#30
街に戻っても妹達はいないので、俺が率いる商業旅団はそのまま孫策軍の輜重管理に回る。まぁ、想定よりも長く時間を貰った礼と詫びだ。
輜重管理ではあるが、以前述べたように部下達には戦闘訓練も施してあるし、兵として使う事もやぶさかではない。
「あー、ちょっといいか?」
翌日の昼には諸侯の合軍地点に到着しようかという日の夜、俺も軍議に参加させてもらって、議題も全部終わった頃に、手を挙げて注目を集めた。
「あら、何かあるの、一刀?」
雪蓮の許可も受け、俺は口を開く。
「皆も知ってる通り、俺はいくつかの街を周って来たわけだが、色々と知り合いを作っちまった」
「そうなのか?」
「冥琳ちゃんだって、それを期待してたでしょ?」
「確かにそうだが……」
「で、そこでは俺は商人として過ごしてきた。軍の人間じゃなくな。だから、俺がここに居る事は、他の奴らには内緒にしていて欲しいんだ」
「何故だ?」
孫権ちゃんが会話に加わってくるが、その後ろの甘寧ちゃんの視線が怖い。
「だって、雪蓮ちゃんが疑われちゃうじゃん?商人を装って、他所の街の内情を調べさせていた、って。だから、俺の存在はなかった事に」
「どう思う、冥琳?」
「ふむ…ちなみに、親交を深めたのは何処の勢力だ?」
親交とは言ってないじゃん。
「どうせお前の事だ。いつの間にか仲良くなっているのだろう?」
「まぁ、否定はしないけどさ。えっと、劉備と曹操、それから袁術の――」
「「「「「はぁぁああああっ!!?」」」」」
3人目の名前に、皆が驚きの声を上げる。なんだよ、そんなに変な事か?
「待って、一刀!貴方、袁術ちゃんとも仲良くなったの?」
「おー。なったなった。袁術が川で溺れてたのを助けたら、城に招待してくれたぞ。これがその証拠な」
言って、俺は懐からいくつかの竹簡を取り出して、冥琳ちゃんに渡す。
「証拠?……って、これは!?」
受け取ったそれを開いた冥琳ちゃんの眼が、大きく見開かれる。
「南陽の情報。軍・財・人・産……いろいろ書き写してきたぜ?情報収集が、明命を借りる条件だったろ?」
「確かにそうは言ったが……どこまで深く潜り込んだのだ、お前は」
「言ったじゃん。城に招待してくれた、って。仲良くなって、城に泊めてくれたから、こっそり探っといた」
「こっそりどころの量ではないだろう、これは……」
情報は多いに越した事はないからな。
竹簡を囲んで色々と話し合う軍師たちを他所に、雪蓮ちゃんは問い掛けてくる。
「劉備はどうだった?」
「あぁ、仲良くなったよ。そういや雪蓮ちゃんの所為で、街には1泊も出来なかったんだぜ?」
「私の所為?」
「そうだよ。いつだったか『北郷は私より強い』とか関羽に言ってたじゃん。身バレして、勝負を申し込まれちまったんだぞ」
「あら、思ったよりも早かったわね。それで、ちゃんと勝ってきたんでしょうね」
んな訳ないだろ。
「うっそ、敗けたの?」
「いや、戦いを挑まれたから、荷物を取りに行くって言って逃げ出した」
「うわ、関羽も可哀想に…」
「俺は嫌だって言ったのに、我が侭を通そうとするからだ。断っても絶対に引きそうになかったし、手っ取り早かったんだよ」
「あらあら。じゃぁ、劉備のところの情報は?」
「1泊も出来なかったんだ。何もないよ」
「なんだ、残念。ま、軍に関しては連合に来てたら見れるでしょうね」
そういえばそうだな。じゃぁ、美羽のとこの情報も要らなかったんじゃね?
「曹操は?」
雪蓮ちゃんは、再三話題を変える。
「あぁ、あそこは軍が強いな。兵もそうだし、武将も親衛隊長を含めて7人いる。みんな一級品だぜ?」
「そうなんだ。うちは私と蓮華を除けば、祭に思春、明命と亞莎、それに一刀の5人か。苦戦しそうね」
「おいおい、戦でもやる気かよ」
って、俺の名前入れてんじゃねーよ。
「いいじゃない。隠し玉って事で」
「確かに玉は2つほど隠してるけどさぁ」
「ゴフッ」
「「……ん?」
「えっ?」
俺のギャグに、かすかに噴き出す音が聞こえた。俺と雪蓮ちゃんは音のした方向を見れば、首を傾げた孫権ちゃんと、相変わらず無表情で睨みつけてくる甘寧ちゃん。
「なぁ、雪蓮ちゃん」
「えぇ」
俺と雪蓮ちゃんは、アイコンタクトで意志疎通を図る。そして、俺は口を開いた。
「全然話は変わるけどさぁ、玉璽ってあるじゃん?」
「えぇ、それがどうかしたの?」
「それって、印だっけ?」
「そうよ。漢王朝の帝である事を示す印が刻んであるの。なによ、洛陽に行ったら、それを盗んで売ろうとでも言うの?」
「まさか。俺はとっくに玉の印を持ってるしな。しわっしわだぜ?」
「ブプッ」
「「……」」
「?」
「……ッ」
「雪蓮ちゃんの剣ってさぁ、南海覇王って言うんだっけ?」
「そうよ。孫呉の宝剣。母様から受け継いだの」
「へぇ。やっぱり、使いこなすのは難しい?」
「そうね。私って冥琳しか相手にした事ないじゃない?父様の南海覇王を毎晩相手にしていた母様には負けるわね」
「アフゥッ」
「よかったら一刀の剣で練習させてくれないかしら」
「まだ若いから、俺の得物は直刀ってよりは偃月刀だぜ?」
