第30話 想いの強さ
「出口に出たのはいいけど、なんか厄介なのがいるわよ」
協会から脱出して開口一番にアイエフの呆れた声が発せられたのには理由があった。
それは彼女たちの前に純白の甲冑に身を包む騎士が立ちはだかっていたからだ。
とは言っても兜はかぶっておらず、その正体は見た目麗しい少女であった。
だが、その手に持っていたのは神々しい光を放つ剣。
誰がどう考えても彼女が戦闘態勢に入ってることがひと目でわかる。
少女の視線の先にはネプテューヌとホワイトハートだけが映りこんでいた。
すぐに二人を守るように、アイエフとコンパが彼女らの前に出るが少女にとっては二人はただの人間でしかない。
よって、この二人の勝率は虚無に近い。
否━━━━存在もしないかもしれない。それだけヒトと力を持ったものは差があるのだ。
そして、数秒たった後少女が動いた。
「邪魔しないで」
「「「「━━━━━━━━ッ!?」」」」
いきなり距離を殺してきた彼女は目にもとまらぬ速さでアイエフとコンパに拳打を打ち込み戦闘不能にさせた。
「あいちゃん、こんぱ!!」
次に剣を横一閃に振るい、女神たちはなすすべもなく引き裂かれていたであろう━━━━彼女の未来はそう予想していた。
「っち!」
しかし、彼女の振るった剣はネプテューヌの剣によって受け止められていた。
横にいたホワイトハートはハンマーを手にし、拮抗で動きの止まっている少女に容赦なく鉄槌を下す!
「だりゃあああああああああぁぁっ!!」
少女はネプテューヌの剣を弾き後ろにバックステップし、ホワイトハートの一撃を避けることに成功した。
派手な音をあげ、雪が空を舞い少女の視界はすっかり真っ白になり果てる。
「この程度、私の前では意味がない」
少女が剣を振るうと風が前方に巻き起こり瞬く間に視界が元に戻っていく。
否━━━━風景は何も変わってはいなかったが二人のうち一人がその姿を変化せていていた。
それは紛れもなく女神化を果たしたホワイトハートの姿であった。
ハンマーは戦斧に変わっており、ホワイトハートからは好戦的な雰囲気が溢れ出ている。
少女はその姿を目にした瞬間苦虫を潰したような表情になり心底から嫌悪感を出していた。
「ネプテューヌ、てめぇと組むのだけは一生遠慮しておきたかったが今は仕方ねえ」
「アイツを潰すぞ!!」
「あいちゃんとこんぱの為にも、その案には乗らせてもらうわ」
ふたりの女神がそれぞれの武器を構え、少女に対峙する。
少女は嫌悪感を振りはらい、手にした聖剣をしっかりと構え目の前にいる敵に向かって走り出した。
「影無し!!」
「━━━━ッ!」
ネプテューヌは少女より早く剣を振るっていた。
いや、驚くべきは彼女の爆発的な加速力だ。
大した勢いをつけていない少女はネプテューヌの二閃を受け止めきることができずに後ろに弾き飛ばされる。
「くっそ!」
ヤケクソ気味に着地と同時に地面に剣を叩きつけると、とてつもない振動と共に雪が大量に舞い上がる。
だが、それは直ぐに同じ振動によって相殺される。
「へ、その程度かよ!!」
荒れ狂う真っ白な視界の中にひとつの影が入り込んだ。
その影は真正面からバカみたいに突っ込んでくるが、そんなモノにこちらから真正面にぶつかり合うほど少女は愚かではない。
「はあああああぁぁッ!」
刹那、叫び声を上げると聖剣は瞬く間に神々しい光を放ち、刀身は爆発的なまでに聖光を放出し始めた。
.......その自信、砕け散らせる!!
否、少女は愚行を選び取った。
理由は単純。気に食わないから。
影に向かって一瞬で距離を殺し、剣を幾重にも凪ぐ、凪ぐ、凪ぐ、凪ぐ、凪ぐ、凪ぐ、凪ぐ、凪ぐ!!
だが、いくら切っても確かな手応えはなく、代わりに無数の金属音だけが響いた。
不審に思いジャンプで4、5m距離を取り観察していると、薄くだが紫に発光する何かがそこにはあった。
「無意識に信仰力を自分の力に変換したというの!?」
そこにはボロボロになりながらも剣を構えていた女神ネプテューヌがいた。
「私は、負けない!」
最後の余力を振り絞るようにネプテューヌは遥か上空に跳躍すると、空を蹴り流星のような勢いで少女にむかって突進する。
少女はそれを受け止めるかのように剣を横に構え空いた左手で頂点より少し下の部分を支える。
「ネプテューンストライク!!」
「悠久なる騎盾〈ヴァーミリオン〉!!」
紫光を纏いし神剣と聖光を纏いし聖剣が互いの光を反発しながらせめぎ合う。
最強の一撃と最強の一御!
互いを更なる高みへと導く二つは未だに激しい拮抗を続けていた。
この力は想いの強さによるもの、全てを賭けた正真正銘の一撃と一御なのだ。
「皆のためにも!」
「あの人のためにも!」
「「ここで負けるわけには━━━━いかないッ!!」」
途端に彼女たちの体から紫光と聖光が溢れ出た。
二つの光は絡み合い、飲み込み合い存在を消滅させんと激しい衝突を繰り返す。
「━━━━強制解放〈フォルテ〉━━━━!!」
「なっ!?」
だが、その拮抗も長くは続かなかった。
少女の持つ聖剣が本来の力を開花させ紫光を打ちのめし、
「吹き飛べッ!!」
聖光が一気に弾け、力を使い切ったネプテューヌは抗うことも出来ずその体を空に吹き飛ばされる。
少女の方も強制解放を瞬時に儀式を行わず発動させたせいかひどく衰退している。
一方飛ばされたネプテューヌは着陸場所などあらず、落下地点は深い崖の底である。
少女はただただその姿を嘲笑を浮かべながら見るだけである。そう、憎き女神が奈落の底に落ちるのを。
「━━━━っく!?」
刹那、視界が急激に黒に埋め尽くされ少女は混乱に陥いる。
だが、すぐに視界は元に戻り何事もなかったように思えたが、目の前には吹き飛ばしたはずの女神を抱えた一人の青年がいた。
「......セフィア」
「タイチ....久しぶり」
聖戦は終焉りへと向かい始めた。
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協会から脱出した一行を待ち受けていたのは白銀の騎士であった。
ついに女神と聖騎士の禁断の聖戦が幕を開ける!!