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真・恋姫無双 三人の天の御遣い 第二章『三爸爸†無双』 其の二十二

雷起さん


得票数25の月のお話です。
懐妊判明時と出産後+おまけとなります。


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2013-03-10 15:58:50 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:3710   閲覧ユーザー数:2804

 

 

第二章  『三爸爸†無双』 其の二十二

 

 

プロローグ

【月turn】

 私が初めてご主人様の事を知った日。

 貂蝉さんと卑弥呼さんが、私と詠ちゃんを洛陽のお城で刺客から救ってくれたあの日。

 私はご主人さまに恋をした。

 まだ見ぬご主人さまに・・・・・私達を救うために来てくださる天の御遣い様に・・・。

 あの時見上げた(つき)

 私の真名が示すもの。

 暗雲の切れ間に輝く(つき)が、私のゆく道を示していた。

 

 

 

本城 医務室      (時報:桂花一人目 金桂生後六ヶ月)

 

「おめでとう!懐妊だ!」

 華佗さんのその言葉を聞いた瞬間、世界が輝きを増した様に感じました。

 

「へうぅ~・・・・・」

 

 嬉しさのあまり何て言っていいか分かりません・・・・・・この気持ちをどう表現すればいいんだろう。

「おめでとうございます、お嬢様!」

「か、華雄・・・・・ありがとう・・・」

 華雄が笑顔で祝福してくれている。

 その隣に詠ちゃんもいます。

「賈駆!お前も早くお嬢様に祝福を言え!」

「わ、解ってるわよ!・・・・・月、おめでとう。」

「ありがとう、詠ちゃん♪」

「なんだその複雑そうな顔は?呂布の時はもっと素直に祝福していただろうに。」

「しょうがないでしょ!ついに月を取られたって言うか、最後の砦を突破されたと言うか・・・・・そんな気持ちになっちゃうんだから!!そう言うあんたはどうなのよっ!!」

「お嬢様がこんなに喜んでおいでなのだ。洛陽の頃を思えば今のお嬢様はとてもお幸せだと分る。陛下たちには感謝しているぞ。」

「あんた、恋が懐妊した時に、月が懐妊したらぶん殴るみたいなこと言ってたじゃない!!」

「あれからもう一年も経つのだぞ!お嬢様が、赤子を抱く曹操達を羨ましそうに見ているのを知ってしまったら考えも変わるわ!むしろ、今日お嬢様が懐妊なさっていなかったら『お嬢様の順番はまだか』とぶん殴りに行くところだ!!」

「ふ、二人共、落ち着いて・・・・・」

 このままだとご主人さまたちが殴られる展開になりそう・・・。

「ご、ごめん・・・月・・・」

「も、申し訳ありません!お嬢様!!」

 ふぅ、よかった・・・二人共冷静になってくれて。

「そろそろ一刀たちの所に行った方がいいんじゃないか?ぼやぼやしてると昼飯の時間になってしまうぞ。」

 華佗さんが笑って私をご主人様の所に送り出してくれます。

 でも、その前に華佗さんにお礼を言わなくちゃ。

 

「華佗さん、ありがとうございます。いつも私達の健康を見てくださって・・・・・それに華雄のこと・・・改めてお礼申し上げます。」

 

「ん?」

「月・・・・・」

「お嬢様・・・・・」

 私と詠ちゃん、華雄、それに霞さん、恋さん、ねねちゃん。

 涼州の隴西郡(ろうせいぐん)に居た頃からの仲間です。

 華雄が戻ってくれて、また全員揃うことができたんです。

「華佗さんが華雄を見つけ出し、治療をしてここに連れて来て下さいました。華雄にこうして私の懐妊を祝ってもらえるのも、華佗さんがいらっしゃったおかげです。」

 私は華佗さんに頭を下げる。

 本当に・・・・・華佗さんにはどれだけ感謝しても、し足りないです。

「俺は医者として当然のことをしただけだ。でも、月が俺のした事に礼を言ってくれるというのなら、それは世の中の人達が月と同じ気持ちになれる様に困っている人を助けてあげてくれ。それが我が五斗米道の教えであり、俺にとってこの上ないお礼だ。」

「はい、華佗さん。」

「何を言っている、華佗!そんな事、お嬢様は昔からされている♪」

「そうよねぇ・・・・・それが過ぎて張譲に騙されたぐらいだから・・・」

 へうぅ~・・・・・詠ちゃん、そんな溜息吐かないでぇ・・・・・。

 あっ!困っている人を助けると言えば・・・。

「あの、華佗さん。私達はこうしてご主人様の赤ちゃんをみごもる事ができていますが・・・・・華佗さんご自身は奥さんを娶る気持ちは無いのですか?例えば今、気になっている女の子が居るとか?」