「プフゥッwww」
「し、思春!?」
甘寧ちゃんが腹を抱えて蹲り、孫権ちゃんが驚きの声を上げる。
「ようやく落ちたか」
「えぇ、まさか、思春がソッチ系大好きだったとはね」
「そ、そんな事はあ、ありませっぷはっwww」
ぷるぷると震える甘寧ちゃんに俺は近づき、すぐ傍に膝を着くと、その肩に腕を回した。
「さ、触るなっ!プクク…」
「ひとつだけいいか?」
「なっ、なんだ……」
そして、真っ赤になった耳に口を寄せて、呟く。
「――――」
「――wwww――ww――wwwwww」
「思春!?」
ついには、笑い転げてしまうのでしたとさ。
発作の治まらない甘寧ちゃんは放置して、話を戻す。
「曹操んとこに一番長く居たかなぁ」
「店でも開いたのかしら」
「おぅ。賊の討伐を手伝ったら、褒美に場所を提供してくれてな」
「そっちでも勝負はしなかったの?」
「いや、1回だけしたよ」
答えて、俺は春蘭ちゃんとの仕合の事を話す。
「へぇ、夏候惇といえば、曹操軍一の武って噂じゃない。その娘に勝ったのね」
「まぁねー」
「関羽とも闘ってあげたらよかったのに」
ヤダよ、メンドイ。
「ま、そんな訳で、知り合いがたくさん出来ちまったからな。俺の事は内密に」
「しょうがないわねぇ。そうしておきましょう」
「あんがと」
そういう事に。
「じゃぁ、一刀はずっと後方支援?」
「それも考えたけど、ちょっと情報待ちの件があってな」
「情報待ち?」
「ん。権ちゃんにお願いして、な」
「そうなの、蓮華?」
話を振られた権ちゃんは、少し考えた後に手を叩く。
「あぁ、アレの事か。馬を1頭貸して欲しいと頼まれまして」
「馬?」
「はい。何をするのかは教えてくれませんでしたが」
「何する気なの、一刀?」
「そりゃアレだよ。ウチは男所帯だったから、皆色々と溜まってんのさ。穴を貸してもらうだけだよ」
「――wwwwwww――――wwwwwwwwwww」
バンバンと地面を叩く甘寧ちゃん。可愛いなぁ。
「思春がそろそろ壊れそうだから、勘弁してあげて」
「へーい」
「それで、本当のところは?」
「秘密。時期が来たら、教えてあげるから」
「ケチ」
「焦らすのが得意なんだよ」
「私の事は散々焦らしておいて、何もしてくれないくせんに」
「姉様っ!?」
あぁ、権ちゃんもこのくらいなら理解できるのか。
そんな訳で、翌日昼過ぎ。
「輜重隊って、結構暇だよねー」
孫策軍の後方で、俺と三姉妹はゴロゴロくつろいでいた。
「そりゃ俺たちだからだよ。兵士だったら、立ち番とか見張りとか色々やんなきゃなんないし」
だらける天和に、俺は説明する。
「そうよ、姉さん。それに、私たちだって代金を貰ってるんだし、その分の仕事はやらないと」
人和も追随した。
「でもつまんなーい。ねぇ、兄貴。適当に人集めて、歌ってきてもいい?」
「怒られるからダメ」
「ちぇー」
地和も退屈そうに、そんな事を言い出す。駄目に決まってんだろ。つーか、曹操んトコとか元黄巾の奴らも大勢いるし、絶対バレるって。
「ひーまーーっ!」
ジタバタと暴れる地和。可愛いなぁ、もう。
「じゃ、ちょいと商売しに行くか」
「なになに!何するのっ?」
「弁当でも作って、袁紹んトコに売りつけに行こうぜ。アイツ馬鹿な上に見栄っ張りだから、多少高くても買ってくれるし」
「ちょっと、兄さん。勝手に輜重の食料を使ったら駄目よ」
「そこは問題ない。俺が商隊で運んでた積み荷があるだろ?アレを使う」
「じゃー、お姉ちゃんも作るの手伝う!」
「おー、天和の料理は美味しいからなー」
「いやーん、もっと褒めてー」
手を伸ばして撫でてやれば、抱き寄ってくる。可愛いなぁ、もぅ。
「よし、そうと決まったら、早速手をつけていくか。天和は料理の準備。地和と人和は、商隊の奴らを何人か見繕って、食材を運ばせてくれ。元黄巾の奴らなら、喜んで手伝うだろ」
「「「らじゃっ!」」」
さぁ、商売in反董卓連合の開始だ。
あとがき
TINAMI史上最も多くの読者にDisられた一郎太です。
あまりに辛辣な皆さんのコメントにより、心が折れそうなので、
金姫シリーズは、一旦投稿を停止させていただきます。
ご了承ください。
また精神的に落ち着いてきたら、再開したいと思います。
というのは冗談で、ストックが切れそうwww
話的にもキリがいいし、しばし休憩させておくれ_(:3)」∠)_
具体的に言うと、まだ#32までしか書いてないので、
#38~9くらいまで書き上がったら、反董卓連合編をうpしていこうかと。
という訳で、第3部はオシマイ。
ではまた次回。
バイバイ。
オマケ
お前ら雛里ん雛里ん叫んでるけど、
巨乳だって好きなんだろ?
オカズを用意してやったんだから、感謝しろや、オラ。
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前回のあらすじ。
みんなに虐められて心が折れたので、金姫シリーズが中途終了しそうな件。
今回のオマケ。
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