No.545488

道化師、集合をかける

友人からの手紙に呼び出され、待ち合わせ場所に向かう銀の槍。そんな彼を見て、その相棒たる道化師は話し合いの場を設けた。

2013-02-17 19:06:29 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:388   閲覧ユーザー数:376

 将志が書斎で仕事をしていると、うぐいす色の髪に赤いリボンの付いたシルクハットをかぶった少女が部屋に入ってきた。

 その手には赤い封筒が握られている。

 

「将志くん、君宛に手紙だよ♪」

「……俺宛の手紙? 誰からだ?」

「分かんないよ♪ でも果たし状とかじゃあないみたいだね♪」

 

 愛梨はそう言いながら将志に封筒を差し出す。

 

「……果し合いでなくても、面倒を運んでくる輩がいるから油断は出来んぞ? 天魔など、俺に流れてくる面倒事の八割方は奴が絡んでくるからな」

 

 将志は渋い顔を浮かべてそう言いながら封筒を受け取る。

 それを聞いて、愛梨は天魔の所業を思い返して苦笑いを浮かべた。

 

「きゃはは……天ちゃんは、ちょっとね……」 

「……まあいい、まずは中を見てからの話だ」

 

 将志は封筒を開けて中身を取り出し、手紙に眼を通した。

 するとしかめられていた表情が緩み、いつもの表情に戻っていく。

 少なくとも天魔からの手紙ではないらしい。

 

「……ねえ、誰からなのかな?」

「……静葉だ。冬が来る前に俺に会いたいそうだ」

 

 将志は愛梨に手紙の送り主の名前を告げる。

 すると愛梨はその名前に首をかしげた。

 

「静葉ちゃん? あ、いつも家に遊びにくるあの子だね♪ 確か神様なんだっけ?」

「……ああ。紅葉を司る神だ」

「そういえば、紅葉の神様って秋以外は何をしているのかな?」

「……普段はこれといった仕事が無いそうだ。だから普段は散歩をして、木々の様子を見ながら過ごしているらしい」

「それで、将志くんは会いに行くのかな?」

「……ああ。友人の誘いならば断る筋合いは無い。早速返事を書くとしよう」

 

 将志はそういうと、机の引き出しから便箋と万年筆を取り出して返事を書き始めた。

 

「……友達かあ……静葉ちゃん、結構油断ならないんだよね……」

 

 愛梨はそんな将志の様子を見ながらそう呟いた。

 最近になって静葉が将志に逢いに来る頻度が多くなっており、それに対して将志は仕事を切り上げてまで応対するようになっているためである。

 愛梨からして見れば、静葉の存在が段々と無視できなくなってきていたのだった。

 

「……うん、藍ちゃんや主様に相談してみよう♪」

 

 愛梨はそういうと、部屋に戻って藍と連絡をとることにした。

 

 

 

 

 

 所と日が変わって永遠亭の一室。そこにはピエロと狐と医者が集まっていた。

 三人は円陣を組んで座り、話し合いを始めた。

 

「というわけで、久々に集まってみたわけだが……今日は愛梨から報告があるんだな?」

「このメンバーを集めるってことは、将志関係ね?」

「うん、そうだよ♪」

 

 藍と永琳に問いかけられ、その両方を愛梨は肯定する。

 それを聞くと、藍は一つ頷いた。

 

「宜しい、それで議題は何だ?」

「実は……将志くんによく会いに来る女の子が居るんだ♪」

 

 愛梨のその言葉を聞いて藍は眉をしかめ、永琳は額に手を当ててため息をついた。

 

 あいつ、またか。

 

 二人の心境が百二十パーセントシンクロする。

 

「……なるほど、新しい女の影が現れたというわけだな?」

「……また増やしたのね……でも、今まであなたが報告に来るようなことは無かったわよね?」

「それがこの子の場合はちょっと変わっててね……直接うちにまで会いに来るんだ♪ それで最近頻繁に会いに来るようになったから、ちょっと相談してみようと思ったんだ♪」

 

 愛梨の報告を受けて、藍と永琳はそれぞれ考え込んだ。

 

