「次のニュースです。このところ町を騒がせている連続傷害事件ですが……」
食卓に置かれた小さなテレビが、また一つ兇報を届ける。それを無理に無表情な顔を作ってボーッと見ているコーラン。
「どうしたの? ……ああ。連続傷害事件の事ね」
テレビ画面をのぞき込んだグライダ・バンビールが溜め息交じりに言った。
「剣でバッサリ斬られちゃってんでしょう? 町の中で刃物ザタやったら、すぐに調べられちゃうってのに……」
この世界では刀剣類の所持には許可がいる。その時に、剣の使い手の事だけでなく、その剣が作られた工房、作った鍛冶職人の名から、どういった切り口になるのかも登録される。犯罪に使われた際に、それを犯人特定の材料にする為だ。
「少なくとも、朝のさわやかな時間に、こんな話題はゴメンよね〜」
沈んだ雰囲気を少しでも吹き飛ばそうと明るく言い、コーランの方に顔を向けた。
「ところで、朝ごはんは?」
「昨日作り置きしておいた野菜カレー。ゴハンは炊いてあるから、二人で食べてていいわよ。私は、ちょっと出かけてくるから」
そう言いながら席を立つコーラン。その背中にグライダが声をかける。
「こんな朝早くから、どこへ行くのよ」
「デート」
「へ〜」
グライダがフフッと笑い、「相手は誰?」と言わんばかりの目で見ている。
「勘違いしている様だけど、日時と場所を決めて人に会う事も『デート』って言うのよ。覚えておきなさい」
グライダに背を向けたまま手を振り、コーランは部屋を出ていった。
「……しょうがない。あの子を起こしてこ〜ようっと」
つまらなそうに呟くと、自分の妹を起こしに向かった。
世界で最も不可思議な港町として名高いこのシャーケン。
ここにも、朝はきちんとやってくる。
同時に、面倒な騒動までやってくる。
平穏な日は、一日としてなかった。
この広い町のどこかで、必ず誰かがはた迷惑な騒動を引き起こし、巻き込まれるのだ。
だからこそ、ここへ来れば──どんな職種であれ──仕事にあぶれる事はない、とまで云われている。
「……デートでしたら、もう少し洒落たレストランの方がよろしかったのでは?」
コーランの話を聞いていた神父オニックス・クーパーブラックがいつも通りの優しい笑顔で言った。
「オニックス。それ、冗談のつもり?」
「ご想像にお任せします」
優しい笑顔が照れの交じった苦笑いになる。
ここは、24時間営業のファミリーレストラン。さすがに朝早くでは人影もまばらである。
そんな中でも、この「神父」と「魔族の女性」という妙と言えば妙な組み合わせが、そこだけ結界でも張られている様な、他を寄せつけぬ雰囲気を漂わせていた。
「それで、わかったの?」
運ばれてから一度も口をつけていなかったコーヒーに手を伸ばすコーラン。
「ええ。あの連続傷害事件の犯人は魔族です」
今、躍起になって調べを進めている警察機構が聞いたらびっくりする様な彼の台詞だ。
「魔族といっても、今は姿を変え、普通の人間として生活をしているみたいですね」
そう言いながら、どこからか調べてきた書類をパラパラとめくる。
「名前は
「魔界の古式剣法か……。これじゃあ、オニックスかグライダでなければダメね」
コーランがコーヒーカップを持ったまま窓の外の海を見下ろした。
魔界に住む者は、通常の人間よりも能力の平均が高い。それに加え、生まれながらにして「魔法」を操る事ができる者も多い。魔界の古式剣法は、剣技と魔法を組み合わせたものが殆ど。魔法を無効にできるグライダか剣技で圧倒できる彼でなければ、互角には闘えまい。そう判断しての事だった。
