No.544226

真・金姫†無双 幼なじみはチョコの味

一郎太さん

2月14日じゃん!

という訳で、本日2つ目投稿。

さて、誰のことかにゃー。

2013-02-14 20:11:09 投稿 / 全13ページ    総閲覧数:10598   閲覧ユーザー数:7331

 

 

 

幼なじみはチョコの味

 

 

――思春の場合――

 

部活も終え、俺は思春と一緒に下校中。

 

「一刀、道場での今日の稽古だが、私は諸事情により休ませて貰う。お爺様に伝えておいてくれ」

 

後ろではなく隣を歩く思春が、そんな事を言い出した。

 

「そりゃ構わないが、こんな時間から用事でもあるのか?」

「少しな」

「珍しい」

「気にするな。それと、夜は部屋に居ろ。いいな?」

「いや、自分ん家なんだから、夜は居るだろ……」

「 い い な ? 」

「……はぃ」

 

そんな脅しにも似た視線に屈し、俺は是と返事をした。

 

 

夕食・入浴も終え、爺ちゃん達に就寝の挨拶をした後、思春の言葉通りに自分の部屋に戻る。

 

「さて、何時頃に来るのか――」

「お、おかえりなさいませ……ごっ、ご主人様!」

 

自室のドアを開いて、俺は絶句した。

 

「……あぁ、俺は疲れているようだ」

「閉めるなっ!」

 

幻覚が見えたかと思って扉を閉じようとすれば、扉の淵を、思春の両手が掴む。

 

「怖い、怖いって!」

「いいから入って来い!」

「うわっ!?」

 

挟んでしまっては拙いと力を緩めるが、次の瞬間には思春の怪力によって引きずり込まれる。

 

「……」

「……」

「……何か、言う事は」

「えっと……」

 

相変わらず怖い切れ長の視線で、俺に言葉を促す思春は、黒のロングスカートに白いエプロン、同色の上衣に、頭には白のカチューシャ。なんだろう、えっと……。

 

「あぁ、旧き良きロンドンのメイドさんか」

「はっきり言うな!」

「ぐはっ!?」

 

言えと言われて言ったのに、殴られるとはこれ如何に。

 

「えっと、なんでまたそんな恰好をしてるの?」

「お前は、今日が何の日か知っているか?」

「今日?2月14日で……あぁ!バレンタインデーか!」

「そうだ。だから、こうして来てやったのだ」

 

なるほどなるほど。どうやら思春は、俺にチョコレートをくれるつもりらしい。俺の理解に頷くと、思春はおもむろにボトルのようなものを取り出した。

 

「……なに、それ?」

「見ればわかるだろう。チョコレートだ」

「いや、そうだけど、その容器……」

 

半透明の、ケチャップなどを入れるような容器に、チョコレートが詰まっている。チョコシロップ的な?

 

「じゃぁ…ぬ、脱ぐぞ……」

「へ?」

 

そして、思春はいきなり、胸元のボタンを外し始めた。

 

「いやいやいや、何やってんの!?」

「いいから待っていろ!」

 

気勢荒く叫ぶ思春はどんどんとボタンを外していき、ついにはその下着まで見えてしまう。ドギマギしながらも視線を外せない俺に、思春は詰め寄った。

 

「……ど、どうだ」

「あの、眼福で……」

「そうか…では……」

 

俺の感想に満足げな真っ赤な顔で頷くと、先程取り出したチョコシロップを掲げ、

 

「んっ…冷たいな……」

 

露わになった胸元に、トロリと垂らしていく。

 

「……」

「このくらいでいいか……さぁ」

 

褐色のその肌よりも黒い液体をふんだんに垂らし終えると、思春はボトルを置き、俺の顔を両手で挟んだ。

 

「い、いっぱい召し上がれ……ご主人様」

「いやいやいや――――」

 

翌日、半端ないほど嘘の情報を思春に与えた及川は、その思春によって、ボコボコに殴られるのであった。

 

 

 

 

 

 

――亞莎の場合――

 

 

部活も終え、帰宅した俺は、爺ちゃんと一緒に道場で鍛錬中。いつも道場の隅で、婆ちゃんが淹れてくれたお茶を飲みながら見学をしている亞莎は、今日はいない。

 

「なんとも甘い匂いが漂ってくるのぅ」

「いいから集中しろよ、ジジイ」

 

