真・恋姫無双 黒天編“創始” 外史を終結させるために少女は弓を引く
第1章 夏の思い出 後編
咲蘭は目的のフードコートはすぐに見つけることができた。
しかし、お昼時ということもありフードコートは人であふれかえっていた。
その中から咲蘭は、一刀たちの姿をさがす。
もともと設置されていたであろう茶色のテーブルと椅子の他に、臨時で真新しい白いテーブルとイスも設置され、フードコートの規模はさらに拡大されていた。
咲蘭はあたりをキョロキョロしつつ、ちょっとした不安感に襲われていた。
すると、手に握りしめていた携帯が突然震えだした。
画面を見てみると、一刀からの着信だった。
「もしもし、お兄ちゃん?」
「フードコートには着いたか?」
「着いたんだけど、人が多くて・・・どのお店の近くのテーブルなの?」
「えっと・・・クレープ屋の前の白いテーブルだ。かなりでかいテーブルだからクレープ屋の前まで着たらすぐ分かると思う」
「分かったよ。待っててね」
咲蘭は一刀と会話をしながら一刀が言うクレープ屋をさがすと、難なく見つけることができた。
人込みをかき分けかき分けしつつ進むと、クレープ屋の前に着くまでもなく一刀たちの姿を見つけることができた。
一刀たちが腰かけていたのは8人掛けのかなり大きい丸テーブルで、一刀が座っている右側に及川、左側には順に斗詩、猪々子、麗羽、白蓮が座っていた。
「ごめんね。待たせちゃったよね」
「いや、全然。麗羽たちは今来たとこだし、オレと斗詩もそんなに待ってないから」
「オレは結構待ったんやけどな~。席どりさせられてさ~~」
「お前何も仕事ないじゃないか・・・これくらいやれよ・・・」
席は及川の隣と白蓮の隣が並んで空いていた。
咲蘭は全く迷うことなく、白蓮の隣へと腰をおろす。
「なんや、咲蘭ちゃん。俺の隣座ったらええのに~~」
咲蘭はその及川の言葉に愛想笑いを浮かべつつ、及川の隣の空いた席に荷物をドンと置いた。
「座る気はないってことね・・・」
「でも、待ってもらっちゃってすいません。先に食べておいても良かったのに・・・」
「何言ってんだよ。みんなで食べたほうが絶対うまいって、なっ!斗詩」
「そうだよね。えっと、さっき自己紹介できなかったからここで改めて自己紹介するね。私は斗詩っていいます。生徒会の書記をやっています」
「あたしは猪々子。役職はないけど生徒会役員やってんだ。よろしくな」
「わたくしはこの学校の生徒会長を務めてます麗羽と申します。あなたがフランチェスカに来ることを心からお待ちしておりますわ。お~っほっほっほ」
「私は咲蘭って言います。お兄ちゃんの妹です」
「でも、初耳ですわ。一刀さんに妹さんがいらっしゃったなんて」
「まぁ、話す機会もなかったしな。さてっと、全員そろったことだし、そろそろ飯にしようか」
「よっしゃっ!!オープンキャンパス限定品まだ残ってっかな~~」
及川は勢いよく立ち上がると、そのまま一目散に人ごみの中へと消えていった。
「わたくしたちも行きましょう。猪々子と白蓮さん、一緒に来てもらえません?7人分のプディングを持ってこないといけませんので。斗詩さんはそのまま席どりをお願いします」
「わかった」
「ほ~い。ついでに斗詩の飯も買ってきてやるよ。いつものでいいか?」
「うん、お願いね」
麗羽が立ち上がると白蓮達もそれについていき、猪々子は後ろ手に手を振った。
「んじゃ、お兄ちゃんの分は私が買ってくるね」
「いやいや、お前はここで斗詩と座って待ってな。俺の方がフードコートについては詳しいし、一緒に行くと斗詩が一人になるしな。何がいい?」
「えっ・・・、それじゃ・・・パスタ系で」
「オッケー!」
そう言って、一刀はテーブルにおいていた黒色の長財布を手にとって、人ごみへと消えていった。
その場には斗詩と咲蘭が残された。
「フランチェスカ以外にはどこを考えてるの?やっぱり地元の高校?」
「いえ、正直ここ以外考えてないです」
「へ~、ということは専願でここ受けるんだね。勉強も進んでる?」
斗詩が会話をリードしつつ、咲蘭がそれに答える。
8人がけのテーブルで二人の会話は途切れることはなく、初対面とは思えないほど和やかなムードになっていた。
斗詩の性格の良さはその言葉使いや雰囲気から咲蘭へ十分に伝わってきた。
(ちょっと探りを入れてみようかな・・・)
そう感じ取った咲蘭は、学校の話から突然一刀の話へと切り替えた。
「斗詩さん、お兄ちゃんとはどうして知り合ったんですか?」
「えっ?一刀さんとはたしか文ちゃん・・・猪々子が風邪で生徒会を休んだことがあって、その代理で来た時に知り合ったんだよ」
「それだけですか?」
「本当はその一回だけ出席して、猪々子にその時の資料を渡してくれたらそれで終わりだったんだけどね。一刀さんがこれからも手伝いをさせてくれないかって言ってくれたんだ。会議の時もとても参考になる意見言ってくれてたから、麗羽様も助かるって言ってそのまま甘えちゃってるの。それからの付き合いかな」
「へぇ・・・そうなんですか。お兄ちゃん、関わったら最後まで付き合わないと気が済まない性格ですからね」
「一刀さんが生徒会のお手伝いしてくれるようになってから、仕事もスムーズに進むようになったし、雰囲気も良くなったし、感謝してるんだよ。それに・・・(一緒にいられる時間も増えたし・・・)」
斗詩は話していると徐々に頬を赤らめて、だんだん小さな声が小さくなり、最後の方はゴニョゴニョ何を言っているか咲蘭は聞き取れなかった。
(まちがいない。脈ありね)
咲蘭はそう確信した。
そしてさらなる探りを入れる
