No.553797

人形の恋

しばしばさん

兎虎・「吸血姫美夕」とのダブルパロです。シリアスメイン。モブが狂言回しの役となっております。

2013-03-10 23:06:19 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:852   閲覧ユーザー数:852

 冷たい雨が降り注ぐ、街の中の小さな公園で。

 私は確かに、“彼等”を目にしたのでした。

 そして、その日から。私は、片方の彼…黒いフードとマントに身を包んでいたあの人に…恋をしたのだと思います。

 

 私は、一人で夜道を歩いていました。

 ここは、通学路から離れた遙かに離れた場所にある、小さな公園です。

 周囲にはぐるりとフェンスが張り巡らされ、月のおぼろげな光によって、ブランコや滑り台、ベンチや砂場などが青白く輝いています。

 時間が時間だけに、一人の子供の姿もありません。日中ならば、賑やかな笑い声に包まれているここは、静けさと相まって、どこかしら冷たい空気が流れているようにも感じます。

 けれど、私は怖くありません。むしろ、この静けさが心地良いのです。

 それに。明るい太陽の光が溢れる昼間でも、私は常に一人なのですから。

 私には、友と呼べる人がいません。親しく話をする相手も。

 14歳という年齢ならば、本来なら友達に囲まれて、学校に、また遊びにと日々を目まぐるしく謳歌しているのが普通なのかもしれませんが。

 あぁ、だからと言って別に私が周りからいじめられている、というのでもありません。

 私は私自ら、交友という事を拒否しているのです。

 何故なら。私は、みんなとは違うので。

 

 

 私には、人間にはない能力があります。

 そう。私のこの両目は…ヒトならざるモノを視てしまう。

 私は、邪眼と呼ばれる、あやかしの力をこの身に備えているのです。

 もちろん、冗談でも妄想なんかでもありません。思春期特有の、自分勝手な空想とも違います。

 私が人には視えていないモノを目にし始めたのは、いつの頃からだったか、はっきりとは覚えていませんが。

 物こごろ付いた時分より、私の周囲には、おかしなモノ達が存在していました。

 人間とは全然違う姿形をした、異形の生き物。

 今でもよく覚えているのは…幼稚園の先生の背中に張り付いていたモノです。それは長い髪をした、険しい顔付きの中年の女性でした。

 女性は、先生の肩に手を掛け。血の色の瞳で、いつも先生を睨んでいました。

 私はその人を見るたびゾッとして。いつも先生を見ては、大声で泣いていたものです。

 先生が怖かった訳では無論ありません。先生は優しくて可愛い人で、園児達には人気者でしたし…けれど、先生の背後にいるモノは、全然綺麗じゃなくて。醜く歪んで、どうしようもなく恐ろしかったのです。

 私は、先生が好きだったので、いつも先生に“後ろになにかいるよ。先生、こわいよ”と訴えていましたが。当然、先生はおろか、他の人間にもそんな異形が見える筈は無かったので。私の事を、先生は困惑しつつも、何を言ってるの?何もいないわよ。怖がらなくていいのよ。と。柔らかく諭すのみだったのです。

 

 

 ──そうこうする内。先生は、段々と病気がちになっていきました。

 あんなに元気だった人が、一日一日を過ごす内に、顔色が悪くなり。

 立って歩くのも辛そうになって。生気を失って……

 そうして、ついには休職してしまったのです。

 先生は園を去って、入院しましたが。その後…幾日も経たない内に、亡くなってしまったのです。

 先生は健康体でした。年だって若かった。だから急死なんて、どう考えてもおかしいのです。

 それでも、先生が死んだことは事実で。私たちは、副担任の先生に伴われて、亡くなった彼女のお葬式に出向きました。

 そこで私は視たのです。

 先生の棺の上で…顎を仰け反らせて高笑いしている、例の女性の姿を。

 ……これは私が少し大きくなってから、人伝に話ですが。先生は、驚いた事に不倫をしていたそうです。母親達が、葬儀の間、一か所に固まってヒソヒソ話していた事は覚えていますが。まさか…先生が、そんな事をしていただなんて。

 先生は独身でした。けれど、愛した人は、妻のある男でした。

 私が葬儀の日に視たモノは…あれは、男の人の奥さんだったのでしょう。

 何でも、奥さんは不倫の事が判った後、自殺していたそうです。

 あれは…死霊で。先生は、奥さんに憑り殺されたのです。

 ……そして。

 それから先も、私はずっと…この目に、常人ではないモノを写し続ける事になったのです……

 

 

 以上のような理由があるから、私が人との関わりを極力避けるようになった事、判るでしょう?

