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とある傭兵と戦闘機のお話~(SW編第三話)翼の限界と生まれ変わり

自分がいた世界と全く方向性が違う世界で、主人公は再び自分の目的について考える。そして、限界を迎える機体が最後の飛行を待っている中、主人公の想いはどうなるのか?

2013-03-16 01:31:29 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:3196   閲覧ユーザー数:2950

 

 

 

 

   こっちに来てからだいたい二週間

 

 

 

 

 

 

朝っぱらからミーナ中佐に呼び出しをもらった私が執務室へ行ってみると

 

待っていたのは書類の山と苦い顔をしたミーナ中佐だった

 

という訳で、私は中佐のデスクワークの補佐をやっていた

 

 「私のシフトを夜間哨戒に?」

 

 「ええ、昼間はいつものメンバーで事足りてるから人員不足の夜間哨戒の任務に就いてほしいの」

 

 「別に構いませんが・・・でも、理由はそれだけじゃないんでしょう?」

 

ミーナ中佐に回りくどい誘導尋問は通じない

 

私は素直に思った事を口に出した

 

 「・・・フィリアさん。あなたの存在は世界にどういう名で知られていると思いますか?」

 

 「名前?」

 

 「ガリアをネウロイの手から救った、一人だけの航空師団・・・蒼の霞」

 

 「なんか大層な名前付けられてますね・・・でもそれがどうしてその話に繋がるんですか?」

 

 「この上層部の司令文を見て」

 

と、指令書・・・もとい命令書とも呼べるものを渡される

 

 「”先日、襲撃されたローマの町に出現したウィッチ、その人物は”蒼の霞”と同一人物の可能性がある

 

   501統合航空戦闘団は、可能な限り件のウィッチを探し発見した場合は連合軍本部へ出頭

 

   従わぬは身柄を拘束し、連合軍本部へ連行せよ”・・・あの、これ・・・」

 

 「ええ、上層部はあなたを血眼になって探しています」

 

 「でもこの文章・・・明らかに指名手配ですよね?」

 

なんか最後に物騒な言葉で書かれているあたり

 

 「そう、上層部はあなたを軍の広告塔として利用する魂胆らしいのよ」

 

私を見せ物に利用・・・ねぇ

 

つまり中佐は、なるべく人目に付かないような所に私を置きたいらしい

 

というか・・・イーグルってこの世界じゃ戦略兵器並みの性能持ってるんだよね

 

私の行く世界、戦況をひっくり返す兵器や鉄屑になる

 

 「大丈夫ですよ。私なんかそんな事勤まるはずはないしそんなお粗末な上層部に

 

  従うつもりはないです。私の上官は中佐、あなたですから」

 

心配そうなミーナ中佐をよそに、その指令書をビリビリと裂いていく

 

 「この指令書は届く前にゴミになりました・・・よっと」

 

窓を開け、細かく千切った指令書を風に乗せて振りまく

 

風に舞う紙切れはアドリア海の海風に乗って、見えなくなるまで遠くに飛ばされていった

 

 「それに、私は傭兵です。どこにも属さない、そしてどこにも還らない」

 

戻る場所は存在していようと、帰る場所は存在しない

 

 「まあ、今の私の居場所はここって事です。いきなり居なくなったりはしませんよ」

 

 「そう・・・では、頼まれてくれるかしら?」

 

 「了解~」

 

てな感じで、私は夜間哨戒班に配属された

 

 

 

 

 「と言うわけでサーニャ、これからよろしくね」

 

 「はい、よろしくお願いします」

 

とりあえず私の部屋を前と同じく詰め所にしようって話になった

 

 「それにしても、部屋に何も無いっていうのはなんだか寂しいものがあるなぁ・・・」

 

来たばかりだというのも理由だが、いかんせん私は私服を一着しか持っていない

 

その一着も、ミーナ中佐が用意してくれた物で今身に纏っているのだ

 

IS学園の制服は、ちょっとしたタンスの中に仕舞っておいた

 

なので、私の部屋はタンスと机、ベットの三点セットしか存在しない

 

一人部屋にしては広い部屋なのでそれが余計に寂しく感じられる

 

 「さて、そろそろ寝ような・・・」

 

夜間専従員は夜が主な活動時間となるので、今のうちに寝ておかないと飛んでいる最中に居眠りしかねない

 

私はベットに潜り込んで睡眠に入る

 

 「・・・・・・」

 

 「・・・サーニャも入る?」

 

 「・・・!!はいっ」

 

嬉しそうに、サーニャは小さく頷いた

 

こうして、私はサーニャと一緒に寝る事になったのだった

 

 

 

 

 

 

 「う~ん・・・どうしたものかね」

 

私達が起きた時、基地には誰一人としてメンバーが居なかった

 

整備の連中に聞いた所、複数のネウロイ出現の報告が基地に入ってみんな出払ったそうだ

 

 「勝手にご飯作ったりしたら怒られそうだけど・・・よし」

 

とりあえず、簡単に済ませる為に食パンとバターのみのシンプルなものにした

 

これから夜間哨戒、何か腹持ちのいいものを食べたい所だが無い物は仕方が無い

 

 「それじゃあ行こっか」

 

 「はい・・・」

 

芳佳が使っているものと同タイプのストライカーを身に付け、魔道エンジンを始動させる

 

 「・・・あれ?なんか調子悪いな」

 

なんか魔道エンジンの調子がよくないみたいで、回転数が不安定になった

 

 「もう少し強めに回して・・・」

 

と、先ほどより強めに魔法力を込める

 

しかし余計に悪化してしまい、ついにはエンジンが止まってしまった

 

 「・・・逆?」

 

今度は最初よりかなり控えめに魔法力を込める

 

すると今度は調子よく、回転数が安定してくれた

 

 「よし、これより夜間哨戒に出ます」

 

サーニャと共にハンガーを抜け、暗くなりかけている夕焼けの空にあがる

 

するとタイミング良く、みんなが帰ってくるのが見えた

 

 「・・・私に言わせりゃ二流ダナ」

 

 「そんなぁ~っ!!私はシールドだけが取り得だって言われてるのに~!!」

 

なんだなんだまた言い合いしてるのか~?

