって。
とりあえず昨日今日、この学校を女の子、見てみたけどさ、川嶋さん、結構いい線いってるよ」
「そんな……」
「それでなんで部活が俺のための『探究部』なんだ?」
「うん。私を好きになるのもいいけど、それ以外の……趣味でも作ったらいいかなって思ってね……」
「そっか」
「え? それだけ?」
「う、うん……」
「それで、『探究部』というのを作るのはいいが、俺とお前の他に誰か入る奴がいるのか?」
「釉なら頼めば入ってくれると思うけど……」
「俺が入ろうか?」
仙司が入ると宣言する。
「いいの?」
「ああ。それにちょうど暇そうなの、一人いるしな」
「それって、あの小川って奴か?」
「そうそう。あいつも何か楽しいことないかって暇してたはずだから、暇だった時は入ってくれると思うぜ」
「うん? それでも部活にするにはあと一人足りないんじゃないのか?」
「まだ五人ね……」
「あの~」
すると三人の所に一人の少女がやって来る。
その少女は昨日助けた絵梨だった。
「今、新しく部活を立ち上げるという話を聞きましたが……」
「ええ、そのつもりです」
「私もその部活に入れてくださいませんか?」
「え?」
「いいのか?」
「構いませんわ」
絵梨は快く答えた。
「けど、きちんと入部人数が満たされるか、わからないけどな」
それから玲衣は釉、仙司は健と会い、探究部に入ってくれるかと尋ねたところ、二人ともOKしてくれた。
「それで主にどういう部活内容にするん?」
健が玲衣に尋ねた。
「そうね……。日々楽しいことを求めて、色々なことをする部活ってことで……」
「その色々って言うのを具体的な内容にしないと…」
「別にいいんじゃないか?」
肥土が応えた。
「芹沢」
「野球をするのもよし、ゲームするのもよし、手芸をやるのもよし、結局はいろいろだ。
だから、色々なことに手を出す部活でいいじゃないか。まあ、当然だが、危ないこととかやばいことは禁止だけどな」
「それで申請する?」
「でも誰に申請すればいいのかしら?」
「とりあえず……緋田先生に出してみたら?」
「緋田先生に?」
「あの先生、まだ2年目だからきっと顧問になってないと思うよ。それに若手の先生ならこういうことに賛成してくれるかも……」
「谷村」
「うん?」
「お前、結構はっきり考えてるんだな」
思わずそんなことを言う健。
そして新しく部活を作りたいと職員室に行き、晴花に頼んだ。
「楽しいことを探し求める『探究部』ね……」
「ダメでしょうか?」
「……職員会議で相談してみるわね。それで承認が降りたら、私が顧問になってあげます」
「ありがとうございます」
玲衣がお辞儀をして礼を言う。
「まだ本決まりじゃないけど、よろしくね」
そして玲衣は職員室を出た。
「どうだった?」
仙司が尋ねる。
「職員会議の議案に出してくれるって」
「じゃあ、それ待ちだな」
「今日は帰るとするか」
「そうですわね」
そして今日のところは解散として探究部(仮)は終了した。
それからまた二人で帰る肥土と玲衣。
「『探究部』、うまくいくといいね」
「ああ、そうだな」
「そっけない答えね」
「そっけなく答えてるつもりはないよ。俺にとってはこれが普通だな」
「それじゃあ、それを直していかない?」
「それは断る」
「あれ? 断る理由がないって言ってOKしてくれると思ったけど……」
「断る理由はある。俺の個性の一つだから失くしたくないだけだ」
「変わった個性」
「構わないさ」
そして二人の家の分かれ道に着く。
「それじゃあ、またな」
「……ねえ、少しいい?」
「何だ?」
「もしよかったらさ……、暇な時でいいんだけど、私の家に来ない?」
「……考えておく」
二人は別れた。
夜になり、肥土はいつものように家族で晩御飯を食べる。
「今日の帰りにさ、女の子に暇な時でいいから家に来ないかって言われた」
「お兄ちゃん、それってデートのお誘い? あ、家のお誘いだから家デートになるかな?」
「それで肥土、あんた行くって言ったの?」
「考えておくと言っておいた」
「肥土、お父さんは行くなとは言わないが、他人の家…それも女の子の家となると失礼のないようにしろ」
