No.552478

IS~ワンサマーの親友~ep16

piguzam]さん

この学園には猫が居る……癒し猫と、悪戯猫が

2013-03-08 04:55:45 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:12557   閲覧ユーザー数:10634

 

前書き

 

まさかこの話が2話構成になってしまうとは……(汗)

いやいやいや、前の話しを合わせたら3話構成だよ……(超汗)

 

あ、後ヒロインのどの辺が可愛かったとかコメントして頂けると、今後の参考になるのでお願いします。

 

それではどうぞ!!

 

 

P・S

 

やまやとチフユンの出番はまだ待って(土下座)

あぁ……気が重い……俺、マジで何かやったっけか?

 

只今の時刻は昼休み。

俺は本音ちゃんから指定された場所に向かうために溜息を吐きながら1人で廊下を歩いている。

相変わらず色んな場所から好奇の視線が俺に突き刺さるが、その辺を全部無視して、俺はひたすらに歩いていた。

途中、上級生らしき女尊男卑の思考に染まりきったバカが絡んできたが、威圧して追い払った以外は特に何もない。

 

ったく、何が「卑しい男の身でありながら私の目に叶った事を幸運に思いなさい」だっての。

 

不機嫌さも相まって思わず反射的に「魚の餌になりてえか?それとも土の肥料がいいか?えぇ?生ゴミ以下の先輩さんよぉ?」なんてキレちまったじゃねえかクソボケが。

 

最後は涙と鼻水垂らしながら逃げていったけど。

 

午前中の授業を全て消化した俺は、一夏達と飯を食いに食堂に足を運んでいた。

本当ならその時にでも本音ちゃんのご機嫌を取ろうと思ったのだが、本音ちゃんはやけにニコニコとした表情のまま先に教室から出て行た。

その行動に一夏達は首を傾げていたが、あの笑顔の意味が判ってる俺は乾いた笑みを浮かべるしかなかったっての。

そして昼食をとっている時に本音ちゃんからメールがきた。

そしてその送られてきたメールは、俺にとってはデットオアアライヴの二者択一を迫ってくる恐怖の手紙にも等しかった。

 

 

内容はこうだ。

 

 

『お昼ご飯食べたら~校舎の裏にあるベンチまで来てね~♪あっ、く・れ・ぐ・れ・も!!1人で、だよ~♪もしすっぽかしたらぁ……皆の前でいっぱぃ泣いちゃうぞ~"(/へ\*)"))ウゥ、ヒック』

 

 

もはや中学の頃に野郎共からもらった果たし状と変わり無え、いやそれ以上の脅しが満載のラブレターでした♪

ちょっと待って下さいベイビーガール、俺の所為で本音ちゃんが泣く=俺の死ですよ?

っていうか他の女子にも精神的にイジメられるっての。

終い、いや仕上げにゃ爺ちゃんと冴島さんに物理的にブッ殺されちまう。

 

 

その余りにも戦慄する内容にテンパッた俺が返した返事はこうだ。

 

『例え天変地異が起ころうとも、必ず貴女の元へ馳せ参じます』

 

俺はどこぞの騎士か?今更ながら何故こう書いたし。

 

 

近年稀に見るほど、俺はテンパッていた事だろう。

しかも一夏の野郎が暇だし着いていくとか言い出すから、説得するのが面倒だったぜ。

最終的にリバーブローで物理的に沈めたけど。

まぁ箒と相川にオルコット、夜竹が居たから任せときゃ大丈夫だろう。

しっかし……本音ちゃんの用事ってホントになんなんだろうか?

今日は特に怒らせるような事はしてない……筈、多分、きっと、メイビー。

そんな事を考えながら歩を進めていると、何時の間にか校舎の裏手側まで来ていたんだが……。

 

「おぉ……こりゃ見事なもんだな……正に絶景かな」

 

俺は視界に飛び込んできた景色を見て、知らず知らずの内に笑顔になっていた。

まず校舎側は窓がなくて壁になっているので、向こうからコッチの様子を見られることは無い造りになっている。

反対側の校舎の敷地を仕切る壁の向こう側にはIS学園の林があって、綺麗な緑の景色が広がっていた。

樹の葉っぱがザワザワと聞こえるせせらぎは、疲れた心を癒す天然のサウンドミュージックそのものだ。

こりゃあ最高だぜ……この景色だけでも来て良かったと思えちまう。

 

「あっ♪ゲンチ~、こっち~だよ~。はやくはやく~♪」

 

「ん?」

 

と、俺が見事な自然の癒しに心を馳せていると、少し遠いところから本音ちゃんの声が聞こえてきた。

その声がした方向に目を凝らして見ると、更に奥の方に設置されたベンチに座りながら本音ちゃんが満面の笑みで俺に手を振っていた。

あぁ、俺の癒しもこれまでか……ん?……おや?

俺をこの場所に呼び寄せた張本人である本音ちゃんの姿を確認して、俺はこれから一体何をされるのかと若干気落ちしてしまうのは仕方ねえと思う。

……が、ふと何気なく本音ちゃんの顔を見た瞬間に何やら違和感を感じた。

ベンチに座って俺に手を振ってくる本音ちゃんの顔は……とても可愛い顔だった。

 

「どうしたの~?早く来てよぉ~♪は~や~く~♪(ニコニコ)」

 

「あ、あぁ。今行くよ」

 

俺に手を振りながら待ちきれないって感じで声を掛けてくる本音ちゃんに俺は返事を返しながら歩き出す。

違和感っていうのはその……普段なら普通なんだろうけど……本音ちゃんの笑顔がとてもぽややんとしていて、心が癒された事だったりする。

いやホントに普段なら普通の事なんだけど、俺の考えていた展開と随分違いすぎるぞ?

俺はてっきり本音ちゃんが俺のやった事に対して何かしら怒ってると思ってた。

だが、俺に向かって手を振る本音ちゃんは、間違いなく何時もの癒しオーラをこれでもかと撒き散らしている。

これはもしかして……何も怒ってねえのか?……そうだといいんだがなぁ……じゃああのメールは一体何なんだ?

俺はおっかなびっくりといった感じで本音ちゃんに近づいて行く、それこそ虎なんかの獰猛な動物を驚かせない様にって感じだ。

だが、そうなると必然的に俺の歩みは普段よりも遅くなってしまう。

そして、俺が歩くのが遅い所為で、段々と本音ちゃんの餅の様に柔らかいホッペは膨らんでしまった。

 

「もぉ~、遅いよぉ~……むむッ!?(キュピーンッ!!)……そ~だぁ~♪にゅっふっふっふ~♪」

 

そ、その獲物を見つけたいたずら好きの猫の様な目は何でしょうか本音ちゃん?

あれ?何時の間にか俺って狩られる側になってね?

最初こそ俺が来るのをニコニコと待っていた本音ちゃんだったが、段々と焦れてきたのか、ベンチからぴょんと飛び降りて駆け寄ってきた。

だがそれでもニコニコとした笑顔を崩さずに俺の傍に走りながら来て……。

 

「えいやぁ~!!(ぴょんっ!!)」

 

「(がしっ)ぬほぉ!?ほ、ほほ本音ちゃん!?」

 

「えへへ~♪つ~かま~えた♪(ぎゅうっ)」

 

本音ちゃんは俺に走り寄ってきたかと思うと、突如俺の目の前でジャンプする様に飛び、俺の腕に引っ付いてきたではないか。

そのまま幸せそうなスマイルを浮かべて、俺の片腕を両手でぎゅっと抱きしめて、顔をスリスリと擦りつけてくる。

きゃ~♪捕まっちゃった♪っじゃなくて!?い、いいい一体全体何だこの嬉し恥ずかしドッキリイベントは!?

絶賛混乱中の俺を他所に、本音ちゃんは今より更に身体をくっ付ける力を強めてくる。

そうすると、俺の腕に何やら途轍もなく柔らかく、それでいて中々に強い弾力を持った塊の感触が伝わってきた。

 

 

そう、擬音にすると……むにゅっむにゅとしてぷよぷよでむっちむちぼいんぼいんorばいーんばいーんな二つの塊。

 

つまりは同学年、いや全学年で1,2位を争う程にビッグなおっぱい様である。

 

やべえ、すげえ気持ち良い……じゃなくて!?

 

 

「ちょ!?ちょちょちょちょちょっと待とうぜよ!?一旦僕から離れましょうか本音ちゃん!?こ、この体勢は些か以上にマズ過ぎる気がくぁwせdrftgyふじこlp!?」

 

ダメだ!?思考回路がメルトダウンしてやがる!?

言語変換ががががががががが。

 

「にっひひ♪やぁ~だもん♡ぎゅう~♡(これからはもっともっとぉ~……たぁ~くっさん甘えちゃうのだ~♡)」

 

「ほわぁああああああッ!!?ほわぁああああああッ!!?ほわぁああああああッ!!?」

 

これって罪袋じゃね!?