 

 「にししし~」

 

 「も~・・・」

 

何だかんだでこの二人も仲がいいよな~

 

 「そんな言い方したらだめよ、エイラ・・・」

 

と、サーニャがエイラに無線で呼びかける

 

同じ北国同士の仲間であるエイラとサーニャは、いつも二人で居る事が多いコンビだ

 

部屋も一緒で仲がいい・・・のはまあ当たり前なのかもしれないが

 

 「おかえり~、負傷者は居ないよね~?」

 

 「無論だ」

 

と、いつも通りの返事を確認して少佐に確認を取る

 

 「何か異常はありませんでしたか?」

 

 「今回の敵機は全て子機だった。コアを持つ本体はかなり厄介な位置にコアを持っている

 

  子機の全滅を確認して一度撤退、対策を練って再び攻撃しようと思う」

 

 「了解~・・・これでよし」

 

メモに状況を書き込み、少佐に渡す

 

 「そこまでせんでもいいだろうに・・・」

 

 「だったら自分からちゃんと書いて下さい・・・ミーナ中佐の負担が増えます」

 

この少佐、報告書には ”異常なし” ”ネウロイ撃破” ”負傷者なし”

 

これしか書かないもんだから・・・お陰様でミーナ中佐の上層部への情報報告に予想でしか書けない

 

最近・・・というよりブリタニアの時からミーナ中佐が抱える悩みの一つだという事を中佐本人が

 

頭を抱えてため息交じりに愚痴ったのだ

 

 「それではこれをミーナ中佐に渡してください。私達はこれから夜間哨戒に出ます」

 

 「待てフィリア、今回はいい。サーニャも、私達と共に基地に戻れ」

 

 「?了解」

 

 「はい・・・」

 

何だ?さっきのネウロイが関係してるのか?

 

そのまま私達は基地に戻ってそのネウロイの対策会議を開く事になった

 

 

 

 

 

と、言うわけで今回の哨戒任務は無し

 

出現したネウロイの対策について相談すべく、ミーナ中佐の居る執務室に少佐と共に来ていた

 

 「さっき司令本部から連絡があったわ」

 

 「今回のネウロイの件についてか?」

 

 「ええ」

 

と、中佐は会話を続けながら緑茶を淹れる

 

私はというとちょっと報告書を整理していた。ちなみに少佐の分ね

 

 「ロマーニャの海軍と空軍が、後を引き継ぐ事になったわ・・・」

 

 「ほぅ・・・」

 

お茶をすすりながら、少佐が少し意外だという顔をした

 

 「彼等も結果が欲しいんでしょう」

 

 「自分達にも、ネウロイに対抗できる力があると?」

 

この世界、ネウロイに対抗している主な戦力というのは魔法力を持つウィッチである

 

少なからず魔法力を持たない通常軍隊は、もちろん戦力の一部ではあるが正直目まぐるしい戦果をあげているとは言い難い

 

それにロマーニャの軍隊・・・旧イタリアの軍隊は他の軍隊に比べて力不足だったのだ

 

連合国の中でも、ロマーニャの軍隊はかなり低い評価だと思う

 

 「・・・料理はおいしいのになぁ」

 

なんでこう、色々パーフェクトな国って存在しないんだろう・・・まあ、存在したら戦争なんか起きないんだろうけどさ

 

書類に目を通しながらそう思った

 

 「・・・お手並み拝見と行こうか」

 

少佐が肩から力を抜いてソファの背もたれに体を預ける

 

 「今日はかなり長時間飛んでいたんでしょう?ゆっくり体を休めるといいわ」

 

 「そうですよ。報告は私がしておきますから」

 

 「そうか、すまんな・・・ではお言葉に甘えるとしよう」

 

と、少佐は残っていたお茶を飲み干して部屋を出て行った

 

 「さて、残りの書類を殲滅しましょうか」

 

 「そうですね・・・それと一瞬逃げそうになった私を許して下さい」

 

殲滅って言葉に軽く戦慄を覚えた。だってこの人その瞬間目が据わってたんですもん・・・

 

私はお茶を飲みながら先ほどのメモを取り出した

 

 「再確認します・・・少佐の話によると、海面より上空およそ30000mの地点にコアを持つ特殊形態の

 

  ネウロイで、移動速度はそれほどでもないですが進路をロマーニャの方角に取っています」

 

 「30000m・・・通常のストライカーではとても手が出せない高度ね・・・」

 

 「高度30000m・・・空気が存在しない、翼が意味を失う場所です」

 

空気がないという事は、空力学の恩恵を受けれないという事でもある

 

通常の翼を持つ航空機はその空間を飛行する事ができなくなる場所ーーー成層圏

 

 「そして、熱を伝える媒体が存在しない・・・故に、通常気温はマイナス80℃以下」

 

生身の人間・・・地球上の生物だったら一瞬で木材に釘が打てるようになる

 

 「そんなに危険な場所に・・・まずどうやって到達すればいいのかしら」

 

 「さっき資料漁っててこんなもの見つけました」

 

と、資料から一枚取り出して中佐に見せる

 

 「・・・ロケットブースター?」

 

 「はい。これを用いる事によって空気のない場所でも飛行を可能にします」

 

 「でも、その分魔法力を消耗するみたいね・・・」

 

 「その点は、皆に説明する時に話しますよ」

 

資料をまとめて、私は部屋を出た

 

 

 

 

 

 

 「ーーーと、いうわけで既存の通常兵器では全く届かない高い場所にコアがある」

 

ブリーフィングルームで今回のネウロイの説明、そしてその脅威について説明する

 

 「これが、毎時およそ10キロという低速でロマーニャ方面に向かっている」

 

一応そこまで速いというスピードではないが、どんどん近づいている事には変わりない

 

攻撃ができない、阻む方法がないのならほぼ一直線でネウロイはロマーニャに向かい続ける

 

 「ですが、私達のストライカーユニットの限界高度はせいぜい10000m・・・」

 

