第2章 19話 ―戦いのあとで―
タッタッタッタ...
夜の洛陽。どの店もとっくに店じまいし、街を照らすのは時折巡回に回ってくる衛兵の火の光と、夜の空を彩る星の光くらいであった。そんな先のほとんど見えない暗闇の中でも、勝手知ったるといった様子で街を疾駆する一つの風。それはある場所をめがけて迷いなく突き進んでいた。
??「はぁ、はぁ、はぁ。」
息がきれそうになるのも構わず、ただひたすら走り続ける少女。その表情からは息が切れそうなことへの身体的負荷というよりは、どこか別の、精神的に追い詰められているような焦燥感が感じられた。その彼女も、ついに目的地にたどり着いたようだ。
ダンッ!
力任せに門の扉を開け放つ。そうして走り続けた先にその少女が見たものは、
??「...!!」
自らが慣れ親しんだ風景ではなく、燃やされた痕跡のある荒れ果てた家屋。そして暗闇に目が慣れるにつれて、所々に見られる血の跡。それを見た少女の瞳からは、彼女の周りと同化するように、あるいはそれよりもさらに深くなるように、次第に光が失われていく。そして...
??「ア...アアアアアアッ!!!!!!!」
静まり返った夜の街に、獣染みた響きが木霊する。その響きが広がっていくように、少女の意識も深い闇の中へと堕ちていった。
一刀「ただい...ぐはっ!」
開口一番強烈な一撃?により言葉が途切れる。尻もちをついた俺に乗っかっている彼女を見上げると、それは満面の笑みで答えてきた。
天和「おかえりなさい、ご主人様♪」
一刀「ああ、ただいま...」
多少面喰いながらもなんとか笑みを浮かべる。
星「ふむ。今のはなかなか見事だったな。どうだ、天和。武術を覚えてみる気はないか?」
愛紗「ふん!からかってやるな、星。それより人和、何か変わったことはなかったか?」
星「私は至って本気なのだが...」
少し不機嫌そうに一刀を見やってから視線を移す愛紗。星はというと一刀と天和の様子を観察しながら角度がどうなどと、ぶつくさ呟いている。他の面々はと言うと遠巻きに笑ってはいるが関わる気はなさそうだ。
人和「ほら、姉さんもそれくらいにして。ご主人様方がいない間にこれといって大きな問題になるようなことはなかったわ。何度か賊の類が出たけど皆だけでもなんとかなってたし。」
今までと同じように姉の態度に少々の疲労感を覚えながら応対する人和。別段前と変わった様子はなかったが、もしかしたら一刀たちがいない間などは、彼女の言うように他の雑務も相まっていつも異常に心労が多かったのかもしれない。彼女の態度から少しホッとしたようなものが感じられる。
祭「それは黄巾の連中のことか。やつらも意外と骨があるようじゃのう。」
地和「あったりまえじゃない!ここに来るまでだって何度もアタシたちを守ってくれたんだから!」
まるで自分の事のように胸を張る地和。前に彼女たちが話してくれたように、そのような荒事も度々あったのだろう。戦闘力はさほどなくとも、彼らの彼女たちを思う気持ちはよほど強いのかもしれない。それが原動力となっているのだろう。それは一刀のいた世界でもファンと呼ばれる人たちの持つパワーを考えれば納得がいく。そう考えているうちにも軍師の雛里は思案顔になる。
雛里「なるほど...場合によっては、このまま自警団に組み入れるというのもいいかもしれませんね。」
思春「問題は街の者が元黄巾の者に街の警備を任せることをよしとするかどうかだな。」
雛里「そうですね...大丈夫だとは思いますけど、一応そのあたりは事前に調査をしたほうがよさそうですね...」
思春「私も元はと言えば賊上がりだ。何か力になれることがあれば言ってくれ。」
雛里「はい、頼りにさせてもらいますね。」
人和「それと、近隣の村々からぜひご主人様に一度尋ねてきてほしいと報告を受けています。なんでも、街の防衛やこれからのことについて話し合いたいそうです。」
一刀「なるほどね。じゃあ具体的な日取りなんかも決めないとなぁ...」
天和から解放されて一息つきつつ今後のことを思いやる。またこれから忙しくなりそうだ。
曹操「それと、あの件はどうなっているのかしら。あとで資料をこちらに回しなさい。」
曹操はというと戻ってから息つく暇もなく政務をこなしていた。
曹操「(私が少し留守にしていただけでこんなに...桂花はよくやってくれているけど、まだまだ人材が足りないわね。)」
曹操というカリスマは絶大であっても、その当人が不在となると各署で問題が持ち上がっていた。そんな曹操が、さらに多くの優秀な人材を求めるのは道理というものだった。そこへ、
??「およびでしょうか。」
曹操「ああ、来たわね。早速だけど、貴方には京に向かってもらうわ。」
??「京?あの天の御遣いとかいう者が治めている街ですか。」
曹操「そうよ。貴方はそこで街に施されている政策から技術、軍事に至るまで、あらゆる観点からみて貴方が気づいたものがあれば後で報告して欲しいの。」
??「はぁ。しかしお言葉ですが、そういうことならもっと知識の深い荀彧殿などの方が適任なのでは...」
