episode138 恐怖と言う本音
「しかし、よくもまぁ第三形態移行なんかやってのけたものだな」
「えぇ」
戦闘が終わった後隼人と千冬は第二格納庫で第三形態移行した白式・雪月花を調べていた。
一夏はあの後命令違反などや、無理して出撃し、死に掛けた事から千冬さんより半分切れた状態で説教を受けた。本当であれば謹慎ものだが、今の状態からそんな事を言っていられるものではないので、拳骨と言う処罰を受けてチャラになった。
その後一夏は早く目を覚ました箒の元に向かった。どうやら守ってやれなかった事を悔やんでいたが、箒は一夏を許した。
束がまだ帰ってきて無いので隼人が代わりに白式・雪月花の調査をして、リインフォースとツヴァイも手伝っていた。
「しかし、あいつが知ったら発狂するぐらい喜ぶだろうな」
(発狂する束さん・・・ちょっと見てみたい・・・って言っても近い事を常にやってるか)
そんな事を思いながら調査を進める。
「それで、何か分かったのか?」
「まだ完全ではないですが、それでも凄い事が分かりましたからね」
「して、それは?」
「まず第三形態移行によって新たに発現した武装ですが――――」
と、隼人は投影型モニターにそれを表示させる。
「遠隔操作攻撃ユニット『雪牙』。基本格闘戦をこなすビットと言う感じです」
「ふむ」
「他にも組み合わせる事で砲撃を行え、シールドを張れる。言うなれば射撃が行えるCファンネルと言った所です」
「なるほど。それがモデルになっていると推測するか?」
「そうですね。後はセシリアのブルー・ティアーズの機能を取り入れたって所ですね」
「そうか」
「で、次は雪牙に似たような武器『ソードビット』」
「似ているようで違うのか?」
「雪牙は固体ですが、ソードビットはエネルギー体で構成されたものです。ナノマシンを含ませた粒子で構成される事でコントロールを可能としたものみたいです」
「・・・・」
「切ると言う攻撃方法の他、パイロットの任意でソードビットを爆破させる事ができるようです」
「つまり・・・動くリモート爆弾と言った所か」
「ぶっちゃけ言えばそうですね。まぁこれほど物騒なリモート爆弾は無いけど」
「かもな」
「次に両腕に内蔵されたユニットですね」
「不知火は完全に損失していたはずだぞ」
「現物は残ってないけど、データは残っていた。そして白式は今までの戦闘経験から瞬時に機能を変えるには腕に内蔵すると言う結論を出したようですね」
「確かに一々変形させずに済むな」
千冬は目の前で独立展開されている白式・雪月花を見る。
「ISは戦闘経験とパイロットに合わせて進化する。まさにその通りだな」
「・・・・」
「凶器の指にリフレクター、それに射撃武器の内蔵。まさに隙の無い配置だな」
「それに加えて、掌にフィールドを張ることで相手がエネルギー刃の武器で振り下ろしてきても白羽取りが出来ると言う・・・」
「さすがの私でも驚きの機能だな。まぁ案外現役時代でもそういう機能があれば楽だったかも知れんな」
(白羽取りで受け止めるって、マジで他の国に勘違いされる所だな。って、何で羨ましそうに言うんだ)
千冬さんの事だから仮にあったら絶対使っている。
「後は『白雷』と呼ばれる背中に搭載されたキャノンと、両肩に搭載されている『白風刃(はくふうじん)』と呼ばれる投擲武器です」
「以前よりかなり多くなったな」
「えぇ。で、最後は雪片零式が強化された最終形態・・・『雪片神型』」
「『かみがた』と呼ぶのか?」
「それもあるんですが、俺は『かみのかた』と呼びますね」
「なるほどな」
「カートリッジシステムは残っているんですが、零落白夜の供給源が本体に戻っていますね」
「第一形態の時と同じようになったか。しかしなぜわざわざ戻ったんだ?」
