No.55575

さいえなじっく☆ガールACT:27

羽場秋都さん

毎週日曜深夜更新!フツーの女子高生だったアタシはフツーでないオヤジのせいで、フツーでない“ふぁいといっぱ〜つ!!”なヒロインになる…お話、連載その27。

2009-02-01 23:41:13 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:716   閲覧ユーザー数:693

 

 その瞬間、誰もが“しまった”と思った。耕介が、ほづみが声を失い、取り返しのつかない事態を呪った。そして誰よりも撃たれた夕美自身がそう思っていた。リーダーも反射的に引き金を引いてしまったことを悔いていた。…ただし罪悪感ではない。須藤耕介を利用するなら娘は活かしておくべきだったからだ。

 ほんの数秒の時が過ぎる。それぞれの思惑で、それぞれの体感時間で凍結された時間が動き出す───。

「………!」異変に最初に気づいたのはリーダーの男だった。

(あれ?)次いで夕美もおかしなことに気づく。

(し…死んだの…?かな。あたし。だから…だから…痛くない?)脚はガクガクと震えるが、痛みはおろか、五体のどこにもなんの変化も感じ取られないのだ。だが、夕美の脳裏に浮かんでいたのは、『シックス・センス』という映画だった。

 死んでしまっているからこそ、痛みも苦しみも自覚できないのではないか───

 

 しかし、次の瞬間には耕介とほづみが互いの身体を互いにわしづかみにしながら抱き合い、身体の奥から沸き上がってくる感動に身を任せていた。

「せ…先生…!」

「あ。あ、ああ。やっぱりそうや」

 ほづみと耕介は目を輝かせ抱き合ってうち震えている。逆にリーダーの男はカッと見開いた眼であわただしく夕美とその周辺と自分の拳銃の間で何度も視線を往復させ続けていた。

「………?…?………!?」

 

 夕美の足もとの床に転がっている金属片に気づく。さっき自分で撃ち放った四発の弾丸だった。まだ発射時の高熱を保ったままらしく、フローリングの床でワックスを軽く焦がしはじめている。

 つん、と焦げ臭いニオイが足もとから上がってくる。

「い…?生きてる…?」夕美もようやく事態の好転を悟った。「お?お?おおお。すごっっ。すごいわっっっっ───お父ちゃん。すごいやんか、こ、これ!鉄砲玉はじき返してんでぇ」

「ゆ、夕美。………無事か、夕美!ゆみいいいいいい」身体半分埋まっていたソファから起き出した耕介は、今までの剛胆な行動がウソのように半べそをかきながら夕美にかけよった。

「あっ。先生、あぶないっ」ほづみが言うが早いか、夕美に抱きつこうとした耕介は夕美に触れるか触れないかのタイミングではじき飛ばされ、ほづみの横のもと居た場所まで「うゃああああああああああ」と吹っ飛んだ。

「え。お父ちゃん!?」

 今の夕美は拳銃の弾丸であろうと父親であろうと触れるモノを近づけない。

 

「あっ。」耕介が視界から飛んで消えた向こうに、気を取り直した男がふたたび自分に拳銃を向けるのが見えた。

 夕美は腹が立った。まだこれ以上撃つのか。何が何でも自分を殺そうというのか。

「あんたっっっ!お父ちゃんにならともかく、あたしに恨みでもあんのんか!なんじゃあ、その態度は!! ほんま、人の家で何してくれてんねん!えーかげん、出ていけ!!」

「夕美ちゃんっ、無茶すんな!いまのバリアはマグレかも知れないんだ、挑発なんてバカな真似してないで早く逃げろ───あっ!」

 

 今度は夕美の背後に人影が見えたと思ったら、次の瞬間にはもう夕美を後ろから羽交い締めにしてまんまと捕まえてしまった。最初に夕美を探しに行った男だ。

「きゃあっ、な、何ッ!?」レスリングか柔道あたりの関節技なのか、とっさに振りほどこうともがいたがビクともしなかった。

「夕美ちゃんっ!」

「は、放せ!! 放さんかいっっっ、こらっ、ひっつくな、H!」さらにもがく夕美。

 ほづみは驚いた。(!?なぜだ?先生はサイコバリアにふっとばされたのに、コイツは何故はじきとばされない!?)「おいやめろ!危ないのはその娘じゃない、お前らの方がどうなるか …う」

 それまで夕美に向けられていたリーダーの拳銃が、今度はほづみの鼻先にグイ、と押しつけられた。

「なんだと…?危ないのが我々とは、いったい、どういうことなんだ?…」

 片手で床に落ちているまだ温かさの残る弾丸をひろいあげた。「この理由が、“上”があんたらを連れてこいと言ったワケなんだろうが…。」

(もう薬の効き目が切れちまったのか…?でも夕美ちゃんは薬をどこで…あ。まさか。冷蔵庫の中のアレを見つけて…?だとしたら)

 やばいぞ、とほづみは無意識に声に出してしまっていた。

「悪いことは言わない。あきらめて引き上げろ。いますぐその娘を放して帰れ」とりあえずホールドアップしておいて、ほづみはリーダーに警告するが、夕美を捕まえたまま男が反論する。

「おい、ふざけるなよ。こういっちゃなんだが、オマエは須藤博士を脅すためにだけ生かしてるんだ。まして娘を捕まえたとなれば、もう用済みなんだよ」

 この言葉にのんびり屋のほづみもさすがにカチンときて、よく考えるとこの連中を心配してやる義理などないという気がしてきた。

「うーん。やっぱりそうだろなー。───でもねえ」

 ほづみは銃口の下から覗き込むようにして続ける。「このあと、一体どうなるか僕や先生にも予想もできないんだよ」

「は。茶番はよせ。一体、どういうことか説明しろ。オカルトじゃあるまいし、何かの装置か、それとも催眠術のようなものなのか───ミョンシク、油断するな。その娘は何か得体の知れん装置か武器を隠し持っている可能性がある」

「装置…!? 」男はギョッとなったが、夕美を背後から羽交い締めにしたまま、けして力を緩めることはなかった。

「身体検査しろ」

「な、なんやとぉ〜〜〜〜〜〜〜っ!!」夕美と耕介が同時に叫んだ。

 

〈ACT:28へ続く〉

 

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