No.558632

Summon Night2 -Will-

rineさん

昔に書いていたサモンナイト二次創作。
PSP版のリメイクサモ3やサモ5の話が出る前に書いてあったやつ。
まぁ、せっかくなので……続きを書くかは決めていませんが。

2013-03-24 16:54:40 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2410   閲覧ユーザー数:2385

 

 風薫る春の芽吹きの道

 眩しい夏の木漏れ日の下

 声無き秋の落日の桟橋

 凍える冬の銀月の峠

 君は足を止めなくていい

 かならず

 僕はそばにいるから……そう、君に誓おう

 例えこの先、何があろうと……

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 響き渡る剣戟の旋律。

 美しい装飾剣が陽光に反射し、指揮棒と化して戦場を華やかに彩る。

 それはまるで演武を見ているかのように洗練された太刀筋に映るが、現実は無情。共演者にとっては天と地ほどの差がある。

 そう、例えるなら暴風。

 一撃一撃が砲弾級と例えても違いではないだろう。

 その証拠にその装飾剣に触れた剣や槍は尽く一撃もしくは二撃で宙を舞っている。

 そして最後まで武器を持っていた大男の武器を吹き飛ばす。

 

「……貴方で最後です。残念でしょうけど降参することをお勧めします」

 

 合計5本目の武器を吹き飛ばし、その集団のリーダー格と思われる大男に装飾剣を突き付け、そう告げる。

 

「こっ、この化け物がッ!?」

 

 大男が畏怖と憤怒を混じり合わせた声色で目の前の存在……緑色が印象深い厚手のコートを纏った黒髪の青年に向けて負け台詞を吐く。

 

「失礼な……少なくとも努力した結果です。まぁ、師の教えが有ってこそですが……」

 

 青年はそんな男の台詞を切って捨て、後ろを振り向く……無論、目の前の男に対する油断など微塵も持っていない。

 

「……で、コレどうしょうか?」

 

 周囲に散らばる男どもを示しながら、後ろにいた年齢20代前半と推測される2人組の男女に尋ねる。

 

「とりあえずはフン縛って(物理的に)眠らせておこうぜ? 煩いしよ」

 

 と、緑色の髪をした2人組男女の片割れ、冒険者風の装備に身を包んだの大男『フォルテ』が答える。

 隣の巫女服と呼ばれる衣装を着ている黒髪の女性『ケイナ』が溜息をつきながら付け足す。

 

「はぁ、先に襲ってきたのはそっちなんだから正当防衛且つ自業自得よね。まっ、命あるだけ御の字よ」

 

 決して彼らにとって良い方向に向かう台詞ではないのだが。

 

「まぁ、暴れられても面倒だから一気に眠らせるか……はぁ、しょうもない」

 

 黒髪の青年『ウィル』も呆れ顔で同意し懐から緑色の宝石……俗にサモナイト石と呼ばれる代物を取り出す。

 セイレーヌ……そう呟きながら。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 ――選ばれた魂が集う楽園『リィンバウム』

 

 結界越しに4つの異世界と隣接し、それら4つの世界の生物やモノを使役する魔法『召喚術』が絶対なる力を誇る世界。

 4つの異世界はそれぞれ『機界ロレイラル』『霊界サプレス』『鬼妖界シルターン』『幻獣界メイトルパ』と呼ばれ、様々な種族の生き物などが存在する。

 それらの世界の特徴を挙げると、ロレイラルは機械が支配する廃墟、シルターンは鬼神や龍神を崇めている比較的リィンバウムに近い世界、そしてサプレスは天使や悪魔など霊的存在が集い、メイトルパは大自然の中に幻獣や亜人と呼ばれる半人半獣の存在が住んでいる、と認識されている。

 それらの世界はリィンバウムを囲い、それぞれ機界、鬼妖界、霊界、幻獣界、そして再び機界とその世界に存在するモノの魂が輪廻している。

 しかし、4つの世界の中心であるリィンバウムは輪廻転生の輪から外れており、ある者はリィンバウムを『選ばれた魂が集う楽園』と呼んでいる。

 勿論、考えは人それぞれであり、またある者はリィンバウムを『転生の価値を失った魂のたまり場』とも称する。

 

