No.551322

真・恋姫無双 黒天編創始 第2章 春の日の異変

sulfaさん

どうもです。
第2章になります。
物語が動き始めます。

2013-03-04 20:27:37 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:1761   閲覧ユーザー数:1406

 

 

真・恋姫無双 黒天編“創始”   外史を終結させるために少女は弓を引く

 

第2章 「春の日の異変」 

 

 

「ここで一度休憩を取りましょうか」

 

白い布を羽織った謎の女性がスクリーンに軽く手をかざすと、今まで移っていた景色が徐々に暗くなって、遂には何も見えなくなった。

 

「今見ていただいた場所こそ北郷一刀が3年間、学ぶはず“だった”フランチェスカ学園です。一番最初に見た映像とはまた違っていたでしょう?」

 

女性は華琳と愛紗に対して、やさしい笑みを送る。

 

「もう・・・驚きでため息しか出ないです・・・」

 

「一刀から天の国のことについて話は聞いていたけど、これほどのものとは思わなかったわ・・・」

 

「あなた達の時代から1800年ほどでしょうか・・・未来の話です。ここから、北郷一刀は学園で学んだ少量の知識を持って、あなた達の暮らす外史へと舞い降りたわけです。さて・・・」

 

女性はスクリーンを動かしつつ、軽い咳払いをする。

 

先ほどの笑みから一変して、真剣な顔つきになった。

 

その雰囲気を感じ取り、愛紗と華琳も気を引き締める。

 

カツン。カツンと女性の足音が響く中、女性はまた話し始める。

 

「今、見ていただいたのは序章にすぎません。これから本格的に物語が進行してきます」

 

女性は何もない空間をタップすると、そこから今まで見ていたのとはまた別のスクリーンが浮かび上がる。

 

「今見ていただいた記録の中での北郷一刀に・・・どういった印象を持ちましたか?」

 

そして、唐突に二人に質問を投げかける。

 

華琳と愛紗はお互いを見あった後、愛紗が胸の前で手を組みながら話し始める。

 

「記録の中のご主人様ですか?私達と接してくださっているようにやさしく、皆からも慕われている・・・そんな印象です」

 

愛紗の話終わったタイミングを見計らって、続いて華琳も話し始める

 

「私たちの知る一刀そのもの・・・と言った感じね。女に好かれるところとか・・・無茶苦茶鈍感なところとかもね」

 

女性は手の動きは止めないで顔だけ二人の方へと向かせ、静かにコクリと頷いた。

 

「そう・・・皆から慕われ、頼られ、話題の中心にいつもいる。人に必要とされている・・・そんな人物」

 

女性は話を続けながら、新たに出てきたスクリーンを両手で操作し始める。

 

「では・・・そんな人が突然いなくなってしまったら・・・どうなってしまうでしょうか?目の前から忽然と消えてしまったら、どうするでしょうか?ねぇ・・・曹操さん・・・」

 

女性は最後にポンとスクリーンをタッチした後、華琳の方を向いて尋ねる。

 

先ほどは二人に聞いていたのに、今度は華琳を指名した女性

 

愛紗も華琳がどのように答えるのかを隣で見守っている。

 

「それは・・・」

 

そう聞かれたその時、華琳の頭の中からとある記憶がよみがえる。

 

 

 

 

 

 

小川から離れて、森を力なく歩き続けた。

 

自分の仲間達のいるところへ

 

そして小さな声で告げる。

 

いなくなったと・・・

 

皆が一斉に森へと駆けだした。

 

その人を捜すため

 

しかし、自分はその場でしゃがみこむ

 

そして、すでに真っ赤にはらしている目からまた、涙がこぼれおちる。

 

自分は探しに行かない。その気力もない。

 

だって・・・

 

もういないんだから・・・

 

 

 

 

 

「どうなされたのですか?華琳殿」

 

愛紗が華琳の肩へと手を置いたことで、華琳は我に返った。

 

愛紗は心配そうに華琳の顔をのぞき込み、女性は真剣なまなざしで華琳を見つめていた。

 

「えっ・・・、ごめんなさい。その問いに対する答えは血眼になって捜す・・・よ」

 

華琳は少し言葉を紡ぐのに時間がかかりながらも女性の質問にこう答えた。

 

あの時できなかった・・・いや、やっても無駄だったことを改めて言葉で紡ぐ。

 

「・・・・・・そうですか。そうですよね。わかりました。では、次の準備ができました。ご覧ください」

 

華琳のその返答に女性が満足したのかどうかは表情からも声からも分からなかった。

 

女性の声とともにスクリーンが徐々に光を帯び始め、先ほどとは別の映像を映し出そうとしていた。

 

愛紗と少し遅れて華琳は再び視線をそのスクリーンへと向ける。

 

そして、その光が一気に強さを増した。

 

 

 

 

 

 

(曹操さん。あなたの記憶はつらいものでしょう。)

 

(思い出したくなかったかもしれません)

 

(ですが・・・このような言い方しかできなくて恐縮なのですが)

 

(あなたは本当の辛さを知らない)

 

