No.547755

真・恋姫†無双~絆創公~ 小劇場其ノ一

小劇場とか言っておいて、文字数は多めです。

2013-02-23 14:26:54 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1462   閲覧ユーザー数:1283

小劇場其ノ一

 

 皆様如何お過ごしでしょうか? 北郷一刀です。

 今回、俺は自分の家族が現れたことに対して、些かの戸惑いと、懐かしさや嬉しさやらが入り混じった心境です。

 霞と九頭竜の決戦の日までの間、俺の家族の護衛も兼ねてこの世界に一緒にやってきた男性二人は、しばらく敵方の動きを警戒していたが、ほとんどというか全然動く気配が無いので、少し肩の力が抜けているようだ。

 と言っても、まだ警戒をしているのは当然なんだけど、何と言うかこの世界と皆に慣れてきたと言うのが正しいんだと思う。

 俺としてはそっちの方が凄く助かっている。堅苦しい空気が苦手な面々もいるんだし、何より気負いすぎたらいざという時に適切な判断が出来なくなるかもしれないし。

 でも、そんな感じになったのは何よりも俺の家族の影響があると思う。とりわけ俺の母さんが。

 ヤナギさん曰く、“出逢って幾らも経たない内にあれほど好かれるのは素晴らしいです。北郷泉美様も、妹の北郷佳乃様も……”らしい。

 確かに、母さんも佳乃も皆にかなり気に入られてるみたいだった。俺と仲の良い兵士に至っては、“流石は北郷様の御家族だ……”と、誉めているんだか馬鹿にされているんだか分からない感想を言われたが。

 女同士だから話も合うんだろうと思っていたけど、どうやらそれだけじゃないようだ。そこらへんの詳しい事を母さんに訊こうとすると、それを訊くのは野暮だとか言われてはぐらかされたけど。

 

 そんな母さんがこの世界で何をやっているかというと、先生として教壇に立っている。

 あまりそうは見られないが、俺の家族の中では母さんが一番博学だったりする。

 何より人に物を教えるのが上手く、父さんと結婚する前にはアルバイトで家庭教師をやっていたらしいし、俺も佳乃もたまに学校の勉強を見てもらっていた。

 その能力はかなり凄い。宴会に出された料理で、あの桃香がかなり上手く、あの愛紗が少しの失敗で済んだ程度の、そしてあの白蓮がかなり美味しい料理を作れた事が、その高さを物語っている。

 ただ、普段の彼女達が作る料理の有り様を知っている人間は、“何か物足りない”とか、“違う意味で残念だ”とか言ってしまい、怒りを買うハメになった事は一応言っておく。

 話を戻そう。その素質が華琳の目に留まり、“こちらで色々と教えてみては如何でしょう?”と提案され、母さんは笑顔でその誘いを受けた。

 勿論母さんはこの世界の言葉を読めないから、助手として手の空いている軍師が一人と、護衛として何人か腕の立つ人間が就いてくれている。

 当初は“天の国からの先生”という事で、物珍しさから集まってくる人間が多くだったが、彼らは自分たちの考え方をすぐ改める事になった。

 母さんの教え方は、誰かさんのように特定の人間を贔屓にした偏った教え方ではなく、誠心誠意を信条にした優しく丁寧な教え方であった。

 目の当たりにした母さんのその能力の高さが民の間に次々と広まっていき、子供と接する事が好きなのもあってか、今では皆に慕われる大人気の先生になっている。

 という訳で、民に施す教養として、読み書きや簡単な計算を教える位ではあるけど、母さんは先生として活躍している。

 余談として、先程話題に上がった誰かさんに、“何で華琳さまから授かった役目を私から取り上げるのよ!?”と咎められて、俺が腹パンチを喰らった事はとりあえず言っておく。

 ちなみに、母さんは毎回教壇に上がる訳ではない。華琳がその誰かさんの事も考えて交代制にしているのだけど、その事は知らないようだ。

 民の人気を取られてイライラしているのもあるんだと思う。

 たぶん、華琳もこうなる事を予想して、敢えて伝えてないんだろうな……

 

 そんなある日、大広間の近くを通りかかると母さんの声が聞こえてきた。話す内容の感じから、何かを教えているような印象だった。

 変だな……母さんが教える場所は邑の中にあるし、何よりも今日は母さんの担当じゃなかったハズだ。

 中の様子を伺おうと入り口の方に向かうと、そこには廊下の柱に寄りかかって、大広間の中の様子を見ていたアキラさんがいた。

「何してるの? アキラさん」

「ああ、どうも。見て下さいよ、あれ……」

「あれって…………?」

 アキラさんが笑いながら、俺に中の様子を見るよう促した。それに従い大広間の中を覗くと、そこには確かに母さんがいて、予想通り何かを教えていた。

 しかし、母さんの目の前にいる生徒は子供達ではなかった。そこには桃香や愛紗、蓮華やあまつさえ華琳といった四人が顔を揃えて、椅子に座って筆を執り机の上で教えを請う体勢になっていた。

