No.547604

『舞い踊る季節の中で』 第131話

うたまるさん

『真・恋姫無双』明命√の二次創作のSSです。

 首都成都での戦いが口火を切る中、一刀達はそっと陣地を抜け出す。
 街では無く、街を遠く囲む山に向かって。
 一刀の向う先とは、その真意とは?

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2013-02-23 00:14:13 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:6444   閲覧ユーザー数:4886

真・恋姫無双 二次創作小説 明命√

『 舞い踊る季節の中で 』 -群雄割拠編-

   第百三拾壱話 ~ そのもの白き衣を纏いて天より舞い踊り、地に天意を伝えん ~

 

 

(はじめに)

 キャラ崩壊や、セリフ間違いや、設定の違い、誤字脱字があると思いますが、温かい目で読んで下さると助

 かります。

 この話の一刀はチート性能です。 オリキャラがあります。 どうぞよろしくお願いします。

 

北郷一刀:

     姓 :北郷    名 :一刀   字 :なし    真名:なし(敢えて言うなら"一刀")

     武器:鉄扇(二つの鉄扇には、それぞれ"虚空"、"無風"と書かれている) & 普通の扇

       :鋼線(特殊繊維製)と対刃手袋(ただし曹魏との防衛戦で予備の糸を僅かに残して破損)

   習得技術:家事全般、舞踊(裏舞踊含む)、意匠を凝らした服の制作、天使の微笑み(本人は無自覚)

        気配り(乙女心以外)、超鈍感(乙女心に対してのみ)、食医、初級医術

        神の手のマッサージ(若い女性は危険です)、メイクアップアーティスト並みの化粧技術、

        

  (今後順次公開)

        

【最近の悩み】

 ……うーん、何でこんな事になったんだ?

 

「で、北郷よ。何故貴様が我等の誕生日を知る必要があったのだ」

「いやだから、俺は普段の感謝の気持ちを兼ねて、誕生日を祝おうと思って」

「一刀君、正直に言ってくださいね」

 

 誕生日プレゼントを何人かに渡した日から5日も経たないうちに、何故か冥琳や翡翠はおろか、呉の主要な人々の耳に届く事となり。

 

「シャオは、贈り物以外にも一日付合ってほしいなぁ」

「わ、私は別にシャオのようにそう言うものを、きょ、強要する訳では無いが、そ、その……」

「ああ、私は天の知識を纏めた書物でももらえれば、……じゅるり」

「そ、その私は、一刀様のお気持ちだけで、……その明命に悪いですし。 で、でも決して欲しくないと言っている訳では、そ、その……はぅぅ……」

 

 と言ってくるだけなら、まぁ妹も似たようなものだったしいいのだが……。

 

「情報源は大方予想がつくし、彼女の立場ならばそれは仕方ないと言えよう」

「女性の年齢を探るような無粋な真似は、天の世界では許されていた。

 なんて言い訳をまさかしませんよね」

「まぁワシくらいの歳になれば気にもしなくなるとは流石に言わぬが、……褒められた事では無いな。小僧(・・)

 

 と、何故かかなり御立腹の様子。

 ちなみに、むろんあっちの世界でも女性の……特に年上の人の年齢に関してはタブーだ。

 そもそもみんな勘違いしている。

 俺が七乃から教えられたのは、誕生月と上旬か中旬か下旬かと言う事だけだ。そもそも普段の生活では時間間隔が現代よりかなりいい加減なこの世界では、誕生日の正確な日にちと言うのはあまり重要性が無く、だいたいで知れる程度の事。

 だから冥琳や翡翠達が心配するような事は無いのだが、こう一度疑心暗鬼になった女性と言うのは、なかなか本当の事を言っても信じてもらえず。

 かと言って殆どばれているとはいえ、約束上七乃の名を出す訳にもいかず。

 混沌とした俺の執務室の雰囲気に気圧され、しどろもどろになる俺を七乃の何故か雪蓮は部屋の隅で楽しげに眺めている。

 くそー……アレは絶対俺が困っている様子を楽しんでいるな。

 

「一刀君、もう一度聞きます」

「だから、知っているのは誕生月だけだって」

「北郷よ。いっその事素直に吐いて楽になった方が良いと思わんか?」

 

 翡翠と冥琳の言葉に気力と力が抜け机に突っ伏す俺。

 ………なんで其処まで気にするかなぁ。其処まで気にされると逆に知りたくなるよ。

 もしかして俺が思っている以上に歳の差があるとか?