「ふむ……ただ将志に口説かれただけ、と言うわけでは無さそうだな。それだけなら、そう何度もあんな辺境に会いに行くようなことはすまい」

「そうね……恐らくその子の心の相当奥深くまで将志の存在が食い込んでると思うわ。将志がその子に何をしたのか分かるかしら?」

「……それが六花ちゃんから又聞きした話なんだけどね……」

 

 愛梨は六花が諏訪子から聞いた将志の出雲での顛末を二人に話した。

 落ち込む静葉を励ます将志の話を聞いて、二人は頭を抱えた。

 

「……存在意義の肯定か。懐く理由としては十分すぎるな……」

「本当に将志はあっさりと女の子を落とすのね……けど、論点はそこじゃないわ」

 

 永琳の言葉に藍が顔を上げる。

 

「どういうことだ?」

「確かに将志に好意を持っていることはこれで分かるわ。でも、その子が抱いているのは本当に恋心なのかしら?」

「あ、そっか♪ 六花ちゃんやアグナちゃんみたいに、ただ懐いてるだけってこともあるんだよね♪」

 

 愛梨は楽観的な表情を浮かべてそう言う。

 すると、藍がその言葉に意義を唱えた。

 

「……私としてはアグナは十分に怪しいと思うがな? あの好意の示し方は家族にするにしてはやはり異常だ。それに家族とは言っているが、解釈によってはとんでもないことを言っているようにも聞こえるぞ?」

「とんでもないこと?」

「その家族というのが、嫁を指す場合だ。アグナの性格では考えにくいことではあるが、それすらも演技だと考えれば……」

 

 首をかしげる愛梨に、藍は自身が想定する可能性の一つを提示する。

 するとしばらくして、永琳がその意見に首を横に振った。

 

「……流石にそれは考えすぎだと思うわよ。もしそうなら、アグナはとっくにキスの先を狙っていてもおかしくは無いわ。けど、アグナはそれをしない」

「でも、お互いに好きだから良いじゃん、って言って将志くんにキスしてるんだよ?」

「その先のことに関しては、実はもう私が先手を打ってあるのよ。その先のことは、結婚した相手とすることだって教えてあるわ」

 

 永琳はアグナに施してある策の一つをここで公表する。

 それを聞いて藍はうなずき、愛梨はホッとした表情を浮かべた。

 

「つまり、アグナがそれを素直に受け入れていたとしたら、夫婦間でないと行為には至らないということになる。ということは、本当にただの家族としてしか見ていないということになるな」

「そうだね♪ アグナちゃんは純粋だから、そのあたりのことは安心していいと思うよ♪」

「けど、アグナは自分が将志に抱いているのが恋心だって気付いていないだけという可能性もあるから、油断は出来ないわよ? 何て言ったって、アグナにとっての一番も将志なのだから」

「……油断はならんということだな。もし敵に回ったとしたらあの積極性は脅威だぞ?」

 

 アグナの純粋な性格はこの場に居る全員の知るところである。

 そしてアグナはキスを自分の一番好きな異性に対して行うものとして認識している。

 つまりアグナが一番好きな異性は将志であると言うことである。

 もし、本人が将志を家族ではなく恋愛対象としてみていた時には強力な恋敵となったであろうことは想像に難くなかった。

 

「でも、あの体型では将志にその手の趣味が無い限りは手出しはしないと思うわよ」

 

 藍の懸念に、永琳はそう言って反論した。

 すると、愛梨と藍は揃って首を横に振った。

 

「主様……アグナちゃんの封印が解けたらそんなこと言えなくなるよ?」

「そうだな……正直、ああまで変わるとは思わなかった……」

 

 そう話す愛梨と藍の表情は固く、事態の深刻さを物語る。

 その様子に、永琳は首をかしげた。

 

「……そんなに変わるのかしら?」

「あのね、六花ちゃんよりもスタイルが良くなるんだよ?」

「正直、あれは桁違いだ。あの体型を武器に使われれば大抵の男は堕とせるだろうな。普段封印されていて幼児体型なのがせめてもの救いだよ」

 

 愛梨と藍は封印が解けたときのアグナの体型を思い浮かべてため息混じりにそう話した。

 永琳は自らが知っているスタイルの良い女性の筆頭である六花よりも良いと聞いて、陰鬱なため息をついた。

 