「わかってる」
「そうね。あんたは基本的に何もしてないから暇だと思うけど、そういうのは相手の女の子とよく相談してからにしなさい。
後、出来ればだけど親ともね。この家に誰か連れて来る時も少しいいから相談するようにね」
「わかった。……そう言えばその女の子がさ……」
肥土は家族に探究部の設立予定のことも話した。
「お前の好きな事、見つかるといいな」
「お母さん、応援してるわよ」
「でも変な趣味に走らないでよね、お兄ちゃん」
「俺も変な趣味に走る気はないよ」
それから肥土は風呂に入り、筋トレし、寝た。
それから数日後。
授業の終わった放課後に肥土や玲衣達は晴花に呼び出された。
「あなた達が出した『探究部』のことなんだけどね…」
「はい」
「それで結果は?」
「OKが出たわよ」
それを聞いて玲衣が喜びの笑みを見せる。
「ありがとうございます!」
「それで部室なんだけど……」
「もらえるんですか!?」
「ええ、一応『部』ってことだからね。ただ部室は今は使われてない教室になるけどいいかしら?」
「構いません」
「それともう一つ……」
「何ですか?」
「部費のことなんだけど……、『部』として認められたけど、内容が少し曖昧すぎるから……、部費は必要がある時以外は出さないってことに……」
「必要がある時って……」
「野球部とかみたいに備品が必要な時ね。でもそんな曖昧な部活には多くは出せないの。
1週間に最低1万円。1ヶ月で最高10万円ということなら許しをもらったわ」
「月10万か……」
「だったら一度買ってしまえばずっと使えるものがいいな」
「ああ、それとね……」
「? 今度はなんですか?」
「アルバイトの許可なんだけど、一応内容にもよるけどOKが出たわ。でも条件があるの。
アルバイトは学校と縁のあるお店じゃないといけないこと。アルバイトを変えるごとに報告すること。
この二つが条件よ」
「大丈夫です」
「そう。なら、部室になる部屋に案内するわ」
晴花に連れられてやってきたのは、3年生の教室のある階の奥の教室部屋だった。
「ここって……」
「昔はよく使われてた自主室みたいよ」
「なんで今は使われてないんですか?」
「私もよく分からないんだけど、こことは別にもう一つ自主室が出来て、教室から近いってこともあって使わなくなったって聞いたわ」
「へぇ~」
「けど、3年生のいる教室のある階だから、3年生がくるかもしれないから、それはそれでドキドキするな」
「2年経てば、俺達がその3年生だけどな」
「それまでの2年はドキドキするだろ」
「そうだな」
こうして肥土と玲衣達、『探究部』の活動が始まる。
放課後になり、探究部最初の活動を決める。
「最初は何にする?」
「記念すべき最初だから思い出に残るのがいいわね」
「思い出に残る活動……」
「どうせならみんなで一緒に活動するものがよろしいですわね」
「出来れば楽しいもの……」
「このままじゃ埒が明かないな。とりあえずみんなの好きなものをホワイトボードに書いてみないか?」
肥土が提案し、皆の好きなものを一通りホワイトボードに書いてみた。
「バレーボールに野球にサッカーとかスポーツ系、漫画にアニメにゲームのオタク系、編み物に読書の質素系」
「この中でいいのあるのか?」
「どうせなら、皆が出来て、なおかつ思い出に残るもの……」
「………この中なら漫画がいいんじゃないのか?」
「漫画か。悪くないが、絵を描くのは大丈夫か?」
「私、割と得意ですわ」
絵梨が自信があると答えた。
「それじゃあ少し描いてみて」
「ええ」
絵梨は白いノートに適当に漫画の絵を描く。
その絵は連載漫画を何年もしている漫画家ほどまでとは言わないが、素人にしてはなかなかの画力だった。
「なかなかいい絵じゃないか」
「それほどでも……」
「じゃあ主な絵の方は豊員さんに任せて……」
「絵梨で構いませんわ。皆さんも絵梨と呼んでください」
「それじゃあ、絵梨ね。絵のアシスタントは…」
「俺がやっていい?」
手を挙げたのは健である。