「でも、コーランさん。まだ『指令』は出ていません。神父としてもこのまま放っておくわけにはいきませんが、バスカーヴィル・ファンテイルとして動く事はできませんよ」
確かに、彼らバスカーヴィル・ファンテイルは依頼、もしくは彼の言う「指令」がなければ「仕事」はできない。
「そんな事はわかっているわ。オニックス。あなたは不思議に思っていないの? そんな魔界の古式剣法を修めた程の達人が、相手を
コーランの言う通りではある。傷害事件ではあっても、殺人事件ではないのだ。斬られた人間が生きていれば情報が増え、それだけ自分の事がばれる確立が上がっていくのは、誰にだってわかる。
「……人を殺す事が目的ではないという事でしょうね。例えば、新しく手に入れた武器。新しく編み出した技の実験台……いや。それならば死人が一人も出ていないのは不自然ですね」
どんなお題目があっても、剣は人を傷つける道具である。剣の技はいかに効率良く人を傷つけるかを追求したもの、という人もいる。
「とにかく、情報が少なすぎるわ。第一、創挙が今、どこにいるのかも分からないし」
コーランがコーヒーを一口だけ飲んだ。
「……それにしても、好きになれないわね。この苦さは」
「おーい、シャドウ。こんな広場で何してんだよ」
その日の午後、シャーケンの町にいくつかある噴水広場の一つで、武闘家バーナム・ガラモンドは、戦闘用特殊工作兵・シャドウの姿を見つけていた。
シャドウは、小柄な彼を見下ろし、
「人を待っている。何でも、『デート』というものだそうだ」
と、淡々とした調子でそう答える。
「でぇとぉ? ロボットのお前がぁ?」
バーナムが淡々と返ってきた答えに涙が出るほど笑っていると、
「あーっ。シャドウさん、早いですねー」
そこへ濃紺と銀のストライプヘアーで水色のワンピースの小柄な女の子が走ってきた。彼女はシャドウの隣で笑っているバーナムに気づくと、
「あれ? バーナムさん、でしたっけ? その節はご苦労様でした」
彼女は親しげに挨拶してくるが、バーナムは誰だか思い出せないでいた。するとシャドウの方が、
「……
相変わらず淡々とした調子のままそう説明する。
「……あー、あん時のねーちゃんか。紺と銀の頭だから見覚えはあったんだけど……」
ナカゴは、ようやく思い出したバーナムを無視してシャドウの方に抱きついた。
「ナカゴ・シャーレン『殿』だなんてやめて下さいよ。ナカゴって呼んで下さい」
甘えた声でじゃれながら自分の腕をシャドウの腕に絡ませると、
「それじゃ、バーナムさん。私達はこれで失礼します」
そう言って歩き出そうとした時、
「待て。今、向こうで誰かが襲われた様だ」
ナカゴの腕を振り解いたシャドウが一目散に走り出す。そのシャドウを見て慌てて二人も後を追う。
そのシャドウは一つの路地に入った所で立ち止まっていた。
「何者だ。姿を消していても、自分にはわかるぞ」
シャドウは右腕に収納されている剣の刃を出し、斬られた人しかいない空間に切っ先を向ける。
バーナムとナカゴも追いつくが、シャドウの二メートル近い巨体(小柄な二人からすれば十分巨体である)に遮られ、何も見えない。
「シャドウさん、何なんですか?」
「ゲッ。人が斬られてやがる」
しゃがんだバーナムは、シャドウの脚の間から向こうを見て驚く。うつ伏せに倒れた男が一人。地面にはじわじわと血が広がっているのが見えていた。
「……なかなか勘のいい機械人形だ」
いつの間にか、倒れている人の横にグレーの肌に褌一つの男が、細長い包みを背負い、血に濡れた西洋風の両刃の剣を右手に持った姿で立っていた。
「さて。どうするね? 勇敢で勘の良い機械人形よ」
「バーカ。そいつだけじゃねーよ」