第二形態時はカートリッジのエネルギーで零落白夜発動のエネルギー源としていたのだが、第三形態ではなぜか第一形態の時と同じ本体のエネルギーに依存するようになった。
「たぶん・・・これがあるからと思います」
と、隼人はモニターに表示されているものに少し強張った表情を浮かべていた。
「これは?」
千冬はそれを見て眉を顰める。そこには謎の機構が表示されていた。
「エネルギーの燃費も第二形態よりかなり悪い。普通なら数分持つかどうかの瀬戸際ですね」
「何だと?そんな状態でなぜあの時・・・」
「普通なら、ですがね」
「どういう事だ?」
「これを見てください」
と、隼人が指差す所には、その謎の機構があった。
「何だこれは?」
「・・・俺の推測が正しければ・・・・・・恐らく無限動力機関です」
「何・・・?」
千冬は驚愕の表情を浮かべる。
「お前でも冗談を言うのか?」
「それは無いですよ。それはともかくとして、そうとしか思えない・・・機構を持っているんですから」
隼人は次にその機構の詳細を見せる。
「ISが起動時は常時稼動してエネルギーを生成。上限を超えても増え続ける」
「・・・・」
「あえて燃費が悪くなって、零落白夜を本体エネルギーに依存させたのは、増え続けるエネルギーを消耗させる為です」
「だが、なぜ白式がそんな未だ世界でも理論すら立ってない物を作り出したんだ?」
「・・・恐らく白式のGモードと、紅椿の単一能力『絢爛舞踏』・・・その二つが元になっているでしょう」
「・・・・」
「しかし出力調整が出来ないようで、大量のエネルギーを作り続けます」
「・・・・」
「エネルギー上限を超えてエネルギー負荷を起こします」
「・・・それで、どうなる?」
「熱暴走を起こし、強制停止することになりますね。しかし最悪暴走すれば・・・自爆します」
「・・・・」
「全く想像が付きません。暴走時のエネルギーがどれほどのものになるか」
「・・・・」
「少なくとも、そんじょそこらの爆発など比べ物にならないぐらいの爆発にはなるでしょうね」
「・・・・」
そんな白式に乗り続ける事になる一夏の事を思い、少し表情が重くなる。
「・・・出力調整が出来ない無限動力機関。これほど重大で、危険な欠陥を持つ・・・そんな力を白式は持ってしまった」
「・・・・」
「少なくとも、二つの意味で最強ですね」
「あぁ、そうだな。束もお前と同じ事を言うだろうな」
「でしょうね」
「それで、臨界点までどのくらいの時間がある?」
「エネルギー上限は以前よりかなり上がっていますが、それでも何もしなければ最大で三十分。それまで常にエネルギーを消費しても、一時間」
「・・・・」
「零落白夜でようやくエネルギーの生成と消耗の比率が合います。でも零落白夜は常時発動はできません」
「どの道稼動限界点があるという事か」
「えぇ」
「皮肉な物だな。以前は燃費の悪い白式がエネルギー切れで行動不能になると言うのに、今度はエネルギー負荷で行動不能に陥る。逆のパターンとなったな」
「そうですね」
「・・・第三形態移行。白式だけが異常なのか?それとも、これほどの力を得るものなのか」
「分からないものですね」
「あぁ」
「とは言っても・・・驚く事はこれだけじゃないんです」
「なに?無限機関があるだけで十分驚いたぞ。なのにそれ以上があると言うのか?」
「えぇ。ほぼ同率の驚き・・・でしょうね」
「・・・・」
「本当に何が起きているのか、俺にもさっぱりです。束さんでも、分からないでしょうね」
「何が・・・?」
「・・・コアが・・・二つに増えています」
「なに?」
「それも同調しています・・・かなり・・・高い率で」
隼人はモニターにそれを表示させると、そこにはコアらしきものが二つ映っていた。
「どういうことだ?無限機関だけならず、自らコアを生成するだと?」
「恐らく強大な力を得た白式の制御をするために、でしょうね」
「・・・・」
「それか、他の何かの為か」