(あの外史でも・・・大事な人を・・・覚えていられたのですから・・・)

 

(忘れなかったのですから・・・)

 

(ご覧になってください。正史の自浄作用による無情な仕打ちを・・・)

 

 

 

 

 

 

 

20XX年 4月4日 夜

 

このところ続いた寒気はどこへ行ってしまったのだろうか。

 

先日までは夜にもなれば肌にへばりつくような寒さが襲ってきていたのに、そんな寒さは微塵も感じられない。

 

つい1週間前までは大げさだが、暖房がなければ凍えてしまいそうだった部屋

 

その部屋で咲蘭は明日の準備をしていた。

 

「必要な荷物はもう送ってくれた?」

 

咲蘭はリュックサックの中へ必要な荷物を手早く詰めていく。

 

「ええ、あなたが今朝出かけているうちにお願いしといたわ」

 

一刀と咲蘭の母は咲蘭が明後日から着る制服を片手に持ちながら、その制服を眺めていた。

 

「かわいい制服よねぇ~これを明日から咲蘭ちゃんが着て登校するんだ~」

 

「えへへ~、私に似合うかな?」

 

「何度も言ったでしょ?似合ってるって」

 

咲蘭はこの制服が家に来てから毎日袖を通し、母や父を見つけ次第“似合う?”とクルリと回りつつ言い続けていた。

 

その問いに呆れることなく父母はともに“似合ってるよ”と言ってやるのであった。

 

「いつも思うのだけれど珍しいわよね。白のセーラー服って」

 

「そう?今どき普通じゃない?」

 

「そうなの?一刀が真っ白の制服着たときもちょっと驚いちゃったのだけれど・・・これが今どきなのね」

 

母は“今どきの流行とは”などと考えながら、今年度フランチェスカに入学する新一年生が着用する胸元にかわいらしい黄色いリボンがついたセーラー服を綺麗にたたみ直し、咲蘭のカバンへ入れてやる。

 

そう、咲蘭は先々月に行われたフランチェスカの入学試験に見事合格したのだ。

 

フランチェスカといえば一流校とはいえないものの、そこそこの有名難関高校として知られており、全国から入学希望者が多数押し寄せるほどで、年々合格倍率も高くなっている。

 

もともと成績は悪い方ではなかったが、学校の先生からはギリギリとの評価を受けていた。

 

咲蘭はオープンキャンパスから帰った翌日から、兄と一緒の高校へ行くという目標のもと猛勉強を続け、余裕でフランチェスカを狙える学力にまで成長した。

 

ギリギリという評価を下した先生も、今ならもっと上が狙えると勧めるほどにまでだ。

 

しかし、咲蘭はフランチェスカ専願の思いは変わらなかった。

 

そして2月の受験当日、正門で兄と及川、さらに白蓮の応援を受けつつ受験に臨んだ。

 

結果、みごと上位合格者にまでなって、学費半額免除の特権まで勝ちとったのだ。

 

自分の受験番号があった時の気持ち、感情は一生忘れることはないだろう。

 

「それにしてもこの家もさみしくなるわね。一刀だけじゃなくてあなたまで上京するなんて・・・お父さんもこの頃お酒飲みながらセキトにばっかり話しかけて・・・セキトはセキトであなたが居なくなることを何となく感じ取ってるのか知らないけど哀愁を漂わしてるし・・・」

 

セキトとは北郷家が預かっているウェルシュコーギーの名前だ。

 

本当の飼い主さんは今現在武者修行で中国の方にわたっているらしい。

 

「そうなんだ・・・ごめんね。学費もバカにならないのに・・・わがまま言っちゃって」

 

「お金は大丈夫なのよ。というか助けられているのはお母さん達の方よ。一刀だけじゃなくあなたまで学費半額免除になってくれるなんて。それにわがままなんかじゃないわ。親は子供のすすみたい道を応援するのが当たり前なんだから」

 

「うん・・・」

 

「一刀はちょっと抜けてるところがあるから、あなたがしっかり面倒見てあげてね」

 

「うんっ!」

 

一度目の返事とは違い、咲蘭は明るく元気よく返事をした。

 

「お兄ちゃんのことは任せといてっ!」

 

咲蘭は胸を張りながらポンと打つと、それを見ていた母がほくそ笑む。

 

その笑みにつられて咲蘭もまた、笑みをこぼすのであった。

 

 

 

 

 

 

4月5日 早朝

 

咲蘭は父と母と一緒に大きい荷物を抱えて家を出て、駅へと向かっていた。

 

その途中、お婆ちゃんであるフミから新幹線のホームでお爺ちゃんと待っているとの連絡があった。

 

実は昨日、二人から自分達も咲蘭を見送ってやりたいから時間を教えてくれと母に連絡があったのだ。

 

咲蘭たち三人は駅へと着き、ホームの改札前で待っていたフミ達と合流

 

軽い食事を取った後、雑談をそこそこに5人はホームへと入ったのであった。

 

ホームの階段を上るとタイミング良く、咲蘭が乗車する新幹線が到着した。

 