 

さ、更に強くブラボーなお胸様が押し付けられてきたぁあああ!?

もうふにょんふにょんですよ!?隠れわがままボディが隠れないで自己主張倍プッシュですよ!?

しかもずっと顔をすりすり攻撃してくるからなんか胸のドキドキが止まらないんですけど!?

いきなり開始された萌えの波状攻撃にさらされた俺の心臓はまるでV12エンジンの如く激しい鼓動を奏でてしまう。

何とかして落ち着かせようにも、ちらりと本音ちゃんと目が逢ってしまい……。

 

「うにゅ~♡(ぽわぁ~ん)」

 

「ぐごばぁ!?」

 

か、可愛い過ぎるよこの癒しっ子のスマイルはぁぁあああああ!?

少しばかり赤みが差したプリティで癒されるスマイルを見ると、否応にも心臓のスロットルが吹かし上がっていく。

ここ最近は本音ちゃんの怒ってる顔を見る比率が多かった所為で、余計にこのぽわわんスマイルに反応してしまう俺だった。

 

「さぁ~ゲンチ~♪行きましょぉ~♪」

 

「へ?あっちょ」 

 

本音ちゃんは俺を1度見てから、俺の腕を引っ張ってさっきのベンチの方まで引っ張り始めた。

その行動が意味する所は判らなかったが、俺は本音ちゃんの誘導に逆らわずに着いていく。

な、何だ?本音ちゃんは俺に一体何をさせようとしてるんだ?

気になって本音ちゃんに視線を送っても、本音ちゃんはニコニコとした顔で「やくそく♪やくそく~♪」と楽しそうに歌っている。

そのまま本音ちゃんの引っ張る力に任せて歩いていくと、本音ちゃんが先ほど座っていたベンチに到着した。

すると、本音ちゃんは俺の手から離れて俺と向き合う様に立つ。

本音ちゃんが離れた時に腕を包んでいたビッグマシュマロが離れて非常に残ねげふんげふん……非常に安堵した。

 

「さぁさぁゲンチ~?約束どおりにぃ~『身体』を貸してもらおうではないか~♪」

 

「あれなんか違う!?しかも怖い!?」

 

突然、本音ちゃんが千冬さんがやる様に腕を組みながら俺に向かい合って言った言葉は俺の想像を遥かに上回っていた。

ちょっと待て!?確か要求されたのは『顔』だったよな!?身体って……お、俺に何をする気ですか本音ちゃん!?

俺の驚愕に満ちた叫び声を聞いても、本音ちゃんは笑顔を崩さずに俺をじっと見ている。

 

「細かい事はいいの~♪じゃぁ、まずはこのベンチに座ってね~?」

 

ニコニコと笑っているのに、何やら強制力がとても強い言葉を発しながら、本音ちゃんは再び俺の手を握って、俺をベンチに座らせようとしてくる。

俺はその笑顔を見ながら、割とマジに心の中で自分の無事を神様に祈りつつ、本音ちゃんの誘導に従ってベンチに腰を下ろした。

だが、俺が腰を下ろしても、本音ちゃんは俺の隣りに腰掛けるでもなく、只立ったままに俺をニコニコと見ているだけだった。

どうしよう、すっげえ恐いんですけど?

 

「え~っと?……本音ちゃん?こ、こっからどうするんだ?」

 

俺は特に何をするわけでもなく、俺を見ているだけという行動に疑問を持ったので問いかけてみた。

だが……。

 

「(キュピーンッ!!)ふっふっふ~♪そ・れ・は・ぁ・~♪」

 

「そ……それは?(ごくりっ)」

 

俺の問いに、本音ちゃんはニコニコ笑顔から一転して先ほどの悪戯好きの猫のような表情に変わる。

その急激な表情の変化に、俺は口元をヒクつかせながら唾を飲み込み、恐る恐る問い返す。

 

「……こうするので~す♪にゃ~ん♡(ごろりん)」

 

本音ちゃんは猫の様な鳴き声を真似しながら俺に歩み寄り……ベンチの空いてる側に寝転んで……俺の『膝の上』に頭を置いた。

 

「………………WHAT?」

 

間の抜けた声が出ても仕方ねえと思う。

それほどまでに本音ちゃんのとった行動は予想外で、度肝を抜かれるモノだったからだ。

人間で言うトコの男女間でやるなら『おわれぇえええ!!』や『もげろぉおおお!!』とか『爆発しちまえ!!S・H・I・T!!』と言われて然るべき行為。

俗に言うカップル、人生の勝ち組、リア充であり相思相愛の間柄にいる男女が行う『砂糖を吐かずにはいられない光景』

 

 

 

そう……

 

 

 

ひ ざ ま く ら

 

 

 

……である。

 

 

しかも何故か男女が逆……ちょっとぉおおおおお!!?

もはや言葉にならねえ程の驚愕を顔にアリアリと貼り付けて、俺は自分の膝に居座ってる『子猫ちゃん』を見る。

そんな俺の驚愕の視線を意にも介さずに、本音ちゃんは幸せそうな顔で俺の膝にすりすりと顔を擦っていた。

まるで、猫が自分の居場所を主張するためにマーキングするかの如く、だ。

 

「ほ、ほほ本音ちゃん!?な、何をしていらっしゃるんですかラッシャイ!?」

 

落ちケツ!?い、いやケツは落とすな!?口調がブタゴリラの親父になってるぞ俺!?

俺のテンパッった問いかけにも、本音ちゃんは膝から頭を上げずに、ごろんと寝返りをうつ様に仰向けになって俺と視線を合わせてきた。

俺を見つめてくる本音ちゃんの顔は、さっきと変わらず満面の笑顔のままだ。

 

「えへへ♡今日は天気がいいからぁ~ここでお昼寝をしたかったんだ~……にゃぁ♡」

 

「(きゅんっ)ぶげれぼらっ!?」

 

本音ちゃんは満面の笑顔をそのままに、スパイスとして頬を若干赤く染めながら俺の質問に答えた。

しかも片手を猫の手にして、俺に向かって軽く猫の手で手招きならぬ猫招きをしながら、だ。

その猫の手で、俺の頬を軽くネコパンチするように叩いてくるその様は、正に甘えん坊の子猫ちゃんだった。

キュ、キュン死するぅううううう!?

もはや吐血しそうな勢いで奇声を発しながら、俺は堪らず自分の心臓を抑える。

我が鋼鉄の心臓、只今ピストンがフルスロットル状態、ブロックを突き破らん勢いでブン回っております。

やっばい、もうなんか果てしなくスッゲエ可愛いんですけどこの子猫ちゃん。

本音ちゃんは胸を抑えて悶える俺には目もくれず、ただ俺の膝の上で気持ちよさそうに「にゃぁ♪にゃぁ♪」と鳴いている。

成る程成る程?俺はこの猫の様な可愛いモードの本音ちゃんの枕をする為にこの場に呼ばれたって事か?

 

脳内会議発令、小さい天使服の俺と悪魔服な俺。

 

膝枕(クリーク)!!!膝枕(クリーク)!!!膝枕(クリーク)!!!』

 

満場一致で可決。

 

 

 

ふ、よろしい。ならば膝枕(クリーク)だ(キリッ)

 

 

 

少しづつ落ち着いてきた胸の鼓動に伴って思考も冷静になってきた俺は、本音ちゃんを膝から落とさないように気をつける事にした。

まぁベンチに深く座ってるから落ちる事はねえだろうけどな。

そうしていると、突然本音ちゃんがゴロゴロするのを止めて、再び膝の上から俺に視線を合わせてきた。

 

「後ねぇ~……ゲンチ~にお願いがあるんだ~」

 

「あん?俺にお願い?」

 

「うん~、これは私だけじゃなくてぇ~きよっちと~さゆりんのお願いでもあるんだよ~?」

 

「あ、相川と夜竹もかよ……お願い、ねぇ……」

 

俺が本音ちゃんからの突然なおねだりに首を傾げると、本音ちゃんは更に相川と夜竹の名前も出してきた。

はて?この3人からのお願いってなんだろうか?

俺が首を傾げている間も、本音ちゃんはそのクリッとした穢れ無き瞳で俺をじ~っと見詰めている。

 

「まぁ、本音ちゃん達には世話になってるし、そこまで無茶難題じゃなきゃ引き受けるけどよ」

 

俺は見詰めてくる本音ちゃんに苦笑いしながら答える。

実際ん所、クラス代表決定戦でも、一夏の訓練でもかなり3人には手伝ってもらったしな。

それに同部屋の本音ちゃんには毎回デザートを作ってあげてるが、相川と夜竹には数える程しか作ってやってねえしな。

そして本音ちゃんは俺の答えを聞くと、更に嬉しそうな笑顔と幸せオーラを浮かべ始めた。

この娘の癒しオーラには上限が無いのか!?