「そう……私もそれなりに自信はあったのだけど、それでも厳しいのね……」

「確かに、永琳も随分といい体型をしているな」

「きゃあっ!?」

 

 突如として、藍は永琳の背後に回りこんで胸に手を伸ばした。

 藍の手の中でぐにぐにと永琳の豊かな胸が形を変える。

 

「ふむ、程よい揉み心地だな。あの将志よりも長く生きているにしては張りがある」

「はぁ、んっ、ち、ちょっと、いきなり揉むことは無いじゃない?」

 

 すると永琳はその手を払って飛び上がるように立ち上がった。

 自身の胸を守るように手で抱え、真っ赤な顔で藍に抗議の視線を送る。  

 

「いいなぁ、みんな……ちくしょー……」

 

 その様子を見て、愛梨は自分の胸をペタペタと触りながら涙を流した。

 それを聞いて、藍は愛梨のほうに向き直った。

 

「む? 愛梨は胸が小さいのがそんなに不満か?」

「え? うきゃあ!?」

 

 藍は素早く愛梨の背後に回りこみ、胸を掴む。

 突然の出来事に、愛梨は上ずった声を上げた。

 

「なるほど。確かに控えめで外からは目立たなくはあるが、触ってみればきちんと柔らかい感触があるじゃないか」

「あっ、やめっ……やぁ……」

 

 藍はブラウスの中に突っ込んだ手をくにくにと動かす。

 すると愛梨は途切れ途切れの艶っぽい声を上げながら抵抗しようとする。しかし藍は愛梨の小さな体をしっかりと抱え込んでおり、離れない。

 しばらくすると、愛梨の顔が上気したものに変わり呼吸が激しく乱れ始めた。

 

「おや、随分と感度が良いな。ふむ、これ以上続けると恐らく耐えられまい。この辺にしておくとしよう」

 

 そんな愛梨の様子を見て、これ以上は持たないと判断して手を離す。

 藍が手を離すや否や、愛梨は倒れそうになって床に手を着いた。

 

「はぁ……はぁ……もうっ……」

 

 愛梨は乱れた呼吸を整えながら、涙眼で藍を睨む。

 床に着いた手は震えており、力が上手く入っていないようであった。

 

「それで話が思いっきり逸れたけど、将志に会いに来ている子はどんな感じなのかしら?」

「ちょ、ちょっと待って……ふぅ……」

 

 愛梨は大きく深呼吸をして乱れた呼吸を整える。

 その少々大げさな様子に、藍は思わず苦笑いを浮かべた。

 

「そんなに激しくしたつもりはないのだが……」

「そ、そんなこと言われてもな~……僕、他人に触られたりするの慣れてないし……」

 

 藍が眼を向けると、愛梨は両手で胸をかばって後ずさりをしながら藍に答える。

 

「慣れていないにしてもだ、愛梨のそれは明らかに過敏すぎるぞ? 弱点であったとしてもこの程度でこれでは……」

 

 藍は半ば呆れ顔で愛梨にそう言った。

 すると、永琳がその話を遮るように咳払いをした。

 

「ちょっと、また話が逸れてるわよ? 大事なのは私達の事ではなくて将志のことでしょう?」

「おっと、そうだったな。それで、実際どうなんだ?」

「う~ん……たぶん、あの子は将志くんに惚れてると思うよ♪ 将志くんが居るのと居ないのとでは表情が全然違うもんね♪ あの笑顔は好きな人に見せる笑顔だよ♪」

 

 愛梨は将志と話している静葉の表情を思い出してそう答える。

 それを聞いて、藍はため息をついた。

 

「黒か。だとすればどうする? どうにかして遠ざけるか、仲間に引き込んでしまうかの二通りが考えられるぞ?」

 

 藍はそう言って他の二人に意見を求める。

 しばらくの静寂の後、永琳が口を開いた。

 

「……鈍感なようで鋭いのが将志よ。そして何より、将志は人の悩みを聞きだすのが上手い。下手に遠ざけようとすると将志はすぐに感づくわよ。そうなるくらいなら、いっそ味方に引き込んだほうが二重の意味で得でしょうね」

