No.548348 すみません。こいつの兄です。532013-02-24 23:57:09 投稿 / 全2ページ 総閲覧数:1099 閲覧ユーザー数:997 |
携帯電話の仕組みとかよく知らない。でも、一つわかったことがある。情報通信機器の進歩は、俺が思っていたよりすごいことになっている。俺は美沙ちゃんに『いつでも電話していい権利』をあげた翌日。マイクつきのイヤホンを買ってきた。携帯電話を耳に押し当ててると痛くなるからだ。
「このまま寝てもいいですか?」
耳元で美沙ちゃんがささやく。
「えと…いいけど」
「……」
「……」
「お兄さん。なにか話してて…。お兄さんの声を聞きながら眠りたいの」
眠りに落ちる。
「お兄さん…起きた?」
気がつくと、カーテンの隙間から冬の控えめな日光が差し込んでいた。耳元に、音量を抑えた美沙ちゃんの声。
「そのまま、寝ちゃいましたね。お兄さんの寝息が耳元で聞こえてて、とても素敵な夢を見ちゃいました。…フラれても大好きですよ。じゃあ、また、あとで電話しますね」
通話時間、十時間三十六分二十五秒。
通話定額のメリット最大活用だ。
そうだ。現代の通信機器の環境は、その気になれば二十四時間三百六十五日、一秒も欠かさずに、こちらの声を遠くの誰かが聞き続けることができるのだ。
やばい。
最初の一日目は、五分に一度くらい電話してくるくらいだった。それで、ヘッドセットを買ってきた。二日目の夜は、けっきょく電話を切らせてもらえなくて、通話状態のまま眠ってしまった。一緒に住んでいる妹の声より、美沙ちゃんの声を聞いてる。
眠りに落ちていくぼんやりとした意識の中で、美沙ちゃんのやわらかい甘えたような声が耳元でささやき続けるのは、心地よくて、そしてやばかった。
「俺、これを一週間続けたら、完全に落ちるぞ」
つぶやく。
美沙ちゃんがこれを計算していつでも電話していい権利を求めたのだとしたら、女の子怖すぎる。
まぁ聞いてくれ。眠る前の電話もまずかったが、その前もまずかったんだ。
昨夜、風呂から上がったところに美沙ちゃんから電話があった。声が、いつもより反響して聞こえていた。
「今、私、お風呂はいってるんですよ」
「え?携帯壊れちゃわない?」
「本体はジップロックに入れて、無線ヘッドセット使ってます。ヘッドセットは壊れちゃうかなぁ…」
俺の脳に、美沙ちゃんの甘い声だけが伝わる。話の内容は、外国語の歌詞ほどの意味しか持たない。
美沙ちゃん…。
お風呂…。
美沙ちゃん…。
お風呂…。
脳が男子高校生として当然の反応を示す。美沙ちゃんのお風呂シーンが脳内シュミレートされる。鮮やかに再生される妄想映像。HD画質。Hだけに。だれうま。
つやつやの肌にほっそりとした身体に、夏みかんサイズ×2。俺の脳のグラフィックスユニットが冷却ファン全開でレンダリングをはじめる。そこに美沙ちゃんの声が聞こえる。
「あ。お兄さん。今、私の裸想像したでしょ」
「え…い、いや、し、ししし、してなななな…」
だめだ。
バレた。
軌道修正する。
「してなくなくもないといえなくなくもないよ」
六重否定婉曲話法である。偶数だから肯定。
「ふふふ。見たいんでしょうー」
ごんっ。
理性を保たせるために、本棚側面にヘッドバッドをする。あぶない。
「ど、どう答えろと言うの?」
「だめでぇーす。絶対、見せません。未来の旦那さん以外には、絶対に見せませーん」
「わ、わかってるよ!」
ごまかす。がっかり感が心を満たしていくのをごまかす。
「彼女にしてくれて、だれよりも大切にしてくれたら見放題ですよ」
どごんっ。ばらばらばら。
本棚から、本が数冊落ちる。全力ヘッドバッドだ。
危うく俺の小脳が『するする!今すぐ婚約しよう!』と言う所だった。判断が大脳をバイパスしそうになる。
「あのね。来年になったら、お兄さん十八歳ですよね」
「え。そうだけど?」
「私、三月三日で十六歳になります」
「ああ。そうだったね。三月三日生まれで美沙ちゃんなんだよね」
覚えやすい誕生日。
「そしたら結婚だってできますよね。知ってました?夫婦なら、未成年でエッチしてもいいんですよ。私、なんでもしちゃいますよ」
ふんがぁっ!!がらがらがらがっしゃん。
本棚が俺の理性の身代わりになって崩壊した。プロポーズしそうになる脊髄神経ブロックを必死に押しとどめる。
「ちょ…み、美沙ちゃん。ちょっと色々困るから、で、電話切るね!」
返事を待たずに通話を切る。
「ぐぉお…。み、美沙ちゃんと結婚してしまいたい!」