 

「ほんと~?それじゃあね、今日の夕食なんだけど~……そこで~……で~……なんだ~♪」

 

「ほう?ほうほう……成る程な……いいぜ、。そのお願い、しかと受けようじゃねえか」

 

本音ちゃんが俺の膝の上で身振り手振りで話してくれたお願いの内容に、俺は段々と笑顔を浮かべた。

そして、本音ちゃん達のお願いの内容が嬉しかった俺は、本音ちゃんのお願いを快くOKした。

 

「やったぁ♡ありがとぉ♪ゲンチ~♡」

 

俺の返事を聞いた本音ちゃんは、更に幸せオーラを発しながら俺に俺を言って、お昼寝の続きを始める。

気持ち良さそうに俺の膝の上に居座る子猫ちゃんの頭をいっぱい撫でてやりながら、授業10分前には起こしてやると言って本音ちゃんを寝かしてあげた。

とても幸せそうな寝息を立てる本音ちゃんの癒しオーラと木々と木の葉が奏でる天然のヒーリングミュージックに俺の心が急速に癒されていく。

俺はその2つのアルティメットヒーリング効果に身を委ねながら、本音ちゃんを寝かしつけて30分ぐらいボーっとしていた。

 

「いや~……心が洗われるってのぁ、こ~ゆう穏やかな時間を言うんだなぁ……はぁ」

 

俺は唐突に、誰に言うでも無く只の『独り言』をこの場で喋った。

俺の言葉の意味を表すかのように、今の俺の心の中は静かでとても穏やかだった。

 

「この時間を『誰か』に邪魔されんのぁイヤだなぁ~……」

 

そのまま俺は本音ちゃんを起こさない程度の声量で『独り言』を呟き続ける。

今この場をもし『誰か』が見ていたんなら、俺は行き成り独り言を呟くアホにしか見えねえだろう。

 

 

 

……そう……それが……

 

 

 

「まっ、こんな至福の時間を邪魔するような命知らずは…………『ブッ殺す』けど」

 

 

 

『(ぞくぅっ!!!)ッ!?』

 

 

 

『誰も居ない』ならの話しだけどな?

 

 

 

俺は何やら入学試験の時の様な感じの俺を『観てくる』視線の主がいるであろう方向に、ありったけの『怒気』を向ける。

決して本音ちゃんには伝わらない様に極限まで注意して振り絞った怒気を10秒程放出して、俺は怒気を消した。

俺は『ソイツ』のいる方向には最初から目を向けずに怒気を放出していたので、さっきから俺の身体は一切動かしていない。

従って本音ちゃんの頭が揺れる事は無かったから、本音ちゃんは一切目を醒ましていなかった。

時折、何やら猫の様に「くぅ~……んにゃ……くぅ~」とか鳴く事はあるがな。

うん、スゲエ可愛い。

 

『……(スッ)』

 

すると、俺と本音ちゃん……いや『俺』のみを観察していた『誰か』の気配が消えていった。

俺が怒気をぶつけてから消える直前まで、何かに怯える小動物の様な気配を感じた事から、俺を『観察』すんのが危険だと感じたんだろう。

視線の主、その気配が完全に消えたのを確認して、俺は少しばかり溜息を吐く。

 

「やれやれ、やぁっと居なくなりやがったか……しっかし、俺を『食堂』からずっと『尾けてきやがった』のは何でだ?」

 

そう、俺は一夏達と別れた辺りから俺だけを観察するような視線に気付いてはいた。

ただまぁ、入学試験の時の先生達から送られる視線に似ていたからどう対処したモンかわからなかったんだ。

ヤマオロシを怖れて気配を消そうとする小動物に似ていたから、俺を観察してるんじゃねえかと思っていたがな。

まぁそれも暫く放置してりゃあ消えるんじゃねえかと放っていたんだが、ソイツの視線は全然消える気配が無かった。

それどころか、段々と気付かれてないとでも思ったようで気配が濃くなりだす始末。

更には本音ちゃんが寝て、俺がリラックスし始めた辺りで俺に気配がドンドン近づいてきやがった。

俺としては視線の主が誰だろうがどーでもいい事なんだが……俺の至福の癒しタイムを邪魔しようとしたのは頂けねえ。

だから俺はソイツにお灸を据える意味と、それ以上近づいたらブッ殺すって意味を篭めて威嚇してやった。

濃厚に凝縮された怒りってのは、教室で無差別に放った本気の怒りよりも効果が強い。

普通の女の子なら泡噴いてブッ倒れちまう程に強力なヤツだが、俺を観察していた気配の主は、多分普通の女の子よりかはかなり強い。

腰も抜かさず悲鳴も挙げずに逃げ出せた事から間違いねえだろう。

 

まぁ今はもう居なくなったから別にいいか。

 

そして、邪魔者がいなくなったのでそのまま二度目の幸せタイムを堪能していると、予めセットしていた携帯のアラームが授業10分前を知らせてくれた。

非常に名残惜しいが千冬さんにブッ倒されるのはイヤだったので、俺は膝で眠る子猫ちゃんを優しく起こす事にした。

眠たそうに目を擦りながらフラフラとした足取りで歩く本音ちゃんにハラハラしながら、俺達は教室に戻って午後の授業を受けた。

 

やれやれ、害は無かったが面倒な視線だったなぁ……出来ればコレで懲りてくれりゃ助かるんだが。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

バタンッ!!!

 

「はぁっ!!はぁっ!!はぁっ!!はぁっ!!……アレが、鍋島元次君の……『気迫』……規格外過ぎるわよ……」

 

まるで慣れないフルマラソンを完走したばかりの人間の様な息遣いを吐く少女は、自分の城のドアを蹴り破る勢いで開けて中に入った。

そして荒々しくドアを叩き付けるかの如く閉めると、滑るようにドアにもたれ掛ったまま、地面に腰を下ろし、彼女は呼吸を何とか整えようと必死になる。

それも全て、先程の男……元次から浴びせられた怒気を忘れたいが為の人間が反射的に行う自衛行動が反映されたものだ。

 

『恐いモノから逃げたい』

 

そんな人間らしい、いや動物らしい本能に従って、彼女は荒々しくもドアを閉めたのだ。

自分を追って来てるワケでも無いのに、せめて扉を閉める事で遮断しなければと、彼女の本能がそうさせてしまう。

それが彼女の、辛く厳しい訓練で身に着いた普通の人間より鍛えられた本能が「今すぐこの場から逃げろッ!!!」と働きかけた結果だから。

 

「だ、大丈夫ですかお嬢様ッ!?」

 

そして、そうやって呼吸を荒げてたまま、部屋のドアにもたれ掛かって腰を地面に落ち着ける彼女に声が掛けられる。

声を掛けた女性は、IS学園3年生を示す色のネクタイを規則通りに付けていた。

それだけで、彼女がこの学園の最上級生であることが、学園の関係者には理解できる。

更に彼女の容姿は上の上、少女という幼さの衣を脱ぎ捨て色香を纏い、大人の女性へと花開きつつある知的な女性だった。

彼女の顔に掛かる淵無しのメガネの奥に見える瞳は、目の前で息を荒げる少女に対しての強い心配の色があった。

 

「……もう、ダメよ?虚ちゃん。学園でお嬢様は禁止って言ったじゃない♪」

 

そんな風に自分の身を案じてくれる『長年』の付き合いがある少女は、少しばかりのからかいの表情を見せて陽気に返事を返した。

いつもならこの返事で煙に巻くか、説教になってうやむやに出来ると少女は踏んでいた。

それもこの少女が、長年付き添ってくれた彼女に心配を掛けたくないという思いの裏返しの様なものなのだ。

だが、その日の彼女の予想は見事に裏切られた。

そうやって飄々とした返事を返したにも関わらず、彼女……虚と呼ばれた女性は怒りも呆れもせずに、首を左右に振るだけだった。

 

「お嬢様……何時もの様に振舞おうとなされるのはご立派ですが、手の震えが隠せてませんよ?」

 

その言葉にハッとして自分の手を見てみれば、あっちゃぁ~というやってしまった感が出てきた。

そう、虚の指摘通り、彼女の手は小刻みに震えていたのだ。

元次の怒りによる恐怖のダメージから、まだ身体は完全に回復してなどいなかった。

もはや彼女の意思では、止めようにも止まらないのだ。

それが、その視えない力こそが、野生の王者であるヤマオロシを下せるラインの上に位置する者達が持つ一種の『力』の恩恵だ。

 

 

 

 

 

圧倒的な実力とカリスマで世界中のIS乗り達から畏怖と尊敬を込めた称号『ブリュンヒルデ』と呼ばれ世界最強に君臨する女傑、織斑千冬。

 

 

 

構成員3万人を誇る東日本最強最大の極道組織『東城会』若頭であり、アンダーグラウンドの世界の住人から生きる伝説と謳われる極道、冴島大河。

 