「・・・・」
「これ以上は俺でも未知の領域。後は束さんに任せます」
「あいつでもこれが解明できるか分からんぞ」
「かもしれませんね」
「白式の事は束に任せる。いいな」
「はい」
「・・・ならば、お前に聞きたい事がある。いや、当の本人達に聞いたほうが早い、か」
『・・・・』
『・・・・』
と、千冬は隼人の後ろに立つリインフォースとツヴァイを見る。
「聞いたところでお前達の事を口外するつもりは無い。だが、私とて人の子だ。興味や疑問を持つ」
「・・・・」
「・・・お前達二人は・・・・・・一体何者だ」
『・・・・』
『・・・・』
「分かりました。全てを・・・話します、千冬さん」
「・・・・」
「それでいいな、二人共」
『えぇ。もういい頃でしょう』
『はいです。もう隠すのも限界でしょうね』
「・・・・」
隼人は千冬に向き直る。
「・・・彼女達は――――」
そうして隼人は千冬に話した。
二人の正体を・・・作られた目的を・・・
「・・・・」
それを聞いて千冬は静かに唸る。
「つまり、彼女達は・・・生きるISと言った所です。今の姿がISで言う待機状態になります」
「そうか・・・」
『・・・・』
『・・・・』
「人間とISの融合・・・そんな事が出来るとはな」
「・・・・」
「それを聞ければいい。一つだけ疑問が晴れた」
「そうですか」
「だが、まだ疑問が全て解消されたわけじゃない。いずれかは晴らさせてもらう」
「その時が来れば・・・ですがね」
「ふん」
そうして千冬は隼人から離れて格納庫を出た。
『これで・・・良かったのでしょうか?』
「もう瀬戸際の所だった。良かったんだ、これでな」
『・・・・』
『でも、隼人さんの事を言わなければならない時が・・・近付いているんですよ』
「そうだな。まぁ、いずれ話さなければならない時が来る。分かってはいたことだ」
『・・・・』
「最も、こんな事にならなければ・・・言う必要も無かったかもしれないな」
『・・・・』
「覚悟は決めるさ。俺だっていつまでも隠し通すのは無理だ。この状況となればな」
『そうですね』
『はいです・・・』
「・・・なぁ、リインフォース」
『何でしょうか?』
「・・・少し・・・二人で少し話せないか」
『え?』
リインフォースは少し驚く。
「ツヴァイには悪いが、席を外してくれ。リインフォースと二人で話すことがある。それと、箒の様子を見て来て欲しい」
『わ、分かりました』
ツヴァイはそのまま二人を後にして格納庫を出た。
『そ、それで・・・話とは?』
格納庫で二人っきりになってリインフォースは戸惑う。
「ちょっとした・・・相談事だ」
『相談事?珍しいですね」
「まぁな・・・正直、お前にしか・・・話せない事だ」
『一体・・・何を・・・?』
「・・・本音だ」
『・・・・』
見れば隼人の表情が暗い。
「・・・本当の所は誰にも・・・俺の正体を知って欲しくは無い」
『なぜ?』
「面倒にな事になる。接しづらくなる。それもある。だがそうじゃない・・・」
『・・・・』
「最も言えば・・・俺は・・・怖いんだ」
隼人は少し震えていた。
『・・・・』
リインフォースはその隼人の姿を見て、どう言ってやればいいのか迷った。
そもそもを言えば、こんな隼人を今まで見た事が無い。
「本当の事を言って、俺の正体を知ったら・・・あいつらはどんな反応を見せるか・・・それが恐ろしいんだ」
『・・・・』
「化け物のように見るか。ただの機械人形として見るか。俺はどう見られても良いんだ。ただ・・・」
『ただ?』
「・・・俺を・・・恐れて遠ざかってしまう。それが・・・一番怖いんだ」
『・・・・』
「簪も・・・俺の事を恐れて・・・遠ざかってしまうんじゃないかって・・・思う時があるんだ」
見れば感情が高ぶって隼人の瞳の色が金色に変化していた。
『・・・仲間から・・・遠ざかれてしまう。それが・・・恐ろしい、と』
