No.559931

真・恋姫†無双 真公孫伝 ~雲と蓮と御遣いと~ 1-37

幽州に無事帰還!

ということでやっとそろそろ日常的(?)な部分が書けるのかな、と思っています。

日常もシリアスも、書くのは難しいんですけどね。

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2013-03-28 00:29:48 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:8010   閲覧ユーザー数:6018

 

 

 

「お帰りなさい、皆さん。ご無事で何よりでした」

 

 

 

幽州へと無事帰還し、城に入った白蓮達一行を迎えたのは、心底安堵の表情を浮かべ、一礼をした左慈だった。

 

 

「ああ左慈、留守をありがとうな。私たちが不在の間、何か気になることとかあったか?」

 

「いえ、公孫賛様。于吉君が仕事をサボっていたこと以外は特に何も」

 

「ああ……そう」

 

 

怒ってるな、間違いなく。笑顔で頷いた左慈を見て、一刀はそう感じた。

 

怖い笑顔が消え、左慈の眼が、星の背後にいた初見の三人を捉えた。

 

 

「そちらが書簡にあった、月さん、詠さん、華雄さんですね」

 

「ちょっ……!」

 

 

初対面の人間の口からいきなり飛び出した自分と親友の真名に驚き、抗議しかけるも、自分たちの立場を思い出したのか、詠は悔しそうに口を閉じた。

 

 

「……書簡にて伝えられたことなので、事情までは把握していませんでした。気分を害してしまったみたいですね。……すいません」

 

「……別にいいわよ。あんたのせいってわけじゃないんだし」

 

「そう言ってもらえると、僕も少し罪悪感が晴れます」

 

「……ふん」

 

 

左慈のような物腰柔らかい純朴な人間と関わることが少なかったせいか、詠はやりづらそうな表情を浮かべてそっぽを向いた。

 

あはは、と曖昧な表情で笑う左慈は流れるような所作で城を示した。

 

 

「ともあれ、疲れもあると思いますから、まずは中へ。話はそれからにしましょう。よろしいですか?公孫賛様」

 

「ああ、うん。そうだな」

 

 

どこか、心ここにあらずな返事を返し、白蓮は城内へと歩き出した。その後に、一刀達も続いていく。

 

左慈とすれ違う刹那、一刀の脚が一瞬止まった。

しかし、直ぐに動き出す。少なくとも不自然には映らない程度の停止。

 

だが、白蓮の後ろに付き、ちらりと肩越しにそれを見ていた星だけは、一刀の耳元で左慈の口が動いていたことを見逃していなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあ左慈。今日はいい天気でゴフウッ!!!???」

 

 

個人の部屋より広めな、軍儀用の部屋に入るなり、にこやかに挨拶をしてきた于吉の腹に、左慈の見事なボディブローが決まった。

 

しかし、一旦距離を置いた左慈の連撃はそこで止まらず。

 

 

まず初撃。

膝裏にローキックの要領で一撃。つまり蹴りによる膝カックン。

 

二撃目。

体勢を崩した于吉の前に回り込み、腹に膝を叩き込む。

 

三撃目。

前屈みになった于吉の顎目掛けて、しゃがんだ左慈がカエルアッパーを喰らわせた。

 

 

……なぜだろう、回転はしてなかったけど少しだけ昇○拳に見えた。あまりにも鮮やか過ぎて。

 

 

ザ、と背を向ける左慈。背後に落ちる于吉。ドサッ、という音が辺りに響き渡った。

 

 

カーン!カーン!カーン!カーン!

 

 

どこかでゴングの鳴る音が聞こえた(気がする)

 

残念ながら、確認するまでもなく、K.Oだ。于吉は白目を剥いていた。

 

 

一仕事終えた、という様子で額の汗を拭う左慈に一刀はパチパチと拍手を贈った。

 

 

「お見事」

 

「ああ、いえ。見苦しいものを見せました」

 

 

照れ臭そうに頬を掻く左慈。

しかし後ろに倒れている白目を剥いた于吉が、場のシュールさを際立たせている。

 

 

「な、なに、今の?」

 

 

この光景を初めて見る月はただ驚き、詠に至っては普通に引いていた。

 

それはそうだろう、物腰柔らかだった少年が、ある意味で非人道的な連撃を繰り出したのだから。

 

そして左慈は一見して文官の様相。

 