 

 

若干16歳にして冴島や千冬に認められる程の実力と度胸を持つ『世界に2人だけの男性IS操縦者の1人』にしてIS学園のスーパールーキー、鍋島元次。

 

 

 

……余談ではあるが、まだ在野には極道社会から『堂島の龍』と呼ばれた伝説の極道や『嶋野の狂犬』と怖れられた冴島の兄弟もいる。

彼等もまた、冴島や千冬と並ぶ程の豪傑であり、元次の上に立つ真の強者だ。

 

 

 

 

 

まだ彼女には、この3人に並び立つ程の実力は備わっていなかった結果、それが彼女が身体に感じている恐怖という感情だ。

彼女の実力は、IS無しではヤマオロシの足元にも及んでいない。

そんな彼女には、元次の強力な怒気に耐えうるだけの力は欠片も無かったのだ。

元次の怒りに晒されて震える彼女の手に、虚の手が重ねられる。

近しい者から心配されるという暖かい感情に、彼女の手の震えも段々と収まっていった。

 

「……ふぅ……ありがとね、虚ちゃん♪」

 

震えが収まり、段々と冷静な思考が戻って来た彼女は、手を重ねてくれた虚に礼を言って、ドアから立ち上がる。

そんな彼女の様子を見て大丈夫と判断したのか、虚はここでやっと笑顔を浮かべた。

 

「いえ、お嬢様を支えるのは、使用人である私の務めですから」

 

「あっはは♪やっぱり虚ちゃんには敵わないや……しっかし凄いよ、あの鍋島君は……代表候補生を圧倒してたのも頷けちゃうわね」

 

彼女は昔から変わらないで自分の傍に立ってくれる『幼馴染』に感謝しながら、先程『観ていた』新入生の事を思い出す。

今年、いやISが誕生して初の男性操縦者2人、その片割れの1人であり、世界最強のブリュンヒルデに勝った男。

彼女の言葉に、虚は笑顔を消して真剣な表情で彼女を見る。

 

「……それ程凄いですか、彼は」

 

「凄いなんてモンじゃないよ?あれはトンでもないわ。頭1つ分ズバ抜けてるとかのチープな話しじゃないって」

 

そう言って彼女のはいつも持っている愛用の扇子をバッと開く。

其処には達筆な文字で『別格』の文字が書かれていた。

ちなみにこの扇子の文字は毎回変わるのだが、IS学園の七不思議(六つは不明)に載っている扇子でもある。

つまり仕組みが分からない。

 

「あれは多分、最初から気付いていたわね……私が接触しようとした瞬間『邪魔したらブッ殺す』よ?もう勘が鋭いなんてレベルを超えてる」

 

彼女は先程の出来事を思い出しながら扇子を閉じて考えを纏めていた。

その際に笑顔が引き攣ってしまうのは仕方のない事だろう。

虚は彼女の言葉を聞きながら、冷静にその先の事を考える。

彼女がここまで取り乱すのであれば、彼女の話しは本当なのだろう。

さっきの行動も、演技にしては真実味がありすぎる。

 

「それでは、やはり先に接触するのは……」

 

「えぇ。最初の予定通り織斑君しかないわね……彼は、鍋島君程の力は持ってないし、織斑先生の弟というブランドがあるもの。『奴等』が真っ先に狙う可能性が高い」

 

虚にそう言う彼女の顔つきは、先程までの怯えを持ったものでは無く歴戦の戦士のソレになっていた。

彼女が元次に接触しようとしていたのは、彼女の学園での『役割』による関係が大きかった。

その関係上、彼女は試験とはいえブリュンヒルデに勝ったという元次の力を試して、可能ならば自分の下に置こうと考えていた。

だが結果は元次の力を試す事すらできず、それどころか元次に『見逃してもらった』という散々な結果だった。

 

「さすがに私も、手綱を握れない獰猛な『熊』ちゃんと一緒の檻で生活するのは無理」

 

元次に良い様にあしらわれた結果を感じながら再び扇子を軽快に開く。

其処にはまたもや達筆な文字で『猛獣』と書かれていた。

あの場に居た『もう1人』に頼めば、元次は快く引き受けたかも知れないが、さすがに手綱を握れないのでは意味が無かった。

 

「その熊という例え……かなり的を射てるかと思われます」

 

「?どういう事かしら虚ちゃん?貴女がそんな事言うなんて珍しいじゃない?」

 

虚の物言いに、彼女は首を傾げた。

長年一緒に居るが、虚がこの様な冗談めいた言葉に反応するとは思っていなかったのだ。

 

「……本家が掴んだ情報です(スッ)」

 

だが、虚が少し頬を赤くしながら差し出してきた資料の一番上にあった写真を目に通した瞬間、彼女の口元は盛大に引き攣った。

正しく驚愕、いや理解不能の域を写し出した奇跡のスナップ。

その写真には、『2匹の熊』が写し出されていた。

1匹は、全身が茶色の体毛に覆われ、腹の体毛は白い円を描いている、古来から日本に生息する『ツキノワグマ』だ。

だがこの『ツキノワグマ』は、他の熊とは比べ物にならない点があった。

それは『大きさ』だ。

大抵のツキノワグマは大きくても3メートル前後、これでも普通の人間よりは遥かに大きく強い。

獰猛な気性なら、人間なんてあっという間に喰われてしまうだろう。

 

だが……。

 

「ねぇ、虚ちゃん?これって現像のミスじゃないかしら?私の目には、『6メートル以上はある』巨大熊が写ってる様に見えるんだけど?」

 

彼女はそう言って口元をヒクつかせながら、目の前の虚に視線を移す。

そう、彼女の持っている写真に写っているのは、立ち上がった状態で咆哮を挙げる巨大なツキノワグマが写っていた。

その姿は、正に野生の王者と呼ぶに相応しい巨体だ。

ミニバンを縦に立ちあげても、この熊の方が頭1つ分は大きい。

さすがに現代にこんな熊がいるとは思えない彼女は、渡してきた虚に問い返したくなるのも仕方がなかった。

だが、無情にも虚は首を縦に振る事は無かった。

 

「お気持ちはわかります。私も最初は目を疑いました……ですが、これは現像ミスでも撮影ミスでもありません。本当にそのサイズの熊なんです」

 

そして、虚の口から語られた真実に、彼女はもう一度写真に目を移した。

但し口元は盛大に引き攣ったままだったが。

彼女の見ている先には、もう『1匹』の『熊』……いや正しくは『熊』に近い存在の『男』が写っていた。

写真の景色は冬で、一面に雪が積もっているにも関わらず上半身は何も纏っていない。

素肌を晒す男の上半身はこれでもかと鍛え込まれており、絞った上に更に巨大な筋肉の塊が付いている。

相当な訓練をしなければ、ここまでの身体を造り込む事は不可能だろう。

それは自らも厳しい訓練をこなしてきた彼女には良く判った。

その写真の男は、体長6メートルにも及ぶ熊に対して、飛び上がり己の腕と足を駆使して戦っている姿が捉えられていた。

男の限界まで膨張した腕が、岩の様な拳がツキノワグマの横っ面にヒットしていて、熊が血を吐きながら体勢を崩していく姿を写している。

 

「その巨大熊の名前は『ヤマオロシ』と近隣住民に呼ばれているそうです……猟師の方に話を聞いた所、体毛が硬く、銃弾すら効かないという事でした」

 

「……まさかとは思うけど虚ちゃん?……このランボーも真っ青な熊と真正面から素手喧嘩(ステゴロ)してるワイルドなタフガイって……」

 

彼女の余り当たって欲しくないという思いの篭められた質問に虚は少し躊躇いながらも、今度は首を縦に振った。

 

「はい……その写真の男性こそ、先程お嬢様が接触しようとした鍋島元次君です……ちなみに彼は、このままヤマオロシを素手で倒してしまったと報こ……」

 

「無理無理無理無理ぃッ!!?どうやったってそんな規格外な人間制御できないってぇぇえええええええッ!?」

 

自分の幼馴染から語られた言葉に、今度こそ頭を抱えて絶叫してしまう彼女の姿があった。

ちなみに元次が規格外ならば、世界最強の教師である千冬は更にその上を行くというのを、彼女はすっかり忘れていた。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

時間はかなり進み、此方は食堂に続く廊下。

 

 