曹操「いえ、残念だけど今桂花を持ち場から離すわけにはいかないの。貴方なら、しっかりこの任務をこなしてきてくれると思っての采配よ。それに私に近しい人物から直接報告を聞いた方が楽しい話が聴けるでしょ?」
??「そういうものでしょうか。」
曹操「そういうものなの。それと、ここから京までというとそれなりに距離があるし長旅になるわ。そこで、道中で見どころのある人材がいたら連れてきてちょうだい。」
??「見どころのあるというと...文や武の才に秀でている者ということでしょうか?私にそんなことがわかるんでしょうか...」
曹操「貴方ならそこらへんは問題ないわよ。貴方は自分にできる最善を行ってくれればいいわ。じゃ、頼んだわよ。」
??「御意!」
一方江東では。
雪蓮「うーん!やっぱり我が家は居心地がいいわねぇ。」
思い切り背伸びをして玉座にどかりと腰を下ろす雪蓮。奔放な彼女らしいが、孫権などがこの場にいれば、もっとそれらしく振る舞うように小言の一つでも述べたかもしれない。
雪蓮「さてと、一刀には美味しいお酒を届けてくれる約束をしてもらったし、こっちからも何か送ろうかしらね。なにがいいかしらね、冥琳?」
冥琳「待て雪蓮。北郷殿との共闘は今のところあの時限りのものだ。今後も付き合っていくかはもう少し考えたい。」
雪蓮「じゃぁ、訊くけど。一刀の陣営、冥琳はどう思う?」
冥琳「そうだな...抱える将は皆一騎当千、関羽などは軍神と言っても差し支えないほどの実力の持ち主だ。そして軍師のホウ統もあの年でかなりの智謀の持ち主と見える。最後に、彼女たちの支える君主だが、あれはかなり慕われているな。王としての器は雪蓮の方が上だろうが、民や仕える者たちに慕われているというのは君主にとって重要な要素の一つと言えるだろう。総じて言うなら、あの陣営と戦って勝てないとは言えないが、あまりやりたい相手ではないな。民に慕われている支配者を打ち倒すということは、どんな形であれ後に遺恨を残すであろうからな。それでも戦うとすれば、軍師が少なく、戦略の幅が狭い今のうちに叩くに限るが...」
雪蓮「はいはい、そこまでそこまで。私が聞きたいのはそういうことじゃなくて...」
軍師としての見解から一気に言葉を並べる冥琳に対して、雪蓮は少し冷ますように促す。それを少しだけ恥じた冥琳もコホンと一息つくとそのあとを続けた。
冥琳「同盟を組むに足りるかどうか、ということだろう?だからもう少し考えたいと言っている。」
雪蓮「もう少しってどれくらい?」
冥琳「もう少しだ。」
雪蓮「ぶーぶー。冥琳のいじわる~。」
頬を膨らませて怒りを示す雪蓮であったが、そんなことはお構いなしといった表情でそれを受け流す冥琳。
冥琳「(我が渾身の策、天下二分の計。我らが呉と天下を分けるに値する勢力をこの戦いで見極めることを目的の一つとしてはいたが...)」
冥琳は手元の調書に目を落とした。それは今回の戦いを通して、各軍の動きを観察しまとめたものだった。
冥琳「(北郷殿の勢力にはまだムラッ気が多い。しかし、祭殿が私たちに引き合わせたというのはやはり...だが、今のところはまず自らの地盤を固めるのが先決であろうな。いざ他国と戦になったところで自分たちの足元もおぼつかないようでは話に...)」
雪蓮「また難しいこと考えてるでしょ?」
急に顔がぶつかりそうなほどの距離で冥琳の表情を覗き込んでくる雪蓮。
雪蓮「そんなに考え込んでばっかりいると、顔にしわがよってすぐにおばあちゃんみたいになっちゃうわよ?」
そこから冥琳の眉間の間を伸ばすようにクニクニと指を動かす雪蓮。それを軽く払いのけながら、
冥琳「我らが主君がもう少し大人しくしてくれて入れば、それも少しはなくなるんだがな。」
雪蓮「それは無理♪」
茶目っ気たっぷりに言い放つ雪蓮。確かに雪蓮の行動は勘頼みになることや突発的なものもあり、それが冥琳にとって悩みの種になっているということもある。しかし、それでもこうして今でも世話を焼いたり気を回したりしてしまうのは腐れ縁というものなのかもしれない。
雪蓮「まあ、同盟を組むとかは置いておいて、贈り物をくれるっていうのにお返しをしないのは、王としての格が知れるじゃない?そういうわけで、冥琳には今から私と買い物に付き合ってもらうわよ。」
冥琳「はいはい。お伴させてもらうわよ。」
仕方なしといった様子の冥琳だが、その口元には笑みが浮かんでいた。それを見た雪蓮もすこぶる楽しそうに、彼女の手をとって進んでいったのだった。
馬超「...くっ!」
馬超は執務室の中で間諜の持ってきた報告の書かれた書簡を読んでいた。普段ならこの手の仕事は彼女の父が行なっていたのだが今はそうもいかない。西涼に多く存在する豪族たちを統括していた馬騰が倒れたことで、西涼では小さないざこざが頻発していた。そのたびに彼女は代理としてそれに対する対応を迫られていたわけだが、この手の業務は苦手とする彼女には手の余るものばかりだった。それでもこれまで尽力してきたつもりだったが、今回の報告は彼女の心に重くのしかかるものだった。彼女が視線を落としたまま動かないで見ているその内容は...
