No.544458 ソードアート・オンライン フェイク・オブ・バレット 第七話 シノンの涙やぎすけさん 2013-02-15 00:31:35 投稿 / 全2ページ 総閲覧数:10316 閲覧ユーザー数:10202 |
シノン視点
私は今、廃墟ビルへ向かって走っている。
先ほどデュオと死銃の十数秒の戦闘を見た後、成り行きで死銃を先に排除しようということになった。
キリトが接近戦で仕掛け、私が近くの廃墟から狙撃するという作戦だ。
作戦開始は30秒後(すでに10秒近く経っているので、あと20秒程度)
私は壊れた車の残骸などを遮蔽物にして、ビルへと急ぐ。
攻撃を受けることなくビルの前に着くと、私はそのまま中に入ろうとした。
その時、視界の左の方で何かが光った。
反射的に左手を持ち上げると、持ち上げた腕に激しい衝撃が伝わる。
シノン〈撃たれた・・・!?〉
咄嗟に目の前のビルに飛び込もうとしたが、なぜか脚が動かずその場に倒れてしまう。
すぐに体を起こそうとするが、体が言うことを聞かない。
私はどうにか動かせる両眼を使って、ダメージ感のあった前腕部を見る。
デザートカラーのジャケットを貫いて突き刺さっていたのは、銀色の針のような物体だった。
根元の部分が青白く発光し、そこから発生するスパークが私の全身に流れ込んでいる。
シノン〈これは、電磁スタン弾・・・!?でもなんで・・・あいつは北側にいるはずじゃ・・・!?〉
私は理解ができなかった。
先ほどの衛星スキャンでは、南側から私を攻撃できるプレイヤーは存在しなかったはずだった。
一体、誰がどうやって、こちらを攻撃したのか。
その問いに答えたのは、ひとつの光景だった。
明らかに何も存在しなかった空間に光の粒が流れ、何者かが突然出現したのだ。
シノン〈メタマテリアル
装甲表面で光そのものを滑らせ、自身を不可視化するという究極の迷彩能力。
一部の超高レベルボスモンスターだけが持つ技だったはずだが、その効果がある装備が存在していても不思議ではない。
風に翻るダークグレーの毛羽だった布地が、半ば混乱している私の思考を遮る。
光歪曲迷彩を解いて現れたのは、キリトが今戦っているはずの、そこにいるはずのない、あの【ぼろマント】、【死銃】。
ゆっくりとたなびくマントの内側には、サプレッサーが取り付けられた大型ライフル【サイレント・アサシン】が見て取れる。
ざり、という言う足音を立てて、ぼろマントが滑るような動きで近づいてくると、幽霊のような立ち姿が、私の2mほど前に停止し、ペイルライダーの時と同じ動作で十字を切り始める。
そして十字を切り終えると、右手をマントの内側に突っ込み、引き戻し始める。
だが、私も黙って見ている気はない。
スタン効果で麻痺しながらも、懸命に右手を動かして、腰に下げたMP7を掴み持ち上げていく。
しかしその動作は、死銃が取り出した黒い自動拳銃によって中断させられた。
シノン〈なんで・・・あの銃が・・・〉
死銃が取り出したのは、何の変哲もないハンドガン。
大口径の【デザート・イーグル】や【M500】などではない。
でも、私にとっては大きな意味を持った銃、【
それに気づいた瞬間、私の全身から力が抜けていった。
力を失った右手から、最後の望みであるMP7が滑り落ちた。
死銃はハンマーを起こすと、銃身をこちらに向けてくる。
死銃「・・・キリト、デュオ。お前らの狂気、もう一度見せてもらうぞ。」
それだけ言うと、死銃はゆっくりトリガーを引いていく。
だが、予想外の出来事が死銃の行動を遮った。
後ろから飛来した赤色の太い光線が死銃の横を通過していったのだ。
突然の攻撃に対して、死銃はすぐビル壁に空いた大穴に隠れる
そしてヘイシンを仕舞い、サイレント・アサシン取り出すと、私から見ても無駄のない動作でマガジンを交換し、自分を攻撃したプレイヤーに向けて放つ。
シュコッという減音された銃声が響くのと同時に、今度は光線ではなくグレネードが飛来する。
それを確認すると、ビルの奥に引っ込んだ。
だが、またも予想外のことが起こった。
炸裂したグレネードは、ダメージを与えるためのプラズマやナパームではなく、無害な煙を放出するスモークグレネードだった。
シノン「・・・!!」
たちまち視界が真っ白な煙に包まれ、私は息を詰める。