 リィンバウムはもともと1つの王国であったが初代国王が亡くなった後に3つの勢力『旧王国』『聖王国』『帝国』に国を割っており、現在に至っている。

 その中の一強である聖王国、その首都『聖王都ゼラム』、此度の物語はここから始まりを迎える。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 -第1話- 物語は……いや、あえて言うまでもないか

 

 

 時刻は黄昏時を十分に過ぎた夜のこと。

 聖王都ゼラムの繁華街の中心にある少し大きめ且つお客で賑わっている食事処……ではなく夜の食事処。

 俗に言う酒場の一席に座りながら、同じテーブルに掛ける目の前の2人を観察する。

 

「……ウィル、食べないの? 早くしないとバカが……ってそれは私のよぉ!!」

 

「へへぇ、早いもん勝ち……おぶすっ!?」

 

 目の前には緑髪の冒険者風の大男と、それに華麗な裏拳を決める黒髪の巫女服姿の女性。

 吹き飛んだ男性は『フォルテ』、裏拳を決めた女性は『ケイナ』という。

 

「……あっ、悪かったわねウィル。このバカは痛みからしか学ばなくて……」

 

(そんな教育は嫌過ぎるな……)

 

 と、思いつつも自身にも経験があるせいため、黒髪の青年『ウィル』が苦笑いを浮かべる。

 

「いてて……少しは手加減しやがれ。そもそもケチくさいこと言うな」

 

 だから人間性と一緒に胸も小さいんだよ……と、殺して下さい宣言をするのだからケイナの言っていることも強ち間違いではない。

 言った瞬間に赤い液体が弧を描き宙を舞ったのはご愛嬌だ。

 

「ごめんねウィル、人探しの旅途中なのに付き合わせちゃって……」

 

 フォルテへの対応とはうってかわってケイナが謝罪の言葉をかける。

 

「いや……当てもないのが正直な現状だから、2人の誘いが有り難いことに変わりないよ」

 

(彼女がどこにいるのか皆目見当もつかないのは事実だし……)

 

 存外に気にするな、とケイナの問いに答え、自身の旅の目的について思いかえす。

 目的はとある人物……1人の女性を探して旅をしているのだが、実は行き先に皆目見当もついていない。

 

「うん、ありがとうねウィル。あの時に街道で助けて貰わなかったら……私は死んでたわね」

 

 ふと、ケイナが思いかえすようにそんな話を振ってきた。

 2人との出会いを思い出し……さっきまで浮かべていた苦笑いが急激に引き攣るのを感じた。

 

「……うん、これからは変な物は食べないようにね」

 

「藁にも縋る思いだったのよ……」

 

 あのキノコが……と、ケイナが呟きながら若干厳しそうな表情を浮かべ言葉を続ける。

 

「こっちから振っておいてなんだけど思い出さないでちょうだい……過ぎ去ったことよ」

 

 裏拳がこちらに向いたら嫌なので自重し、思い出すのをやめる。

 簡潔にいうと街道でキノコに当たり倒れていたケイナを(女性としてのデッドライン)ギリギリの所で助けたのだ。

 ちなみにフォルテはケイナを犠牲に毒見させていたらしく、復活した瞬間に凄まじいコンボで沈められていた。

 その後に紆余曲折があったわけではなく、目的地が同じゼラムであったため2人と一緒に行動しており、その途中で野盗に襲われたのだ。

 とりあえず野盗は全員叩きのめして役人に引き渡し、現在に至る。

 

「ん、でだ。ウィルはこれからどうすんだ?」

 

 つい先ほど、宙を舞っていた筈のフォルテがいつの間にか復活し、いまいち心情が読めない表情で問いかけてきた……鼻から赤い液体を垂らしながら。

 とりあえず鼻血はスルーして問いにのみ回答する。

 

「そう、だね……もうしばらくは聖王都ゼラムを中心に、その後に西……紡績都市サイジェントを目指すつもりだよ」

 

 存外、もうしばらく付き合うよ、と伝える。

 それが通じたのかフォルテの顔が『ニヤッ』と擬音のつきそうな顔つきに変化した。

 

「おう、それならもうひと稼ぎ……いや、もうふた仕事くらいしてかねーか?」

 

 と、振ってきた……鼻血を垂らしたまま。

 ニヤついた顔に鼻血姿となると自称イケメンが台無しである。

 