「ん?俺が?・・・・・・・・・・・・考えた事も無かったな。」

 へううぅぅぅ・・・・・メイド隊の子達で華佗さんに片思いの子が多いから助けてあげようと思ったのに・・・。

「俺にとっては大陸中の人達が家族みたいな者だからな。この世の全ての人達を愛している。悪さをする奴もいるが、そう云う奴は怒って道を正してやる。家族なら当然だろう?それに、俺が子を残さなくても、一刀たちがその分子供を作ってくれるからな。俺がその子達が無事に生まれるようにする事で帳尻が合うだろう♪」

 へううぅ・・・これは前途多難だよぅ・・・・・。

 

 

 

 

本城 皇帝執務室

【緑一刀turn】

 夏の日差しと風が、開け放たれた窓から入って来てこの部屋を満たしていた。

 

「ご主人さま。月は懐妊いたしました。」

 

「「「ありがとう、月!嬉しいよ。」」」

 はにかみながら懐妊の報告をする月に、俺たちも微笑んで答える。

 そんな俺たちを月の付き添いで来ている詠と華雄が、部屋の入口に立ってこちらを見ていた。

 更にその後ろには兄ぃを筆頭に北郷親衛隊も揃っている。

 

「ちょっと!なんでそんな窓際に立って逃げ腰なのよ!」

 

「「「だって前に華雄が、月が懐妊したら殴るって言ってたからさ・・・・・」」」

 詠に指摘されるが、そんな風に部屋の入口を固められたら危機感を覚えるっての!

 兄ぃは直立不動で涙流してるし・・・・・・詠も解ってて言ってるだろ!口元が笑ってるぞ!!

「はぁ・・・安心しろ、陛下。殴ったりはせん。」

 呆れた顔で華雄に言われた。

 月を見ると、いつもの様に微笑んでいるから大丈夫なのかな・・・・・?

「お嬢様がそんなに幸せそうなのだ。むしろ感謝しているぞ。なあ、お前達!」

『はい!その通りです!華雄将軍!』

 北郷親衛隊が声を揃えてそう言ったが・・・・・こいつらの目は隙あらば殴ると雄弁に語っている。

 普段でも酒を呑んでる時にフェチ談義がヒートアップすれば拳で語り合う事が有るのだ。

 漢同士の熱い友情!それならば納得出来る!・・・・・・親衛隊に殴られる皇帝というのもどうかと思うが・・・・・。

 今のこいつら目には嫉妬の色しか見えないぞ!

「ご主人さま。先ほど華佗さんにお礼を申し上げたら、その気持ちは困っている人を救うことで返してくださいと言われました。私は勿論そうしますが、この子をそう云う心を持った人間に育てようと・・・いえ、育てます。」

 月の優しくも強い意志を感じる言葉に俺たちは心が洗われる思いがした。

 洛陽でその優しさを利用され、貶められたというのに・・・・・

「「「うん、頑張って、月。でも、俺たちにも子育てを手伝わせてくれよ。」」」

「はい、お願いします♪」

 今度はいつもの様に可愛い笑顔で言ってくれた。

 それに流石華佗だよな。格好いいことを平然と言ってくれる。

「「「華佗へのお礼の為にもこの国をもっと良くしないとな。俺たちも大陸中の人達が家族だと思えるくらい・・・この世の全ての人達を愛したい。」」」

 ・・・・・・あれ?なんかみんなの顔が微妙だぞ。

「華佗と同じ事を言ってる筈なんだけど・・・・・」

「どうも陛下たちの口から出ると違う意味に聞こえて来る・・・・・」

 ちょっと!詠!華雄!俺たち今良い事言ったよね!

「北郷様が言うと『人達』が『女達』に聞こます・・・・・」

 兄ぃ!いくらなんでもそれは・・・。

 

「家族だと思うと云う事は『この世の女は全て俺の嫁』と云う事ですか・・・・・」

 

「「「そんなわけ有るかあああああああああああああああああああ!!」」」

 

 月まで苦笑してるじゃないか!