組手をしながらも、爺ちゃんは道場にまで届いてくる匂いに、そんな事を言う。

 

「はっはっは!軽口を叩こうとも、まだまだ孫に負ける儂ではないわ!」

「そういうのは、俺の錘を外してから言えよ」

「よいではないか。こういう行事は、楽しんでこそ日本人じゃ。夕飯後には亞莎が『お、お爺様…ちょちょちょチョコを作ったので、食べてくださいっ!』といった感じで、可愛らしく儂にプレゼントしてべへっ!?」

「隙がありすぎ」

 

そんな稽古も終え、夕食。

 

「「「ごちそうさまでした」」」

「はい、お粗末様でした」

 

その夕食も終え、婆ちゃんと一緒に片づけをした亞莎が、台所から戻ってくる。その手には、トレイ。その上には、茶色く丸いお菓子。

 

「あの、今年はトリュフというものを作ってみました」

「ほぅ、あの世界三大珍味と言われるキノコを自家栽培するとはな……亞莎もやるようになったのぉ」

「はやっ!?そっちのトリュフじゃないですよぉ!」

「はーい、お茶も入りましたよー」

 

爺のボケに律儀にもリアクションをする亞莎の後ろからは、同じくお盆を持った婆ちゃん。食後のお茶のようだが、いつもの急須ではなく、これまた洋風な漆器だ。

 

「ま、チョコなら紅茶だよな」

「えぇ。たまにしか飲まないけど、紅茶も美味しいわよね」

 

小皿に乗った丸いチョコと、茶葉の薫る赤い液体。

 

「あの、どうぞ、お兄ちゃん……」

「あぁ、頂くよ」

 

亞莎から皿を受け取り、刺した楊枝を摘まんで口に運ぶ。チョコの甘味と、ココアパウダーの苦味が上手くマッチしている。要するに。

 

「どう、ですか……?」

「ん、今年も美味いぞ。ありがとな」

「えへへ…」

 

俺は空いた手で、亞莎の頭を撫でてやるのだった。

 

 

 

 

 

 

――七乃の場合――

 

 

部活も終え、帰宅した俺は、爺ちゃんと一緒に道場で鍛錬中。いつもは五月蠅いくらに応援してくる七乃は、今日はいない。

 

「今年も七乃は頑張っておるようじゃな」

「あぁ、今年はどんなのが出て来るのか、戦々恐々だよ」

 

爺ちゃんと組手をしながらも、言葉を交わす。

 

「去年はチョコフォンデュのタワーで、その前はウェディングケーキサイズのチョコケーキじゃったか?」

「あぁ、どうやって準備したのか、どうやって俺の部屋に運び込んだのか、いまだにわかんねーよ」

 

昔はチ〇ルチョコのような可愛らしいものだったが、年を追うごとにその規模は大きくなっていき、いま上げたような大掛かりな物は、俺の部屋の畳にブルーシートを敷く事すらしていた。

 

「愛されておる証ではないか」

「愛が重たすぎて辛い……」

 

そんな会話が飛び交う稽古と食事・入浴を終えて、俺は部屋に戻る。

 

「あっまぁ……」

 

扉を空ける前から、チョコレートの甘い匂い。これ、残るんだぞ?

 

「……さて、覚悟を決めるか」

 

唾を飲み込み、意を決して自室の扉を開く。

 

「おかえりなさい、一刀さん」

「……なに、それ?」

 

扉を開けてまず目に入ったのは、例年通りのブルーシート。それはいい。部屋の中央に、俺愛用の布団とは違う、なんというか、ビニール製のマット。その脇には、白い液体の入ったボウルと、黒い液体の入ったボウル。

 

「今日はバレンタインですよ?チョコに決まってるじゃないですか」

「あぁ、白い方はホワイトチョコか……」

 

人差し指を立てて、何を当然の事をと得意顔の七乃は、何故か水泳の授業で使うスクール水着を見に纏っている。

 

「さ、どうぞ、一刀さん」

「いやいやいや」

 

七乃に手を引かれ、マットの上に座らされる。

 

「はーい、脱ぎ脱ぎしましょうねー」

「いや、ちょ、脱がすな!」

「まずは普通のチョコレートで、っと」

 

俺の抵抗も虚しく、スウェットをたくし上げ、そこにボウルから掬ったチョコを垂らされた。

 

「ふふふ、これでもう服を下ろせませんね?」

「おま、まさか…」

「あぁ…なんて甘そうな一刀さん……」

 