「とりあえずあんたは鼻血拭きなさい、まったく……ほら、ハンカチ……あぁ汚い」

 

(いや、殴ったのはケイナだよね……絶対に口には出さないけど)

 

 睨まれるのも御免被りたいので堅く口を閉ざし、内心でツッコミを入れる。

 円滑に話が進みそうなのだから余計な茶々は控えることとするが……

 

「おぉ、わりぃな……って!? そもそもオメーが殴ったんだろうが!?」

 

 そんな自分の思惑など簡単に吹き飛ばすようフォルテがノリツッコミを入れる……無茶しやがって、と薄暗い天井を仰ぐ。

 案の定、2人のボルテージはどんどん上がっていき、先ほどよりヒートアップした言い争いを始める。

 

「あんたが失礼極まりないこと言うからでしょうが!?」

 

「事実だろうが!! この貧にゅ……ぶへるぁぁ!?」

 

 そしてフォルテの顔面に華麗な裏拳がまた炸裂した。

 端から眺めていると喧嘩というよりジャレ合ってるようにも見える……かなりの流血沙汰だが。

 

(アレか……好きな娘にはチョッカイをかけたいという子供的な心理)

 

 内心で更にそう呟くが、こちらも決して口には出さない。

 出したら最後、双方から責められるのが目に見えている。

 使い古した言葉で例えるのならば『2人の世界』と言っても強ち間違いではないだろう。

 

(……はぁ、他人のソレを見せつけられる身にもなってくれ)

 

 2人の口論が激しくなる傍ら、1人で酒を飲みながら心の内で溜息をつく。

 独り身の酒は本当に身に染みる。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

「それでフォルテ? もうふた仕事の詳細を聞いてもいいかな」

 

 2人のジャレ合いが落ち着いたタイミングを見計らい声をかける。

 

「うぉお、ワリィワリぃ! ったく、沸点低すぎるんじゃねぇかケイナ?」

 

「うっさい!! 元凶が開き直るな!!」

 

 それを機にフォルテがなんとか2人の口論を切り上げ、こちらに顔を向ける。

 ケイナの裏拳を決められ続けた顔は……正直酷かった。

 

(子供が見たら確実に泣くな……)

 

 年齢制限が必要かも、と下らないことを考えつつ、当初の質問について改めて問う。

 

「まぁ、ひと稼ぎでもふた仕事でも内容を聞いてからだね……何を企んでいるんだい?」

 

 別段、フォルテを疑っているわけではないが、お調子者の印象は中々拭えない。

 なので悪気はないが、冗談混じりにそう尋ねる。

 フォルテもこちらの意図を理解したのか、再度『ニヤッ』という擬音の付きそうな表情で口を開く。

 

「なに、今日の賊はどうやら団体さんの一員だったらしいぜ? つまり……」

 

「近々、高札が出るみたい。それも騎士団が手こずっているみたいだし……まぁ、手こずってると言っても捜索が、らしいけど」

 

 勿体ぶるような口調のフォルテを遮りケイナが言葉を続け、問いに答えた。

 そんなケイナに向かいブーブー文句を言うフォルテであったが、流石に裏拳が堪えたのだろうか、ケイナが拳を握った瞬間に口を閉じて静まった。

 高札……つまり野盗集団の手配書が出るので一緒にどうだろうか? ということらしい。

 ちなみにこの野盗は街道に出没して商人や旅人を襲っている輩どものことである。

 聖王国が所持している軍『騎士団』も遠征などで野盗退治をしているのだが、今回の集団は騎士団から上手く逃れて襲撃を繰り返しているようだ。

 そのため、今回捕まえた野盗を尋問し根城を吐かせ次第、高札を出す方向らしい。

 

「そう、それなら僕も手伝うよ。街道に出没する以上、他人事ではないだろう。それにしても騎士団が手こずる集団相手に高札か……」

 

 フォルテたちのふた仕事のひとつに同意しつつ、疑問点について思考する。

 

「そんなに気になる? 役人も野盗を軽視してるんじゃない?」

 

 そうケイナが疑問に対して答えるが、疑問は晴れない。

 

「いや、被害が続いている現状、そんな温い考えは政治に影響が……あっ、そうか政治か」

 

 政治、遠回しに『蒼の派閥』に協力を仰ごうとしているのか、と考えついた。

 ひとつの仮説が浮かび、それに対して肉付けを行うことにより疑問点が晴れてくる。 

 