「あの、ご主人さま。華佗さんの事でご相談したいのですがよろしいでしょうか?」

「「「え?何か有ったの?」」」

 華佗も忙しい身だからな。医者の不養生って事も有り得る。

「いえ、先程の華佗さんへのお礼に関わるのですけど・・・・・メイドの子達の何人かに華佗さんへの片思いの相談を受けてます。」

「「「あ・・・やっぱりみんな月に相談してるんだ。」」」

 成程、そっちの方か。

「ご主人さま、お気付きだったんですか!?」

「そりゃ、気付くって。」

「華佗が城内を移動してる時を見てればなぁ。」

「熱い視線を送ってる子が結構いるから。」

 今度はみんなが意外そうな顔をしてる・・・・・。

「それで、華佗さんご本人はどう思われてるのでしょう?」

 この話の流れ・・・・・月は華佗に嫁さんを世話しようとしてるのか。

 これなら片思いの女の子を助ける事にもなるし、華佗に直接お返しも出来ると云う理由だ。

 でもなぁ・・・・・・。

「「「まるっきり気付いてないな。」」」

「それは華佗さんに意中の女性がいらっしゃるからとか・・・」

「「「それもない。極端に言うと華佗は他人の健康しか気にしてないな。」」」

「誰かさんたちみたいに鈍いのに、そっち方面は真逆で無欲なんて・・・まあ、予想はしてたけどね。」

 詠が溜息混じりにこぼした。

「ええと・・・・・詠、誰かさんって俺たちの事だよね・・・・・」

「あら?少しは自覚が出て来たみたいね。でも月、さっきの華佗の言った事が本当だと判ったけど、どうするの?」

「そうだねぇ・・・とりあえずあの子達を華佗さんのお世話ができる様に配置替えをしようと思う。距離が近くなれば華佗さんも自然と気になってくれるんじゃないかな?」

「なあ月、華佗に嫁さんを世話しようとしてるのは分るけど、その方法はその子達が貂蝉と卑弥呼って云う防壁を突破しなきゃいけないって事だぞ。」

「それは大丈夫ですよ、ご主人さま。恋する女の子は強いんですから♪」

 そのセリフはよく聞くけど・・・・・普通の女の子があの二人に勝てるとは思えないなぁ・・・・・。

「貂蝉さんと卑弥呼さんには申し訳ないと思いますけど、やっぱり華佗さんにも自分の子供を愛する喜びを知って欲しいです。」

「「「そりゃ貂蝉と卑弥呼が子供を産めるわけ・・・・・・・・・・」」」

「どうしたの、あんたたち?」

「す、すごい汗!それにお顔の色が!!」

「「「い、いや・・・・・・ダイジョウブ・・・」」」

 なんだ?突然凄い寒気に襲われたぞ・・・・・。

 なんか触れてはいけない記憶の扉に触れたと云うか・・・。

「と、ともかく月の言った方法を試してみよう・・・俺たちも月と気持ちは同じだから、協力するよ。」

「はい、ありがとうございます♪」

 お節介かもしれないけど、こうでもしないと華佗本人にお礼が出来ないからな。

 こんな話が出たんだ、ついでにこっちも頼むか。

「それと月、そこに居る北郷親衛隊と付き合いたいって思ってる女の子に心当たりはないかな?」

 

『え!?北郷様!!』

 

「え、ええと・・・・・・その・・・・・・・」

 あれ?心当たり・・・・・無いの?

 やばい・・・月の反応にみんながマジ泣きしそうになってる・・・。

「あ、あの、帝の親衛隊なので、きっと身分違いに気後れしてるんだと思いますよ。」

 ナイスフォローだ月!

「う~ん・・・それじゃあ合コン・・・集団お見合いでもしてみた方がいいかな?」

「あ、それはいいですね、ご主人さま!詠ちゃんもそう思うよね。」

「そうねぇ・・・今のままじゃ、お城に務めたら婚期を逃したなんて事にもなりそうだし・・・メイド隊だけじゃなく、警備隊の女の子達にも参加を募れると思う。」

 お!これは期待出来そうだぞ!

