No.548034

真・恋姫無双 刀蜀・三国統一伝 第五節:龍脈の眠る五台山

syukaさん

何でもござれの一刀が蜀√から桃香たちと共に大陸の平和に向けて頑張っていく笑いあり涙あり、恋もバトルもあるよSSです。

2013-02-24 03:46:37 投稿 / 全11ページ    総閲覧数:6623   閲覧ユーザー数:4804

まえがき コメントありがとうございます。はてさて来ました、竜との対面クエスト。いや、冥琳の治療薬として使うからそこが優先ですけどね。何が出てくるやら・・・。今回竜、又は龍について調べたのですが・・・予想以上にたくさんいますね。アジ・ダハーカとかは聞いたことありましたね。あとはファーブニルとか。八岐大蛇もここらへんに該当するようで。勉強になりました。それではごゆっくりしていってください。

 

 

出発直前、謁見の間に向かう前。周瑜さんの部屋をお借りして支度をしている頃・・・。

 

「ごしゅじんさま~~~~~!!」

 

・・・前にも似たようなことがあったような。ノックなしで乱暴に扉を開ける雛里。その後ろから卑弥呼、恋と続く。乱暴と言っても雛里なので少し勢いよく開いた程度なんだけどな。鈴々とかは扉が壊れるから・・・。

 

「それで、どうしたの?」

「そ、その、り、りりり、竜を探しにいきゅって本当なんでしゅか!?」

「士元よ、そのように動揺せずとも良いと言っておるじゃろ。儂にご主人様にダーリン。それに呂布に孫策に孫堅がおるのじゃ。竜の一匹や二匹、ひょいっと捻ってやるわい。」

 

・・・本当に捻ってしまいそうで怖い。

 

「で、でしゅが・・・ふえええぇぇぇ。」

 

泣き出してしまった。そりゃ怖いもんな。俺はさほど恐怖は覚えない。俺の場合、動物には無意識のうちに好かれてたから怖いと思ったことはないんだよなー。貂蝉と修行中のお婆ちゃんは恐ろしかったけど・・・。

 

「大丈夫だよ。雛里は俺が身を挺して守るからね。交渉して譲ってもらえればありがたいんだけど・・・。」

 

俺は雛里をそっと抱きしめる。少しでも不安を取り除けるように。

 

「ぐすっ。はい、お願いします。」

「じーーーっ。ご主人様、恋も。」

「くすっ。はいはい。」

 

恋の頭をくしゃっと撫でる。うん、満更でもない様子。今回は恋にも頑張ってもらわないといけないかもしれないからな。

 

「あとはダーリンを待つのみじゃな。」

「そうだな。」

 

それから華佗を待つこと十分。

 

「待たせたな。俺の支度は済んだぞ。」

「よし、じゃあ謁見の間に行こう。」

 

・・・

 

謁見の間に到着すると呉の錚々たる面々が揃っていた。やはり名のある武将、軍師なんだろうな。

 

「はじめまして。劉玄徳の下で武官をしています、北郷一刀と申します。以後、お見知りおきを。」

「漢女道亜細亜方面前継承者、卑弥呼じゃ。」

「ほ、鳳統でし。」

「五斗米道継承者、華佗だ。」

「・・・。」

「ほら、恋も。」

「・・・呂布、奉先。」

「天の御使いに漢女。あわわ軍師に神医、それに飛将軍ですか。随分と豪華な面々ですね。」

 

あわわ軍師・・・言い得て妙だ。

 

「あなたは?」

「申し遅れました。私、張昭子布と申します。孫権様の下で軍師をやらせていただいております。」

 

この人が張子布。孫策、孫権に仕え、断固とした意志を貫いた呉の軍師。年は周瑜さんと同じくらいだろうか。灰色の長髪がまっすぐ伸びていて、黒真珠のような瞳がこちらを見据えている。

 

 

「・・・眼鏡、していないんですね。」

「・・・は?」

 

この場にいたほとんどの者の声が重なった。

 

「何を突然言い出すのですか・・・。」

「え?だって、周瑜さんもそうだし、この場にいる軍師らしい方々も眼鏡かけてるじゃないですか。」

「愛璃様・・・程普様もしていないではないですか。それに、軍師の皆が眼鏡をかけているという訳ではないでしょう。」

「・・・愛璃、軍師だったんだ。」

 

