No.560259

ガールズ&パンツァー 彼女達のトウソウ

tkさん

大勢を書いてみて、改めてガルパンの登場キャラは多種多彩だと再認識。
っつーかやっぱり多すぎる。今後は焦点を絞って書かないといけないなと思ったり。

2013-03-28 22:49:33 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:1047   閲覧ユーザー数:1011

 皆さんこんにちは。私の名前は王 大河(おう たいが)、ここ大洗女史学園の放送部に所属するいわゆる記者兼レポーターというやつです。今回は…

 

「そっちにいたー!?」

「いないみたーい! 今度は向こう捜さない?」

「おっけー」

 

 せわしなく走り回る同級生から見つからないように身を隠している状態からお届けします。

 この茂みも今は安全ですが、いつまでも隠れていられないでしょう。

「ごめんなさい。まさかこんな事になるなんて…」

 私と同じく隣に隠れている西住さんが申し訳なさそうにしていますが、彼女を責める気はありません。

「みぽりんが謝ることないよ。生徒会が無茶苦茶するからじゃん」

「…あの会長ならやりかねない。そう思うべきだったな」

「お祭り騒ぎが好きな方ですものね」

 他のあんこうチームの皆さんも一様に生徒会の横暴を非難しています。私も同感です。

 私たちがこんな状況に陥ってるのは生徒会が原因ですから。

 

 さて。

 なぜ私たちがこの様な状況に置かれているかですが。

 

 1.放課後、私があんこうチームの皆さんに突撃インタビューする。

 2.手違いで生徒会の許可を得ていませんでした。

 3.お怒りの生徒会(主に河嶋先輩)がクールダウンするまで逃げましょう。

 

 三行でまとめるとこうなります。

 詳しく知りたい人は前回の話を読んでみてくださいね。宣伝終わり。

 

「まさか懸賞金までかけてくるなんて…」

 憂鬱そうな西住さんは責任を感じている様ですが、これはこの学園に在籍して長い私達の方が気づくべきでした。この学園の生徒会長、角谷杏さんはお気楽かつ多人数で楽しむイベントが大好きな方なのです。

「一人捕まえると部費0.1%アップだっけ? 放送部の設備まで使って広めちゃってさ」

「部活動をしていない方には干し芋三日分でしたわね」

「後者を選ぶ奴はいないだろうな」

 それはまあ、私達が逃げた現場こそ放送部の一室だったのですから使われても仕方ないんですよね。

「というか、0.1%とは生徒会もけち臭いですねぇ」

 そもそも突発のイベントで部費アップを確約する時点で十分に大胆かもしれませんが。

「生徒会も余裕ないからね…」

「…おい」

「あ、な、何でもないよ、うん」

 ふむ? 何やら武部さんが失言をして冷泉さんに窘められてますが、どうしてでしょう?

 生徒会に余裕がない…ああ、なるほど。

「戦車道による学園艦運営の予算圧迫は深刻みたいですね」

「う、うん。まあね」

 私の指摘に西住さんが気まずそうに頷いてくれました。

 戦車道はお金がかかりますから、いくら助成金が出るからといっても全てを賄うのは大変みたいです。それでも優勝すればこの学園の名が売れると同時に助成金も十分な額が貰えるかもしれませんから、彼女達には頑張っていただきたいものです。

 

「ただいま戻りました」

 

 ごそり、と茂みを分け入って秋山さんが戻ってきました。彼女には偵察に出ていてもらったのです。こんな状況でも楽しそうな彼女を見ていると、少しだけ勇気づけられます。

「西住殿の言ったルートはまだ人が少ないので、なんとか突破できると思います」

「分かりました、すぐに移動しましょう。優花里さんが先導してください」

 うーん。さっき私に謝っていた時と違い、こういう事に対する西住さんは凛々しいです。生徒会から一度逃げるという判断を下した時もそうでしたが、土壇場での彼女は普段とだいぶ印象が変わりますね。

「どちらに向かうんですか?」

「今、一番安全な所です」

 そう言って西住さんは私達を励ますように微笑みました。

 私はその気遣いに彼女が戦車道の隊長を務めている理由を少しだけ見た気がしました。

「…ここが安全、ですか?」

「はい」

 

