「ほお……」
「……」
あれから数日後。
私とカズトはとあるオフィス街の一角に佇む、名の知れたホテルにいた。
エントランスから周辺を見渡すと、ホテルマン達が本日行われる会食会の準備や、来場するお客の対応の為に慌しく動いている。
「……なぁ、華琳」
「……何かしら?」
「……俺達って、こん中じゃすっげえ場違いなんじゃ?」
「……ええ、私もそう思うわ」
黒いスーツを着こなすカズトはこの光景に苦笑を浮かべていた。
さて、何故一介の学生にしか過ぎない私達がこんな所にいるのかといえば……
「おー、やっと来たわね。待ちくたびれちゃった」
「……」
この会食会の主催者の片割れである、株式会社ブンダイの副社長、加藤雪蓮とその秘書、周冥琳に招待されたからだった。
「今始動している計画の、取引先の社長親族にいるようなのだよ。 ……私達と同じ転生者がな」
大学から場所を移してカズトの家。
お酒と料理もそこそこに、私とカズトは冥琳の話を詳しく聞く。
株式会社ブンダイでは、現在、雪蓮と冥琳、その同僚達を主体として、中規模な事業計画が始動していた。
その過程においてプレゼンを実施した所、とある企業がその事業計画に目を付け、共同でその事業を行わないかと誘われたのがつい先日の事。
何度か行われた重役同士の会議に雪蓮と冥琳も出席していたのだけれど、その出席者の中に、気になる人物が居たのだという。
「正確にはいるようだと言うよりも、いたと言うべきだったわね」
「……で、それは一体誰なんだ?」
先程までお酒を飲み、上機嫌となっていた雪蓮は鋭い眼光で私達を見据える。
「レイハ・フォンスダート」
「フォンスダート家は彼女の母国であるイギリスでは、名の知れた名門貴族だ。代々、立ち上げてきた事業は他の名門を押さえてトップに上がっている」
「その中でもレイハ・フォンスダートの商売に関する才は、フォンスダート家では飛びぬけているらしいわ」
「……ちょっと待って」
雪蓮と冥琳の話を注意深く聞いていて、ありえない人物が挙がっているような気がした。
レイハ・フォンスダート。フォンスダートは、フォンスダート家と言うので苗字であることはわかるけど、レイハということはつまり……
「レイハ…… 麗羽…… ……つまり、雪蓮が会ったのは袁紹本初だったって事か?」
「ええ、そういうこと」
「最初は私達も目を疑ってしまったよ。……あの袁紹が、だぞ?」
袁紹本初。その真名を麗羽。
あまり思い出したくは無かったけれど、その名前を聞くことになるとは思わなかった。
……それにしても、あの麗羽が商売の才に長けていると言って、彼女を知る者の内、何人が信じるというのだろう。雪蓮の事だから、「実は嘘でした」と言うのかと思いきや、冥琳の反応を見るとどうやら事実のようだし……
「華琳ー? 今、心の中で実は嘘でしたーって言うと思ってたでしょ?」
「……人の心を読まないで頂戴」
「コホン。 ……さて、先程雪蓮が会食パーティに来ないかと誘っていたが、これで理由がわかっただろう?」
一つ咳払いをした冥琳は話を変える。
確かに文化祭で雪蓮があの発言をした際には、何の冗談だろうかと思っていたけど、麗羽の転生者が見つかったとなれば話は別である。 ……あまり気乗りはしないけれど、会いに行かなければならないわね。
「先程も話したとおり、パーティの開催は来週で、時間は夜の6時。2人とも、予定はどうかしら?」
「俺は…… うん、サークル活動を早めに切り上げりゃあ何とかなりそうかな」
「私も特に予定は無いわね」
「じゃ、決まりね。後で招待状を送っておくわね♪」
「ようこそ、株式会社ブンダイの会食パーティへ。 ……なんてね」
あの時と同じく、黒いビジネススーツを着た雪蓮と冥琳が私達を出迎える。
冥琳は今後のスケジュール調整を行う途中だったのか、ペンと手帳を携えながらの出迎えだった。
「……今になって後悔してるわ。どうして私達はここに来ちゃったんだろうって」
「右に同じく」
「……まぁ、この人数だからな」
周りを見渡し、冥琳は苦笑を浮かべる。
私達が話している間にも、十人単位でスーツを着る人間が、せわしなく動いていた。
「少なくとも、華琳は慣れてるんじゃないかしら? 前世でもこんな感じのパーティは何度も行ってきたでしょ?」
「……曹魏の王だった前世と、ただの学生にしか過ぎない今とじゃ、また勝手が違うわよ」
「あはは…… それもそっか」
「……雪蓮」
雪蓮が苦笑した途端、携帯電話で話をしていた冥琳は雪蓮の方を向く。
一方の雪蓮も、先程とは一転して真剣な表情となり、冥琳の言葉を聞いていた。
その話を聞くと、どうやら株式会社ブンダイの相手である取引先の企業の重役…… つまりは、麗羽達がもう少しでこのホテルに到着する…… との事だった。
「……2人には申し訳ないが、私達は相手企業の人間を出迎えなければならなくなった」
「パーティまでは時間があるから…… あそこのロビーで待っててもらっていいかしら?」
「ええ、わかったわ」
「了解。んじゃあ行くか、華琳」
「ええ」