 いやいや、それは以上は想像するのも危険だ。なんと言うか命を天秤にかけるのと同意な気がする。

 頭の中に湧いた想いを慌てて頭を振って、頭の中からその選択肢を追い出す。

 好奇心は猫をも殺すって言うしな。

 あれ? こういう場合は君子危うきに近寄らずだっけ。

 とにかく俺がこの場で出来る事はただ一つ。

 

「本当に知らないし、他意はないんだ信じてくれっ」

 

 無実を晴らすのみ………本当、もう勘弁してください。

 俺が一体何をしたんだって言うんだよ……。

 

「くすくす、本当に此処は飽きませんね」

「そうよねぇ。何と言うか見ているだけで面白いわよね一刀って」

 

 尋問とも言える詰問の中、次第に思考力が無くなっていく俺の耳に、何処からともなくそんな楽しげな声が聞こえてくる。

 まさかこれを狙ってたとか言わないよな?

 がくっ……。

 

 

 

 

一刀視点:

 

 

 激しい攻防戦が今日も行われている。

 十メートルはある防壁の上から無慈悲に降り注ぐ矢。

 木の盾に身を縮こませて隠しながらも、矢の雨から身を守り必死に防壁へと梯子を上ろうとする兵士達。

 熱した油や熱湯を、文字通り雨のように頭上へと浴びせかけられて地面をのた打ち回る兵士。

 分厚い岩を積み重ねて築かれた防壁は、文字通りその内部に居る者達を守る揺るぎなき楯。

 巨大さを活かした頑強さの前には、防壁自身への攻撃は無意味。

 そして街の出入りする扉すらも、怖ろしく頑丈な岩戸で塞がれている。

 身の丈以上もある巨岩を易々と破壊する鈴々達の攻撃も。

 瞬間的な破壊力だけで言うなら、おそらくこの世界で最強であろう厳顔の轟天砲すらも単発では通じないし、それが最も脅威と成り得ると知っている敵も、厳顔への注意を怠る事は無い。

 防壁へかけた梯子をひっくり返され、地面へと背中から落ちる兵士。

 楯の隙間から矢がすり抜けたため絶命する兵士。

 ただ、一方的にやられてゆく劉備軍。

 それが覗いた望遠鏡の遥か先で繰り広げられていた光景。

 

「ふぅ……」

 

 傾斜の緩やかな山肌を、撫でるように山を駆け昇ってくる風に髪を揺らされながら、俺は望遠鏡をそっと降ろす。

 桃香達が弱い訳では無い。

 敵が一方的に強い訳ではない。

 それならばそれでやりようがある。

 相手を一言でいうならば厄介な敵。

 防壁を守る将兵は堅実で、己が仕事を徹底している。

 挑発に乗る事もなく。桃香達が敢えて隙を見せてみても、効果が少ない範囲では射かける事も無い。

 冷静に守りに徹し、策があろうと無かろうと、防衛する以上の行動をとらない。

 防衛側において基本となる事だが、それを徹底するのは軍と言う群れの中では実は一番難しい事だろう。

 それだけ冷静で兵士達にそれを成させれる程の将が、相手側にいると言う事なんだろう。

 明命から聞いている報告からして相手の防将はおそらく……。

 

「隊長、本当にこんな所からでも見えるんですか?」

「ああ、一応ぐらいにはね」

 

 僅かに連れてきた配下をまとめる小隊長の蒋欽(しょうきん)の言葉に、俺は腰の後ろのポーチにしまおうとしていたそれを彼女に手渡すと、三つ編みでまとめた長い髪を後ろに追いやりながら、初めて見る望遠鏡の中の光景に、すごいすごいと子供のように無邪気な表情を浮かべる様子に俺は苦笑を浮かべざるえない。

 見ている先に在る物の光景に燥いでいる訳では無く、遠くのものが近くに見える初めて体験する現象に燥いでいるだけなんだと。

 その証拠に興奮を抑えきれないものの、すでにその瞳は冷静に状況を見極めようとその緑の瞳の色を濃くしていた。

 

「昨日と変わらずと言った所ですね」

「まだ三日目だしね。でも情報が揃ってきたところだし、彼女達なら一月も在れば落とせるだろうね」

 

 断言するような俺の言葉に、蒋欽は驚きの表情を浮かべる。

 幾ら劉備軍が勢いに乗っているとはいえ、たった一月であの強固な守りを打ち崩す事が出来る等と言うのは、彼女の経験からしても無茶な事なんだろうと言う事が理解できる。

 だけどいくら無茶だろうと、それしか道が無いのならば彼女達はその道を必ず切り開いてみせるし、今の彼女達ならそれが出来ると俺も信じている。

 実際は兵糧などの問題もあり、それ以上はあまり時間をかけていられないという実情があるのだが、彼女達とてこの三日間を無駄に攻め込んでいた訳では無い。

 全ては相手の防壁を打ち崩す策を見極めるため。

 幾つもの駆け引きをしながら……。

 多くの命を散らしながら……。

 未来へと繋ぐ糸を辿り寄せる為に……。

 文字通り命懸けで情報を集めていたんだ。

 そして、其れすらも策の流れの一つでしかない。

 