5人はまだ出発時刻に多少の余裕があるにもかかわらず、駆け足気味にチケットに記載されている4号車へ

 

4号車に咲蘭だけが乗り込むと新幹線のドアを挟むようにして立つ。

 

「ここまでありがとうねっ!」

 

「身体には気をつけるのですよ」

 

「たまには電話かメールしなさい。一刀にも伝えとけ」

 

母は最後に咲蘭の手を取り、父はなぜか右斜め上に顔を向けたまま鼻をズズッと啜っていた。

 

そんな父を見かねたお爺ちゃんが背中をバシーンと一発叩くと、父がよろけて前のめりに倒れこみそうになった。

 

「おまえはほんとに親バカじゃの。今生の別れじゃあるまいに」

 

そう言いながら鉄龍斎はカッカッカッと笑い飛ばす。

 

その一歩後ろにフミがおり、フミはやさしく咲蘭へと笑みを送る。

 

「一月後に私たちも行きますからね」

 

「うんっ!またいっぱい教えてねっ!」

 

「一刀もめいいっぱい鍛えてやろうかのぉ~~ほっほっほっ!それに・・・学生さんのプリチーな制服姿を・・・」

 

鉄龍斎がよだれをふきつついやらしい笑みを浮かべていると、先ほどまで一歩後ろにいたはずのフミが鉄龍斎の隣に突然現れ、右ボディーブローを決めた。

 

見た目だけだとおばあちゃんの細うでが放ったたいして威力がなさそうなパンチに見えたのだが、その威力は凄まじいらしく鉄龍斎は膝から崩れ落ちた。

 

突然爺さんがホームで倒れようものなら、ホームが騒然としかねないのでお婆ちゃんは左手で鉄龍斎の首根っこをつかんで立っているふうに見えるようした。

 

爺ちゃんの目は白目をむき、口から先ほどよだれが垂れていたのに次は泡を吹いていた。

 

咲蘭は相変わらずだなぁ~と思いつつ、アハハッとカラ笑みを浮かべた。

 

「ほら、もう席に着いときなさい」

 

母がせかすようにそう言うと咲蘭は首を縦に一度だけ振り、新幹線の中へと入っていく。

 

そうしているうちに発車のアナウンスが流れて、ドアが閉まる。

 

そして数秒後に列車は出発し、父母は咲蘭が乗る新幹線に手を振るのであった。

 

 

 

 

 

 

咲蘭は切手を見ながら自分が座る指定席をさがし、4号車の中程で目的の座席を見つける。

 

咲蘭は窓越しの席だったが、通路側の席にはすでに誰かが座っていた。

 

列車の中にもかかわらずツバの広い帽子をかぶり、顔全体は見ることはできなかった。

 

咲蘭は小さな声で“すいません。まえを失礼します”と一言断わりを入れると、帽子の人は少し間が空いたあと“どうぞ”と足を少しだけ引いてくれた。

 

その声からしてどうやら女性のようだったが、咲蘭はあまり気にせずに荷物を荷物入れに入れた後、その女性の前を通って席へとついた。

 

咲蘭はチラッと隣の女性へと目をやる。

 

顔は帽子によって詳細は見えなかったが、雰囲気でどこかミステリアスな綺麗な美人であろうと推測する。

 

咲蘭はほんの少しだけ安堵する。

 

隣に変なおじさんが座るよりも少しミステリアスな女性の方が良いと考えたからだ。

 

その女性は読書するのでも音楽を聴いている様子もなくただただジッとしているように見えた。

 

きっと先ほどから眠っていたのだろうと咲蘭は結論付けると、咲蘭も服のポケットにあらかじめ入れておいたアイマスクを取り出し、後ろに人が居ないのを確認した後、少しリクライニングを倒して、アイマスクを身につけた

 

そして、自身も眼を閉じてゆっくりと寝息をたてるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

フワフワした感覚

 

まるで宙を浮いているかのよう

 

どちらが上でどちらが下か分からない

 

ただフワフワ漂ってる

 

そんなかんじ

 

そんなときフッと何かのイメージがよぎった。

 

なんだろう

 

そのイメージが気になった。

 

そう思っているときにまたイメージがよぎった。

 

またよぎった。

 

だんだんとイメージが頭の中によぎる間隔が縮まってくる。

 

すると、ときどき点滅するものの一つのイメージが見えた。

 

そのイメージには2人の人物がいる。

 

辺りの景色は雑木林で、タイルが敷き詰められた道が一本続いている。

 

辺りは真っ暗で街灯の光が辛うじて辺りを照らしていたので時刻は夜更けすぎあたりなのかもしれない。

 

暗いため顔までは詳細に見えないものの、二人が男であることはなんとなく分かった。

 

両方ともフランチェスカの男子が着る制服を着ていたからだ。

 

その二人は一方が鋭い蹴りの連続を繰り出しており、もう一方、木刀を持っている方も辛うじてそれを避け、不格好ながら反撃も行っている。

 

どうやら穏やかな雰囲気ではない。

 

二人は一度距離を置き、無手の方は腰を落として相手の様子をうかがっている。

 