 それに加えて、母さんから距離をとってヤナギさんがその脇に立っている。

「……何やってんの?」

「皆さん、天の国の知識を学んでいるんすよ。主任はそのサポートとして。まあ、一般常識程度の物だけですがね」

「この世界で役に立つのかな?」

「ここだけの話、花嫁修業も兼ねているんですよ。天の国の料理や作法とかを習得して、いち早く認めてもらおうと……」

「そんなこと、母さんも俺もあんまり気にしないんだけどなー……」

「そこはホラ、麗しき乙女心ってヤツじゃないですか?」

 皆の邪魔にならないように、アキラさんとヒソヒソ声で話す。

「ちなみに、今は何を教えているの?」

「今は皆さんに、地球が丸いって事を教えています」

 その言葉を聞いてもう一度室内を確認する。なるほど、母さんの近くに置いてある小さな机の上に地球儀が置いてある。だけど……

「……大丈夫かな?」

「と言いますと?」

「前にその話を少ししたんだけど、皆冗談だと思って信じてくれなかったし……」

「そこはお母様の腕の見せ所、じゃないっすか?」

「ウーン…………」

 そう言われても心配だった。果たして皆納得してくれるだろうか…………

 不安な思いで、地球儀を回しながら説明している母さんを見つめる。

 

「お日様やお月様と同じように、私たちが今いるここも丸い形をしているの。ここが私たちの天の国、日本。そしてここから西に海を渡っていくと、皆の国に辿り着くのよ」

「うーん、そう言われても……」

「にわかには信じられません……我々の国がこのような形であるのも、自ら回転しているのも……」

「桃香ちゃんや愛紗ちゃんがそう思うのも無理は無いわね……これはこの時代にはまだ解らない事だから……」

「それにもし本当だとしたら、私達は何故放り出されたり、下の方へ落ちたりしないのですか?」

「良い質問ね、蓮華ちゃん。それはね、“引力”って力があるからなの」

「いんりょく?」

「そう、引きつける力って書いて引力。その字の通り、お互いに引きつける不思議な力の事よ。皆がカズ君を好きだと感じたり、カズ君が皆に魅力を感じたりして惹かれ合うのと同じようにね?」

「ハ、ハァ……///////」

「うーん、やっぱりすぐには解らないわよね……でもね、この地球が丸くて、引力が働いているって考えると、凄くロマンティックなのよ?」

「ろまんてっく?」

「ええと、“ロマンティック”っていうのは…………」

「抒情的、感傷的という事です」

「そう、それです。ありがとうございます、ヤナギさん」

「いえ、続きをどうぞ……」

「例えばの話だけど……皆が些細な事でカズ君と喧嘩しちゃって、本当はそんな事言いたくないのについつい強がって“お互いの顔も見たくない”って言ってしまって、背中合わせでお互いからどんどん離れていくとするでしょ? ……華琳ちゃん」

「はい」

「もし、この世界がずーっと真っ直ぐで平らだったら、カズ君との距離はどうなるかしら?」

「そのまま離れていきます」

「そうね。じゃあ、もしこの世界がこんな感じで丸かったら?」

「…………あっ!」

「解った?」

「一刀との距離は、一見すると離れているように見えますが、実はお互いに近付いてもいる……という事ですか?」

「そう!! 平らだとずっと遠ざかっていく……でもこんな風に丸いとね、どんなに遠くに離れていると思っていても二人の距離はずーっと同じなの。カズ君と皆との素直な気持ちが表されているようで、これって凄く素敵でしょ、桃香ちゃん?」

「ハ、ハイ……///////」

「二人は離れたいって口では言っても、本当はお互いを必要とし合っている……お互いに惹かれ合って近付いていってる、二人に“引力”があるからって考えたら、凄く不思議だけど納得いくと思わない、愛紗ちゃん?」

「ま、まあ、言われてみれば……///////」

「そんな二人を出逢わせたい、離すわけにはいかないから、地球も二人を落とさないように引きつけている……だからちゃんと出逢えている……なんて考えた方が夢があるでしょ、華琳ちゃん?」

「……面白い話ではありますね」

「でしょ? それとね、昼と夜ができる理由がね…………」

 

 

 そんな風に、母さんは次々と地球に関する知識を教えていった。仕組み云々はともかくとして、皆それぞれ理解はしているようだった。けど……

「俺を引き合いに出すのはなぁ……」

「何でですか? メチャメチャロマンティックじゃないっすか」

「冷静に考えればメチャメチャ恥ずかしいよ」

「そうっすかね?」

「あれって、教えてることになるのかな?」

「納得させる、説得力を生むのも一つの手法ですから、一概には悪いとは言えないっすよ」

 俺とアキラさんはヒソヒソ話しながら、母さんの話を真剣に聞いている四人を広間の入り口から眺めていた。

 

 

 

 

 おまけ

 

「お母様! 関係無い質問で申し訳ないんですが……」

「あら、蓮華ちゃん。構わないわよ。何かしら?」

「あの……お母様は、赤い糸の話を信じていますか?」

「あら、凄く女の子らしい話を知っているのね! カズ君から教えて貰ったの?」

「ハ、ハイ……///////」

「え? なになに、何の話?」

「赤い糸の話っていうのはね。自分が結ばれる運命の人の手の小指と、自分の手の小指は見えない赤い糸で結ばれて繋がっているっていう話なの。これは、由来は話して良いのかしら、ヤナギさん?」

「……まあ、問題は無いかと思います」

「ありがとうございます。これはね、皆の国の話が由来なの。今からずっと後に作られる話の中に、月下老人って神様がいてね…………」

(…………初めて聞いた)

(何故ご主人様は、私には教えて下さらないのだろうか…………)

(一刀……どうして蓮華には教えたのかしらね?)

 

「………………!!!?」

「どうしました?」

「な、何か、悪寒が……」

 

 

 

 

「……何故だろう。また出遅れて、残念だとか聞こえてくる」

 

 

-続く-


 
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