「だからこそ利用できる………か」

 

 相手だって、桃香達が無駄に攻撃を嗾けているとは思っていない。

 思惑を見抜いているからこそ冷静に対応しているんだ。

 少しでも情報を渡すまいと冷静に、相手の動きを見逃さまいと集中して。

 攻防が激しくなれば激しくなるほど、その集中は研ぎ澄まされてゆく。

 そしてそれが廻りに広まって行く。

 緊張と集中は兵士達へと伝播し。

 不安と興味となって防壁内の街の住民へ。

 時が満ちた……か。

 

「………最低だな」

 

 つい零れてしまう愚痴を、蒋欽は聞こえない振りをしながら望遠鏡を俺に返してくれる。………んだけど。

 

「いや、自分でしまうから」

 

 と更に俺の言葉を聞こえない振りをして、何処か甲斐甲斐しい物腰で俺のウエストポーチへと望遠鏡をしまってくれる。やがてポーチへとしまい終えた彼女の離れ際に残された残り香に、つい頬が緩んでしまうのを首を振って無理やり振り払い。意識を遥か先にある戦場へと向ける。

 あそこでは、みんなが必死に戦っている。

 防壁内へと忍び込んだ明命達が息を殺して待っている。

 身軽な朱然達が持ち場に待機しているはず。

 丁奉達力自慢が出番を待ちうけている。

 

「俺が此処を発ったら直ぐに己が持ち場に戻れ」

「あ、あの、隊長を信じない訳では無いんですが、こんなもので本当に大丈夫なんですか?」

「大丈夫だよ。これで俺は『天の御遣い』を演じてくるだけさ」

「いえ、そう言う事じゃなくて」

 

 この世界の人間からしたら信じられない事を信じろと言うのは無茶だと理解している。

 だから、せめて今まで築いてきた信頼で、信じてもらうしかない。

 せめて彼女の心の中の不安を少しでも打ち消せるように俺は、笑顔を浮かべる。

 そんな事しかできないから……。

 笑顔で皆を安心させる事しか俺には思いつかないから……。

 今できる精一杯の笑顔を彼女に、そしてその向こうにいる皆に向ける

 

「大丈夫。俺を信じて」

「……ぁ」

 

 それでどれだけの不安を消す事か出来たのかは分からない。

 少しも不安を消す事なんてできなかったかもしれない。

 それでも彼女は半歩だけだけど、俺から身を離してくれる。

 俺が此処を発つのに邪魔にならない様に……。

 

「行ってくる」

「「「「「御武運を」」」」」

 

 背中を押すようにみんなの声が聞こえてくる。

 内緒にしてはいたけど、俺にとっても初めての体験を前にその声は凄くありがたかった。

 此処に居るのはほんの十数名だけど、きっとこの事を知っている皆の想いが籠った言葉。

 想いに背中を押されるように、俺は彼女がこんなもの呼ばわりした巨大な三角形のそれを手に岩肌を駆けはじめる。

 

 たったったったったっ。

 

 軽快な足音が響き渡る。

 そしてその音はすぐに不規則に間を空け始め。

 やがて……。来る。これだっ!

 

たっ!

 

 ひときわ大きな地を蹴る足音を最後に、俺の足音はもう聞こえなくなる。

 代わりに聞こえてくるのは、遥か後ろにいる皆の驚きと歓声の声。

 そして、びゅうびゅうと風を切る音。

 その音と共に俺は風を詠む。

 この身を器に……。

 大気を……。

 風を……。

 それに応えるかのように……。

 風は大空へと俺を舞い上げてゆく。

 まっすぐと、あの地へと運んでくれる。

 

「悪いな桃香。君達を利用させてもらう」

 

 

 

 

 

梅華(張任)視点:

 

 

「第二地区へ熱した油と共に火矢を放て」

「はっ」

「補給隊は第四地区へ岩を運べ、梯子など使い物にならないようにしてやるんだ」

「応っ」

 

 次々と仕掛けられる攻撃の波の中で、特別な対応の必要な所だけを敵軍の動きから読みとり指示を飛ばして行く。

 この戦で必要なのは守りに徹する事。

 近づく敵兵には矢を射掛け。

 防壁に取りつき梯子を上ってくる者達を矢狭間から矢なり長槍なりで叩き落す。

 必要とあれば先ほどのように指示をだし、兵士達が対応できる事態へと事を下げるだけの事。

 それだけで済む事で、必要なのは忍耐徳と冷静さ、そして集中力。

 間違っても敵の策に乗ってはいけないし、防衛以上の事をしない事を気を付けなければいけない。

 防衛戦において自軍の体勢を崩す事こそが一番憂慮すべき事であり、もっとも隙を突かれやすい時だから。

 

どごごーーーーーーーんっ!

