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ゼロの使い魔 ~しんりゅう(神竜)となった男~ 第十四話「マヒ、そして授業」

光闇雪さん

死神のうっかりミスによって死亡した主人公。
その上司の死神からお詫びとして、『ゼロの使い魔』の世界に転生させてもらえることに・・・・・・。

第十四話、始まります。

2013-02-12 23:04:11 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:7281   閲覧ユーザー数:6862

※火竜 vs 神竜 → 結果:神竜の勝ち

 

戦闘は終始、俺のペースで進められた。

ゲスどもの攻撃は、“スカラ”で防御力を目一杯高めた俺の身体には、キズ一つ付けられない。

逆に俺の攻撃(尾による“あしばらい”や“超高速連打”、”噛み砕き”など)によって、二頭(ふたり)は見るからに疲弊している。

 

「「・・・・・・・・・・・・(ゲェ、ゲェ。ゲェ、ゲェ)」」

「どうした火竜どもよ。その程度の力で最強と言っておったのか?」

 

息を荒げる二頭を見下ろしながら口を開いた。

 

己の力を過信するのは、まだ幼生ということで多少大目にみるが、己より小さき者たち、弱き者たちを苛める、その根性だけは決して許しはしない。

 

「己の快楽をえるためだけに、小さき者たち、弱き者たちを苛めたのは決して許されざることだ。火竜どもよ。今までの自分たちがしてきた行いの報いを受けるが良い」

 

俺は“超ちからため”を発動し、ハイテンションまで自分のテンションを一気に上昇させる。

そして、空気中の水蒸気を一気に凝縮させた水で、“てっぽうみず”を起こした。

 

 ドン!

 

大きな波が、二頭を呑みこむ。

 

「「・・・・・・・・・・・・」」

「・・・・・・・・・・・・〔ダモーレ〕」

 

波が霧散した後には、仰向けで倒れこむ二頭がいた。

俺はしばらく黙って見下ろしていたが、“ダモーレ”の呪文を唱えて二頭のステータスを表示させた。

まずは兄の状態を確認する。

 

 【名前】  表示OFF(種族:火竜 続柄:兄)

 【最大HP】表示OFF

 【最大MP】表示OFF

 【攻撃力】 表示OFF

 【守備力】 表示OFF

 【素早さ】 表示OFF

 【賢さ】  表示OFF

 【状態】

   気絶(HPが絶命目前まで減少)

 

続いて弟の状態を確認すると、同じような内容だった。

 

どうやら二頭とも命を失うとこまではいかなかったらしい。

 

〔ベホイミ〕

 

俺はそんな二頭の体力を少し回復させてから首根っこを掴まえて、そのまま上昇した。

そして、二頭が二度と森へと降りてこないような場所に、“ルーラ”で飛んだ。

 

*****

 

「神竜さま!!」

 

ゲス二頭をある場所に置き、元の森(エコー達の住処(すみか)に戻ってきた時、いの一番にメロディが近寄ってきて、心配そうに俺を見つめてきた。

俺はそんなメロディを安心させるように微笑んで、“ドラゴラム”の呪文を唱えて人間の姿になった。

 

「シェン様、ご無事でなによりです」

 

その時、アマテラスとツクヨミが近づいてきた。

俺は二匹(ふたり)を見つめて口を開いた。

 

「悪かったな二匹とも。このようなことでお前たちを呼び出したりして」

「何をおっしゃいますか。シェン様のお役に立てて、私たちは喜んでおります。ね? ツクヨミ」

「姉さんの言う通りです。いつでも僕たちをお呼びください」

 

二匹は笑顔で答えたので、俺もつられて笑顔になった。

 

「またよろしくな」

「「はい」」

 

それから俺は二匹の頭を撫でて、“オオカミアタック”を解除する。

そして、大きく頷いた二人が、元の場所に戻っていったのを見届けた後、辺りを見回した。

周りにはたくさんのエコー達が集まっている。

ふとリズムの隣に見慣れない雄のエコーがいるのに気付いた。

そのエコーは、俺が見ていることに気づいて、一歩前に進み出てお辞儀をしてきた。

 

「お初にお目にかかります。私、(おさ)を務めるビートと申します。妻の話によりますと私どもを助けに来てくださったとか」

「うむ。お前たちがいるということは、助かったのだな? 良かった良かった」

「はい。私どもを助けてくれたのは、韻竜の子と、その(ビートやら)はい?」

「話は後で訊く。今はやらねばならないことがあるのでな。メロディ。途中だった治療をするから案内してくれ」

「あ、はい。こちらです」

 