「ベタ塗りとかトーン貼りに何かあった時の修正、それと原案かな?」
「それでちょうど残り四人になるわね」
「トーン貼りは私がやる」
「ベタ塗りは私ね」
「修正とか細かい作業は俺にやらせてくれ」
「……そうなると俺が原案だな」
トーン貼りを釉、ベタ塗りを玲衣、修正を仙司、原案を肥土がやることになった。
「漫画を描くのはいいが、描いた漫画はどうするんだ?」
「それならいいのがあるぜ」
仙司は漫画雑誌をカバンから取り出す。
「これだ」
仙司が漫画雑誌を広げ、あるページを皆に見せる。
「新人賞を目指そう! 漫画募集……」
「最優秀賞賞金は100万円。優秀賞5名までに入れば漫画を雑誌に載せてもらえれるんだぜ」
「これはやる気出るぜ」
「ああ。仮に賞が取れなくても思い出はなる」
「けど、これがあるなら最優秀賞目指そうよ!」
「しかし、これでもしも最優秀賞取ったら漫画家デビューも……」
「その話が来ましたら、お断りしますわ。さすがに漫画家になろうとまでは……」
絵梨は少しかしこまってしまう。
「まあとにかくは漫画を描こうということだな。
それの締め切りはいつまでだ?」
「ええっと……二週間後だ」
「二週間。本当に連載漫画家みたいにハードだな」
「けど最低ページ枚数は16ページまでで最大が52ページくらいだぜ」
「1ページでも描くのは苦労するものだぞ」
「芹沢君の言う通りよ」
「何でも甘く見ない方がいい」
「……すんません」
健は思わず謝る。
「けどよ、芹沢、お前、何かネタがあるか? 漫画に合いそうなネタ……」
「今のところないな。すぐにでも決めないと漫画描くのにも苦労するな」
「それじゃあ、図書館に行かない? 参考になるのがあるかも」
「そうするか」
探究部の六人は学校近くの図書館に行った。
「どういうのがいいかな?」
「絵梨はどんなのが書きたいんだ?」
「芹沢君の思いついたのでよろしいですけど……」
「いや、それじゃダメだ。俺が描いて欲しいものと絵梨が描きたいものが合致しないと面白いものは描けない。
入賞が目的じゃないにしても思い出に残るものとしてはやっぱり楽しく作ったものの方がいいだろ」
「けれど……」
「芹沢君」
「何だ? 川嶋」
「『探究部』の部長は私だけど、『探究部』は芹沢君の為に作った部活だからさ……、少しは芹沢君の好きなようにしてもいいんだよ」
「俺の好きにな……」
「なあ、芹沢、こんなバトルものはどうだ?」
仙司がバトルモノの描いた漫画を芹沢に出す。
「いや、ここは捻って推理物もいいんじゃないか?」
健は推理モノのライトノベルを出してきた。
「…………」
肥土は少し頭を抱える。
「どうした? 思いつかないのか?」
「思いつかないわけじゃない。ただ、思いつくのがありきたりすぎるだけだ」
「ありきたりって……」
「初めてならそれでいいんじゃないの?」
「そうかもしれないが……」
すると肥土は少し黙りこむ。
「どうしたの?」
「いや、いいネタを思いついた」
「どんなの?」
「俺達をモデルにすればいい」
『私(俺)達を?』
「ああそうだ」
「でも俺達をモデルにしてもさ、後がわからないじゃないか」
「いいんだよ、それで。読み切り用なら後がまだわからないものでいいだろ」
「そうかもしれないけどさ……」
「……でもそれも面白いかもしれないわね」
「うん。ある意味画期的だし……」
「それに絶対思い出にも残りますわね」
「当然、名前とか色々変えたり、皆の意見もある程度聞くけどな」
「だったらやってみようぜ」
「それじゃあ、早速漫画を描く準備しよっか」
「部費でいけるか?」
「そこは先生に相談してみよう」
「けど、先に買っておこうよ」
それから六人は漫画を描く準備をして、その日は解散した。
帰り道がほとんど一緒なので、肥土と玲衣は並んで帰っている。
「ねえ、漫画の原案なんだけどさ……」
「不満か?」
「ううん。不満じゃないの」
「じゃあなんの話だ?」
「どこから描いて、どこまでを描くのかなって……」
「もう決まってるさ」
「本当?」
「俺とお前の出会いから、『探究部』発足までだ」
「私達の出会いからってことは、主人公は……」
