浮遊感を感じ目を覚ます。
だが何もない。
自分の体だけがしっかり見えるだけ。
「起きましたか?」
声が聞こえ後ろを振り返る。
そこには一人の女性がいた。
少し整った顔立ちをしているがこれといった特徴がない姿。
平均的な人間という言葉がしっくるいでたちだ。
「・・・だれだ?」
「アンといいます。どうかお見知りおきを。」
アンといった女性は優雅に一礼した。
「ここはどこだ?」
「世界の果て、とでも言っておきましょう。」
世界の果て?
天動説の時代ならともかく地動説が実証され一時期は星を飛び立つまでに至った現代には通じない話だ。
「まぁいい。俺はどうなった?記憶がない。」
「そうでしょうね。今記憶があったならこんなところに来ません。」
「ならばなぜ俺はここにいる。」
「ここに来るのは覚悟があるものだけです。」
覚悟?
「わかりやすく言えば欲望以外の願いを持つものといったとこですか。」
ぜんぜんわかりやすくない。
むしろ矛盾があってよけいわからなくなる。
欲望でない願いなどあるわけない。
願いこそが欲望で欲望こそが願いなのだから。
「矛盾と思っていますね?しかしあなたはそれを持っている。欲望でない願いを。あなたのような方が極稀にここに来るのです。」
「ここはなんなんだ?」
「ここはそういった欲望でない願いを叶えるところ。己の力で願いを叶えるところです。」
つまり俺にはその願いとやらを叶えるチャンスがあるらしい。
「だが、俺はその願いがわからないぞ?」
「それはあなたの願いがあなたの行動のすべての理由であるからです。ここまで強く純粋な願いは私も初めてです。」
そういうアンはまるでわが子の成長を見守る母のようなやさしい顔をしている。
「なら願いを叶えるにはどうすればいい?」
「叶えろ、とは言わないんですか?」
「自分の願いを他人に叶えてもらっても意味がない。他人に叶えられるものなら持たない方がマシだ。」
「では行きなさい。あなたの心の奥底にある願いを求めその力を揮いなさい。あなたの行きつく先にあるのは光か闇か。あなた自身が決めるのです。」
そういってアンが手を上から下へ振ると俺の体が光に包まれ始める。
「あなたの道に神の加護があらんことを。」
「神の加護なんているかよ。それに俺は道を歩くんじゃない。俺の軌跡が道になるんだ。」
「そうですね。あなたはそういうひとです。あとあなたに言っておきたいことがあったのです。あのときからずっと。」
「あのとき?」
「はい。」
どうやら意識が限界のようでもう周りの音が聞こえなくなってきた。
だがアンの口の動きで何と言ったのかはわかった。
ごめんなさい。
意味は分からない。
だがいずれわかる。
そんな気がしてならないまま意識を手放した。
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欲望なき願い