No.549481

四法の足跡・秘典 ~四法の夢~ 第三話 過去の君の代わりに

VieMachineさん

紹介がいつも過去のものでお目汚しすみません。
『プレ』オープニング→ http://www.tinami.com/view/549450
第一話→ http://www.tinami.com/view/549455

紹介

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2013-02-28 00:29:13 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:340   閲覧ユーザー数:340

 四法世界は混乱を極めた。誰かが混沌を世界に呼び込み、大量の獣や精霊が異形の者としてあふれ た。そんな時代の話。

 

 俺は幻獣だ。本来『忘れられし神』に使えるべき獣。でも友人との約束でここに残っている。この 世界の最後の幻獣として・・・

 俺、この世界ではシュリルフェン・トゥラームと名乗っている、は旅の万屋で、薬草から魔動法の かかった武器まで何でも取り扱う敏腕商人だ。

 連れの少女はノエル・イリハート。召喚士で唯一、俺を呼ぶことが出来る少女だ。彼女は 俺の司る言葉を知っている。

 最近、俺には疑問がある。夢ではないか・・・この一生は夢なのではないか・・・。

 考えても始まらない事だが、ふと考える。この暮らしは俺が望む夢なのではないかと・・ ・

 

『我が守りよ!混沌から我を守れ。』

 

 言葉が響いたのは、俺がそんなことを考えぼんやりと空を眺めていた昼下がりのことだっ た。ふと気がつくとノエルが俺の顔を覗き込んでいる。ユニコーンとしての本性をくすぐ られる情景である。とはいえノエルはまだ15歳。俺の主人として背に乗るにはまだ早い といったところだ。

 

「何でもないよ。」

 

 俺はノエルにそういったが少女は納得していないようだった。俺の服を掴んでいた手がお ずおずと俺の手を包む。

 

『どうして。単なる昔話でしかないのか!諦めるしかないのか!』

 

 ノエルがあわてて手を引っ込めた。再び俺のなかに響いた言葉が少女にも伝わってしまっ たらしい。

 

「シュリル!誰かが呼んでる!」

 

 ノエルの叫びに肩をすくめてみせる。誰かなんて俺にだって分からないのだ。それよりも 俺に直接呼びかけられるものがいたことのほうが不思議である。

 

「シュリル!行かなくちゃ駄目。この人は貴方を必要としている。」

 

 ノエルの言葉と共に、再び俺のなかを声が駆け抜けた。呼びかけは少々遠いところから行 われているようだった・・・そこには俺の記憶が確かなら、小さな村のひとつも無いはず である。

 ・・・いや・・・まさか。ならばなんの不思議もない・・・。

 

「すまんノエル、急ぐぞ。」

 

 俺は急に言った。嫌な予感が俺の心を占めた。ノエルの力を借り、俺は本当の姿を現すと ノエルを背に走った。行く先は決まっていた。あの場所、俺と俺の友にもっとも関係の深 い場所。そこならばノエル以外に俺を呼ぶものがいても何の不思議もない。俺はこの時代 の全ての生き物よりも速く、ノエルを乗せて懸命に駆けた。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「ここは。」

 

 ノエルが呟いた。目の前には不思議な光景が広がっている。一見単なる林に見えるが明らかに自然ではなかった。 所々に風化した木材やら石材やらが見えている。俺は当然知っていた。ここには家があったのだ。それと幸せな家庭が・・・。

 

「俺の家だ・・・」

 

 人の姿を取り俺は呟いた。扉があったはずのところまで近づいてみる。木々や寄生植物が 絡みつき、扉は開きそうにはなかった。

 

『あの人が死んだから、私はここにいても仕方がない。ここは朽ち果てていくでしょう。 森の木々にそう頼んだわ。』

 

 老女の面影と言葉が俺の心をよぎる。

 

『貴方は神の御元に戻らないの?』

『俺は友との約束を守ります。永遠の命を賭して。』

 