「俺になるな。やはり自分達をモデルとなると主人公は自分の方が考えやすいからな」
「そうなると私がヒロイン?」
「そうなるが、恋愛がそこまで発展してないから、ヒロインとまではいかないだろうな」
「…………ねえ、芹沢君と私の出会いからって言うけど、ひょっとして……私の下着を見るところも再現するの?」
「お前はどうしたい?」
「恥ずかしいから少しやめてほしい」
「だけど、出会いのインパクトは大事だと思うぞ?」
「確かにそれは……だったら私のキャラクターがぶつかりそうになるのを回避するけど、転びそうになるのを助けるっていうのは……」
「少しありがちだけど、それでいくか」
「よかった。下着見られてお咎めなしは私達だけでいいよね」
玲衣は少し安心したように息を吐く。
「そうだな」
肥土は笑いながら答える。
それからもう少し歩いていると……。
「ねえ、芹沢君」
「今度はなんだ?」
「彼氏彼女の関係だからさ……、下の名前で呼び合わない? それの方が付き合ってるように感じるから」
「構わないよ」
肥土は即答した。
「それじゃあ、肥土君」
「何だ? 玲衣」
「呼んだだけ」
「用がない時はあまり呼んでほしくないな」
「ちょっとさみしい……」
少し冷めたが、それも肥土の面白いところだと思う玲衣。
そしてすぐに二人は分かれ道になったので別れた。
それから『探究部』は漫画を描くことに精を出した。
探究部の部室にはめったなことがない限り、人も通らない場所なので、静かに漫画を描ける環境だった。
「川嶋さん、お願いしますわ」
「はい!」
「川嶋、次はこいつ!」
「はい!」
絵梨と健が描いたものを玲衣がベタ塗りする。
「あ、ちょっと失敗した」
「任せろ」
玲衣のベタ塗りで少し失敗したところを仙司が急いで修正する。
「よし、芹沢、乾かしといてくれ」
「ああ」
すぐにはトーン貼りも出来ないので、肥土は塗った場所が早く乾き、原稿用紙が汚れないような場所に置く。
それから何ページか描き、原稿用紙を置く場所がなくなる。
「それじゃあ、釉。お願い」
「うん」
釉は失敗しないように慎重に一ページ分のトーンを貼る。
「ふぅ……」
「それじゃあ、次、これ」
釉は一枚一枚、慎重にトーン貼る。
「今日の分、終わり……」
描いてトーンを貼った枚数は10枚。
素人にしては多い枚数だった。
「10枚、すごくうまくできたね」
「ああ」
「ネームがうまく出来てたからな」
「しかし俺が思っていたよりも漫画のテンポが早くていいな。これなら後12、3枚でいけるな」
「でもここからはもう少しペースを落として、やった方がいいかしら?」
「そうだな。ここで一気にやってもなんか燃え尽きるのが早くなるだけだしな」
「それじゃあ、後10日あるから、一日2枚くらいでいいかな?」
「6日で12枚か。ちょうどいいくらいだな。投稿する日ともしもペース的に間に合わないことを考えての念のためを考えても2日の猶予もある」
「じゃあさ、明日、早速遊びに行こうぜ」
「遊びにってどこに?」
「遊園地にさ」
「……賛成」
「別に反対する理由はない」
「私もいいよ」
「私も」
「それじゃあ、決定だな」
探究部は次の日が平日の間の祝日なので、遊園地に遊びに行くことにした。
探究部は遊園地に現地集合ということで、肥土が最初に集合場所の入り口に来ていた。
「さてと、集合時間まであと30分、普通に考えれば早すぎるがいいか」
肥土の格好は黒いスラックスのようなものに黒いカッターシャツに黒くて薄い上着と黒一色であった。
「お前すごく黒いな」
「熱くないか?」
そこに仙司と健もやって来た。
仙司の格好は青いワイシャツに蒼のジーンズといったもの。
健の格好は赤い上着に何かのキャラクターが描かれたシャツと少し破れた黒いジーンズだった。
「別に熱くないさ。この格好は慣れてるからな」
「慣れてるって……」
「いつもその格好ってことか?」
「ああ。学校とか特に用事がなくて、外に出る時は大体こんな格好だ」
「それにしても早くないか?」
「お前達もだろ」
「まあな」
「「「お待たせーーーー!」」」
