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真・恋姫†無双~絆創公~ 第二十九話 【命懸けの褒美】

余るカードは誰に渡るのか?

2013-02-14 12:38:06 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1603   閲覧ユーザー数:1411

第二十九話

 

「すいません、北郷一刀さん。お待たせしました……」

「………………ッ!?」

 話を終えたアキラは、一瞬身体をすくめた一刀のヘッドホンを外しながら声を掛けた。

「どうしました?」

「…………終わったの?」

 若干グッタリしている一刀はアイマスクを外しながら、いきなりの眩しい世界にしかめっ面になる。

「ええ、終わりましたが……何かありましたか?」

「いや…………あのさ…………」

「はい?」

「選曲をもう少し考えてくれる?」

「……ダメでしたか?」

「そりゃあね……視界遮られた真っ暗な中で般若心経聞かされてごらんよ……憂鬱どころじゃないよ」

「長い間聴いていないから、寂しいかと思いまして……」

「余計寂しくなるよ!! 何その感覚!?」

「すいません。じゃあ今度からはイナガワさんの怪談話シリーズを……」

「俺の話聞いてた!?」

 してやったりといった顔のアキラと、心底疲れた様子の一刀が軽く言い争っていた。

「で……アキラさん」

「何っすか?」

「俺が憂鬱になってる間に、これはどういう状況なの…………?」

 完全に目が慣れた一刀が皆を見ると、自分に対してどこかよそよそしい態度をされているのを感じた。

 ただ、彼女たちの顔が少し朱くなっている事までは気付かなかった。

「すいません……それ説明しちゃうと、僕と主任は首をはねられますんで」

「本当にどういう状況だよ!? 俺の知らない間に何があったのさ!!」

 予想外に聞かされた処刑の言葉に、思わず大声でアキラに詰め寄る。

「いや、だから説明できないんですって。ほら、見て下さいよ。この殺気……」

 アキラが横目で促す先には、円卓の周りに座りながら、凄まじくどす黒いオーラを放つ女性が数人いた。

「あ、ホントだ。もの凄く睨んでいる。主に春蘭とか思春とか」

「ね? 下手したら僕ら、死と隣り合わせなんですよ」

「どんな命の懸け方なんですか………」

 一刀は呆れながらも、どこか自分と似たところを感じて、他人事のようには思えなかった。

 

「……それで、この挑戦状の件なのですが、恐らく皆様一人一人に送りつけられるかと思われます……」

 場を仕切り直したヤナギが発した言葉に、驚いた女性が何人かいた。

 そのほとんどが軍師や、自らの武に自信が持てなかったり、戦闘には不向きな面々ばかりだった。

「ちょっとお待ちなさいっ!! 何故この高貴な私まで戦に赴かなくてはなりませんの!?」

 彼女達を代表するかの様に、麗羽が勢いよく立ち上がり抗議する。

 その勢いを気にすることなく、ヤナギは再び語り出す。

「北郷一刀様と張遼様に送りつけられたこの紙は、五十二枚で一組の遊具なのです。それから御二方の分を差し引けば残りは五十枚。今この大広間にいる全員から、北郷一刀様とその御家族、張遼様、戦に参加できない璃々様と孫登様、そして私とアキラを除いた残りの人数は四十八名。互いの数はほぼ一致するのです……」

 その言葉を聞き終わった周りがざわつき始めた。

「残る二枚が誰に送りつけられるかは、まだ不明です。今こちらにいらっしゃらない華佗様なのか、下手したら……皆様の良く知る身内の方なのか…………」

 その言葉を聞いて、今度は紫苑が勢いよく立ち上がった。

「それって……もしかしたら璃々も狙われるという事ですかっ!?」

「我々の予想が正しければ、そういう事になりますが、まだ可能性の段階です。九頭竜が気まぐれで送りつけたのかもしれませんし…………」

「でもっ!! でも、もしもそれが正しければっ…………!!」

 紫苑の涙混じりの言葉は、聞く人間を不安にさせた。

 と、ここで口を開いたのはアキラだった。

「心配しないで下さい。仮にそうだとしたら、挑戦状が送りつけられてから狙われる事になります。その時には、僕らが璃々ちゃんを護る盾になります。例え僕らが死んだとしても……」