 「私のイーグルでも、これに届くか届かないかだから微妙なところ・・・翼を持つ機体ではその空域での飛行は不可能」

 

 「だから、ジェットストライカーを元にして作られたこいつを使う」

 

と、少佐が投影機を操作してロケットブースターの資料に移動させる

 

 「ロケット・・・ブースター?」

 

 「これがあればコアの所まで飛べるんですか?」

 

 「いや、そんな単純な話ではないはずだ」

 

そう、大尉が言う通りこれで単独で到達できれば問題は何もない

 

 「そう、このジェットストライカーは高出力の推進力を得る代わりに魔法力を大量に消費するから、短時間しか飛ぶ事ができないわ・・・」

 

 「だったらーーー」

 

 「他の誰かを途中まで運んでやればいい・・・って事だな」

 

シャーリーが後を引き継いで作戦概要の本文を口にする

 

一人で到達できないのであれば、多段式ロケットと同じ原理を用いて作戦要員を打ち上げればいい

 

打ち上げ班を段階分けして三段階にロケットを組む

 

第一打ち上げ班は通常のストライカーの状態で高度10000mまで上昇

 

その後、第一打ち上げ班の離脱と同時に第二打ち上げ班がブースターに点火

 

そのまま高度28000mまで上昇、帰還用の魔法力を確保して第二打ち上げ班は離脱

 

以後は突入班・・・人数的に二人が限界なのでその二人が軌道上に乗れば以後は攻撃のみとなる

 

 「でも30000m上空って言ったら空気もないよな」

 

 「え、空気無いの!?」

 

 「じゃあ喋っても聞こえないねー」

 

 「えっ、聞こえないの!?」

 

お、この辺の情報は皆持ってるらしい

 

後の説明に困る事はーーー

 

 「ええっと・・・空気が無いってだけで後は問題ないんですか?」

 

あ、芳佳が何か聞きたそうにしてる

 

 「何が言いたいんですの?」

 

 「いや・・・空気が無いってだけだったらそこまで魔法力を使わなくていいのかなって・・・」

 

あーーー、かなり重要な事知らないみたいだ

 

ちなみにこの世界の魔法力というものは水中もし落下して沈んでも、魔法力が持つ限り呼吸を必要としない

 

つまり水中での息継ぎを必要としないのだ

 

確かにここまでの話じゃ、空気が無い → 水中と同じように魔法力を使う 

 

・・・っていうだけの話だった

 

でも、空気が無い・・・つまり真空状態という事はーーー

 

 「あー駄目。それだけだったら確実に生物は死んじゃう」

 

 「え?どういう事ですか?」

 

んーどう説明すればいいかな・・・

 

と、ここで配られた水の入ったコップを見て閃いた

 

 「ここに居る皆はあまり知らないと思うけど、空気が無いって事は同時に気圧も無く、水の沸点が0以下になるって事でーーー」

 

水の入ったコップを台に置いて、魔法力を使って身長の半分くらいの魔法力の塊を作る

 

私の固有魔法・・・ハルトマンと同じ系列らしいけどかなり汎用性が高い

 

工夫すれば小規模ながらも、手元に ”真空の空間”を再現する事ができるのだ

 

 「今、見えないだろうけど私の手元にちょっとした真空・・・空気の無い空間があるんだけど、さっき私が言った事覚えてる?」

 

 「えっと・・・水のふってん?が0になるって」

 

 「うん、まあ簡単に言えばお湯が沸く温度って事だね。リーネ、高い山に上ってからお湯を沸かすとその沸点はどうなる?」

 

とりあえず博学のリーネに聞いてみる

 

 「えっと、気圧が低くなるから・・・沸点も同じように低くなります」

 

 「正解。それで、空気が無い・・・つまり気圧が存在しない又はそれに近いほど低くなる場所に水を持っていくとどうなるか・・・?」

 

手元にある真空をコップの上に被せるようにイメージをする

 

 ゴボゴボゴボッ

 

と、コップの中の水が突然沸騰を始めて瞬く間に気体となってコップから消える

 

 「さて、人間の体の60~70%は水分で出来てる・・・血液とかも水分だよね?

 

  という事はどうなるか・・・人の体っていうのは栓をした水風船と一緒

 

  そして、水風船に空気や水を入れすぎるとどうなりますか?分かる人挙手」

 

ここで挙手した人は居なかった・・・みんな絶句してる

 

ルッキーニに至ってはブルブルと震えてシャーリーにしがみ付いていた

 

 「だが我々はウィッチだ。ウィッチに不可能は無い」

 

少佐がそう言って部屋の照明を点灯させる

 

私が真空を解くと、その常温の水蒸気は沸点以下の通常気圧中に晒されて元の水に戻った

 

当然、逆再生のようにコップにきちんと戻るはずもないので周囲が水浸しになってしまった

 

とりあえず雑巾持って来よう・・・叱られる前に

 

 「そこで、瞬間的且つ広範囲に渡る攻撃力を備える物として・・・サーニャ、コアへの攻撃は

 

  お前に頼みたい。この作戦には、お前のフリーガー・ハマーによる攻撃力が不可欠だ」

 

確かにサーニャの武装、フリーガー・ハマーこと多弾倉ロケットポッドは501メンバーの中では

 

唯一爆薬による炸裂弾を用いる高火力の兵装

 

確かにコストは高いがミサイル程ではなく、非常に高い攻撃力を誇る汎用性に富んだ武器だ

 

ただ、一発一発が高火力な分弾数が他の銃器より圧倒的に劣り

 

継続戦闘能力が低いのが唯一の難点でもあるが、そこは部隊

 

互いにカバーし合えば何の問題も無い。一人ではないのだから

 

それで、多分もう一人名乗りを上げるはずだけどーーー

 

 「ハイハイハイ!!だったら私も行く!!」

 

予想通り、エイラが手を上げて付いていくと言い出した

 

まあ、サーニャもその方が安心して背中を預けれるだろうし問題ないかな

 

 「ふむ、そうか。エイラ、時にお前シールドを張ったことはあるか?」

 

 「シールド?自慢じゃないけど私は実戦でシールドを使った事なんて一度も無いんだ」

 

・・・・は?

