#26
春蘭と仕合を行い、曹操たんに殺されそうになってから、また時間が流れる。散々ボコられた後で出店の許可をもらったので、空き家を借りて店を出した。とはいえ、最初の予定の通り、空き家自体は使わない。家の前に焼き場のある屋台を作り、火を焚いて焼鳥を焼いているくらいだ。
「へいっ、モモ、ハツそれからネギ3本、お待ちぃ!」
そして、夜には立ち飲み屋を展開している。焼き場の半分に鉄板を置いて、さらにその半分には鍋を乗せてメニューも増やす。儲けとしてはこの方がよいのだが、昼間は皆ゆっくりと食事をとる訳ではないので、歩きながら口に出来る焼鳥か焼きおにぎりを売るくらいだ。
「来たぞ、一刀!」
「おう、春蘭に秋蘭ちゃん、いらっしゃい」
そして今は、夜である。つまりは立ち飲み屋を営業しており、仕事を終えた城の要人なんかも来たりする。ちなみに、春蘭との勝負と曹操たんによる
「いつものを頼む」
「私は肉だ!出せるだけ出せ!」
「他の客の分があるから程々にな。ほら、席は準備してあるから入りな」
2人から注文を受け、家の中へと通す。そんな事をすれば当然、
「おい、北郷さんよ。なんであの嬢ちゃんたちは中に入れるんだ?」
「そりゃあれだろ。北郷の兄ちゃんだって若いんだ。美人が来たらもてなすんだろうよ。俺たちみたいなムサイ男とは違ってな」
彼女らよりも前に来ていた客の男たちから、疑問の声が上がる。あぁ、こいつらは知らないんだな。
「いや、これはおっちゃん達の為でもあるんだぜ?」
「どういう事だ?」
「お前にはカミさんがいるじゃねーか。変な気を起こさないように、気を使ってくれてんだろ」
そう言って笑い合う男たち。いいから人の話を聞きやがれ、このクソ酔っ払い共。
「そう怒んなって。で、実際のところは?」
「あの2人な……夏候惇様と夏侯淵様だぜ?」
「……へっ?」
俺の口から出て来た名に、お客さんたちは呆ける。
「酔っ払って下手な事を口走りでもしてみろ」
俺は真面目な顔で、首に親指を当て
「――こうなるぞ」
それを真横に振る。
「「「「「 」」」」」
「それとも、おっちゃん達も店の中に入りたいか?」
「「「「「っ!」」」」」
問えば、凄い勢いで首を横に振り、
「……そ、そろそろ帰らねぇとかみさんに叱られちまう。じゃぁな、北郷さん。また来るぜ」
「お、おぉ、そうだな……うちもおふくろが怒りだしそうだ。ごちそうさん」
酔いも醒めてしまったのか、三々五々と帰って行く。
「3日に1回くらいしか来ないから、残り2日を狙って来ておくれー」
最後に負け犬の遠吠えよろしく声をかけるが、さて、また来てくれるのかね。
「春蘭たちの方が金払いがいいから別に気にしてないし!……チクショウ」
煙に目をやられ、俺はこっそりと涙を流すのだった。
「――私たちは、あまり来ない方がいいか?」
「秋蘭ちゃん」
パタパタと手作りの扇で赤くなった炭を
「聞こえてたのか?」
「まぁな」
「気にしなくていいよ。あいつらは常連だし、聞いた通り、秋蘭ちゃん達が来ない日には来てくれるさ。それに昼間だってある」
「そうか、すまないな」
「だから気にしなくていいって」
軽く笑いながら、俺は酒を準備する。
「それより、こうなったら今夜は他に来ないだろ。こっちに出てきなよ。椅子も出していいから」
「……そうだな。風に当たりながら飲むのも悪くない」
俺の誘いに頷き、秋蘭ちゃんは中に戻って行った。春蘭を呼びに行ったんだろうな。
『今日は外で飲むのか!それもまたよしっ!』
そんな春蘭の声も聞こえてくる。そして。
ガタガタッ!……ドガァアアアッッ!!