「そ、それって!?」

 アキラの言葉に、紫苑は耳を疑った。

「ああ、気にしないで下さい。僕らはその覚悟でこの任務を預かっているんです。それに上からも言われているんですよ。命懸けで皆さんを護るようにって…………」

 今までの頼りない印象から一転、彼から漂う雰囲気がガラリと変わった。

 それは、隣に立つ彼の上司も同じだった。使命感に燃える二人の表情が、だれからも見て取れた。

「だ、だとしても! そんな事したら二人が歴史の流れを狂わす事に……」

 その二人をいち早く心配したのは一刀だった。

 自分と自分の家族を護るために動いてくれた二人だからか、二人に近寄って必死に押し留めようとしている。

 そんな様子の一刀を、逆に押し留めたのはヤナギであった。

「それを仰いますと、我々は既に歴史への反逆者になっております。この世界に九頭竜の侵入を許し、北郷一家の皆様を招き入れてしまいましたから」

「で、でも……」

「我々は北郷一刀様、あなたの為に……そしてあなたと皆様が作り上げた、この世界の為に身を捧げる事を誓ったのです。その誓い故に命を落とす事、これは我々にとって誇りであるのです…………」

「ヤナギさん……」

「ですから、皆様の為に尽力させて下さいませんか……皆様のお役に立ちたいのですよ」

 いつもの険しい顔が、穏やかな笑顔に変わる。

 しかしながら、その瞳は強い決意に満ちている。

「…………分かりました。ですが無茶はしないで下さい……俺も、皆も……二人が死んで欲しいとか思っていないんですから……」

「……ええ、皆様が優しい事は重々承知しておりますとも。なあ、アキラ………………?」

 部下の方に向き直った上司は疑問符を浮かべた。

 目の前にいるその部下が眉間に皺を寄せて、顎に手を当てて唸っていたからだ。

「ウーン………………」

「どうした、何かあったのか?」

「いや、別に大した事じゃないので……」

「構わんぞ。何かのきっかけになるかもしれないからな。言ってみろ…………」

 部下が真剣そうに悩む姿が真新しかったのか、快く発言を促した。

「……九頭竜がこうやって、名指しで挑戦状を送りつけてくる件なんですが」

「ほう……」

「その場合、狙われるのはその名前の方であり、頑張るのは勿論その方ですよね?」

「そうだな……」

「だとしたらその方が勝利した場合、何かしら労いとか褒美の品とか渡した方が良いと思うんですよ。ホラ、僕らのせいで皆様のお手を煩わせる事になるんですし……」

「ふむ、確かに……」

「でも昨日の宴会の出費がありましたし、流石に上の方に、更なる出費を報告するのも気が引けます……」

「うむ…………」

「それに皆さんそれぞれ、貰って喜ぶものが違うじゃないですか? だとすれば皆さんが共通に喜ぶものが平等だと僕は思うんですよ」

「………………ん?」

「そう考えるとですね、やはり皆さんがやる気になるものが良いと思うんですよ。それに何と言っても女性ですから……って考えると“これ”しか思い付かないんですよねー……」

「おい、待て。お前まさか…………」

 とてつもなくイヤな予感がヤナギの全身を支配した。

 そして、それは見事に的中する。

 

「どうでしょうか。見事勝利した方には褒美として“北郷一刀さんと閨を共に出来る”っていうのは?」

 

「!!!!!!!?」

 