夕食時である現在、この廊下を歩く大勢の生徒の姿があった。

そして、その一団の中に、1年1組の面々がある人間を筆頭に大きな集団となって移動していた。

その一団の先頭を歩いているのは、この学園の異端にして史上初の男性IS操縦者の1人。

鍋島元次の兄弟分にしてパーフェクトフラグメーカーの織斑一夏だ。

先頭を歩く彼の左右に陣取っているのは、眩しい金髪を優雅に靡かせるイギリスのお嬢様であるセシリア・オルコット。

そして一夏と元次の幼馴染にして、日本を代表する大和撫子の如く艶やかな黒髪を魅せる篠之乃箒の2人だった。

その羨ましすぎるポジションに後ろに着く一夏を慕う女子は羨ましそうな顔をしていた。

だが、真ん中に挟まれている一夏の表情はと言えば、全く持ってげんなりとした表情を浮かべていたりする。

それは左右の箒とセシリアが自分を挟んで睨みあっている事も原因の1つではあるが、一夏がげんなりしている理由はそれだけでは無かった。

 

「しかしなぁ……別にやらなくても良いのによ、俺のクラス代表就任パーティーなんて」

 

一夏は肩を落とした姿勢のままにそう言って疲れた表情を浮かべる。

実は今回の1年1組クラス代表決定において、これからクラスを引っ張っていく一夏を皆で祝おうというのが事の発端だったりする。

それを聞いた一夏はというと、流れに身を任せた身とあって、余り乗り気ではなかったのだ。

確かに、自分の兄弟分の粋な計らいに乗ってヤル気を出していた一夏だったが、例えそうであっても成り行き任せな所があったのも事実。

そんな自分を祝うパーティーとあっては乗り気で無くても仕方が無い。

 

「まぁまぁ一夏、皆がお前を祝ってあげようというんだ。このぐらい受け止められんでいては、男が廃るぞ?」

 

「そうですわ一夏さん、ましてやレディーからの誘いを断るなんて、紳士の風上にもおけません事ですわよ?」

 

と、一夏のぼやきを拾った左右を歩く箒とセシリアは、げんなりする一夏を嗜める様に言葉を掛ける。

その言葉に、一夏達と一緒に歩いていた1組の女子が全員呼吸を合わせて「うんうん」と頷いていた。

もはやこの場に自分を擁護してくれる人間が居ない事を痛感した一夏は、喋るのもそこそこにして観念した。

 

「わ、わかったって……ってそういえば、ゲンの奴は何処に行ったんだ?放課後から姿を見てねえんだけど……箒は見たか?」

 

とりあえず納得はしていないが、クラス代表就任パーティーについては諦めた一夏は、本来ならここに居る筈の兄弟が居ない事に首を傾げた。

何故か元次は放課後の訓練にも顔を見せず、携帯に連絡しても繋がらないので半ば放置していた。

 

「いや、私も放課後から見てはいないが、布仏と一緒に教室を出ていたぞ?」

 

「のほほんさんと?」

 

「そういえばそうでしたわね……わたくし達は直ぐにアリーナに向かって特訓していましたし、他の方なら知っているかと思いますが」

 

「アイツの事だ。その内ヒョッコリと現れるのではないか?」

 

「まぁ、それもそうだけどよ」

 

一夏はこの場に居ない元次の行方を聞いてみたが、箒から帰って来た返事は同行者が居たぐらいしか知らないとの事だ。

まさか自分にこんな面倒事を押し付けて、自分は優雅に寝てるとかじゃないだろうか?という疑念も湧いてきた。

あの時乗せられなければ……と、考えてしまう一夏だったが、もう既に後の祭り。

クラス代表は自分の姉である千冬の言葉の元に決定しているのだから。

今更拒否しようモノなら、どんな目に遭わされるか判ったモノじゃない、っていうか知りたく無い。

 

「はぁ……なんかゲンに良い様に踊らされた気がする……仕方ねえ、もうこうなったら自棄食いしてやる」

 

決まった物はもう仕方が無いと、無理矢理自分を納得させた一夏は、もう直ぐ始まるパーティーでモヤモヤした気持ちを解消する事にした。

主に食欲のみで発散してしまおうという辺り、一夏も中々単純である事が伺えた。

そして、1組の生徒が一丸となって食堂に向かうと……窓際の一列のテーブル席の上に『ご馳走』が並んでいた。

最初にこの景色を見た一夏達は、食堂に料理があるのは普通だと思っていた。

だが、おかしな事に何故かその一列のテーブル席には『誰も』座っていなかったのだ。

テーブルの上に並ぶ彩り豊かな料理達はホカホカと暖かい湯気を立ち登らせて、自分達が誰かの胃袋を満たすのを今か今かと待ち侘びている様に見える。

その光景を目の当たりにし、胃袋を刺激する漂う匂いの所為で、一夏は知らず知らずの内に喉を大きく鳴らしていた。

しかも一夏の後ろを見てみれば、箒やセシリア、更には1組の生徒も同じ様に、テーブルに置かれた数々の料理の誘惑に喉を大きく鳴らしていた。

 

「な、なんか……スッゲエ美味そうな料理が沢山あるんだけど……あれって、何で誰も手を付けてないんだ?……ゴクンッ」

 

「わ、わかりません……ですが、何かあの料理には……吸い寄せられるというか……コクンッ」

 

一夏の戸惑う声に言葉を返すセシリアだったが、彼女もまた一夏程の音では無いが、目の前の料理の魅力に喉を鳴らしていた。

英国淑女を自負する何時もの彼女なら絶対にしない行為だったが、目の前の料理達はそういった人間の自制心すら破壊しかねない程の、人間の本能に直接訴えてくるような魅力を放っていた。

何故か1組の生徒達よりも先にこの場に居たであろう他の生徒達もあそこのテーブル席には座って居なかった。

皆自分達と同じ様にあそこの席を喉を鳴らしながら見ているだけで、誰もあそこの席に座ろうとはしていない。

 

だが、このまま入り口に居ても他の生徒達が入れないので、一夏は後ろ髪を引っ張られる様な思いを振り切ってどこかの席に着こうとした。

 

「あっ、おりむ~♪やっと来たね~♪」

 

「え?……あっ、のほほんさん、相川さんと夜竹さんも」

 

だが、何処かの席を探そうとしていた一夏に、食堂のキッチンの方から声が掛けられた。

その声に従って視線を向けてみると、其処には元次と一緒に居なくなっていた筈のクラスメイト、布仏本音の姿があった。

彼女は入り口で固まっているクラスメイトの方に、いつもと同じ癒しオーラを漂わせた笑顔を振り撒きながら近づいてくる。

更にその後ろには、同じくクラスメイトの相川清香と夜竹さゆかの姿もある。

 

「さ~さ~♪折角のご飯が冷めない内に座ろうよ~♪」

 

「そうそう♪ささっこっちだよ一夏君!!」

 

「へ?あっ、ちょ!?」

 

何が何やらという表情を浮かべていた一夏の傍まで歩み寄った本音の言葉と共に、相川は一夏の手をナチュラルにとって件のテーブル席まで歩き始めた。

本音はそんな相川の様子を楽しげに見ているだけで、止めようとはしなかった。

同じく一緒にいた夜竹も楽しそうな、それでいてしょうがないなぁといった笑顔を浮かべながら、一夏と相川の様子を見ている。

 

「ちょ!?ちょっと待って下さいな相川さん!?な、なな何をしていらっしゃるのでしょうか!?」

 

「え?何って、一夏君を案内してるだけだけど?」

 

「そ、その為に手を繋ぐ必要性は無いんじゃありませんこと!?」

 

その余りにも自然な動きに初手を許してしまったセシリアだが、直ぐに気を取り直して相川に食って掛かる。

恋は戦争、この格言に従って行動するセシリアは正に乙女と言えるだろう。

だが、そんなセシリアの的を射た発言に、相川はいたずらっ娘の様な笑みを浮かべて……。

 

「早い者勝ちなのさ♪」

 

「な!?お、お待ちなさい!!」

 

「待ちませーん♪」

 

尤も過ぎる言葉を言い放った。

恋は戦争、ならばイニシアチブを最初に取った者が勝者に近づけるというのは当たり前の事だ。

先程まで恋する男性の隣を占領していたという油断が、セシリアの行動を1歩遅くしてしまったのだ。

尤も、朴念仁ならぬ朴念神と呼ばれる一夏にしてみれば「手を繋ぐぐらいで何を怒ってるんだ?」ぐらいの思いしか無いのだが。

そんな事をやっている3人を尻目に、本音はまだ食堂の入り口で固まっている他のクラスメイトに向き直っていた。

 

「皆も早く席に着いて~♪あそこのご馳走が並んでる席が~おりむ~の歓迎会の場所だよ~♪」

 

『『『『『……えぇっ!?』』』』』

 

そして、本音の言葉にクラスの全員は素っ頓狂な声を挙げてしまう。

まさか先程から妙に食欲を擽ってくるあの御馳走が並んだテーブルが、自分達のものだとは微塵も考えていなかったのだ。

そのまま本音に急かされる形で、クラスの全員は戸惑いながらも全員席に着いた。

ちなみに、主役である一夏の隣には、そこまで案内した相川と、何時の間にか横を占領していた箒に固められていたりする。

コレに関してもセシリアは己の出遅れを認識して落ち込んでいたが、完全な余談である。

 