木刀の方は八双の構えを取ってこちらもじっと動かない。

 

そして数秒の時が流れた後、二人が一斉に飛びかかる。

 

二人がもつれ合っていると無手の方の懐から何か月光を反射する鏡のようなものがこぼれおちた。

 

スローモーションで落ちていくそれを拾おうと二人は手を伸ばすも、その鏡はむなしく地面にたたきつけられて破砕音を立てた。

 

その瞬間、割れた鏡から突然光があふれ始め、二人の男を飲み込んだ。

 

そこでイメージが終わりとばかりにプツンと消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『まもなく~終点~~、トウキョウです』

 

機械的な女性のアナウンスに咲蘭は意識を取り戻した。

 

(もう着いたの・・・なんか・・・早かったな。切符の確認・・・いつ来たんだろ?)

 

咲蘭はアイマスクを取り外し、腕をめいいっぱいあげて背筋を伸ばす。

 

ついでに座りながら左右に腰を曲げてストレッチをすると、背骨からゴキッと骨がなる音がする。

 

“つっ!”と小さな声を上げたあと、隣に女性がいたことを思い出しそちらに目をやった。

 

しかし、大きなツバがついた帽子をかぶった女性はそこにはいなかった。

 

足元においていた荷物もなくなっている。

 

先に扉に向かったのかなと思いつつ窓の外を見てみると、3度目のトウキョウの景色がそこに広がっていた。

 

(これからここで暮らすんだ・・・よしっ!)

 

咲蘭は新幹線が停車したのを確認した後、飛び上がるように立ち上がって荷物を取り出し、新生活の不安と期待を胸いっぱいに詰めこんで、トウキョウの地へと歩みを進めた。

 

 

 

 

 

 

 

トウキョウの地へと降り立った咲蘭がまず向かったのは、一刀との待ち合わせ場所であった。

 

待ち合わせの時間よりも15分ほど早いが、一刀ならそれぐらいにもういるだろう。

 

今回は及川なしで一人で来てほしいということも伝えている。

 

それはなぜかというと二人で学生寮へ行って、そこで一刀に一番に自分の制服姿を見せようと思っていたからだ。

 

一刀とは2ヵ月前にあったばっかりで、それ以前に週に2回は電話で声も聞いている。

 

それでも咲蘭は会うことを楽しみに待ち合わせ場所へと向かう。

 

今回の待ち合わせ場所はカフェではなく、フランチェスカ学園の最寄り駅へ行く電車の改札前だ。

 

スキップしたい気持ちを抑えつつ、咲蘭は待ち合わせ場所の改札へと到着した。

 

きょろきょろとあたりを見回して、一刀の姿を探すが見つけることができなかった。

 

「まだ来てないのか・・・」

 

一刀なら全力の笑顔で迎えてくれると少し期待していた咲蘭であったが、すぐに気分を切り替えて改札前にあった柱に体を預けるようにしてもたれかかった。

 

そして、携帯をいじりつつ一刀が来るのを待つのであった。

 

 

 

 

 

20分後・・・

 

待ち合わせの時間から五分が経過している。

 

咲蘭は一刀が来るであろう方向を眺めつつ、携帯の画面の時計を見やる。

 

少し電車が遅れてるのかなと思いながらも、再び携帯画面へと視線を移す。

 

せっかく妹が来るというのに遅刻してくる兄とは何事かと、咲蘭はかわいく頬を膨らませた。

 

 

 

さらに25分が経過・・・

 

待ち合わせ時間から30分も経過している。

 

咲蘭は少し心配になって携帯で一刀にコールしてみる。

 

しかし、一刀は電話に出なかった。

 

もう一度かけてみる。

 

しかし、それでも出ない。

 

「どうしたんだろ・・・お兄ちゃん」

 

待ち合わせ場所を間違えたのかなと思いつつ、咲蘭は二日前に一刀から送られてきたメールを確認した。

 

待ち合わせ場所に間違いはない。

 

もしかしたら、来る途中に何かあったのかもしれない。

 

咲蘭の心の中の不安がすこしづつ大きくなった。

 

もう一度電話をかけてみるも、先ほどと結果は同じだ。

 

咲蘭はすぐに駆けだしたくなる気持ちに襲われたが、ぐっと我慢する。

 

もしここですれ違いになったら元も子もない。

 

もしかしたら今、電車に乗っていて携帯が取れない状態なのかもしれない。

 

一刀は変なところでまじめなのだからもう少しだけまってみよう。

 

そう思って咲蘭は柱にもう一度もたれかかるのであった。

 

 

 

 

さらに30分が経過した。

 

すでに咲蘭は1時間15分ほど柱付近で立ち尽くしていた。

 

その30分の間に一刀に10回ほどは電話をかけただろうか。

 

その電話のすべてにもちろんでなかったのだが・・・

 

学生寮長さんのあいさつと説明会の時間が刻々と近づいてくる。

 

この説明会はこれからの生活のことなどいろいろと教えてくれるため遅れるわけにはいかない。

 

咲蘭はギリギリまで一刀のことを待つことにした。

 