いつの間にかジャンプしていたバーナムが、その男の頭上で飛び蹴りを決める。すぐ前に着地を決めると、バク転の要領で顎に片足ずつ蹴りを入れる。その勢いを利用して離れ、シャドウの前にヒラリと着地を決め、改めて身構えるバーナム。
四霊獣の拳は威力が強すぎる。かといって、バーナムにはまだまだ「威力があるように」加減するのが上手くいかないらしい。そんな連撃を受けても、男の体はゆらぎもしない。
「宣誓なき一撃とは、随分と無粋な輩だな」
その男は何事もなかった様に剣についた血をジロリと見ると、
「お前達も切り刻んでやるとしようか」
剣の柄を両手で握り、先頭のバーナムを細い目で睨みつけた。
「まずい」
シャドウがとっさにバーナムの頭を掴んで真上に放り投げ、そのまま仁王立ちになる。その直後、シャドウの装甲板が斬り裂かれた。切り落とされた装甲が乾いた音を立てて地面に落ちる。
「シャドウさんっ!」
ナカゴの悲痛な叫びが響いた時には、その男の姿は既になかった。
それから数分後、騒ぎを聞きつけた通行人が呼んだ救急車が到着。斬られた人が病院に運ばれる。出血は多そうだが、命に別状ないという事である。
バーナム、ナカゴ、シャドウは、当然だが警察の取り調べを受けていた。
無論、彼らがやったのではないので犯人扱いではないが、それでも取り調べを受けるというのは良い気分はしない。デートが潰れてしまったナカゴの場合は特に。
「せっかく、シャドウさんとの初デートだったのにぃ」
さっきからずっとむくれたままのナカゴが警察官を睨みつける。それを止められるであろうシャドウは、現在修理中のためいない。
「確か、シャドウの体は特殊な金属ってクーパーのやつ言ってたぞ」
「クーパーって、あの神父さんの事ですか?」
ナカゴの問いにバーナムは首を前に倒し、更に続けた。
「そいつがあんなあっさり斬られちまうって事は……ありゃただの人間じゃねーな」
「ええ。あれは、間違いなく魔族です。シャドウさんの仇は、私が必ず討ちます」
「あいつはまだ死んでないって」
グッ、と握りこぶしを作って自分に酔っているナカゴに向かって、ポツリと言うバーナム。そこに残りのメンバーがやってきた。
「ねーねー。シャドウはだいじょーぶなの?」
見た目は十歳くらいにしか見えない、グライダの双子の妹・セリファが、ナカゴにボロボロ泣きながら尋ねる。
「大丈夫。装甲板を斬られただけだから、すぐに直るわよ」
セリファをそっと抱きしめながらそう言い聞かせる。
「サイカ先輩。敵は間違いなく魔族です。それも、相当の剣の達人。もしかしたら、あれは古式剣法の使い手かもしれません」
ナカゴがコーランに向かってそう言った。コーランとクーパーが顔を見合わせる。
「もしかしたら、創挙かもしれない」
「そいつはどんな奴なの?」
「一連の連続傷害事件の犯人
静かにグライダに説明する。
とりあえず解放された一行は、修理中のシャドウを残し、ナカゴの職場へ向かった。
彼女の勤める治安維持隊は、こちらでいう警察と大使館を交ぜた様な施設。人界(人間界)に来ている魔族の情報を得るには実に都合の良い所だ。
ナカゴが自分のデスクのパソコンのキーを叩き、創挙に関するデータを出している。
「創挙。魔界に代々続く剣士の家系にして、剣の神の子孫。古式剣法ノイエハース流を修める」
写真の横の説明文を読み上げる。
「ノイエハース流か……。スピードと鋭い剣風で離れた相手とでも闘える流派よ、これ」
コーランが昔耳にはさんだ知識を披露する。
「そして、創挙が風に関する魔法を使えるのなら、一瞬でシャドウの装甲板を切り裂いたとしても不思議じゃないわね……」
「どうしてよ、コーラン?」