服が汚れるのを気にして、上手く動けない俺を押し倒し、七乃は舌なめずりをする。

 

「――――いただきます♪」

「いやぁぁああああああああああああああああっ!!!?」

 

クリスマスに交際を初めてから、七乃の愛情表現にブレーキは利かなくなったようだ。

 

 

 

 

 

 

――白蓮の場合――

 

 

部活も終え、帰宅中の俺の手には、中身がずっしりと詰まった紙袋が3つほど抱えられている。

 

「……相変わらず、一刀はモテるな」

 

隣を歩く幼馴染みが、不機嫌そうに呟いた。

 

「彼女いるって、皆知ってるはずなんだけどなぁ」

「じゃぁ、断ってくれてもいいだろう?」

「いや、折角くれるってのに、それは申し訳ないだろ」

「変に期待を持たせるから、いつまでも終わらないんだ……ったく」

 

そんな事を言いながらも、白蓮は鞄をガサゴソと漁る。そして。

 

「それだけあるんだ。ひとつくらい増えたって変わらないだろ?」

「いやいや、俺にとっちゃ白蓮がくれるチョコの方が、何倍も美味しいよ」

「はっ、恥ずかしい事を言うな!」

 

顔を真っ赤にして、鞄の中にラッピングのされた直方体の箱を突っ込む白蓮。

 

「お返し…期待してるからな……」

「ん、りょーかい」

 

そっぽを向きながらも、白蓮はぎゅっと俺の腕を握ってくるのだった。

 

「……え、これで終わり?」

「普通が一番」

「普通って言うな」

 

 

 

 

 

 

――真桜の場合――

 

 

いつものように学校へ行き、いつものように授業を受け、いつものように昼食の時間となる。

 

「にぃやん、飯食おうでー」

「失礼します」

「うぅ…いつ来ても緊張するのー……」

 

定例のように、年下3人娘が俺の教室へとやってきた。真桜は物怖じせず、凪は礼儀正しく、沙和は泣きそうな顔で俺を呼ぶ。

 

「また来たのか?」

「言うても?愛しの幼なじみに加えてみ少女2人とご飯が食べれて嬉しいくせにー」

 

その言い方はどうにかならないのか。

 

「相変わらず沙和がビビりまくってるから、屋上にでも行くぞ」

「一刀さぁん……」

 

俺の言葉に、眼鏡っ娘が縋りついてくる。いつも足を運んでいるくせに、何を緊張しているのやら。

 

「せやな。さっさと屋上で飯食お。かずピーには真桜ちゃんがおるから、凪ちゃんと沙和ちゃんはワイが頂くで」

「なんでアンタが来んねん!」

 

ビシィッ!と真桜のツッコミが入る。飽きないのか、それ。

 

「ま、それは冗談として、今日は何の日か覚えとるか?」

「あったりまえやん!今日は泣く子も黙る、バレンタインデーやんか」

「お、流石は真桜ちゃん!ワイにもくれるんか?」

「ん、そのつもりやでー。凪と沙和もそのつもりや」

 

及川に流れが来ている。明日はドカ雪でも降るのだろうか。

 

「マジか!かずピー!ついに…ついにワイにも春が……」

「わかったから泣くな」

「ぶべっ!?」

 

縋って来た及川を殴り飛ばす。その横で、3人は荷物をゴソゴソと漁り、それぞれ綺麗にラッピングされた箱を取り出した。

 

「あ、開けてもえぇ……?」

 

それらを受け取った及川の問いに、3人は頷く。及川はなんともだらしない顔でラッピングを解いた。

 

「なぁ、食べてもえぇ?今日はこれ以外なんも口にしたくないわ……」

「えぇて。さ、存分に味わってや」

「おぉっ!そ、それじゃ……」

 

許可を得て、及川は、まず真桜のチョコレートを手に取る。

 

「…………」

「ほら、ぐいっといっちゃって」

「……真桜ちゃん?」

「ん?」

「これ…なに……?」

「ほら、昔カカオ99%のチョコとか流行ったやろ?それに負けん、カカオ100%や!」

 

及川の手に摘ままれているのは、茶色い豆。

 

「100%ってか…まんまカカオなんやけど……」

「ほら、遠慮せんでえぇて」

「……苦い」

 

次に及川が開いたのは、凪から貰ったチョコ。

 