逃げるならこれが最後のチャンスだろうが、今の私は立つどころか刺さっている針を抜く気力も残されてない。
先ほど見た死銃の姿が、私の気力を根こそぎ奪ってしまったのだ。
もはや思考らしい思考すらもできず、ただ目を開いて転がるだけとなった私の左手を誰かが握った。
直後、すさまじい加速感とともに耳元で風が唸る。
たちまち周囲のスモークが晴れ、回復した視界に自分を横抱きにして走るプレイヤーの姿を捉えた。
白いスーツが似合いそうな老紳士の右手には、ステッキではなく見たこともない形状の銃が握られてる。
全体的には闇風が使っている【キャリコ・M900A】に似ているが、木製のパーツはなく、代わりに謎の部品と巨大なマガジンがついている。
それを右手に持った老紳士は、左手で私を横抱きにして走る。
笑顔しか想像できない顔には、爆発しそうな怒りが宿っている。
シノン〈デュオ・・・〉
呼びかけようとしたが、声が出なかった。
すると、代わりにデュオが私に呼びかけてきた。
デュオ「シノン、大丈夫か?」
その声が聞こえた直後、飛んできた弾丸がデュオの右頬、目の3cm下を掠めた。
赤いライトエフェクトが発生し、デュオのHPが僅かに減少する。
デュオ「ちっ・・・!!」
デュオはライトエフェクトが発生している傷口を親指ではじくと、腰から銀のリボルバーを取り出して後ろに向ける。
次の瞬間、銃声が響いたかと思うと、キーンという金属音が聞こえた。
立て続けに5回銃声が響き、内2回は先ほどとまったく同じ金属音が聞こえた。
銃を撃ちながらも、デュオは決して足を止めようとしない。
シノン〈・・・もういいよ。置いていって・・・〉
そう思ったもののやはり声は出なかった。
デュオは私を抱えたまま円形スタジアムの東側を回り、廃墟の北側に出ると半ば壊れたネオンサインを目指して走る。
ネオンサインの近くまで走ると、デュオが飛び上がった。
そして、モータープールに停めてあった三輪バギーに飛び乗ると、流れるような動作で私をリアステップに乗せ、エンジンをかける。
デュオ「シノン、摑まれ!」
強く響いたその声に、私はデュオの胴を抱く。
デュオがアクセルを踏み込み、太い後輪から甲高い音と白煙を上げてバギーは走り出した。
廃墟から脱出して10分がたった。
脱出までに死銃の追撃がなかったのは、キリトが時間を稼いでくれたのかもしれない。
デュオは辺りを見渡して、少し離れた場所に赤茶けた岩山を見つけた。
デュオ「あそこで回復しよう。たしか洞窟は衛星スキャンを避けられるんだったよな?」
彼の質問に私は無言のまま頷く。
デュオはバギーを道から外れさせて岩山へ向かう。
数十秒で岩山に到着し、北側に開いた大穴に乗り込む。
洞窟内部はそこそこ広く、入り口から見通せない位置に車体を進めても、まだ畳2枚分くらいのスペースがある。
奥は暗いが、壁に反射して仄かに届く夕日のおかげで、真っ暗闇というほどではない。
デュオ「シノン、大丈夫か?」
エンジンを切り、砂の上に降り立ったデュオが振り返って訊いてくる。
シノン「・・・大丈夫・・・」
それだけ言ってから、私は力の入らない足でバギーを降り、何とか壁際まで進むと、そこに座り込む。
デュオ「奴が来る前に回復を済ませるぞ。」
デュオはベルトポーチから、初期配布された救急治療キットとは別のペン型注射器を取り出すと、慣れた手つきで首筋に押し当て、反対側のボタンを押す。
プシュッという音とともに赤い回復エフェクトが発生すると、デュオのHPが一気に回復した。
デュオ「10%しか回復しないけど、瞬時に回復できるのはありがたいな。」
デュオはそう言うと、注射器をもう一本取り出して私に投げてきた。
デュオ「使えよ。たいしたダメージは受けてないだろ?」
死銃がプレイヤーの命を直接奪う以上、HPなどあまり意味をなさない気もしたが、断る理由もないので、私は注射器を首筋に当てる。
だが、あまり腕に力が入っていなかったため、注射器が手から滑り落ちた。
しかし拾う気にはならず、再び頭を壁につける。
すると、近づいてきたデュオが注射器を拾い上げ私の首筋を当てる。
赤い回復エフェクトが発生すると私のHPが回復した。
デュオ「何があった・・・?」
デュオは注射器を捨てると、落ち着いた声で言った。