「みんな、勝手に話を進めちゃったけど、どうだ?」

 

『北郷様!ありがとうございます!!!』

 

 良かった、みんな喜んでくれているな。

「北郷様!先程はあの様なことを申してしまい、申し訳ありません!そこまで我々の事を考えてくださっていたとは知らず・・・・・」

「「「気にしないでくれよ、兄ぃ。お節介かとも思ってたけど、もっと早くに言えば良かったな。」」」

 北郷親衛隊の喜ぶ姿を見て、月も嬉しそうだ。

「こうして沢山の人達を幸せにしてあげたいですね、ご主人さま。」

「「「ああ、そうだね、月。」」」

 

 

 

 

二日後

後宮 月個室

【月turn】

「ごめんなさいね、華雄。お引越しの手伝いまでさせてしまって。」

「お気になさらないで下さい、お嬢様。このようにお嬢様の為に働けるのが私は嬉しいのですから。」

 華雄が大きな荷物を運んでくれるお蔭で、お引越しが早く終わりそう。

 それに詠ちゃんと大喬ちゃんと小喬ちゃん、ご主人さまたちも手伝ってくれています。

 一昨日、華琳さんから聞いたご主人さまたちのお話・・・・・・・詠ちゃんと華雄にも教えてあげたいけど・・・華琳さんの言う通り二人が懐妊するまでは秘密にした方が良さそう。

 私もこの話は衝撃的だったから・・・・・・・私がご主人さまと争う外史と云うのも存在するのかな・・・・・もしそうなら嫌だな・・・・・・・。

 うん!私も華琳さんと同じ様にご主人さまたちに幸せになってもらえる様に努力しよう!

 それにご主人さまたちは記憶にある他の外史の私と詠ちゃんも、こうしてメイドとしてお仕えしてたって仰ってたし。

「お嬢様?お加減でも悪いのですか?もしかしてつわりが・・・」

「だ、大丈夫!ちょっと考え事をしていて、それにつわりが来るのはもう少し先にだよ。」

 笑って応えると、華雄も安心してくれました。

「詠もそうだけど、華雄も月優先で・・・ちょっと妬けちゃうなぁ。」

 そ、そんな、ご主人さま・・・・・。

「ふふ、当然だ。お嬢様にお仕えしたあの日から、私の命はお嬢様の為に在るのだからな。」

「その忠義にはいつも感心してるけど、なんで月に真名を預けてないの?」

「何を言っている!預けているに決まっているだろう!!」

 あれ?ご主人さまがそう勘違いされるって事は、もしかして華雄はご主人さまに真名を預けてないの?

「「「え?そうなの?俺たちは教えてもらってないし、みんなが真名を呼ばないからてっきり・・・」」」

 やっぱり・・・・・。

「華雄・・・ご主人さまにはちゃんと真名を預けないとダメだよ。いい機会だから、今から預けよう♪」

「お、お嬢様!それは・・・・・・」

「華雄、諦めなさい。月がこうなったら逃げられないわよ・・・恥ずかしいのは解るけど・・・」

「「「恥ずかしい?」」」

「華雄の真名はとても可愛いんですよ♪」

 恥ずかしがる事無いのに。

「お嬢様!!」

「へうぅ・・・・・可愛いのにぃ・・・・・」

「ボク達が華雄を真名で呼ばないのは本人の希望でね。」

 詠ちゃんの説明に小喬ちゃんが身を乗り出します。

「いくら恥ずかしくっても、一刀さまに真名を預けないのは(まず)いと思うよ。」

 小喬ちゃんも加勢してくれる♪

「今まで閨でも真名を呼ばせなかったなんて」

 

「うわあああああああああ!何でお前がそんな事を知っているんだっ!!」

 

「は?そんな事って閨のこと?そんなのあたしだけじゃなく、月さまに詠さま、他の方達もみんな知ってるわよ。」

 私もその事が有るから、華雄がご主人さまに真名を預けたと勘違いしていた。

「華雄・・・いつか懐妊する子供の為にも、ご主人さまに真名を預けよう。」

 私がこう言うと華雄がやっと納得してくれた。

「陛下たち・・・・・私の真名は・・・・・・・・・・・・・だ。」

「「「え?ゴメン、聞こえなかったんだけど・・・」」」

 

「私の真名は阿猫(あまお)だっ!!」

 

「「「あまお・・・・・どんな字を書くの?」」」

「ご主人さま、こうです。」

 私がメモ用の竹札に書いてあげます。

「「「・・・・・これって幼名?・・・猫ちゃんとか子猫ちゃんって事?」」」

「お、お願いだ陛下たち・・・・・余り口にしないでくれ・・・・・・」

 これで華雄がいつ懐妊しても安心ね♪

 

 

 

 

時は巡り、次の年の春

皇帝執務室      (時報:桂花二人目 妊娠九ヶ月)