「でも、お兄ちゃん。結構抜けてる部分がありますよ?頼りないというかなんというか・・・ほんとに生徒会で役に立っていますか?」
咲蘭は心の中では全く、そのように思ってはいない。
こう言うことで斗詩がどのような返答をするのかを見定めるためにワザと心にもないことを言う。
「そんなことないよっ!」
斗詩は少し大きめの声をあげて、グッと身体を乗り出した。
「一刀さんはみんなが気がつかなかったことにも気づいてくれるし、仕事は自分がやるって言って率先してやってくれるし、私が間違っちゃってお仕事が遅れた時も、遅くまで残って手伝ってくれたし、私なんかにお茶まで出してくれるし、買い出しだって私と一緒に行ってくれるし、みんなのあこがれの的だし、カッコイイし・・・それにね、一刀さんがいないとこのオープンキャンパスだってどうなってたか・・・私も麗羽様も生徒会のみんなもとても感謝してるんだよ」
(途中、なんか生徒会と関係ないこと言っちゃってるし・・・)
斗詩は少し興奮気味で、見た目とは相いれないマシンガントークを咲蘭に放っている。
何を口走っているのかなど、斗詩本人は全く分かっていないのであろう
「あっ、ごめんね。私ばっかり話しちゃって・・・、でも、一刀さんはとても頼りがいのある人だよ。私もああいうお兄ちゃんがいたらなって思うもん。咲蘭ちゃんがうらやましいよ」
「そうですか(まぁ、お兄ちゃんが頼りになるのは分かり切ってることだけどね♪♪)」
咲蘭は斗詩の話を聞いて冷静な表情を浮かべているつもりであったが、顔からは喜びというか、うれしいという感情がにじみ出ていた。
「お兄ちゃんがもし付き合ってくださいって言ったら、付き合いますか?」
「えっ?」
咲蘭の質問に斗詩は素っ頓狂な声をあげて、そのまま固まってしまう。
そして、15秒ほど2人だけが座るテーブルの時が止まった。
「なっ…何を言ってるんでゅすかっ!!そんなことありえないかにゃ~なんて・・・だってねっ!かじゅとさん人気あるんでしゅよっ!!学園アイドルの3人だって一刀しゃん押しでしゅしっ!!先輩方も眼をつけていらっしゃって、3年生のみのファンクラブなんてまさに戦国時代さながらなんでしっ!!」
(めちゃくちゃテンパってる・・・噛みまくり・・・しかも3年生のみのファンクラブ?一つだけじゃないの?)
斗詩の顔は真っ赤に染まっており、顔じゅうの表情筋が緩みに緩みまくっていた。
唇もだらしなくまるでしまりがない。
「で・・・でも、もし一刀さんがそう言ってくれるなら・・・」
きっと脳内で一刀に告白されているところを妄想しているのであろう。
「斗詩さん、一つ聞いてもいいですか?」
「にゅ?・・・はっ!なっ、何かなっ!?」
咲蘭の質問に、斗詩はようやく現実の世界へと帰ってきた。
「さきほどファンクラブと口走っていましたが、それは一つだけではなくて複数あるんですか?」
「えっと・・・私が知ってるだけで4つぐらいあるかな?もちろん、一刀さんが知らないところで勝手に作ってるんだけどね。前なんか大変だったんだよ?北郷ファンクラブを正式な部活にしろって嘆願書持ってきた娘たちがいてね。本人がOKしたら認めてあげるっていって追い返したんだけど・・・」
「でも部活ってなったら、顧問の先生とかいるんじゃないですか?」
「その問題は簡単に解決できちゃうんだよね。なにせ、ある女の先生方がその顧問の座を狙ってそのファンクラブに接触したって話が出たんだよ。そのせいで一時期職員室が冷戦状態にまでなったから」
「えっ!?ってことは正式な部活になったんですかっ!?」
「無理だよ。本人にそんなこと話したら、いつ狙われるか分かんないからね。咲蘭ちゃん知ってる?“一刀さんの番人”の話?」
「はっ?あの・・・お兄ちゃんに抜け駆けしたら狙われるっていうあれですか?」
「あっ、知ってるんだね」
「お兄ちゃんの“番人”って呼ばれてるんですか?」
「秘密裏にね」
(わたし、いつの間にか番人になってる・・・)
「咲蘭ちゃんは気をつけないと駄目だね。番人さん、一刀さんに妹がいるって知ってるのかな?」
「そ・・・そうですね。(知ってま~す・・・)」
咲蘭は無理やり口角をあげて笑って見せたが、その笑いはぎこちないものになってしまった。
斗詩は咲蘭の浮かべる笑みを少し不思議そうに眺め、“どうしたの?”と声をかけようとしたその時に
「いんや~~、やっぱり人いっぱいやな。満足に移動もでけへんで」
トレイの上に4段重ねのハンバーガーとLLサイズポテト、さらにサイダーらしき飲み物を乗せて、席に着いた。
「これ見てや。この時期限定のスペシャルメニュー『超・他人バーガー』やって」
「それ・・・なに?」
斗詩が少しおっかないものを居るような眼で及川を見て、そのバーガーを指さした。
「一段目が牛肉とチーズとトマトソース、2段目が豚肉とスクランブルエッグみたいなやつにバーベキューソース、3段目が鳥肉にてりやきソース、4段目が魚肉ハンバーグにタルタルソースやって」
「まさしく、他人さんがばっかりサンドされてますね」
「それ、おいしいんですか?」
「うまいもんしかサンドされてないし・・・大丈夫やろっ!!」
その後、麗羽たちは斗詩の分を含めた自分たちが食べるお昼と超高級洋菓子店のプディングを持ってきて席につき、それから数秒もしないうちに一刀がクリームソースとアサリのパスタとナポリタンを持って帰ってきた。
「おまたせっ!どっちがいい?」
「お兄ちゃんはどっち食べるつもりだったの?」
「おまえ、具体的な種類言わなかっただろ?だから、お前の好きそうなやつ二つ持ってきた。ぺペロンチーノはだめだってことは知ってたけどさ。お前が選ばなかった方食べるよ」
「私の好み覚えてくれてたの?」
「当然だろ?」
