No.549766

そらのおとしもの 返って来たメガネキャプターアストレア

ある種(・3・)4話のネタばらしと言えなくもない作品。
作品発表順序が前後しまくっているのさ

2013-02-28 21:34:56 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1180   閲覧ユーザー数:1129

そらのおとしもの 返って来たメガネキャプターアストレア

 

『今日から国公立大学の前期日程が始まりました。東京大学の周辺には多くの受験生と……』

 

 平穏でとても優しい日常。私が長年求めていた平穏がここにある。でも、それはとても退屈なものでもあってたまにスリルが欲しくて。

地上に降りてきて以来、私はどうにもワガママになっているのを自覚する。

 気分転換にテレビを付けると大学入試の始まりを告げるニュースが流れていた。

「良い大学入ると何かいいことあるのかしら?」

 隣でBL本を熱心に音読しているアルファに尋ねてみる。

「……私にはよく分かりません」

 素っ気ない答えが返って来た。まあ、この子に会話のキャッチボールを楽しむ心がほとんどないことは長い付き合いでよく分かっている。

 でも、今のアルファは私の話題にちょっとだけ興味を惹かれたようだった。

「……ですが、良い大学に入ると幸福になり易いとマスターは言っていた」

「ふ~ん。幸福にねえ」

 人間の考え方はよく分からない。

 エンジェロイドにとってそもそも頭の良さとは設計時に定められている。私はおりこうに、デルタは馬鹿という風に。

 勿論製造後に会得する知識もある。特にこの下界に降りてから得た知識は99%が後天的なもの。そしてこの下界での体験と知識は私を幸せにしてくれている。

 その意味で私は実体験に基づいて、後天的に得た知識を馬鹿にしない。でも、良い大学に入るということが何故幸福と直結するのかよく理解できない。

「分からない以上は実証してみるのが知略系エンジェロイドの本分よね」

 退屈だった日常に面白エッセンスが注入された。そんな気分。

「それじゃあ、デルタを良い大学に入れてみて、幸福になるか実験してみましょう♪」

 なんかすっごく楽しくなってきた。

 

「デルタ~♪」

 窓を開けて空に向かって大声で呼び掛ける。犬と同じでデルタは呼び掛ければ何か答えてくれる。

「もしかしてご飯のお誘いですか~~っ?」

 欲望に釣られて腹ペコエンジェロイドが飛んでやって来た。

「デルタ。とりあえずこれを掛けてみて♪」

 先ほど30秒で製作した、頭脳をどんな難関レベルの大学もいとも簡単に合格させるレベルまで引き上げるメガネをプレゼントする。

「このメガネを掛けるとご飯がより美味しくなる発明品ですね♪」

 自分に都合の良い解釈を述べながらメガネを掛けるデルタ。馬鹿は扱いが楽でいい。

 さて、頭の変化のほどは……。

「知性の神が再び降臨っ!メガネキャプターアストレア、再び参上ですっ! 」

 デルタは邪悪な神に魂を乗っ取られた悪魔へと変貌してしまった。

「インテリの衝動がこみ上げて来たぁ~~~~っ! さあ、今日も元気にメガネ狩りですよ~~っ!」

 デルタはやたら態度が大きくなった。ウザい。

「なるほど。この馬鹿に知性を与えると増長しかしないのね」

 デルタを見る限り後天的な知性が人を幸せにするかは判断が難しいところ。

 デルタ本人は知を得たことで有頂天になっている。これはデルタの主観としては万能感という名の幸福感を得ていると言えるだろう。だけど他者からみれば増長でしかない。

 でも、今回の実験は知性そのものによる変化ではない。良い大学がデルタを幸福にしてくれるのかという点だ。

「デルタの今の頭なら大学の方から入学推薦状が届くんじゃないの?」

「あっ! 今、東大やその他の大学の推薦状が空から空輸されてきました」

 ヘリコプターによって大量の入学願書というか入学許可証が桜井家の庭に投下された。

 デルタ宛のものだった。

「どうやら私がメガネキャプターになった情報は既に世界中に知られ渡っているとみて間違いないようですね。みんな耳が早い」

 いや、幾らなんでも早すぎる。どこかに情報発信源はないかと探ってみる。

 すると隣に座るイカロスが、自身の立ち上げているBL愛好サイトでデルタ情報を垂れ流しにしていた。

 