 青天の霹靂が大広間に走る。

 色んな種類の衝撃が、勢い衰えずけたたましい音で走り回っており、全員が口を開けずにいた。

 一番最初に口を開いたのは、隣でワナワナと震えながらも発言者の胸ぐらを掴んで、怒りと羞恥で顔を真っ赤にしているヤナギだった。

「……き、貴様は……そんな、下品な事を……!!」

「ねっ! なかなか良い案でしょ? ちゃんと平等ですし、今後その人が狙われる事は無いから僕たちが護衛にあたる必要も無くなりますし……」

「そんな事を真面目な顔して考えていたのかっ!!!?」

「そんな事って言いますけど、これ結構重要ですよ?」

「第一、そうしたとして! 軍師の方々が標的になった場合はどうするんだ!?」

「その時には、武将の皆さんや兵士の方々に助力を仰ぐしかないっすよ。ああ、勿論その場合の恩賞も必要になりますが。あと、これは本人同士の合意の上での閨なので、勝利したとしてもし万が一断るなら誰かに譲ることも可能という事で」

「お、お前は……!」

「そもそもの疑問だったんですけど、僕らが北郷一刀さんと皆さんとの閨を制限する事自体が、後々の世代の人間に影響を及ぼす事になるんじゃないっすか?」

「そ、それは…………だ、だがな! 皆様は誉れ高い武将、知将なのだぞ! そんな誘いに乗るとでも…………」

「主任。ちょっとあれを……」

「は?」

 一方的に激しい口論を展開するヤナギが、アキラの指差す方にある円卓を見る。

 その周りに座っているのは一刀とその家族の四名、そして璃々と孫登の計七名のみで、後の人間は大広間から姿を消していた。

 皆の座っていた椅子の多くは倒れており、円卓の上もまるで何者かに荒らされたような散らかりようだった。

「な、何だこれは!? 神隠しか!?」

「いや、違いますよ……」

 慌ててキョロキョロ見回すヤナギと、上司の非科学的な発想に苦笑するアキラ。

「北郷一刀様! 皆様は一体どこへ!?」

「猛スピードで鍛錬に向かったよ」

「…………ハイィッ!!!?」

 

 慌てるヤナギを筆頭にして、大広間に残った人間が鍛錬場に向かうと、そこは掛け声と撃ち合いの音に満たされていた。

 その轟音に一同が身をすくめ、恐る恐る確認すると、異様な殺気を放つ英傑たちの姿があった。

 その姿を見て絶句したのは、いち早く駆けつけたヤナギだった。

「こ、これは…………!?」

「分かったでしょ、主任? 皆さんにはこの方が効果的なんですよ」

「何と言うことだ……私の中の精悍な英傑像が……崩れ落ちていく…………」

 その言葉通り、ヤナギはその場に崩れ落ち座り込んでしまった。

「しっかし皆さん凄いっすねー……いつもこんなに俊敏なんすか?」

「いや、何かいつもより気合いの入れ方が違うと思う……」

 一刀は目の前で繰り広げられる凄まじい撃ち合いに釘付けになっている。

「羨ましいっすね~、憎いねこの色男!」

「そうじゃないよ。春蘭や秋蘭は多分華琳の為に張り切っているんだろうし、思春は蓮華に付き合っているだけだろうし……皆が皆、俺の為に動いているんじゃないよ」

「そういう事はどうして鈍感なんすかねー…………」

「ん? 何か言った?」

「いいえ別に……」

 こめかみを掻きながら苦笑するアキラに、一刀は小首を傾げた。

「……あれ? そういや桃香や朱里とかの姿が見えないけど」

「ああ、そういった軍師の方々や戦いに不向きな方々は、一目散に書庫の方に走って行ったみたいっすよ。少しでも知識を収集して戦に備えようって事だと思いますよ?」

「やっぱり、皆に負担かけちゃったな…………」

 鍛錬を眺めるその顔が、少し曇りだした。

「らしくないっすよ、北郷一刀さん! あなたはあなたらしく、気楽に構えていればいいんですって!」

「…………アキラさん、ちょっと頼みたい事があるんだけど」

「なんすか?」

 

 一刀はアキラに耳打ちをする。

 その言葉を聞いたアキラは、了解の返事をする代わりに、ニヤリと笑った。

 

 

 

 

 

-続く-

 


 
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