 白銀一色の髪のなかに一房緑色の流れを持つ老女は笑った。

 

『そう・・・私は息子夫婦と一緒に故郷の森へ帰るわ。あの人と初めて会った森に。あの 人の師匠達と私の叔父の墓もあそこならば近いわ。いずれ私もあの森で眠ることになるで しょうね。』

『そうですか・・・。貴方と貴方の縁者に祝福を祈らせてください。俺にはこんな事しか 出来ませんが、この石を貴方に。俺の友の縁者が本当に困ったとき、ここに来てこの石と ともに祈れば俺はいかなる時でもやって来て俺の名“克服”を諭すでしょう。』

『ありがとう。』

『いつまでもお元気で、我が友の最愛の人。レティス・フィン・アリアレーナ。』

 

 ゆっくりと過去を思い出しながら俺は廃墟を見て回った。

 ほどなくして一人の男を見つけた。息はすでにない、白銀の髪を持った青年だった。手に 何かをしっかりと握りしめたまま大木によりかかるようにして死んでいた。

 やはり間に合わなかった・・・。俺は静かに涙を流した。手を握ると中から黒鉄色の石が転げ出る。やはり、俺が守ると誓った人間だったのだ。俺はしっかりと石を握りしめた。 そのとき、

 

『せめて子供たちだけは・・・』

 

 青年のものらしき思いが伝わってきた。青年の体が自然に前へと倒れる。青年の体の先に は大きな空洞があった。そしてその中には二人の子供が眠っていたのだった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「召喚、光獣ライオット。契約により我に従え!」

「シュリル!!」

 

 幼い子供の声とノエルの悲鳴が宿に響いた。あわてて駆けつけると、少年が光の剣を振り かざしている。『光の魔剣ライオット』、召喚法の最秘奥である。ノエルにはこんなに高度 な術はもちろん使えない。俺は、腰を抜かしたノエルと少年のあいだに入り、少年の持つ 光の剣を素手で掴んだ。そのまま光獣ライオットには帰還を命じる。床に落ちたノエルの ものらしき剣も彼女に投げ返す。

 

「大丈夫。俺たちは敵じゃない。」

「叔父さんはどうした・・・・」

 

まだ十歳にも満たないような子供がそういった。

 

「死んでたよ・・・埋葬してきた。少年、名前は?」

「アルファルド・フィン・アード、妹はレオナリア・・・」

「じゃあ、アルフ。お前もレオナももう危険はない。俺がいるのだから。」

 

 俺はそういってやった。

 やがて少女も目覚めたようだった。しげしげと俺は子供たちを見回した。アルフは茶色の髪の少年。外見は八歳ほどでフェルディ・アードそっくりの風貌だった。一方、レオナは 白銀の髪に一筋緑色が入っている。フェルディの妻、レティス・フィン・アリアレーナの姿が重なる。二人は双子の兄妹だそうだ。俺は頬が緩んでいくのを感じた。こうしている とまるで、過去の幸せな日々が帰ってきたようだ。

 

「お前は・・・誰だ。」

 

 アルフがそう聞く。

 

「俺は、シュリルフェン・トゥラームと言う。」

 

 その返事に少年が立ち上がった。

 

「あの!伝説の幻獣シュリルフェン・トゥラーム!本当にいたの。」

 

 背後で少女も呟いている。

 

「母様の昔話に出てきた?」

 

 ノエルが振り返って聞く。

 

「どうして?貴方の名前ってそんなに有名?」

「そんな事も知らないの!召喚士のくせに。」

 

 俺がノエルに答えるよりも早くアルフが言った。俺は首を振った。そしてノエルにこの子 供たちが特別なのだということを伝える。

 

「俺をこの世界に呼び寄せた男の子孫・・・と言うことだ。」

「僕たちが?」

 

 今度はアルフが不思議そうな顔をする。

 

「・・・ってことは、僕は貴方のマスターになれる?」

「技術はあるようだから・・・俺を呼びだす言葉を知っているのならな。」

 

