第2話 月夜に踊れ、かぐや姫
2038年7月半ば、夏休みには僅かに早い日曜日。都内の工業高等専門学校に通う彼は、後一歩に迫った夏休みに思いを馳せつつも、当然の如く出される学校の課題と格闘していた。彼の相棒の一姫もまた、日曜日特有の気だるさに身を任せながらディスプレイの上に腰掛けていた。
そんな彼女にふと浮かぶ疑問。大した疑問でも無いが気にすれば気になる。その答えを持っている奴は、今目の前に居るのだから聞けばいい。
ねぇ何故アタシは・・・
その答えに、彼女は自分の理想の姿を見出す。
武装神姫 Original Rondo 巡る想い、変わらぬ願い~欠けては満ちる月模様~
第二話 月夜に踊れ、かぐや姫
始まります。
第2話 月夜に踊れ、かぐや姫
彼女の朝は割と早い。少なくとも彼女のマスターよりはずっと。
「いいオンナってのはたやすく寝顔を見せないものよ。」
彼女の自論だそうだ。そして彼女の自論は"いいオンナ"をキーワードに語られる事が多い。
彼女はPCデスクに置かれたクレイドルから立ち上ると、傍にあるスタンドミラーを姿見にして身だしなみをチェックする。
「アイツもこれ(鏡)見て少しは身だしなみに気を・・・使うわけ無いわね。」
月草色のツインテールをなびかせながらスタンドミラーの前で身を翻し、PCデスクから飛び降りる。デスクの前に敷かれた布団でタオルケットが規則正しく上下している。その枕元に降り立ち覗き込む。
「まったく幸せそうなアホ面で寝てるわねぇ。」
ひどい言われようだ。オーナー名に恥じぬ見事な寝顔と言ってやるべきである。ともかく、彼女はそう言うと彼の顔に手を伸ばした。
彼が目を覚まして体を起こす。
「う~ん、なんか鼻の頭がカユイ気がする。」
「知らないわよ、なんかついてんじゃない?顔洗ってご飯食べて来れば?」
「なんか釈然としないがその通りだな。飯食ってこよう。」
朝食を済ませ、何となくけだるい日曜の午前中。彼が学校の課題であるプログラムと格闘している傍ら、彼女は紅い瞳で見るとは無しに彼を眺めていた。
「・・・何故月なの?」
「ハッ?」
「名前よ。」
「あぁ、それは・・・。」
それは、彼女が彼、万年睡眠不足の部屋で初回起動した日に遡る。
「うっぅ~ん。」
「お目覚めかな?かぐや姫。じゃっ儀式と行きますか。」
「ハ?ちょっと話しに着いていけないんだけど。」
「諦めろ。」
「大丈夫だよ、別に痛いとか辛いとかじゃないから。」
「はいはい、準備準備。記念すべきデビューSSだよん。」
「ちょっちょっと。」
こうして彼女は、先に起動していた二姫により、当人そっちのけで装備を纏わされていく。その間、マスターである彼はというと椅子ごと後ろを向いて目を閉じている。
「女性の着替えを覗くもんじゃないだろ?」
という事だそうだ。仮にまじまじと眺めていようものなら、大絶賛着せ替えお楽しみ中の二姫から総攻撃を受ける事請け合いである。
「はいっ、オッケー。」
「ふむ、なかなかに凛々しいではないか。」
「起動したての新人に対して嵐のような歓迎だったわね。」
「振り向いてOK?」
「うん大丈夫だよ。」
「どりどり・・・ふみゅ。」
「派手に着替えさせた割には随分と淡白なリアクションね。」
「まぁ主殿にしてみれば、事前にジオスタであれだけ準備をしていたんだ。然もありなん。」
「・・・いや、イメージ通りの姿で実際に動いてるのを見ると若干感動が。」
「あっ、あぁそう。っで、儀式って?」
「おうよ、クレイドルに立ってくれる?」
「こう?」
クレイドルを通じて、PC上で起動しているジオラマスタジオに装備情報が送られる。