「キモいっす」
いつの間にか、ドアのところに妹が来ていて、床の上でレスラーブリッジをする俺を見下していた。読みは『みおろしていた』ではなく『みくだしていた』だ。念のため。
「なんで、来てんだよ。自分の部屋、復活しただろ」
「あれだけデカい音がしたら、見にくるっすよ」
そうだった。本棚倒してたんだった。起き上がって、本棚を起こして、本をしまいなおす。
「にーくん。ハーレムルートっすか?」
妹も本を集めるのを手伝ってくれる。
「……美沙ちゃんルートに入りそうで、負けそうだ」
「美沙っちルートっすかー。バッドエンドっすね」
「なにがだ?美沙ちゃんルートは栄光の大勝利ルートじゃないのか」
「美沙っちとつきあったら、一分刻みで行動をチェックされるっすよ」
「…ま、まぁ、そうだろうね」
そう言っている間にも着信する。
「あ、お兄さん?ふふっ。ひょっとして興奮して、なにかしちゃってた?くすくす」
美沙ちゃんの女子力パワーが高すぎて、小悪魔というレベルではない。邪神級だ。旧世界の支配者の末裔なんじゃなかろうか。
「い、いや。本棚が倒れちゃったから、それを片付けているところ。真菜も手伝ってくれてるよ」
「今、お風呂からあがったところ。着替え持ってくるの忘れちゃって、タオルだけ巻いて部屋に戻ったところです」
ずがぁんっ!
「にーくん、なんで、せっかく片付けた本棚をまた倒すっすか!アホっすか!」
「あ、いや。真菜、悪かった」
ジト目で、見下しレベルを加速させる妹に謝りつつ、美沙ちゃんもけん制する。
「み、美沙ちゃん。そ、そういう手はやめよう!り、理性が崩壊するし、そんな付き合い方はよくないよ!」
牽制になってない。正直に言っただけだ。牽制するような脳の働きは残っていないから仕方がない。
「どんなきっかけでも、お兄さんは…。付き合い始めたら、宇宙で一番大事にしてくれるでしょ。だから、いいの」
確信犯だ。完全に落とすつもりで、俺の脳をピンクのハチミツ漬けにしている。もうすぐ男子高校生の脳のコンフュが出来上がる。
そんな昨夜の波状攻撃で、脳が甘ったるくなっている。しかも、朝から耳元で美沙ちゃんのささやき声だ。脳が本当にはちみつ漬けになってしまう。
危機感を覚えて、ジャージに着替える。
冬の空気の中を走ってこよう。美沙ちゃんの女子力にやられてはいけない。美人遺伝子の市瀬一族。美少女サラブレッドが無限女子力を炸裂させている。このままでは、俺の理性は波動砲の前の浮遊大陸。伝説巨神の前の重機動メカ。超人ロックの前のヘルダイバーだ。
だめだ。だめだ。だめだ。
長距離走のリズムで、甘ったるくなった脳に酸素を送り込み、理性を送り込む。
今、美沙ちゃんと付き合ったりしたら、あの美沙ちゃんのことだ、きっと真奈美さんにさえ焼きもちを焼く。つーか、たぶん俺、監禁される。
駅前を回り、線路沿いに走る。アルミニウムの電車が追い抜いていく。
そしたら、真奈美さんがまた独りぼっちになってしまう。
踏み切りの横を駆け抜ける。いつか、真奈美さんが夜中に電話してきた日。自転車で駆け抜けた道。
少なくとも、真奈美さんに友達ができるまで…。
できれば大切にしてくれる彼氏ができるくらいまで…。
他にも頼って一緒にいてニコニコと笑っていられる人ができるまでは…。
俺は真奈美さんをほったらかしたりしてはいけない。
俺は、始めてしまったのだから。
気がつくと、市瀬家の最寄り駅近くまで来ていた。ずいぶん長いこと走っていたみたいだ。真冬なのに、汗だくになっている。
はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。
真っ白な息を吐き出しながら、ロータリーのベンチに身体を投げ出す。見上げる寒々とした冬の晴れた空に、白い息が昇っていく。
「あら?直人くん」
うっすらと浮かぶ雲を背景にのぞきこんだのは、端正でやさしそうな顔立ちの美人。市瀬家のお母さんだ。
「え。あ、お、おはようございます」
照れてしまう。美沙ちゃんが一方的にしてきたとはいえ、娘さんにあんなエロトークをさせて申し訳ございませんと土下座したくなってしまう。土下座で解決するのが癖になりつつある。土下座とか、あんまり実務上の意味はないから将来のためによくないな。まぁ、土下座のハードルが下がるのはやりやすいかもしれないけど。
「ジョギング?」
「はぁ…というか、まぁ、なんとなく」
「せっかくだから、うちに寄っていく?真奈美も美沙も喜ぶと思うわ。というか、美沙が落ち着くと思うわ」