 

 「なら無理だ」

 

 「うん、無理ダナ・・・え!?」

 

 「そうね、こればっかりは・・・」

 

 「な、何で!?」

 

それじゃ二人で行く意味が無いからね、エイラ

 

 「今回の作戦はさっき言った通り攻撃以外の魔法力の消耗が著しい

 

  そうなればサーニャ一人にシールドを張れるような余裕はない

 

  それならもう一人、攻撃はしないが守る為の盾となる人が必要だからね」

 

回せないのなら単一特化させればいい

 

攻撃特化、守備特化・・・互いの能力を最大限に生かすロッテを組んで作戦に挑む

 

 「わ、私はシールドを張れない訳じゃないぞ!!」

 

 「だが実戦で使った事はない」

 

 「その通りな~」

 

 「やっぱり無理ね・・・」

 

 「う・・・」

 

エイラよ、シールド張った事ないって・・・よく生き延びてこれたね今まで

 

・・・あ、そっか。エイラの固有魔法って確か”未来予知”だったね

 

敵の動きの未来が見えるなら回避するのは簡単・・・だから逆にシールドが必要ないのか

 

でも、守りなら必然的に・・・

 

 「宮藤、お前がやれ」

 

 「は、はいっ・・・え!?」

 

芳佳になるんだよね

 

一年経ってから芳佳の魔法力は安定し、より強力なものとなっていた

 

一年前も強力だったシールドが、より強固に大きくグレードアップしてるのだ

 

 「最も強力なシールドを張れるお前なら適任だ」

 

 「は、はい・・・!?」

 

 「グルルルルルルっ」

 

おいこらエイラ、芳佳を睨むんじゃない。怯えてるから

 

 「よし、それでは作戦日時は追って伝える・・・解散ッ!!」

 

と、いうわけで詳しい内容は後ほど通達される事になった

 

 

 

 

 

   ~翌日~ 

 

 

 

 「さて、それでは作戦概要のプランを聞きましょう」

 

再び執務室、本作戦の内容・・・どうやって二人の突撃班を成層圏まで打ち上げるか

 

 「まずレシプロストライカーを使うメンバーを五人程、第一打ち上げ班に

 

  それから残り四人のストライカーにロケットブースターを装着

 

  第一打ち上げ班がその六人を高度限界まで飛ばします

 

  高度限界到達寸前に第二打ち上げ班はロケットブースターに点火、一気に高度約28000mまで上昇

 

  到達次第、突撃班はロケットブースターに点火、軌道上に乗り次第攻撃

 

  尚、他の打ち上げ班メンバーは突撃班の上昇を確認次第速やかに離脱、基地へ帰還させます」

 

とりあえず、打ち上げる要領は多段式ミサイル・・・ICBM(大陸間弾道ミサイル)と同じだ

 

ロケットを数段に分割して積み重ねて、燃量が切れ次第次のロケットに点火させてさらに飛ぶ

 

これによって、弾頭である突撃班を高高度に”打ち上げる”事ができるはず

 

 「ふむ、お前が言うのならそれが最適だな」

 

 「えらく簡単に信用しますね・・・まあ私が思いつく最善の策だとは思いますけど」

 

お茶を飲みながら、私達(少佐を除く)は書類整理を続ける

 

 「でも、とりあえずはロマーニャ陸海軍に任せて様子を見ましょう」

 

 「そうだな」

 

 「ですね」

 

一応、名乗りを上げたロマーニャ公国軍に任せるという運びにはなったが

 

ストライカーユニットへのブースター装備を整備班に打診するあたり、アテにはしてないな中佐

 

 「所で、あなたはどうするんですか?」

 

 「?」

 

 「さっきの作戦で出てきた要員数は11人、それはあなたを含めずにという事なのですね?」

 

 「・・・はい」

 

 「何故?」

 

中佐、それはーーー

 

 「私達の世界の機体には、消耗が激しい故に機体寿命というものが設けられています

 

  それは私の機体然り、どんな機体にも存在します

 

  私の機体は・・・その機体寿命関係なく限界を迎えようとしています」

 

ラリーの言っていた通り、私は無理な機動を幾度無く続けて機体に負荷をかけ

 

その結果、通常の機体より早くそれが訪れてしまった

 

機体が・・・私が行う機動の負荷に耐え切れずに悲鳴を上げている

 

 「できるだけ・・・航空機としてではなく、戦闘機としての最後にしてあげたいんです」 

 

それが何を意味しているのかは分かってる

 

でも、それが私をここまで守り、連れてきてくれたイーグルに私がしてあげれる唯一の恩返しでもあるのだ

 

 「そうか・・・幸せ者だな、おまえの機体は」

 

 「そう思ってくれていればいいんですけどね・・・」

 

本当に、今まで生き延びれたのはイーグルのお陰だったから

 

 

 

その日の夜になって

 

 「・・・眠れない」

 

と、私はなかなか眠れずにベットから起き上がってしまった

 

そんな気を紛らわす為に散歩に出かける事にした

 

 

 

 「夜のアドリア海も綺麗だなぁ~」

 

基地海辺をのんびり歩く

 

海はいつも通り穏やかで、静かに砂浜に波打つ音が寂しげに続く

 

この基地は何かの遺跡にあるので、なんか古めかしい石柱やら神殿やらがそこらじゅうにあり

 

途中で途切れた水路からはきれいな水が滝のように海に流れ出している

 

 「かつての栄華、か・・・」

 

かつて繁栄を誇り、そして滅んだ国・・・私はベルカを思い出してしまった

 

結局の所、何でベルカが戦争を起こしたのかを調べる暇は無かったが

 

伝統のベルカ空軍と呼ばれた・・・敵のエース部隊は誇りを胸に戦っていた

 

でも・・・ベルカは自国の内陸地でこの世で最もしてはならない行為を行った

 

忘れもしない、1995年 六月六日・・・ベルカはその自国内陸地で、七つの核爆弾を同時起爆した

 

その中には、人が住む市街地も含まれていたのにも関わらず

 

そして大勢の罪の無い人達から・・・無意味な命を奪っていった

 

当時のイーグルアイが帰還後に言っていた

 

 ”狂ってやがる・・・軍人の風上にも置けない死人共が!!”