そこに女子三人がやって来た。
玲衣はお嬢様チックな清楚な格好で、色も白と青という清楚さを感じるもの。ちなみにロングスカートである。
絵梨は和服という遊園地で遊ぶには似つかわしくないものであったが、和服美人というのがピッタリであった。ちなみに服の色は緑色。
釉は白いタンクトップに迷彩服のようなジャケットというもので、青くて少し長めのハーフパンツというスタイルだった。
「待った?」
「待ったって、まだ集合時間の30分前だろ」
「……それもそうね」
「最初に着いたのは俺でいいか?」
「うん」
「それだったら、そうだな。沢木と小川が一緒に来て、俺が待ったのは30秒。その後の玲衣達女子組はさらに30秒遅れ。
つまりは1分待ったことになる」
「こ、細かい……」
「そこまで見なくても……」
「確かに見る必要はないけどな。暇なもんでな……」
「暇で時間を計るなんて……」
「コンマ以下は計ってないさ」
「それはやり過ぎだ」
「それはともかく、行こうか」
「うん」
探究部は遊園地に入った。
「それで何にする?」
「もちろんジェットコースターだろ」
「いきなり、そんなハードなものを……」
「ハードだからこそいいのかも……」
「そういうこと」
「肥土君はどうする?」
「構わないよ」
そして六人でジェットコースターに乗る。
座るのは二人ずつとなり、肥土と玲衣、仙司と絵梨、健と釉の組み合わせになった。
「お、動く、動く」
「なんだか、ゆっくり過ぎて怖いですわね」
「谷村、怖かったら、俺にしがみついてもいいぞ」
「そんな、小川君を苦しめちゃうよ」
「そんなに力強くする気か!?」
「肥土君」
「好きにすればいい。俺は気にしない」
ジェットコースターはゆっくりと上に上がっていく。
そしてそのコースの一番上に到達し、落ちる勢いと同時にジェットコースターは加速する。
「「おおおおおお!!」」
「「「きゃあああああああ!!!」」」
肥土以外の男二人は叫び、玲衣達女子組も大いに叫ぶ。
玲衣は必死にコースターについている棒をしがむ。
絵梨は手を上げている。それに合わせる形で仙司も手を上げている。
「ホントにちょっと苦しい……」
健の体に抱きつく釉。その力は思ったよりも強く、健は少し苦しそうだった。
「ところで肥土君は……」
玲衣が肥土を見ると、肥土はふんぞり返るように腕を組んで、平然としていた。
「大丈夫なの?」
「これくらい、なんともない」
そしてジェットコースターは何度も加速と減速を繰り返し、一周し終える。
「終わった~」
「怖かったですけど、楽しかったですわ」
「小川君、大丈夫?」
「少し苦しかったが、大丈夫だ。それに思ったよりも体が密着してたからな。嬉しかった」
「……あ」
健の一言で釉は何があったのか気付いた。
「…………」
釉は少し恥ずかしがり、健も恥ずかしがる。
「それで次はどこに行く?」
「どこに行くってお前、芹沢、今の怖くなかったのか?」
「全然」
「うん。肥土君、腕組んでふんぞり返ってたよ」
「そりゃあ、怖くないわ……」
「それでどこにする?」
「……こうなったら、お前を怖がらせること前提のものにしてやる!」
全員が肥土の方を見た。
「全員で楽しむんじゃないのか?」
「もちろん、皆で楽しみながらだ」
それから仙司と健が先導し、肥土を怖がらせることなどの前提した乗り物に乗ることにした。
しかしその前にコーヒーカップに乗って落ち着くことになったのだが……。
「目が回る~」
「思ったより早いぞ、これ!」
「肥土君、大丈夫?」
「目は確かに回るが問題ない」
肥土はジェットコースターの時のように腕を組んで平然と座っていた。
コーヒーカップを終えて、仙司達はベンチに座る。
「あ~、思ったより目が回った」
「本当に……」
「少し気持ち悪いですわ」
「大丈夫か?」
「芹沢、なんでお前平気なんだ?」
「いや、こう見えても俺も目を回してるぞ」
肥土はそう言うが、どう見ても平然と立っている。
「とても目を回してるように見えない」
「それはそうだ。気力で立ってるようなもんだからな」
「あの回転スピードで立てるのか?」