『馬鹿が突然おりこうになるって許せますか? これはドジでのろまなカメであるのび太がある日突然道具の力に頼って賢くなるのと同義です。死刑にすべきです』

 

 アルファの見方はなかなかに手厳しい。

 

『しかものび太よろしく調子に乗っているのが腹立たしいです。一刻も早くのび太のように天罰が下ることを望みます。アストレアはもう死ぬしかありません』

 

 もしかするとアルファは口に出さないだけで、心の中では多弁な子なのではないだろうか? しかも相当の毒舌で。

「長年一緒にいても気付かないことってあるものね。勉強になったわ」

 デルタの実験を行っていたらアルファのことがよく分かった。

 実にラッキーだった。

 

『アストレア……早く死ねば良いのに。大事なことなので2回言いました』

 

 アルファは高速でタイピングしながらアストレア情報を流し続けている。

 そしてやっぱり毒舌だ。

「さあ、書類も書いて、この春から東大に入学してやることも決まりましたし、メガネ狩りに出掛けましょうかね♪」

 増長したメガネデルタは鼻歌交じりにどこかに飛んでいった。多分増長したあの子を見るのはこれが最期になるんだろうなあって予感がした。

 

 

 3日後……デルタは死んだ。

 

 どこぞの誰かと知恵比べ対決をして、敗北。メガネが砕け散ると共にデルタの命も尽きたらしい。メガネとは本体であるから、メガネが砕けて絶命は別におかしくない。

 まあ難関大学入試に合格する程度の頭の持ち主なら数多く存在する。知性の神にもらったアブストラクト・アストレアになれるメガネほどにはパワーアップできないから仕方のないことだった。

「なによ。良い大学はデルタを幸福にはしてくれなかったじゃない」

 デルタは入学前に死んでしまったので正確には今回の実験は成立していない。

 でも、あのデルタが良い大学に通った所で幸せになれるとは思えなかった。いや、増長している限り本人は幸せなのかも知れないけれど。

 

 

(・3・)「いや~うっかりメガネを割られて死んじゃったよ。おじさんとしたことが失敗失敗」

 

 翌日、死んだはずのデルタが桜井家に帰って来た。なんかやたら空気の読めない(・3・)になって。

 エイトセンシズに目覚めてデルタは回数限定付きで生き返ることができるようになった。

 でも、それは無意味なことだった。何故なら、生き返ったデルタはまるで別人のようになってしまうから。

(・3・)「ニンフって相変わらずいつ見ても胸ないよね。ダッセ」

「死ねっ!」

(・3・)「ぶっひゃぁあああああああああぁっ!?」

 そしてすぐに死んでしまうから。

 生き返ったデルタは元からの馬鹿に加えて空気嫁属性がプラスされてしまう。

 その結果、ついイラっときてみんなすぐに復活デルタのことを殺してしまうのだ。

 だから生き返ってもまたすぐ死ぬだけだった。

 

(#・3・)「まったくっ! 胸がない上に短気だなんて、生きている価値が全く認められないポンコツだよ、ニンフペッタンコは!」

「だからもう1度死んで来いっ!」

(・3・)「ぶっひゃぁあああああああああぁっ!?」

 こんな風に。

 

