シャワーを浴びて食堂に入ると、母さんと父さんは食事を終えているらしく片付けに新聞。
爺ちゃんはまだ食べ始めて無いらしく、洋風の朝食の前で腕組みをしてムッツリと黙り込んでいる。
「一刀、遅いぞ」
どうやら俺を待っていてくれたらしい、ジロリッ!とこちらに視線が飛んだ。
「ごめん、ありがと」
まあ、怖い顔はしているが食事を一緒にとろうと待っていてくれたのだ。
怖くとも優しい爺様である。
「「いただきます」」
まあこんなのが、冬休みになって実家に帰ってきた俺の過ごす、北郷家四人の朝の始まりというわけさ。
「一刀」
「ん? 何?」
「この後はどうする?」
「今日は一日道場に篭るつもりだよ。空いた時間にでも付き合ってくれるとありがたいかも」
ん? 受験を控えた高校三年生が、センター前の冬休みにそれでいいのかって?
それは……
「もう、剣術剣術って、いくら推薦が決まってるからって、予習とかしなくて大丈夫なの?」
母さんナイス説明。
「まあまあ、いいじゃないか母さん。一刀が一生懸命頑張った結果、推薦が取れたんだ。休みの時くらい好きに過ごさせてあげなさい」
-まったく、お父さんは一刀に甘すぎます。ははは、そうかね。
とかほんわかなやり取り続けてるけど、横で爺ちゃんが俺に返事したがってるのに気づいてあげて下さい。
この空気読めてるんだが読めて無いんだか分からん所は、もしかして俺に引き継がれているんだろうか。
ハハハ、まさかな。
「ん゛、ゴホン! 年末年始と特にやる事があるわけでもない。好きなだけ付き合ってやる」
あ、仕切りなおした。
「それはありがたいけど、体力持つの?」
「ふんっ、自惚れるでない。まだまだお主には負けんわい」
まあ、これは本当だ。
あちらでの数年と、この一年で俺の腕はそれなりにはなっているはずだが、いまだ爺ちゃんからは三本に一本取れればいい方だったりする。
自分の腕前が上がって初めて気づいたが、この爺様も中々とんでもない腕前しているのである。
真桜とか沙和辺りの完全武闘派じゃない相手となら、結構いい勝負するんじゃなかろうか。
「でも一日中やるとなると、流石に無理じゃないですか?」
「そうですよお義父さん、もう若くないんですから、お体は大事にしてください」
二人はいつの間にか新聞をたたみ、席についてゆっくりとお茶なんかすすってる。
しかしマッタリモードの二人と違い、爺ちゃんは不機嫌そうだ。
ちょっと前まで体力面でも突き放してた孫に、いつの間にか追い越されてたんだし仕方ないのかもしれないけど。
「わかっとるわい、流石にこの歳で体力バカと張り合おうとは思わん」
ムッツリと呟いて、ザクリ、とトーストを一齧り。
しかし白髪で袴姿の爺ちゃんが、イチゴジャムたっぷりのトースト齧ってる姿は、毎度の事ながら違和感バリバリ感じるぜ。
なんというか、凄く文明開化の音がするよネ。
「体力バカって、そこまでじゃないと思うけどなぁ」
「あのね、一刀。お母さん、丸一日おっきい素振り用木刀振り回すことが出来る人って、ちょっと普通じゃないと思うの」
「2.5kgだったか? うんうん、一刀もすっかりと逞しくなったものだ!」
父さんは嬉しそうだが、母さん、まるで変な生き物を見るような目でこっち見るのは止めて下さい。
地味に傷つきます。
「まあ、剣術家にとって体力は幾らあっても困らんもんだ。学業のかたわらそこまで鍛えたというのは褒めてやる」
相変わらずムッツリの爺ちゃん。
頑固一徹と思いきや、無理はしないし、認めるところはきちんと認めてくれる。
本当に芯から武人といった感じの人だ。
「まあ、ずっと重りを背負って生活してた様なもんだからね。体力には少しは自信が付いてきたよ」
あっちでは20~35斤(12~21kg)位の鎧着て、毎日訓練や警邏してたからなぁ。
しかもそれが普通だったりするから、現代っ子の俺としては、付いていくので精一杯だった。
こっちに帰ってからも鈍らない様に、体の各所にウエイトを仕込んで生活していたりする。
ふふふ、しかし、沙和の海兵隊式訓練は地獄だったぜ。
俺、隊長なのに、人としての尊厳が見る見る剥がされていってたもんな。
新人兵士達とのあの奇妙な連帯感といったら……
「ごちそうさま」
と、意識が飛んでる間に爺ちゃんは綺麗に朝食を平らげていた。
さて、俺もさっさと片付けて、推薦入試で鈍った身体をしっかり鍛え直す事にしますかね。
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気づくと一刀が爺ちゃん大好きっ子になってる気がする。
というか、この一刀は何時になったら魏に旅立ってくれるのか……。