「二重の意味?」

「正直に言って、将志が自分から他の女の子に靡くとは考えづらいわ。確かに将志は無意識に口説くけど、将志自身の心が口説いた子に移るわけではないからね。むしろ、女性に興味を持ってもらうことのほうが余程重要よ」

「だが、愛梨が話すような積極的な奴が出てくるとなると話は違うぞ? 将志はとある一線を越えると急に態度が軟化する。つまり、友人と認識される前に何とかしないと敵を増やすことになるというわけだ」

「けど、親友って認められてるともっと違うと思うよ? だって、将志くんは僕達とゆゆちゃんやてゐちゃん達でやっぱり態度が違うでしょ? だからそこまで焦る事はないと思うけどなあ?」

 

 二人の意見を聞いて、藍は考え込む。

 しばらく考えて、藍はゆっくりとうなずいた。

 

「……確かにそうだ。だが、その点で言うと量りかねるのが約一名居るな」

「そうなのかしら?」

「う~ん……あ、もしかして……」

 

 藍の言葉に永琳は首をかしげ、愛梨は思い当たる人物が居たようで声を上げる。

 その愛梨の声に、藍は答えを告げる。

 

「天魔だよ。一番将志が遠慮なく付き合っているのは間違いなく彼女だ。何しろ、あの将志が礼儀すら投げ捨てるくらいなのだからな」

「そういえば将志くん、天ちゃんにだけはつらく当たるね……」

 

 将志の天魔に対する待遇を思い出して、愛梨はそう呟いた。

 しかし、それに対して永琳が否を唱えた。

 

「……それは違うと思うわよ? だって、将志は本当に関わりたくないなら逃げるはずだもの。だから将志は嫌な顔をしてるけど、心のどこかで相手に好意を持っていると私は思うわ」

「こちらは天魔が将志を仲の良い友人としか見ていないし、当分は問題はないはずだ。となると、やはりその新しい女をどうするかだ。で、永琳は仲間に引き込もうと言うのだな?」

 

 天魔に関してのひとまずの結論を告げ、藍は永琳に意思の確認を取る。

 それに対して永琳はうなずいた。

 

「ええ、そうよ。まずは競争相手以前の、最も難しい問題を解決しないといけないわ。将志を女に興味を持たせるという難題をね」

「そうだね……とうとう将志くん、キスくらいじゃ全然動じなくなっちゃったもんね……」

「あれだけ露骨に愛情表現をしているのに、未だに全員親友止まりだからな……それに将志は恋人どころか一番の親友までしか見ていない。これではそこに男が座ったりしたら眼も当てられないぞ?」

「それなのだけど……将志はどうにも恋愛と友愛の区別がついていないみたいなのよ。当たり前に恋愛感情を向けられるものだから、自分の中で恋愛感情と家族愛と友情が混ざり合って、何が何だか分からなくなっているみたいよ?」

「なるほど、つまり将志は愛情は理解するが恋心を理解するには至っていないということか……となると、根気よく攻めて行くしかないか」

 

 三人は深刻な表情で将志が抱いているであろう感情について討論する。

 一向に解決の糸口が見えない問題に、三人の表情は沈む。

 そんな中、愛梨が一つの疑問を投げかけた。

 

「そういえば、将志くんはどんな女の子なら恋してくれるのかな?」

「……皆目見当もつかんな」

「どうなのかしらね? 私も好意を向けられている自覚はあるけど、恋愛感情は無さそうよ」

「一つ分かることは、みんな今のままじゃダメだってことだね……」

 

 愛梨からの質問は、三人に現状からの変化が必要だと言うことを確認させるだけにとどまった。

 すると、永琳から質問の声が上がった。

 

「そうだ、将志に会いに来てる子はどんな性格なのかしら?」

「えっと、とっても静かな子だよ♪ 将志くんと一緒に居る時もあまりしゃべらないで、隣でぼーっとしていることの方が多いかな♪」

「将志の方からは何もしないのか?」

「将志くんもお茶とお茶菓子を出した後は隣に座って日向ぼっこしてるよ♪ 何と言うか、しゃべったりくっついたりはしないんだけど、そこに居るだけで空気が和む感じがするんだ♪」