「お、こっちは普通のようやな」

「ウチが折角取り寄せたチョコに文句でもあんの?」

「いえいえ、貰えるだけで幸せです、ハイ……」

 

確かに、凪のチョコは、パッと見まともだ。だが。

 

「どうぞ、先輩。なんだかんだで、先輩にはお世話に……たぶんなってますので」

「『たぶん』てなに?」

「さっ、どうぞ」

 

流され、チョコを口に運ぶ。

 

「……凪ちゃん?」

「はい?」

「めっちゃ辛いんやけど……」

「唐辛子は抑えめにしたはずですが」

「なんで唐辛子がチョコに入んねん!?」

 

涙目だな。

 

「じゃ、最後は沙和のなのー」

「おぉっ!これは甘い!普通のチョコや!ありがとな、沙和ちゃん」

「えへへー、バレンタインのお返しは、3倍返しが基本なのー。という訳で、この阿蘇阿蘇に載ってる春用のコート、よろしくなのー」

「……へ?」

 

及川、南無。

 

 

 

 

 

 

――雛里の場合――

 

 

部活も終えて、家路につく俺の両手は、中身のたくさん詰まった紙袋3つで埋まっている。

 

「こんなに食い切れないんだけどなぁ……」

 

そんな愚痴をこぼしながら家の引き戸を開けば、戸の向こうから甘い匂い。

 

「雛里もか」

 

玄関には、雛里のものと同じ大きさの靴が1足。おそらく朱里だ。

 

「一緒に作ってんのかな」

 

そんな事を考えながら、俺は靴を脱いで居間へと行く。

 

「朱里ちゃんも雛里ちゃんも手際がいいわねぇ」

「はわわっ、そ、そんなことないでしゅ!」

「あわわ…私たちなんて、まだまだで……」

 

そんな会話が、台所の方から聞こえてきた。婆ちゃんも一緒にいるみたいだな。

 

「ふっ、一刀よ。雛里と朱里は、儂の為にチョコを作ってくれておるのじゃ!貴様にやるチョコなんぞ、ない!」

「あー、はいはい。これやるから黙ってろ」

 

音もなく背後で呟くジジイに、チョコの詰まった袋を押し付ける。

 

「ほぅ、今年も大量じゃ。流石は儂の孫じゃな」

「婆ちゃんが怒るぞ?」

「なにを言う。儂はモテても、婆さん一筋じゃからな!」

「はいはい」

 

めんどくさいので放置。

通学鞄と剣道着の入った袋を床に置くと、俺は台所に向かった。

 

「ただいま。2人共、上手く出来てるか?」

「はわわっ!?か、一刀しゃん!?」

「あわわ!お兄ちゃん、まだ見ちゃダメぇ!!」

 

俺の存在に、雛里と朱里が慌てふためく。どうやら完成まで見せたくないのだろう。2人は俺に向かって駆け出し、居間へと追いやろうとする。

 

だが。

 

「きゃぅん!?」

「あわっ!?」

 

2人は互いに足をもつれさせ、台所のテーブルにぶつかった。その上には、色々な材料が乗った容器。それは衝撃でグラつき、そして。

 

「「…………」」

「あらあら」

「やっちまったか……」

 

こけた2人の上に、降りかかった。

 

「ざ、材料が……」

「うぅ…チョコでべとべと……」

 

朱里はパウダーで真っ白になり、雛里にはチョコがかかっている。

 

「ほらほら、2人共。ここはお婆ちゃんがやっておくから、まずはお風呂で流してきなさい」

 

困ったように笑いながら、婆ちゃんが2人を立たせる。

 

「で、でもぉ……」

「このまま歩いたら、床とか畳も汚れちゃいましゅ……」

「じゃ、俺が風呂場まで運んでやるよ」

「あわわっ!」

「はわわわわ……」

 

遠慮をする2人の襟首を掴み上げ、風呂場へと運ぶ。

 

「ほら、さっさと浴びて来い。雛里の家から、何か着替えを持ってきてやるから」

「「……」」

 

脱衣所の床に立たせ、声を掛けるが、2人は反応を示さない。

 

「どうした?」

 

俺は膝を曲げて2人の視線に高さを合わせ、問いかける。

 

「あ、あの、お兄ちゃん!」

「ん?」

 

先に口を開いたのは、雛里だった。

 

「んっとね、あのね……」

「ひ、雛里ちゃん…まさか……」

 