「え、えぇっと……の、のほほんさん?この料理は誰が用意したんだ?」

 

そして、全員が席に着いて落ち着いたのを見計らって、一夏は本音に問いかけた。

この問いかけはクラスの全員が知りたかった事だったので、他のクラスメイトの視線も本音に集中していく。

その視線を受けた本音はというと、何時もの如くぽややんとした笑顔を浮かべながら立ち上がった。

 

「おりむ~も知ってるよ~?こんなに美味しそうな料理を作れる~スッゴイ人の事~♪」

 

「えっ!?お、俺も!?」

 

予想だにしていなかった切り替えしに、一夏は素っ頓狂な声を挙げて驚いてしまう。

そして、本音の言葉を聞いたクラスメイトは、一夏に向かって一斉に視線を向けて「そうなの?」という疑問を浴びせてきた。

目は口ほどにモノを語る、という諺を、一夏は身を持って体験してしまった。

その一斉に向けられた視線に慄きつつも、一夏は今の本音の言葉に思考を回転させていた。

自分達と一緒に来たクラスメイト以外で、こんなにも美味そうな料理を作れて且つ、こんなにも粋な計らいをしてくれる知り合い。

 

……もうそこまで考えてしまうと、一夏は答えが分かってしまった。

だが、それでもあくまで確認の為に本音へと視線を送ると、本音はその視線にニッコリとした笑顔を見せたままだった。

 

「にへへ♪そうだよ~♪おりむ~の考えてる通り~この料理を作ったのは~♪」

 

「俺だよ」

 

と、本音が喋ってる声に便乗する形で、突然横合いから声が割り込んできた。

このIS学園において、一夏と同じ立場に居るもう1人の異端。

その男の声を聞いた一夏及びクラスメイトの全員は、声のした方向に視線を向けた。

其処には、いつも着ているIS学園のブレザーを脱いで、素肌の上に黒のカッターシャツを羽織り、首元にシルバーチェーンを巻いた男が立っていた。

カッターシャツの裾は肘辺りまで捲くり上げられていて、粗暴でありながら、見た女に『守られる』という安心感を与える筋肉質な腕が見えている。

しかもアメリカのカスタムショップ、ムーンアイズのロゴがはいった紺色のエプロンを纏った姿で家庭的な一面を演出していた。

 

 

IS学園の型破りな男、鍋島元次は何時もの獰猛な笑みではなく、楽しそうな笑みを携えて一夏達を見下ろしていた。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

俺はポカンとしているクラスメイトを見渡しながら、今回の主役である一夏に視線を向け直した。

 

「よぉ、一夏。驚いたか?」

 

「ゲ、ゲン?お前その格好……」

 

一夏はフルフルと震えながら俺の格好を指差して驚いている。

まぁいきなりこんな格好で出たら驚くか。

現にクラスの子達は俺の格好を見て驚いてるし。

 

「おう、さっき本音ちゃんが言った通り、この料理は全部俺が用意させてもらった……まぁ、俺なりのクラス代表就任祝いってヤツだ」

 

俺はまだ呆けてるクラスメイトに苦笑いしながら、一夏の質問に答える。

そう、俺が昼休みに本音ちゃんにお願いされたのは、今日行われる一夏のクラス代表就任パーティーで俺の飯を振舞って欲しいって事だった。

どうせ食べるなら、美味しいモノが食べたいって言われた時はマジで嬉しかったモンだぜ。

そんでもって放課後に俺と本音ちゃんで職員室に行き、千冬さんに食堂のキッチンを使う許可を取りに行った。

その事については『千冬さんと真耶ちゃんの分も作って職員室に持って来る事』って条件付きで快諾してもらった。

何故かその時の嬉しそうな真耶ちゃんと千冬さんとは対照的に羨ましそうな目を向けてくる教師の皆さんが居たが……何で?

と、ともかく、俺は一夏とオルコットと箒がアリーナで訓練している間に、食堂で仕込みをしていたワケだ。

俺と一緒に食堂に来てくれた本音ちゃんと相川、夜竹は席の確保や飾りつけなんかをしてくれたので、準備は大分スムーズに進んだ。

食堂のマダム方も俺がキッチンを使うのを快くOKしてくれたし、色々な小技も教えてもらったり教えてたりしてたから結構楽しかったぜ。

マダム方は俺の料理の手際の良さや包丁捌きに舌を巻いて驚いてたけどな。

そのまま「アンタ家の娘もらってくんない!?」とか「そうそう!!アンタになら義母さんって呼ばれたいしね!!」なんて大勢のマダムに詰め寄られたのはビビッたが。

まぁ、その話を偶々傍で聞いてた本音ちゃんの機嫌が急降下してそれ所じゃ無かったよ。

んでもって、食事が全部出来上がったので、さっき職員室に寄って千冬さんと真耶ちゃんに約束の食事を持って行って今帰ってきた所なんだが……。

 

『『『『『……ッ!?(バッ!!バッ!!)』』』』』

 

と、俺が調理風景を思いだしていると、呆けていたクラスメイトが豪快な音を出しながら首を振って俺と料理を見比べていた。

まぁ、こんな粗暴な男が見た目スゲエ見事な上に美味そうな料理作れるなんて思ってなかったんだろうけど……ちゃんと自己紹介の時に言った筈だぜ?趣味は料理だってな。

俺はそんな面白い行動をしているクラスメイトに笑い掛ける。

 

「まぁ、野郎が作ったモンで申し訳ねえけどよ。出来るだけ美味く作ったつもりだから、しっかり味わってくれや」

 

『『『『『は、はいッ!!しっかり味わいますッ!!』』』』』

 

俺の言葉に対して敬礼しながら返してくるクラスメイト。

どうしてそうなった?

 

「……い、いよぉっしゃあああああああああああああッ!!!ゲンの本気で作った飯が食えるなんて嬉し過ぎる!!こんなご褒美があるなら、クラス代表なって良かったって思えるぜ!!」

 

一夏を筆頭に、今まで俺の料理を食った事があるヤツはそれはもう嬉しそうにしていらっしゃる。

うんうん、俺の料理が気に入ってもらえたのはスゲエ嬉しいぜ。

 

「で、では!!手を合わせて、頂きます!!」

 

『『『『『いただきまーすッ!!!』』』』』

 

そして、もはや待つのは拷問とばかりに駆け足の勢いで一夏が号令を掛けると、クラスの全員がそれに続いて食事の挨拶をした。

各々が目を輝かせて思い思いの料理を小皿に分けて口に運んでいく。

さぁ、緊張の瞬間ってヤツが来たぞ!!

そして、彼女達は俺の料理を恐る恐る口に運んでから数秒程フリーズし……。

 

『『『『『…………うンマァーイッ!!!!!』』』』』

 

「シャアッ!!」

 

口を揃えて最高の褒め言葉を合唱してくれた。

俺は余りの嬉しさに大きくガッツポーズをとって喜びを露にする。

彼女達はそのまま彩取り取りの料理に箸を、フォークを伸ばして満面の笑顔で頬張っていた。

 

『っていうか美味し過ぎるでしょこれ!?レベル高すぎ!!』

 

『強くて逞しくって料理もできるってどんなチートスペックよ!?』

 

『うぅ……男の人に料理で負けるなんて……悔しいけど美味しくって沢山食べちゃって、ニコニコしちゃう……』

 

何やら驚き、泣き、笑いと色んな表情が見えるが、誰一人としてマズそうな顔では食べていなかった。

よっし、今回の料理も成功だな。

俺はそんな百通りはありそうな数々の表情を見ている内に、ある事に気付いた。

クラスの女子は食べる事に夢中になっていて、この催しの根本的な理由自体を忘れているではないか。

しかも主役である一夏も食べる事に夢中になってるし。

仕方ねえな……ここはいっちょ、この俺が音頭を取らせて頂きますか。

俺は苦笑いの表情を浮かべながらパンパンと手を二回鳴らして周りの注目を集める。

突然鳴った音に、皆「何事だろう?」といった表情で振り返ってきた。

 

「あ~、そのだな……俺の飯がウメエって言ってくれんのは嬉しいが……この料理を作った意味を忘れてね?」

 

俺がそこまで言うと、流石に気付いた様で何人かの女の子は恥ずかしそうに顔を赤らめてしまった。

まぁ『花より団子』ってのを男子の前で実演しちまったのが恥ずかしいんだろう。

俺はそんな風に恥ずかしがってる女の子達を視界の隅に追いやりながら、1人意味が判らず呆けてる一夏に向き直る。

 

「まぁ、とりあえず一夏……クラス代表就任おめでとさん。俺等1組の代表として、しっかり頑張れよ?」

 

「……お、おう!!こんなウメエもん食わせてもらったんだ。その分はキチッと決めてやるよ!!」

 