「って、デルタを殺す度に貴重なカロリーを消費している場合じゃなかったわ。実験の続きをやらないと」

 本来の趣旨を思い出す。

「デルタが良い大学に入ると幸せになれるのかちゃんと確かめなくちゃ」

 この間作ったメガネの改良版を取り出す。

 デルタには何としてでも4月まで生き延びて良い大学の効果を確かめてもらわないといけない。

(・3・)「おじさんのライフはもう0よ。今回死んだら完全に消滅してしまうのさ」

 う~ん。ダメかも知れない。

 でも、まあ、実験をしないよりはした方が得るものも多いわよね。

「デルタに頭が良くなるメガネをプレゼントするわ」

 元のデルタと(・3・)は記憶を共有していないことも多い。だからもう一度白紙の状態からメガネを与えてみる。

(・3・)「ただでさえ頭の良いおじさんに更なる知性が加えれば世界征服も夢じゃないってね。ぶっひゃっひゃっひゃっひゃ」

 デルタは心底腹が立つ笑い声を発しながらメガネを掛けた。

(・3・)「ぶっひゃっひゃっひゃっひゃ~~っ! 体の芯から知性が溢れ出てくる~~~~~っ! こ、これは~~~~っ!?」

 デルタは興奮して顔を真っ赤にし

(・3・)「ぶっひゃぁ~~~~~~~~っ!」

 頭を文字通り爆発させた。

 (・3・)と化したデルタの脳にハイスペックな知性を備え付けようとした無理が祟ったらしい。

「私の求めるメガネはまだ遠いみたいね」

 細胞ひとつ残さず綺麗に消滅してくれたデルタを見ながら私はメガネの改良を誓った。

 それはそれとして……。

「やっぱり、良い大学に入ることになってもそれだけじゃ幸せにはなれないってことよね」

 デルタの死は私に大切なことを教えてくれた。

 

「あっ、智樹」

 縁側の先の道を制服姿の智樹が歩いているのを見かけた。同じく制服姿の女の子と一緒に。

「あの子は……明日(あした)れあだっけ?」

 デルタが阿頼耶識に目覚めるのとほぼ同時期に転校してきた少女。

 そはらのように胸が大きいということもなければ、美香子のように大人の雰囲気を醸し出す美人ということもない。

 ごく普通のどこにでもいそうな女の子。

 でも、私のセンサーはれあに最大限の警報を発している。

 あの子は日和級の危険人物であると。

 私から智樹を奪いかねないと。そう危険を告げている。

「じゃあまた明日ね、智樹くん」

「また明日な、れあ」

 2人は仲良さそうに手を振って別れた。

 

「いけないいけない。相手はただの一般人。特に取り柄のない平凡な子。それに比べて私は智樹と一緒に住んでいる家族じゃないのよ」

 首を横に振って私の優位を確認して心を落ち着ける。

 スペックを考えてみれば、別にキャラも立っていない無個性一般人相手に焦る必要なんて何もないのだ。そう自分に言い聞かせる。

 大きく深呼吸を繰り返す。3度4度空気を吸い込んでいると智樹が居間に入って来た。

「ただいま~」

 智樹は首と肩を回しながら疲れた顔で帰って来た。

 そういえば今日は委員会がどうのこうのと言っていた気がする。

「おかえりなさい」

 アルファは現在夕食の買い物中なので出迎えるのは私1人だった。デルタはもうこの世に存在しないのだから。あっ、デルタと言えば……。

「ねえ。智樹に聞きたいことがあるんだけど」

「何だ?」

 鞄を下ろしながら智樹が振り返る。

「良い大学に入ると幸せになれるの?」

「良い大学に入ると幸せに、かあ。う~ん」

 智樹は首を捻った。

「良い大学に入ると、良い会社に入りやすいから生活も安定しやすい。幸せへの条件ができるのは確かだけどなあ……」

 智樹は私の顔をジッと見た。

「けど、衣食住が事足りやすいということだけで幸せになれるってのも結び付けられないし、それに……」

「それに?」

「シナプスからこっちに降りてきて生き生きするようになったニンフやイカロス達を見ているとさ……幸せってもっと単純で奥深いものなんじゃないかと思うんだ」

 智樹は楽しそうに笑った。

「智樹の言う通りかもね」

 頷いて同意を示す。

「エリートってことなら、シナプスにいた時がそうだった。でも、シナプスにいた時の私は少しも幸せじゃなかった。私の幸せは地上に降りてきてからあった」

 私は智樹のいるこの家で少ないお小遣いをやり繰りしながらお菓子を食べているととても幸せを感じる。

 なるほど。私の根っこは相当な小市民らしい。

「まあでも、俺が良い大学に入って良い会社に入れば、ニンフたちのお小遣いを倍額にしてやることも出来るんだけどな」

「それじゃあ智樹には頑張って勉強してもらって、良い大学に入ってもらおうかしら♪」

 そして智樹の意見によってコロコロと方針を変えてしまう程度に優柔不断であるらしい。

 良い大学に入ると幸せになれるかという問いに関しては、イエスでもありノーでもあるというのが私の答えになるようだ。

「デルタ……私は答えを得たよ」

 窓の外に向かって解答を得たことを告げる。

 空美町の大空にデルタと(・3・)が笑顔でキメていた。

 

 了

 


 
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