~秀吉SIDE~
「明久の中にいる五十嵐久遠は……3年前に死んでいる」
(遂に、ワシら以外に久遠のことを話すことになってしまったか……)
経久の言った言葉に耳をかたむけながら、そんなことを思っていた。
聞いているワシらはその場にいてもたってもいられなかったが、そのことを話している経久はもっと辛いはずじゃろう。
ならば逃げる、話を聞かない、なんて選択肢はあり得ないのじゃ。
(それに、のぅ……)
横にいる姉上を見てみると体は震え、顔は真っ青で、今にも倒れそうだった。
そんな状態でも、きちんと話を聞いている、聞こうと頑張っている。
なら、自分だけ逃げるわけにはいかない、そう決心し、経久の話に集中した―――――。
~経久SIDE~
俺は昔のことを思い出しながら、3人に話していた。
「それは、突然起こったんだ」
そう、本当に何の前触れもなく、久遠は死んだんだ……。
-3年前-
「兄さん、久遠! 早く帰ろーっ!」
「おい、待てよ明久!」
「相変わらず元気だなー、明久は」
俺と明久と久遠はいつも仲が良く、登下校するときも一緒、遊ぶ時も一緒だったんだ。
まぁ、たまに秀吉や優子、雄二や翔子と一緒だったんだが……。
そんなある日の放課後、俺と久遠が明久のいるクラスに行った時だった。
「あれ? 明久がいねぇ」
「今日は何の用事もないって言ってたんだけど……」
教室に明久がいなく、鞄が机の上に置かれていた。
そんな俺達に気がついたのか、ある女子生徒が近づいてきて、こう言ったのだ。
「明久君なら、塚原達に連れて行かれたわよ?」
「「は!?」」
塚原……その男子生徒は普段万引きをしたりしており、授業にも参加しない、校内最悪な不良生徒だった。
そんな奴らに連れて行かれたということは、人質として連れて行かれたのだろう。
そして明久を人質にしたのなら、そいつらが本当に用があるのは俺か久遠、そのどちらかしかなかった。
「明久を連れて行った、なぁ……」
「どうやらあいつら、痛い目見ないとわからねぇみたいだな……」
この時の俺達は、塚原をぶっ殺すことしか頭になかった。
もっと冷静に考えて行動していれば、あんなことにはならなかったはずなのに……。
女子生徒に連れて行かれた場所を聞いて、すぐさまその場所、体育館裏の倉庫に向かった。
俺達は扉に耳をくっつけ、頑張って向こうの会話を聞いていた。
『塚原君、君は何をやりたいの?』
『決まってんだろ? 吉井経久と五十嵐久遠に復讐してやりたいのさ!』
『なんで君があの2人に復讐したいのかわからないけどさ……こんなやり方、最低だよね。卑怯と言ってもいい』
『どうとでも言いやがれ。お前は今、何もできない状態なんだからな』
『そう。じゃあ言わせてもらうよ。僕は今まで最低な人間をたくさん見てきた。だけど君は度を超えている、超えすぎている。
復讐? そんなのただの言葉合わせで、本当は僕を人質にして2人をぶん殴ってやりたい、そう思っているだけじゃないか。そんなの、弱者がやることだよ。もっと正々堂々戦って――――――』
『いい加減黙れぇっ!!』
バキッ!
『……っ、ガハッ!』
『もうぶち切れた……。人質だからってなにもされないと思うなよ!』
この会話を聞いて、あの効果音の正体がわかった。
あれは……明久が塚原に殴られたんだ。
そう理解した時、俺と久遠は頑丈にしてあってであろう扉を蹴り飛ばした。
ドッゴォォォォン!
『んなぁっ!?』
「え……兄さん、久遠……?」
明久達は今の出来事に驚いていたが、その隙に塚原の仲間をどんどん倒していった。
塚原は八ッとして周りを見渡したが、時すでに遅し。
残るは塚原と仲間10人程度しかいなかった。
「さぁて塚原……カクゴハイイヨナァ?」
「ヒッ!? だ、誰か、助けてくれぇぇぇぇぇ!!」
しかし助ける人は誰もおらず、呆然と見ているだけ……そうなるはずだった。
「く、くそぉぉぉぉぉっ!!」
「!?」
ただ1人、ナイフを手に持って明久の方へ走り出した。
その反応に遅れた明久は無防備で、ただナイフがくることを見ていることしかできなかった。
グサァッ!
ナイフは明久に刺さったとみんな思っていた。しかし実際刺さっていたのは……
「嘘……でしょ……?」
――――――口から血を吐きながら明久の目の前で倒れた、まぎれもない久遠だった。
「僕の、せいだ……。僕のせいで……うああ、うあああああああああ!!!!!」
そしてこんな現場を目の当たりにしたことがなかった明久にとって、心が壊れてしまうには十分だった。
明久は絶叫すると、そのまま意識を失ってしまった。
そして久遠を指した張本人は、この場から逃げようとしていた。
(ニガサナイ……ニガシテタマルカ!!!)
俺がそいつを捕まえようと走り出した、その瞬間、
「がぁぁぁぁぁっ!」
そいつがいきなり吹っ飛び、壁に激突した。
しばらく俺達は呆然としていたが、蹴ったであろう人物がそいつに近づいた。
その人物は、先ほど意識を失った明久だった。
しかし明久の行動、オーラ全てに違和感があり、最終的には言葉使いも変わっていた。
「二度と
「わ、わかりました! わかりましたから命だけは!」
「ならさっさとされ、屑が」
「はぃぃぃ!!??」
そしてそいつは颯爽と去って行った。
そして今度は塚原達の方を睨みつけ、どすを聞かせながら言った。
「テメェらもだ……それか、今ここで死にたいか?」
『う、うわぁぁぁぁ!!』
塚原達も去っていき、倉庫には俺と明久と……久遠の死体しかなかった。
俺は覚悟を決め、明久……いや、
「お前は一体……誰なんだ?」
すると、予想もしていなかった答えが返ってきた。
「俺は……『五十嵐久遠』だ」
-現在-
「……というわけだ」
この話を聞いた3人は、それぞれ違う表情を見せた。
姫路は顔を真っ青にしていて、島田は堪えきれなかったのか泣いており、土屋は何か言葉を探すようにただ俯いていた。
それを見て俺はあえて明るくふるまった。
「ま、なんで明久に乗り移ることができたのかわからないがそれぞれ元気にやってるんだ、あんまり気にすんなよ。……だが、誰にも話すな」
俺がそう言うと、3人は頷いた。それを見て、いつの間にか雄二が持ってきてくれていた鞄に手をかけた。
「そんじゃ、帰ろーぜ。雄二、秀吉、優子」
「そうだな」
「それじゃあ姫路達よ、また明日なのじゃ」
「あ、はい、さようなら……」
そして俺達は帰路へとついた。しかし誰も言葉を発することはなく、別れる時しか口を開けなかった……。
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今回はシリアスが入ります。
そして若干長いので省略してあります。