シノン「・・・別に・・・何もなかった・・・」
私は素っ気無く答えると、デュオから目をそらす。
すると、デュオは息をついてから言った。
デュオ「言いたくないなら良いさ・・・」
デュオはそれだけ言うと、光剣のバッテリー確認とリロードを済ませ、立ち上がった。
デュオ「奴は俺が片付ける。シノンは少し休んでいて。」
シノン「え・・・!?あの男と・・・死銃と一人で戦うの?」
デュオ「ああ、あいつは俺が止めないと・・・まだ向こうから帰ってないクズの目を覚まさせてやる・・・」
言葉の最後の方に、強い怒りが滲んでいた。
デュオ「絶対に許すわけにはいかない・・・」
初めて会った時の態度からは考えられないような怒りを見せるこのプレイヤーに、私はポツリと訊く。
シノン「・・・怖くないの?あいつと戦うのが・・・死ぬのが・・・」
デュオ「怖くないといえば嘘になるな。でも、俺は目の前で誰かが死ぬのを見るのはもうたくさんなんだ。」
シノン「・・・そう・・・強いのね、あなた・・・」
デュオ「俺は弱いよ。」
シノン「・・・キリトと同じことを言うのね。」
デュオ「あいつなんかより、俺のほうがずっと弱い。誰も守れず、ただ壊すしかできない・・・」
最後の言葉の意味はよく分からなかったが、とても重い響きを持っていた。
シノン「・・・私も戦う。」
デュオ「やめておけ。今度は本当に死ぬかもしれない。」
シノン「死んでも構わない。」
デュオ「・・・どういうことだ・・・?」
眼を見開いたデュオに向かって、ゆっくりと語りかける。
シノン「・・・私、さっき、すごく怖かった。死ぬのが恐ろしかった。5年前よりも弱くなって・・・情けなくて・・・そんなんじゃ、だめなの。そんな私のまま生き続けるくらいなら、死んだほうがいい。」
デュオ「死ぬつもりなのか・・・?」
シノン「・・・そう。たぶん、それが私の運命だったんだ・・・」
重い罪を犯したのに、私はいかなる裁きも受けなかった。
だから、あの男が帰ってきたんだ。
しかるべき罰を与えるために。
死銃は亡霊ではなく、因果。
決定されていた結末。
デュオ「・・・ふざけるな・・・!!」
デュオの言葉が聞こえた瞬間、空気が重くなった。
そう感じた直後、デュオが私の頬を叩いた。
突然のことに驚きながらも、私は体勢を立て直してデュオを見る。
だが、デュオの目を見た瞬間、言葉が出てこなくなった。
彼の目には光がなくなっていた。
デュオ「大切な人の死がどれだけ辛いかも知らないで、死のうなんて考えるな!」
デュオの放った言葉によって、凍った心の底の押さえつけられていた激情が一気に噴き上がった。
軋むほど強く歯を食い縛り、左手でデュオの襟首に掴みかかる。
シノン「なら・・・」
慰撫を求める弱さと、破滅を求める衝動が、かつて誰にも抱いたことのない感情を生み出した。
その熱量を込めた視線をデュオの目に向け、私は叫んだ。
シノン「・・・なら、あなたが私を一生守ってよ!!」
その途端、視界が歪み頬に熱い感覚があった。
それが自分の目から溢れた涙だと、すぐには気づかなかった
シノン「何も知らないくせに・・・何もできないくせに、勝手なこと言わないで!!こ・・・これは、私の、私だけの戦いなのよ!!たとえ負けて、死んでも、誰も私を責める権利なんかない!!それとも、あなたが一緒に背負ってくれるの!?この・・・」
握り締めた右手をデュオの目の前に突き出す。
かつて拳銃のトリガーを引き、1人の人間を殺し、血に塗れて汚れた罪人の手を。
シノン「この、ひ・・・人殺しの手を、あなたが握ってくれるの!?」
その拳を、デュオに思い切り叩きつける。
それでも彼は、身じろぎひとつしなかった。
シノン「う・・・うっ・・・」
抑えようもない涙が、頬を伝って零れ落ちる。
泣き顔を見られたくなかった私は、勢いよく俯いた。
すると、額がデュオの胸に当たった。
デュオの襟首を掴んだまま、額を押し付け、私は幼子のように号泣し、嗚咽を漏らし続けた。
自分の中にこのような種類のエネルギーがあったことが、少し不思議だった。
仮想の涙は絶えることなく溢れ続け、零れ落ちたそれはデュオの胸に吸い込まれていった。
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久しぶりにシノンたちが登場します。