「えへへっ・・・、ありがとう。それじゃあ、クリームソースの方もらうね」
咲蘭がそう言うと、一刀はウェイターのように咲蘭の横へやってきて“お待たせしました”と言葉を添えて咲蘭の目の前にパスタを置いた。
その後、7人は楽しくおしゃべりしながら、昼食を取るのであった。
「ごちそうさまでした」
最後に咲蘭が食べ終わると、7人はそれぞれのお店に食器を返しに行く。
そして、また先ほどまで食事をしていたテーブルに集まった。
「一刀さんはこれからどういたしますの?」
「そうだな。どっか行きたいとこあるか?咲蘭」
「えっ?う~~ん。もう見たいのは午前中に見ちゃったし・・・」
咲蘭と一刀はオープンキャンパスのプログラムを見ながら首をかしげる。
すると、及川が咲蘭の横から手を伸ばしてある一点を指さした。
「ほんなら、ここに行かへんか?」
及川が指さしたのは第2体育館
そこではライブなどの音楽イベントが行われている。
「さっき通り過ぎた時、咲蘭ちゃん気にしてたみたいやし。それにやな、かずっち。午後のメーンイベントはあの学園アイドル3人組や」
「あっ、そうか。こんなにお客が入ってくれるいい機会をあの3人が逃すわけないか」
一刀はパンフレットの第2体育館の催しのページを開き、午後の部を指さした。
そこのメーンイベントを紹介する写真には黄色い衣装に身を包んだ女生徒3人が写っていた。
「あっ!数え役満シスターズっ!この学校の生徒だったのっ!!」
「咲蘭、知ってんのか?」
「だって、今人気急上昇中の売れっ子アイドルだよ」
「へ~、あいつらそんなに人気あんのか」
一刀はパンフレットに載っている彼女たちの写真を見て、感嘆を漏らした。
「かずっちだけやで、ホンマに。そんなん気にせぇへんの・・・とりあえず行ってみようや」
「そうだな。もう堅苦しいイベントは終わりで最後くらい楽しんで行けよ」
「そうだねっ!うわぁ~、楽しみだな」
「ライブを見に行きますのね。でしたら・・・これを持っていってください」
すると、麗羽は自分のカバンの中を探って、目的のものが見つかるとそれを一刀へ手渡した。
麗羽が手に持っていたのは何かのチケット3枚だった。
チケットの半券にはそれぞれ特別観覧室の文字が印刷されていた。
「それを係員に見せれば2階席一番前でゆったりとした椅子で観覧できますわ」
「ちょっ!これってあれやんっ!!お金出しても買われへん特等席のやつやん!」
「いいのか?これ、麗羽と猪々子と斗詩の分じゃないのか?」
「わたくしはこういうのは興味ありませんの。ですけど、無理やり渡されてしまって、どう処理しようか迷ってたんですわ」
「それに私と文ちゃんもまだ生徒会の仕事が残ってますので・・・」
「そういうこと。アニキ達に渡した方がその券は無駄にならずに済むし、あの3人も喜ぶと思うしな」
「3人が喜ぶ?それはちょっと分からんけど、んじゃ、ありがたく頂くとするか。ありがとな。白蓮はこれからどうするんだ?」
「私も騒がしいのはちょっとな。麗羽たちの仕事の手伝いをするよ。私のことは気にせず、妹さんと楽しんできてくれ」
最後に白蓮が手を挙げると、それを皮切りに4人は生徒会室がある棟へと歩き始めた。
「それじゃ、せっかくもらったチケットを無駄にしないためにも、行かせて頂きますか」
「いんや~、やっぱりかずっちの横おったらちゃうわ。めっちゃラッキーやん。がっつり天和ちゃんのおっぱい目に焼き付けよ」
「ほんとに最低ですね。及川さん」
「おっと、咲蘭ちゃんの言葉からついにトゲが出てきたな。お近づきになれたみたいでめっちゃうれしいわ」
「おまえってほんとにポジティブだな」
そう言う間の抜けた会話をしつつ、三人は第2体育館を目指して歩いて行くのであった。
第1体育館と第2体育館をつなぐ細い通路は午前の時以上に混雑していた。
しかし、午前の時は人の流れがまちまちで動きにくかったが、今回は人の流れが一方にのみ集中していたので、誰とも肩をぶつけることはなかった。
その人の流れは第2体育館へと続いている。
入り口横には当日入場券を配布するテントが立てられており、そこは人がごった返していたのだが・・・
一刀たちはその流れに身をまかせつつ、第2体育館へと向かった。
「汗臭い~」
咲蘭は前を歩く一刀を見失わないよう、一刀の制服の裾を持ちながらぴったりと後ろについていた。
咲蘭の後ろからは及川がついてくる。
すると不意に及川は咲蘭の耳元にまで顔を持っていき何かをつぶやく。
「観客の熱気とこの陽気な気候が重なって、アイドル目当ての男らのむさくるしい汗が蒸発して宙を舞い・・・」
「それ以上言わないでくださいっ!!気持ち悪くなりますっ!!」
咲蘭は耳元まで顔を近づけていた及川の顔面に裏拳を見舞う。
それはちょうど及川の鼻先へ直撃し、及川は声のない悲鳴を上げる。
「バカやってないで、ついてこいよ。ほら、入場口見えてきたから」
一刀は二人のやり取りを見て軽くため息を吐いた後、ようやく見えてきた第2体育館の入場口を指さす。
「入場券お願いしま~す」
「えっと・・・これお願いします。後ろの二人の分もね」
入場口の前に立っていた係員らし気生徒が一刀たちに近寄ってきたので、一刀は麗羽からもらった3人分のチケットを手渡した。
“拝見します”と係員がそれを受け取り、チケットの内容を検め始めた。
すると、係員の眉間がピクッと動く。
そして、一刀ら3人の顔とチケットを交互に見た後、眉間にしわがより始めた。
「特別観覧室のS席ですね・・・こちらの通りをお進みください・・・」
係員がチケットの半券を手でちぎった後、“スタッフオンリー”の看板が掛けられた扉を開け、中に入るよう促した。