 

「くっ!また性懲りも無く。

 中央第一地区、今度こそあの馬鹿力に熱した油を浴びせてやりなさい!

 第二地区、第三区は、門前に集中斉射っ!」

 

 街を大きく囲う防壁自身を揺るがしているのでは錯覚を覚えるほどの轟音と震動に、素早く指示を飛ばす。

 今迄に無い程の音と衝撃に心の臓が凍る思いをしようが、冷静に対処してみなければいけない。指示が…私が揺らげば、それは兵士達への揺らぎとなってしまう。

 そして私の気負いを余所に、兵士達は指示通り対処してくれたものの、其処には裏切り者の魏延も、身長の数倍はある長大な矛を持つ小娘も、身の丈以上もある巨大な戦斧を軽々と持つ女将も既に門から遠く離れ、射掛けた矢も後退しながら平気で叩き落とす姿が目に映る。

 くっ、此処二日間同じ事の繰返しと見せかけて、実は三人揃っての同時攻撃か。

 あれほどの膂力を持つ者がまさか三人もおるとは想像だに出来なかった。

 

「被害はっ!?」

「門を閉じる岩戸に罅を確認しましたが、まだ数撃は耐えれます」

「罅が入ったのか。なら罅の入った岩戸は破棄して敵の足場を乱してやれ。

 その隙に代わりの岩戸を上から落とせ」

「えっ? まだ耐えられますが」

「敵には厳顔がいる事を忘れるなっ。 現状でも十分に耐えられるだろうが、万が一がある。

 それに破棄した岩戸が、奴等の足場を乱す事にもなる」

「はっ」

 

 だが、今ので分かった。

 幾ら力自慢が揃おうと一撃やそこらでは門を被せるようにおかれた岩戸は破壊できない。

 今の連中も警戒すべきではあるが、真に警戒すべきは厳顔の持つ轟天砲のみ。

 その轟天砲すらも、同じ場所に撃ち込まなければ門を打ち破る事は出来ないし、出来ても穴を穿つ程度。

 大体それ程の精密射撃は、あの弓矢の特性上できない。…… 余程の時間をかけて狙わない限りね。

 だけどそんな時間を決して許したりはしない。

 

「当たらなくても嫌がらせ程度で構わない。厳顔への攻撃の手を緩めるな」

「「「「応っ」」」」

 

 かつて無い程に兵士達の連携が取れている。

 きっと感じているのだろう。

 そして噂を聞いているのだろう。

 劉璋様を蔑にしていた連中の事を。

 皆の想いが私の心と身体に満ちて行く中、数日前の出来事が脳裏に浮かぶ。

 

『貴様、どういうつもりだ。 我等にこんな事をしてただで済むと思っているのかっ!』

『どういうつもりも何も、私は私の職務を果たしているだけです。 敵軍が近づいている以上。防壁を閉じるのは軍部を預かる者として当然の事。 そしてその邪魔をしようとしてまで押し通ろうとした貴方達には、此処で大人しくしてもらうだけの事もまた当然と考えます』

『二人はともかく何で私まで』

『もののついでです』

『なっ、何よそれっ!』

 

 私の言葉に法正が金切り声をあげて文句を言ってくる。……だと言うのに彼女の髪と同じ深い漆黒の瞳は、彼女の心を表すかのように少しも揺らいではいない。

 実際、防衛のために閉じた門の前で騒いでいたのは張松と孟達の他には彼等についていた連中だけで、彼女自身は加わっていなかった。

 それが不気味だった。彼女だけは劉璋様を蔑にするにしろ張松と孟達とは違って見えた。

 富を貯め込むにしろ、冷酷な政治を民に押し付けた時も、その手段が何か目的があるように思えたからと言うのもあるけど……。

 

『まさか貴女とこう言う事になるとは思わなかったわ』

『そう? 私は貴女が私のする事を理解できるとは欠片も思ってもいなかったわ。昔からね』

 

 見下ろすような態度だと言うのに……。

 不遜な態度を取られているというのに……。

 彼女は横にいる二人とは違って見える。

 それが何なのかは分からない。

 それが悲しくなる。

 かつての親友の行動が分からない事が……。

 

『何にしろ、貴女には問いただしたい事があります』

『あら、軍部の貴方が私に? 答えれるような事があったかしら』

『馬一族から貴女が強引に預かった馬の事です』

『ああ、あれね。思った以上に高く売れたわよ。

 来年度の予算に劉璋様の御懸念していた潅漑工事を乗せれるほどにね』

 

 少しも悪ぶれもせず。劉璋様が受け入れると言った馬一族の馬を勝手に売り払ったと言い放ち、なおかつそれを劉璋様の懸念を払う為と言い訳をする。

 

『私は必要な事をしただけよ。

 信用の無い一族にあれほどの軍馬を多く持たす事の危険性。それが分からない貴女ではないでしょ?