ただの文官がなんでこんな戦闘力持ってんだよ、とツッコまずにはいられないだろう。

 

正直な話、俺もツッコみたい。

 

だがまあ、そこは華麗にスルーするとしよう。

 

 

一刀が改めて心に誓うまでも無く、他の仲間達は各々が既に席へと着いていた。

 

この一連の流れは、出兵する前からあったので当然だろう。

 

もちろん心の優しい娘達は、心配そうな顔はするんだけど。

 

しかし既に皆、慣れてしまっている。本当、慣れって怖い。

 

まあ、于吉のあり得ない生命力を目にし続けた結果、そうなってしまった、というのが真実なのだが。

 

 

「左慈、いきなりで悪いんだけどさ、溜まってる案件持って来てくれないか?今から始めないと今日中に終わらなさそうだし」

 

 

椅子に座って開口一番、白蓮が憂欝そうな顔で左慈に頼む。

 

確かに、残っていた文官達では捌き切れない案件が、それなりの数溜まっているだろう。

 

どれ、俺も手伝おうかね、と一刀が袖を捲り、席を立った。と、そこに。

 

 

「あ、殆んど終わっています」

 

 

左慈の爆弾発言が投下された。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい?」

「はい?」

 

 

一刀と白蓮の声が重なる。

 

その反応を見て、左慈が何かを察したのか慌てて手を振った。

 

 

「あ、いえ、その、殆んど終わっているって言っても、残っているのは公孫賛様の印を貰えれば終わるもので。それ以外は僕や于吉くん、文官の人達と手分けをして作業して、終わらせて、えーと、えーと……と、とにかく今の時間から一人でやったとしても、昼頃までには終わると思います!すいませんっ!」

 

 

そして何故か謝った。

 

 

「まったく、本当に苦労しましたよ」

 

 

いつの間にか復活し、既に着席済みの于吉が眼鏡を指で押し上げていた。

 

残念だが、誰もツッコまない。

 

その何事も無かったかのように振る舞う様子を見て、月と詠、華雄が驚いているだけだった。

 

頭を下げたままの左慈に向け、見えないだろうが一刀は手を横にひらひらと動かす。

 

 

「いやいや、凄いじゃんか、左慈」

 

「え?ああ、いえ、僕だけの力じゃありませんし」

 

「ホントに助かったよ左慈。帰って来る間もそれだけが気掛かりでさー……」

 

 

白蓮が、くたぁ、っと机に突っ伏した。

その様子から、心底安堵を感じているのだと窺がい知れた。

 

 

そんな中、華雄が(おもむろ)に口を開く。

 

 

「北郷殿、我ら三人はその二人と初対面だ。お互いに紹介をしたほうがいいのではないか?」

 

「あー、ごめん。ちゃんと紹介するつもりだったのが、忘れてた。えーと、んじゃどっちからにする?」

 

「あ……じゃあ私から」

 

 

月が控えめに手を上げ、立ち上がる。

 

 

「月、と言います。公孫賛様の元で侍女をやらせて頂くことになりました。精一杯頑張りますので、よろしくお願いします」

 

 

いつもは物静かで儚げな彼女だったが、この時ばかりはハッキリと口上を述べ、眼に強い光を宿らせていた。

 

言い終わり、ペコリと頭を下げる。

 

 

「ボクは詠。ただの詠、よ。月と同じく侍女をやらせてもらうわ、よろしく」

 

 

自分に言い聞かせるように念を押すも、自分らしさを保った詠は月とは違い、胸に手を当て自信たっぷりに紹介をし終えた。

 

見方によっては、もう侍女でもなんでもいいわよ!やってやろうじゃない!的なヤケクソ感をも醸し出しているようにも見て取れたが。

 

 

「姓は華、名は雄だ。他に語ることは無い。武官ゆえ、働きは戦場でしか示せん。新参だがよろしく頼む。……とはいえ、しばらくは戦場には出られんがな」

 

「あはは……無理だけはしないでくださいね?しばらくは華雄さんにも調練を見てもらおうと思っていますから」

 

「ああ、そうだな。今の私が役立てることと言ったらそれぐらいだろう。すまんな、雛里」

 

「いえ……」

 

 

照れの所為か頬を紅く染めて帽子を目深に被る雛里。

 

なんとなくそのやり取りを見て、相性が良さそうな二人だなあ、と一刀は思った。

 