朱里は、雛里の意図に気づいたらしい。雛里は自分の顔に着いたチョコを指で拭うと、その人差し指を俺に差し出してきて、

 

「お兄ちゃん、あ、味見…してみる……?」

「はわわ!」

 

顔を真っ赤にする幼女2匹。いやいやいや、流れがよくわからない。

 

「……いただきます」

「あっ……」

「はわわっ!?」

 

よくわからないが、折角勇気を出した(らしい)雛里の頑張りを、無下にする訳にもいかない。差し出された指を、俺はひと舐めし、

 

「美味しかったよ。本番が楽しみだ」

 

そう、感想を口にする。

 

「お兄ちゃんっ!」

「ん?」

「ほ、本番って…チョコプレイの、本番……?」

「いやいやいや」

「はわわわわわわわわわわわわわ……」

 

よくわからない事を言う雛里の横で、朱里は顔を真っ赤にしたまま壊れていた。

 

 

 

 

 

 

――桔梗の場合――

 

 

道場での稽古を終え、夕食・入浴も終えて、爺ちゃん達に就寝の挨拶をした俺は、自室へと戻る。

 

「おぅ、一刀ぉ」

「また酔ってんのかよ、(ねぇ)さん…」

 

そこに居たのは、いつものように赤ら顔の桔梗姐さん。

 

「つーか、酔っ払ったまま屋根を伝ってくるなよ。危ないだろ」

「お、心配してくれるのか?」

「そりゃ、心配するさ」

「大事な婚約者だからな」

「いやいやいや」

 

まだ学生なんですけど。

 

「ま、どうせ今日も一緒に寝るとか言うんだろ?明日も早いから、さっさと寝かせてくれ」

「まぁ、待て。一刀、今日はお前にプレゼントがある」

「プレゼント?」

 

今日は俺の誕生日でもないし、クリスマスという訳でもない。何か理由でもあったっけ。

 

「あるではないか。今日は2月14日、バレンタインデーだ」

「あー……そういえば、そうだったな」

 

言いながら、桔梗姐さんは布団を叩く。座れという意味らしいので、俺は大人しく従った。

 

「だから、儂も用意したぞ。愛する婿殿の為だからな」

「またそういう恥ずかしい事を……」

 

からからと笑いながら、桔梗姉さんは寝巻用の着物の胸元に手を突っ込む。そこに入れてたのか。溶けるぞ。

 

「まぁ、儂は菓子作りが得意という訳ではないからな、申し訳ないが、市販のものだ」

「姐さんから貰えるだけで嬉しいよ」

「可愛い事を言ってくれる。だが、それでもこれは特別なものだからな。特別な味を楽しんでもらおうと、儂は思った訳だ」

「特別?」

 

そう言うと、姐さんはラッピングを空け、綺麗に並んだチョコを一粒摘まむ。

 

「なんだ、食べさせてくれるの?照れるな」

「おぅ、存分に照れるがいい」

「じゃぁ、恥ずかしいけど……あー」

 

差し出されたチョコに向けて、俺は口を開く。だが、姐さんはそのチョコを俺ではなく、自分の口に突っ込んだ。

 

「……え?」

「ほら、一刀……」

「ちょ――」

 

そして、そのまま俺の両頬に手を添えると、顔を近づけてきて。

 

「んむ…れろっ……ちゅっ……」

 

言葉通り、俺に特別な食べさせ方をしてくれた。

 

「美味いか?」

「…………おかわり、いい?」

「ふっ、まだまだあるからな……」

 

情欲を、持て余す。

 

 

 

 

 

 

――愛紗の場合――

 

 

部活を終えて帰宅し、ただいま爺ちゃんとの組手中。いつも一緒に鍛錬をしている愛紗の姿は、今日はない。それもその筈。

 

『レンジが爆発した!?』

『愛紗ちゃん、チョコは湯煎にしないと』

 

「のぉ、一刀……」

「言うな」

 

『あぁっ!チョコが掬えない!?』

『湯煎って言っても、お湯に直接入れるものじゃないのよ?』

 

「あの様子……」

「言わないでくれ」

 

『こ、今度こそっ!』

『それはカレーのルーよ、愛紗ちゃん』

 

「今年も無理そうじゃな」

「だから言わないでくれよ……」

 

そんな、2月14日。

 

 

 

 

 

 

――月の場合――

 

 

「「ごちそうさま」」

「「お粗末様でした」」

 