俺の言葉に呉の何人かの目の色が変わった。というか空気が変わった。殺気だ。しかし、愛璃がそれに構わず答えた。

 

「皆さん、私が一刀さんに真名を預けているから大丈夫ですよ。というか、失礼ね。私、これでも冥琳・・・周瑜に軍師の仕事を教えたくらいなんだから。」

 

愛璃によって殺気は押さえ込まれたようだ。知らないところに来るとどれだけうちが緩いかを実感させられる。

 

「すみません。武官かと思っていました。」

「ははは!確かに愛璃なら武官と思われても仕方ないわよね。まぁ、武官並みの仕事をしてくれているからそういう捉え方をされても仕方のないことかもしれないわね。」

「雪蓮様まで・・・。」

「そうだな、伝国璽の件もあるし、一刀のことを皆に教えようと考えていたのだが時間がないな。この件については私たちが戻ってきてからにして良いか?」

「私はいいですよ。私も皆さんのことを知りたいですし。」

「そうじゃな。ご主人様の知名度を今のうちに上げておくのも後々役立つじゃろ。」

 

俺は純粋に呉の人たちのことを知りたいだけなんだけどな・・・。そのようなことを考えている一刀を睨んでいる人物が一人。

 

「蓮華、そんなに一刀を睨むな。まだ私や雪蓮が真名を預けたことを根に持っているのか?」

「いえ、この者が如何程の者か見定めているのです。それと、未だにこの者が呂布ほどの武を持っているとは思えません。」

「私も始めは蓮華様のように思いました。何故このようなひ弱な者が前線にいるのかと。しかし、一合打ち合っただけで分かりました。見た目では分からないほどの武をお持ちだと。」

 

第一印象はひ弱・・・ね。もう少し鍛えたほうが良いのかな?

 

「・・・雪蓮。」

 

俺はこっそり雪蓮に尋ねてみる。

 

「ん?何?」

「俺、あの方に嫌われているのかな?」

「あぁ、蓮華ね。あの子は孫権、私の妹よ。堅物だから私や母様のような王族が簡単に真名を預けてはいけないと考えているみたいなの。私や母様だって誰彼構わず真名を預けてるわけじゃないのだけどね。」

「うーん、孫権さんの前では真名で呼ばない方が良い?」

「それは構わないわよ。というか、真名を預けた人に呼んでもらえないのは少し寂しいから。」

「分かった。じゃあ遠慮なく呼ばせてもらうね。」

「えぇ。」

 

雪蓮が少しだけ頬を綻ばせる。それにつられて俺も笑った。少しだけ距離が縮まったと感じたのは良いことだ。

 

「なぁ、愛璃。」

「なんですか?」

「あの二人、良い雰囲気とは思わんか?」

 

水蓮様の視線の先には雪蓮様と一刀さん。その慈愛を感じさせる視線は、やはり親だからこそのものなのでしょうね。

 

 

「そうですね。私からすれば少し妬けてしまいますが。」

「ほう、愛璃も一刀狙いなのか。」

「・・・『も』ということは、もしや水蓮様も?」

「さて、どうだろうな。」

 

ふむ、なかなか興味深いことを聞かされましたね。これは宴会の席にでも問いただしてみるとしますか♪

 

「とりあえず、本題に戻そう。」

 

水蓮は一度表情を引き締めると、再び本題を切り出した。

 

「今、冥琳が不治の病で寝込んでいるのは皆知っているな。だが、どうやら華佗が治療法を知っているということでこれからその材料を取りに行く。」

「それで、その材料とは?」

「竜の牙らしいわ。」

 

ざわ・・・ざわ・・・。

 

「静かにせんか!とにかく、詳しい説明は卑弥呼に任せる。」

「うむ、任された。」

 

卑弥呼が一歩前に進み出た。呉の人たちが少しだけ後退したのはやはり卑弥呼の容姿からの威圧感から来るものだろう。

 

「これから儂らが向かう先は、幽州にある五台山の頂上じゃ。あの山には古来より龍脈があり、立ち入れば竜の怒りに触れるだろう。とされておる神聖な場所なのじゃ。」

「そのような言い伝えは私は信じぬからな。そもそも妖の類はそもそも信じていない。」

 

甘寧さんが断固信じないといった素振りを見せる。

 

「儂が実際に竜と対峙したことがあると言っても信じぬことが出来るか?」

「・・・証拠はあるのか?」

「証拠か・・・ふむ。」

 

卑弥呼が思案顔を浮かべると、胸ポケットから何かを取り出した。・・・?なんか見覚えが・・・って、携帯!?そして、どこかにコールしている。今になっては懐かしい音が謁見の間に響く。そして、謁見の間では何が起こるのかと構える者までいた。誰が出るんだ?