 

その時、その核爆発に近い空に居た私は・・・信頼する寮機に銃口を向けられた

 

核爆発によって発生したEMP・・・電磁パルスの影響で機体の計器にノイズが走り、レーダーも完全に死んだ

 

無常なミサイルアラートのみが、絶えずキャノピー内に響いて私の頭を混乱させていた

 

 「考えるのは、やめよう・・・」

 

今考えても仕方が無いのだ

 

自分に区切りを付けて、そのまま散歩を続ける

 

 「あれ?フィリアじゃん」

 

と、後ろから声を掛けられて振り向くとハルトマンが居た

 

 「どうかしたの~?」

 

 「なかなか寝付けなくてさ、気分転換がてら散歩してた」

 

 「ふ~ん・・・じゃあフィリア、ちょっと聞いていい?」

 

珍しく、ハルトマンが真剣な顔をして質問をかましてきた

 

 「・・・答えられる範囲でなら」

 

 「何であんなに強いの?」

 

 「私が強い?」

 

 「うん」

 

 「信じられるものと、信念・・・いや、これは絶対なのかな

 

  とにかく、自分が決めた事は絶対に守るって事かな」

 

 「自分が決めた事か~・・・フィリアが守るものってなに?」

 

私が守る事は・・・

 

 「向こうの世界だったら・・・もう戦意もない、逃げるだけの敵機を追わない事

 

  向こうでもこっちでも共通なのはーーー生き延びる事、仲間を見捨てない事」

 

 「・・・だから強いんだね」

 

 「強くないって・・・結局、裏切った仲間に引き金を引けなかったせいで

 

  新しく寮機になった人を墜とされて・・・」

 

私は分からなくなった・・・自分自身が相手から何を奪って、何を守る為に戦っているか

 

そして・・・何を失いながら空を求めているのか

 

 「あのラリーって人?」

 

 「うん、私の寮機だった・・・そして、一度は敵として対峙した

 

  それでも、私達には共通する・・・願いでもあり呪いでもあるものがあった」

 

 「?」

 

 「 ”生き残れ” どんな状況に置いても最優先される命令だった。今でも私の・・・私達の中でその命令は生き続けてる」

 

 「・・・・・」

 

でも逆に言えば、それは死ぬ事が許されないという呪いの裏返しでもあった

 

それに、同じ傭兵であってもラリーの信条は違っていたハズだ

 

ラリーは私に臆病者と言った

 

でも私はラリーに何も言えなかった

 

 「一応、私は軍じゃまだ新人パイロットだしね、戦場の何を知ってるかって聞かれても何も答えられない」

 

 「うん・・・私もそんなの答えられないよ」

 

 「だからね・・・逆にそれがいい方向に向いてると思うんだよね」

 

 「?」

 

 「私が堅物軍人を嫌う理由でもあるけど、とにかく自由に自分が貫く事をしたい

 

  堅物軍人って、何戦術やら何戦闘方式やら何規則やら・・・そんな枷でしかないものを強制してくるでしょ?」

 

 「あ~なんかそんな人しってる・・・」

 

言ってて・・・むしろその人物しか思い浮かばなかったけど気にしないで下さい某大尉さん

 

 「でも、私が会った当初より今は随分自由に戦ってるでしょ?」

 

 「うん、どこか重かったトゥルーデが、今はのびのびと戦ってる気がする。でも、それも宮藤とフィリアのお陰なんだよ?」

 

そういえばそんな事あったなと昔を思い出してみる

 

 「まあ、今がよければそれでよし。まだまだ硬い部分はあるけど、ハルトマンやミーナ中佐、

 

  それに信頼できる仲間や大切な家族を持ってるんだったら、後は言う事ない」

 

変わってくれる・・・いや、そんな人達が変えてくれる

 

 「・・・私にもできるかな?」

 

 「誰にだってできるよ。できなかったのならーーーー」

 

私は少し区切って、続きをハルトマンに言った

 

 「それは ”臆病者”だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

   場所はハンガーになり・・・

 

 

 「ロケットブースター装着作業完了っと」

 

整備主任は静かなハンガーで一人、最終チェックを行っていた

 

腰に付けた工具が、確認作業の度にガチャガチャと音を出し

 

その音が締め切られた広いハンガーにこだまするように響く

 

 「よし、コイツで最後だな・・・接続コネクターに異常なし、OKだ」

 

記入用紙にサインを書き込み、ハンガーの照明を落として主任は宿舎に戻ろうとした

 

 「あ~今回も新鮮な作業だったが、没頭しすぎて疲れちまったな」

 

整備主任がハンガーの全ての照明を落として重い金属製の扉に手をかけた、瞬間

 

 

  まだーーー一緒に居たいのにーーー

 

 

誰のものなのか判らない、不思議な声が整備主任の耳に届く

 

 「ッ!?誰か居るのか!?」

 

急いで照明のレバーを下げ、再び照明をつける

 

しかしハンガーには誰もおらず、唯の静寂しか存在しなかった

 

 「・・・気のせいなのか?」

 

まさか・・・幽霊?

 

そんな事を考えて少し身震いを覚えた整備主任は、さっさと照明を落として再び宿舎への帰路についた

 

 

 

 

  とある意識

 

 

 

 (まだ・・・一緒に居たかった・・・でも・・・)

 

もうすぐ終わる自分の使命に、喜びもせず、ただ悲しい思いだけがその意識にのしかかる

 

しかし、体はもうボロボロで動くのがやっとの状態

 

前の世界では既にスクラップにされていてもおかしくない状態を保ったままだった

 

 (いやだよ・・・こんな終わり方なんて・・・)

 

しかしその生涯を終えようとする、一つの意識の中に語りかけるものがあった

 

 

   まだ、一緒に居たいか?