 貴女がしないから、私が代わりにしてあげただけ。 きちんと劉璋様のお役に立てれるような形でね』

 

 口では彼女に敵わない。それは子供の頃から嫌と言う程分かっている事。

 そして彼女の言っている事は政治の世界においては正論であり。馬一族がいかに優れた一族で信義を厚い一族と謳われていようとも、所詮は国を追われてきた外様である事に違いは無く。

 この国で何の実績も誰かの後ろ盾も無い以上、彼女の論を打ち破る事は出来ない。

 だけど……。

 

『こんな時期に、何処の誰に売ったかを問いだしているつもりです』

『そんなの、売った商人次第じゃないの。私の知った事じゃないわ』

『心当たりは?』

『さぁね。私にそんな伝手がある訳ないじゃない。

 ただ確実に高く買ってくれそうな心当たりはいくつか教えておいたけどね。

 ふふっ、で、それを教えたら、此処から出してくれるっていうなら、考えても良いけど』

『いいえ、今回の一件が終わるまで貴女方にはこの屋敷で過ごしていただきます』

『ふーん、そう言う堅物な所を直さないと、この先守りたいモノも守れなくなるわよ。

 これ、何度目だっけ? 貴女に言うの』

 

 人を小馬鹿にするような口調と、からかう様な瞳の奥に、昔と変わらない法正の瞳が見えた気がした。

 唯その事が嬉しも、そして悲しくも感じ。 ただいまは何を言っても無駄と立ち去るしかなかった。戦を前にやるべき事は膨大。此処にこれ以上時間をかける理由もない。ただ大人しくしてくれればよいだけの事。

 既に街に広まりつつある噂が広がりきるまで……誰の仕業か、いつの間にか広まった噂が……。

 そう、私達はただ待てば良いだけ。

 敵軍の持ち時間を冷静に削ってやれば良いだけの事。

 噂が街中に広がるのを待てば良いだけの事。

 時が満ちるのを、只管冷静に、忍耐よく待つ事。

 そうして巡り巡って、やっと廻ってきた絶好の機会を決して逃さないようにする事。

 だから大きく息を吸う。

 皆の心を更に纏める為に……。

 

「見よっ! 敵は我等が結束力の前には無駄に足掻く事しかできない姿を。

 この戦、皆の集中を切らさねば我等の勝ちが揺る事は無いっ!

 これも全て我等が劉璋様の加護があっての事っ!」

 

 兵に、そして防壁の内で不安げに此方を見上げる民に、私は声高に宣言して見せる。

 単調な攻撃に皆の集中が切らし始める三日目だからこそ、意義のある言葉で皆の心を鼓舞する。

 他国の侵略が在ろうとも。

 裏切り者どもが出ようとも。

 我等が劉璋様の率いるこの国は、揺るぐ事は無いと。

 今こそ此処に……、そして天に示すべき時。

 心優しき劉璋様こそ、この地に収めるのに相応しい事を…。

 

「張将軍っ! 南東からっ」

 

 だというにも拘らず、今までにない緊迫した顔で部下が報告してくる。

 敵軍に何か新な動きが………見られない。そもそも方向が逆だ。

 敵軍に新たな援軍が現れたか? だが、あちらは急な傾斜と谷が在って、軍が侵攻しにくいはず。

 その証拠に街の南東側には敵影どころか、ただの荒れ地と幾つかの田畑が見えるのみ。

 

「いいえ、空っ、空ですっ! 空に人がっ!」

「貴様、まさか酒で酔っているのかっ!?」

 

 部下の夢見た報告に、私の拳が固く閉じられ細かく振るえるのが分かる。

 それでも、部下のあまりの驚愕と真剣な表情に、私は陽の光が眩しい空を見上げる。

 

「………なん……だ……あれは……?」

 

 自然と毀れる言葉。

 目に映っている物を理解してなお、頭と心がそれを受け入れずに強く拒絶する。

 それでも条件反射の域までに鍛えた武官である誇りと習いが現実を受け止めようとして、心と躰が相反した答えの鬩ぎ合いに硬直してしまう。……頭の中が真っ白になる。

 私だけではない。

 訓練された周りの兵士達も……。

 街から戦の様子を不安げに覗いていた民達も……。

 それどころか、此方に攻撃を仕掛けている劉備の兵達すら……。

 あまりにもあり得ない出来事に、その動きを止めてしまう。

 

