EP1 目覚める英雄
和人Side
重い瞼をゆっくりと開いた。見慣れない白い天井、病院だとすぐに分かる。
頭に被っている破壊の兜を脱ごうと腕に力を込めるとかなりの苦痛が伴った。
全身の節々が痛む、ペインアブソーバーの影響だろうから仕方があるまい。
痛みに耐えながら上体を起こし、腕を上げてナーヴギアを外した。
病室内も外も暗く、夜であることを物語っている。
そのまま外を眺めていると、雪が降り始めた。
彼女は今ここに向かっているのだろうか?
そんなことを思ったまま外を眺めていると……、
―――ゾクゾクゾクッ!
「ぐっ!?」
異常なまでの強烈な『覇気』を感じ取った。
怒気と殺気も混じっているし、この覇気を考えるとなると……師匠か! だが、なぜ師匠が…?
まぁ、今はそれを考えても仕方が無い、何かが起きているとだけ考えていればいいか…。
その時だった…、
「キリト、くん…」
あの世界の名前を呼ばれた気がして振り返ると、そこには最も愛しいと想う女性がいた。
「アスナ…」
驚いたあとに出来るだけの笑みを浮かべてあの世界の彼女の名前を呼んだ。
ベッドの側に歩み寄ってきたアスナはベッドに座ると涙を流し始めた。
俺は痛みを堪えながら右手を彼女の頬に添えてから涙を拭った。
「何か、あったのか?」
「大丈夫だよ…。最後の、戦いが…終わったの…」
掠れる声で尋ねてみるとそう答えたのが伝わってきた。
俺自身まだほとんど聞こえていない、感じ取っているのだ。
先程の師匠の覇気、そこから俺は察した……あの男が現れたのだろう。
だからこそ彼女は震えているのだ…。
「ごめん…。まだあまり聞こえないけど、でも……分かるよ、アスナの言葉が…。怖かっただろ…?」
俺は出せる限りの声で彼女を優しく労ったつもりだ、自分の声も聞こえないとはな…。
「これが、本当の始まりだから…。はじめまして、結城明日奈です……おかえりなさい、キリトくん…」
「桐ヶ谷和人です……ただいま、アスナ…」
俺達はこの現実世界で再び出会い、もう一度お互いの名前を伝えた。
涙を流す明日奈、俺も涙を流しているだろう…。
そして俺達は唇を重ねた。
少し離して、もう一度軽く、それでいて強くお互いを抱き締め合いながら、再び重ねた。
それから5分ほどの間、彼女と抱き締め合っていたがドアがノックされた。
「結城さん、そろそろ時間が……っ!? い、いますぐドクターを呼んでくるわ! あ、あとご家族も!」
何かバタバタとしていたが、俺が目覚めたからだろうか?