 

誰のものなのかわからなかったが、その意識は縋るように願った

 

 (居たい・・・それができるのなら・・・許されるのならーーー)

 

 

   そうか、ならーーーー

 

 

 

 

夜はそうして更けていく

 

 

 

 

    翌日 

 

 

早朝から呼び出しを食らった私を待っていたのは、接触を図ったロマーニャ公国軍が壊滅してしまった

 

という報告だった

 

 「こう言うのも何ですが、結果は予想通りですね・・・」

 

 「・・・ええ」

 

 「・・・我々の出番だな」

 

予想はしてたが・・・

 

仲間を成層圏まで打ち上げる

 

501全メンバーを動員する一大作戦が決行される時が来た

 

 

 

 

 「と、言う訳だから第二打ち上げ班のメンバーは上着を着用するように。じゃないと凍るよ!!」

 

 「こ、凍えるを通り越して凍るのかよ・・・」

 

そりゃマイナス40℃以下の世界ですから

 

魔法力使ったとしても絶対に寒いだろうし

 

 「お、ルッキーニかわいいね~」

 

 「だろ?似合ってるよな~」

 

 「あ、あつい・・・」

 

ルッキーニがコートを羽織ってマフラー装着していた

 

普段のルッキーニの格好というものは薄着、身軽にって感じだったから厚着は新鮮だ

 

ちなみに第二打ち上げ班のメンバーはリーネ、ペリーヌ、ルッキーニ、そしてエイラ

 

比較的魔法力に余裕のある若いメンバーを用いたらしい

 

それにしても発案した少佐・・・あなたはもうシールドを張れないんじゃなかったんですか?

 

攻撃班は芳佳とサーニャ、変更はない

 

 「我慢だルッキーニ、成層圏は無茶苦茶寒いんだぞ?」

 

 「寒いのヤダ~!!」

 

 「はははっ。じゃ、これも付けてっと」

 

そう言いながらシャーリーが取り出したのは白い耳あて

 

それにしてもシャーリー、ここぞと言わんばかりにルッキーニを着せ替え人形にして楽しんでるな

 

 「それで、他のメンバーは?」

 

 「あ、私はバルクホルンさんのコートを貸してもらいました~」

 

 「私は問題ありませんわ」

 

 「了解~、後はサーニャとリーネだけど」

 

 「・・・私も、大丈夫です」

 

サーニャが何故か落ち込み気味に、私に報告しに来た

 

 「了解。サーニャ、どうかしたの?」

 

 「いえ・・・何でもないです・・・」

 

?何でもないっていう顔じゃないんだけど・・・

 

 「皆さ~ん、ジンジャーティーを淹れてみました~」

 

と、リーネがカーゴにティーセットのせて持って来てくれた

 

服装はというとやはり冬の重装備で流石はリーネ、しっかりしてる

 

 「ちょっといいか?」

 

と、私は後ろから手を引かれてハンガー出入り口に連れて行かれた

 

その人物は・・・エイラだった

 

 「どうかした?」

 

 「いや・・・どうやったらシールドを張れるかって聞きたくてな・・・」

 

ふむ、やっぱり諦めきれてないんだね

 

 「攻撃は避けるものではなく防ぐものとして認識する・・・守りの基礎だよ

 

  避けてばっかりじゃいつまでたっても守る術を見出せない」

 

 「・・・・・・」

 

 「まあ、これはあくまで理論。そんなに口で説明できる程簡単じゃない

 

  それにみんなそんな事考えてシールド使ってる訳じゃないしね」

 

 「じゃ、じゃあ、何が私に足りないんだ!?」

 

エイラに足りないもの・・・それは唯一つ

 

 「エイラには ”守りたい” って思う気持ちが足りない

 

  全く無いって訳じゃない・・・でも、お前は心の何処かで避ければいいと考えてる」

 

 「っ!!そんな事ない!!」

 

強気で否定するエイラだが、その手が震えているのが見て取れた

 

 「心の自分を否定しちゃ駄目。受け入れて、それから変えるんだよ」

 

 「・・・」

 

 「 ”私が、絶対に守るんだ” と。それで駄目なら私にはどうしようもない」

 

 「・・・やっぱり無理だ、私には・・・」

 

と、言って彼女はハンガーのドアノブに手をかける

 

 「あ、あともう一つ」

 

 「・・・なんだよ」

 

 「この作戦で、エイラが何をしようがそれは自由。だから反省文の用意はしといてあげるよ」

 

 「・・・・」

 

エイラは無言でハンガーに戻って行った

 

 

 

 

 「天候よし、気温よし、風向きも修正なし」

 

滑走路にて、打ち上げの準備を整えた501メンバーはその時を待っていた

 

 「カウントスタート、10・・・9・・・8・・・」

 

私は地上で待つだけなので、無線機器を持ってちょっと離れた所から様子を見ていた

 

 「・・・3・・・2・・・1・・・作戦開始!!」

 

その合図と共に、彼女達は空に上がっていく

 

 「離陸を確認。以後の段階移行は各自指示通りに。突撃班、幸運を祈ります」

 

無線を切って、空に昇っていくみんなを見送りながら私は一息を付いた

 

 「・・・さて、反省文の用意しとかないと」

 

エイラがやってくれる事を祈りながら私は執務室へと向かった

 

 

 

 

滑走路から執務室に行くのに一番近道なのはハンガーを通るのがいいんだけど

 

 「・・・そりゃ怖いな、俺達も魔除けか何か持っとくか?」

 

 「そうだな、ネウロイじゃなくて亡霊にやられたなんか俺は嫌だぜ」

 

と、何やら整備の人達が集まって会議みたいなの開いていた

 

 「こんにちわ~」

 

 「あ、よう」

 

 「こんにちわ」

 

ダウェンポートさんとハミルトンさんが最初に返事をして、それに続く形で皆が敬礼を私に向ける

 

 「あーよして下さい、年上の人に頭を下げられるのはあまり慣れてないんで」

 

 「そうは言っても嬢ちゃんは俺達の上官だ、これが部下である俺達の義務なんだよ」

 

 「はぁ・・・それじゃあもっと軽い感じにして下さい。これは上官命令です」

 

 「いや、しかし・・・」

 

それでもなお食い下がらない整備の人たち

 