 日の光を受け、眩き白き衣を身に纏いし人影。

 逆光の中、白き翼と共に大空を飛んでくる。

 そんなあり得ない出来事に……。

 神話の中でしか聞いた事が無い出来事に……。

 戦闘の最中にもかかわらず、誰もが手足を止め……。

 息を殺し……、音を殺し……。

 太陽の眩しさに眼を細めながら……。

 呆然と立ち尽くしてしまう。

 

「……天の……御遣………い……」

 

 誰が漏らしたのか、もはやそれすら分からない。

 ただ一時期巷で噂になった予言の名が、どこからともなく風と共に流れてゆくなか、それでもその夢の中の出来事のごとき人影は、どんどんと此方に近づき、やがてその顔形が判別するところまでになる。

 逆光の中でも判るほど、柔らかな笑みを湛えた青年。

 

「……ぁ」

 

 まるでその背にある太陽のような暖かな笑みを浮かべた青年の姿に、小さな声を漏らしてしまうと同時に、意識と思考が現実に引き戻される。

 あり得ない事ではなく。今、現実にある以上それが真実。

 ならば、あれは敵の策以外何者でもない。

 このような非現実的な事など、そうでなければありえない。

 

「射てっ!」

 

 全てを吹き飛ばすつもりで…。

 敵の策だと知らせるつもりで…。

 腹の底からあらん限りの力で叫ぶ。

 

 

 

一刀視点:

 

 初めて操る手製のハングライダーの操作に四苦八苦しながらも、何とか滑空し続けていられるのは、"氣"で強化した特殊な鋼線を張り巡らせているからなんだと言う事が分かるくらい、機体のあちこちからミシミシと嫌な音が、風切り音の中からでも聞こえてくる。

 それはそうだろう、所詮は木と竹と膠で強度を上げた白い布をワイヤーでは無く糸で張っているだけに過ぎないお粗末な代物で、本来ならばとうに空中分解していてもおかしくは無い。

 どちらにしろ一回持てば良いだけの代物に俺は命を預けているため、正直な所、気が気ではないが、危険を冒してでもやるだけの価値がこれにはある。

 やがて失墜しないかとハラハラしながらも街の上に辿り着き、目的地である防壁へと更に機体を寄せた時。

 

「射てっ!」

 

 赤い鎧を纏った少女の言葉が、静まった戦場中に響き渡ってゆく。

 彼女の立ち直りの早さに驚くと共に賞賛をするも、それが彼女だけでは何の意味無きこと。

 予想していた通り、誰も彼女の言葉に従うどころか戸惑うばかりで、誰もその手を動かすことはなかった。

 それはそうだろう。この時代……、いいやこの世界の人間にとって、大空は鳥と神の領域以外の何者でもない事は十分に予想していた。実際、朱然達も最初は信じてくれるどころか、心の病に掛かったのではと心配されたほどだ。

 それでも、以前に飛行機の事を話してあったのを明命達が思い出してくれたため、信じて貰えただけに過ぎない。 それぐらい人が空を飛ぶと言うことは、この世界の住人にとってあり得ない出来事。

 だからこそ、俺は彼女の声に驚くも防壁まで辿り着ける事に疑いを持たない。

 其処までの衝撃が無ければ、この策自体が成り立たなくなるし、実行しようと最初から思わない。

 舞台は出来ている以上は演じるんだろ。北郷一刀。

 ならば躊躇うな。

 

ふわっ。

 

 防壁のすぐ手前で、機体から手を離すと共に鋼線で機体と身体を結び付けていた糸を切り離す。

 そうして得た浮遊感は一瞬の出来事。後に残るは、機体の速度と共に流れるように落下するだけ。

 そう、まっすぐと防壁の上に佇む兵士達へ、俺は身一つで足から滑空して行く。

 

「「ぐはっ」」

「「うぺっ」」

 

 幾つもの衝撃と共に聞こえる哀れな人達の叫び声と、肉と骨を潰す嫌な感触が俺を襲う。

 すまない。そう心の中で一瞬謝りつつも、大怪我には違いないが、死ぬほどでもない状態である事に、小さく安堵する。

 そんな事を心配する資格はもう俺には無いかもしれない。

 だけど、それを捨ててはいけないと俺は、多くの人達に教えてもらった。

 明命に翡翠だけじゃない。雪蓮にも、穏にも、賀斉さんにも、そして多くの仲間にも……。

 だから俺は俺のまま、戦場に立つんだ。

 そして舞って見せる。

 

「俺は天の御遣い北郷一刀。

 この地に住みし者達よ。下がるがいい。

 そして受け入れるがいい。君達の新たな王を」

 