 西住さん達を信じてついてきた私ですが、早くも後悔し始めていました。

「…狭いですね」

「すみません。元々が5人乗りですから」

 ああ、やっぱりそうなんですね秋山さん。

「…暑いですね」

「だよねー。だから降りたいっつもお風呂に直行なの」

 もう慣れちゃったって感じですね武部さん。

「…煩いですね」

「射撃に集中すれば気にりませんよ?」

 それは貴女の役割であって、私には関係ないですよね五十鈴さん。

「麻子さん、出来るだけ静かに発進してください」

「分かった」

 私の苦情をしっかりと考慮してくれる西住さんは本当にできた人ですね。でも、できればもっと別の考慮をして欲しかったです。

 まさかⅣ号戦車で逃走を図るなんて思いもしませんでした。大洗女子学園の戦車道チームは奇抜な作戦を実行するとは聞いていましたが、これもその一端なのでしょうか。

「ごめんなさい。でもこれなら下校時間まで逃げ切れると思うから」

「他の連中は追ってこれないだろうからな」

 麻子さんの言う通りですね。

 まさか戦車に生身で向かってくる奇特な人はいないでしょう。

「とりあえずどこ行くの?」

「やはり演習場の方がよろしいのではありませんか?」

 演習場といえば、戦車道の練習をする所ですね。

 そこなら広いし見晴らしもいいから日が暮れるまで逃げ切る事もでき―

 

「―停車っ!」

 

「へぶっ!」

 西住さんの悲鳴じみた言葉と共にがくんとつんのめった私は勢いでハッチに顔をぶつけてしまいました。いたひ。

「な、なんですか一体!?」

「…外を見れば分かる」

「外って…ひぇっ」

 冷泉さんの言葉にならってハッチから顔を出した私は、思わず情けない声だしてしまいました。

「完全に、包囲されてます」

 緊張に顔をこわばらせる秋山の言葉の通り私たちの視界の先には戦車、戦車、戦車。

 私達の乗るⅣ号戦車を除く大洗の戦車が計7両。すでに戦闘態勢で包囲していたのです。

 

≪待っていたぞ西住。お前なら必ずその手で来ると思っていた≫

 

 ヘッツァーからの通信は河嶋先輩の物でした。

 まさかここまで読まれていたとは。生徒会のクールビューティーの異名は伊達ではないという事でしょうか。

 

≪会長が閃いてくれてよかったね、桃ちゃん≫

≪そ、そうだな≫

 

 …さ、さすが生徒会長ですね。

 そして迷わず実行する河嶋先輩も流石ですね。そういう事にしておきましょう。

 

≪さすがのお前達も1対7で勝てるとは思わないだろう。投降しろ≫

 

 これは圧倒的な物量差です。いくらチーム内でもトップクラスの実力を持つというあんこうチームの皆さんでも、この包囲網は…

「確かにここを突破するのは難しいけど…」

 西住さんは考え込んでいるようです。十数秒後、彼女はようやく口を開きました。

「…王さんの身柄の安全を約束してくれますか?」

 えっ?

 なんでそこで私の名前が出るんですか?

 

≪例の機密に触れていなければ寛大な処置を検討する。だがもし触れている可能性があれば…≫

 

 ひぃー!? だからその機密ってなんですかぁ!? 私は何も知りませんよっ!

 というか河嶋先輩は疑わしきは罰するという雰囲気を隠せていないのですが!

 このままでは無実の罪で粛清されそうなんですけどっ!

 

「…投降はしません。王さんの安全の保証が出来ない以上、私達は抵抗します」

「あーあ。やっぱりこうなるんだ」

 強い口調で断言する西住さんに、武部さんは困ったように溜息をつきました。

「そこはまあ、みほさんですから」

「覚悟を決めろ、沙織」

「分かってるわよ。もー」

 五十鈴さんと冷泉さんもまるで物怖じする気配がありません。

 あのー、1対7ですよ? 包囲されてるんですよ?