先日、カズトの家で話し合いを行った結果、ひとまずは雪蓮と冥琳が麗羽に会う事になっている。
それからパーティが終わった後、あるいはパーティ中に合間を縫って私達も雪蓮達に合流し、麗羽に会う。
麗羽は一応は会社の重役である為に、パーティ中は雪蓮やその企業との挨拶回りに追われるのは目に見えている。それ故にあまり長い時間話す事は叶わないので、パーティが終わった後に会う事になってしまうのかもしれないと考えた結果だった。
雪蓮達と分かれてから十数分が立った。
雪蓮は別の仕事の為に一度、会場へと引っ込んでしまったが、冥琳はロビーに立っていた。
何度か腕時計と手帳を確認し、時としてかかってきた電話の応対を行いながら、麗羽達の到着を待っていた。
「……遅いわね」
「ああ」
一方の私達は、冥琳から少し離れたロビーのソファに座りながら、彼女と同じく麗羽の到着を待つ。
「まぁ、空港からここまで軽く吟味しても1時間はかかるっぽいからなぁ」
携帯をいじりながら、カズトは答えた。
なるほど、時間を考えれば多少の遅れは仕方のない事なのかもしれない…… なんて、考えていた矢先の事だった。
「お待ちしておりました、レイハ会長」
「!」
冥琳のその言葉は、麗羽が到着したことを告げる物だった。
携帯の画面を見つめるカズトははっとした表情を浮かべ、冥琳の声のする方向へと振り向いていた。
果たして、この現代において彼女は一体どんな姿をしているのか…… と、私もカズトに続いて冥琳の声のした場所を遠くから眺めていた。
~駄文~
それは、カズトの家で麗羽のことを聞いた後の事だった。
段々とお酒の量も進んだ頃、雪蓮はカズトに対して一つの疑問をぶつけていた。
「そういえば、カズトに聞きたい事があるんだけど」
「ん、何か?」
「私達はゲームの世界から転生したって話だったけど…… その元のゲームってどういうお話だったのかしら?」
「どういう話というと?」
「……前世の記憶で体験した事が、大元のあらすじね。 ……蜀ルートに関しては」
「……蜀ルートに関しては?」
冥琳は驚いたような表情で、私の言葉を繰り返した。
「私達の記憶の中では、北郷一刀は桃香達に拾われて蜀で天の御使いをやっていた。これで合ってるでしょう?」
「ええ、そうね」
「真恋姫は、北郷一刀が最初に桃香達に会い、蜀に拾われる話だけじゃなくて、魏と呉に拾われる話もあったってな訳だ。それぞれのルートにどの武将がいたかは…… まぁ、知っての通りだな。有名どころで名前しか出てこないのもちらほらいたが」
「なるほど、な」
「じゃあ、呉ルートだとどういうお話だったの?」
「……」
雪蓮が聞くと、カズトは目をそらしてしまった。
「……2人はさ、三国志とかそれを媒体とした漫画を読んでるんだよな?」
「まぁ、軽く目は通しているが」
「孫策と周瑜がどういう結末を迎えたかは、だいたいわかるだろ?」
「……まさか」
「え、どういうこと……?」
冥琳は何かを悟ったらしい。
一方の雪蓮は話についていけず、何がなんだかわからないといった感じで、カズトと冥琳を見ていた。
「……正史では、周瑜は赤壁の戦い後に亡くなっている。加えて赤壁の時に、孫呉の王なのは孫権だった」
「!?」
冥琳の説明の後にカズトや私の口から、改めて呉ルートの出来事を説明した訳だけど……
特にゲームの中の雪蓮の最期を聞いてからは、不機嫌となってしまい、特に私に絡みに絡んだ挙句、浴びるほど酒を飲んで酔い潰れてしまった事をここに明記しておく。
~あとがき~
金髪ドリルといえばイギリス!
…そんなイメージがあります。某ライトノベルの影響ですね、はい。
というわけで、麗羽の前編でした。
現代においてはなんと、イギリス貴族の有能な会長という、(頭脳的な意味で)前世と真逆な立場となりました。
正史の袁紹は三国無双などによく見られるお調子者ではなく、謙虚な性格であったという記述があったので、少なくとも麗羽様のような馬鹿じゃないよなぁと思った結果です。ちなみにお調子者だったのはむしろ、袁紹の従兄弟の袁術だったとか。
さて、後編では麗羽と華琳達の会合などを書いていきたいと思っております。
では、いつ書きあがるかわからない後編でお会いいたしましょう。
余談ですが、私は二次創作を書く上においては、そのキャラクターをなるべく汲み取りながら書いております。リレー小説にしても、他の人のキャラがどんな性格なのかを確認した上で台詞を考えます。
ですが、今回に限ってはキャラが崩壊してしまいました。
…え、誰もキャラ崩壊してないって? ははは、してるじゃないですか、麗羽様が(
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スパロボUXが楽しすぎです。
まさか、スパロボ内で「はわわ」ネタが出るとは思ってもみませんでした。
さて、今回は誰もが認める我らが駄名家こと麗羽様です。
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