 

・・・

 

場所は変わって平原。そこで食材の買い出しをしている桃香、月、詠。そして貂蝉。護衛として貂蝉がいるだけなのだが、なぜ彼女?がいるだけで混沌とした雰囲気が醸し出されるのかは語らずとも良いだろう。

 

「今日は良い天気ですね。」

「そうだね~、こういう日は日向ぼっこしながらお昼寝したくなるんだよね~。」

「そんなことをしているとまた愛紗に引っ張られるわよ?」

「うっ、そ、それは~・・・。あはは・・・。」

「桃香ちゃん、目が泳いでるわよん。」

「なんならぼくが見てあげるわよ。愛紗より厳しいだろうけど(にやり)。」

「詠ちゃん、何か企んじゃ駄目だよ?」

「ふふっ、冗談よ。」

 

平和ね~。空も青い。民も穏やかに生活している。あとはご主人様たちが元気に『ぶるあぁぁぁぁぁ!!』着信だわ。

 

「ちょ、貂蝉さん!?落ち着いてください!!」

「へぅ。」

「ど、どうしたのよ!?突然暴れたりしないでよね!?」

 

あらん、酷い言われようね。とにかく電話に出ないと。私は紐パンの中から携帯を取り出す。・・・さながら海パン○カのようだ。

 

「もしも~し、都の踊り子、貂蝉よん。」

「儂じゃ。倭の巫女、卑弥呼じゃ。」

 

このくだりは漢女だから必要なのだという。必要性を見いだせないのは一般人には当然だろう。

 

 

「何よん。これに掛けてきたのだから何か急を要することなのね?」

「うーん、そのようでそうでないようなものじゃ。」

「珍しく煮え切らないわねん。」

「まぁ、突然で悪いのじゃがヴリトラの件について証拠がないと言われての。覚えていることを話してくれれば良い。」

「ヴリトラ・・・懐かしいわねん。あの時は確か美桜ちゃんが言い出したのよね。それに私たちが巻き込まれて・・・影刀ちゃんが頭を抱えていたのは今でも覚えているわ。」

「管轤は我関せずとしていたが美桜殿に引っ張られていったのだったな。」

「そうそう。それから早朝に五台山の頂上に登って、絶景を楽しもうとした瞬間空が暗くなって・・・ヴリトラが現れた。」

 

あの時は流石にやばいと思ったわねん。火炎は吐くは爪はでかいは尻尾で薙ぎ払われるわで・・・。散々だったわね。

 

「結局倒しても美桜殿は使役できず天に戻っていった。儂らの苦労は一体なんだったものかと丸一日費やしたのじゃったな。・・・このくらいで良いか?」

 

私の声が向こうでも聞こえるようにしていたのねん。

 

「了承してくれたそうなのでOKじゃ。」

「はーい。ご主人様に貂蝉を忘れないでって伝えて頂戴。」

「了解。」

 

ぷちっ。

 

「貂蝉さん、誰かと話していたみたいだけど・・・。」

「あぁ、卑弥呼から連絡が来たからねん。向こうで何かあったからその確認をしていたのよ。」

「確認ですか。何でしょうか?」

「さぁ?」

「それを確認というの?」

「それより、さっきご主人様になんとかって言ってたけど。」

「ご主人様に私を忘れないでって伝えるように言っておいたのよん。」

「貂蝉さんずるーい!私もご主人様に伝えて欲しかったのにー!」

 

・・・

 

甘寧さんも信じてくれたことで俺たちは呉を後に、五台山へ向けて出発した。のだが・・・。

 

「何でお前たちまでついて来るんだ?」

「竜なんて滅多に会えるものでもないので。」

「面白そうだったので。」

「一刀さんも行くのなら私もと使命感を覚えたので。」

 