「おぃ」
「姉者…」
「……あれっ?」
背後の扉が音を立てて破壊された。振り返れば、椅子と卓を抱えた春蘭。どうやら出入口のスペースを把握してなかったらしく、卓がぶつかったのだろう。
「春蘭、正座」
「いやいやいや、これはな、一刀」
「正座」
「地面にか?痛そうなのだが……」
「正座」
「……はぃ」
「正座」
「してるぞっ!?」
串をくるくるとひっくり返しながら、俺は春蘭に説教をかます。秋蘭は俺の出した酒を飲みながら、困ったような、それでいて楽しげな顔で見ていた。
「――うー…まだ足を解いてはならぬのか?」
「ダメ」
春蘭が持ってきた卓に料理を出し、酒も追加で置く。秋蘭ちゃんは卓に添えられた椅子に、俺は焼き台の前に置かれた椅子に、春蘭は地面にそれぞれ座っている。
「お腹空いてるのに……」
「ハァ…ハァ……可愛いよ、姉者」
秋蘭ちゃんは早速酔っているようで、哀しげな瞳の姉の姿に恍惚としていた。
「一刀ぉ…」
春蘭が泣きそうな顔で見上げてくる。可愛いなぁ、もぅ。
「……仕方がないな」
「じゃぁ――」
「ほら、あーん」
「――私も席に……って、え?」
可哀相なので、俺は焼いた串を春蘭に向けて差し出す。
「あの、一刀……えっ?」
「要らないのか?じゃぁ、俺が食べようかな」
「い、いるっ!いるから!」
「じゃ、あーん」
「あ、あーん……」
俺のSっ気に、春蘭はエサを与えられる雛鳥のように口を開く。その顔は赤い。
「可愛いよ、姉者…ハァ……ハァハァ」
「あー……んむっ」
「美味いか?」
「んぐんぐ…おいしぃ……」
「そうか。じゃぁ、今度はこっちのモモ串をやろう。はい、あーん」
「あー…あむっ!」
「姉者ぁ…ハァハァ……」
秋蘭ちゃんは相変わらずエロイ表情。可愛いなぁ、もぅ。
「次は…」
「ん?」
「次は、ネギまがいい……」
「おぅ。ほら」
「あーん……はむっ!」
そんな事をしていれば。
「――――私の春蘭に、餌付けなんてしないでくれるかしら?」
横合いから掛かる声。
「華琳様、お疲れ様です」
「か、華琳様っ!?」
「遅くなったわね」
曹操たんだった。
「それより、これはどういう状況なの?」
「はい。実は――――」
問われ、秋蘭ちゃんが説明をする。春蘭ちゃんは恥ずかしそうにモジモジしているが、俺のひと睨みに動けないでいた。
「はぁ…何をしているの、春蘭……」
「か、華琳さ、あむっ!?」
呆れ返る曹操たんに、春蘭はなんとか言い訳をしようとする。だが、俺は肉の刺さった串をその開いた口に突っ込む。
「あむ、んぐ…その、これはそういう訳ではなく、えっとですね、はむっ」
「ほーら、しっかり噛んで食べるんだぞー」
「一刀が、んむ…ムグムグ……今日は外で飲まないかと」
「あーん」
「あーん、あむっ」
そんな事を繰り返していれば。
「うちの娘を調教しないで」
「だって、可愛いだろ?」
「あーん」
「それは認めるけど……」
椅子をもう1脚出し、曹操たんに席を献上。
「それより、1人で来たのか?」
「えぇ、それが?」
「いや、春蘭と秋蘭ちゃんなら、きっと護衛も兼ねて一緒に来そうだったのに」
「私の分の仕事が長引いてね。2人は待つって言ってたけど、命令したの。先に行きなさいって」
「おぉ、凄い御方だ」
日本の管理職の奴らにも見習わせたいね。
「でも、まさか曹操さんが来るとはな」
酒を出しながら、そんな事を口にする。
「あら、私が来てはいけないのかしら?」
