#1 羊の朝は早い!
耳元で声がする。
「冥、メェイちゃぁーん…おーい羊のメーさん。狗月冥、起きろー」
私を呼ぶ声。しかもよく知っている声だ。
私は目をうっすらと開けるとそこには私の幼馴染、六道夕里が訝しげにこちらの顔を覗き込んでいた。
「後五分~」
そう言ってベッドの中に潜り込もうとする私を邪魔するように夕里は私の被った布団をひっぺがし、
「新学期早々に遅れるぞ~、ほれ私が着せてやろうではないか。なぁに痛いことはし・な・い・か・ら!」
と怒鳴りつけると、私の着ていたパジャマを脱がせるべく、迫り攻める夕里の手が私のか弱ぁい美肌へと届く前に、私の鋭い手套が頭にクリーンヒット。
「かこほっ!痛いよ、冥さん」
「寝起きのセクハラ止めい。着替えぐらいは一人で出来るわ。ところで夕里さんや、春の姿が見えないんだが……」
春というのは私、狗月冥の妹。一卵性双生児だけど似ているのは容姿だけ、性格も趣味も恋愛対象も違うそっくりさん。ちなみに私ラ双子を知っている人には眼鏡を掛けている方と言えば大体通じる。
そんな一つ屋根の下で暮らしているはずの妹の行動を尋ねると、
「は、冥お嬢様。春お嬢様は20分前行動を心がけているため、既に家を出立され、学校に向かいました」
と大きな声で、ド丁寧に教えてくれる。そのウザさと五月蝿さがまた煩わしいく寝起きの頭に響く。
「妹よ、何故起こしてくれなかったのよ。お姉ちゃんは悲しいよ、トホホ」
「ところで冥さん。そろそろ遅刻するべな、早く起きんしゃい。ほぉら制服もあるべ、私の華麗なテクニックで即時お着替え完了よ」
「はぁもう降参。夕里さんにお願いするわ、お・き・が・え」
その言葉を待ってましたと言わんばかりに夕里の手には既に私の制服が皺になるくらいがっちりと握られており、再び着ているパジャマを脱がすべく、その白くて細くて長い両腕をゆらゆらと伸ばすけれど、私はそれに抗う事無く、ゆっくりと前のボタンを外されて、私の瑞々しい程の白い柔肌が顕になっていく。
肌に触れて欲しいのに夕里は決して触れてくれないの。私は恥ずかしさと煽情的な夕里の手に体は火照るけど、そんなのお構いなしに私の体を開放的にしていくなんて、こう色んな物を期待してゾクゾクしちゃう。勿論エロス的に。
「そうもっと触れていいの!私の体に!気持ちいい所に。触って!撫でて!弄ってぇ!」
「五月蝿いよ、冥さん。デカくもないくせにサポートブラ付けてんだもん。なんか…涙ぐましいね、Aカップ」
「ウルセー、Bはあるわ!…多分…」
身長150センチCカップのチミっ子に同情された私にボケる元気もなく、夕里から渡されたセーラー服に着替え、ついでに渡された鞄と機関銃を背負う。
「夕里さんや、ナチュラルに機関銃を渡さないでくれるかしら?」
「待ちなさい、銃身が曲がっていてよ」
「不良品!?」
「それ今日の小道具だから持っといて」
「全く夕里さんの部は何をしているの?妹がお世話になっているかと思うと心配しちゃうわ」
ため息混じりに腕に時計をはめて初めて気がつく、予鈴まで後十分だってことに。うん、無理だ。
「諦めよう。今日は休みね。狗月家に遅刻の文字はないの。ごめんなさい貴女まで巻き込んでしまったわ」
この間ベッドに潜るまで約三秒、夕里にお姫様抱っこされるまで約三秒。
「冥さん、最後まで諦めんな~。ここが戦場だったらお前は白旗を上げたまま殺されてたんだぜ。まあこんな事もあろうかとここから30分掛かる道のりを3分で攻略する手段を私は持っている」
夕里は手首に巻かれた怪しい時計が空間に画面を映しだす。
夕里はこなれた様子でピピっと操作すると、一つのマットが転送される。
私はそのマットに見憶えがあったけど、思い出したくない奴だ。
それは夕里特製秘密道具の一つでマットに描かれた鳴門海峡の渦に飛び込むと別の場所に移動できるワープ装置だったと思う。
確か一昨日もこれを使って街外れにあるパノプティコン監獄に行った訳で…。侵入罪で罪科がつきそうになるわ、翌日は吐き気とめまいで立ってらんないわだった。
「ノー、夕里さんこれに私は乗りたくなぁ~い、この装置は使いたくなぁい。これはまだ実現できてない科学っぽいし、今の魔法社会でも実現できてない系の奴だよ~。やだ~、これ乗ると絶対吐く!五臓六腑が腐っちゃうってヴぁ~。死んじゃうって絶対!」
眉間に皺よせて抗議しても無駄。私はお姫様抱っこされたまま、夕里さんもろとも渦の中へと綺麗にダイブ。
渦の中では視界がすごい速さで回転し、あわよくば夕里にキス…なんて甘いこと言えない位、全身を襲う強烈な揺れに襲われて、気がつけば、頭の中からこめかみをグリグリと押し潰すような痛みと、腹の底からこみ上げる酸味のある吐き気で、自分を見失いそうになる。
「ここはどこ?私はだぁれ?……おえぇぇ…あー気持ち悪っ!」
いつの間にやら地面に突っ伏していた私は先ほど持たされた機関銃っぽいものを杖代わりに、なんとか体を起こすとそこはもう街を見渡せるほど開放的なコンクリート建造物の上だった。つまりここは私が通う国立魔法学研究機関付属フローライト高等学校の屋上。
「夕里ぃ~。みず…ちょうだい…」
「ふむ、転送は成功、だけど人類種の三半規管にある程度ダメージを与えてしまう…か。商品開発部の議案にはまだ出せそうもないか…はいはい冥お嬢様。教室いくよー」
私は再び夕里にお姫様抱っこされながら教室へ、夕里の顔が近くて、ぐっと寄せれば熱いベーゼも出来る距離。
「冥さん、顔近づけないでね、ゲロくさいから」
私の考えなどお見通しという結果、私は結局ハンカチを口に当てたまま教室へ大人しく向かうのでした。
その日が私にとって運命が変わる日だということも知らずに……。
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オリジナル連載作品予定です。
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ジャンルは百合ファンタジーアクション
やりたいことをやってみる系です。