 人間ではないモノを視てしまう私にとって、他者とのコミュニケーションを取る事は、とても苦痛なのです。

 愛想よく笑っていても、相手の背後に化け物の姿を見てしまう。そうすると、もう笑顔なんて浮かべられません。顔が引き攣ってしまうのです。

 人は大なり小なり、ナニかを憑けているのですから。

 それは無理もない事ですけど。だって、聖人君子なんて、そう簡単にいるものではないのです。

 だから私は一人でいる事を選びました。その方が、ずっと楽だから。

 友達なんていらない。外面だけの交友なんて、欲しくない。

 14歳になるまで…私は頑なに、そう思い続けて来たのです。

 

 

 でも。

 あの日。あの雨の夜以来…

 私は、初めて。“彼”を欲しいと。そう思ったのでした。

 

 

 

「お嬢ちゃん。こんな遅くに、一人で何してんだ?」

 公園のベンチに腰掛け。微動だにしなかった私に、誰かが声を掛けてきます。

 深夜に近い時刻。こんな場所で、女の子に近寄ってくる者は、警察官か素行の良くない人種のどちらかに大まかに区別されます。

 けれども、この声の主はどちらでもありません。私には判っていたのです。

 だって…彼等を初めて視たのは、他ならぬこの公園だったのですから。

 そして、私は彼等を待ち望んでいたのです。

 私は嬉々として、顔を上げました。

 ──邪眼に写った人影。それは、二つ。

 一人は東洋人のような、綺麗な濡れ羽色の黒髪。健康そうな小麦色の肌。

 オリーブグリーンのシャツと、ネクタイ。白いベストに黒のトラウザースを纏っている身体は、驚く程にしなやかで。瞬く瞳は、見惚れるような蜂蜜色。

 優しい顔立ちに、悪戯っ子のような微笑を浮かべています。

 年齢は…よく判りません。だけど、若いと思います。あくまでカンですけど。

 私は男の笑顔をじっと見つめると…そのまま視線を逸らし。彼の後ろに立つ人を、まじまじと凝視しました。

 ……その人物を、明るい陽の下で見たら、普通の人だったら肝を潰すかもしれません。

 彼、は。全身を覆う黒いマントを羽織っていたのです。それだけではありません。

 なんと、顔には白い仮面を付けているのですから。

 表情が見えないというのは、怖いものです。

 しかし、私には彼は少しも恐ろしくなどありません。だって、もっともっと怖いモノを、子どもの頃から視続けてきたのですから。

 それに、彼は顔が判らなくても、気品がその身に漂っていました。

 黒ずくめの男は、黒髪の男の人の後ろに、まさしく影のように佇んでいます。

 私は嬉しさで、ぞくりと四肢を戦慄かせました。

 

 

「もしかすると、家出?だったら、そりゃあ良くねぇぞ?女の子が一人で、こんな時間フラフラしていたら駄目だろうが」

 悪いオジサンに捕まっちゃうぞ?

 黒髪の男が、苦笑して言います。

 私は、緩く首を振りました。

「違います。家出じゃありません。私は…あなた達を待っていたんです」

 真っ直ぐに目を見つめて言います。と、男は首を傾げました。

「俺達?何で?」

「あなたに…お願いがあって」

 私、前にあなた達をここで見かけた事があるんです。その時以来、ずっと…もう一度会える時を、待ち続けていたんです。

 一気に口走って、もう一度二人を見つめます。すると、男がはんなりと笑いました。

「お嬢ちゃん、俺達を…見たんだ?コイツも…見えたんだな?」

 くい、と指で男が背後の黒ずくめの人を指します。

 私は、ええ、と答えました。

「見ました。雨の降った夜でした。あなた達は、二人で…この公園で」

 誰かを殺していたでしょう?