「シャドウの装甲板には、グライダ程じゃないけれど、魔法を無効にする呪文が刻み込まれているの。でも、その呪文も、魔法じゃない剣風、つまり強力なかまいたちの前では単なる堅い鉄板にすぎないわ。かまいたちで呪文を削り取られ、そこへ間髪入れずに風の魔法でパワーアップした剣風を叩き込んだとしたら、グライダでも無事では済まないかもしれないわ」
その答えを聞いた彼女の顔が青ざめる。魔界の古式剣法には、このように魔法と融合させる技が数多くあるからだ。
「それでも、シャドウの装甲板はそう簡単に傷つく事はありません。シャドウの装甲の強さは、彼が持っている魔力に比例するんです。魔力を強めた分装甲も強くなりますし、その逆にもなります。シャドウは、深追いはしないだろうと読み、なおかつ、バーナムやナカゴさんがこの剣を受けたら無事では済まないと判断して、逃げられる事を覚悟の上で自分が盾になったのだと思います」
クーパーが、彼の性格を考慮に入れてそう分析する。
「それじゃあ、シャドウさんは私達をかばって……」
キーボードを打つ手が止まり、自然にナカゴの目から涙がこぼれる。彼女の後ろで画面を見ていたセリファも貰い泣きする。そんなセリファが、
「ねーねー。これ、何て読むのぉ?」
セリファは、魔界の文字が並ぶ画面の、そこだけ赤い文字になっている部分を指さした。
「えっ。ああ、これは『仇討ち志願中』って書いてあるの」
涙を拭きながらセリファに教える。
「仇討ち?」
「はい、サイカ先輩。彼は父親が昔、人間と決闘した時に殺されているんです。闘った人間の名前は不明ですが……」
「もしかして、そのお父さんは『エスレ』という名前ではないですか?」
突然、クーパーが何かを思い出した様に彼女に尋ねる。慌ててキーを叩くナカゴ。
「えっ。……はい。彼は養子でしたから実の父ではありませんけど、父親の欄に間違いなく『エスレ』と書いてあります」
「そうですか……。それで総てわかりました」
クーパーが総てを悟った様に静かに言った。
「彼、創挙の目的は父の仇討ち。そして、そのターゲットは……このボクです」
全員が驚いて彼の方を見る。
「でっ、でも、エスレさんが殺されたのって、もう何百年も前ですよ? その頃、あなたが生まれているわけないじゃないですか」
ナカゴがそう言い返すが、
「彼は父親を殺した人物だけでなく、その人物の使う流派をも消滅させる気だと思います。実際に、そういう復讐法もあるくらいですから。当然、
静かにクーパーが答える。
「これは、石井岩蔭流の闘いです。ボクが一人で決着をつけなければ、彼は納得しないでしょう」
「でも、シャドウの鉄板ブッタ斬るような奴相手に、どう闘うってんだよ?」
バーナムが床に座ったまま彼を見上げる。
「そうよ。クーパーが強いのはあたしも認めるけど、向こうだって相当強いのよ!」
「クーパー。だいじょーぶなのぉ?」
グライダも心配そうな表情は隠せない。セリファの方は涙まで浮かべている。
「何もしないで石井岩蔭流を消滅させる事だけはしたくないですね。ですが……会ってみない事には説得も戦いもできませんし」
クーパーでもやはり不安は隠せない様で、少し弱々しく答えた。
「少々物を尋ねたいのだが、よろしいか?」
町の入り口のゲートに立っている門番に話しかける旅人の姿が。その旅人はボロボロに破れた着物に袴。頭髪のない眼光鋭い剣士だった。
その腰に下げている剣は、クーパーの物と同じ日本刀。この地域では珍しい代物だ。
門番は、その日本刀の珍しさもあいまって好奇の目でその旅人を見ている。その旅人から、再び枯れた野太い声が。
「……石井岩蔭流剣術道場は、この町にはないか?」