しかし、そのギリギリ時間になってもまだ一刀が来る様子はなかった。

 

「これで出なかったら・・・留守電に残して・・・もう行こう・・・」

 

そうボソッとつぶやいて、発信履歴に並ぶ同じ名前に再びコールした。

 

そのつぶやいた声にはもう一時間前の元気はなくなっていた。

 

コールが一回、二回、三回と続く。

 

「・・・・・・・・・」

 

そして、コールが十六回目になったところで、あのおなじみの電子機械っぽい女性の声へとつながった。

 

『プーッという発信音の後に・・・』

 

そして、その発信音が悲しく咲蘭の鼓膜を揺らした。

 

「あっ・・・お兄ちゃん・・・あのね・・・待ち合わせ時間・・・その・・・」

 

メッセージを残すのに制限時間があることも忘れて、咲蘭らしくないたどたどしいメッセージを残していく。

 

「とりあえず・・・フランチェスカの学生寮に一人で行くね・・・それじゃ・・・」

 

そう言い終わると、ちょうどよく終わりを告げる発信が流れる。

 

「・・・はぁ・・・(忘れちゃったのかな・・・)」

 

咲蘭は俯きながら一時間前に買っておいた切符の一枚を使って、改札を通過していく。

 

一刀が着たらすぐに渡そうと考えていたもう一枚の切符は無駄になってしまった。

 

 

 

 

 

咲蘭は列車を乗り換えつつ、フランチェスカの最寄り駅へと到着した。

 

一刀から連絡があるかもしれないと携帯は握りしめたままだったが、結局携帯が震えだすことはなかった。

 

深く、大きなため息を一つついた後、咲蘭は女子学生寮へと重々しい足を進める。

 

15分ほど歩いたところで女子学生寮へとたどり着いた。

 

学生寮の前には友達連れでキャッキャしながら話している新入生や親が連れ添って必要種類を確認している人達が居る。

 

皆が楽しそうな笑み、これから始まる新生活への期待と不満などがにじみ出ていた。

 

本当はここに一刀と一緒に来るはずだった。

 

一刀にこれからの新生活への不安とかを話しながら楽しく待ちたかった。

 

(お兄ちゃんの・・・バカ・・・)

 

未だに握っている携帯を咲蘭に力強く握りしめた。

 

しかし、携帯が震えだすことはない。

 

咲蘭は一人さみしく学生寮前で立ち尽くし、そして結局一刀が居ないまま学生寮長の新入生へのあいさつが始まるのであった。

 

 

 

 

 

学生寮長と在校生代表のあいさつが終わると、新入生それぞれにこれから3年間暮らすことになる部屋が割り振られた紙が手渡された。

 

基本的に一部屋一人ずつではあるが、後に申請さえすればシェアルームしても良いことになっている。

 

咲蘭はその紙を見ながら自分に割り振られた部屋へと向かう。

 

辺りにはすでに地元が同じであろう新入生たちがシェアルームについて楽しく会話に花を咲かせていた。

 

咲蘭はもちろんそんな気持ちにはなれない。

 

到着してドアの前で再度、番号を確認して自分の部屋に間違いないことを確認して部屋の中に入る。

 

部屋の中の空気は冷え切っており、まだ実家から送った荷物や家具は届いていなかったので、閑散としていた。

 

そこで咲蘭はもう一度ため息をつく。

 

家具などはもう少ししたら着くそうなので、それまでに咲蘭は大きな荷物の中から必要最低限のものを取り出していく。

 

最低限の荷物を洗面台やお風呂場においた後、咲蘭はまだ机も置かれていないリビングルームに座り込む。

 

そうしながら咲蘭はまた、携帯電話へと目を向ける。

 

一刀からのメールもなく、もちろん電話がかかってくる気配もない。

 

(携帯持ってないのかな・・・)

 

咲蘭はまた一刀の携帯へとコールしてみる。

 

何度目の電話になるだろうかともう数えてもいない。

 

発信履歴を数えれば分かることだがそんなことする気力もうせていた。

 

6回、7回とコールは続き、結局またお留守番サービスにつながった。

 

機械的な女性のアナウンスを聞きながら、咲蘭の悲しさがまた大きく膨らむ。

 

悲しみの感情が大きくなるとともに、少しの怒りが込み上げてきた。

 

私はお兄ちゃんと一緒の学校に行くことを楽しみにしていたのに

 

お兄ちゃんは約束だった待ち合わせにも来ないし、未だに連絡もよこしてくれない。

 

こんなにも楽しみにしていた私がバカみたいではないかと

 

お兄ちゃんは私が来ることを別に何とも思っていないのかと

 

それ以外にもいろいろな感情があふれ出てきた。

 

その感情を一刀にぶつけないと気が済まなくなってくる。

 

「部屋に乗り込んでやるっ!もしそれで部屋にいたら・・・」

 

咲蘭は涙目になりながら勢いよく立ちあがり、腕で目にたまった涙を拭きとるとそのまま駆けだして行った。

 

 

 

 

 

 

 

女子寮の階段を勢いよく下り女子寮の入り口を駆け抜け、そのまま男子寮の入口へと駆け抜ける。

 

