No.549516

四法の足跡・秘典 ~四法の夢~ 幕間

VieMachineさん

『プレ』オープニング→ http://www.tinami.com/view/549450
第一話→ http://www.tinami.com/view/549455

次に向けての幕間でした。またちょっとSF分入ります。
最後に出てくる少女はオープニングのキャラになるはずなんですが、『プレ』オープニングはあっても、オープニングがないという…

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2013-02-28 02:13:44 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:390   閲覧ユーザー数:390

「ったく、なんて夢なんだ…」

 

 端末からコネクタをはずす。

 

「う~ん。裏方を知ってる僕にあんな夢を見せたのはなぜ?」

「今回のは結構おもしろいシナリオだったからみんなに読ませたいじゃない?」

 

 シナリオねぇ…この劇甘で夢一杯な展開は茜の自信作ということか。

 

「それで?説明がほしいな。座興につきあってあげたんだから。エンゲージ?」

「あ~う~私だってやだったんだから、そゆことゆ~な!っあとキャラ名で呼ぶな!」

 

 ほくそ笑むシナリオライターの背後に立つ長身に声をかける。おおよそエンゲージというキャラクタに合わせた性格とも思えないが当時は、急場しのぎでラスしかプレーヤーが居なかったのだからしょうがない。あれ以来、エンゲージはラスの持ちキャラということになっている。

 

「で?あんなシナリオなんだから、あのキャラは固定化するんでしょ?プレイヤーは誰だったの。というかなんで固定化することにしたの、そこんとこも説明がほしいよ。」

「会ってくれば?プレーヤーに?」

「はぁやっぱりクラスAなの?質悪ぅ。君たちみんな判っててあんな恥ずかしいシナリオをやらせたの…」

「違うわよ?相手は正真正銘のクラスCよ。ただねぇボクたちも意外や意外。」

「そ~そ~。偶然ってこわいなっ!」

 

 クラスCって一般乗員じゃないか。なんでプレーヤーの特定ができるんだよ…。

 茜は何も言わない。ラスはいつもどおり気楽にはしゃいでる風を装ってるけど茜と同様の悪意を感じる。

 

「わかったよっ、行けばいいんでしょ。相手は経緯判ってるの?」

「う~ん、とりあえず、艦内モニタによると…まだライフログは受け取りに来てないなぁ。」

「でもこれは、データセンターに向かってるな。遅れるとかっこわるいぞスルース。」

「ちょ、ちょっとまってよ、いや、ラス、いたいいたい!ぎゃっ」

 

 オペレートルームを蹴り出される。ったく、ラスはほんっと適当だからきらいだっ。

 それにしてもどういうことなんだろう。固定化キャラ、所謂持ちキャラというやつはクラスA以上の管理者がメンテナンスのために用いる。一般乗員のキャラを固定化するってことは、クラスAへの引き上げって事だろうか。僕が夢見てる間に募集でもかけたのかな?

 

「やるじゃねぇか、スルース。ゲームにかこつけて告白なんてよ」

 

 あ~そういえば匿名性無しってのは困る。管理者ってことは僕の正体ばれちゃうって事だし…あんな恥ずかしいシナリオ、匿名じゃなかったら演じれないよっ。

 …せめて男でありますように、男ならシナリオって割り切れるからな。女だったら…女だったら困るなぁ。ガッツリ好きって言っちゃったしなぁ。いや、別に嫌いなタイプでは無かったんだけど…むしろ好き目って言うか。

 

「おい、スルース!」

「っ!あ~紫苑か~。」

「いくら何でもぼ~っとしすぎだろう。好きなやつに告白したからって相手も昔を覚えてるとは限らないぞ?」

 

 な、な、な

 

「なんだよ!!!アレはシナリオだよ。というかなんで紫苑が僕のライフログしってるんだよ」

「あ~みんな知ってるぞ?かぶりつきで観戦してたからなぁ。んでもっていろいろ調べてこっそり雇用会議もやったし。」

 

 …やっぱ雇用募集だしたのか。それにしても…今度絶対仕返ししてやろう。ん?いや、もしかして今回のは盛大な復讐劇なの…か?

 

「…あ~紫苑、もしかして僕のライフログ、フライヤに記載されちゃうわけ?」

 

 …あ~楽しそう、楽しそうに口元ふるわせてるな~。もういいや~。

 

「そりゃ~されるだろ~。いや誰かさんが俺たちの大苦戦を書いてくれたおかげで、内容が知りたいって乗員が増えちゃってなぁ。」

「うううっ」

「そりゃ~MGLRPS は人がおおけりゃおおいほど安定するし、楓華もシンディも楽になるしなぁ!いや~自分の預かり知らぬ所でした愛の告白を公表された仕返しじゃないぞ?断じて。」

 

 仕返しなんだ。やっぱり…

 

「でもいいじゃないか~!君らはプレーヤー記憶が無かったんだから、判らずにやったって名目が立つだろ?あと、君が告白したのは葵だろ~。問題ないじゃないか!」

 

「…おまえなぁ、あれ以来主導権握られっぱなしなんだぞ?無意識にあいつを求めてるなんて風評まで立って。あ~癪だ。思い出したらまた癪だ。しかもアレだぞ?楓華にも手ぇ出したいと思ってるとかいろいろ言われてんだぞ。」