 

次は左慈達か、と眼を向けると今まさに席を立ち、自己紹介をするところだった。

 

 

「なんか皆さんの前でも改めて自己紹介するとなるとなんだか照れますね……。え、ええと、左慈です。一応、この城で文官の筆頭をやらせていただいています。どちらかというと、僕も新参なんですけど。何かあったら気軽に言って下さい。月さん、詠さん、華雄さん、よろしくお願いします」

 

「気にすることないぞー?左慈は良くやってくれてる。優秀すぎて、たまに考えちゃうもんな。……なんで私のところでこんな出来るやつが働いてるんだろうって」

 

「ぱ、白蓮……今日は何か随分と後ろ向きだな」

 

「う~ん?いや別に、仕事が溜まって無かったからホッとしてるだけだって」

 

「そ、そっか」

 

「……鈍感にもほどがありますね」

 

「え?燕璃、何か言ったか?」

 

「いえ、何も。左慈さんが終わったのなら、後は于吉さんだけですね。ま、早く終わらせて下さい」

 

 

一刀と白蓮を見ながら溜息を吐いた燕璃が肩を竦め、于吉に事態の進行を促した。

 

心底どうでも良さそうな様子で。やれやれ、と要請に応じて于吉が立ち上がった。

 

 

「于吉、と申します。……月さん、詠さん、華雄さん。しがない一文官ですが、なにとぞよろしくお願いします」

 

 

どこか普段と違う雰囲気で自己紹介を終えた于吉。

 

席に座ろうと腰を曲げたところに

 

 

「ねえ、あんた」

 

 

詠の声が掛かった。

 

その体勢で止まったまま、于吉が首を傾げる。

 

 

「はい?なんでしょうか」

 

「……ボク達と会ったこと、ない?」

 

 

詠の質問。その眼が鋭く細められる。

 

 

それを見た于吉の口角が、ほんの少し、一瞬だけ上がった。

しかしすぐに、それを錯覚だったかと思わせるような自然な微笑を浮かべる。

 

 

「いえ、気のせいではないですか?詠さんにも、月さんにも、ましてや華雄さんにもあったことは無いと思うのですが……」

 

「そういや于吉って幽州に来る前にはどこにいたんだ?」

 

 

ふとした疑問を白蓮が投げ掛ける。

 

 

「ふむ……そうですね。荊州や司州、青州、徐州。その他、殆どの州には足を運んだと思いますが。そういえば洛陽には行ったことがありませんでした。無論、涼州にも」

 

「へえ……結構転々としてきてんだな」

 

「僕も初めて聞きましたよ」

 

「……」

 

 

何故か、于吉の受け答えに一刀は違和感を感じた。

 

白蓮と左慈、雛里や舞流、華雄辺りは特に気にしていないらしいが、一刀を含め燕璃や星、詠と月も于吉に疑問の視線を投げ掛けていた。

 

 

そうこうしているうちに于吉は椅子に腰を降ろしてしまう。

 

尋ねるタイミングを逸してしまった為、釈然としない気分を残したままになってしまった。

 

とはいえ、これはこれで仕方がない。

 

後で聞けばいいか。一刀はそう結論付けることにした。

 

 

「……そう、変な事聞いたわね。ごめん、忘れて」

 

 

詠はどこか困惑気味な表情のまま、台詞とは違い釈然としない様子で席に着く。

 

それを微笑ましげに見つめていた于吉だったが、ふと何かを思いついたようにポン、と手を叩いた。

 

 

「ふむ……公孫賛様。この御三方は新参の身、城内を案内してさしあげた方がよろしいのではありませんか?」

 

「それもそうだな。月と詠は一応、侍女の仕事をしてもらうんだし。うん、じゃあ于吉、お願いできるか?」

 

「いえ、さすがに私は自分の仕事をしなければ。左慈に殺されてしまいますので」

 

「そんなことしませんよ、于吉くん。……ちょっとオハナシするだけですって」

 

「おーい左慈。眼が笑ってないぞー」

 

「あ、いやこれは。あははは……」

 

 

一刀の間延びした声に指摘され、笑って誤魔化す左慈だった。

 

じゃあ駄目か、と呟いて、白蓮は一刀を見る。

 

 

「それじゃあ一刀……」

 

「悪い、白蓮。俺は、ちょっと」

 

