fate/zero 君と行く道
プロローグ
どんな悪夢も何時かは覚める
彼がそう教えてくれた
今日もただぼうっと天井を見上げていた。
この薄暗い空間の闇にもとっくに目が慣れて、無機質で何の趣も無い天井をただただ見つめる。
ここにいるのは私だけ…否、それには若干誤りがある。
正確に言えば、ここにいる“人間”は自分だけだ。
この場にいる自分以外のソレ等はさっきから全身に纏わり付いて気味の悪い音を立てながら蠢いている。
数え切れないソレが形成する光景は醜悪さを通り越して感嘆すら覚えてしまう。
そんなモノの真っ只中に寝転がっている訳だが、不思議と苦痛は感じなかった。
感じる為の何かが欠落し始めているからなのかもしれない。
今更、本当に今更ながら、何故この様な事になってしまったのか?
父にどこか別の家に養子に出され姉や母から引き離された後、何が何だか分からない内にここに放り込まれた。
そこには気持ち悪いモノの大群が一つの生き物のように蠢いていて、あろう事かその中に放り込まれた。
外側と内側から自分の体を滅茶苦茶に弄され、初めこそあまりの苦痛に泣き叫びながら助けを求めたが、誰一人として自分をこの地獄から引き上げてくれる者は居らず、程無くして声を上げる気力も失せた。
こんな日々が続く内にこの地獄の中で何も感じなくなって来ている自分がいる。慣れとは恐ろしいモノだ。
だからだろうか?こうしてぼんやりと考え事が出来るようになったのは。
どうして父は私をこの家に預けたのだろう?
何故こんな地獄に自分を突き落として行ったのだろう?
どうして誰も助けに来てくれないのだろう?
どうして自分だけこんな目に会っているんだ。どうして自分だけが。
もしも養子に出されたのが姉だったのならば、彼女も同じ仕打ちを受けたのだろうか。
もしもの話は分からないし、何故こんな事になったのかと言う事はもっと分からない。
考えても嘆いても足掻いても変わらない。ずっと暗いままだ。
このまま一生ここから出られないのだろうか?それとも老いて朽ち果てる前にコレの餌にされるのか?
そう考えると、消えかけていた感情が微かに反応を見せる。
感じたのは“恐怖”だった。
この地獄が始まった当時の異形の海に対する恐怖ではなく、もっと根本的な所から来る恐れだった。
死にたくない
一人で死にたくない
こんな所で一生を過ごすなんて嫌だ
このまま何も起きなければ終わらないであろう地獄にこれまで抑制していた何かがそっと溢れた。
「たすけて……たすけて……たすけて…ください………」
虚ろな目に涙を浮かべながら呪詛の様に呟き続けた。何度も何度も。
もしかするとその願いが通じたのかもしれない。
突然右手の甲に焼けた鉄の棒を押し付けられたような激痛が襲う。
だが、別段表情を歪めるなどという事も、耐えかねて声を上げる事もしなかった。
助けを求める事に夢中でそんな感覚を味わっている余裕すら無かったのだ。
痛みが和らぐと、眩い光が暗闇を浸食して行く。
何が起きたのか、最早辛うじて正常な思考を保っている状態の頭でふとそう思った時には既に意識は暗転していた。
その時はまだ知る術も無かった
その光こそが、今まで求めてきた
救いの光であることに
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誤字脱字や設定上の矛盾点が多発したので改訂版を投稿する事になりました。
最新話を期待していた方には深くお詫び申し上げます。