No.557700

PEACE ENDS 序章~第1話

初めて本気で書いた小説。ジャンルはSFファンタジーだと思いますw インターバルは長め。一人称視点の長編小説です。気長に続きの投稿は待ってください。※一部残酷描写をする予定です。表紙が描けたので再投稿しました。

2013-03-21 22:44:01 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:464   閲覧ユーザー数:464

PEACE ENDS

        ∻平和の終わり∻

 

   

~プロローグ~:最後の記憶:

 

 

――生きてる?…何故かはわからない……

 なぜ…生きている……ボクは、確かに死んだはず…――

 

 ボクにはわからなかった。ここがどこで、自分が誰なのかも……

 だが、これだけはわかる。今はそんなことを考えている暇はないということだ。今ボクに見えているのは鋭くとがった歯と、真っ赤な口…そしてそこから滴る粘度の高い唾液だった。このままではきっと…いや、こんどこそ天に召されてしまうだろう。

――カツン――

妙に響く金属音…反射的に体が動いた。ただ垂れ下がっていただけの右手が肩まで上がり、そのまま背中に伸びた。一瞬だった。右手に力が入り、背中にある物を掴むと、ひといきにそれを目の前の赤い闇にねじ込んだ。赤い闇からはやはり赤い液が溢れ出し、ボクの視界を奪った。次には鼓膜が破れそうなほどの轟音…。それが最後の記憶だった。その轟音に耐えきれず、ボクは深い闇におちた…。

 

 プロローグ END

 

   

~エピソードⅠ~:記憶の消失:

 

「はっ…」

 目覚めたのは小さなベッドの上だった。そこは知らない部屋だった。太い丸太を組み合わせて建てられた小屋のようだ。小さく切り取られた窓からは、明るい陽光が飛び込んで、部屋をある程度まで明るくしてくれていた。辺りを見わたすと、食器棚や調理台、暖炉等の様子から誰かが住んでいるのだろう、と予想した。部屋の真ん中には、脚の長いイスと円いテーブルがあり、その上に花がいけてあった。薄い青の一輪の花だ。

「いてっ…」

 ベッドから起き上がろうと力を入れると全身に激痛がはしった。体のあちこちに包帯が巻かれているが、幸い怪我は酷くないようだ。何とか起き上がろうと試みるが痛みには勝てなかった。仕方なくあきらめると、なぜ自分がこんなところにいるのかを整理してみることにした。最後の記憶…あれはなんだ?全身が痛いが思考は冴えている。あの金属音は何の音だろう…記憶と同じように右手を動かしてみる。

(……うーん…わからない…何か硬くて長いものだったような……)

たったこれだけの動作でもかなり腕が痛む。とりあえずここは安全だろうと思うことにして、再び眠りにつこうとした…が、きぃぃという、木がきしむ音が聞こえた。部屋に少しひんやりとした空気と、今度は相当量の光とともに、人がひとり入ってきた。少女のようだ…たぶん。灰色の一枚の厚手の布で作られた、裾の長いコートを羽織っていたその人の顔は、フードのようなもので隠れ、よく見えなかった。だがその歩き方や、やや長い前髪からそう見えたのだ。そして彼女は実際、少女だった。

「ふぅ…今日は寒いなぁ……」

 彼女はそうつぶやくと、手に持っていたかごを調理台そばの小さな机に置き、じっとみつめているボクに気が付いた。彼女は少し驚き、それから微笑んだ。

「おはよう。よく眠れた?」

 彼女の声は高く澄んでおり、それほど大きくはないその声も、この距離ではっきり聞き取ることができた。

「あ…はい……あの、ここは何処ですか?」

 ボクは質問に答え、そして質問した。まずはそれを知りたかった。というかそれ以外に今は興味がなかったのだ。

「ここは、マズの村よ。リーズノフ大陸の東のすみっこにある村なんだ。海が近いから潮風が気持ちいいの。塩害には困るけどね。包丁とか、すぐにダメになっちゃう…。でも、夕方になると夕日がとても綺麗で、夜には空にたくさんの星々が瞬いて、とっても素敵なのよ」

 彼女は嬉しそうに答えた。マズの村…リーズノフ大陸……どちらも聞き覚えがない。いや、記憶がないだけなのか…。

――ぐぅ…――

無音の空間に響き渡ったそれは、ボクのおなかの音だった。2人きりの部屋のなかで、おなかが鳴るというのは実に気恥ずかしいものだった。

「あら?うふふ…おなかが空いているのね。ちょっと待っててね。今採れたての新鮮なお野菜で何か作るから」

 彼女はそう微笑んで、さっき置いたかごの中から、まだ土のついた茶色い根菜類らしき野菜を何本か取り出して、調理台へ向かった。

「それは?」

 ボクが聞くと彼女は振り返り、よくぞ聞いてくれましたとばかりに笑顔で答えてくれた。

「これ?これはね、この村の特産品のデップリコンよ。煮たり、蒸かしたりして食べるとおいしいの。今から、このデップリコンでシチューを作るからね。少し時間がかかると思うから、今のうちにもう少し休んでおいたほうがいいわ。まだ…痛むでしょ?」