愛璃の言い分はよく分からないけど・・・、いや他の二人の言い分も頷けるとは言えないか。

 

「鸞、美々、これは遊びじゃないんだぞ?」

「遊びでついて来ている訳ではないので悪しからず。」

「ぶーぶー、何で愛璃さんには何も言わないんですかー?」

「愛璃には言っても意味がないと分かっているからだ。」

「ふふっ、流石水蓮様は私のことを分かっていらっしゃいますね。」

「いや、そんなことで胸を張られても・・・。」

「とりあえず、一刀たちに自己紹介しないと名前が分からないんじゃ話をするにも難しいわよ。」

「そうですね。私、水蓮様の配下として武官をしております祖茂と言います。真名は鸞(らん)です。以後、お見知りおきを。」

「私は李異だよ。真名は美々(みみ)。主に前線で働く武官をしてるから、よろしくね~。」

「え、初対面で真名を預けちゃってもいいの?」

 

俺だけじゃなく雛里も面食らっているようだ。恋と卑弥呼、華佗はそれほど驚いていない様子。

 

「あわわ・・・。ご主人様、大丈夫なのでしょうか?」

「あはは、そんなに緊張しなくていいよ。私は冥琳さんの為に一緒に頑張ってくれる、しかも竜なんて普通は関わらないものにまで手を貸してくれるんだよ。ここまでしてくれるのに何も出来ないんじゃ寝起きが悪いからね。だから私の真名、受け取ってもらえるかな?」

「私も美々と同じようなものです。例え連合の件ではお互い敵だったとしても、今はこうして力を貸してくださる。そんな方々を信じない訳にはいきませんので。私の真名、あなた方に預かってもらいたい。」

 

 

「分かりました。この北郷一刀、お受け取りさせていただきます。私は真名も字ももっていませんので、一刀とお呼びください。」

「うむ、お主たちの真名、確かに受け取った。よろしく頼むぞ、美々、鸞。」

「確かに受け取ったぞ。俺の真名は一身上による都合で言えないが、そこは勘弁してくれ。」

「美々さん、鸞さん、確かにお受け取りしました。それでは私の真名、雛里。あなた方にお預けします。」

「(こくっ)恋の真名は、恋。お前たちに預ける。」

「うん、よろしく。雛里ちゃん、恋ちゃん。」

「よろしくお願いします。雛里、恋。」

 

こうして自己紹介と真名の交換も終わり五台山へ出発を再開したのだが・・・

 

「こう、改めて見ると恋ちゃんも雛里ちゃんも可愛いな~。呉にはいない系統の子たちだからなんか新鮮~♪」

「そうですね。うちはどちらかというと年齢層が高いですから。幼いのは小蓮様くらいですし。」

「遠まわしに年増呼ばわりされたのは気のせいかしら?」

「気のせいです。」

「けど、年長者がいるのは良いと思います。」

「そうですね。私たちの平原は皆同じくらいの年齢ですから。年長者の意見というのはどの場においても参考に出来るものと考えています。」

「けど、オバさんとかいても一刀的には嬉しくないんじゃない?瑞々しさもないだろうし(ちらっ)」

「何でそこで私を見る?」

「特に深い意味はないわ♪」

 

こういうやり取りは見ていて微笑ましく感じるなぁ。俺と母さんのやり取りとはまた違うものがあるけど。

 

「そうでもないよ。年齢の割に美人な人だっているし。」

 

俺の身近にも一人いるからね。

 

・・・

 

「へっくし!」

「なんじゃ?また噂か?」

「そうかも。何の噂をしているのか問いただしたほうがいいのかしら?」

 

・・・

 

「じゃあ私はどうじゃ?三人の子の親だがまだまだ若い者には負けるつもりはないぞ?」

「母様、その発言自体が負けているような・・・。」

「五月蝿い。」

「はい・・・。」

「水蓮も綺麗だと思うよ。武人として堂々としてるし、格好良い美人って印象かな。」

「そ、そこまではっきり言わんでも・・・//。」

「母さんが照れてる~。珍しいものを見たわ♪」

「眼福です。」

「運気が上がるかも?♪」

「初めて見ました・・・。このような表情も出来るのですね。」

 

皆言いたい放題だ。家臣がそこまで言っていいものだろうか?・・・。うちもなんだかんだで言いたい放題だったような。

 

「と、とりあえず行くぞ!//」

「はーい♪」

「なぁ、この調子でたどり着くのか?」

「そこは大丈夫じゃないか?多分。」

「・・・。」

 

華佗の心配は的中し、その日は野宿となった。焚火を囲みながら晩飯と共に色んなことを話した。普段何をしているのか。好きな食べ物、好みのタイプ。それこそ片手では数えられないほどの。なんか途中から俺だけ質問攻めに遭っていたけど、何で?