しかし、その丁寧な対応をしてくれている係員の眉間のしわがなぜか先ほどからピクピクしている
すると、及川が“おおきに~”と言いながらその中へと入っていき、それに続く形で一刀と咲蘭も中へと入っていった。
「何か途中、対応おかしくなかったか?」
「うん、愛想よかったのにチケット出したとたん突然・・・」
「やっぱりかずっちこのチケットのすごさ分かってへんかってんな・・・」
一刀と咲蘭の会話を聞いた及川がくるりと後ろに振り返り、そのまま後ろ歩きしながら話し続ける。
「こんなくそ忙しいイベントの係員なんかやるんやから、何かご褒美でもないとやってられんやろ?そのご褒美っているのが多分、数え役満シスターズのライブを係員として無料で参加するってことや。係員としてやったらそれなりの特等席でライブ見れるやろうしな。んで、そないな仕事する奴なんて明らかにファンしかおらんやろ?本格的な機材の準備とかしはるんはプロの人らやけど、入場門整列なんて誰でもできるしな」
及川が雄弁に語る様を北郷兄妹はうんうんとうなずきながら聞いている。
「でもな、このチケットちゅーのは金も払わんと無料で会場に入れて、しかもゆったりとライブを鑑賞できるってやつや。しかもS席やから2階席のいちばん中央最前列・・・2階席やからって侮ったらいかん。かずっちやったらわかるやろ?この第2体育館の構造を・・・」
「ああ・・・たしか最新の設備かなんかで、劇とか見るときは2階の席の中央がせり出してくる劇場スタイルになるんだったな?」
「そうや、つまり一階の最前列とそない変わらん位置で見れるんや。しかも、このチケット、よう確認したら特別観覧席に座れる人数は5人だけ・・・選ばれた奴のみ・・・」
「つまり、係員の態度がちょっとだけ変わったように感じたのは・・・」
「何でファンでもなさそうな奴らが、特等席に座んだよっ!オレによこせやっ!!ってなかんじやろか?」
そういう会話をしている間に、3人は会場へとたどり着き、チケットを頼りに自分たちの座る席を捜す。
そして、チケットの番号と同じ番号が書かれた席を見つけそこに座る。
及川が言ったようにその席は2階席の最前列で、もう目と鼻の先にアイドルたちが立つであろうステージがあった。
「たしかに・・・最高の席だな・・・」
「せやろ?普通のライブ会場でこんな感じの席取ろう思ったら何万・・・いやヘタしたら何十万になんで」
「もらってよかったのかな?お兄ちゃん?」
「まぁ・・・この際だから麗羽たちのご厚意に甘えようか。あとで俺からもお礼言っとくし」
一刀たち三人は舞台が始まるまで、他愛もない世間話に花を咲かせるのであった。
席についてからおよそ15分経過した時、会場が徐々に暗転し始めた。
「あっ、始まるみたいね」
完全に会場が暗くなったかと思うと、突然スポットライトが一階最前列にいた男性生徒に当たる。
スポットライトが当たった男性はそのままスッと立ち上がると、会場にいる生徒や観客に対し一礼をし、舞台へと上がっていった。
「何が始まるの?」
「あれ?咲蘭ちゃん。数え役満シスターズのライブは初めて?」
及川の質問に咲蘭はコクリと一回うなずいた
「これから観客のテンションを上げるのと、発声練習を兼ねたお決まりの恒例行事が始まんねや」
「まぁ、あの前にいる人とおんなじことすればいいから大丈夫だよ」
一刀がそう言い終わると、及川と一刀は席から立ち上がり軽くゴホンと咳ばらいをした。
一刀にならって、咲蘭もあとから立ち上がる。
「お兄ちゃん、数え役満シスターズのライブ見たことあるの?」
「えっ?あ・・・ああ・・・一応・・・」
「なんや。咲蘭ちゃんに言うてなかったんか。かずっち、去年の冬から今年の春にかけてシスターズのマネージャーやっててんで、バイトで」
「えっ!!ほんとなのっ!」
「う・・・うん」
一刀がなぜか元気なさそうにそう答えると、マイクがハウリングした音が会場に響き渡る。
会場へ目をやるとステージの上に立っている男子生徒がマイクを手にしたところであった。
“マイクテスト・マイクテスト”とマイクの音量と感度を確認したのち、再び一礼をした。
そして、マイクが大きく息を吸う音をひろった次の瞬間
「ほわわわわわわわわああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
という大絶叫が会場に響き渡った。
その声はあまりの大きさにマイクはハウリングを起こし、激しい音割れも起きるほどであった。
咲蘭はその声の大きさにびっくりして顔をひきつらせる。
すると、次は会場の方から同じような大絶叫で“ほわわわわわああああああぁぁぁぁぁぁぁ”という掛け声を返した。
その光景に咲蘭はあっけに取られてしまう。
横に座っている兄とその隣にいる及川に眼を移すと、二人は会場の声援に負けないほどの大音量で叫んでいた。
「お・・・おにいちゃん?」
「どうした?咲蘭?・・・お前もやらないと」
「え?・・・えっ?」
「シスターズのお決まりだろ?お前・・・知らなかったのか?」
「誰もが知ってるみたいに言わないでよっ!これがお決まりなの?」
「当たり前だろ?」
「テレビで見たときこんなのやってなかったよっ!!」
「そりゃテレビは3人が歌って踊る場面撮ればいいからな。あんまりこんなとこまでうつさないだろ」
「ほら、咲蘭ちゃん、次のヤツが来んで?次はしっかりやったり」
及川が指さすと、ステージに上がっている生徒もテンションが上がってきたらしく手の持っていたマイクを放り投げた。
「ほわああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!ほわああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!ほほほほわわわわわわわわわわわわああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」
マイクなしの発声にもかかわらず、ステージの男性生徒の声は会場全体に広がった。
『ほわああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!ほわああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!ほほほほわわわわわわわわわわわわああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!』
その声に負けじと会場のファン達も声を大にして叫んでいた。
「「ほわああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!ほわああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!ほほほほわわわわわわわわわわわわああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」」
咲蘭は横で立っている連れに再び目を向けると、鼓膜が破れるかというぐらいに叫んでいる男二人がいた。
「ほっ・・・・わぁあ・・・・、ほっわぁぁ・・・」
咲蘭も二人と同じように見よう見まねで声を出してはみるが、どうも恥ずかしさが勝ってしまい、うまく声が出ない。
するとステージに立っている男子生徒が咲蘭たちの座る席をビシッと指さした。
「そこぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!気合がた足らぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!!!」
その指先を追って、一階の会場にいる生徒の視線が集まる
「あそこ・・・すごくいい席なのに・・・」
それを皮切りに辺りからブーイングが起こり始める。
「あかんでっ!咲蘭ちゃんっ!!このままやと暴動おこんでッ!!」
「えっ・・・え~~~~~」
「咲蘭・・・悪いが、冗談じゃないんだよ・・・」
一刀は遠い眼をしながら何かを思い出していた。
何を思い出しているのか、咲蘭は知る由もない。
「もう一回いくぞぉぉぉぉぉぉォ・・・すぅ~~っ!!ほわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!!!!!!!!!!!!」
『ほわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!!!!!!!!!!!!』
「「ほわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!!!!!!!!!!!!」」
ステージ上の生徒は明らかにこちらを向きながら、最後の叫びを放っていた。
それに共鳴したかのように会場のすべての人が叫び返す。
「・・・しかたないわね・・・。すぅ~っ!ほわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!!!!!!!!!!!!ほわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!!!!!!!!!!!!ほわわわわわあああああああああああああああああああっ!!」
観念した咲蘭は大きく息を吸い込んで、会場の誰よりも大きな声で咆哮した。
横に立っている一刀と及川はそれを見てニコニコしていた。
「ようしっ!!これまでとするっ!!」
最後にステージの生徒がこう締めくくると一礼し、拍手で送られながら自分の席へと帰っていった。
「どうやった?何か吹っ切れたような感じするやろ?」
「ぜぇ・・・ぜぇ・・・た・・・たしかに・・・」
「まぁ、これから慣れてけばいいよ。本番はこれからだし」
「そ・・・そうね・・・はぁ・・・」
咲蘭の命はもはや風前の灯だった。
一刀から飲み物をもらいそれを一気に飲み干して、なんとか生きながらえた咲蘭
咲蘭のテンションに比べ、会場のボルテージは徐々に高まりつつあった。
「ライブは戦場だったのね・・・いい経験をしたかも・・・」
「ああ・・・そのとおりだ咲蘭・・・まさに戦場っ!!」
「これ戦場ゆーたらかずっちとオレなんか猛者やな。はっはっはっ」
すでに3人もおかしなテンションになっていた。
『み~~んなぁ~~~おまたせぇ~~~~っ!』
『ちぃたちのライブ、最後まで楽しんでいってねぇ~~』
会場に天和と地和の声が響き渡ると、会場のボルテージは一気に際骨頂になった。
どうやら一回の会場はそれぞれ3姉妹のファンが分かれて集まっているようである。
中央が天和ファン、会場を基準に右が地和ファン、そして左が人和ファンのようだ。
中央と右側のファンは思いのたけをぶつけるかのごとく、二人の名前を呼び続けた。
『それじゃあ、姉さん達・・・行きましょうかっ! MUSIC START!!』
最後に人和が叫ぶと人和ファンの大絶叫とともに、軽やかなリズムが鳴り響き始めた。
プシューと煙がステージを覆い尽くし、その奥から元気で軽やかなステップで天和が現れた。
『みんな大好き~~~~~~~~♪』
『てんーーーーーーーーほーーーーーーちゃーーーーーーーーんっ!!!』