「だって、曹操さんは美食家だって聞いてるし、こんな安居酒屋なんて来るわけもないと思ってたよ」
「あーん」
「春蘭がいつも楽しそうに話すの。興味を惹かれるのは当然でしょう?」
「でも、春蘭の舌だぞ?」
「あーん」
春蘭はいまだ正座中。相変わらず俺に餌付けされていた。
「いいのよ。不味かったら指摘するから」
「うっわ、凄い嬉しそう……」
相当なドSだな、このツインテール。
「それより、私の串はまだなの?」
「いま焼いてるよ」
「あーむっ」
「春蘭に食べさせてるじゃない」
「これはさっき焼いたやつ。冷めてるから、しばしお待ちを」
「出来立てを出そうという心意気は評価してあげる」
「プロですから」
「?」
そんな訳で、上手に焼けましたー。
「はい、お待ち」
「頂くわ」
緊張の一瞬だねぇ。ま、結果は目に見えてるけど。
「……5点ね」
「5点満点の?」
「どうしたらそんな
ほらねー。
「何が悪い?」
「まず、素材が駄目」
「だって安いし」
「味付けも塩だけで、つまらないわ」
「お酒のアテは、
「それに焼き過ぎ。硬い」
「春蘭ちゃんに食べさせてあげないと」
「いや、それはどうなのよ……」
色々と注文をつけてきますね、この娘は。
でもさぁ。
「何よ」
「春蘭と秋蘭ちゃんは美味しいって言ってくれてるよ?それに他のお客さん達も」
「春蘭はともかく、秋蘭は優しいのよ」
おい、青髪チャイナが目を逸らしてるぞ。
曹操たんの
「酒は及第点だけれど、料理はダメね。私の口には合わないわ」
「じゃぁ、聞くけどさ」
「なによ」
でも、俺だってMじゃないんだぜ?
「1人の兵と100人の兵、どちらかしか助けられないならどうするの?」
「なに、その質問?100人の方に決まってるじゃない。その方が、後に続かせられる」
「たった1人の賢者しか理解できない政策と、100人の民が理解し、満足できる政策。どっちを採用するの?」
「後者よ。民が結果として実感できない政策など、無意味以外の何ものでもないわ」
「たった1人の
「後者ね。……って、ちょっと待――」
「はい論破ー」
「待ちなさい!いまのは釣られただけよっ!」
「はい、春蘭。あーん」
「あー、んっ!美味いぞ、一刀。もっとくれ」
「聞きなさいよ!」
「さっき焼き上がったばかりのがあるからな。たくさん食べてくれ」
「おうっ」
「それは私の料理よっ!?」
「だっていらないんだろ?ほい、あー」
「そんな事言ってないじゃない!」
「あー、ぁむっ!」
「可愛いなぁ、春蘭」
「撫でるな!照れるではないかむっ!?」
「美味しい?」
「おいひぃ!」
「可愛いなぁ」
「可愛いよ、姉者……ハァハァハァ」
「聞きなさいよぉぉおおおおおおっ!!!」
夜なんだから、もっと静かにしなさい。
あとがき
素直な春蘭ちゃんの可愛さは異常。
ギャグパートでいじられる華琳ちゃんの可愛さは異常。
という訳で、春蘭ちゃんと秋蘭ちゃんが大好きな一郎太です。
ホントはこの次のと一緒にあげるつもりだったんだけど、
次のが思ったよりも長くなったのと、話数稼ぎで単独の話に。
つまりは#27も魏partで。
ではまた次回。
バイバイ。
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前回のあらすじ。
説明をお断りします(゚ω゚)
という訳で、今回は休憩回。
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