よし、こうなったらミーナ中佐に教えてもらった ”男性なら誰にでも有効” の技を使うしかあるまい

 

 「・・・いいですよね?」

 

ちょっと目を潤ませ、上目遣いで訴えるようにお願いする

 

 「了解ッ!!」

 

おおう何か全員一寸足りとも乱れない敬礼を決める

 

儀仗隊も腰を抜かす程きっちり完璧だった

 

 「・・・誰だ嬢ちゃんにこんな技教えやがった奴」

 

なんか、凄い複雑な顔してる人もいればオロオロしてる人も居る

 

正直、コレ ヤルノ スゴク ハズカシイ・・・二度とやるまいと心に誓う

 

 「・・・分かった。そんじゃ俺はそのまま嬢ちゃんでいいとして、お前等どうするよ?」

 

 「娘っ子」

 

 「何でいきなり上から目線なんだよ」

 

 「蒼髪長髪っ娘」

 

 「髪型で人決めてんじゃねーよ」

 

 「鷹娘」

 

 「・・・さっきからお前等遊んでなイカ?」

 

と、まあ、何か面白そうにしながら皆で呼び名を決めていく

 

 「班長は ”嬢ちゃん” なんだろ?。だったら ”お嬢” でいいんじゃないか?」

 

 「・・・どうなんだ嬢ちゃん」

 

 「似合わないんじゃ?」

 

 「とんでもねえ、嬢ちゃんは嬢ちゃんだよ」

 

い、意味が解からない

 

 「つーわけで ”お嬢” に決定だ」

 

 「はあ・・・よろしく」

 

まあ、変に敬語使われるよりはそっちのが軽くていいか

 

反論はしないことにした

 

 「で、何の話してたの?」

 

と、さっき話してた話題に戻す

 

 「それなんだが・・・俺、このハンガーでゴーストの声を聞いたんだ・・・」

 

ゲッソリと整備班長の顔から血の気が引いていった

 

 「ゴースト?ルッキーニでも居たんじゃない?」

 

 「いや、フランチェスカ少尉みたいな呑気な声じゃ無かったんだ

 

  明かりを落とした瞬間に聞こえて、急いで明かりを付けたんだが・・・」

 

 「ハンガーには誰も居なかった」

 

何となく予想が付いた為班長の言葉の端を続ける

 

 「そうなんだ・・・それで、その事で今皆で話してた所なんだ」

 

なにやら退魔の道具やらお守りやらお札やらマトリョシカやら

 

作業用テーブルとなっている木箱(火気厳禁と衝撃厳禁の赤文字が鮮やか)の上に置いてあった

 

 「・・・私はハンガー諸共その幽霊を大気圏外までぶっ飛ばそうとしてるようにしか見えないけど?」

 

 「安心してくれ、中身は三分の二くらいしか入ってない」

 

三分の二入ってるじゃないですか!?

 

 「第一、それって悪霊なのか?」

 

 「それすら分からん。でもこのままじゃ得体の知れないものにビクビクしながら作業する羽目になっちまうぞ?」

 

 「「「イヤ、ビビってんの班長だけだから」」」

 

凄い、ここにいる班長を除く全ての整備兵さんの声がハモった・・・なんか感動

 

 「と、とにかく!!俺は中佐なんざ怖くねえが幽霊だきゃ勘弁願う!!」

 

誰に向けてるのか分からない土下座をする班長。中佐に向けてだと思っておこう

 

 「まあ幽霊居る居ないはいいとして、ちょっと機体を見たいんだけど」

 

 「それなんだが・・・前にここでできる最大限の整備は施したつもりだが

 

  メインフレームに目で分かる程の歪みがあった。恐らくもう・・・」

 

 「わかってる・・・もう限界が来てるっていう事は」

 

航空機は、部品によっては目では分からないヒビや亀裂が即墜落に繋がる

 

私のイーグルがそれ以上にまずい状態で空中分解を起こしてないのは奇跡とも呼べる

 

 「だから、最後は戦闘機として終わらせてあげたい」

 

 「!?無理だ、そんな事したらあんたがーーー」

 

 「それでも、構わない」

 

決めた事だから、私は迷い無くダウェンポートさんに伝える

 

 「だから、あの子に最後の整備をしてあげてください」

 

例えそれが唯の自己満足だとしても・・・私はそれを全うする

 

 「・・・了解した。それならアンタも整備に付き合え」

 

ダウェンポートさんは、頭を掻きながら引き受けてくれた

 

 「私も手伝います」

 

 「いいんですか?」

 

 「上官のする事には絶対に反論はしない・・・というのが以前の私の銘でしたから」

 

ハミルトンさんも引き受けてくれた

 

 「よし、それじゃあ今から整備する」

 

 「よろしくお願いします」

 

 「では、行きましょう」

 

三人で、イーグルが格納してある発進ユニットに歩み寄る

 

と、ここで私は不自然な点に気がついた

 

 「あれ?なんか・・・光ってる?」

 

 「確かに・・・何だ?」

 

 「不可解ですね、誰も触ってはいないハズなのに・・・」

 

イーグルを格納している発進ユニット・・・その上に被せてあるシートの隙間から僅かに青い光が漏れていた

 

 「おかしいな、誰か触ったか?」

 

 「いや、誰もそのユニットは弄ってないぞ」

 

整備班の皆も不思議そうに頭を傾げていた

 

 「ま、調べるに越した事はないな」

 

 「そうだな」

 

 「そうですね」

 

シートを取り払い、私のストライカー F-15Cイーグルが姿を見せる

 

そのイーグルの下に、誰も装着していないはずなのに魔方陣が浮き出ていた

 

 「まさか・・・幽霊の仕業じゃ・・・」

 

怯える整備班の面々

 

それを無視して、私はストライカーに歩み寄り、魔方陣の中に立つ

 

すると魔方陣はさらに大きくハンガーに広がり、やがて基地全体を覆う巨大な魔法力の塊となる

 

 「何だこりゃ・・・何なんだこの膨大な魔法力は!?」

 

 「分かりません!!でもこのままじゃマズイ事に!!」

 