俺の言葉にハッとした表情で俺の言葉に元気良く返事を返してきた。

ここでクラスメイトの皆も便乗する形で「頑張れ織斑くーん♡」とか「負けたら私が慰めてあげる♡」なんて声援を送り始めた。

ふむふむ?つまり一夏の戦績がそのまま俺の飯に対する評価になるワケだ。

なら簡単に負けねえように脅しておくか。

 

「ほぉ?つまり初戦で無様を晒したら俺の飯がその分しか価値がねえって事だな?そん時は10円ハゲが出来るまで毎日ストレスかけてやっから楽しみにしてろ(笑)」

 

「……ぜってえ負けらんねぇ……!!箒、セシリア!!これからも訓練の相手、頼むぜ!!(汗)」

 

 

再び俺の言葉にハッとした一夏だが、今度は冷や汗をダラダラ流しながら緊張した面持ちで返事を返してくる。

 

「ま、任せろ!!お、お前が強くなれる様に、力を尽くす!!(い、一夏が私を頼ってくれてる……幸せ♡)」

 

「お、お任せ下さい!!このイギリス代表候補生、セシリアオルコットが、一夏さんを逞しく強い男性にしてみせますわ!!(わ、わたくしを頼って下さるなんて……必ず、ご期待に応えます♡)」

 

うんうん、この調子なら無様な真似はしねえだろ。

うしっ、俺も飯を食いますか。

 

「ゲンチ~♪こっちだよ~♪」

 

「あ、空いてるから……ど、どうぞ!!」

 

と、俺がエプロンを脱いで座る場所を探していると元気良く手を振っている本音ちゃんと恥ずかしそうにしている夜竹の姿が飛び込んできた。

他に空いてる場所もなかったので、俺は真っ直ぐに2人の隣を目指した。

 

「おう、サンキュな、2人共」

 

「いえいえ~♪」

 

「き、気にしないで」

 

俺が席を確保してくれた事にお礼を言うと、2人は擽ったそうに言葉を返してくれた。

さて、じゃあ頂きますっとくらあ。

俺も空腹を訴える腹の信号に従って目の前に鎮座する料理をドンドンと平らげていく。

うんむ、しっかりと味が染みてていい出来だ。

そのまま俺達は皆で談笑しながら楽しい晩御飯を楽しんでいたんだが……。

 

「あ、いたいた、話題の一年一組メンバーはここに居たんだねー」

 

そう言いながら織斑一夏クラス代表就任おめでとうパーティーに入ってくる1人の女子生徒が居た。

ん?誰だこの子は?

俺は手元に持ったフライドチキンを齧りながら、横目でその女子に目を向ける。

胸元のネクタイは昼間会ったクソ女と一緒で黄色のネクタイだった。

あっ、という事はこの人は先輩か。

彼女は最初に目に入った一夏の下へすたすたと近づいていき、一つの紙を手渡す。

 

「君が織斑一夏君ですね、私は新聞部副部長、二年生の黛薫子です!!あっ、これ名刺ね」

 

「はぁ、どうも」

 

新聞部の部長と名乗った先輩……黛さんは、気の抜けた返事をする一夏にも嫌な顔1つせずに、柔和な笑顔を浮かべる。

どうやら昼間に遭遇したクソ女と違って、この人はマトモな人間みてえだな。

そんな事を考えながら黛さんを見ていると、彼女は辺りをキョロキョロと見渡し始め、程なくして俺と目が合った。

すると、一夏に見せた様な柔和な笑顔を見せながら俺の傍まで歩み寄ってきた。

 

「君が鍋島元次君?さっき一夏君にも言ったけど、新聞部副部長、二年生の黛薫子です。よろしくね♪」

 

黛さんはそう言って、一夏にしたのと同じ様に俺にも名刺を差し出してきた。

俺はそれを受け取ろうとしたが、まだフライドチキンを食べてる途中だったので、骨が口からはみ出してた。

っとと、俺も自己紹介せにゃいけねえな。

 

「モグモグ……バキバキバキバキッ!!!ごっくん。いや、すんません。飯食ってる途中だったんで」

 

俺は急いで口の中の肉を咀嚼して、骨を豪快に噛み砕いて飲み込んだ。

そしてそのまま笑顔で名刺を受け取ったんだが……目の前の黛さんは目を点にして俺を凝視していた。

 

「?黛さん?どしたんすか?」

 

「……ハッ!?ご、ごめんね。ビックリしちゃって……さすが鋼鉄の野獣(アイアン・ビースト)って渾名が付くだけのインパクトを持ってるね」

 

「はっ?……あ、あいあん?何すかそれ?」

 

俺が疑問に思って声を掛けると、黛さんは直ぐに元に戻ったが、何やら聞き慣れねえ単語を口にした。

何の事か分からずに聞き返すが黛さんはさっきの柔和な笑顔じゃなくて楽しそうな笑顔を浮かべるだけだ。

 

「ままっ♪その事は後で説明するとして……ごほんっ。今回は今もっともホットで超話題の新入生2人をインタビューしに来たの」

 

「2人?……っつーと、俺と一夏っすか?」

 

「そ♪理解が早くて助かるよ。じゃあ、まずはクラス代表になった織斑君からいきますか♪」

 

「お、俺からですか!?」

 

俺の問いに答えた黛さんは笑顔を浮かべたままに俺から離れて、テープレコーダー片手に一夏へと詰め寄っていく。

成る程な、確かにIS史上初の男性IS操縦者の俺達が話題にならねえワケがねえか。

それこそ世界的な大ニュースだったワケだし、学園の新聞部がこんな美味しいネタに食いつくのも当たり前ってな。

だがそれならそうと、せめて事前連絡が欲しいって思ったのは俺だけじゃねえ筈だ。

現に一夏だって、急な質問に慌ててるしな。

 

「そりゃ勿論だよ!!話題の男性IS操縦者の1人にして、クラス代表だよ!?こんな美味しいネタはそうそう無いって!!それじゃあ織斑君!!クラス代表になった感想をどうぞ!!」

 

おおっと?行き成りそれについて聞くのか?

っていうか一夏のクラス代表って、半ば俺が押しつけたモンだし、行き成りそんな事聞かれても……。

 

「まぁ……何というか……頑張ります」

 

「え~、なにそれ~もっといいコメントちょうだいよー。俺に触るとヤケドするぜ、とかさ!!」

 

ってぐらいにしか答えれねえよなぁ……っていうか俺だって一夏の立場なら同じ返事をしてたと思う。

それでもさすがにブン屋の卵。

まだそれぐらいじゃめげない精神をお持ちの様だ。

そんな黛さんの無茶振りに対して唸りを挙げた一夏の第2の返答はというと……。

 

「自分、不器用ですから。」

 

「うわ、前時代的!?」

 

 

いやいやいや、黛さんのもかなり前時代的だったと思うぜ?

一夏の答えとどっこいどっこいだろーよ……っていうか一夏、テメエはどこかの大物俳優を気取ってんのか?

何とか頑張って繰り出した一夏の答えに、黛さんはたちまち不満気な表情へシフトチェンジ。

っていうかインタビューに面白いもクソもへったくれも無えと思うのは俺だけか?

駄菓子菓子!!黛さんの中の常識ではそうではなかったようで、一夏のコメントに納得していないのがアリアリと表情に出ていた。

さすが新聞部らしくテープレコーダーの他にカメラ、手帳、ペンを持っており、手帳に一心不乱に書き込んでいるのは何なのか。

 

「じゃぁいいよもう、それについては捏造しておくから」

 

その一言で俺は思う。じゃあ聞くなよ。

っていうか間違い無く一夏も思ってるな、あの顔は。

捏造内容が書き終わったのか、黛さんは手帳からペンを放すと、今度は一夏の隣の隣に座っていたオルコットに標的を変えた。

 

「じゃあ、次は現役代表候補生のセシリアちゃんにも何か一言お願いしようかな!!」

 

「こういったコメントはわたくしあまり得意じゃありませんが……」

 

黛さんにコメントを求められると何故かオルコットは腰に手を当てて優雅に立ち上がった。

どーでもいいがお前はポージングすると何かあるのか?波紋でも練ってんのか?

 

「ではまず、何故わたくしと一夏さんがクラス代表を争ったのかについて……」

 

おーい?俺が抜けてんのはワザとなのか?イジメかコラ?

