No.544355

天使と悪魔の代理戦争 第四話

夜の魔王さん

何やら大変な事になりそうです。

2013-02-14 22:15:53 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:864   閲覧ユーザー数:846

 始業式が済んでから数日後、魔法文化が無いはずのこの町に、深夜ではあるが少し大きな魔力反応があった。

(一体何が……ダメだ、眠い……)

 気にはなったが、睡魔には勝てずに寝てしまった。

 

 その翌日の放課後、なのはちゃんたちと一緒に帰る途中、スワンボートなどが浮いている池に通りかかると、そこは何かが暴れまわったかの様に所々が壊れていた。

「何があったんですか?」

 アリサちゃんが近くにいた警察の人に何があったか尋ねると、イタズラだという答えが帰って来た。

「イタズラにしては被害が大きすぎると思うけど」

「爆発物でも使ったのかな?」

 この原因を何かと皆で話していた時だった。

[助けて……]

(これは、念話……?)

 頭の中に響く声が聞こえたのは僕だけじゃなかった様で、なのはちゃんも辺りを見回していた。

「ねぇ、今何か聞こえなかった?」

「え、何の事?」

 アリサちゃんには聞こえなかったようで、なのはちゃんの言葉に首をかしげていた。

[助けて……!]

 さっきよりも大きく頭の中に声が響く。

「やっぱり聞こえる」

 なのはちゃんが森に向かって駆け出してしまった。僕たちもそれを追いかけて森の中へ向かう。

 

 駆け出していったなのはちゃんに追いつくと、なのはちゃんは赤い宝石の首飾りを着けた小動物を抱えていた。

「なのはちゃん、それ何?」

「フェレットみたいね」

「フェレット?」

「イタチの仲間よ」

 アリサちゃんは物知りだなあ。

(でもこのフェレット……魔力がある)

 この子、本当にフェレットなのかな?

「アリサちゃん、この子怪我してるの」

「じゃあ、早く獣医さんに見せに行かないと!」

「怪我はあんまり深くないけど、だいぶ衰弱してるわね」

 この槙原動物病院の院長さんがフェレットを治療してそう言った。

「院長先生、ありがとうございます」

「「「ありがとうございます」」」

 なのはちゃんに続いて、三人揃って挨拶をする。

「安静にしていれば大丈夫だろうから、この子は一晩うちで預かるわね」

「「「「お願いします」」」」

「白くーん」

(白くん?)

「呼びましたか院長?」

 扉を開けて白衣を着た白くんが現れた。

「この子を一晩預かる事になったの。お世話をお願いしてもいいかしら?」

「承りました。それで、預かる事になったのは……」

 白くんがこちらを向き、そこで初めて僕らに気づいたようだ。

「……どうも」

「白くんここでもアルバイトしてたの?」

「まあね」

 すずかちゃんの問いに白くんがいつもの様に素っ気なく答え、そこに院長さんのフォローが入る。

「白くんがいると動物が落ち着いてくれるから治療が楽なのよ」

「「「「へー」」」」

 みんなが感心した。

「その程度で感心されても。ただ動物に懐かれるだけですよ」

「ねえねえ白くんはどんな動物が好きなの? ちなみに私の家には猫がいて、アリサちゃんの家には犬がいるんだよ」

「狐」

(狐が好きだなんて、白くんは変わってるなあ)

 彼が変わっているのは今に始まった事じゃないけど。

「ほら皆、暗くなる前に帰りなさい」

「「「「はーい」」」」

 あれ? 白くんは帰らなくていいのかな?

[誰か……力を貸してください]

 その日の夕食後、携帯電話になのはちゃんから『明日の帰りにフェレットの様子を見に行こう』という内容のメールが来た。

 そのメールを読み終わった後、念話でその声が伝わってきた。

「うーん……」

 恐らくは今日のフェレットからだと思う。

(そういえば、なのはちゃんには念話が聞こえていたみたいだし……様子ぐらい見に行った方がいいかな?)

 そう思って水面に断りを入れて家を出た。

 

 

 動物病院の近くに来ると、近くにいくつかの魔力反応があり、結界が張られた。

「い、一体何が?」

『どうやら、この結界はあのフェレットが展開した様ですね』

 首にかけたディナが周りの状況を分析してくれた。

『これを発動したフェレットの他にも、マスターのご友人二名も取り込まれている様です』

 それを聞いた僕は驚いた。

「二人って……」

『なのは様と白様です』

 予想通りの答えを聞いて焦った。

(何があるか分からない……急がないと!)