【緑一刀turn】

「一刀~、月達連れてきたで~。」

 霞が執務室の扉を開け、元董卓軍のみんなが部屋に入ってくる。

「「「みんな、わざわざこっちに来てもらってごめんね。」」」

「あの、何か在ったのでしょうか?この子と恋々(れんれん)ちゃんも連れてくるようにとの事でしたけど・・・・・」

 月の腕の中には先日生まれた『春姫(るな)』が寝ていて、一歳になった恋々も恋に抱っこされて甘えている。

 華雄とねねは少々不満顔で俺たちを睨み、そして詠は大きくなったお腹を支えていた。

「「「取り敢えずみんな座って、詠も辛くなかった?」」」

「散歩には丁度良い距離よ、気にしないで。それにどうしてもボク達が揃わなきゃいけない用事だって聞いたしね。」

 詠がこう言ってくれるのは助かる。

「まあ、ウチも詳しくは聞いてへんけどな。」

「ねねは不満なのです!せっかく恋々殿と遊んでいたのに呼び出されるとは!用があるならお前たちから来やがれなのです!内緒の話が有るにしても後宮の方が向いてるのですから、華雄の部屋にでも集まってした方が良かったのです!!」

「そうそう・・・って、何故私の部屋なんだっ!!」

「お前の部屋が、一番物が少なくて広いのです。」

「・・・二人共、春姫が起きるから静かに話す。」

 恋に言われて、ねねと華雄が口を押さえた。

「ねねの言う通り俺も後宮で話したかったんだけど・・・・・まあ、とにかく本題に入ろう。今日、集まって貰ったのは涼州隴西郡(ろうせいぐん)の事でさ。」

「え!?ご主人さま!」

「ちょっと、そこは!」

 月と詠は特にだが、全員が驚いている。

「あそこを今後どう治めて行こうか意見が聞きたくてね。隴西郡太守夫妻にも来てもらった。どうぞ、入ってください。」

 執務室と継っている隣の部屋からひと組の男女が入ってくる。

 その姿を月は呆然と見つめ、声を出さずに唇だけで呟いた。

 

『お父さま』『お母さま』と。

 

 涼州隴西郡。それは月が生まれ育った場所。

 あの戦乱で太守夫妻は五湖から領民を守るため、一時期難民と一緒に隴西郡を離れていた。領地に戻ったのは晋建国の少し前の事。

 その事は報告で月も知っていたが、月は頑として両親に会いに行こうとはしなかった。

 今でも庶人は『暴君董卓』を信じており、俺たちが成敗した事になっている。

 月は『董卓』が生きている事が世間に知れると両親に迷惑が掛かる事と、晋の統治に支障が出る事を思慮して、両親には会わないと言っていた。

 

「皇帝陛下、この度はこの様に本城の奥殿までお招き頂き、誠に恐悦至極にございます。並びに、我らが娘、仲穎が陛下の手を煩わせました事、深くお詫び申し上げます。」

 

 深々と頭を下げる隴西郡太守夫妻。

 俺たちは二人に事情を説明してある。月と普通に両親として会って欲しいと言ってあるのだが・・・・・この父親の言葉からも分る様に、自分の娘は逆賊として討伐されたと、頑なに言い張り続ける相当な頑固者だ。

 理由も月とほぼ同じ。自分の娘が死んだ事で戦が起きず、民に平安が訪れるならその方が良いと言われてしまった。

 月の頑固さも父親譲りと云う事なんだろう。

 だが!そんな事で俺たちが説得を諦めると思うなよ!

 月みたいに優しい人間を踏み台に造る平和に、納得なんかできるか!

 だから俺たちは、こうして月の両親が房都に来てもらうのに何年も掛けて説得した。

 月の懐妊でも動かなかった二人に、春姫が生まれて『今度そちらに連れて行きます』と書簡に書いてようやく折れてくれたのだ。

 

「董雅さん、董陽さん、娘さんの事は心中お察しします。そこでお願いが有るのですが、ここに居る俺たちの妻の一人は、偶然にも娘さんと同じ名前で真名も歳も同じなんです。彼女には両親がおりませんので、不躾なお願いとは思いますが彼女の両親となっては貰えないでしょうか?」

 

 ここまでやれば月も、月の両親も納得してくれるだろう。

 

「ご主人さま・・・・・」

「「皇帝陛下・・・・・」」

 

 詠に小脇をつつかれる。

「(やるじゃない、見直したわよ♪)」

「(苦労はしたけどね。その甲斐は在ったよ。)」

 

