“コンコン”
2月の13日が終わり、学校もあるのでそろそろ寝ようとしている所へ部屋のドアがノックされた。
「義之くん、まだ起きてる?」
「アイシアか? まぁ、起きてるぞ、どうした?」
「えへへ、入るね」
どうやらアイシアだったようだ。
まぁ、この家には俺以外はさくらさんとアイシアしか住んでいないのでそのどちらかなのだが。
たまに音姉や由夢も来るがこんな日付がかわってすぐの時間に来るなんてことはないしな。
「眠れないのか?」
「むぅ、違うよ。ただ今日は義之くんはいっぱいもらうんだろうなぁって思ったから。あたしは誰よりも早く渡したくて」
「……今日? 今日って何かあったっけ?」
アイシアの機嫌が悪くなっていってるので何とかしたいが、考えても今日が何の日なのかさっぱり出てこない。
部屋に入ってきたときは笑っていたアイシアが今は頬を膨らませていかにも怒ってます、という表情になっていた。
「もぉ、今日はバレンタインでしょ。せっかく愛情たっぷりの手作りチョコをもってきたのに……」
そう言えば、今日はバレンタインだった。
アイシアに言われなければすっかり忘れていたが。
「そう言えばそうだったな。でもこんな時間に渡しに来なくても良いのに……」
「だって、やっぱりいちばんに渡したいじゃない。義之くんはいっぱい貰うだろうし。音姫ちゃんに由夢ちゃん、それに杏ちゃんたち」
「まあ、音姉たちからは義理チョコくらいは貰えるでしょうけど」
「全くあたしという恋人がいながら……」
アイシアが全く痛くないパンチを繰り出してくる。
「ほんとに義理チョコだし、それに杏や茜はそれを理由に来月何を要求してくるか」
音姉や由夢は大丈夫だろうがあのふたりはホワイトデーに何を言ってくるかわかったもんじゃないから素直に喜べないんだよな。
そりゃ、貰えないよりは貰えたほうが嬉しいけど。
「……それにさ、やっぱり音姉たちから貰うものよりアイシアから貰えたもののほうが嬉しいからさ」
「ほんとに? ほんとに他のひとから貰うよりもあたしからのほうがうれしい?」
「当たり前だろ。他の誰から貰えるチョコよりアイシアがくれるチョコのほうが何倍も嬉しいよ」
「じゃあ、証明してみせて」
そう言って目を閉じるアイシア。
俺がアイシアを抱きよせ、そっとキスしようとしたところで
「ハッピーバレンタイン、義之くん。ボクが愛情をいっぱい込めたチョコレートもってきてあげたよ。……あれっ? もしかしてお邪魔だった?」
……ノックもなしにさくらさんが入ってきた。
せっかくのところを邪魔されたアイシアは不機嫌なのを隠そうともせずにさくらさんに文句を言っている。
「何でさくらはいつもいつも良いところで邪魔してくるの?」
「偶然だよ、偶然。ボクだって狙ってやってるわけじゃないんだから」
笑いながらさくらさんはそう答えたが正直狙っているとしか思えないタイミングでいつも現れる。
アイシアが不機嫌になるのもわかる気がする。
「それより、はい、チョコレート。ほんとはボクがいちばんに義之くんに渡す予定だったんだけどなぁ。アイシアに先越されちゃった」
「へへぇん。まぁ、あたしのほうが義之くんを愛してるってことだよ。あたしの愛がさくらに負けるなんてありえないけど」
「何言ってるんだかアイシアは。母の愛は何物にも勝るんだよ。それに義之くんはボクから貰えたほうが嬉しいよね?」
さくらさんが面白がってそう聞いてくる。
さくらさんの顔を見ればさくらさんがわざとそうしているのはわかった。
アイシアは不安と期待が混ざったような表情をしていた。
俺はアイシアの名前を呼ぶとそっと彼女にキスした。
「にゃはは、見せつけてくれちゃって……」
そう言いながら俺たちはみんな笑っていた。
end
お読みいただきありがとうございます。
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1日遅れましたが、バレンタインのお話です。
自分はやっぱりこの3人が好きなんだなぁと思いました。
……義之と暮らしたいなぁ。