「あ~ごめんっ、僕がわるかった。」

 

 お手上げ。MGLRPS はその性質上、プレイヤーのいつもと違う隠れた性格が露わになりやすい。得てしてそれが本質だったりするから、勝手に公開した僕が悪いのは明らかである。シンディの口車に踊らされたってのが真相なんだけど。

 

「判ればいい。そしておまえも素直に世知辛い世の中の苦労を味わえばいいんだ。A.L.F. だからって、女性陣の毒牙から逃れられると思うなよ。」

「あ~もう5割くらいは思い知った。」

「茜と誰だ?」

「ラス。」

 

 特A級以上の女性管理者は6人。葵と楓華はそんな質の悪い雑談はしないから気をつけなくちゃいけないのが4人。これからさらに半分に冷やかされると重うと無性に気が重くなる。

 

「……」

 

 しかも残り5割が前から歩いてきた日には、脱兎のごとく逃げ出すのが得策というか、もう逃げられないというか、哀れみの目で見るのもやめてほしいし、助けてくれというか。

 

「お~。今話していたところだったんだ。スルースもなかなかやるじゃないか。」

「言っておきますが、オペレートルーム内と勤務中の交遊は控えて頂きますからそのつもりで。」

 

 本船最強のコンビ。全乗員の現実をマネージメントするキャプテン、キルシェ・ヴァイスハイトと全乗員の夢をマネージメントするインダクショナー、シンディ・メイプルリーフ。2人に勝てるのは、理論武装した時のクロイツ社長と感情的になった時の葵くらいだ。

 

 ちなみに、前回の紫苑たちの苦戦をおもしろおかしく編集して公表することを決定したのはこの2人で、名実ともに黒幕の名を恣にするわけだが…

 結局刃向かうのは怖いのでみんな実働部隊の僕で憂さを晴らしていると言った所だ。理不尽。

 

「いやぁ傑作だったなぁおい。A.L.F.でも幼少時の経験ってのは行動に焼き付いてるもんなんだなぁ。これは是非、当時の資料も読みたいモンだ。」

 

 当時?そう言えばさっきから幼少時とか当時とかいちいち…

 

「おまえの知り合いが相手だったんだよ。いちいち聞かなくてもわかるだろ?」

「古い知り合いでクラスAじゃない人なんていたかな…」

「……」

 

 A.L.F. Seven Horns のほとんどの AI は厳重な管理の元、覗結夫妻によって調整を受けている。だから、僕の古い知り合いは全て覗結夫妻の所属した ESA-i の研究員であり、必然的に ESA-i から発展した組織 P.A.L. の研究員であることになる。人的資源の限られている現在、P.A.L.の全ての研究員と幹部がクラスA/Bに割り当てられたように記憶しているのだけ ど…。

 

「スルース、お前やっぱり…」

 

 なるほど、僕の失った知識の中の存在ってわけね…

 

「もう忘れてよ。僕は思い出せない。みんなも教えない。記録も残っていない。」

 

 いつも答えは決まっている。この件はもう僕の中では無かったことになっている。

 

「会いに行くのはやめるよ…」

 

 何も特別じゃない。ただ同僚として会って、同僚として一緒に働く。そしてこれから関係を築いていけばいいだけじゃないか。

 

「なんで、みんな余計なことをするんだよ。過去にどんなことがあったって、その関係を修復しなくちゃならない理由がどこにある。思い出せないもの相手に期待させても悪いし、僕の姿も当時とは変わって…」

「スルース。相手は忘れてないかもしれないんだぞ。」

「マスター……。」

「忘れてるかもしれない。だが、名を聞けば思い出す。そぶりを見れば思い出す。姿形は変わってもお前であることは変えられない。お前はそんな彼女に苦しめというのか?自分のせいで記憶をなくしたお前を見せつけようと言うのか?」

「彼女のせいで…?」

 

 瞳をのぞき込む。シンディは目をそらさなかった。

 

「私はな、スルース。刻を飛びながら生きている。だから判るんだよ…。知っているはずの人間がはじめて会う顔で朗らかに挨拶する…その哀しさを。で も、だからこそ人一倍知って居るんだ。覚えてくれていた人が目を見開いて再開を喜んでくれる、その喜びを。あってやってくれスルース。そして演じてやって くれ。せっかく再び縁が生まれようとしてるんだ。お節介だと自分でも思うが…お前だって思い出すかもしれない。」

 

 ……。

 

「会うよ…。」

 

 判ってる。僕には損はない。仮想世界とはいえ 10年も共に暮らしたんだ、彼女の性格は覚えているし…。なるべく楽しい出会いにしたい。

 

「でも、もし変なことになったらフォローしてよね。」

「任せとけよスルース。あんときプロフェッショナルな仕事ができなかった分、借りは返すぜ。」

 

 三人をおいて歩き出す。もうカウンターはすぐ側だ…

 上を向いて順番をまつショートの少女がいる。

 

 ああ…

 

 あの子だ…

 

 誰だった…?

 

 ノエル…

 

 いやあの子は…

 

「ヴィ…僕…」

「僕だなんて…なんか似合わないね。スルース。」

 

幕間 Meet again / Fin


 
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