No.543630

SAO~菖蒲の瞳~ 第二十七話

bambambooさん

二十七話目更新です。


今回は、ボス戦後のアヤメ君の心情ですかね。短めです。

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2013-02-13 12:43:28 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:1010   閲覧ユーザー数:963

 

第二十七話 ~ 菖蒲(アヤメ)の誓い ~

 

 

【アヤメside】

 

コロシアムの奥に出現した扉を潜り抜けたその先に、第一層と同じく延々と伸びる螺旋階段が現れていた。

 

第一層と第二層のフィールドやダンジョンの趣は大きく異なっていたのだが、この次の層に伸びる階段だけは全く同じ造りだ。

 

その階段を三周くらい登った辺りに俺たち――俺、キリト、アスナ、シリカの四人――は居る。

 

下の方からは、今ごろ《オークション》をしているであろう元レイドメンバーの一喜一憂する声が聞こえてくる。

 

次第に遠ざかっていく声をBGMに、俺たちは次の第三層に向けて歩を進め、完全にリラックスした状態で談笑していた。

 

「まさか、俺の発案がオークションにまで発展するとはな」

 

漆黒のコートを靡かせて先頭を歩くキリトが得意げに笑いながら言った。

 

リンドとナタクたちの間でどのようなやり取りがあったのかは不明だが、彼らはナタクたちの装備を商品に臨時オークションを開いた。

 

何でも、装備を欲しいと言うプレイヤーが思いのほか多く、あくまで《公平》で、尚且つ《高額》になるような方法は無いかと考えた挙げ句、思い付いたのがオークションなのだそうだ。

 

因みに、俺たち四人は特に欲しいものがなく、オークションに不参加なので「先に行って第三層の《転移門》を有効化(アクティベート)しておいてくれないか?」とリンドに頼まれ今に至る。

 

「発案と言うか原案だな。最終的な形にしたのはシリカの案」

 

キリトの言葉に、最後尾を歩く俺が軽口で答える。

 

すると、キリトが振り返って何か言いたげな目を向けてきたので、シリカと並んで俺の前を歩くアスナの陰にサッと隠れて視線を避けた。

 

「……アヤメさんも私を壁にしないで下さい……」

 

アスナが困った声で言ってきたため、素直に陰から姿を現す。その代わりとしてシリカの後ろに移った。

 

「そう言えば、エギルさんには何かお礼をしなくちゃいませんね」

 

「確かにそうね。さっきのボス戦も向こうから声を掛けてくれたし」

 

「フィールドボスのときもそうだったしな」

 

また少し歩いてから呟かれたシリカの言葉に、キリトとアスナが同調した。

 

「ナタクから譲られた《ベンダーズ・カーペット》でいいんじゃないか? かなり高価だし、使い道はいろいろあると思う」

 

まあ、自分のストレージに収まらないなど不便な点もあるし、純戦闘職にはあまり縁の無いアイテムではあるが。

 

「それでエギルさんが商売に目覚めちゃったらどうするんですか……?」

 

「お得意様になればいいだろ。知人の方が遠慮しなくてすむから、むしろ望むところ」

 

アスナの言葉に淡々と答えを出すと、隣のシリカが乾いた笑い声を上げた。

 

「えと……ベンダーズ・カーペットなら宿屋のチェストに入れっぱなしだった気がしますよ」

 

「んじゃ、それに《マイティ・ストラップ》でも付けるか」

 

「いいなそれ」

 

キリトの案に乗っかる。

 

《マイティ・ストラップ》は、そこそこの防御力に嬉しい筋力値ボーナスが掛かる装備アイテムだ。そして、確かアバターの姿が《革帯を局所に巻いただけの半裸》に固定される。

 

エギルに似合いそうな気がするのは俺だけでないはずだ。

 

「もういいです……」

 

ふざけているとしか思えないような候補にアスナは深い溜め息をつくと、発案者であるキリトと会話を聞いていたシリカが忍び笑いを漏らした。

 

その楽しげな様子を後ろから見守りながら、俺はこう思っていた。

 

――良かった……本当に良かった……

 

今回はシリカがいて、キリトやアスナとより親密になれたからか、第一層の時よりも強く思った。

 

俺は、それが表に出にくいと言うだけで、実際はかなりの《怖がり》で、それと同じくらいの《心配性》だ。

 

家族、友達、宝物。それがどのようなものであれ、《大切なもの》であるなら失うのがたまらなく怖く、それらを失う原因となり得るものに過剰に反応し深読みしてしまうところが多々ある。