一刀の部屋番号については事前にメールで聞いていたので、そのメールを開けつつ、目的の階まで階段をかけのぼる。

 

一つ一つのフロアーの通路には新入生の男子達が部屋の前でワイワイと騒いでいた。

 

そんなものには気もとめないで一心不乱に上り続けた。

 

学生寮には女子の方にも男子の方にもエレベータが設置されているが、その待ち時間でさえ惜しかった。

 

そして、北郷一刀と書かれた表札が掛けてある部屋へとたどり着く。

 

咲蘭はハァハァと息を切らしながら、ドアの隣にあるインターホンを押す。

 

ピンポーンというありきたりな呼び出し音が鳴った後、ちょっとした静寂に包まれる。

 

下の階で騒いでいる男子の声だけが咲蘭の耳に聞こえてくる。

 

応答は・・・ない。

 

再度インターホンを鳴らしてみるも結果は同じだった。

 

「お兄ちゃん・・・いないの?」

 

咲蘭はそう声をかけながら一刀の部屋のドアノブへと手をかける。

 

その時、表札の横にある札が掛けられていることに気がついた。

 

その札には“不在”と書いてあった。

 

咲蘭はそれを手に取り裏側を見てみるとそこには“在室”の文字が

 

その札を見て咲蘭は寮長の言葉を思い出す。

 

この札を在室か不在にすることで部屋の中に人がいるかどうかが確認できる。

 

だから、必ず不在の時は札を“不在”にすること、逆もまたしかりと説明されていた。

 

(部屋にいないってこと?)

 

「北郷に何か用事なのか?」

 

咲蘭は札を見ながらじっと一刀の部屋の前にいると、突然男子生徒に声をかけられる。

 

咲蘭の体はビクッと反応しすぐさまその男子生徒の方へと向き直った。

 

「えっと・・・誰ですか?」

 

「誰って・・・隣の部屋に住んでるもんだけど・・・アンタあれか?新入生?」

 

「は・・・はい・・・あの、おに・・・北郷一刀さんは・・・」

 

「今日の朝方にはもう不在札になってたよ。まだ帰ってないんじゃないのか?」

 

「そうですか・・・あの、どこに行ってるとかは・・・」

 

「オレが知るわけないじゃない」

 

「ですよね・・・ごめんなさい」

 

「何か伝言とかあるんだったらポストとかに手紙入れとけば?」

 

「そうですね・・・すいません。ありがとうございました」

 

咲蘭は深々とその男子生徒にお辞儀をした後、トボトボとその場をあとにした。

 

男子生徒は“なんだったんだろう?”と頭をかきつつ、自分の部屋へと帰っていった。

 

 

 

 

 

 

咲蘭は自室まで戻ると、ドアの前に引っ越し業者の人達が困った表情で立っていた。

 

咲蘭は急いでその人たちの所まで行き深々と頭を下げた後、業者の人が次々と荷物を運んでは設置していってくれた。

 

自分たちの仕事が終わると、業者の人は帽子を取ってあいさつしながら部屋を出て行った。

 

自分の家具が設置されたリビングの椅子に腰かけて、またため息をついた。

 

そして、パソコンのセッティングを行おうとして立ち上がったその時、机の上におかれていた携帯電話が突然震え始める。

 

「お兄ちゃんっ!!」

 

そう叫ぶと同時に携帯を急いで取り、ろくに誰からの着信かも確認せずに電話を取った。

 

「おにいちゃんっ!!今どこにいるのっ!!ずっと待ってたんだからねっ!!」

 

「もしもし・・・お母さんだけど・・・咲蘭?どうしたの?」

 

携帯から聞こえてきたのは一刀の声ではなく、母の声だった。

 

「お母さんか・・・どうしたの?」

 

「どうしたのって、あなたが無事着いたかどうか心配で・・・トウキョウ駅に着いたらとりあえず電話しなさいって言ってあったのに」

 

そこで咲蘭は車の中でそんな会話をしたことを思い出した。

 

「ごめん・・・忘れてた。ちゃんと着いたから、心配しないで」

 

「そう・・・ならいいけど・・・一刀は?さっきのあなたの口ぶりだと一刀、そばにいないの?」

 

母からそう聞かれ、咲蘭の声のトーンはいっそう暗さを増した。

 

「うん・・・待ち合わせ場所にも来てくれなくてね・・・結局一人で学園まで来たんだけどね・・・部屋にも行ったんだけど・・・いなくて」

 

「あの子・・・咲蘭をよろしくねって昨日伝えておいたのに・・・どこ行ってるのかしら」

 

「分かんない」

 

「とりあえず今日はもう休みなさい。明日一刀にあったらこっぴどく文句言ってやりなさい。私からもビシッっていってあげるから。ねっ?」

 

母の優しい声に咲蘭はうんと小さく返事をした。

 

電話を切った後、パソコンのセッティングは明日の早朝にすることにして、咲蘭は慣れない台所で夕食を一人で作った。

 

咲蘭の予定では今日の夕飯は一刀と一緒に食べるはずで、食材も二人分用意してあった。

 