 アルフの言葉に俺は平然と答えた。ノエルの顔がゆがめられる。・・・俺の答え方が気に 入らなかったらしい。大丈夫、俺には君が必要なのだから・・・離れる気はない。君がそ んな顔をする必要はないんだ。

 

「”克服”でしょ。困難に打ち勝つ力。」

 

 ノエルがそこで口を開いた。

 

「勝手なこと言わないで!」

「でもお姉さんはアルフより劣っているわ。」

「!!」

 

 言えなかった。完全に俺は出遅れていた。君が必要だ・・・それほどの言葉が、この場で は意味を成さない。ノエルが俺を見つめた。いまそういっても慰めにしかならない。俺は 何も言わなかった。それがノエルを傷つけるだけだと思ったから・・・

 

「姉さん。貴方よりも僕のほうが彼にはふさわしいみたいだね。」

 

 アルフがそういいながら俺を見た。古き友と同じ顔で俺を見ている。しかし・・・

 

「・・・さよなら。」

 

 哀しげな声だった。ノエルは俺に背を向けた。違うのに・・・俺には君が・・・

 俺は彼女にそう言おうとしながら、再び子供たちの顔を見た。そう・・・俺は見た。二人の顔が、醜く歪められるのを・ ・・その瞳に混沌の影を!

 この二人は違う。

 

「必要なんだ・・・ノエル。待ってくれ。」

 

 俺の声はノエルにどう聞こえたのだろう。強く彼女を引き止めるはずだったその声は力を 失い、ひどく哀しいものだったに違いない。

 

「お前たちはフェルディ・アードの子孫なのか?俺の友は、力より人と獣のつながりを 大切にする男だった。冗談ではよく言ったが本気で自分がマスターだなんていう男ではな かった。本気で獣に対して優位に立とうとはしなかった。そして獣と他人とのつながりを 断たせるようなことは決して言わなかった!!」

 

 アルフが鼻で笑い、レオナは口に手を当て忍び笑いをしている。短く・・・残酷な平和だ った。

 

「お前たちは違う・・・。」

 

 声がかすれた。ノエルは唖然として俺を見ていたようだったが、その視線を二人の子供へ と移していった。

 

「それは違うよ。僕たちはフェルディ・アードの子孫さ。」

「ただ混沌を宿しただけ・・・。」

 

 少女が掌を空に向けた。そこに風が集まる。

 

「・・・」

 

 狂った風が俺を切り裂いた。奴らは獣や精霊を呼びだし、混沌を植えつけているのだ。獣 や精霊は混沌に侵されやすい。力ある一族の血と才能を持った体を得た混沌にはたやすいことだろう。絶望的だ。俺には彼らを殺すことは出来なかった。約束したのだから・ ・・俺の友の最愛の人と。そして状況的絶望よりも俺の精神的絶望は大きかった。俺は救 えなかったのだ。

 俺の肩を狂った光獣が焼いた。いっそ一思いに・・・

 俺はゆっくりと目を閉じていった。ここで消されようとも、もう・・・構わない。

 痛みが走る。光獣の牙でもかすめたのだろう。

 

「!!」

 

 違う。金属の剣で切られた痛みだった。場所は頬。今金属の剣を持っているのは・・・・ ・俺は驚いて目を開けた。

 

「ノ・・・ノエル」

 

 俺の視界にはノエルの顔が一杯に広がっていた。いつのまにか額に赤い布を巻いている。

 やはり剣で切ったのは彼女だった。彼女の右手には白銀色の剣があった。

 

「私が貴方の名前を教えてあげるわ。その代わり・・・。」

 

 ノエルは剣で光獣の牙をあしらいながら俺の頬をなでた。

 

「貴方の夢をもらうわ。夢と名の付くものを一つ。」

 

 ノエルはいつのまにか座り込んでいた俺を立たせた。頬から痛みが引いていく・・・治っ ている?