 

最近で言ったら、レジェンド・ブレイブスに詐欺の手口を教えたと言う雨合羽に殺意めいたものを抱いた時だ。

 

あのときは、『その狂気がいずれシリカたちに降りかかってくるのではないか』と考えていた。今になって思い返せば、自分でも考えすぎだと思う。

 

そんな怖がりな俺は、特にボス戦が物凄く怖い。

 

シリカやキリト、アスナのうち誰か一人を失うかもしれない。もしかしたら、全員かもしれない。

 

戦闘中は目の前に集中しているからそうでもないが、前日や直前は必ずこんな考えが頭を過ぎる。

 

俺が積極的に囮を勝手出るのは、少しでもシリカたちを危険から遠ざけるためだ。

 

だから、誰も失わずに戦闘を終えた今は、本当だったら泣いて喜びたいくらいなのだ。

 

でも、それはしない。

 

外見は子供っぽくても、俺はこの中で最年長。自分の弱いところは見せられないし、見せたくない。そう言うプライドは持っている。

 

「……お前ら、第三層はどうするんだ?」

 

俺は湿っぽくなった心を晴らすように、心持ち声を大きくしてキリトたちに尋ねた。

 

「ん~……一日だけ休んで、いつも通りソロ狩りかな」

 

真っ先にキリトが答えた。何も考えていないような、飄々として掴みどころの無い暢気な声だ。

 

「私はシリカちゃんともう一度パーティ組もうかなって考えてます。……シリカちゃん、いいかな?」

 

続けて発せられたアスナの言葉に、シリカは少し悩んだ後、「はい」と満面の笑みで答えた。

 

「アヤメさんはどうするんですか?」

 

シリカがこちらに顔を向けて聞いてきた。

 

「危ないから前を向いて歩け」と言ってから少し考える。

 

俺の本心としては、四人でパーティを組むか、ギルドを結成するかのどちらが望ましい。そうした方が、シリカたちを守るのに都合がいい。

 

だけど――――

 

「キリトと同じ。ソロ狩りだな」

 

自分には、その力が無いことを今回のボス戦で理解した。

 

もし、アステリオス王の攻撃をナタクが弾いてくれなかったら。もし、《レジェンド・ブレイブス》が駆けつけてくれなかったら。シリカはおれの目の前で殺されていたかもしれない。

 

そうならなかったことへの安心感ももちろんあるが、それ以上に、あのときシリカを完璧に守り切れなかった自分に不甲斐なさを感じていた。

 

たった一人を守れないのだ。三人も守れるはずがない。

 

それに、他人の意見をへし折って俺の意見を押し付け、それに縛り付ける権利は俺にはない。

 

だから、今は強くなることを考える。シリカたちを、これ以上危険にさらさないためにも。

 

「それじゃあ、第三層では一旦お別れですね」

 

少し寂しげなトーンでシリカが言う。

 

それを感じ取ったアスナがシリカの手をそっと握り、私は一緒だよ、と目で語りかけた。

 

まるで姉妹だな。

 

「大丈夫だよ。どんなに遅くてもフィールドボス戦には会えるさ」

 

「お前の力なら心配ない」

 

後押しするようにキリト、俺の順で声を掛ける。

 

本当は心配だらけだが、アスナが付いているし、シリカ自身の実力も申し分ない。

 

だから、信じることにした。

 

「……はい!」

 

シリカは、元気な声で返事をした。

 

 

それからしばらく登ること十数分。長かった螺旋階段は少し広い踊場に繋がっていた。

 

「到着っと」

 

最後の一段を踏みながらキリトが呟き、それに続くように俺含む後ろの三人も階段を登りきる。

 

行き着いた踊場には、タワーの反対側に向かって100メートルくらいの橋が架かっていた。

 

「あれが第三層への扉だ」

 

キリトが指差す橋の先には、扉のようなものが見えた。

 

《視覚強化》スキルから《遠見》を選択すると、視界がぐぃぃぃ、とクローズアップされて扉の様子が鮮明に映た。

 

扉の外見は第一層の時と同じ。ただし、扉を挟むようにして騎士の絵が壁に彫ってある。

 

「アヤメは見えたと思うけど、扉の両側に騎士の絵がある。それが、第三層のコンセプトなんだ」

 

ベーター、キリト先生の講釈を聞きながら、走れば5秒で駆け抜けられる橋をゆっくりと渡る。

 

「そして、ある意味第三層からが本番なんだ」

 

「そうなの?」

 