 抑揚のない囁きを漏らします。

 と。男は少し目を見張り。継いで、にぃ、と口の端を吊り上げました。

 

 

 そうです。この二人は、冷たい雨が降り注いでいる日に…この場所で。

 人間を一人、その手に掛けていたのです。

 私は、はっきりと覚えています。けぶる空気の中、黒づくめの男が。白い指先から、鋭く光る長い爪を出し。被害者の喉を、掻き切っていた事を。

 水滴に混じって飛び散る朱。

 うつろに見開かれた、犠牲者の眼。スローモーションの映像のように、倒れて行く身体……

 それらを全て。私は、この目で見ていたのでした。

 

 

「あの時は、結界を張っていたんだけどな。それでも見えたって事は…それに、その気配…」

 男が探るように私を眺めます。多分、普通の人間じゃない、霊感でも持っているのか、とでも言いたいのでしょう。まぁ、その通りなんですけど。 

 私は、にっこりと微笑みました。

「だけど、そんな事はどうでもいいんです。言ったでしょう?あなたにお願いがある、って。私、欲しいものがあるんです」

 ベンチから立ち上がり、男の前で小首を傾げてみせます。

 黒髪の男は、眉根を寄せました。

「もしかして、金品要求?そりゃあ無理だ。オジサン、貧乏だからなぁ」

「口止め料なんかじゃありません。私が欲しいのは…」

 あなたの後ろにいる、その人。

 彼を、私に…下さい。

 あくまで笑みを絶やさず呟きます。

 男は、私の声音に、蜂蜜色の双眸を鈍く光らせました。

「コイツ?」

「えぇ」

「……何で、また」

「その人が、とっても綺麗だったから」

 無言で佇んでいる男の人を横目で見ながら囁くと。

 黒髪の男は、くくっ、と喉奥で笑い声を立てました。

 

 

 

「悪いけど。コイツは…バニーちゃんは、やれないなぁ」

 ……バニー?変わった名前。もしかすると、愛称か何かかしら?

 一瞬、心の中で首を傾げます。けど、今はそんな事はどうでもいいのです。

 私は、ぐっと下腹部に力を込めました。

「……あなたに、そんな事言える権利がありますか?あなた達は、人殺しなんですよ?」

 警察に言ったら、逮捕されてしまうかもしれないのに。

 強気で責めてみます。けど、男は変わらず薄い笑みを浮かべているのみです。

 私は、思いっきり男を睨み付けました。

「それとも…私の口を塞ぎます?」

 それは、可能性としては一番高い事。

 でも、私は不思議と…彼等がそんな卑怯な真似はしない、と。心のどこかで確信もしていました。それは霊感のなせる技だったのかもしれませんが。

 とにかく、私はあくまで強気を貫く事にしました。

「いいじゃないですか。その人をくれれば…私、あなた達がした事を黙っていますから」

「……」

「それに、その人…人間じゃないんでしょ?」

「お。そんな事まで判っちゃう?」

 大したもんだなぁ。

 今度ははっきりと、男が笑い声を上げます。

 私は、拳を強く握りしめました。

 

 

 ──私には、人には見えないモノが視える。そして、黒づくめの彼は…人外のモノだと。

 私の本能が教えてくれるのです。

 あの人は、異形の存在だと。

 だからこそ…あんなに美しいのだ、と。

 ──えぇ。私は、あの黒づくめの人の素顔を見たのです。

 あの、殺戮のあった夜に。

 

 

 

 鋭い刃物のように、長い爪をひらめかせ。

 人間を殺した彼。

 その時、彼は仮面を付けてはいなかった。ほの白い月光に晒されたのは、まばゆいばかりの金糸の髪に…翡翠の色の瞳。

 月明かりに映えるその顔は、背筋が凍る程に美しく。

 血飛沫を浴びても。その美貌が損なわれる事などなかった。

 夢のように…綺麗な人。

 それは人間じゃなくても。私の心を、鷲掴みにしたのです。

 そして。私は、彼に一目ぼれをしてしまったのです……

 

 

 

「私は、ずぅっと一人ぼっちだった。この、変な力のせいで…人といるのが苦痛だった。

人が嫌いなんです。だけど、その人は魔物でしょう?それなら、一緒にいても…私は…」

「お嬢ちゃん、バニーちゃんに恋しちゃった、ってワケ?」

 ずばりと言われ、思わず頬を赤らめてしまいます。

 それでも。私は負けませんでした。

「だって、その人キレイだから!いつも私が視ている化け物なんかとは、全然違うんです!キレイで…優しそうで…」

 それに、その人は。あの雨の夜、あなたをとても大切そうに…抱いていた。

 死体には目もくれず。成り行きを見守っていた黒髪の男を、守るかのように腕の檻に収めていた。

 血の匂いで噎せる世界で。二人の姿は、神々しいまでに美しくて。

 男を見つめる、彼の双眸が甘く、秀麗で。

 その時の瞳が忘れられない。愛しさに溢れた視線が……

 私には、とても羨ましかったのです。

 私も欲しい。あんな風に、私だけを見てくれる人が……

 人間じゃダメ。人間は嫌い。人間は醜い。汚い。

 あの人がいい。あの魔物が…いい!彼が欲しい!!