「あぁ。あいつの言う通りさ」
『・・・・』
隼人が言うあいつ。それは隼人自身の闇だ。白いバンシィと共に居た・・・闇の自分・・・
「俺は仲間を失うのが怖く、裏切られるのを恐れている。脆弱なやつさ・・・俺は・・・」
『・・・・』
「バインドとの戦いで、誰かが死んでしまうんじゃないかもしれない。それが一番・・・嫌なんだよ」
『隼人・・・』
「もう・・・誰も傷つけたくない!失いたくない!それ以前に俺の前から居なくなってしまうのが・・・一番嫌なんだよ!」
『・・・・』
「誰だって仲間や友達、大切な人を失うのは怖いさ!俺だってそうだ!」
『・・・・』
「だが、守り切れる・・・保証など無い。そもそも絶対と言う保証なんて無い」
隼人は俯き震える。
「そう思わなければこうも嘆かなくていい。そりゃそうだ。俺だってそうしたいさ!悩まずに済むよな!・・・でも、重荷を持つ者はそれが出来ない」
『・・・・』
「今も・・・簪がどうなってるか。考えただけで・・・胸が裂けそうなんだ」
『・・・・』
「俺は・・・俺は・・・」
『・・・・』
リインフォースはゆっくりと近付くと、そっと隼人を抱擁する。
『そこまで・・・苦しんでいたんですね』
「・・・・」
『隼人の気持ちは・・・十分に伝わります。不安や悲しみ、怒り、焦りが・・・』
「・・・・」
『私も・・・隼人を失うのが・・・怖い。またあの時の様に・・・私の前で死んでしまう・・・あなたを見るのが・・・』
リインフォースは涙を流した。
「・・・・」
『隼人だけではありません。誰でも、大切な人を失うのは・・・怖いです』
「・・・・」
『だからこそ、戦わなければならない。守るべき者の為に・・・』
「・・・あぁ。この命が朽ちる事になっても、俺は・・・みんなを守りたい。大切な人を・・・守りたい」
『私も・・・自らが望んだ使命を・・・ユニゾンISとして・・・あなたを守ります』
「・・・・」
『だから、迷わないでください。自ら進む道を・・・進むべき道を・・・』
「・・・あぁ」
二人はしばらくそのままの状態でいた・・・お互いを優しく抱擁して・・・
その頃――――
「いやぁ、ちゃんと出来てるねぇ♪」
と、束は嬉しそうにそれを見ていた。
「こんなものをよく作っていたな」
隣でそれを見ていたアーロンはため息を付く。
二人は世界のどこかにある束の秘密ラボに来ており、そこで作られていたあるものを取りに来た。
「よくこいつを作る資材や資金が出たな」
「そりゃちょちょいと脅して手に入れたよ」
「・・・・」
「もちろん冗談だよ?アーロンがコツコツと材料を集めてくれたお陰だよ」
「そうか。と、言うより、本当にあれをベースに作ったのか?」
「そうだよ。アーロンが色んな伝を使って処分される予定だったあれをベースに丸っきり改装したってわけ」
「相変わらず凄い事をやるな。だが、全くベースとなった物の面影が無くなったな」
「まぁ仕方が無いよね。ISの技術を応用し、私が詰めるだけの技術を詰め込んで改造した物だよ。元の形状なんか残らないよ」
「・・・そういや、お前が作った中じゃ一番でかいな」
アーロンは見上げるように白いそれを見る。
「まぁでも、これがあれば・・・できるよね?」
「あぁ。これでようやく一歩を踏み出せる」
「そうだね」
「今から準備に掛かる。フェイ、フィア」
「「はっ!」」
アーロンの後ろに居た二人はすぐに準備に入る。
「くーちゃんもお願いね」
「かしこまりました」
そうしてA、S10は二人の後についていく。
「これで、あいつらへの反撃の狼煙の準備が整ったね」
「あぁ」
そうして二人は目の前にある白い大きな物を見る。
それは反撃の狼煙となりうる方舟となるか・・・
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