俺はビートの話をさえぎって、メロディにマヒしてしまったエコーのところに案内させる。

ビート達が助かったのならば、俺が今なすべきことは話を訊くことではない。

 

「ドーラどう? お姉さんの様子は」

「体力は少しずつだけど、回復してるよ。でも・・・・・・」

「やっぱりマヒが残っちゃってる?」

「うん・・・・・・」

 

最初に穴の中に入ったメロディの問いかけに、ドーラとそばにいるドーラよりも小さいエコーの子(この子が話のあった妹のようだ)がうつむいてしまった。

俺は二匹の頭を優しくなでて、安心させるように微笑んだ。

 

「安心しなさい。お母さんのマヒは治る」

「「ほ、本当!?」」

「ああ。すこし離れていなさい」

「「・・・・・・う、うん」」

 

二匹をメロディとともに(二匹の)母親から少し離れさせて、俺は落ち葉のベットで横たわっている母親の身体を優しく触れた。

そして、一呼吸おいてから、キアリクの呪文を唱えた。

 

(ビクッ!)

 

母親の身体が一瞬、ビクッとなった。

 

ふぅ。これで大丈夫だ。

 

皆が見守る中、俺は一息ついて手を放した。

 

「身体を動かしてみなさい。動くはずだ」

「は、はい・・・・・・、ホントだわ・・・・・・、動きます!」

「ふっ。治療は完了だ。子供たちを抱きしめてあげなさい」

「はい。ドーラ! ラム!」

「「お母さん!!」」

 

母親に呼ばれた二匹が飛び込んできた。

俺は微笑んで立ち上がると、一歩下がった。

そして、ビートやメロディたちに目配せして、三匹(さんにん)だけにするためその場を離れた。

 

「確かお前たちを助けたのは、韻竜の子と言っていたな?」

 

ドーラたち三匹から少し離れた岩場に腰を下ろした俺は、ビートに助けられた経緯を訪ねた。

 

「はい。韻竜の子と、その子にお姉さまと呼ばれていた人間の女の子に助けてもらいました―――」

 

ビートの話をまとめるとこうだ。

ビート達エコーの能力を用いたイカサマで金儲けをしていた男とその部下のお店に、人間に化けた韻竜の子と、その子にお姉さまと呼ばれていた人間の女の子が入店して、その男たちのイカサマを公衆の面前で暴露した。

そして、解放されたビート達を、この森の近くまで連れてきてくれたらしい。

 

うむ。人間に化けた韻竜の子と、その子にお姉さまと呼ばれていた人間の女の子か・・・・・・。

おそらくシルフィードとタバサだな。

大方、貴族のメンツを守るためにイカサマを暴露して、巻き上げられた金を回収してこいといった感じの命令を受けたってとこだろう。

となると、この場所がバレる可能性は低くなった。

二人が漏らすワケがないからな。

それに子どもを取り返された以上、男たちがここにくるようなこともないだろう。

ビート達に言う事を聞かせられない今、ここにくる理由はないしな。

たとえ来たとしても、ビート達が警戒するだろう。

さて俺がここにいる理由もなくなったことだし、帰って整理の続きでもしようかねぇ。

 

「経緯はよく分かった。本当に助かって良かったな。さて俺は、この辺で帰るとしよう」

 

学院に帰るため立ち上がりながらビートに告げる。

ビートは驚いた表情になり口を開いた。

 

「もう少しお待ちを。まだお礼も何もしておりませ(良い良い)で、ですが・・・・・・」

「当たり前のことをしたまでだ。何かあれば、また呼びなさい。ではな、メロディ。親孝行するんだぞ」

「あ、はい」

 

とどめようとするリズムを手で制して、神竜に戻りながらメロディに告げる。

そして、メロディの頷きに微笑んで空に飛び上がった。

 

「そうそう。あの火竜どもはもう二度と、森に降りてはこないぞ! 俺が保証しよう! 安心して生活しなさい!」

 

そこで一旦止まった俺は、見上げるメロディ達と他の動物達に訊こえるような大声で告げた。

その言葉で喜びの声を上げる動物たちに微笑んだ後、俺は“ルーラ”の呪文を唱えて学院に戻った。

 

さ~て、整理を頑張りますか~。

 

****

 

エコーの件から六日が過ぎたある日。

俺はモンモンの首に巻きついて眠っていた。

今朝、モンモンと一緒に近くの森で、野生の薬草を摘みに行っていたからだ。

 

「ねぇ、ルイズ。あなた、何を引きずっているの?」

 