 だから、あなた達をずっと探して。再び会える時を夢見ていたんです。

「欲しいんです…その人が欲しい…下さい。私に…下さい。彼じゃなきゃ、イヤ…」

 何度も何度も繰り返す。なのに。目の前の男の人は、私を憐れむような目をするばかり。

 ……やめて。何で、そんな目で私を見るの?

 人殺しのくせに。犯罪者のくせに!彼を渡してくれれば、黙っていてあげるって言ってるのに!!

「ちょうだい…欲しい…ねぇ…私に彼を…渡せぇぇッ!!」

 刹那。

 私の怒声が終わらぬ内に。全身がカッ!と熱を帯びたかと思うと。

 何かが、身体の中から…爆ぜる感覚がありました。

 目の前が鮮血色に染まります。血液が逆流するかのような感覚。

 皮膚という皮膚が、粟立ち。そして。そして……

 気づいた時には。

 黒髪の男の人のお腹を。植物の枝のようなモノが、真っ直ぐに貫いて…いました。

 

 

 

 音もなく倒れる人。ゆっくりと…地面へと、仰向けに崩れて行きます。

 腹部を深々と抉っている太い枝。まるで大地に磔になっているような姿。

 何が…何が起きたの?判らない。どうしてあの人のお腹に、あんなモノが刺さっているの?

 あぁ。凄い血。身体が小刻みに痙攣している。あんな深手じゃ、死んでしまうかもしれない。

 ……そうね。死ぬんだわ、彼は。私の願いを聞き入れてくれなかったからよ。

 男はいなくなる。そうしたら、私はあの人を手に入れられる…!

 激しい歓喜が全身を貫きます。私は、黒づくめの彼に近付こうと、片手を伸ばしました。

 けれど。

 私の目に写ったのは……

「──虎徹さん」

 地面に片膝を着き。血塗れの男を抱き、そっとその頬を撫でている…かの人の姿。

 白い指先が、愛しそうに何度も愛撫を繰り返しています。

「これくらいで死ぬ貴方ではないでしょう?僕を困らせないで下さい。さぁ、目を開いて…僕の愛しい“監視者”……」

 笑みを含んだ声で。男に囁き掛け。

 彼は、おもむろに自分の顔に左手を宛がうと。仮面を取ったのです!

 ──闇の中、浮かび上がる美貌。

 煌めく金の髪。長い睫毛。端正な横顔。緑の……瞳。

 

 

「……!」

 私は、頬に血を昇らせました。

 やはり、あの人だ!彼だ!美しい魔物だ…!

 変わっていない。初めて見た時と。何も変わっていない…!

 やめて。その男に触れないで!あなたは、私が貰うんだから……!!

 心の中で絶叫する私に構わず。

 彼、が硬く目を閉じた男に口付けをしています。

 その瞬間。私の身体は、怒りの炎に包まれました。

「イヤっ!!他の人間になんか、触れないでぇっ!!」

 さっきと同じように、視界が血の色に変化します。

 そして。ナニかが発動するような衝撃。

 ──しかし。

 ソレ、は唐突に遮られました。

 胸を貫く、光によって。

「……ぁ…?」

 細く声を漏らして、私は動きを止めました。

 なに?胸が…痛い。息が苦しい……?

「……!?」

 おそるおそる視線を下に落します。と、私の瞳が捕えたものは。

 私の胸を貫通している、銀色の爪……でした。

 

 

 ごぼっ、と唇から血が溢れます。私は、激しく咳き込みました。

 痛い…痛くてたまらない!何で?何故、こんな…!?