「ほれ!いつまで呆っとしとんねん。大旦那も奥方様も、一刀たちがここまでお膳立てしたんや、この部屋ではもう芝居せんでもええやろ♪」

「霞、お前は相変わらずだな・・・」

「ありがとう、霞ちゃん。」

 月の父親の董雅さんは髭も立派な、いかにもこの時代の武将と云った人。

 月の母親は・・・・・月のお姉さんと言っても通じるくらい見た目が若い人だ。

 

「・・・・・お父さま、お母さま・・・お二人の孫の董擢(とうてき)です。真名は春姫と申します。」

 

 月は目にいっぱいの涙を溜めて、でも笑顔で初孫を両親に逢わせた。

「月・・・その名は・・・・・」

「はい・・・・・幼き日に亡くなったお姉さまから頂きました・・・・・そして、この子の真名は春に生まれたからと云うのも有りますが、『るな』とは羅馬(ローマ)の言葉で(つき)を意味します。お父さまとお母さまが下さった月とういう真名。私は洛陽で救い出される時、(つき)に導かれました。この子にも・・・・・星王たる(つき)の加護が在る事を祈り、この真名をこの子に贈りました・・・・・」

「春姫か・・・・・良い真名だ。」

「春姫ちゃん、初めまして。姥姥(ラオラオ)ですよ♪」

 姥姥は母方のおばあちゃんだったな・・・・・・とてもそうは見えないけど。

「お父さま、お母さま、みんなにもお声を掛けてあげてくださいね♪」

 月が涙を振り払い、詠たちに振り返る。

「おお!元よりそのつもりだ。」

 ご両親も顔を上げ、先ず詠に歩み寄った。

「詠、お前には迷惑を掛けたな・・・」

「ありがとうね、詠ちゃん。あなたもお腹が大きくなって♪次に来るときはその子が生まれた時になりそうね♪」

「おじさま、おばさま・・・・・・ありがとうございます・・・」

 詠は子供の頃に董家に引き取られて育ったって言ってた。詠にとってもこの二人は両親と同じ位大切な人なんだろう。

「霞、さっきはああ言ったが、お前の武名は聞いている。儂も鼻が高いぞ。」

「な、なんや照れるやん、大旦那。」

「霞ちゃんはお酒も程々にしておきなさいね。お子を授かった時に苦労するわよ。」

「う・・・・・前例を何人も見とるから反論出来んへん・・・」

 霞もこの二人には頭が上がらないんだな。

「恋、可愛い娘だな。真名を教えてもらってもよいか?」

「うん♪恋々っていうの。はい、ごあいさつ。」

「あ~♪」

「うふふ♪ホント可愛いわぁ♪あ、恋ちゃん!後でセキトちゃんにもご挨拶させてね。」

「うん、セキトも喜ぶ♪」

 恋がタメ無しで会話するなんて・・・・・。

「音々音、背が伸びたな。だが陛下への口の利き方は改めなさい。隣で聞いて冷や汗が出たぞ。」

「は、はいなのです・・・・・」

「次に来る時は音々(おとね)ちゃんも連れて来るから楽しみにしててね♪」

「は、母上を連れて来るのですか!?」

「音々ちゃんもねねちゃんに会いたがってたわよ♪」

「・・・・・・・・は、はい・・・・・・」

 前に話していた音々さんか・・・どんな人なんだろうな?

 ねね・・・・・なんで俺たちを睨む。

「華雄、お前の行方が分からなくなった時は心配したぞ・・・よくぞ生きて居てくれた・・・こうして再び会えて嬉しいぞ。」

「勿体無きお言葉です、太守様。」

 華雄は深々と頭を下げている。

「今はお前の方が官位は上なのに、太守様はおかしいだろう。」

「いえ、如何に私の官位が上がろうとも、大恩ある太守様に非礼はできません。」

「もう、阿猫ちゃんは真面目すぎるんだから・・・」

 あ・・・その真名は・・・・・・。

「お、奥方様・・・・・・お願いですから真名で呼ぶのは・・・・・」

「え~?まだダメなの?・・・もぅ・・・可愛いのにぃ・・・・・」

 ここに居る全員は華雄の真名を知ってるからいいけど、後宮でだったら誰に聞かれるか分かったもんじゃなかったな。

 

 

「陛下、この度は私共に娘を再び授けて下さった上、孫も授けて下さった事を心より感謝致します。詠を始め、五人の娘も陛下の寵愛を頂いているのを知ることができ、安堵致しました。」