婆ちゃんと月お手製の夕食も終え、婆ちゃんと一緒に片づけをした月が、台所から戻ってくる。その手には、トレイ。その上には、白い球体の乗った小皿。

 

「ほぅ、今年は和菓子にしたのか、美味そうじゃ」

「違いますよ、お爺様」

「む?」

 

早速感想を口にした爺ちゃんに、月は微笑みながら答える。

 

「大福とかではないのか?」

 

テーブルの上の皿には、爺ちゃんが言う通り、大福のような白いお菓子。

 

「ご主人様もお爺様も、和菓子の方を好まれているので、大福の生地でチョコを包んだんです」

「なるほど、和洋折衷じゃな」

「流石は月だ、美味そうだな」

「へぅ…ありがとうございます」

 

隣に座った月の頭を撫でれば、嬉しそうにはにかむ。

 

「お茶も入りましたよ」

 

台所から、同じくお盆を持った婆ちゃん。食後のお茶のようだ。

 

「はい、どうぞ、お爺ちゃん」

「うむ」

「ご主人様もどうぞ」

「ありがと」

 

それぞれの前に、湯呑が置かれる。

 

「それじゃ、いただくとするか」

 

爺ちゃんはさっそく手を伸ばし、口に運ぶ。

 

「うむ、美味い!流石は月じゃ!」

「ふふっ、ありがとうございます、お爺様。ご主人様も、どうぞ」

「ん、頂くよ」

 

月に促され、俺も手を伸ばす。その前に、チョコ大福を摘まみあげていた。

 

「はい、ご主人様、あーん」

「……さすがに婆ちゃん達の前じゃ恥ずかしいんだけど」

「よいではないか、一刀。むしろ変われ!」

「一刀ちゃん、今日くらいはいいじゃない。特別な日なんだから」

 

爺ちゃんはからかい半分、婆ちゃんはニコニコと勧めてくる。いや、恥ずかしいんだけど。

 

「ダメですか、ご主人様…」

 

そして悲しげな瞳の月。俺がその瞳に勝てるわけないだろう。

 

「……あー」

「ふふっ、はい、あーん」

「あむっ……」

「美味しいですか?」

「……ん、美味しい」

 

そんな、メイドさんとのバレンタイン。

 

 

 

 

 

 

――双子の場合――

 

 

「一刀!こんなにチョコレートをもらったぞ!」

「見りゃわかるよ」

 

学校を終え、幼なじみの暑苦しい男と共に下校をする。そいつの手には、チョコのたくさん詰まった紙袋。

 

「お前も相変わらず凄いな!」

「同じ位か?」

 

俺の手にも、チョコの詰まった紙袋。

 

「こんなに食べたら糖尿になってしまうから気を付けろよ!」

「いや、流石に1日じゃ食べきれないし……」

 

そんな会話をしながら帰宅。

 

「おかえり、一刀!」

「おかえりなさい、華佗お兄ちゃん」

 

華佗の家はお向かいさんだが、今日は朝から予約を受けていたため、華佗も一緒に俺の家へ。

扉を開ければ、小さな影が2つ、飛びついてきた。

 

「おう、ただいま!」

「ただいまー」

 

華佗は暑苦しく、俺は適当に帰宅の挨拶をしつつ、それぞれ幼なじみの双子を腰にぶら下げながら靴を脱いで玄関に上がる。

 

「相変わらずモテるわね」

「お兄ちゃん、いっぱい貰ったね」

 

こいつらにとっても、お馴染みの光景だ。

 

「さて、今年はどんなのが入ってるのかなー」

「あ、待ってー」

 

そして、この双子――大喬と小喬にとっても楽しみな日である。俺と華佗の腕から紙袋を抜き取ると、そのまま居間へと駆けて行った。

 

「あいつら、太らないかな」

「小喬は運動をしているし、大喬もそれほど食べる訳じゃないからな。大丈夫だろ」

 

そんな華佗の意見を聞きつつ、俺たちも居間へと向かう。

 

「すっごーい、ゴ〇ィバとかある!」

「こっちは〇イズの生チョコだ。やっぱり、高等部の人は違うね」

 

そうなのか?フランチェスカは元々お嬢様学校だし、こいつらの初等部でも大層なもんが飛び交っていそうだが。

 