 

 静葉が将志と過ごす時間は、その大半が日の当たる縁側での日向ぼっこである。

 この場に居る三人のように話したりじゃれ合ったりせず、ただゆったりとした穏やかな時間を過ごすのである。

 その話を聞いて、永琳は笑みを浮かべてうなずいた。

 

「……なるほどね。私達とは全然違うタイプの子なのね。なら、ますます協力してもらわないといけないわね」

「ああ、そうだな。将志の好みを調べる手伝いをしてもらわないとな」

「キャハハ☆ そうだね♪ じゃあ、今度連れてくるよ♪」

「ええ、頼むわよ」

 

 三人はそう言って笑いあう。

 

「ふむ、それでは次はいつもの報告会と行こうか」

 

 そして、議題を変えてまた話し合いが始まるのだった。

 

 

 

 そんな三人を遠巻きに眺めるものが居た。

 

「……あの、師匠達は何をしてるんですか?」

 

 鈴仙は三人の様子が気になって仕方がない様子で、傍でお茶を飲んでいる輝夜とてゐにそう問いかける。

 

「気にするものじゃないわよ」

「そうよ鈴仙。あれは末期患者の集いなんだから」

 

 それに対して、輝夜とてゐはさして気にした様子もなくそう告げた。

 

「???」

 

 鈴仙は話の意味が分からず、首をかしげるのだった。

 

 後日、この末期患者の中に一名の新参者が入ることになるのだが、それは別の話。

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、妖怪の山。

 将志は静葉からの手紙により、呼び出された場所にやってきていた。

 

「……いつ見ても、ここの紅葉は素晴らしいな」

「……気に入ってもらえて嬉しい……」

 

 将志が周囲に広がる色鮮やかな赤と黄色のコントラストにそう呟くと、横から少し嬉しそうな小さな声が聞こえてきた。

 将志がそのほうを向くと、そこには紅葉の髪飾りを付けた静かな紅葉の女神が立っていた。

 

「……居たのか、静葉。待たせてしまったか?」

「……今来たところ……」

 

 将志の言葉に、静葉は微笑をもって返す。

 そんな静葉に、将志は質問を重ねる。

 

「……ところで、今日はいったいどうしたのだ? 普段ならば直接俺の社に来るだろうに」

「……今日は少し仕事に付き合って欲しい……」

「……仕事だと?」

「……来年はどんな風に紅葉をさせるか、一緒に考えて欲しい……」

 

 静葉の言葉を聞くと、将志は納得がいったようにうなずいた。

 

「……ああ、なるほど。それで一緒に紅葉を見て回るために散歩をしようと誘ったわけだ」

「……(こくり)」

 

 将志の言葉に静葉は小さくうなずく。

 それに対し、将志は笑顔を浮かべた。

 

「……ふむ。ただ散歩をするのもいいが、そういう風に意識して紅葉を楽しむのも面白そうだ。喜んで付き合わせてもらうよ」

「……ありがとう……」

 

 静葉が微笑を浮かべて礼を言った。

 

「……では、ゆっくりと見て回るとしよう。弁当も二人分作ってきてあるから、今日一日丸々使ってもらっても構わないぞ」

「……(わくわく)」

 

 将志が手にした赤い包みを見せながらそういうと、静葉は楽しそうに歩き出した。

 将志はその後ろから歩いてついて行く。

 

「……将志……」

 

 ふと、静葉は立ち止まって将志のほうへと向き直る。

 

「……どうした?」

 

 その言葉に、将志も足を止める。

 

「……手……」

 

 静葉はそう言いながら将志に向かって左手を差し出す。

 

「……ああ、良いぞ」

 

 それに対して、将志は笑顔で右手を差し出す。

 

「……じゃあ……」

 

 静葉は柔らかい笑みを浮かべながら将志と指を絡めるようにして手を繋ぐ。

 

「……では、行くとしようか」

「……(こくん)」

 

 二人は笑顔で視線を交わすと、色鮮やかな落ち葉が舞う山の中へと歩いていった。


 
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