「月の事は公に出来ませんが、公私で俺たちに出来ることが有れば遠慮なく言ってください。貴方達は俺たちにとって義父と義母でもあるんですから。これからは子育ての相談もさせて頂くと思いますので、よろしくお願いします。」

「民の為ならばいくらでも・・・・・・私的な事は遠慮させて頂き・・・・・いえ、ひとつだけございますな。」

「「「はい、なんでも言って下さい!」」」

 こうして一歩ずつ心の距離を近付けていけば、本当に家族として付き合える日もそう遠くない筈だ。

「陛下のお子様は皆女の子にございます。娘を持つ父親として、私の気持ちを察して頂けますかな?」

 董雅さんが拳をゴキゴキと鳴らしている・・・・・。

「あなた・・・」

「お父さま!」

 董陽さんと月が不安な顔をするが、俺たちはそれを手で制した。

 董雅さんの気持ちは本当に良く解るからな。

 本当なら今までにだって有ってもよかった通過儀礼だ。

 

「「「覚悟は出来てますよ、お義父さん。」」」

 

 かくして、俺たち三人はお義父さんからキツーイ一発を貰ったのだった。

 これで心の距離を一足飛びに近付けられるなら安いもんさ!

 

 

 

 

おまけ

月の娘 董擢(とうてき) 真名:春姫(るな)

詠の娘 賈穆(かぼく) 真名:(くん)

四歳

北郷学園保育部      (時報:桂花六人目 妊娠九ヶ月)

【月turn】

「みなさーん!おやつの時間ですよー!」

 私が大きな声でそう呼び掛けると遊んでいた子供達が手を止めて、一斉に私に振り向いた。

 どの子も顔を輝かせて。

「さあ、みなさん!おやつを食べる前におててを洗いに行きますわよ!」

 

『は~い♪』

 

 麗羽さんに連れられ、子供達が手を洗っている間におやつの準備を終わらせなければいけません。

 今日のおやつのドーナツと山羊乳を子供達の机の上に手分けして並べていきます。

 私と詠ちゃん、それに華琳さん、朱里ちゃん、雛里ちゃん、美羽ちゃん、璃々ちゃんが今日のドーナツを作りました。

 いつもはこんなに多勢で作らないのですが、今日は特別です。

 なにしろ、華琳さんが研究していた可可豆(カカオ)の粉末がついに完成したのです。

 ご主人さまたちの仰るチョコレートに一歩近づきました。

 今回は生地に練り込む形で使いました。昨日の試食会で、大人達の反応は絶賛でしたけど・・・。

「さて、子供達の反応はどうかしらね?」

 華琳さんはこう言ってますが自信満々です。

 

「あれえ?このドーナツ黒いよ?」

 

 最初に戻ってきた(えん)ちゃん、現在保育部での年長さんが驚きの声を上げました。

 次々に子供達が戻って来て机の上を見て驚いています。

「・・・ふしぎなにおいだけどおいしそう。」

 恋々ちゃんが我慢できなさそうにドーナツを見つめています。

「みなさん揃いましたわね。では、いただきます。」

『いただきま~す!』

 麗羽さんの声に合わせ、子供達が手を合わせていただきますを言うとドーナツに口を付けました。

 

『おいしいー♪』

 

 子供達が笑顔で頬張るのを見て私達はホッと一安心です。

 一つ目を食べ終わった恋々ちゃんにおかわりを美羽ちゃんがあげました。

 ふふ♪恋々ちゃんの食べ方は恋さんそっくり。

露柴(ロゼ)崔莉(チェリ)!まだ沢山あるからケンカしないで食べなさい!」

 璃々ちゃんが双子の妹を叱ってます。

 

「わるいこにしてると『とうたく』と『ちょうかく』がくるんだよー!」

 

 え?

 今のはひまわりちゃんの声でしたが、私は咄嗟に春姫ちゃんを見ました。

 春姫ちゃんは悲しそうな顔で私を見上げています。

「媽媽とおなじなまえ・・・・・」

「るなちゃん!なまえはおなじだけど『かいじゅうのとうたく』は爸爸たちがやっつけて、ゆえ媽媽をたすけだしたんだって!ボクの媽媽がおしえてくれたよ!」

 訓ちゃんが春姫ちゃんを励ましてくれました。

 私も詠ちゃんを振り返ります。

「(ゴメンね、月。ボクもこの間知ったばかりなの・・・巷で子供を躾けるのに今みたいな事が言われてるの・・・・・)」

「(そう・・・なんだ・・・・・でも、怪獣って・・・)」

「どうかなさいましたの?月さん、詠さん。」

 麗羽さん!