「てんーーーーーほーーーちゃーーーんっ!!!イェアーーーーーーーーーーーっ!!」
及川はどうやら天和ファンらしく声が聞こえるとともに、テンションが振り切れた。
「うわぁぁ・・・」
及川のテンションの上がり方についていけず、咲蘭はジトッとした目つきを及川に送る。
しかし、そんな視線には全く気がつかないでどこから取り出したのか分からないピンクのサイリュームをふりまくっていた。
ちなみに天和ファンはピンクのサイリュームを手に持ち、同じように地和ファンは青、人和ファンは淡い紫色のものを手に持っている。
また、会場には黄色いアメのようなものを振りかざしている人もいた。
「咲蘭も使うか?」
そう言う一刀の両手には紫色と青色のサイリュームが持たれていた。
「・・・どこから取り出したの?」
「及川が持ってた。たぶん、ここに来ることもこいつの計算のうちだったんだろうな。まぁ、楽しもうよ。咲蘭はどっち使う?」
「んじゃ・・・」
ちょっとした違和感は感じつつ、咲蘭は一刀から青のサイリュームを受け取った。
『みんなの妹~~~~~~~~~~~~~♪』
『ち~~~~~~~~ほ~~~~~~~~ちゃ~~~~~~~~ん♪』
地和は特設で作られた花道から登場し、元気いっぱいに会場の観客へと手を振る。
『とってもかわいい~~~~~~~~~~~♪』
「れ~~~~~~んほ~~~~~~~~~~ちゃ~~~~~~~♪」
ステージに特設されたタワーの頂上へスポットライトの光が集中すると、そこに人和がゆっくり優雅に手を振っていた。
そして、ゆっくりとした足取りでタワーを降りていく。
(あっ・・・)
その階段を下りる途中で人和は2階席にいる一刀の姿を発見する。
その手には淡い紫色のサイリュームが振られている。
一刀も人和と眼があったことに気がついたらしく、小さくサイリュームを持っていない方で軽く手を振った。
人和はちょっと照れつつ一刀に小さく手を振った。
その人和のちょっとした変化を鋭く感じ取ったのが地和であった。
人和が先ほど見ていたであろう場所を視線で探すとそこは特別観覧席で、その場所には一刀がいた。
その手には淡い紫色のサイリューム
「こらぁ~~~っ!かずと~~~~~~~っ!!」
ステージの中央で天和と一緒に、人和が下りてくるのを待っていた地和が2階席にいる一刀に向かってビシッと指を突きつけていた。
「なぁ~~んで、人和の色をもってるのぉ~~~っ!!一刀は地和のファンでしょ~~~っ!!」
急に指を刺されマイク越しに自分の名前を呼ばれた一刀はオロオロと焦っている。
「ちょっ!アイツ何言って・・・」
地和の指先を視線で追っていた天和も一刀の姿を見つける。
「あっ!かずと~~~~~~っ!見に来てくれたんだ~~~~~~~っ!!やっほぉ~~~~っ!!」
天和は一刀に両手でめいいっぱい大きく手を振っていた。
「でもぉ~~、私の色をもっていてほしかったなぁ~~~~」
そう言うと、天和はワザとらしくいじけた様子を見せた。
「あいつらぁ~~~わざとやってんな・・・」
そのやり取りをしているうちに人和は階段から下りてきて、地和の隣の位置に着いた。
「地和姉さん、天和姉さん、一刀さんに迷惑かかるでしょ。やめて」
「なぁ~~にをぉ~~、余裕なそぶり見せちゃって~~~っ!かずと~~~、あとで話があるんだからねぇ~~~~」
「あっ!わたしも、わたしも~~~~~~」
地和が一刀に対してイーッとした表情を浮かべ、天和は片手をあげて“わたしも~”と飛び跳ねていた。
ざわざわざわ・・・ざわ・・・ざわ・・・
「おい、アイツ誰だよ」「かずとって・・・」「確かマネージャーじゃなかったか」
「3人からステージで名指し・・・」「う・・・うらや・・・じゃなくてっ!憎たらしい・・・」
「まさか、三人の彼氏かっ!」「いやいや・・・アイドルだし・・・ないっしょ」
「氏ねばいいのに・・・」「ち~ほ~ちゃん・・・」「くそ~~氏ね」
「アイドルまで垂らし込みやがって・・・」「アイツの下駄箱に・・・」
「次のサッカーの授業覚えてろよ・・・」「シャーペンの芯全部抜いて折ってやる・・・」
氏ね・・・氏ね・・・氏ね・・・氏ね・・・氏ね・・・
辺りから呪詛や呪いの言葉、言霊の怨念が一刀に襲いかかる。
「かずっち・・・氏ねばいいのに・・・」
隣に座っている友人からも呪詛が振りかけられる。
(アイドルまで・・・、お兄ちゃん・・・恐るべしね・・・。くそぉ・・・私がいない間被害が大きく・・・)
妹は妹で先ほどまで及川に向けていたジト目を一刀へと向けていた。
「あいつらぁ・・・俺を社会的に抹殺するつもりかぁ~~」
一刀は椅子に座らないでしゃがみこみ、頭を抱えていた。
「さてっ!元マネージャーいじりはこの辺にしときますかっ!みんなぁ~~~~っ!ちぃ達のライブを楽しんでいってねぇ~~~」
「まず一曲目はぁ~~~これだよぉ~~っ!」
天和が指をパチンと鳴らすと一曲目の前奏が始まり、3人はステージを駆け回り歌い始める。
ファン達も先ほどの呪詛や一刀のことをすっかり忘れたようで、3人に届くように大きな声援を送っていた。
結果的には数え役満シスターズのライブは大成功
ファン達は大満足で会場をあとにした。
なお後日談なのだが、一刀の下駄箱の中にちょっとだけエッチな雑誌の切れ端が大量に入れられていたり、サッカーの授業で一刀がボールを持つと敵チームが一斉に覇気をまといながら一刀に向かって襲いかかってきたり、机の中に入れていた教科書が全部机の上に出されていたり、シャーペンの芯が短く折られていたりと地味ないやがらせが2日続いた。
数え役満シスターズのライブは大いに盛り上がり、アンコール公演も行われ、大成功のもと終了した。