もしかしたらごめんごめんと言いながら、携帯に連絡があるかもしれないと思って夕食は一応二人分作っておいた。

 

しかし、結局連絡はなく一食分は無駄になってしまった。

 

夕食後はお風呂に入り、髪を乾かした後で寝室のベッドへと飛び込む。

 

(ばか・・・)

 

その寝室には小さく鼻をすする音だけが響いていた。

 

 

 

 

結局、その日は一刀からの連絡はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

フワフワした感覚

 

無重力空間にいるとこんな感じなんだろうなと咲蘭は感じた。

 

辺りは真っ暗

 

咲蘭はキョロキョロと自分はどこにいるのか確かめる。

 

そうしていると目の前に白い何かが見えた。

 

それはだんだんと形作られていき、人影を作っていく。

 

そうして作られた人影は、咲蘭が見慣れた人物であった。

 

『お兄ちゃんっ!』

 

咲蘭は一刀に向けて手を伸ばそうとする。

 

しかし、腕に何十キロの重りをつけられているのではないかと思うくらい、その腕は重くて上がらなかった。

 

咲蘭が腕を必死に上げようとしていると、不意に一刀はくるりと咲蘭に背を向ける。

 

そして一歩一歩咲蘭から遠ざかっていく。

 

『どこ行くの?』

 

咲蘭は一刀を追いかけようと足を一歩踏み出した。

 

しかし、一歩踏み出したその瞬間に何か壁のようなものがあることに気が着いた。

 

透明な壁が邪魔をして一刀のもとへと行くことができない。

 

そうしている間にも一刀は咲蘭から一歩ずつ遠ざかっていく。

 

『待ってよっ!!私も行くってっ!』

 

声を必死に絞り出しても、その声は一刀に届いていないようだった。

 

一刀が十数歩歩みを進めたその時、一刀の前に白い道が現れる。

 

その道は数十、数百、数千と枝分かれしており、先は真っ暗で何があるのかは見えない。

 

それにもかかわらず、一刀は一歩ずつ確かな足取りでその道を進んでいく。

 

咲蘭からは遠ざかっていく。

 

必死に“待って”と叫ぶも届かない。

 

一刀の姿がどんどんと小さくなる。

 

『お兄ちゃんっ!!』

 

声がかすれるほどの大声で叫んでいたがそれでも届かない。

 

「置いてかないでよっ!!お兄ちゃんっ!!」

 

そう叫んだが最後、咲蘭の口からついに声が出なくなってしまった。

 

声を出そうとすると咳き込んでしまって、音を発することができない。

 

すると、突然一刀が顔だけ咲蘭の方を向ける。

 

口元は辛うじて見えるも、顔全体の表情がつかめない。

 

咲蘭は必死に目を凝らして一刀の顔を見る。

 

すると、口元が何やらゴニョゴニョと動いているのが分かった。

 

何か喋ってる

 

咲蘭は必死にその唇の動きから何を話しているのか読み取ろうとする。

 

『さ・・・よ・・・う・・・な・・・ら・・・』

 

咲蘭が音もなく唇だけそう動かすと、一刀の姿は暗闇に飲み込まれ、それを見届けた後に辺りは一気に暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃんっ!!!」

 

咲蘭はそう叫びながら飛び起きた。

 

かけ布団をその起き上がる勢いで投げ飛ばすと、ズルズルとベッドからずり落ちていく。

 

カーテンからは朝日がこぼれおち、今日も晴天であることを告げている。

 

枕の横においていた目覚まし時計へ目線を移すと、起きる予定時刻の5分前であった。

 

「ゆ・・・め・・・?」

 

そう呟きながらおでこに触れてみると、じっとりとした汗を浮かばせていたことに気がついた。

 

そのせいもあるのか髪もどこかじっとりと湿っていて気持ちが悪い。

 

「変な夢だったな・・・」

 

カーテンと窓を開けて寝室の空気の入れ替えをおこなう。

 

外から流れてくる少し暖かい風がじっとりとぬれた額に当たると、どことなく心地が良かった。

 

しかし、それとは別に心の中は未だに重々しい。

 

その気もちを振り払うように背中をぐっと伸ばしながら、外の空気を肺にめいいっぱい吸い込んだ。

 

「ふぅ~~~~っ、シャワーでも浴びよ」

 

吸い込んだ空気をゆっくりと吐き出すと、ずれ落ちた布団を元通りにして風呂場へと向かっていった。

 

 

 

 

シャワーからあがった咲蘭は今日行われる始業式の準備を始めた。

 

特に持っていく物はないはずだが、何度も持物を確認する。

 

そして準備を終えた咲蘭は、パジャマからフランチェスカの制服へと着替え始める。

 

着替え終わると、姿鏡の前で黄色いリボンが曲がっていないかどうかを確認

 

“よしっ”と小さくつぶやいた後、クルリと鏡の前で一回転した。

 

「よっし・・・大丈夫っ!・・・はぁ・・・」

 

この姿、本当は一刀に一番初めに見せるはずだった。

 