「れいはせんえー、かいじゅうのおはなししてー!」

 竜胆(りんどう)ちゃんが手を挙げてます。

 

「よろしいですわよ。では・・・あなた達が生まれる前に洛陽という都に二頭の怪獣が現れましたわ。身の丈が十丈で腕が十三本あって足が二十五本、三十一本角と五本の尻尾が生えていて七本の首で炎と雷と呪いを吐き、空を飛び回る恐ろしい怪獣ですわ。一頭が『董卓』、もう一頭が『張角』といいました。その怪獣をあなた達のお父さま、三人の北郷一刀さんが天から現れ見事に退治してくださいました。その時怪獣に囚われていた怪獣と同じ名前の月さんと天和さん、更に地和さんと人和さんが助け出されたのですわ。」

 

 なんだか物凄い事になってます・・・・・・・。

「(色々と混ざって酷い話になってるわね・・・・・まさか麗羽が出処じゃないでしょうね。)」

「(麗羽姉さまは猪々子からこの話を聞いておった・・・・・妾が聞いた時より更に尾ひれが付いた様じゃが・・・)」

 華琳さんと美羽ちゃんが困った様に囁き合っていました。

「媽媽・・・こわくなかった?」

 春姫ちゃんがさっきとは違う不安そうな顔で私を心配してくれます。

 私はあの頃を思い出し、春姫ちゃんに告げます。

「うん、怖かったけど・・・爸爸が助けに来てくれるって分かったら凄く嬉しかったよ♪」

「爸爸たちってスゴイんだね♪」

 春姫ちゃんが可愛い笑顔でそう言いました。

 

 

 本当はそんなお伽話とは違うけど。

 私はあの時見上げた(つき)と。

 その時の気持ちを今でも鮮明に思い出せます。

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

月メインの話では有りますが

ついにこの外史での華雄の真名を決めました。

今回はあっさりと流しましたが

華雄回の時に突っ込んで行きたいと思います。

 

そして月の両親

第一部改訂版で行方不明となっていましたが、ここで登場してもらいました。

この外史では霞、華雄、恋、ねねもこの二人に仕えていた事になってます。

名前は正史にある記述が、父:董君雅、母:池陽君とあります。

名前なのか役職なのかはっきりしないので一文字貰って決めました。

 

おまけに出て来た『董卓』と『張角』

かなりパワーアップしていますw

噂話とはいえ、23メートルもあるこんなのを

どうやったら一刀が倒せるのでしょう?

 

 

《次回のお話&現在の得票数》

 

☆流琉   27票

 

という事で、次回は流琉に決定しました。

 

以下、現在の得票数です。

 

朱里+雛里26票

詠    25票

ニャン蛮族21票

小蓮   21票

焔耶   19票

明命   19票

音々音  17票

猪々子  16票

亞莎   14票

二喬   13票

星    13票

春蘭   11票

穏    11票

斗詩   11票

稟    11票

璃々   10票

華雄   9票

真桜   9票

季衣   4票

霞    4票

沙和   4票

冥琳②  3票

紫苑②  3票

思春②  2票

雪蓮②  2票

鈴々②  1票

桂花②  1票

風②   1票

凪②   1票

 

※「朱里と雛里」「美以と三猫」「大喬と小喬」は一つの話となりますのでセットとさせて頂きます。

②は二回目を表します。(※前回は二人目としましたが、混乱を避けるため変更しました。)

 

リクエスト参戦順番→ 朱里+雛里 猪々子 穏 亞莎 流琉 ニャン蛮族 小蓮 詠 焔耶 明命 斗詩 二喬 春蘭 音々音 華雄 稟 星 璃々 真桜 季衣 冥琳② 霞 沙和 思春② 紫苑② 鈴々② 桂花② 風② 雪蓮② 凪②

 

過去にメインになったキャラ

【魏】華琳 風 桂花 凪 数え役満☆シスターズ 秋蘭

【呉】雪蓮 冥琳 祭 思春 美羽 蓮華 七乃

【蜀】桃香 鈴々 愛紗 恋 紫苑 翠 蒲公英 麗羽 桔梗 白蓮 月

 

引き続き、皆様からのリクエストを募集しております。

リクエストに制限は決めてありません。

何回でも、一度に何人でもご応募いただいても大丈夫です(´∀`)

よろしくお願い申し上げます。

 

 

 


 
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