観客の全員が大変満足した様子で会場をあとにしていた。
咲蘭と一刀たち3人はライブの終了間際に係員の人がやってきて、裏口で待っててくださいと連絡を受けていた。
その係員の目の奥では嫉妬の炎が燃え盛っていたことをあえて触れておこう。
「やっぱり、かずっちの横おったらちゃうわ~~。こんなおこぼれいただけるんやから」
「呼ばれたのオレだけだからお前は帰れよ・・・」
「お前だけええ思いはさせへんっ!!」
及川はキッと鋭い視線を一刀に向けた。
どうやら先ほどのライブのことをまだ根に持っているようだ。
「あはははは・・・、咲蘭もそうだぞ?もうすぐオープンキャンパスも終わるから、オレが話している間に一人で好きなとこ行けばいいのに・・・」
「一緒に晩御飯食べるって約束したじゃない。今別れちゃったら、また会うの大変になるでしょ?だから、いいのっ!!(アイドルってだけでお兄ちゃんの彼女になったら大変じゃない。私が見極めないとだめでしょっ!!)」
咲蘭も一刀のことをキッと強い視線で睨みつける。
「何でお前にまでそんな目つきなのっ!?」
そうしているうちに裏口へと到着した一刀たちはしばらくその場で待つことにした。
そして待つこと数分・・・
裏口のドアが少しだけ開き、人和が首だけ出して辺りをうかがう。
「大丈夫。一刀さん達しかいない」
そう言うと、扉は大きく開け放たれ、人和の後ろから地和と天和が飛び出してきた。
そして、咲蘭と及川を押しのけて二人は一刀の腕にしがみついた。
「ひっさしぶり~~かずとっ!!元気してた?」
「ちぃ達と仕事できなくてさびしいんじゃないの?ねぇ、どうなの」
「おっ・・・おいっ!あ・・・あたってるってっ!!」
一刀は天和の胸の方を見てできるだけ触れないように体を持っていこうとする。
「むふふ~~、当ててるんだよ!」
戸惑っている一刀の顔を見ながら、天和はさらに一刀の腕へと強くしがみつく。
一刀が肘を動かそうとするたびに、天和の豊満な胸の感触が一刀を襲う。
「ほらっ!地和もやめろってっ!」
「む~~っ!ちぃも当ててるんですけどっ!!」
「そんなこと聞いてないですけどっ!!」
地和も一刀の腕ももぎ取るかのごとく強く抱きついていた。
「ほらっ!人和も・・・なんとかしてくれよっ!!」
「・・・・・・出遅れた・・・」
人和は口の手をやりながら、一刀と姉達のことを見ていた。
「人和っ!!」
一刀に大きな声で名を呼ばれた人和はハッとした表情をうかべる。
「ほらっ、姉さん達、一刀さんが苦しそうよ。離れて」
「「は~~い」」
人和にそう言われた二人の姉は渋々ながら一刀から距離を取り人和の方へ戻ってきた。
「ぐぬぬぬっ・・・かずっち・・・うらやましい・・・覚えとれよ・・・」
ここでちょっとした余談なのだが、2日間続く一刀への嫌がらせを指揮・指導したのはこれを見た及川なのだっ!!
及川は具体的に何もしてはいないのだが、同士を集め指揮したのだ。
ただ、のちのちこれをやっていることがむなしくなり始め、同士もそう感じてきたらしく終了することになった。
また、一刀に対するこのいやがらせを知った女子がそれらに加担した男子を陰湿に陰口を言い始め、それも早期鎮静化の一役をかったことも一応触れておく。
さて、話を戻そう・・・
「うらやましい・・・咲蘭ちゃんっ!何か言ったりっ!!・・・んっ?咲蘭ちゃん?」
及川は一刀を指さしながらそう言ったのだが、咲蘭から反応がなかった。
代わりに及川の人間としての防衛本能がうずき始める。
ここから離れろ・・・命が危ない・・・と
そして次第に及川の右隣り辺りからユラユラとした殺気のようなものを感じた。
油の刺されていないブリキのロボットのような動きで、ゆっくりと咲蘭の方へと目線を向ける。
そこには肩ほどまで伸びていた髪を逆立て、目から青白い光を放っている咲蘭の姿があった(及川談)
「おにい・・・ちゃん・・・」
その雰囲気に一刀も気がついたようで、一刀も及川のようにゆっくりと首を動かしていく。
そこには怒髪天を突く勢いの妹の姿が・・・
「そんなに・・・おっぱいが・・・大きい人が好き?妹を・・・差し置いてまでも・・・」
咲蘭は天和が抱きつき、天和と一刀の会話を聞いて以後、心を怒り?や嫉妬?で支配されている。
つまり地和の話以降、全く話を聞いていない。
「お・・・おい・・・。落ちつけよ・・・なっ?何怒ってんだよ・・・」
一刀は知っているのだ。
こうなった妹はもはや妹が満足するまで止められないのだと
「新・減点項目第67条『おっぱいが無駄にでかい』を付け加えとくからね・・・」
ちなみに触れておこう。
咲蘭のおっぱいは稟より大きく、沙和より小さいぐらいだ。
つまりは普通(微妙)なのだ。
「な・・・何の話だ・・・」
「おにいちゃんの・・・エッチーーーーーーーーーっ!!」
「ぐはぁぁあああっ!!」
咲蘭の強烈なビンタが一刀の下あごにクリーンヒットし、きりもみしながら近くにあった木々に激突した。
「取り乱しちゃってごめんなさいっ!!」
咲蘭はシスターズの3人に深々と頭を下げる。
一刀はその咲蘭の横で赤くはれた頬をなでていた。
その咲蘭に横では及川が気持ち悪い変な笑みを一刀へ向けている。
「殴られてやんの~~」
「黙れ」
「ごめんね。まさか一刀以外に人がいると思わなくって」
「人和、人がいるならいるって言いなさいよ」
「扉開けたとたん飛び出すなんて思っていなかったんだもの」
「しかも、一刀の妹さんだなんて~、はじめまして。一番お姉ちゃんの天和で~す」
天和が自己紹介すると、妹たちも続いて自己紹介する。
「かずと~~、頬大丈夫?」
「いや、大丈夫だから・・・」