 「見りゃ分かる!!総員退避しろーーーー」

 

整備班の皆が物陰に退避するのを見ても、何が起きているのか分からなかった

 

でも、私の体が青い魔法力の光を纏い始める

 

視界を真っ白に覆われ、やがて自分の目が開いているかどうかも判らなくなった

 

そんな状態で、頭に直接響く声があった

 

 

  ふむ、やはり見込んだ通り不思議な人間よ

 

 

何が?と、口を開こうとしても声が出ているのかどうかも疑わしい

 

 

  しかし、お主のような輩は私が見てきた人間の中では初めてだ

 

 

男なのか女なのか、区別が付かないその声の主は続ける

 

 

  そんなお主に、我からのささやかな贈り物を授けよう

 

 

と、そんな声が聞こえてから私の魔法力が吸い取られてゆく

 

抗う暇も無く、やがて意識を保つのが困難になって耳も遠くなっていく

 

 

  ”守られていたものを、守る為のものに” 

 

  この変換を行うにあたってお前の魔法力と体の情報を拝借する

 

  世界と戦うという己の運命に、命を賭して抗い続けるがよい

 

 

そんな言葉を聴いた瞬間、私の意識は一気に闇に落ちた

 

 

 

 

 

そんな時、上空のメンバーは無事任務を終えて基地に向かって降下していた

 

空中で合流して、全員の無事を確認してから雑談をしていた

 

 「全く、エイラも無茶しおって・・・」

 

 「そうね、反省文の手配を頼んでおきましょう。二組程」

 

 「う・・・わかってるよ・・・」

 

 「あれ?でも何で二組なんですか?」

 

 「そういうふうに仕向けた部下にーーー!?」

 

501メンバー全員の第六感が、強力な魔法力の波長を感じ取った

 

それは、およそ一人のウィッチではありえない程膨大な魔法力の放出

 

巨大な爆発のような魔法力に全員がその場に留まった

 

 「あれって・・・魔方陣ですか・・・?」

 

と、芳佳が指を指した方向を見ると青く光る土地があった

 

 「基地の方面・・・各員、急いで基地に帰投しなさい」

 

 「「「了解!!」」」

 

 

 

 

 

 「基地が・・・」

 

基地に戻った501のメンバーを待っていたのは、魔法力の塊によって全体を覆われた501の基地だった

 

 「各員、突入します」

 

確認を取るまでもなく、基地を覆う魔法力のドームの中に進入する501のメンバー

 

 「何だこれは・・・」

 

 「不思議です・・・」

 

ドームの中は不思議な空気で満たされており、それ以外は特に変わりが無い普通の基地だった

 

滑走路に降り立ち、魔方陣の中心点であるハンガーの内部に向かう

 

しかしそれと同時に開放された魔法力が鎮まり始め、やがて魔方陣も消えていく

 

 

 ヒュゥゥゥッ・・・

 

 

と、不意に周りの空気がハンガーに吸い込まれて行くのをミーナは感じた

 

 「・・・っ!?皆滑走路の脇に退避して、急いで!!」

 

そして本能的に、危険を察知したミーナが言葉を発して滑走路脇に離脱する

 

 「へ?あ、うわぁっ!?」

 

反応に遅れたメンバーを年長組が引っ張って退避する

 

 「一体何ーーーっ!?」

 

瞬間、ハンガー内部から爆風とも呼べる程の風圧で様々な工具やその他物品が高速で滑走路に投げ出される

 

そのままの場所にいたら大怪我を負っていたかもしれなかった

 

 「あ、危なかったです・・・」

 

 「な・・・何が起きたらこうなるんですの?」

 

 「・・・もう大丈夫ね、総員、警戒しつつハンガーに戻りましょう」

 

そう判断したミーナを先頭にしてハンガーを進む501のウィッチ

 

ハンガー内に続く滑走路には何も落ちておらず、埃一つない

 

かなり強力な爆風で先程の工具が飛ばされたとミーナは推測した

 

 「(魔法力の暴走?それでも規模が異常に大きい)」

 

ハンガー内部にタキシングしながらゆっくり奥に進む

 

メインハンガーに到達した時、整備班が一箇所に集まっているのが目に入った

 

 「何が起こったのか、報告をお願いします」

 

近くに居た一人の整備兵に状況を聞く

 

 「いや、私達にも何が起きたのか解からないんですが・・・」

 

困ったような顔をする整備兵のもとに、整備班長がやってくる

 

 「そんな怖い顔しないでください。俺も皆も、何が起きたのかわからないので」

 

 「そう・・・格納ユニットは?」

 

 「二番と五番に工具が直撃してましたが、どちらも点検済み、格納可能です」

 

 「了解しました・・・ウィッチ各員、ストライカーユニットを格納して待機」

 

その指示に従って、ユニットを格納する501ウィッチ組

 

 「それで、フェイリールド大尉はどこに?」

 

 「・・・こっちに来て下さい」

 

と、整備班が集まっている格納ユニットの前に案内される

 

 「気を失っているだけ・・・なんですが、一体これは・・・?」

 

そのストライカー格納ユニットにストライカーは格納されていない・・・しかし

 

 「この子は・・・?」

 

気を失ったフィリアと手を繋ぐ、フィリアとよく似た小さな少女

 

その繋がりは、絶対的な信頼と想う気持ちの表れなのか

 

互いに強く、しっかりと手を繋いでいた

 

 

 

 

    ~これは、鬼神と謳われた一人のパイロットと

 

         人に成る為に”空”を捨てたボロボロの戦闘機の

 

                 二人が紡ぎ出す小さくも大きな物語~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 更新遅れすみませんでした

 

 やっと・・・やっと物語のメインルートに入る事ができました

 

 (よくわからないという人はタイトルをご覧あれ)

 

 この物語はまだまだ続きます

 

 次回!!虫、パンツ、尻、そして・・・(これだけじゃカオスじゃんけ)

 

 意見感想募集中

 

 誤字脱字、又は知識訂正などあったのなら

 

 どんどん感想にお書きください

 

 次回もよろしくお願いします

 

   

 

 

 

 

 

 

 

 


 
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