 

「ご主人様、嬉しそうです・・・。」

「? 皆と話せるのって楽しくない?」

「はぁ。」

 

桃香様、ご主人様は呉の人たちにも気に入られてしまったようです。

 

 

・・・

 

翌日、皆が起床し朝食後、五台山へ向かって移動開始。それから約三刻後、俺たちは五台山の麓に到着した。

 

「こ、これを登るのですか?」

 

目の前に聳える山。確かにこれを頂上まで登るのは至難の業だ。しかも雛里は軍師。俺たちは武官だから体力的には問題はない。

 

「雛里、疲れたら俺に言っていいからね。」

「は、はい・・・。」

「一刀は家臣にも優しいのね。」

「うちの大切な子が山登りで体調を崩すなんてあったら大変だからね。というか、俺が心配で山登りに専念できなくなっちゃうから。」

「いいなぁ。うちの母様にも一刀の優しさがあれば文句なしなんだけど・・・。」

「厳しさと優しさは裏表だと思うからさ、水蓮は優しい人だよ。」

「ふぅーん、随分と母様を買っているのね。」

「俺が会ってきた人って厳しい人はいつもその人のことを思ってくれている人ばっかりだからさ、俺もそういう人たちを見習うことにしてるんだよ。だからそういう言うとこでは水蓮は俺から見ても素晴らしい人なんじゃないかって思うんだ。」

 

うちの家族が皆そういう人ばっかりだしね。俺も鞘香には出来るだけ優しさと厳しさを持って接しているつもり。アメとムチは使い分けているんだけど・・・。どこで間違えてあんなに甘えたがりの妹になったのやら・・・。あの性格も嫌いではないけどね。

 

「一刀さんは優しさを主に見習っていたのでしょうね。」

「俺って、もしかして厳しそうに見えない?」

「そうですね。優しそうには見えますが、厳しそうには・・・。」

「ご主人様、優しい。恋にも、いつもご飯くれる。」

 

恋の判断基準にご飯をくれるかどうかもあることが分かった。・・・若干分かっていたことではあるけどね・・・。

 

「雛里、俺って厳しくないかな?」

「・・・はい。正直、一度も厳しいと感じたことはありません。」

 

・・・軽くショックだ。

 

「で、でしゅが!ご主人様は今のままで良いと思いましゅ!」

「そう言ってもらえるとちょっと落ち着いた。」

 

俺のやり取りを見ていた美々がおもむろに口を開いた。

 

「雛里ちゃんって本当にカミカミだね~。可愛い~。」

「や~、やめてください~。」

 

美々に頬擦りされる雛里。う~ん、うちではない珍しい光景だ。ちょっと傍観しとこう。

 

「微笑ましいですね。」

「鸞もそう思う?」

「えぇ、美々はあのような性格なので誰かに構って欲しい、誰かに構いたいという気持ちがあるのですが、我ら呉には雛里のように気安く出来る者がいないのですよ。親しい者がいないのではありませんが、何といいますか・・・。」

「妹みたいな存在ってこと?」

「えぇ。今は構いたくて仕方ない子が出来て舞い上がっているのでしょう。」

「なるほど。けど、美々の気持ちも分からなくはないかな。」

「奇遇ですね。私もです。」

 

そんなことを話しながら山頂を目指した。

 

「ごしゅじんさま~!助けてくださ~い!!」

 

・・・

 

登り始めて二刻、ようやく山頂に到着した。途中で雛里の疲労が見えたので俺がおんぶしたまま頂上に辿りついた。

 

 

「おぉ、絶景かな絶景かな。」

「綺麗~!!」

「これは脳裏に焼き付けておかないと損ですね。」

「何度来てもここの景色は美しいの。儂の美しさには負けるが。」

 

何か言ってるよこの漢女。確かにこの風景は何かに収めたいな。携帯でも使えれば良いんだけど。周りを一周見渡せる風景。ここから見える他の山々に邑。

 