「あれみろよ」
健が指差す方には他にコーヒーカップに乗っていた客が仙司達のようにベンチに座ってまいっていた。
「何度も乗ってる人は別みたいだけど、ほとんどの人があれだよ」
「そうなのか。それで次はどうする?」
「この状態じゃ、すぐに動けないって……」
「そうか」
肥土は仙司達が回復するのを待った。
それから回復してからも肥土はこれと言って平然としていた。
逆バンジージャンプ、フリーフォール、回転ブランコとかなり回転とスピードのあるものに乗せても肥土は悲鳴もあげず、リアクションが薄かった。
「芹沢君、本当に楽しんでる?」
釉が思わず肥土に聞く。
「こう見えても楽しんでるぞ」
「楽しんでるように見えませんが……」
「ただ単に顔に出してないだけだ」
「顔に出せよ、楽しいならさ」
「難しいんだよ、それが……」
「何か過去につらいことでもあったの? 肥土君」
「いや、特にない。ただ、親からも妹からも『もう少し感情を外に出したら?』って言われてる」
「だったら出すように努力しろよ」
「あんまり困らないから、努力はしてないな」
「…………」
「それでしたら、あれはどうかしら?」
絵梨が指差す先にはお化け屋敷があった。
「お化け屋敷って、絵梨は大丈夫なの?」
「正直なところ少し苦手ですけど、これだけの殿方がいますから……」
「でも、このお化け屋敷結構怖いって有名だけど……」
「そんなに怖いものなの?」
「男の人でも怖がるって話も……」
「面白いじゃねえか。俺達がかなり怖がれば、芹沢も怖がる顔を見せるかもしれないかもな」
「肥土君、いい?」
「ああ、いいよ」
そして肥土達はお化け屋敷に入った。
お化け屋敷はものすごく暗く、何とか歩く道がうっすらと明かりがついて歩けるというもので、走ったりしたら危ないというのがよく分かるものだった。
「ものすごく暗いね」
「うっすらと見えるけど、墓石もあるね」
「まあ墓石は作りものだろうけどさ……」
しばらく歩いていると……。
「ああああああ!!」
一同の横からゾンビのような格好をした、二人が飛び出してくる。
そのゾンビは変な意味でリアルで、実際にいてもおかしくないものだった。
『きゃああああ(おわああああ)!!!!!』
皆が驚きの声を上げるが、肥土だけ悲鳴を上げなかった。
「…………」
「怖くないの?」
「思ったより、怖くないな」
「……どうしよ」
思わず声をかけあうゾンビ役の二人。
ゾンビ役の二人はすぐに元の場所に隠れる。
「先に進むか」
一同は先に進む。
「「ばあああああ!!」」
次は一同の前と後ろの上から突然骸骨役の人が飛び出してくる。
『きゃああああ(おわああああ)!!!!!』
しかし、また肥土は悲鳴をあげない。
「…………」
「あれ?」
「とりあえず、どいてくれませんか?」
「す、すみません」
骸骨役の人達はすぐに仕掛け天井に戻った。
「なんで驚かないんだ?」
「いや、正直ひやっとしたぞ。思わず殴ろうと思った」
「殴ったらダメでしょ」
「ああ。だから、やめた」
「やめたって……」
「物騒だね」
「そもそも俺が殴ったらひとたまりもないぞ」
「ひとたまりもないって、そんな大げさな……」
「大げさに言わないと本当に危ないからな」
「危ないってどのくらい?」
「前に絵梨に絡んできた不良達が俺の拳一発で病院送りになるくらい」
「いくらなんでもそれは……」
「……なんか試せるものないか?」
「ないでしょ」
「てかそれがマジなら、早く出た方がいいな。何かの拍子で人を殴りかねない」
「そうだな」
それからというもの、突然のように現れるお化けや妖怪に扮した人達を肥土が思わず殴らないように仙司や玲衣達がフォローする。
突然現れるお化けに対しても悲鳴をあげながらも、肥土の手や足を抑えるようにしていた。
お化け屋敷の人達からしたら「なんでこんなことしてるんだ?」や「本当に驚いてもらってない」と思ったりしたらしい。
そして一同はお化け屋敷を出た。
「はぁ~、怖かった」
「色んな意味で怖かったぞ」
「ああ、芹沢の殴りたくなりそうな衝動でな」