 そういうと彼女は、金属製の…かるく十人分は作れるのではないか、というほどの大きさの鍋を持ち出してきた。それを調理台の横にある土で作られた土台の上に置き、その下で火を点けはじめた。火打石のこすれる音が何度か聞こえ、彼女の手元が明るくなった。そうしてできた火種を炎へと成長させ、土台の横に積み重ねられた薪を使い、その炎をさらに大きくしていった。手慣れた手つきだった。薪が燃えるパチパチという静かな音を聞きながら、今度こそボクは眠りについた。

 

 もう日が落ちてからだいぶ経つ。部屋は燭台に灯るろうそくの火のおかげで、昼間とさほど変わらない明るさに保たれていた。昼間はついていなかった暖炉がつけられ、それなりに部屋は暖かい。だが、彼女はまだフードを被ったままだった。

 もう、夕食を食べてから小一時間ほど経つ。彼女の作ったシチューは絶品だった。デップリコンなんて初めて食べたが、あのほくほくした触感はまるでいものようだった。他の野菜との相性は抜群で、味付けも丁度良かった。このデップリコンのシチューは、彼女の得意料理なのだそうだ。彼女は食後にハーブティーをいれてくれた。この地方にしか生息していない、めずらしいハーブとのことだ。そんな高価なものを誰とも知らないボクなんかにだして良いのかと聞いたが、彼女は笑顔で勧めてくれた。いい香りのハーブティーは、はちみつか何かが入っているのだろうか…。ほんのり甘く、おいしかった。

 おっと、そうだ。体の痛みが気になり今まで忘れていたが、自己紹介をまだしていない…。そんなボクの心情を察したのか、それとも偶然かはわからないが、彼女が話しかけてきた。

「あっ、そういえば自己紹介がまだだったわね」

 彼女はフードをとり、かるく首を振って鮮やかな緑の髪をみせた。年はボクと変わらないくらいだとみうけられる。前髪は、眉が隠れる程度の長さで整えられ、全体的に長めのその髪は艶光り、そのままおろされている。そのため、本当の長さよりも長く感じてしまう。肌はしろく、しみなどが一切ない。二つ輝く大きな瞳は、濃い紅藍色で、どこまでも透き通っている。鼻筋は綺麗なラインを描き、小さな口元をより魅力的にさせていた。彼女には静かな気品が漂っていた。ボクは、そんな彼女に見惚れてしまった。たぶん、彼女に視線を奪われない人間は、男女問わずいないだろう。

「私はメーシャ、メーシャ・コグヴァード。五日前、17歳になったばかりよ。よろしくね。…あなたは?」

 メーシャにそう聞かれ、ボクは我に返った。

「ボクは…」

 ボクは…誰だ?

 その答えを知る者はこの小屋にはいない…。適当にごまかすことも出来るが、ボクは正直に答えることにした。信じてもらえない可能性もあるが、ここで嘘をつく必要と、それによるメリットは限りなく無い。それに彼女は信頼できる。根拠はないが、そんな気がした。

「ボクは…ボクが誰なのか、わかりません。記憶が無いんです」

「えーと…なんて言ったらいいのかな…記憶が無いって、どういうこと?」

メーシャは、かなり困った様子で聞いてきた。

「そのままの意味です。ここで目覚める以前の記憶が全くないんです…」

 もちろん、あの最後の記憶は覚えているが、あえて彼女に言う必要はないとボクは判断した。

「そう…あなたは私のお父さんが浜で倒れているのを見つけてきたの。お父さんはこの村で漁師をしているのよ。傷だらけのあなたを見たときはびっくりしたわ。突然、お父さんが怪我人を運んできて、面倒をみろって言うんだもん。いっつも私にまかせっきりじゃあ疲れちゃうよ…」

 後半はただの愚痴だろうが、その時のボクにはそれを理解することができなかった。

「…ボクはここに長居するわけにはいけない。メーシャさんからみればボクは…」

「違うの!ごめんなさい…。そういう意味で言ったつもりじゃなかったの。つい…」

「そうか…ならよかった。でも実際、これ以上迷惑はかけられないよ」

「でも、行くあてはあるの?旅をするというならそれなりの準備も必要だし、外には危険な原生生物もいるのよ?」

「それでも…」

 それでもここにずっと居る訳にはいかない…と言いたかったのだが、

「ここに居るがいいさ」

 太くて、低くて、大きな声がボクの声をさえぎった。出入口の扉を勢いよく開け放ち、地響きが聞こえそうなほどの豪快な足取りで、大男が入ってきた。身体が大きく、筋肉が盛り上がり、岩を砕いてしまうのではないかと思えるほどの太い腕を持つ男だった。肌は黄金色に焼けていた。下半身は、動きやすいように膝までの短いズボンとサンダルをはき、上半身は白い下着とポッケが何個もついているボロボロの深緑のチョッキを着ているだけの、まさしく海の男と呼べる服装であった。寒くないのだろうか…。彼の頭と肩に、薄っすらと雪が積もっているが、部屋の暖かさですでに融けかけている。

「ただいま、メーシャ」

「お帰りなさい、お父さん」

 二人は笑顔で言葉を交わし、そしてボクに向き直った。

「初めまして、だな。俺はガンズ・コグヴァード。メーシャの父だ。血は繋がっていないがな。まぁ、かた苦しいのは嫌いだ。よろしくな。でだ、少年。これからどうする気だ?」

「ボクは…どうすれば……」

 ボクにその答えを見つけることはまだ出来なかった。

 

                           エピソードⅠ END

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
0
0

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択