馬超「すまない...あたしが持ち場を離れたばっかりに...」
連合軍の勝利、そして董卓が彼女の軍師と共に死亡したというものだった。追い詰められた挙句、あまつさえ自ら火を放つという結果をもたらしてしまった原因の一因が自分にあることを、いや本人はまるですべて自分のせいであるかのように自分を責めていた。そこへ、
馬岱「お義姉さま、叔父さんが目を覚ましたよ!」
明るい声とともに馬岱が顔を表した。馬超が執務をしなければ行けなかった間、父の様子を見てくれていたのだろう。それを聞いた馬超は一度だけピクリと反応を示した。
馬超「そうか、ちょっと行ってくる...」
折角の朗報だというのに、その表情は暗く落とされたままだった。そこから馬岱は彼女の手元にあった書簡に一度目を走らせ、そこから心情を読み取り言葉を選んで口にした。
馬岱「ねぇ。月たちのことは...その、本当に悲しいけど、それはお義姉さまのせいじゃないよ。そもそも攻めてきたのは連合軍なんだし...」
一度立ち止まり少しだけ俯き加減に顔を向ける。ただ、その表情は馬岱から読み取ることはできなかった。
馬超「ありがとな、蒲公英。少しだけ気が楽になったよ。」
そう告げてトボトボと部屋を出て行く。その様子に、
馬岱「お義姉さまの嘘つき...全然元気よくなってなんかないじゃん...」
見たままの感想をボソリと呟いた。彼女たちが撤退した時点で連合軍の勝利は予想できたことだった。元より場合によっては勝たなくてもいいという方針ではあったものの、戦力の低下によって負けの可能性は濃くなっていたのだ。しかし、書簡に記されたその報告には馬岱も心の中では深く胸を痛めていた。
―あとがき―
れっど「読んでくださって有難うございます。こんばんは、れっどです。今回は...」
??「ちょっと待ったぁああ!」
れっど「ん!?」
??「お前!何が怒ってる奴がいないだ!前回までの話、全くといっても私の出番がなかったじゃないか!」
れっど「...どちら様でしたっけ?」
公孫賛「...公孫賛だ!」
れっど「?こうそ...ああ!今思い出しました!馬面仮面の人ですね!」
公孫賛「仮面白馬だ!間違ってるし、だいたいそれは本編の話だろう!」
れっど「ということはこのお話でですか?うーん、そんな人もいたような、いなかったような。」
公孫賛「なぁ!?いたんだよ!自分で書いてただろ!」
れっど「...そうでしたっけ?」
公孫賛「お前もしかして...本気で覚えてないのか?」
れっど「ソ、ソンナバカナ。ソンナハズアルワケナイジャナイデスカ。」
公孫賛「思いっきり片言じゃないか...あれ?もしかして...本編でも本当に忘れられてたんじゃないだろうな?」
れっど「それはないですよ、ハハハ(たぶん)。」
公孫賛「そ、そうか。(ちょっと心が折れかけた)ん、じゃなんで私の出番がなかったんだ!」
れっど「(それは需要が...※あくまでこのお話で出番がなかったのは演出です。ホントです。忘れていたなんてことはありません。...ホントですよ?)」
公孫賛「なんだ?聴こえないぞ?」
れっど「ナニモイッテマセンヨ?」
公孫賛「また片言じゃないか!」
れっど「それでは、次回もお付き合いいただける方はよろしくお願いします。」
公孫賛「勝手にしめるなぁ!」
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恋姫†無双の二次創作、関羽千里行の第19話になります。
タチコマかわいいよ、タチコマ。
最近攻殻機動隊見なおしたんですけど、やっぱり面白いですねぇ。
とりあえずタチコマがかわいい。
それはともかく今回は短めですがよろしくお願いします。
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