「んー、どっちかっていうと、あまり興味がないお嬢様が多いかな」

「そうね。チョコを上げる女子は、たいていお嬢様ってわけじゃない子が多いわよ。箱入りは違うのよ、きっと」

「じゃ、箱入りじゃないお前達はくれるんだな?」

「何言ってるんだ、一刀?……あぁ、そういう事か」

 

気付くのが遅ぇよ。

 

「あったりまえじゃない!昨日のうちに、お婆ちゃんと作ったんだから!」

「うん。失敗はしてないと思うよ」

 

そう言って、それぞれチョコレートの箱を取り出す大小姉妹。

 

「そうかそうか、ありがとうな」

「ありがたく頂くぞ、大喬!」

 

それを、俺たちは恭しく受け取る」

 

「へっへー、私のは本命だからね、一刀」

「私もだよ、お兄ちゃん」

 

小学生だから、色々と可愛らしい包み。それでも、手作りと言うだけで嬉しいのは、なんでなんだろうな。

 

 

 

 

 

 

――冥琳の場合――

 

 

爺ちゃんとの鍛錬、夕食・入浴も終わり、俺は自室で読書をしていた。壁にもたれ掛かって座り、ページを捲る。俺とほぼ同じタイミングで、隣からも紙の音が聞こえてきた。

 

「一刀」

「なに?」

 

隣に座る幼なじみは、本から視線を離さずに呼びかけてくる。

 

「今日は何月何日だ?」

「2月14日だよ」

 

俺もそれに倣い、本から視線を離さずに答える。

 

「では、今日は何の日だ?」

「世間ではバレンタインとか言ってるね」

 

これは別に、俺たちの仲が冷えているとか、倦怠期だとか、そういう訳ではない。

 

「その本来の意味も知らずに、なにかとお祭り騒ぎをするのは、日本人の悪い癖だな」

「楽しければいいんじゃない?」

 

一緒に居るのが当然だと、互いに思っているからこその、この行動だ。

 

「クラスでも、先週あたりからずっとその話題で持ち切りだったぞ」

「あー、確かに(うわ)ついた空気はあったよな」

 

実際、俺と冥琳の距離はゼロだ。ぴったりとくっついている。

 

「『北郷君には何をあげるの?』だの、『やっぱり、アタシを食べて♪ってするの?』だの、面倒な事このうえなかった」

「ひどいなぁ」

 

むしろ、冥琳が俺に寄り掛かっているあたり、可愛らしい。

 

「まぁ、この時期はチョコレートの種類が豊富だから、ありがたいがな」

「ん?」

 

言いながら、冥琳がゴソゴソと動く。その振動を感じ取った俺は、隣を振り向いた。

 

「という訳で」

「くれるの?」

 

冥琳は、どこからか丁寧にラッピングされた箱を取り出し、その包みを開く。

 

「美味しそうだろう?」

「確かに」

 

蓋を開けば、4×4に区分けされたそれぞれの区分に、種類の異なったチョコが1つずつ置かれていた。

 

「ありがと、冥琳」

「ていっ」

 

受け取ろうと手を伸ばせば、叩かれた。なんで?

 

「これは、私も食べるのだ」

「あ、そう」

 

そう言って、箱を畳の上に置く。

 

「じゃ、頂きます」

「あぁ、存分に味わえ」

 

ひとつずつ指に摘まみ、口に運ぶ。これはビターチョコのようだ。冥琳の好みか、割と苦味が強い。でも美味い。

 

「美味しいだろう?」

「ん」

 

しばらく口の中でチョコレートを味わい、溶けてなくなったところで、俺はもうひとつと手を伸ばす。

 

「ん?」

「一刀、こっちを向け」

 

だが、その手を掴まれた。名前を呼ばれ、そちらを振り向けば。

 

「んっ」

「……」

 

新しいチョコを1粒、唇に挟んだ冥琳の顔。

 

「……いただきます」

「ん」

 

俺は顔を寄せ、ゆっくりとそのチョコレートを受け取った。

 

 

 

 

 

 

――華琳の場合――

 

 

「一刀っ!チョコプレイをするわよ!」

「あ、それ3つ目で出てるからな」

「っ!?」

 

ぶれない華琳たん。

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

という訳で、これまで書いた幼なじみを全員出してみました。

 

 

冥琳ちゃんの存在感!

 

 

そして華琳ちゃんの扱い!

 

 

誰か一郎太にもチョコプレイを誘ってください。

 

 

ではまた次回。

 

 

バイバイ。

 

 

 

 


 
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