「落ち着く?」
「うん。直人くんが電話に出ないって、泣きそうな顔してたわよ。そりゃ、ジョギングしてたら出ないわよね」
「あー」
そうだった。美沙ちゃんは、五分に一度電話してくるんだった。携帯を家に置いてきてた。着信履歴の回数がいくつくらいになっているのか、心配だ。
お言葉に甘えることにする。
「ついでに、ちょっと買い物付き合ってくれる?」
「はい」
市瀬家では、朝のうちに買い物を済ませるのだろうか。向かう先はスーパーだ。二宮家御用達のスーパーはCGCグループだが、市瀬家は成城石井に行く。やはりお貴族様であらせられる。成城石井では、《あなたもわたしもしーじーしー》なんて歌は流れていない。
「あれこれなーやーむのーショーッピングー、やっすくてほーふな、しなぞろっえー」
「なぁに、その歌?」
いつの間にか口ずさんでいた。
「うちの近くのスーパーで流れてる歌です。脳にこびりついちゃって」
「超能力者が見張る社会になったときに便利ね」
「なんですか?それは?」
「『分解された男』って本が、そういう話なのよ。超能力者が人の思考を見張っていて犯罪をしそうな人を見つけて、先に逮捕しちゃう世界なの。そこで、ある男が頭の中に歌をループさせて、思考を読ませないようにするのよ」
「へー。面白そうですね」
「真奈美の部屋にあるから、借りてみたら?元は私のだけど」
「そうします」
「私か主人が、テレパスだったらよかったのにねー」
CGCグループの倍くらいの値段の薄力粉をかごに入れながら、お母さんが言う。
「?」
「気がついたら、真奈美は学校に行こうとすると吐いたり、漏らしちゃったりするようになってたわ。学校の友達が来ても絶対に会わなかったわ。中学二年生になったころには、友達も来なくなってた」
「あ、そうでしたね。引きこもってましたね」
それで、俺が駆り出されたわけだし。
「親なのに、そんなになるまで気づかなかったのよ」
美人の憂い顔は絵になるが、見るのは辛い。
「えっと。でも、今は、ほら普通に学校にも行ってるし、成績もけっこう悪くないですし…」
「慰めてくれるの?」
美人は、お母さんみたいな年齢でもいたずらっぽい可愛さを秘めてる。ずるい。
「えっと。あの…」
「直人くんが、うちの子にモテるのもわかるわ」
そうだった。美沙ちゃんがあの状態では、お母さんにも筒抜けだろうことはわかる。居心地が悪いような照れるような感じで、もじもじしてしまう。
「でも、女の子と付き合ったことないでしょ」
「…ないっす」
たっぷりかいた汗から童貞臭でもしてるのだろうか。
「きっと直人くんは、モテモテにモテて、それでも誰とも付き合えなくて…」
チョコレートチップ。生クリーム。砂糖がかごに入っていく。
「…それで、きっと最初に付き合った女の子と結婚して、ずっといちゃいちゃ暮らす」
「予言ですか?」
「だと、いいなぁ…っていう妄想」
舌をペロッと出す。くそぉ。ふたまわりくらい年上の女性がかわいいぞ。さすがは美沙ちゃんのお母さんだ。
負けてたまるか。
逆襲する。
「あの…」
おばさん、と言いそうになって、違和感たっぷりだということに気づく。おばさんという雰囲気ではない。
「…市瀬さんは、どんな風に結婚したんですか?」
エコバックに買ったものを詰め替えながら、たずねる。荷物は俺が持つ。今日は手伝いってもらえるのね、と言って水やら飲み物やらの重いものもたくさん買っていた。ずっしりくる。
「私が彼に猛アタックして、落としたの」
「それは、イチコロっぽい」
「けっこう苦労したわよ。最初にドン引きされたから」
「そうなんですか?」
「うん。略奪愛だったから、彼のデートをストーキングして邪魔とかしたし」
「うわぁ…」
そんなところも美沙ちゃんのお母さんだ。
「最近の美沙を見てると、私の子だなぁって思うのよねー」
「そ、そうですか…」
さっきまでのとは違う種類の汗をかいてしまう。
「わかるのよねー。理性で、やっちゃ駄目だって思っていても、どうしてもどうしても、好きな人のことを独占したくなっちゃうのよねー」
「あの…美沙ちゃん、なんか俺のこと言ってました?」
「お兄さんがなんとかって、ブツブツつぶやいていることが多いくらい?」
肩のエコバックを反対側に持ちかえる。痛くなってきた。
「未成年の間は、美沙にレイプされないように気をつけてね」
「え…あ…」
どう反応したらいいの?お母さまの中では、お酒とレイプは二十歳になってからみたいな感じなんだろうか。二十歳になって解禁されるのは、飲酒、喫煙、選挙だ。レイプは駄目だ。