 突然の出来事に……。

 空を飛来してきた俺の言葉に……。

 周りの兵士達は、誰一人動けないでいる。

 ただ、硬直しているだけ。

 今はまだ……それだけの事だ。

 そして、俺の考えを示すかのように……。

 

「何をしている捉えろっ! 天を詐称する逆賊ぞっ!」

 

 先程の真紅の鎧と衣を身に付けた少女が、声高に命令をする。

 ほとんど反射的なのだろう。俺の周りの兵士達はその声に反応してか俺に不用意に近づいてしまう。

 まだ硬直した体のままで……。

 何も考えずに、ただの鍛えてきた反射行動として……。

 

「ごっ!」

「……っ!」

「ぎぅ…っ!」

 

 だけどそんな状態では俺に利用してくれと言うだけの事。

 固い動きと思考では、俺が何をしたかすらきっと彼等は理解できなかっただろう。

 『空気投げ』ぞくにそう呼ばれているそれは柔道だけでは無く、合気道や古武術の中で幾つか存在し。

 当然のことながら北郷流裏舞踊にもそれは存在する。

 

「聞こえなかったか。

 俺は武器を置いて下がれと言ったんだ」

 

 今度は俺から、足をゆったりと進める。

 心は空に、手には鉄扇を、そして想いを胸に、

 狭い城壁の上で俺は舞う。

 

「…ぉぅ」

「…ぐぅ」

「がはっ」

 

 ゆったりとした足取りに見せながら、敵の間合いに入るなり先程と同じ要領で、敵兵士達を地面へと叩きつけてゆく。

 ある者は鉄扇に足を掬われ。

 または、間合いの虚を利用され重心を崩した所を押され。

 鉄扇の動きに惑わされた隙を突かれ。

 兵士達は次々と地面へと寝転がる。

 誰も起き上がってはこれない。

 それは当然だ。まだ彼等は、先程の出来事に心を奪われ、事態の展開についていけずにいる。

 緊張した心と身体では受け身など取れる筈も無く、固い石畳に叩きつけられたんだ。

 誰一人死んではいないが、直ぐに動ける状態でもない。

 そう、誰一人死なす訳にはいかない。

 そうでなければ、天の御遣いを此処で演じる意味が半減してしまう。

 殺さない事による不可解さ、それが今は重要なんだ。

 心の中から敵だと断言さない事が。

 天の御遣いだと思わせる事が。

 

「君達を傷つける事を望んでいない。

 俺はただ天意を伝えに来ただけだ。

 今一度言う。下がれ」

 

 だから俺は舞う。

 誰一人殺さぬように……。

 すぐに起き上って来れぬように……。

 彼等にとって不思議な技で圧倒的な力を見せる様に……。

 『天の御遣い』と言う名の舞いを……。

 

「どけっ!」

きんっ!

 

 数十人目を地面に投げ飛ばすと共に、少女の声が剣と共に俺を襲う。

 長い茶色の髪を高く結わえた少女は、その瞳に戸惑いを欠片も見せる事なく剣を振るってきた。

 それは彼女の強さと言うより決意の強さ。

 彼女はこの戦に並々ならない強い想いがある。そうたしかに感じさせられる程の一撃。

 鉄扇を斜めに掬い上げるようにしてその攻撃を弾いたものの、まともに撃ち合えば俺なんか一溜りも無いだろうな。

 だけどそれはいつもと変わらない。

 ならばそう言うものなのだと受け入れるまでのこと。

 身体的能力が圧倒的に劣っている事実。不利と言う名の弱点を逆に武器にして舞うだけ。

 ()では無く()だからこそ成り立つ非常識。

 暗闇の中での綱渡りのような行為だからこそ、未来への活路があるんだ。

 それに彼女が此方に乗って来たのは、俺達にとっても都合が良い。

 

「そう、ならば次は君と舞うとしよう」

 

 だから舞う。

 彼女と共に剣戟の舞いを……。

 なるべく緩やかに、そして優雅に……。

 彼女を舞いの相手へと貶める……。

 この舞台を兵士達に……。

 この地に住む全ての人達に魅せるように……。

 『天の御遣い』が舞い降りたという舞いを……。

 何故なら、もう俺の目的は此れですんだから……。

 後は、ただの時間稼ぎでしかないのだから……。

 彼女と共に舞い続けて行く。

 何処までも……。

 世界を巻き込んで……。

 

ドンドンドンドンッ!!