「……? まあ分かった。それじゃあ――」

 

「某が承るでござる!」

 

 

結果、三人を案内するのは舞流と燕璃に決まった。

 

なぜ案内人がこの二人なのかは言わなくても分かると思う。

 

まあ何と言うか、喜び勇んで立候補した舞流一人に任せると不安だということだ。色々な意味で。

 

月、詠、華雄を連れて部屋を出ていく舞流と燕璃。

 

 

「先ずは厨房へ行くでござるー!」

 

「つまみ食いは許しませんよ、舞流」

 

「な、なんと……」

 

 

などと言う他愛のない会話が徐々にフェードアウトしていった。

 

 

部屋に残ったのは白蓮、星、一刀、左慈、于吉、雛里の六人。

 

さてこれからどうしようか、と悩み掛ける他を他所に、于吉は一人立ち上がった。

 

 

「さて、私は仕事に戻ります。左慈に迷惑を掛けるわけにもいきませんしね」

 

「……散々掛けられてる気がするんだけど、于吉くん」

 

「まあ良いではないですか。これも私の、左慈に対する……愛です」

 

「気持ち悪いから止めてください」

 

 

少し溜めてから言った于吉の台詞に対し、露骨な嫌悪感を示す左慈。

 

何故かその光景に、雛里が熱視線を送っていたように見えたのは気のせいだと思いたい。

 

 

「ふう……仕方ない。私も仕事をしてくるとしようか」

 

「え?」

「は?」

 

 

億劫そうに立ち上がった星の口から出た言葉を聞いて、一刀と白蓮の声が重なる。

 

意外なものを見たという、物珍しげな視線を受け、星はたじろいだ。

 

 

「な、なぜ二人揃ってそんな眼を向ける?」

 

「いや、だって……」

「なあ……」

 

 

顔を見合わせてお互いに同意を求める一刀と白蓮。

 

見れば雛里と左慈も似たような表情でこちらを見ていたことに気付く星。

 

 

「まあ、趙雲殿が率先して仕事をしようなどと珍しいですからね」

 

「君が言わないでください」

 

 

たじろぐ星に止め(とどめ)を刺した于吉だったが、即座に左慈に突っ込まれた(物理)

 

それを横目で見つつ、星は拳を握った。

 

 

「稀だがな、私とて真面目な時ぐらいある!」

 

「す、凄い説得力です……!」

 

「そりゃ説得力もあるだろ。ホントに稀なんだから」

 

「何とでも言うがいいさ。たまには、この趙子龍の本気をお見せしましょう。ではそういうことですので、私はこれにて」

 

 

星はシュタッ、と手を上げ足早に部屋の外へと歩いていった。

 

 

珍しく辛口の発言をした白蓮。

少し開き直って部屋を出ていく星の背中を見つめながら、複雑な表情を浮かべていた。

 

罪悪感でも感じているのだろうか。

 

しかし残念ながらこの場に、その心の機微を完全に察せる人間はいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

星が出ていき、少しの沈黙。(おもむろ)に一刀が白蓮へ向き直る。

 

 

「白蓮」

 

「うん?」

 

「今この場にいる人間だけでもいいんだけど、ちょっと真面目な話、良いかな?」

 

「あ、ああ」

 

 

突然と言えば突然。真剣な表情で提案した一刀の雰囲気に気圧されながらも、白蓮は頷いた。

 

しかし白蓮の緊張を察したのか、一刀の表情が緩む。

 

 

「ああごめん。真面目な話って言ってもそんな気負うこともないよな、うん」

 

「あー……なんかゴメン、気使わせちゃって」

 

「いいって。んで、本題に入るんだけどさ。反董卓連合に合流する時っていうか、ここを出る時に話した件あったろ?」

 

「ここを出る時に話した件?」

 

 

う~ん、と唸りながら心当たりを思い出そうとする白蓮。

 

 

「情報戦に特化した部隊の件、ですね」

 

 

そんな白蓮に、雛里が助け船を出した。ああ、と思い出したように白蓮は声を上げる。

 

 

「思い出した。確かにそんな話あったな。確か、本初からの檄文の所為で有耶無耶になってた気がするけど」

 

「そう、その件についての話なんだけど。真面目な話、情報は大事だ。……これから先、月や詠みたいなことがあるかもしれない。それを阻止するためにも、な」

 

「……」

 

 