その門番は、黙って町の略図を指差し、海辺の一点を指すと、
「道場はないが、ここにある小さな教会の神父に聞いてみるといい」
「そこへはどうすればたどり着ける?」
門番は小さく笑いながら、
「たどり着けるってのはオーバーだな。ちょっと待ってな。地図書いてやるから」
彼は詰所でメモ帳に教会までの地図を書いて旅人に差し出す。
「かたじけない」
差し出されたメモ帳をきちんと両手で受け取ったその旅人は深々と頭を下げると、教会に向かってゆっくりと歩き出した。
門番はその姿が十分遠ざかったのを確認すると、電話に手を伸ばした。
「……もしもし、クーパーブラック神父? 言われた通りにしたけど……モメ事は勘弁して下さいよ」
門番からの電話を受けたクーパーは、
「出迎えの準備をしておきますか……」
ポツリと呟くと、部屋を離れた。
それから三十分ほど経ち、教会の入り口に立つクーパーの前に、その旅人はやってきた。
「貴殿が、門番の申していた神父殿か?」
「はい。連絡は届いています。お待ちしていました」
そう言って、クーパーはペコリと頭を下げる。
「ボクが、石井岩蔭流剣術免許皆伝オニックス・クーパーブラックです」
免許皆伝。確かに彼はそう言った。
おとなしそうな静かな物腰。しかし、瞳の奥には極みを知った者の輝き、とでも言えばいいのか。不思議な雰囲気が感じられた。
その輝きを見て、その答えを聞いたその旅人は背をピンと伸ばし、
「我は、
深々と頭を下げる彼に向かって、
「詳しいお話は、中で伺います。どうぞ」
クーパーは彼を部屋へ通し、お茶とお菓子を出した。彼の故郷の物である。
「この辺りでは、あまりいい物はないんですが、どうぞ」
「かたじけない」
いちいち頭を下げる彼。
「それで、ボクにお願いと言うのは……」
クーパーがそう切り出すと、ためらいの色がありありと浮かんでいた目に、何らかの決意が宿る。
「……実は、我の師匠を止めて欲しいのだ」
「どういう事です?」
「師匠は、お
築野の拳がギュッと堅く握られる。
「それでも、仇討ちに行こうとする師匠を皆で止めようとしたのだが、師匠は聞き入れては下さらなかった。結果、我を除く総ての者は師匠に斬殺されてしまった。こうなったら師匠を連れ戻すか殺さぬ限り、岩田秀英流は……」
「流派の断絶刑、ですか……」
クーパーが悲しげに呟いた。断絶刑を受けた流派は分家末流総ての道場を潰され、且つ、教える事そのものが堅く禁じられてしまうのだ。
「我は何とかこうして生きてはいるが、腕はこの通り」
言いながら着物の袖をめくる。二の腕にはザックリと痛々しい穴が開いている。
「日常生活には何ら支障はないものの、これではもう二度と刀は握れぬ」
そして、自分の腰の日本刀をテーブルの上に置いた。
「これは、岩田秀英流に伝わる霊刀・
築野の目に涙がうっすらと浮かんでいる。
クーパーは黙ったまま彼の目を見つめ、そのまま刀へ視線を落とす。それから、ゆっくりとそれを手に取り、静かに鞘から引き抜いた。
緩やかに湾曲した、一見頼りなさそうな細身の片刃。日本刀独特の美しい
しかし、その美しく繊細な外見からは想像もできないが、「斬る」為に作られた武器の中では世界最高峰の強さを誇るのだ。
同じ「剣」といっても「斬る」事に優れた物。「突く」事に優れた物。「斬る」よりも「叩き潰す」物と、その用途は様々だ。日本刀の場合「斬る」「突く」に特に優れ、剣術も自然とそうした技が多くなる。
「……わかりました。ボクも、できる限りの事を致します」
カチン、と稲崩を鞘に収め、再びテーブルの上に置いた。
「……済まないのだが、神父殿の刀を、お見せ願えまいか?」