明日奈は苦笑しており、俺に向き直ると再び抱き締めてきた。
「みんなが来るまで…///」
「あぁ…」
甘えたがる明日奈の心が分かり、彼女の好きなようにさせてあげた。
廊下をパタパタと走る音が聞こえてきた、ナースがドクターを連れてきたのだろう。
明日奈は名残惜しそうに俺から離れ、病室内にドクター達が入ってきた。
そして簡単な診察が始まった。
「どこか優れないところはありますか?」
「強いて言うなら全身に痛みがあります。あとは音もあまり聞こえませんけど、それくらいですね」
「あの、音が聞こえないんですよね…?」
体の調子を聞かれたので答えると疑問を覚えたようだ。
あぁ、音が聞こえないのに答えたからか。
「読唇術が使えますから唇の動きが分かればなんとか…」
「「「………」」」
俺の返答に驚く明日奈とドクターとナース、普通は読唇術なんて使えないからな。
しかしドクターは気を取り直して俺の診察を続けた。
明日奈はその間に車で待ってもらっているお手伝いさんに連絡を入れにいった。
外には赤い光が点滅している、警察が到着したのだろうがそちらは師匠に任せておこう。
そして病室に戻ってきた明日奈の側には初老の女性が居り、俺に深々と頭を下げてきた。
この女性がお手伝いさんだと思われる。
さらにそこにドアが開いて3人の人が入ってきた。
「っ、和人!」
「お兄ちゃん!」
「和人さん…」
母さんとスグ、刻だった。
母さんはベッドの側に来て俺を抱き締め、スグは俺の手を握り締めながら泣き出した。
刻も涙を流しながらそれでも笑みを浮かべている。
「よかった、よかった…!」
母さんも泣きながら俺の頭を撫でてくる、また涙が流れてきた。
家族の温もりが唯々嬉しかった。
ドクターは俺達の様子を見て、明日詳しく検査をする旨を伝えるとナースと一緒に病室から出ていった。
少しの間、家族の温もりを感じた後、俺は刻の方に向き直った。
「刻、須郷がどうなったか分かるか?」
「……師匠が一撃で倒して気絶させてから先程警察に連行されたっす。
暴行未遂の現行犯で逮捕になったっすけど、間違いなく余罪が付くっすね。
時間も時間っすから、明日奈さんは明日事情聴取を受けることになると思うっすよ」
「そうか、ありがとう…」
彼からの報告を受けて肩の荷が下りた気がした。
これで明日奈の安全は確保されたも同然だからな。
「お兄ちゃん、体はどれくらい痛いの? ペインアブソーバーっていうので、凄く斬られてたけど…」
「正直、全身が痛い…。痛みで眠気が来ないくらいに…」
スグの問いかけに正直に答えておく。
余裕な態度の多い母さんに珍しくオロオロとしているが、とりあえず大丈夫だと伝えた。
みんないるからもう少し話していたいというのもあるけれど、それは内緒だ。
ああ、そうだ……もう1つ聞いておこう。
「刻…」
「はい…」
「お前に直葉を守れるのか?」
真剣に問う俺の雰囲気にみんなも固まる。
刻は一度目を瞑ってから開き、俺に視線を合わせて宣言した。
「この命ある限り、永久に…」
「(ニヤリ)……なら、頼んだぞ」
決して揺らがない瞳に宿る炎、十分に任せられるな。
俺は笑みを浮かべながらそう言った。
刻も直葉も笑顔になり、明日奈とお手伝いの女性も微笑み、母さんは混乱していたが事情を理解すると喜んでいた。
いずれは親父が待っているが、それはこの際気にしない…。
「それじゃあ、今日は取り敢えず帰るわね…。明日また来るから」
「お兄ちゃん、おやすみ」
「おやすみなさいっす」
「あぁ、おやすみ…」
母さんはスグと刻を連れて帰っていった。
さすがに深夜であるし、ゆっくりと休むように言われた。
明日奈とお手伝いの女性(橘さんという)もそろそろ帰るとのこと。
明日奈はもう少し居たいと言っていたが、俺が宥めると渋々了承した。
橘さんがでていくと明日奈は俺に近づきキスをしてきた。
「明日、必ず来るからね…///」
「待っているよ…」
彼女も病室から出ていった。
体の痛みは不思議と引いており、眠気がやってきたので、
俺は再び訪れる明日という一日に想いを馳せながら眠りについた。
和人Side Out
To be continued……
後書きです。
改めまして、『ALO~閃姫After story~』が始まりました。
和人が目覚めたシーンから始まり、このまま続いていくことになります。
主に空白期間を書くことになりますね。
和人が目覚めた直後から5月のあの学校風景までの間、
さらには『新生アインクラッド』の攻略風景やGGO編までの間、
さらにさらに公輝と雫の馴れ初めも明らかにします。
皆さん、是非ともお楽しみに♪
それではまた・・・。
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ついに始まりました、『ALO~閃光の妖精姫~』の続編『ALO~閃姫After story~』。
今回の物語は和人が目覚めた直後から始まりますよ。
それでは、EP1をどうぞ・・・。