「けど、芹沢君、本当にそんなに力あるの?」
「パンチングマシンでもあればいいけど、壊しそうで怖い」
「なら、あそこはどうだ?」
健が指差す先には「壊していいパンチングマシンあります」と書かれた看板があった。
「ちょうどいいだろ」
「ああ」
その看板のある建物に入る。
そこにはサンドバック型のパンチングマシンがあった。
『壊してもいいです』
「確かにそう書かれてるな。けど、パンチ測るための計測器がついてるぞ」
「とりあえず俺から」
最初にパンチを測ったのは健だった。
「60か」
「普通なのか?」
「普通だろ。高校生なら」
「それじゃあ芹沢、やってみろ」
「ああ」
肥土は思いっきりサンドバックを殴った。
するとサンドバックは破裂し、中に入っていた計測器も壊れてしまった。
「マジで?」
「だから壊すって言ったのに……」
「今の音って……ええ!?」
やって来た遊園地の係員が壊れたサンドバックを見て驚く。
「壊れてる……これ、誰が壊したの?」
「俺です。弁償ものですか?」
「いや、外にも書いてある通り壊してもいいものだから別に弁償しなくていいよ。でもまさか壊れるなんて思わなかったな。
打ち所がよかったのか? それとも老朽化してたのか? これの導入、そんなに古くないけどな~」
「ところで数字出てますか?」
「数字、え~と……へ? なんじゃこりゃ!?」
係員が数字を見て驚いた。
「どんな数字なんですか?」
「どれどれ?」
他の皆も数字を見た。
「1000?」
「一応プロボクサーでも500が限度ぐらいのものなんだけど……」
「え?」
「てことは……芹沢、お前のパンチって……」
「プロボクサーの2倍?」
「いや、壊れてた可能性もあるしな……」
「…………」
肥土はその場を去っていった。
「あ、肥土君」
玲衣が肥土を追った。
「肥土君」
肥土の後ろから玲衣が声をかけた。
「大丈夫?」
「大丈夫って何が?」
「いや、あれだけのパンチを見せたから……」
「別に慣れてるさ。大分前に家で思わず壁を殴ったら殴ったところがへこんだんだよ」
「そんなことが……」
「それ以来親からはむやみに殴るなって言われた。確実に相手は怪我するから……そう言われて殴らないようにはしている」
「そうなんだ……。もしかして肥土君、それで誰か殴ったことあるの?」
「……一度だけある」
「え?」
「小学6年生の時に一度だけ。人をいじめたりしているガキ大将ってやつか。
そいつが俺にもちょっかいをかけてきたから、思わず腹を殴ったんだ。一発だけ。
そしたらさ……、肋骨とかが2,3本折れたんだってさ。しかもあと数センチ上にずれてたら内臓の一部も壊れてかもって言われた」
「そこまでなんだ…」
「その時は小学生だから大事にならなかった。まあ元からなんだが、そんなこともあって人と関わることをしなくなったかな。
あまり他人に興味もなかったしな」
「でも今は?」
「興味が少しだけど出てきた。特にお前といるとさ」
肥土が後ろにいる玲衣の方を振り向く。
「肥土君…」
「おおーい!」
そこに仙司達もやって来る。
「もう……」
「これもこれで面白いしな」
肥土と玲衣は仙司達と合流。その後、帰宅した。
それからも漫画を描き、色々あったがギリギリ間に合い入稿した。
「これでよし……」
「でも読者はどう思うかしら?」
「よくある『俺達の物語はこれからだ』を連想するんじゃないか?」
「そうかもね」
「ですが、それでよろしかったでしょうか?」
「いいと思うぜ。俺達、素人なんだし。それで次は何にするんだ?」
「そうね……」
玲衣は肥土を見る。
「何がいい?」
「俺は……皆に任せるさ」
そう言って肥土は走り出していく。
「あ、待ってよ!」
玲衣を先頭に皆が肥土を追う。
肥土の顔はわずかにだが、嬉しそうな顔をしていた。
ひとまずおわり
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この物語は作者がラブコメのアニメなどを見て書きたくなって書いたものです。ちなみに内容的には読み切り漫画のようなものです。続きを書く予定はございません。