~前回までのあらすじ~
曹操から熱烈なラブコールを受ける仲達。
なんとかして仲達に恩を返したい一刀だったがなかなか妙案が出てこない。
そんな中で一刀が一つの案を思い付く。
「して、その案とは一体?」
「そんな大それたものじゃないんだけどね。仲達の頭脳を提供する代わりに、身体への執着は諦めてってこと」
余りに普通な案だった為、仲達には落胆されるかとも思ったが、彼女は少し考え一刀の案を吟味していた。
「なるほど、盲点でした。私は曹操から離れる事ばかりを考えていたので、こちらから一歩歩み寄るというのはありかもしれません」
意外と好感触であったが、仲達はすぐに眉を寄せて不安げに続けた。
「…しかし、そう簡単に曹操が納得するでしょうか?」
「そこなんだよね。好きな人が出来たとかで押し通すってのも考えたんだけど、
仲達って異性との繋がりがほとんどないって言うし、俺じゃその代役も無理だ」
一刀が恋人の代役。
仲達は一瞬その可能性を妄想し、にへらと表情を崩したがすぐさまいつもの表情に戻した。
「という訳で考えたんだけど、俺も一緒に仕官できないかな?」
「一刀様も、ですか?」
「うん。俺も仲達が居なければ生きていけない訳だし、キミに居なくなられると困る。という訳で作戦はこうだ。
俺を雇うとおまけに仲達が付いてくる。逆を言えば俺を雇わなければ仲達は手に入らないよって。
その辺りを上手いこと曹操と話せれば、なんとかならないかな」
「それは……」
正直な話をすれば、仲達はこの程度で曹操を納得させられるとは思わなかった。
自分が話すのならばまだしも、目の前の一刀に曹操と心理的な読み合いをしつつ会話をするのは難しい。
しかし、そんな評価をしていた仲達とは裏腹に一刀は意外な言葉を返してきた。
「今、正直難しいって思ってるでしょ?」
「えっ?」
不意に考えを見抜かれた仲達は、思わず表情に出してしまっていた。
「いやね、曹操って人間を話だけで聞いていたら俺も無理だと思うけど、
この間会った感覚からすると取り付く島もないってことはなさそうなんだよね」
「…どうしてそう思うのですか?」
「なんていうのかな。口では説明しにくいけど、勝気な性格に隠れた優しさとでも言うのかな。
さり気なく俺の手当を指示したところとか、意外と普通に優しい女の子なんじゃないかな、彼女」
楽しそうに語る一刀とは反対に、仲達は有り得ないと首を振っていた。
曹操と接した回数は仲達の方が圧倒的に多い。
確かに覇道を志すその性格は評価しよう。
しかし、そこに甘さなんてものは存在しない。
少なくとも仲達はそう見ていたのだが、どうやら一刀は違うらしい。
「取り敢えずさ、一回会ってみようよ。
向こうも俺のこと気にしてたみたいだし、良い機会じゃないかな?
なんなら俺の素性とか話したら、仲達のこと見逃してくれるかもしれないよ」
「御遣いであることを明かしてしまって良いのですか?」
「神輿にされるのはちょっと勘弁してほしいけど、曹操も俺の素性を知りたがってたみたいだし?
仲達にはお世話になりっぱなしだから、この際これで仲達に少しでも恩を返せるのなら俺は構わないよ」
と、こんな話がありまして、時間は曹操の元へ着いたところへ進みます。
「いらっしゃい、仲達。それに北郷だったわね?」
「はい。名前を憶えて頂いたとは、恐悦至極に-----」
「あぁ、そういう堅苦しいのは良いわ。その様子だと敬語とか慣れてないんでしょう?」
「華琳さま、それはっ」
一刀が砕けた言葉遣いになるのが気に入らないのだろう。
後ろに控えていた黒髪の女が曹操に抗議しかけたが、それを彼女は手であしらっていた。
「無理な言葉遣いなんかで話されても不愉快なだけだし、それならいっそ砕けてくれた方が分かり易くて良いわ」
「えっと、お言葉に甘えて良いのかな…?」
「えぇ。それで北郷、今日は一体何をしにここへ来たのかしら?」
曹操に仕えている二人の女の視線が気になったが、ここはぐっと堪えて一刀は目的を明かした。
「実はここへ来た理由は、仲達の事について話したかったからなんだ」
「あら、珍しいわね。もしかしてようやく私のモノになってくれる決心が付いたのかしら、仲達?」
煽情的な眼差しで笑う曹操に、仲達は沈黙することによって答えていた。
「その逆というかなんというか。実は仲達が軍師になる代わりに、その…恋愛的な意味では手を引いてほしいって話なんだけど」
「それは、私に妥協しなさいということかしら?」
一転、和やかな空気が凍りついたが、一刀はどこ吹く風という表情であった。
「そこは俺なりにも考えが合ってさ。相談なんだけど、仲達を雇うついでに俺も一緒に仕官させてくれないかな」
「貴方を?」
当然怪訝な表情を浮かべる曹操だったが、その返答も想定済みだった。
「漢という国が傾き始めてから暫く、この国は荒れて人々の不満も良い具合に膨らんでいるはずだ。
そして、いずれこの国の人たちの中から一揆や反乱を起こす者たちが必ず出てくる。
そうなった時、各地の諸侯たちは考えるはずだ。その始まった戦乱の中で最後に立っていた者が次に国を治める力を持つ者だと」
「…話が見えて来ないわね。つまり何が言いたいのかしら?」
「俺は君がその戦乱を治める者だと思った。だから、君に仕えてこの国の行く末を見てみたい。
それはきっと、俺の知らない歴史を辿ることになるだろうから」
一刀の言葉に仲達以外の者たちが怪訝な表情を浮かべていた。