それを聞いて部屋にいる一同。というか白蓮と雛里が深刻な顔をして押し黙る。

 

于吉は何かに思いを馳せながら、左慈はなんとなく事情を慮りながらそれを受け止めた。

 

 

「だから出来るだけ早めにその部隊を作りたい。で、だ。左慈、構想は出来てるか?」

 

「はい。用意しておきました」

 

 

一刀に尋ねられ頷いた左慈は、懐から一枚に纏められた書簡を取りだし、それを白蓮の前に置いた。

 

白蓮はそれを受け取り、内容に眼を通し始める。

 

 

「これは……」

 

「僕なりに練った、情報部隊の構想です」

 

「必要になるのは分かってたし、書簡で先に送っといたんだよ。構想を練っておいてくれってね」

 

「そのことについて聞きたいことがある、と言われたので安平の街で少し話しあいながら書簡を書いたんですけど……」

 

 

時折、小さく言葉を漏らす白蓮に向け、左慈や一刀、雛里が補足する。

 

そして雛里の話を聞いた時、白蓮の耳がピクンと反応した。書簡から顔を上げる。

 

 

「え?じゃあ安平の街で私の誘いを断ったのはその為だったのか?」

 

「ああ、うん……うん?……あ、それか」

 

 

なんとなく安平の街から今この時まで白蓮の機嫌と言うかモチベーションが下がってたのが自分の所為だと、やっと気付いた一刀だった。

 

 

「そっかー……よかった」

 

「え?なにが?」

 

「いやいやいや、なんでもない!なんでも!」

 

 

ぶんぶんと首を振り、なんでもないと猛アピールする白蓮を見て、首を傾げる一刀。

 

機嫌を損ねた原因が分かっても、色々と察せない辺りは北郷一刀が北郷一刀たる所以なのだろう。

 

なんとなく察している左慈は一刀の鈍感ぶりに苦笑しながら肩を竦め、雛里は複雑な胸中を抱えたまま曖昧に笑っていた。

 

白蓮はと言うと、誤魔化しきったと自分の中で結論付け、書簡に眼を通す作業に戻っていた。

 

少し時間が経ち、今度は眼を通し終わってから、真面目な表情で顔を上げる。

 

 

「……うん、分かった。許可するよ、新部隊の設立。ちゃんと書いてあることも理に適ってるし、それを纏めるのが左慈っていう点がまた安心する」

 

「まあ、元々そういう話だったからな」

 

「精一杯頑張ります!」

 

「あ……左慈さん。一応、期間を設けて報告書は提出をお願いします」

 

「分かりました、雛里ちゃん」

 

「あ、私からもひとつ。ちゃんと于吉の手綱は握っておいてくれな?」

 

 

報告書に記載されていた【 副責任者:于吉 】という記述に眼を通した白蓮が念を押す。

 

それを聞いて、左慈は表情を渋くした。

 

 

「それが一番大変なんですよねえ……」

 

「于吉もあんまり左慈に――っていねえ!?」

 

 

一刀がしばらくの間一言も声を発していない于吉を見ると、そこには影も形も無かった。

 

あ、と雛里が声を上げる。

 

 

「さっき『厨房が忙しいと思いますので、手伝ってきます』って言って出て行きましたけど……」

 

「いつの間に……」

 

「ん?厨房って……今日何かあるんだっけ?」

 

「あ。す、すいません!言い忘れていました!」

 

 

白蓮が疑問の声を上げたのと、厨房が忙しいという言葉を聞いて慌てる左慈。

 

その場に残った三人は、左慈の説明を待った。

 

 

「一刀さんの書簡に『新しく仲間になった三人が行く』って書いてあったので、ささやかですけど歓迎の宴でも、って」

 

 

「宴?」

「宴?」

「宴?」

 

 

三人の台詞が重なる。そして、最悪の事態が頭をよぎった。

 

舞流が厨房へ行った→歯止め役は燕璃だけ→怪力娘の暴走→宴の準備がパア(主に材料が無くなる的な意味で)

 

 

「ヤバいな」

「まずいな」

「大事件です……!」

 

 

こうして一刀、白蓮、雛里、左慈は部屋を飛び出し、廊下を駆ける。

 

宴の中止という最悪の事態を防ぐために。

 

既に遠くの方から、ガッシャーン!というけたたましい音が聞こえて来ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 


 
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