「確かに綺麗だ・・・。」

「ところで、肝心の竜がいないんだが。」

「・・・。」

 

皆の心の中は『そうだった。』の一言だろう。

 

「何、心配せずとも良い。ご主人様よ。気を高めてくれんか?ギリギリのところまで。」

「なぜ?」

「竜は純粋な気に引き寄せられる傾向があるからの。美桜殿の血筋の影響もあるのじゃ。」

「ん?よく分からないけどやってみる。」

 

俺は一度深呼吸をして自信を落ち着かせる。そして静かに、しかし着実に気を練っていく。それから数分が過ぎた頃だろうか、あたりが暗くなってきた。そして、明らかなほどの大きな気がこちらに近づいてくる。お婆ちゃんたちの気とも異なる。異質と呼んだ方がふさわしいのだろうか。

 

「あ、あらあら。これは随分とでかい気ね。足腰に力を入れていないと足が竦んでしまいそうだわ。」

 

雪蓮だけでなく他の皆も緊張を隠せないでいた。華佗は額から汗が流れるも拭えないでいる。雛里には半泣きで俺にしがみついている始末だ。そして・・・あたりが眩い閃光に包まれた。

 

・・・

 

「うっ、な、何が起こったの?」

「さ、さぁ。」

 

皆が顔を見合わせる。あたりは特に変化はない。しかし、一刀は空を見たまま固まっている。まるで、何かに視線を釘付けにされているかのように。私も一刀と同じように空に視線を向けた。

 

「・・・。綺麗。」

 

思わず言葉が漏れた。いや、綺麗なんてものじゃない。美しいでも足りない。そう・・・神々しい。

 

「ほう、よもや黄龍を呼び寄せたか。」

 

黄龍、四神の長と言われ、五竜の一体。五行の土に位置し中央を守護する竜。

 

「しかし、向こうも動く気配はないな。」

「そ、そうですね。」

「一刀も、動かない。」

 

・・・

 

俺は突然現れた竜に視線を釘付けにされていた。何故か目を離せない。別にただ美しいからとかそういう訳ではない。何か・・・何かを語りかけてくるような。何かを訴えているような、そんな気がする。

 

「お・・・・・び・・・の・」

 

何か聞こえてくる。頭の中に直接流されてくるような。

 

「お主が私を呼び寄せたのか?」

「あ、あぁ。」

 

今度は鮮明に聞こえた。

 

「やはりか。お主から発せられる気だと思った。私の気に似ておる。四神の長と呼ばれる私に。まだ人間の中にお主のような王の上に立てる王がいるとはな。」

「? よく話が見えてこないんだけど・・・。」

「今の時代、三人の王がいるな?」

「あぁ。三人とも俺の知り合い、友人、仲間だ。」

 

 

曹操さん、雪蓮、そして桃香。

 

「その者たちの上に立てるだけの人間だということだ。」

「う、うーん。ごめん、やはりよく分からない。俺はただ人々が誰彼関係なく仲良く、助け合える世の中に出来るように頑張っているだけで・・・。俺があの三人の上に立つなんて想像も出来ないよ。」

「今はそうだろうな。だが、お主のその考えが大切なのだ。お主が頂点に君臨すればまず争いは起こらず、貧困や飢えに困らぬ者もいなくなるだろう。」

「俺の考えは理想だってバカにされてきたけどね・・・。」

 

今はないけど、『向こう』ではそうだった。戦争や紛争のニュースが授業で見る度に俺の意見は理想だ、空想だと反故にされてきた。

 

「大半の者は無理だと決め付けるからな。私はそうは思わん。いつの時代も争いが無いときはあった。それが長続きせず、指導者亡き後、残った人間たちが私欲を肥やすために再び争いが起きていた。だが、お主の周りには有望な王が三人もおる。その頂点にお主がいれば争いは起きぬと思うがの。」

「けど、俺が死んだらまた争いが起きるような・・・。」

「何、簡単なこと。お主が王や家臣と関係を作り子が産まれ、自分たちの子らに国の在り方、人間の在り方を教え、それを次の世代、また次の世代へと残していけば良い。まぁ、お主の在り方に私が気に入ったというのが一番の理由なんじゃがの。ほほほ。」