自己紹介を終えた地和はいつの間にか一刀に近寄って咲蘭に叩かれた頬をやさしくなでていた。
一刀は表面上は迷惑そうな顔をして入るが、顔に少し照れが見える。
「む~~っ・・・」
それを見た咲蘭は眉をひくひくさせながらその光景を見ていた。
その咲蘭の様子を見て天和がくすくすと笑う。
「咲蘭ちゃんはお兄ちゃんが大好きなんだね~~」
「なっ!!」
天和から唐突に言われたその言葉に咲蘭は対応できず、一歩後ずさりながら顔を見る見るうちに赤くさせた。
「からかっちゃダメ。姉さん達がごめんなさい。久々に一刀さんに会えたからテンションあがっちゃって・・・」
そう言って人和が小さく頭を下げた。
「あ・・・いやっ、べつにそんな・・・お気になさらず・・・」
咲蘭はそれにこたえるように小さなお辞儀を返した。
「ムスッとしたり、赤くなったり、焦ってみたり、咲蘭ちゃんもかわいいなぁ~~」
「黙っててもらえます?」
「おっと、だんだん言葉のトゲが大きなってきたな」
「それにしても、何で一刀はちぃの色持ってくれなかったの?」
「だから、それは・・・」
「あっ!そうだよ~~。私の色は~~~」
気がつくと天和も一刀の方へ寄っていき、ライブの話をしていた。
「あっ!天和ちゃんの色はオレが持っててんでっ!オレ、めっちゃファンやねんっ!!」
「そうなんだ~。ありがとうねっ!これからも応援よろしく~~」
天和は及川の手を取って、満面の笑みを向ける。
「よっしゃ~~、今日は手洗わんでぇ~」
「汚い・・・」
「おっと、この短い間にさらにトゲがでかなったな」
しかし、咲蘭は彼女たちはやはりアイドルのなのだと実感する。
「でもぉ~~、一刀にも持ってほしかったな~~」
そう言って及川の方からくるっと回って、一刀の方へと向きなおす。
「人和なんて一刀が自分の色持ってくれてるからって、今日のライブ張り切ってたよね~~」
「ちょっとっ!地和姉さんっ!!」
地和が一刀に顔を近づけてそう言うと、人和は顔を真っ赤にしながら姉二人と一刀のもとへと近づいていった。
一刀と三人のアイドルが話しているのを見て、咲蘭は実感する。
この人たちもやっぱり一刀のことが好きなのだなと
(アイドルだからって評価は変えないんだから・・・)
「一刀っ!このあと何か予定あるの?なかったら・・・」
「地和姉さん、忘れてないよね?このあとまだお仕事あるでしょ?」
「え~~・・・仕方ないな・・・。また時間ある時、連絡するからっ!!」
「もうそんな時間か~。また時間ある時に話そうねっ♪」
「ああっ、待ってるよ」
「そんとき、オレも行ってええ?」
「え~~、どうしよっかな~~ふふっ♪じゃあ、もう行かないといけないから・・・じゃあね~~」
「時間をいただいてありがとうございました。では、また近いうちに・・・」
天和が両手で一刀に向かって手をふり、人和はまた小さくお辞儀をして天和についていく。
「おいっ!お前も行かないといけないんだろっ!?」
「む~~、しかたないか。じゃあねっ!!」
一刀の腕にしがみついていた地和はそれをほどき、天和達の方へと走っていった。
その途中に急に踵を返して、かわいくチュッ!と投げキッスを飛ばし、また駆けていく。
「ったく・・・あいつらは・・・」
「嵐のような人たちだね」
「ああ、あいつらのマネージャーやってるときは充実してたが、めちゃくちゃ疲れたからな」
咲蘭は実は少しあの3人を感心していた。
一刀しかいない場では分からないが、それ以外の人たちがいるときはしっかりとアイドルらしく振舞っていた。
それだけプロ意識というものがあるのだろう。
それにそれぞれの役割分担も分かっているようであった。
一刀よりも仕事を優先する。
及川に対しての対応もまさしくアイドルそのものだった。
あまりアイドルについて詳しく知らない咲蘭も感心させられた。
「さてっと、俺たちもそれそろ行くかっ!」
「そうだね。今日一日楽しかったけど、ちょっと疲れたな・・・」
「おたくらこれからどうすんの?」
「どうしようか・・・」
一刀は手元の時計を確認すると、5時15分を指していた。
「トウキョウ駅まで戻ると6時くらいか・・・晩飯行くかっ!」
「そうだねっ!何食べる?」
「トウキョウ駅周辺はいろんな店あるし・・・言ってから決めよかっ!」
「お前・・・なぜついてくるつもりでいる?」
「ええ~~、もうこうなったら最後まで付き合うやんっ!なっ!咲蘭ちゃん?」
「・・・帰ってもらえます?」
「ひどっ!!」
「まあ・・・いいか。とりあえず、駅まで行くか」
「いいの~~、え~~~」
「咲蘭ちゃん・・・オレと今日会ったばっかりって忘れてんのとちゃうやろか?言葉のトゲのでかくなる速さがハンパないんやけど・・・」
「気にすんな。とりあえず行こうっ!」
そう言って3人は太陽が傾いているが、まだ明るい道を駅に向かって歩き始めるのであった。
END
どうもです。
話が進むのはもう少し先になりそうです。
書くことができなかった時間が長い分、ああしよう、こうしようといろいろ構想が膨らんでしまっています。
次の話もほんの少し進むぐらいになりそうです。
本格的に動き出すのは次々話ぐらいかと思います。
私が休みの間に行けるとこまで行くつもりです。
定期更新は少し難しい状況ですので、次はいつと言うことはできないのですがお付き合いいただければと思います。
あと、美羽は次回に登場かもです。
もしくは思いつきの外伝を2つほどまとめて投稿するかも・・・
つまりは「予定は未定」ってことです
では、これで失礼します
Tweet |
|
|
5
|
0
|
追加するフォルダを選択
どうもです。
第1章後編になります。
自分のペースを守ってやっていきます。