「街道に出没する野盗の退治ならば政治不干渉を貫く蒼の派閥でも大義名分が立つ……まぁ、建前だけどね」

 

「そういうことさ。まっ、オレらにとっては金になることには変わりないがな」

 

 この回答を予想していたのか、フォルテは淡々と言い放つ。

 蒼の派閥への非公式な協力要請、つまりは……

 

「お偉いさんの目的は『召喚師』への協力を仰ぎたいってことなのね……」

 

 どうやら高札の狙いというか、今回の思惑が見えてきたようだ。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 ――異世界の存在を呼び出し使役する法『召喚術』

 

 それはリィンバウムに隣接する4つの世界に存在するあらゆるモノを呼び出す魔法であり、それを行う者を『召喚師』と呼ぶ。

 例えるなら、ロレイラルは機械、シルターンは妖怪、サプレスは天使や悪魔、メイトルパの場合は魔獣など種類は無数。

 基本的にその世界に存在するものならば、術者の力量次第でなんでも呼び出すことができ、絶大な効力を誇る。

 そう、呼び出され使役される者の意志など関係なく……

 

 そして召喚師の集団が派閥という形式でリィンバウムに存在している。

 世界の理を知ること、という目的の学術機関『蒼の派閥』

 召喚術による利益を追求する、という営利目的の組織『金の派閥』

 様々な危険思考を持ち、時にはテロリズムにすら走る集団『無職もとい無色の派閥』と大きく分けて3派閥が存在する。

 その中のひとつ、蒼の派閥は政治への口出しを基本的に禁じている。

 逆に金の派閥などは政治経済と密接な関係であることは利益を求める理念上、容易に想像ができるだろう。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

「オレらが手柄を先に獲っちまえば、政治うんぬんなんていーだろ?」

 

 お偉いさんの考えなんて知ったことか、とフォルテ。確かにそれも真理であることに違いない。

 納得できる程度に表裏の目的を把握することができたので、この件は良しとする。

 これでフォルテが提案するふた仕事のうち、ひとつについて知ることができた。

 なので必然、もうひと仕事についてフォルテに尋ねる。

 

「ひとつ目は納得した。それでもうひとつは? こっちも中々に面倒ごとなのかい?」

 

「面倒ごとって貴方……あれだけの剣の腕を持ちながら何言ってるのよ? そんなこと言ったら私なんて自信なくしそうよ?」

 

「だな、しかも召喚術まで使えるんだから……そもそも大抵のことはオメーさんにとって大した問題じゃないだろうが」

 

 と、冗談混じりに厄介事かと言うと2人に馬鹿者と即答される。

 そう、2人との出会いでケイナを助けたり、倒した野盗を眠らせたのも召喚術である。

 自分が得意としている召喚術、幻獣界メイトルパの生物を召喚し、治療と催眠を施したのだ。

 だが、自身が召喚師であるかと尋ねられれば、答えは否である。

 何も召喚術は召喚師しか使えないわけではないのだから。

 召喚師の定義について思考していると2人が今日の野盗との戦闘について質問をしてきた。

 

「それにしても一体全体、その細腕でどうやったらあんな剣戟になるの? 野盗の大半は貴方が武器ごと吹き飛ばしたじゃない」

 

「だな、下手したらオレより力あんじゃねーの? あれも召喚術か何かの応用なのか?」

 

 2人が問うのは今日の野盗戦での剣技について、見た目にそぐわぬ剛剣は一体どういう絡繰りなのか、ということだ。

 ハッキリ言ってしまえば、自分は比較的に華奢な分類であり、剣の一振りで相手ごと吹き飛ばすような腕力はない。

 一応、切り札のひとつではあるので容易に口にすることでもないが、厳重に秘密にすることでもないので簡潔に仕掛けを教えることにする。

 

「ああ、アレは魔力運用の応用だよ。インパクトの瞬間に剣から魔力を放出して威力の水増しを図っているんだ」

 

 召喚術に対する防御の術として『魔抗』と呼ばれる技術があり、魔力放出はそれの応用だ。

 魔法攻撃と呼ばれる召喚術を始めとする魔力を伴う攻撃に対して、インパクト時に自身も体外に魔力を放出することにより、その威力を軽減させる技術だ。

 数値換算すると通常の3割減といったところだろうが、瞬間的な魔力放出量や魔力の絶対量など個人差があるため、一律な数値ではない。

 