「おっけー、後は俺の腕の見せ所やね。」
そう言うとディスプレイに向かい黙々と作業を進めていく。
1時間程経っただろうか。
「おっし、投稿。」
「ちょっと!!いきなり投稿するの?アタシのSSなんでしょ?アタシに最初に見せるのが筋じゃないの?」
「むぅそれもそうか、ちょい待ち。今用意するから。」
さらに待つ事10分弱。
「ほいっ、こんなんでどうよ?」
異形の娘
武神の姫巫女
未だ名の無き月夜の申し子よ
授名をもって汝は汝に再誕す
授かりし名は主と汝の絆を契る
汝は其の名の体現
其の名は汝の力の源にして汝を縛る原初の鎖
聴けよ汝
月光の舞姫
月読の姫巫女
月鎌(げつれん)翳す戦女神
星屑の花弁を纏う者
孤月の絶刀
星灯りの氷爪
虚空穿つ光撃の奔流
闇夜の衣を鎧う者
今ここに新たなる名を宿し再誕せん。
己が内より湧き出る聲に魂を委ね
応えよ其は何ぞ
「アタシは月夜の申し子・・・アタシの名は姫月 華倶夜 (ヒヅキ カグヤ)」
「お気に召して頂けましたか?華倶夜姫。」
「・・・まっまぁいいんじゃない?アンタあっちの二姫にも?」
「んにゃ、片方には恥ずかしいからと固辞された。・・・ので以降問答無用でやる事にした。」
「・・・成る程、私の時もえらく張り切っていた姉貴分が居たが、当人はやっていないのか。」
「おう、固辞されたからな。」
「えっ?えぇぇぇぇっ?なんでこっちに振るかなぁ~。」
「今、一番張り切ってたわよね?」
「自分の時には固辞したのにな。」
「もっもう!!マスターもそればっかり!!」
何はともあれ、この日、この儀式で彼女は”姫月 華倶夜”として"定義"された。
思い出すように彼は目を細めるて語る。
「太陽はさ、眩し過ぎるだろ?見続けると目が潰れるべ?、傍に置いておいたら焼け死んじゃうって。」
「そうじゃなくて。」
「単に好きなんだよ、月が。冷たくて、鋭くて、温かくて、柔らかくて、紅くて、蒼い。妖しい感じがするだろ?」
「それが何でアタシなの?」
「ファーストインプレッション・・・かな?初めて悪魔型を弄った時に、"妖しく美しく艶やかにありたい"そんな風に訴えられた気がした。似合うと思ったんだよ。魅入られたのかもな?"月"と"悪魔"に。だからお前はそのお姫様かなって。」
「フフン成る程ね、大好きな"月"を愛しいアタシに当てはめた訳ね。」
「んな事は一言も言っとらん。」
「ボディが騎士型ってのも拘りの一端ってとこかしら。オーケー、この名に恥じない"いいオンナ"になってあげるわ、マスターの願いを宿す神姫らしくね。」
「・・・うむぅ、まぁ望むところではあるが何か引っかかるな。」
「いいのよ?惚れて。」
「アホゥ。」
部屋の明かりが落ち、部屋の主もまた深い眠りに落ちていた。閉め忘れたカーテンの向こう、欠け行く月の光を浴びる神姫が一姫。
「・・・いいのよ?惚れて。・・・魅入られ、狂うがいいわ、アタシに・・・。」
しなやかな肢体
闇の羽衣纏い
靡く月草色の長い髪
月光照らす舞台に踊る
「・・・叶えてあげる、願いも、欲望も、全部・・・アタシが・・・フフフ・・・。」
この夜、月の姫君は己の輝きの意味を己で定義し直した。何処までも傲慢に、己の照らしたい者だけを照らす月へと・・・。
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武装神姫 OriginalRondo
巡る想い、変わらぬ願い〜欠けては満ちる月模様〜
月待 紡(つきまち つむぐ)と彼の武装神姫達の始まりの物語。