「そ、そっか。まぁ、頑張ってみるよ。」

 

途中で聞き逃せないことを言っていたような気がするけど・・・忘れた。・・・っと、本当に大事な要件を忘れるところだった。

 

「その、あなたに譲って欲しい物があって相談にきたんだけど。」

「なんだ?特別必要な物なのか?」

「知人の病を治すのにあなたの・・・竜の牙が必要なんだ。欠片でも構わない。どうにか譲ってもらうことって出来ないかな?」

「そんなことか。良いぞ。しかし、ただで譲るのもな・・・。よし、今そちらに行こう。待っておれ。」

「・・・はっ?どういう・・・。」

 

その言葉を紡ぐ前に竜は俺の視界から姿を消した。その代わり、俺の目の前に一人の女性が立っていた。突然のことに皆も唖然としていた。それもそうだろう。竜がいなくなり、代わりに女性が突然俺たちの目の前に現れたのだから。

 

「ふぅ。この姿も何千年振りだろうか。」

 

金髪碧眼の美しい女性。白の羽織を着ている。物腰も柔らかく、この容姿なら世界四大美女の一人と数えられても可笑しくはないだろう。目線は俺と同じくらいだ。

 

「さて、牙であったな。お主・・・ではあんまりだな。お主、名を何という。」

「一刀。北郷一刀。」

「一刀か。うむ、良い響きだ。私のことは・・・そうだな。鈴(りん)と呼ぶが良い。私は鈴の音が好みだからな。」

「鈴。」

「そうだ。そして、これが我が牙だ。少し多めに渡しておこう。残ったときは他に活用して良いぞ。」

「ありがとう。」

「うむ、良い返事だ。それと、もう一つ渡しておこう。」

 

渡されたのは竜が刻まれた金色の勾玉だった。

 

「これは私からの信頼の証だ。首からでもかけておくと良い必要なときはこれに念じて私に呼びかけるがいい。暇なときでも良いぞ?」

「わ、分かった。」

 

竜って意外と暇なものなのかな?

 

「最後に一刀から私が受け取るものだが・・・。」

 

俺は何をされるのだろうか・・・。心底不安だ。

 

「目を瞑れ。」

「?」

「いいから!早く目を瞑らぬか!」

「も、もちろん!」

 

 

俺は固く目を瞑った。正直、背中から冷や汗だらだらである。何が来るのかと身構えていると・・・。

 

「ちゅっ。」

 

・・・俺、キスされてます。竜に。

 

「くちゅっ、・・・ぷはぁ。ちゅっ・・・。」

 

しかも舌まで入れられて・・・。俺はというと不意打ちに体が思うように動かない。

 

「うむ、満足♪」

 

目を開くと満面の笑みの鈴。うん、凄くいい笑顔。周りにいる女性陣の視線が凄く刺さってきて後が恐ろしい・・・。

 

「私の体液が体に入ると運気が上がるからありがたく思え。ちなみに、始めての体験だったからな。光栄に思うがいい♪」

 

うん、またもや輝かんばかりのいい笑顔。本当に竜なのか疑問に思えてくるほどに。

 

「では私はそろそろ天に戻ろう。ヴリトラのやつが私の匂いを嗅ぎつけてやっても来ても厄介だし。それではな、一刀。あなたに、天の加護があらんことを。」

 

そうして鈴の姿は消え、覆っていた暗雲も同時に消えていった。・・・随分とフレンドリーな竜でした。

 

「か~ず~と~?」

 

・・・やっぱり見逃してくれないよね。あれだけやればさ。分かっていたよ。

 

「言いたいことはたくさんあるんだろうけど、今はこれを早く周瑜さんのところに持って行ってあげよう。」

「・・・そうね。けど、後で覚えておきなさいよ?」

「お、おう。」

 

俺はどうやっても逃げられない運命のようだ。俺は心中で黄昏ながらも、皆で建業への道のりを戻り始めた。

 

 

あとがき 読んでいただきありがとうございます。いや、竜ですよ。人になっちゃいましたよ。ビックリです。私が一番びっくりしています。何がって?全部です。後半あたりは妄想大爆発でした。頭の中春うららでした。=自分でもよく分かっておりませんので悪しからず。では次回 雛里のご主人様への不満 でお会いしましょう。

 


 
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