(ははっ、魔抗を習得出来るまでひたすら吹き飛ばされたっけ……正に痛みから学んだ結果だよね)

 

 苦い思い出だ、と嘆きながら苦笑いをしているところ、更にフォルテが問いを続けてきた。

 

「それにあの脚捌きと剣の振りはトライドラのか?」

 

 そしてフォルテの言葉に少しばかり驚いた。

 

「へぇ、よくわかったね……基本はトライドラの流れだけれど、結構アレンジ……というか魔力放出の件を考慮して調整しているのに……」

 

 トライドラとは聖王国と旧王国との国境付近に位置するスルゼン砦、ローウェン砦、ギエン砦の三砦を持つ騎士国家の総称であり、『聖王国の盾』と呼ばれる防衛の拠点である。

 また、トライドラは聖王家に仕える騎士たちの育成もしており、有名無名問わず沢山の騎士たちを排出している。

 そしてトライドラ式の剣術とはそこの主流とも言える剣術である……が、自分の場合は戦闘スタイルに合わせて独自のアレンジを加えているため、亜流に近いと言える。

 たった一見だけで本流を見抜くフォルテの観察眼と知識に驚いたのである。

 

「まっ、昔に少ぉ~しばかり、かじったことがあってな……」

 

 トライドラ式の正式な手ほどきは、ただ一介の冒険者風情が学ぶことができる剣術ではない……しかし、フォルテの『それ以上は問わんでくれ』という雰囲気に踏み込むのをやめる。

 他人に歴史あり……少なくとも今はギブアンドテイクの間柄であるし、さして重要事項でもないのでさっさと切り上げることとする。

 

「もうなによ、2人だけでわかった風に……まっ、漠然とウィルが凄いってことはわかったわ」

 

 ついつい話に乗れなかったケイナが口を尖らせるかのように結論付ける。

 自分からしたら『長年の努力結果』であるため、凄いかと言われると少々引っかかるのだが。

 

「いや、フォルテも剛剣といっても過言じゃないし、一冒険者としては十分逸脱しているよ。勿論ケイナ弓術も」

 

 戦いの最中、2人の戦い方を少しばかり眺めたが、かなり上位の騎士たちにも引けをとらないだろうと思う。

 そして問われて答えたのなら、こちらも質問する権利くらいあるだろう、と好奇心でケイナの弓について尋ねることとする。

 

「ケイナの弓はシルターン独自の流れなのかな? リィンバウムの弓術とは若干クセが違うみたいだし……」

 

 昔見た弓使いのソレと違って見えるなぁ、と軽い気持ちで問いかけるとケイナは大きく目を見開き、驚愕という言葉が似合う表情となった。

 

「えっ、もしかして違ったかな? その服装からシルターン出身の……おそらく鬼道の巫女辺りかと思っていたんだけど……」

 

 鬼妖界シルターンは、基本的に野は人の領分、山は妖怪の領分として暗黙の了解がなされており、問題が起きた場合は、龍神や鬼神に仕える『道の者』と呼ばれる宮司や巫女が間に立って仲裁する、という独特の文化があるらしい。

 らしいというのは実際に見たわけではなく、シルターン出身の知人から教わったからである。

 特にケイナの恰好は知人のソレに良く似ているため、そう思い込んでいたのだが……まずいことを尋ねてしまったのだろうか、と内心焦りながらフォルテに目配せする。

 

「いや、ウィルが思ってるようなことじゃねーんだなコレが……実はコレがもうひと仕事の内容でよう……」

 

 先ほどまでと変わって声のトーンを低くめたフォルテが語る言葉を聞く。

 出会ってから初めて見る真面目な表情であり、何事かと身構える。

 そしてフォルテから告げられたケイナの現状と過去。

 

「――記憶喪失なんだよケイナは……」

 

 想像以上に厄介事だ、と関わったことに少しばかり後悔せざるを得なかった。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

「治療費と『レルムの聖女』、か……」

 

 2人と別れ、宿を取り一息つく。

 そして窓から夜空に浮かぶ月を眺め、物思いにふける。

 思えば遠くまで来たものだ、と。

 