キリトの言葉に、アスナが驚いたような声で聞き返した。

 

「うん。第三層からは一層、二層と比べて人型Mobの種類が倍近くになるんだ。それに、一度の戦闘に現れるMobの数も増えるから雑魚Mob戦も難しくなる」

 

「まあ、だからこそ第三層からギルドが組めるようになるんだろうな」

 

「「へぇ……」」

 

キリトに続けて口を開くと、女子二人が感心したような声を上げた。

 

「まあ、俺たちのレベルなら主街区までの道のりは大丈夫だよ」

 

「β版情報は頼りにしてる」

 

「任せとけ!」

 

自信たっぷりに言うキリト。

 

「β版情報()頼りにしてる」

 

「……俺は頼りにならないってか?」

 

一部を強調してもう一度言うと、キリトは俺にジト目を向けてきた。

 

「冗談だ」

 

真意を読ませないように真顔でそう答えると、キリトは「どっちなんだ……」と頭を抱えた。

 

それを見て、シリカとアスナが思わずといった様子で吹きだした。

 

その後も少しキリトを弄っていると、あっと言う間に扉の前に到着した。

 

「……あ、そうだった」

 

大事なことを思い出した。

 

「どうしたんですか?」

 

「ちょっとやり残したことがある」

 

シリカに答えてから、メニューを開き、その中から件のアイテムをタッチして使用を選択する。

 

すると、目の前に手鏡とメニューとは違う三本のパラメーターが表示されたウィンドウが現れた。

 

「それ、カラーチェンジアイテムですよね?」

 

「その通り」

 

アスナの言葉を肯定しながら、ウィンドウのRを204、Gを126、Bを177となるようにパラメーターを弄り目的の色を作る。

 

「出来た」

 

数値は覚えているので直ぐに作れた。

 

OKボタンを押すと、手鏡とウィンドウが同時に消滅する。

 

手鏡に隠されていた俺の顔が現れると、キリトとアスナは何が変わったのか分からない、という風な疑問符を浮かべたが、シリカだけは懐かしそうな顔をした。

 

「わあ……」

 

「シリカちゃん分かったの?」

 

「はい。瞳の色ですよ」

 

「どれどれ……むぐ!?」

 

「近い」

 

俺の目を近くで見ようと近づけてきたキリトの顔を、嫌悪三割の目で睨みながら押し返す。

 

「……あ、ホントだ。瞳の色が赤紫色になってる」

 

俺の顔をマジマジと見つめていたアスナが呟いた。

 

菖蒲(あやめ)色な、菖蒲(しょうぶ)色じゃないぞ。……タワー登る最中にモンスターがドロップして、ボス戦終わったら変えようと思っていたんだが、忘れてた」

 

「それなら、転移門を有効化させたあとでもよかったんじゃないか?」

 

何で今? とキリトが目で問い掛けてきた。

 

それに対して、俺は「……気概の問題だな」とだけ返した。

 

「まあ、これで用は済んだ。扉を開けるぞ」

 

「どうせだったら皆で開きましょうよ」

 

ニコニコ笑いながらシリカが言った。

 

扉の大きさは横幅が約2メートル。四人で丁度いいくらいか。

 

目配せすると、キリトとアスナは頷いた。

 

シリカの意見を採用し、左側からキリト、俺、シリカ、アスナの順に付く。

 

「じゃあ、いくぞ。――せーのっ!」

 

キリトの掛け声で、一斉に扉に力を入れる。

 

すると、低い音を響かせながら扉がゆっくりと開きだし、遮られていた光が漏れ出す。

 

その光の先にある新たな世界に思いを馳せ、菖蒲色に変わった目で見つめながら固く心に刻み込む。

 

――この菖蒲の瞳に誓う。もう二度と、俺の目の届く範囲ではシリカたちに危険な目に合わせない。

 

第三層への扉が、今開かれた。

 

 

【あとがき】

 

以上、二十七話でした。皆さん、如何でしたでしょうか?

 

二十四、五、六話で上手くいった反動か、内容が迷走してますorz

 

今回は、徹頭徹尾無表情のアヤメ君の本音の一部暴露しました。

怖がりで心配性で縛っちゃえば楽なのに、他人の意見は尊重する。難儀な性格してますね~。

 

次回は小話3になります。

 

《ハームダガー+9》《リズベットがお店を開いていない理由》そして、疑問に思っている方も多々いるであろう《格闘スキルと体術スキルの違い》の三つです。まあ、大した差は無いんですけどね(笑)

 

それでは皆さんまた次回!

 


 
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