その願いはかなわぬまま時は過ぎていく。

 

咲蘭はそのまま簡単な朝食を済ませて、先ほど確認したカバンを持って玄関へと行く。

 

そして、ポケットに入れていた携帯の画面を最後に確認した。

 

(お兄ちゃんの連絡はなし・・・・・・)

 

そこで、さっきの夢のことを思い出す。

 

一刀が遠くへ行き、自分へさようならと最後に言った夢

 

そう言ったが最後、もう二度と会えなくなるような錯覚に陥った。

 

その夢を思い出したとたん、心の中の不安が一気に膨れ上がった。

 

すでに一日が経過している。

 

さすがにもうそろそろ連絡がないとおかしい。

 

(お兄ちゃん・・・)

 

咲蘭はドアを閉めて鍵をかけ、札を不在へと変える。

 

そして、エレベータでエントランスまで降りた後、咲蘭は学校へは向かわずに男子寮へと歩みを進める。

 

他の生徒たちは学校へと歩みを進めている一方、咲蘭はその逆の道をかけていく。

 

男子寮の近くへ近づくたびに、なぜか先ほど膨張した不安な気持ちがさらに大きくなろうとする。

 

大きくなりすぎて弾けてしまいそうな気がしてきた。

 

そのはじけそうな気持ちをぐっと抑えつつ、咲蘭は男子寮の階段を上っていく。

 

そして、昨日訪れた一刀の部屋の前へとたどり着いた。

 

「・・・・・・・・・・・・えっ?」

 

そこで、その扉の様子が昨日と少し違うことに気が着いた。

 

昨日は確かに有ったのに、今日になって無いものが2つある。

 

さらに昨日は無かったはずなのに、今日になって有るものが1つあった。

 

前者の内の一つは不在と在室を示す札、これがない。

 

そしてもう一つ・・・北郷という表札がなくなっているのだ。

 

そして後者の昨日なかったはずなのに、今日になって有るものというのはドアに貼りつけられている紙

 

その紙には太く、大きな字で『空室』と書いてあった。

 

「どういうこと・・・」

 

咲蘭は部屋の番号を間違えたのかと思い、先日一刀から受け取ったメールを確認しようと、メールボックスの中を見る。

 

「あれ・・・あれ・・・えっ・・・ウソ・・・」

 

そのメールが・・・無いのだ。

 

昨日おなじ場所で確認したはずのメールがない。

 

「消えちゃったの?ウソでしょ・・・」

 

メールボックスを調べていると、ふとまた変な違和感が襲ってきた。

 

その違和感の正体はすぐに知ることができた。

 

「ない・・・あのメールだけじゃなくて・・・全部・・・お兄ちゃんのメール・・・」

 

メールボックスには地元の友達や父、母、おばあちゃんからのメールが入っている。

 

その中にはもちろん一刀から送られてきたメールも入っているはず・・・だった。

 

しかし、一刀から送られてきたメール全てが受信箱から消去されていた。

 

「ウ・・・ソ・・・保護メールも消えてる」

 

ただのメールなら間違って消えてしまうこともあるかもしれない。

 

だが、咲蘭が保護していた一刀からのメールすらも消えてしまっていた。

 

咲蘭は慌てた様子で荷物を地面へ無造作におとして、両手で携帯の操作を始める。

 

「ない・・・ない・・・なんで・・・なんでよっ!あっ!」

 

咲蘭はまさかと思って昨日一刀に電話をかけまくった時の発信履歴を見る。

 

そこにはちゃんと一刀の名前が残っているはず・・・

 

そう思って開いた発信履歴であったが、その発信履歴には一刀の名前はなく、一番上に表示された最近電話をかけた相手は母になっていた。

 

それを見て咲蘭の表情は見る見るうちに青白くなっていく。

 

「あれっ?また来たの?」

 

そこで声をかけてきたのは昨日会った一刀の部屋の隣に住んでいるというあの男子学生だった。

 

「あのっ!これってどういうことですかっ!!」

 

咲蘭は一刀の部屋の扉に張られている紙を指さして言った。

 

「えっ・・・どう言うことって・・・見たまんまだけど・・・」

 

「見たまんまって・・・ここは北郷一刀の部屋ですよねっ!!」

 

咲蘭は男に向かって一歩だけ近づいて、詰め寄る様にそう言った。

 

しかし、帰ってきた言葉は予想もしていない言葉だった。

 

 

 

 

 

 

 

「えっ・・・だ、だれ?ほんごうかずとって・・・」

 

男子学生は困ったようにそう言うのであった。

 

 

 

END

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

どうもです。

 

今回は恋姫たちは誰も登場させませんでした。

 

次回も登場させないつもりです。

 

恋姫の二次創作なのにって思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、その理由は第3章のあとがきで説明したいと思っています。

 

いや、別に深い意味とかはないんですが・・・

 

物語的に第2章と第3章は第2部のターニングポイント的な場面です。

 

気合を入れて頑張りたいと思っていますので、お付き合いしていただける方はよろしくお投げいします。

 

では、今日はこれで失礼します。

 


 
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