 

 轟音と共に防壁の上の地面が確かに揺れるが、その一瞬前に俺は後ろへと飛び下がる。

 これを待っていた。彼女なら必ずこの機会を逃す訳ないと信じていた。

 

「なっ! なんだと……ま、まさかっ」

「張将軍、今の攻撃で岩戸どころか門の付け根までやられましたっ!」

「まだだ。まだ門が破られたわけじゃない。 厳顔に…、奴らに次の手を打たせるなっ!」

 

 でもそれは、止まっていた時間が動き出した事を示す合図。

 俺がこの戦に対して(・・・・・)出来る事など、所詮は奇策による時間稼ぎ程度。

 彼女…、張任の目線の先に見えるのは、着物が捲れるのも構わず、地面にあおむけに寝転がりながら大股開きで轟天砲の銃身を力ずくで押さえつけながら狙いを定める厳顔の姿。

 

ドンドンドンドンッ!!

 

 そして轟音と震動が再び防壁を襲う。

 今ので二カ所。 あと最低でも二ヵ所を破壊する必要があるが、それを彼女達が許す訳がない。

 張任の命じるままに、再び兵士として動き出す弓兵達の動きに、この先は自力で何とかしてくれよ。と祈りながら更に後ろへと下がるも、もう少しだけ時間は稼いでやれる。

 思惑通りに俺の動きに気がついた張任は再び声をあげる。

 今度は数で押せと、狭い城壁の上ならば数で押せば動きが取れなくなると。

 ああ、その通りだ。 幾ら俺でも、そうなったら手も足も出なくなる。

 だが、俺が其れを予想しなかったと思うか?

 

「明命っ!朱然っ!」

 

 俺はどこへともなしに真っ直ぐと張任を見つめたまま叫ぶ。

 彼女達を信じて。

 

「一刀さん」

 

 きっと俺の姿が見えると共に街の中を駆けてきたのだろう。

 息を切らしながらも、防壁の内側を攀じ登ってきた明命と彼女と共に街の中で身を潜めていた数人の仲間が俺の前に躍り出てくれる。

 そして…。

 

「やってくれましたな。北郷殿っ!」

「へっ?」

 

 防壁の表側からは、丁奉達力自慢達が厳顔の轟天砲が奏でる轟音を隠れ蓑にして放った投槍を防壁へと撃ち込み、即席の足場として身軽さを活かして飛び上がって来たのは何故か朱然達ではなく、黒髪を靡かせながらも激しくお怒りの御様子の愛紗。

 それでも俺の前に背中を向けて立ってくれた事に……。

 信頼の証とも言える力強い背中に嬉しさを感じかけた時。

 

「後でじっくりと話を聞かせてもらいます」

「……うっ」

 

 やっぱり。そう言う事になるのね。

 仕方ないと覚悟はしていた事とはいえ、やはりあらためて言われると呻いてしまう。

 それはそうと朱然達は?とそう思った時。やっと姿を現した朱然達が俺の横に付くなり、彼女は愛紗に喰いつくように……。

 

「人の頭を踏み台にして行くなんて、酷いじゃないですかっ!」

「ふん、何時かつまらぬ噂でおちょくってくれた借りを返したまでの事。

 なんなら実力で返した方が良かったか?」

「うぅっ……」

 

 ……なるほど、事態を察した愛紗が準備万全にしていた朱然より先に動いた結果、朱然は防壁へと飛び移ろうとした所を踏み台にされたと言う訳か。

 この場合、朱然の未熟さを責めるのは流石に相手が相手だけに可哀相だな。

 朱然達の他にも、あと数人登ってくるはずだったけど、流石に時間切れだったのか、足場とした投槍自身が持たなかったのかもしれない、劉璋軍は其処まで甘い相手では無いからね。

 どちらにしろ、愛紗ならば来れなかった数人以上の働きを楽にしてくれる。

 ならば、あとはこの場を生き残る事を考えるのみ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

あとがき みたいなもの

 

 

 こんにちは、うたまるです。

 第百三拾壱話 ~ そのもの白き衣を纏いて天より舞い踊り、地に天意を伝えん ~ を此処にお送りしました。

 

 とうとう益州攻略、最終決戦の火蓋が切られました。

 黙って劉備軍の予定していた策を打ち崩して、天の御遣いを演じた真意は謎のままにして、次回はまた別の視点でこの話の続きを、我等がお姉様であられるあのお方と他数名で描きたいと思います。

 今回のインスパイヤ元となったのは、いつも大変お世話になっている金髪のグゥレイトゥ!様の張任さんです。愛紗と同様委員長気質な健気な娘です。次回で繰り広げられる真の野委員長対決っ!(違w と、さておき、氏の描く劉璋さんが新たに書き直され、以前とはかなり違うものになってしまいましたが、今回の劉璋さんもとてもかわいらしく、色々想像が膨らむものです。 いったい何が彼女をあそこまで変貌させたのか? やはり某種馬のせいなのか? 無自覚犯罪者こと某主人公が原因なのか?(まてw

 

 

 では、頑張って書きますので、どうか最期までお付き合いの程、お願いいたします。


 
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