「ご、ごめん。でもやっぱり…」

「構いませんよ。私達はそんな西住殿だからついてきたんです」

 うわー。秋山さんにいたっては歓迎ムードですか。

 そりゃ私としても庇っていただけるのは嬉しいのですが、少しは事情をですね。

「詳しい事は今度の決勝戦が終わったら話せると思います。それまでは知らぬ存ぜぬを通してください」

「西住さんがそこまで言うならそうしますが、今の言葉を忘れないでくださいよ。ちゃんと後で事情を話してくださいね」

「はい」 

 むう、この私が真実を目の前にして足踏みをする事になろうとは。

 しかしここは西住さんの言葉と態度を信じましょう。テレビマンは時として取材対象の事も考えるべきなのです。

 

≪降伏勧告をつっぱねるとはいい度胸だな。各車両、射撃用意!≫

 

 うわわ、そんな事考えてる場合じゃありませんでした。現在進行形で絶体絶命ですよ私達!

「砲撃の瞬間を狙ってヘッツァーとⅢ突の間を走り抜けます。麻子さんは沙織さんの合図で発進してください」

「…砲塔が回らない方を抜ける、か。やってみよう」

 あのー、それって素人の私にも一か八かの作戦だと分かるんですけど。

「抜ける際にこちらから攻撃は?」

「必要ありません。今はここを最速で走り抜ける事に集中します」

「あっちの無線からタイミングはなんとか分かりそう。麻子、しくじらないでよ」

「誰に言ってる。沙織こそ読み間違えるんじゃないぞ」

 あ、本気でやる気だこの人たち。

 何なんですか? 戦車道ってこれが日常茶飯事なんですか?

「王さんはこちらに。狭いですがしっかりつかまっていてください」

「あっ、はい。すみません秋山さん」

 うう、完全にお荷物な自分が情けないです。

 

≪攻撃開―わきゃぁ!?≫

 

 あれっ?

 今、通信先の河嶋先輩がやけに可愛らしい悲鳴を上げたような?

 

≪我らは義によって助太刀する! こちらを抜けろグデーリアン!≫

≪本能寺の変、だな≫

≪池田屋事件ぜよ≫

≪ブルータス、お前もか≫

≪それだ!≫

 

 おお、スリットから外を覗くと、Ⅲ突がヘッツァーに体当たりしてますよ?

「エルヴィン殿、皆さん! ありがとうございます!」

「カバさんチームの横を抜けます! 麻子さん!」

「やれやれ、予定通りにはいかないものだな」

 ごがががっと加速した私達のⅣ号はⅢ突の脇を抜けて脱出を図ります。

 やっぱり煩いですよこれ! 愛らしい要素なんか皆無なんですけど!?

 

≪追え追えー! って何をしてるアリクイチーム!≫

≪うーん、私達としては西住さんの手助けしたいんですよね~≫

≪入隊させてくれた恩を返すナリ!≫

≪2対6より、3対5の方が盛り上がるてま~≫

≪き、貴様ら~!≫

 

≪こちら風紀委員のカモさんチーム。私達もそっちに加勢するわ! これ以上生徒会の横暴を看過できないもの!≫

 

「すまんな、ソド子」

 

≪園みどり子だって言ってるでしょう! 冷泉さん、あなた絶対にわざと言ってるわよね!?≫

 

「気のせいだ、ソド子」

 

≪もういいわ! その件はあとでみっちり問い詰めてあげるから!≫

 

 さらに離反車両が二、三台と増えました。

 これで4対4のイーブンです。逃げ切るのに希望がでてきましたね。

「沙織さん、合流地点を指定するので各車両に連絡してください」

「おっけー。こっちの味方をしてくれる方だけだよね?」

 …ごう、りゅう?

 なんだか西住さんの言葉に凄い嫌な予感がするんですけど。

「反撃の準備、ですね?」

「うん、数が同じなら後は戦術と腕の問題だから。優花里さんも装填の準備をして」

「了解です!」

 反撃ですかそうですか。…確か、私達は逃げるんじゃなかったんですかね?

 

≪いやぁ~。盛り上がってきたね~≫

 

 こちらの通信に飛び込んでくるこの声は…角谷杏生徒会長!?

 

≪どうせならこのまま4対4で模擬戦しちゃおっか? 西住ちゃんもそのつもりなんでしょ?≫

 

 そんなわけないでしょう!