 

「あ、長くなりそうだからいいや。てきとーに捏造するから」

 

「ちょ!?聞いておいてそれは無いでしょう!!いいからお聞きなさい!!」

 

あんまりにも扱いが違い過ぎる黛さんに食って掛かるオルコット。

だが、そんな風にキーキー喚く相手の扱いは手馴れているのか、黛さんはペンを走らせる手を止めない。

 

「まぁまぁ、あっ、そうだ。織斑君に惚れたって事にしとこう」

 

「なっ、なななっ……」

 

黛さん、捏造内容が真実です。

黛さんの思いがけない言葉に顔を真っ赤なトマトに変貌させていくオルコット。

多分本人の目の前で何て事を言うんだってのと、恥ずかしさでパニクってんだろうが……甘いぜオルコットよぉ。

キッチリカッチリ肯定しねえとぉ……。

 

「何をバカな事を言ってるんですか」

 

こう返しやがるからな、この鈍感王は。

 

「えー?そうかなぁ?」

 

「そ、そうですわ!!バカな事とは何を根拠におっしゃってるんですか一夏さん!!」

 

「へ!?いやちょセシリア!?」

 

そして一夏のあんまりな返しに憤慨したオルコットはそのまま一夏へとターゲットを変えた。

いきなりキレだしたオルコットに、今度は一夏が困惑し始める。

そんな修羅場風景には一切の興味も持たずに、黛さんはペンを走らせ続け、一旦ペンを止めると最後は俺に楽しそうな笑顔を見せてきた。

……俺もコレ、捏造されんのかな……っていうか何を聞くつもりなんだっての。

 

「じゃあ……鍋島君!!話しによると君が一夏君をクラス代表に推したって事だし、他のクラスへの声明をお願いします!!」

 

え?何その意味不なコメントは?

これまたブッ飛んだ質問に困る俺だったが、周りに座ってる女子まで期待するような目を向けてくるではないか。

隣に座ってる本音ちゃんなんか「ワクワク♪ワクワク♪」って口で言ってるし。

なんぞこのイジメ?

しかし中途半端なコメントをすれば一夏の二の舞になるのは必須。

それだけは避けなきゃいけねえ……ちょっと漫画風に言えばこういったメディアは納得すんのかね?

あーもうメンドクセエ!!こうなりゃ自棄だ!!

 

「……わかりやした。何かしらコメントすりゃいいんすね?」

 

「うんうん!!なるべくカッコイイのをおねが、(バッ)あっちょ、ちょっと!?」

 

俺は内に猛るテンションに身を任せて黛さんの手からテープレコーダーを引っ手繰る。

さっさと終わらせんぞチクショウ!!

 

「1年1組の鍋島元次だ!!いいかよく聞けよお前等!!俺達男がチョーシ乗って気に喰わねえって奴ぁいつでも俺んトコに来い!!その偉ぶった態度自体がどれだけチョーシこいてるか、その身体に刻み込んで二度と逆らえねえように調教してやる!!」

 

俺は勢いに任せたアホ過ぎる台詞を並べ終えると、テープレコーダーを黛さんに投げて返す。

それを黛さんはぼうっとしたままにナイスキャッチすると、食堂に居た女子生徒はシーンと黙り込んで何も言わなかった。

その行き成り訪れた沈黙に、俺は内心しまったと思い始めていた。

やべえ、テンションに任せて言い過ぎたか?くそっ、やっぱ無理して受けを狙わず適当に捏造させときゃ……。

 

 

 

 

『『『『『…………キャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!』』』』』

 

 

 

 

何の前触れも無しに、食堂にソニックブームが巻き起こった。

 

「「ぎゃぁああああああっ!!??」」

 

その突然起こった自然災害に、俺と一夏は耳を押さえて絶叫する。

耳が!?鼓膜が破れるぅうううう!!?

余りにも唐突な出来事に目を白黒させていると、其処には顔を赤くして叫ぶ女子の軍団という珍妙な光景が広がっていた。

 

『素敵ッ!!痺れちゃうッ!!寧ろ調教されたい!!』

 

『男らしくスッゴイ堂々とした発言だよ!!体に電流がゾクゾクってきた!!』

 

『刻まれちゃう!!身体の芯まで刻み込まれちゃう!!俺色に染まれってされちゃうんだ!!』

 

『してぇ!!私を滅茶苦茶にしてぇ!!』

 

『ご主人様ぁ♡……どうか犬と呼んで下さい……いっぱぃ躾けて下さぃ♡』

 

『ワイルドでダーティーな男に力づくで良い様にされちゃうなんて……考えただけで、身体が熱くてたまんない♡』

 

どうしよう、一部取り返しの付かない雰囲気になってる女子ががががが。

何やら危ない事ばかりを口走ってる女子の一団、しかも俺に向ける目はかなり蕩けている。

まずった、遣り過ぎたぞコレ。

 

「最高だよ鍋島君!!捏造の必要性皆無!!これは見出しに載せなきゃ!!さすが鋼鉄の野獣(アイアン・ビースト)って渾名は伊達じゃないわ!!もうケダモノっぽさが爆発してる!!」

 

と、目の前の事態に呆然としている俺に振り下ろされたトドメの一撃。

止めて!?あんなのマジで載せる気かいアンタ!?

 

「ってちょっと待て!?さっきから言ってるその鋼鉄の野獣(アイアン・ビースト)って何!?つうかケダモノはねえだろケダモノは!?」

 

それじゃまるで俺が見境無しに女襲ってるみてえじゃねえか!?

俺の叫び声を聞いた黛さんは、ペンを走らせる手を止めずに、またもや生き生きとした表情を浮かべる。

 

鋼鉄の野獣(アイアン・ビースト)って言うのは、1組のクラス代表決定戦を見て皆が鍋島君に付けた渾名だよ!!粗暴でいてワイルドな顔つき!!全力で甘えても全てを包みこんでくれるって思わせる鍛え抜かれた鋼鉄の肉体!!強く逞しい野獣を思わせる獰猛な闘争本能!!タフガイの中のタフガイ!!もう鍋島君にピッタリの渾名じゃん!!し・か・も!!」

 

何だその言いたい放題な素敵過ぎる渾名は?俺ってマジIS学園でどんな存在になってんだよ。

黛さんはそこで一旦言葉を切ると、おもむろにテーブルの上に出ていた料理の1つを口に入れた。

そして、ウチのクラスメイトと同じ様に幸せそうな顔に変わっていく。

 

「ん~♪こんな美味しい料理で胃袋まで屈服させる料理スキルの高さ!!もう鍋島君は特ダネの宝庫だよ!!これは一面見出しなんて小さい事言ってないで特集を組まないと!!」

 

『『『『『おぉ~~~~~~!!??』』』』』

 

「マジで止めてくんねっすか!?」

 

その後は何とか黛さんを止めようとしたんだが、本音ちゃんに「めっ!!だよ~!!」と押さえ込まれて俺撃沈。

オルコットに絶賛絡まれ中の一夏は役に立たず、哀れ俺の特集阻止はできなかった。

そのまま雪崩れ込むような展開で写真撮影をしたいと言われ、俺と一夏とオルコットの3人で撮る筈が全員乱入してクラス写真に早代わり。

一夏と手を繋いで幸せ気分だったオルコットは邪魔されて怒るし、その後で何枚か撮り直しする事で、何とか治まった。

そしてテーブルの料理が空になり、皆がリラックスし始めた所で、俺は再びキッチンに足を踏み入れた。

ふっふっふ、この俺が飯を作ってデザートを作らねえワケがねえ。

やっぱ最後の締めは甘いモンが基本であり王道だろ。

そして、冷蔵庫に保管しておいたデザートを台車に乗っけて、再びテーブルに戻ろうとしたんだが……。

 

「よしっこれで全部だな……ん?」

 

俺が台車に並べたデザートを確認していると、何やら戸棚の上に、ラベルの貼られていない茶色のビンを見つけた。

大きさは500mmのペットボトルより少し大きいぐらいで、中には液体が並々と入っていた。

 

「何だこりゃ?」

 

俺はそれが無性に気になったので、ビンを持ち上げて色々な角度から眺めて見る。

だが、何処を見ても何も書かれていない普通のビンだった。

 

「ふ~む?……あん?」

 

だが、そのビンが置いてあった戸棚の隅に、小さく分類ラベルが貼ってあるのを見つけた。

その分類ラベルには「  ドリンク」と銘が打ってあるだけで、中身が何かは分からなかった。

 

「……まっ、いいか。ヤバくはなさそうだし、1本頂くとすっか」

 

俺は何もラベルが貼られていないそのビンの中身が気になったので、内緒で持ち出して飲む事にした。

今日は大人数の料理をこなしたんだし、御褒美代わりに1本ぐらいいいだろ。

そして、俺はそのビンをポケットに入れてから台車を押して、クラスメイトの下へ戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日、織斑一夏のクラス代表就任パーティーの一部始終を目撃した生徒はこう語る。

 

「あの時、誰かが気付いて鍋島君からあのビンを取り上げておけば……あんな事は起きなかった筈です……う、うぅっ」

 

後にこの日の出来事は語り継がれ、IS学園の伝説として残る事になるとは……。

その時、パーティーを楽しんでいる誰もが予想出来なかった。

 

 

 

 

 

あの世界最強と呼ばれる女性、織斑千冬でさえも……。

 


 
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