 

「貴方の名前は”克服”」

 

 彼女の腕が裂けた。狂った風の精霊が通り過ぎたのだ。

 

「困難に打ち勝つこと。壁を乗り越えること。絶望から抜け出ること。」

 

 彼女はゆっくりと俺に背を向けた。そして狂った獣たちには目もくれず、子供たちに向か って突進していった。

 

「今の貴方は貴方の名前に反している。思い出して、貴方のすべきことを。」

 

 俺は跳んだ。アルフに伸びるノエルの剣を腰に携えた剣ではじく。

 

「シュリル・・・貴方まだ・・・。」

「いや。」

 

 俺はアルフに剣を突きつけた。

 

「俺がやる。いや俺が助けなければならないんだ。この俺の名に賭けて。」

 

 俺の剣は少年に振り下ろされた。

 

「これしか思いつかないんだ。お前を混沌から救う方法が・・・。」

 

 少年が胸を開いたように見えた・・・いや見間違いではない。少年は胸を開いた。まるで 刃を迎え入れるように。

 

「アルフ!何を」

 

 レオナが叫ぶ。それをアルフは見た。刃が胸を切り裂いた。

 

「僕は嬉しいよ。僕が僕であれて・・・。シュリル、僕、御先祖様から笑われやしないよ ね。」

 

 アルフは俺の剣を掴んで深々と自分の胸へもぐり込ませていった。

 

「レオナ・・・混沌に負けちゃ駄目・・だ。気づいて・・・僕たちの近く・・・に・・今 ・・・こく・・ふ・く・が・・・あ・・る・・・。」

 

 俺の手のなかで、小さな小さなそして誇り高き命が消えた。ノエルも立ち尽くしさっきまでの勢いはもう無かった。剣も地面に無造作に投げ出されている。

 

「笑われるものか・・・異形になりながらも自力で戻ってきたお前を。誰が笑えるものか !」

 

 俺が少年を抱きしめるのと、残された少女が剣を取るのは同時だった。

 

「だめぇぇぇぇ!」

 

 ノエルの制止も虚しかった。少女の喉から真紅の霧が吹き出し、俺たちの時間を止めた。

 

「酷い・・・酷すぎるよぉ。」

「過去に眠る我が友よ。二人の、俺が救えなかったこの子たちの魂を癒してやってくれ。」

 

 俺には分かってしまっていた。俺の剣がアルフに触れたときこの結果が訪れるしかないということが・・・。でも、涙を堪えることは出来なかった。

 ノエルが泣きながら俺を背中から抱きしめる。

 

「夢をもらうわ。貴方の過去を。貴方の過去の友との生活を望む夢を。その夢は幻夢、 決してかなうことはない。」

「そうだな。」

 

 彼女だってまだ幼い。事実を受け止めることすら辛いはずだ。しかし、彼女は支えてくれ たのだ。俺のために、俺が挫けないように、俺が歩み続けられるように。だから俺は歩み つづけなければならない。もう二度とこのようなことが起こらないように、混沌に苦しめ られる人が現れないように、友との約束を守るために。

 俺は宿の主に事情を説明するためにノエルを使いに遣ると、血溜まりに沈む少女の傍らに少年の亡骸を横たえた。そしてゆっくりと彼らを見つめる。そう二度と・・・もう二度と・ ・・。

 

「安らかに・・・息子よ、娘よ・・・。」

 

 俺はゆっくりと子供たちに口づけをするとノエルのあとを静かに追った。

 

「俺は自分の幻夢を泣きながら食べつづけた。これで終わったと思いたかった。しかし・ ・・」

『魂の枷が破れ、強い力が我らのものとなった。混沌の伝染を楽しみに待っているがよい 。』

「もし君が自分を守れるようになったら、俺はそれを消さなければならない。友と、二人 の子供たちの魂と、過去の君の代わりに、今俺の名を呼んでくれる君に誓って。」

 

第三話 you, but past / Fin

 

 


 
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