 動揺する私を、無機質に一瞥して。金の髪の彼が、ゆっくりと腕を引きます。

 それに伴い引かれて行く長い爪。肉を抉られる激痛。

 ……やがて、完全に凶器が抜けると。私はそのまま、がくりと膝を着きました。

 血液が口から次々に溢れ落ちます。喉が噎せって、苦しい。

 その私を、翡翠の瞳が見据えています。

 彼は、ゆっくりと唇を開きました。

「……神魔は、狩られなければならない。それが、この人の…虎徹さんの背負う、業なのだから……」

「…え…?」

 シンマ?何の事?

 私は、普通の人間なのに。何を言っているの、この人…!?

 はくはくと口を動かします。が、もう声は出ません。

 私は、地面に倒れ伏しかけて…そこでようやく、己の姿に気付きました。

 身体から…木の枝が出でいる。掌が、樹木のように…硬く硬化している。

 髪の毛も、枝に変わっている。

 私の肉体から、触手のような無数の枝が……!?

 じゃあ。さっき、男を貫いたのは、この私の…!?

「……気付かなければ良かったんだよなぁ、お嬢ちゃん。覚醒しなければ…俺も判らなかったのに」

 唐突に振って来た言の葉。それは、死んだ筈の、黒髪の男のモノ…です。

 彼は、息絶えてはいない。

 金糸の彼の腕に抱かれ。静かに佇んでいるではありませんか。

 ……霞む目を凝らしてみれば、男の様子も異なっています。

 白い着物のような衣服を纏い。丈の短い裾から、すらりとした二本の足を覗かせ。

 細い腰を締めるのは、血の色の長い帯。

 蜂蜜色の瞳が、金褐色に輝き……

「あ…あなた、は…?」

「──俺の名は、鏑木虎徹。人間と、吸血姫の血を引く…闇の狩り人。“監視者”と呼ばれる、異形の生き物。そして」

 お嬢ちゃんのような、闇の世界から抜け出して、人間世界に紛れ込んでいる『神魔』を狩り。元の世界に封じる宿命を背負う者。

「コイツは、バニー…バーナビー・ブルックスJr。元々は、お嬢ちゃんと同じ神魔だったけどな」

 俺を襲って来たんだけと。反対に、血を吸ってやって…下僕にしたんだ。

 バニーは俺の奴隷であり、ガーディアンでもある。

「バニーちゃんは、俺の大事なバディなんだ。だから…お嬢ちゃんにはやれない。悪いな」

 お嬢ちゃん。アンタは、はぐれ神魔だ。

 自分の真の正体も知らず。人だと盲目的に思い込んで…生きて来た。

 けど、バニーに恋した事によって、本来の姿に目覚めた。

 その姿を見れば判るだろ?お嬢ちゃんは、人間じゃない。闇の生物だ。

 つまり。

「俺が狩るべきモノ。お嬢ちゃん、闇に還れ。ここはアンタの生きる場所じゃないんだ」

 ひらり、と男…虎徹と名乗った彼の手が、宙を舞い。

 掌に、紅い炎が揺らぎます。

 それは、瞬く間に灼熱の塊となりました。

「ごめんな…でも、これが俺の定めなんだよ…」

 済まなそうな声。

 と、同時に。私の身体は、業火に包まれました。

 

 

 

 肉が爆ぜ、焦げ。炭化していくのが感じられます。

 きな臭い匂い。言葉に出来ない激痛。

 生きながら、燃やされる……

 私は、炎に視界を奪われながら、ぼんやりと思いました。

 私は人間じゃなかった。だからこそ、人が…嫌いだったのだ。

 私の本性は、魔物。魔だから、人に視えないモノが視えて。

 そして、同じ…美しい神魔である、あの人に恋してしまったのだと……

 

 

 何も判らなくなっていきます。

 最後に私の目に写った映像。

 それは、一対の……綺麗な神魔と。哀しい微笑を口元に滲ませている、白い着物の男の姿でした……

 

 

 

 

「──バニー。お前もつくづく、罪作りだよなぁ。あんな幼い神魔にまで惚れられちまうなんてさぁ」

「僕のせいじゃありませんよ。それに…僕には、貴方だけがいればいい。他の者など、関係ありません」

「ひでぇヤツ」

「貴方こそ」

 睦言のような囁きが、夜に溶けていきます。

 きっと二人は、互いを愛おしげに見つめ。抱き合っているのでしょう。

 もう、私には何も視えないけれど。

 

 

 

 終幕

 

 

  

  

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 
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