「ちなみに、私は結婚前に手錠で一気に行ったわ」
「なにをっ!?」
「踏ん切り悪いんだもん、仕方ないって思うでしょ。たぶん、そろそろ許されてると思うし」
美人はなんでも許されるのだろうか。あのダンディなお父様も変わった青春を送ってこられた様子である。
「仕方なくない気がします」
「だったら、美沙にレイプされないように気をつけてね。大事なことなので二回言いました」
「気をつけます…。そんなことになったら、大変だし」
気を引き締める。実際、そんなことになったら、本当に大変なことだ。後に引けないし、真奈美さんが独りぼっちになるか、美沙ちゃんが傷つくかだし、真奈美さんが独りぼっちになったら、俺も美沙ちゃんも辛いし。
それは、バッドエンドルートだ。
理性ではわかっているけれど…と言っていたのは、さっきの美沙ちゃんのお母さんだ。美沙ちゃんによく似ていると言いながら、言っていた。
俺がしっかりしないといけない。
「真奈美は、たぶんそんな気合はないから直人くんから、がつんとずぶっと行ってやってね」
「真奈美さんは、なんか、女の子という感じがしないです」
「まぁね。変わった生き物って感じ?」
「そんなところですね」
「そんなこと言っているわりには、真奈美とお風呂に入ったりしないのね」
「うっ…」
「女の子じゃないなら、一緒にお風呂に入ってもいいのよ」
「あー。そのー」
矛盾をつつかれて、困り果てる。
「ふふ…冗談よ。でも、本当にお風呂に一緒に入ってあげるくらいはいいんじゃないかしら。真奈美、喜ぶわよ」
「俺が困ります。たぶん」
「真菜ちゃんとは、何歳くらいまで一緒に入ってた?」
「え?え…と…」
そういえば、何歳くらいまでだろう?先日、間違いで妹の入っているところに乱入してしまったり、妹が水着を着て乱入して来たことはあったけどな。普通に一緒に入ったのは、いつくらいまでだったかな。
子供のころは、妹とお風呂で水遊びしながら入っていた記憶はある。
あれはいつのころだったろう。
小学校に入ってからも、一緒に入ったりしてた気もする。
「…小学校低学年くらいまでですかね。たぶん」
そこまで話したところで、市瀬家に到着する。
「ただいまー。美沙ー。真奈美ー。直人くんも来たわよ」
台所まで荷物を運ぶのを手伝い。食料品などを冷蔵庫に入れていく。やけにお菓子の材料みたいなものが多い。
「お兄さん?電話に出ないと思ったら、お母さんと買い物行ってたんですか?」
ダイニングに降りてきた美沙ちゃんが、眉間にしわを寄せている。
「美沙。心配しすぎよ。直人くんとは駅前までジョギングしてきたところで偶然に会って、つれてきただけ。美沙も逢いたかったでしょ」
「そうなんだ…」
美沙ちゃんが、不審そうな顔で俺とお母様を見比べる。まさか、美沙ちゃん、お母さんと俺の関係をいぶかしんでるのか?
「直人くんに、一つ教えておいてあげる」
「へ?」
「女の子って、相手がたとえ誰でも女性はライバルなのよ。姉妹でもお母さんでも、誰のことでも女の子と話しているときに話題にしちゃだめ。自分以外の女性の話が好きな人の口から出るだけで、包丁をさがしちゃうのよ☆」
『のよ☆』とか、かわいい言い方をしてもだめだ。こわい。
「き、気をつけます」
「わかったら。美沙と真奈美のところに行ってあげて。美沙は怖いわよ」
知ってる。
台所から、ダイニングに立っている美沙ちゃんのほうに移動する。
「お兄さん…」
「えっと…」
やっぱり、居心地が悪い。なんていうか、どういう距離感で美沙ちゃんと接したらいいか分からない。
美沙ちゃんの取って来る距離は、五センチ。
くんくんくんくん。
五センチの距離で、匂いを嗅がれている。
「なるほど。お兄さんの匂いしかしませんね」
「ね。女性はみんなライバルなの☆」
他の女性の匂いがしたら、俺はどうなっていたんだろう。
(つづく)
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妄想劇場53話目。美沙ちゃんエロトラップ発動回。
それにしても、ずいぶん続いています。読みやすいようにまとめて、同人誌か電子書籍にしたら再読してくれますか?
最初から読まれる場合は、こちらから↓
(第一話) http://www.tinami.com/view/402411
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