確かに普通に考えれば、こんなことを言っている人間は狂人か何かだとしか思われないだろう。
しかし、目の前に居るのは曹孟徳。
曹操自身、逸る鼓動を抑えられなかった。
この目の前に居る男は一体何者で、何を思ってこんな突拍子もないことを言っているのか。
「貴方、一体何者なの?」
戸惑う曹操たちを尻目に、一刀は穏やかな笑みで静かに告げた。
「ただの男子高校生だよ。最も、この世界では天の御遣いとか呼ばれてるらしいけど」
場に微妙な空気が漂った。
信じがたいものを見るような表情をする曹操の臣下と、何を考えているのか読めない曹操。
曹操は一刀をじっと見つめた後、視線を外し後ろの仲達へ声を掛けた。
「貴女が北郷を連れていたのはそれが理由?」
「天の御遣いだからというだけではありませんが、それが理由の一つであったことは確かです」
「どうして彼がその御遣いだと?」
「真夜中に流星が落ちるのを目にしました。その場所に倒れていらしたのが一刀様です」
「流星ね…でも、それだけで決め付けるのは少々強引ではないかしら?」
「確かに。しかし身に付けている服や、我々の知らない天の世界での知識。
私はそういった会話をふまえて一刀様が天の御遣いであると判断いたしました」
「嘘を吐いている可能性は?」
「私にそれが見抜けないとでも思うのですか?」
旧来の知り合いというだけあって会話のテンポはとても合っていた。
やはり仲達が曹操の軍師となれば、良い感じにやっていけるんじゃないだろうか。
一刀がそんなことを考える一方で暫し睨み合う両者だったが、これには先に曹操が折れていた。
「じゃあ、こういうこと?
貴方は仲達の身体以上に私にとって価値のある人間ということなのかしら?」
「俺をキミの軍に加えれば仲達が付いてくるという点で、俺には仲達の頭脳という価値が付くし、
俺の御遣いという肩書も加えれば身体を諦める代わりにならないかな」
「なるほどね…何も考えていない男と思ったけど、意外と意地が悪いのね」
皮肉を言われ、一刀は苦笑いをすることでしか答えられなかった。
曹操は眉を寄せて何やら考えをまとめている様子だったが、
フッと肩を竦めると息を吐いて緊張の糸を緩めていた。
「正直なところ、仲達の言葉を加味しても私はまだ貴方という人物を良く知らない。
だから安易に”はいそうですか”と首を縦に振ることはできないの」
「そうだね。いくら仲達が御遣いだと保証しても、人柄なんかをいきなり信用しろというのは無理な話だ」
「そう言う訳だから、貴方を御遣いとして配下にすることはできない」
「そっか……」
その言葉は一刀の頭に静かに、しかし重く響き渡った。
感触的には悪くなかったのだが、やはりいきなり信用しろというのは無理な話だったか。
しかし、これで代替案さえあれば曹操も理解を示してくれそうなことが分かった。
屋敷に戻り、再び何か考えれば或いは-----
「ちょっと。何を勝手に帰ろうとしてるのよ」
「え?」
突然の呼び止めに一刀はキョトンとしてしまった。
その一刀を見た曹操は出来の悪い教え子に勉学を教えるように、呆れながらも諭すように先の続きを話し始めた。
「話は最後まで聞きなさい。私はあくまで”御遣い”としてと言ったの。
私自身、本当に不思議なことだけれど、貴方を嫌っている訳ではなく寧ろ面白い男だと感じている。
正式な手続きを踏めば、配下として貴方が加わることも吝かではないわ」
「い、良いの!?」
「私の配下となる以上はしっかり働いて貰うわよ?」
「も、もちろん」
「仲達の連れだからと言って容赦はしないわよ?」
「彼女に頼りっ放しが嫌だから、俺はここで働きたいとも思ったんだ。
出来の良し悪しは保障できないけど、やる気だけなら負けないつもりだよ」
一刀の真剣な目を見据え満足したのか、曹操は笑みを浮かべながら後ろの仲達にも声を掛けた。
「貴女も、それで良いのかしら?」
「問題ありません。ただ一つだけ、私の待遇は曹操軍の軍師ではなく、北郷一刀の補佐という形にして欲しいのです」
「私は別に構わないけど……北郷はどうなの?」
予想外の仲達の申し出に驚いた一刀だったが、取り敢えず意見は出しておこうと口を開いた。
「い、いや…仲達は軍師なんだから俺なんかの補佐じゃなくても……」
「地位や名誉に興味はありません。それに、一刀様の補佐ということにしておけば」
「しておけば?」
「一緒に居られ……い、いえ。何でもありません。それでは話は済んだようですし、一度屋敷に戻りましょうか」
スタスタと去って行く仲達に唖然としていた一刀だが、ハッと目の前の曹操に目を向けた。
「ご、ごめん曹操。良く分からないけど一度屋敷に戻っても大丈夫かな」
仲達を気にしつつも一刀は曹操の返事を窺った。
「あぁ…行って良いわよ。詳しい話はまた明日にしましょう」
「了解。ありがとう曹操」
曹操の許可を貰い急いで仲達の背中を追った一刀。
その一刀の姿を見て曹操はぼんやりと考えていた。
仲達が一刀に並々ならぬ想いを寄せているのは明白。
恐らく一刀も仲達に似たような想いを持ってはいるが、立場故にその気持ちを表に出そうとはしない。
そんな二人の行く末を見守っていくのもなかなか面白そうだと。
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言い訳。
プロでもないのであんまり質やら求められても困ります。
矛盾とか出てたら、まぁ適当に補完しといてくだしあ。