「エルディナ!」

『了解しました』

 一瞬で僕の服が分解され、その代わりに魔力で作られた服――黒のズボンと紺色のジャケットを着る。

「飛ぶよディナ!」

『はい』

 体が宙に浮かび上がり、走るよりも速い速度で飛翔する。するとすぐに槙原動物病院が見えてきた。

「あ、あれは!」

 槙原動物病院の近くには実体のある煙のような体を持つ魔力でできた化け物がおり、それがなのはちゃんとフェレットが襲っていた。

「ディナ、あれは一体……?」

『どうやら、高魔力結晶体が周辺魔力に反応してできた異相体と呼ばれる存在のようですね』

 ディナがそう言ったとき、丁度その異相体がなのはちゃんが襲いかかられるところだった。

「危ない!」

 僕は急降下してなのはちゃんと異相体の間に割り込んで自身の魔力光である若草色のバリアを張る。

「なのはちゃん、大丈夫!?」

「や、弥雲くん!? え、今空から? えっ?」

「落ち着いてなのはちゃん!」

 いきなり空から来たから無理もないけど、今この場合で動揺されるのは困る。

「あの、そこのフェレットさん! その子に事情を説明して上げてくれませんか!? ここは僕が抑えますから!」

「あ、はい。分かりました。けど、無理はしないでください!」

 遠ざかって行く一人と一匹を見送りながら、僕は目の前の異相体に向き直る。

「エルディナ、剣を!」

『はい!』

 僕の手に金色の装飾がされた刃渡り90cmほどのバスタードソードが現れる。

 唸り声を上げて襲いかかる異相体の顔のような触手を、刃に魔力を込めたバスタードソードで切断する。しかし、切断された触手はすぐに再生した。

『ダメです! あの異相体は核となっている高魔力体を封印しない限り止めることはできません!』

「ええっ!?」

(僕は封印魔法が使えないのに!)

 その時、ここから離れた場所で桜色の光と帯状魔法陣が立ち上った。

(あれはなのはちゃん……?)

 ついそちらを見てしまった時、異相体がそっちへ向かって跳んでいってしまった。

「あ、待て!」

 僕もそれを追って空を飛ぶと、聖祥大付属小学校の制服によく似た服に身を包んだなのはちゃんが襲いかかる触手を飛んで避けていた。

「で……りゃぁ!」

 僕は異相体に後ろから斬り裂くと、二つに分かたれたその異相体はそのまま二つに分裂し、別々に行動を始めた。

 小さい方の異相体はそのまま僕に向かって来て、大きな方の異相体はフェレットに向かって接近した。

「フェ、フェレットが……!」

 僕がバリアで異相体から身を守っていると、フェレットがいる場所にもう片方の異相体が突撃して粉塵が巻き起こった。

「くっ……あっ!」

 異相体を弾き飛ばしてもう片方の異相体の所へ駆けつけると、フェレットを押しつぶしていたと思っていた異相体はなのはちゃんのバリアによって防がれていた。

『Shoot Bullet』

 なのはちゃんの手から桜色の魔力弾が放たれ、異相体を吹き飛ばして更に分裂した。

 計三つに分裂した異相体は勝てないと思ったためか逃げ出し始めた。

「あんなのが市街地に出たら大変な事になる!」

 なのはちゃんはその異相体を追って飛び、僕もそれを追って飛び立つ。

「駄目だ、追いつけない!」

「……さっきの光、遠くまで飛ばせない?」

『あなたがそれを望むなら』

 なのはちゃんがデバイスと一言言葉を交わすと、なのはちゃんは屋上に降り立ち杖を三体の異相体に向ける。すると杖のようなデバイスの持ち手が伸び、ヘッドが一部の欠けた円環から二又の槍のような形に変わる。

 その先端には桜色の魔力が集中する。

(砲撃魔法!)

 なのはちゃんは数百メートル先の異相体に狙いを定めるが、異相体は逃げようと三方向に別れた。

(拙い! 今のなのはちゃんじゃ三方向に別れた異相体を一撃で封印するのは不可能だ!)

 せめて一体でも足止めしようと加速しようとした時、緋色の火線と象牙色の一閃が異相体を砕いた。

「よおなのは! 助けに来たぜ!」

「やあなのはさん、僕の力が必要だと思ってね」

 緋色の火線を撃ったのはライフルのようなデバイスを持った帝威くん。象牙色の一閃を放ったのはレイピアを持った真神くんだった。

(それにしても、なんで居るんだろう……?)

 恐らくはフェレットの念話を聞きつけて来たんだろうが。

(あ、でも普通の攻撃だったみたいだ)

 異相体は再生して、再び逃げようとしていた。

 その瞬間になのはちゃんがデバイスのトリガーを引くと桜色の光が放たれ、それは三つに分かれると三体の異相体に直撃して消滅させ、後には青い宝石が残った。

 

「これがジュエルシードです。レイジングハートで触れてください」

 建物の屋上で宙に浮かぶ三つの青い宝石の前で、フェレットがなのはちゃんにそう言った。

 なのはちゃんが言われた通りにすると、ジュエルシードと呼ばれた青い宝石はレイジングハートと呼ばれたデバイスの赤い宝石部分に吸い込まれた。

「おいフェレット。これがどう言う状況なのか説明してもらおうか?」

 帝威くんがフェレットにライフルの銃口を突き付けながらそう言った。

「帝威くん、フェレットさんに銃を向けたらダメだよ」

 なのはに言われて渋々銃型のデバイスを待機形態だろうドクロの飾りが付いたネックレスに戻した。

「あの、事情を説明する前にここから降りた方がいいんじゃないかな? いつまでもここに居る訳にはいかないし、結界をいつまでもそのままにするのはフェレットさんに悪いし」

「あ、これを展開したのは……いや、何でもありません」

 フェレットさんは途中で何かを言いかけてやめた。

「説明はちゃんとしますから、どこか落ち着ける場所に移動しましょう」

 その言葉を上書きするようにフェレットさんはそう言った。

(それにしても…最近のフェレットさんは随分礼儀正しいんだなー)


 
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