モンモンの声で薄目を開けてみると、ルイズがなにやらボロ切れのようなものを鎖につないで引きずっているのが見えた。

そのボロ切れのようなものをよく見たら、才人だった。

大きく腫れあがった顔と、こびりついた血で原型をとどめていないけどな。

 

というか何があったんだ? 一体。

 

「なにしたの? 彼」

「私のベットに忍びこんだのよ」

「まぁ!」

 

何してんだい? 君は・・・・・・。

まぁいいや。寝るか・・・・・・。

 

俺は周りの喧騒の中、欠伸一つして眠り始めた。

 

「では授業を始める。知ってのとおり、私の二つ名は“疾風”。疾風のギトーだ」

 

その耳障りな声で目を覚ます。

どうやら、今日最初の授業は最低なクズ教師、ギトーが担当するようだ。

ギトーは、教室中がし~んとした雰囲気に包まれた様子を満足気に見つめてから言葉を続けた。

 

「最強の系統は知っているかね? ミス・ツェルプストー」

 

はぁ。全然変わってねぇな、このクズ教師。

 

「“虚無”じゃないんですか?」

「伝説の話をしているワケではない。現実的な答えを聞いてるんだ」

 

やれやれ。

いちいち引っかかる物言いしかできねぇのか?こいつは。

それ以前に、俺が言った言葉が全然わかっちゃいねぇよ・・・・・・。

だんだん腹が立ってきたぞ?

 

「“火”に決まってますわ。ミスタ・ギトー」

「ほほう。どうしてそう思うね?」

「すべてを燃やしつくせるのは、炎と情熱。そうじゃございませんこと?」

「残念ながらそうではない」

 

薄目でギトーを睨みつけながら成り行きを見守っていると、ギトーが腰にさした杖を引き抜き言い放った。

 

「試しに、この私に君の得意な“火”の魔法をぶつけてきたまえ」

 

更にギトーは挑発するような言葉も口にした。

 

「どうしたね? 君は確か、“火”系統が得意なのではなかったかな?」

「火傷じゃすみませんわよ?」

「かまわん。本気できたまえ。その有名なツェルプストー家の赤毛が飾りではないのならね」

≪ふっ、ふふ。ふふはははははは≫

 

ギトーの教師ならざる言葉に、俺は限界が来て侮蔑の笑いを抑えることができなかった。

 

「シェ、シェン・・・・・・?」

 

皆の視線が首に巻き付いた俺に集中し戸惑うモンモン。

それを無視した俺は、首から離れ身体を二段階大きくする。

そして、驚くギトーを睨みつける。

 

≪・・・・・・つくづく愚かな人間だな、小童(こわっぱ)

「なに!?」

≪我は以前、お前に言ったはずだ。お前の考える“風”が最強というのは間違っていると。“火”、“水”、“風”、“土”が調和を保っているからこそ、この世は存在できるのだと。この四系統は等しく優れていると言っても良いと。忘れたのか? 小童≫

 

ぽか~んと口を開けている生徒を無視して、ギトーに言葉を投げかける。

ギトーは怒りの表情で、杖を振るい俺めがけて烈風を放ってきた。

 

〔マホターン〕

 

それよりも早く“マホターン”の呪文が完成した。

その効果によって、ギトーが放った烈風は行き先を変えてギトーを吹き飛ばした。

 

≪やれやれ。怒りにまかせて攻撃してくるとは。本当に愚かな人間だ。興をそがれたな。主、俺は寝床に戻っている≫

 

俺は深いため息吐き出して、教室をでた。

 

ん? なんだか騒がしいが、なんかあるのか? 今日?

まぁいいや。早いとこ寝床に戻って寝るとしよう。

 

 

**********

 

(本当にあの竜は一体・・・・・・)

 

今もなお教室が静まりかえる中、シェンがでていったドアを見つめるタバサの姿があった。

タバサは、使い魔である韻竜のシルフィードが用いる先住魔法とも違うシェンの能力のことを考えていた。

そして、シェンの能力の計り知れない可能性に、タバサは自分の心の中に希望が湧いてくるのを感じた。

しかし、タバサはそれを必死に抑え込む。

期待したら自分が自分でなくなると分かっているからだ。

 

「あややや、失礼しますぞ! って、ミスタ!?」

 

その時、コルベールが教室に入ってきた。

タバサはシェンをもっと調査する必要があると考えながら、慌ててギトーを抱え起こしているコルベールの方を見つめるのだった。

ちなみにその間、生徒たちはぽか~んとしたままだったのは言うまでもない。

あのキュルケでさえも胸元から杖を取り出そうとしている格好で止まっていた。


 
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