「帝国各地を巡って得られた情報は聖王国か……はぁ、一体どこまで行ったのさ」

 

 先刻のフォルテの話はさておき、自分自身のことについて思いかえす。

 故郷と呼べる地を出て、帝国各地を巡り、古い知り合いから得られた情報が聖王国方面、ただそれだけ……

 深く溜息をつき、もう一度夜空に浮かぶ月を眺める。

 

「せめて同じ月が見える空の続く場所であることを願うよ、本当に……」

 

 そして手に持った緑色の宝石、契約済みのサモンナイト石に触れ、魔力を込める。

 眩い光が放たれ、収束していき現れたのは……

 

「――みゃみゃっ!」

 

 二頭身、メガネ、二又尻尾を持った……ネコらしき生き物。

 否、メイトルパの召喚獣である。

 

「夜遅くに悪いね『テコ』、今日も収穫なしだったよ……」

 

「みゃぁ……」

 

 召喚獣『テコ』がウィルの言葉に落ち込むようなリアクションを取る。

 萎れた尻尾がそれを物語っている。

 

「まっ、聖王国も広いから諦めないよ、皆には未だかかりそうだ、と伝えておいて」

 

「みゃぁ……みゃみゃっ!!」

 

 長い付き合いからだろうか? 言語は違えど互いのことは理解し通じ合えている。

 

(思えばテコと出会ってからもう……ははっ、僕も老けたな)

 

 出会ったのはそう、自分が未だ少年(こども)と呼べた時代(とき)のこと。

 異常時というか、緊急時というか、決して普通の出会いではなかったが、強い絆で結ばれて過ごしてきたのには違いない。

 界を超えた絆、少なくとも信用や信頼よりも遥か上位のモノであると自負している。

 

「うん、ありがとう。そうだ、今日くらいは一緒に寝ようか? まだまだ帰れそうにないしね」

 

「みゃっみゃっみゃぁ~」

 

 テコを抱きしめ、ベットに横たわる。

 思った以上に疲れていたようで、すぐに眠りに落ちた。

 そして、夜が更けていく。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 例えるなら……そう、今の自分は夜そのもの。

 しかし、明けない夜なんてないのだから、きっと新しい朝を、輝く太陽を迎えられる。

 今は少し夜が長いだけ、太陽が拗ねているだけ。

 だから迎えにいくのだ。

 皆の大切な太陽を、そして僕だけの特別な朝を……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-おまけ(サモ2の主人公サイド)-

 

 ――古き英知の術と我が呼び声によって、今ここに召喚の門を開かん

 

 まるで呟くように、されど声を高らかに己が存在を語るように、そしてどこか嘆くように青年は謳う。

 

 ……たとえ自分自身で人生(みち)を選んだこともない矮小な存在と理解していても。

 ……自分自身の在り方が万人に理解されないとわかっていても。

 

 ――我が魔力に応えて異界より来たれ

 

 青年の身体から迸るように魔力が溢れ、異界との境界を捻じ曲げる。

 

 ……産まれも定かではない成り上がりと周囲に貶されながらも、それでも前を向いて生きてきた。

 ……自らの魂に間違いはないと、恥じることなく視線を向けて生きてきた。

 

 ――新たなる誓約の名の下にマグナが命じる

 

 それは自分自身が儀式の理そのものだという証明、己を存在を楔に異界との扉を開く。

 

 ……俺はここにいる、今もここにいる、この人生(みち)を歩んできたのは間違いなく自分自身なのだと。

 ……万人に理解されずとも、他人に否定されようと、俺自身の理想を貫くのだと。

 

 ――呼びかけに応えよ……『俺の嫁』よ!!

 

 光が集い、暴風が吹き荒れる。

 そして術者の言霊に従い、繋がった門より異界の存在を、『望んだ者』を呼び寄せる……ハズだった。

 

「――呼ばれて飛び出て即参上、軒轅陵墓から良妻狐のデリへ……じゃなかったデリバ「はい、ハズレェェェェ!? 狐耳はグッドなんだけど妙齢すぎぃぃぃぃ!!!?」うぇぇぇぇ!? なんですかぁぁ!? このマスターってば変態ですかぁぁ!?」

 

 ――召喚師見習いのマグナ、彼の野望はロリっ娘ハーレムだとか……

 

 

 

 


 
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