 気が優しい西住さんがそんな掌を返したような方針の転換なんて―

「はい。そのつもりです」 

 ええええええええぇぇぇぇぇぇっ!?

 西住さん!? 西住さん何で!?

「私たちが勝ったら王さんの安全を保障してください」

 

≪おっけー。ついでに西住ちゃん達の逃亡もお咎め無しにしてあげるよ~。というわけで河嶋、指揮よろしく~≫

≪わ、私がですか!?≫

≪頑張ってね桃ちゃん≫

≪…ええいっ! こうなったらやってやろうじゃないか!≫

 

 ………………こんなの絶対おかしいですよ。

 これじゃあ、これじゃあ。

 

 

「これじゃ『逃走』じゃなくて『闘争』じゃないですかぁ~~~!」

 

 

≪おー、うまいね王ちゃん。座布団一枚!≫

 

「合流地点へ移動を開始します。パンツァーフォー!」

 カラカラと笑う生徒会長の通信を最後に、西住さん達は闘争の場へと疾走を開始しました。

 ………完全に巻き込まれた形の私を乗せて。

 戦い終わって日が暮れて。

 私達はそれぞれの戦車を降り、互いの健闘を称えていました。

 

「いやぁ、惜しいところまで行ったんだけどねぇ。やっぱり西住ちゃん達は強いね」

「いえ、こちらも危ないところでした。私達よりも統率がとれていたと思います」

「桃ちゃんが負けたらあんこう踊りをさせるって脅したから…」

「か、確約はしてないからな! ちょっと勢いで言っただけだ!」

 

 西住さんは生徒会の皆さんと握手をしています。

 あの絶体絶命な状況から最後には勝ってしまうのですから彼女の手腕は確かみたいです。

 …いや、正直私は装填手席にしがみついていただけで、何が起こっていたのかろくに分かりませんでしたけど。

 それでも悲鳴を上げずによく耐えたと思います。うん、頑張った私。ちょっぴりだけ死んじゃうかと思った。

「王さん、大丈夫ですか?」

「え、ええ。なんとか」

 冷やしたをタオルをくれた五十鈴さんの気遣いが本当にありがたいです。

 特に揺れが酷かったので、少し気持ち悪かったんです。

「分かる分かる。私も慣れるまでは大変だったもん」

「今度乗る時はクッションを持参すると良い」

 いえあの冷泉さん、正直乗るのはこれっきりに…

「王さんは、楽しかったですか?」

 う、そんな期待に満ちた眼差しを向けないでください秋山さん。

 私には戦車の良さなんてまだ分からないんですってば。

 …でも、まあ。

 

「良く分かりませんけど。なんか、凄かったです。こんな体験は初めてでした」

 あれだけの轟音と衝撃も。

 そしてその中で必死になって努力している彼女達がちょっと眩しく感じたのも。

 きっと、私にとっては初めての経験だったのです。

 

「迷惑かけちゃってごめんなさい。とりあえず王さんの事は話ておきましたから」

「いいえ、こちらこそご迷惑をかけてすみませんでした」 

 こちらに戻ってきた西住さんに、私はどうしても聞きたいことが出来ていました。

 せっかくですからここで聞いてみましょう。思い立ったが吉日とも言いますし。

「迷惑ついでに聞きたいのですが、西住さんは戦車道のどんな所が好きなんですか?」

「え? うーん…」

 彼女は困ったように首をひねり、少ししてから。

 

「やっぱり、友達と一緒に一つの事をするのが楽しいからです」

 それが自分の答えなんだと、眩しいほどの笑顔で話してくてました。

 

「…ありがとうございます。次の取材の時はもう少し穏便にしたいですね」

「あはは。そうですね」

 そう。次はもう少し穏便に、そして深いところまで取材させてもらおう。

 彼女達が夢中になるこの戦車道を、私自身がもっと良く理解しないと良い番組は作れそうにありませんから。

 

 

 私の名前は王 大河(おう たいが)、ここ大洗女史学園の放送部に所属するいわゆる記者兼レポーターというやつです。

 今後はこの戦車道について集中的に取材を続けていこうと思います。皆さんもよろしければ是非お付き合いください。きっと有意義な時間をお届けできると思いますよ?


 
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