これは、テオとクラウディアが生まれるおよそ数ヶ月前のことである…。
「エルザ、ちょっと見てもらいたいものがあるんだ」
「見てもらいたいもの?」
切り出したのはアーサーだった。頬を赤らめながら、エルザの方を見つめている。
「ふむ、結婚指輪ならもう受け取ったはずだが?」
「ほら。せっかく結婚したんだし、君のために何かプレゼントの一つや二つ用意しようと思ってさ」
「…プレゼントか。しかしケーキならこの間食べたばかりだし、服もついこの間お互いの分を買ったばかりだからな…」
と、悩むエルザにアーサーは何もいわず、ポケットの中から小さな紙を取り出した。
「…これは?」
「ファンガルディア号・プレミアムスイート室のチケットさ。6泊7日のファンガルド一周ツアーだけど…」
「なるほど、粋なプレゼントじゃないか。ありがとう、とてもうれしいよ」
そう言ってエルザはアーサーの頬にキスをした。
…そして新婚旅行当日。ラミナ・セントラル駅の22番ホームに青い車体の列車が滑り込んできた。
「いよいよだな…」
エルザはその列車を眺めながら呟いた。
ファンガルディア号。
ファンガルド鉄道が誇る、超豪華設備を持った寝台周遊列車。
この星で一番グレードの高いこの列車は、鉄道ファンならもとより一般の市民たちの間でも憧れの的である。
今回エルザとアーサーが乗るのは最前部の展望スイート。二人用の特別寝台で、この列車の中でも特にプレミアが高いのだそうだ。
事実、一番値段が高いこの個室は部屋数も少なく、あっという間に売切れてしまうほどなのだ。
アーサーによれば、『キャンセル待ちで奇跡的に取れた』とのことである。
「…さて、周遊コースはCか。比較的温暖な地域のようだな」
と、ベッドに備え付けられた運行予定表を見ながらアーサー。
「あぁ。ワインで有名なシャトー・プランタンも通るからな。フュア姉さん曰く、あそこのワインは美味なのだそうだ」
「じゃあ、そこでワインとチーズを楽しんだり…あとはドルフィン・ベイのリゾートでシャツでも買おうか」
「なるほど、トロピックシャツか。それも悪くないかもな」
などと話をしていると、列車に案内放送が響く。
『みなさま、本日はファンガルディア号にようこそご乗車くださいました。当列車はこれより、6泊7日の周遊コースを進んでまいります…』
「お、そろそろ出発だな」
「どんな風景が待っているのか楽しみだな、アーサー」
「僕もだよ、エルザ…」
駅のホームに点る明かりをバックに、唇を重ねあう二人。
…16時28分。二人の愛を乗せた列車は静かに動き出し、一週間の周遊旅行に出発したのだった。
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テオとクラウディアが生まれる数ヶ月前。
こんなこともあったんです。
■出演
エルザ:http://www.tinami.com/view/375135
アーサー:http://www.tinami.com/view/447499
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