築野が単なる好奇心から尋ねてみた。クーパーは二つ返事でそれに応じ、自分の部屋から愛刀を持ってきた。
彼の刀の銘は「
「……すごい」
鞘から現れた刃を見た築野は、しばしの間言葉を失っていたが、やがて呟くようにそう言った。
彌天の名に相応しい、満天の空を思わせる優しくも控えめな輝き。天の川のように美しく流れる刃文。
「十三代目
静かにクーパーが呟いた。築野もその名を知っていた。遥か昔に絶えた神の技を蘇らせたという奇跡。そんな伝説がつきまとう、今は亡き幻の刀匠だ。
「さすがに免許皆伝ともなると、持つ刀も一級品ですな」
自分には手にするのも恐れ多い、と言わんばかりに鞘に収め、ていねいにクーパーに差し出した。
「……思いが、こもっていますから」
クーパーは悲しそうにそう呟くと、鞘に収まったままの彌天を見つめた。
その後、築野は「くれぐれもお願いします」と言い残して教会を去った。クーパーの手には彼から託された霊刀・
教会の裏手でゆっくりと刀を抜き、両手で持つ。それから斬り下ろし、斬り払い、片手突き、と教本通りの演武をしてみる。
元々日本刀は軽い物だが、この稲崩は更に重さを感じさせない。軽やかだが、実に力強い。
(確かに彌天は名刀と言って差し支えない物だが……やはり霊刀と言われるだけの事はあるかもしれない。彌天を遥かに超えた品だ)
日本刀は、大雑把に「
素人目にはどれも特徴的には同じで、刀身の長さで区別しているような物だ。
そして、そのどれもが「斬る」事に優れ、強靱かつ軽量。
いわゆる西洋の標準的な長剣が1.5〜2.5kgなのに対し、一般的な打刀ですらその半分程の重さしかないのだから。
鋭い刃を目標に当て、そのまま押すか引くかして初めて驚異的な切れ味を発揮する。
まさしく「速さ」を活かして「斬る」戦法に向いている武器だ。
そうした事を最大限に活かした技の一つが、クーパーの得意とする抜刀術なのだ。
鞘に収めて目を閉じ、ゆっくりと抜刀術の構えをとる。気持ちを落ち着け、大きく息を吐く。その時、後ろに人の気配を感じた。
「……セリファちゃん」
構えを解いて後ろを振り向いたクーパーの視線の先には、泣きそうな顔のセリファがぽつんと立っていた。
視線は彼の方を向いているものの、視点はここに非ずといった雰囲気もある。
「どうしました? もう日が暮れます。家に帰らないとグライダさんやコーランさんが心配しますよ」
いつも通りの笑顔で微笑むクーパーの所にセリファがとことこと歩いてくる。
「クーパー。こわくないの? たたかうんでしょ?」
彼は、心配そうにしているセリファの頭をポンポンと叩き、静かに言った。
「……もちろん恐いですよ。誰だって、戦いは恐いです」
「クーパーも、こわいの?」
そう言うと、クーパーは切り株に刺さったままの鉈を持ってきた。
もちろん彼の教会には電気もガスも完全完備しているのだが、彼の趣味で半分くらいは薪を使っているのだ。
クーパーは、危なくないように刃先を地面に突き立ててから言った。
「持ってみますか?」
何気ないその言葉に、セリファの顔がこわばった。セリファには、料理で使う包丁の化物にしか見えないし、クーパーがこれで薪を割る所は何度も見ている。太くて固い薪が、いとも簡単に割れていく様は、セリファもハッキリと覚えている。
だが、その鉈を持った事も触った事もなかった。
セリファは恐る恐るといった感じで両手で柄を掴み、ゆっくりと持ち上げてみた。ずしりと重い鉄の刃物の感触が彼女の両腕に伝わってくる。セリファはすぐに鉈を元通りに地面に刺すと、不思議そうな顔でぽつりと言った。
「おもかったよ?」
その答えを聞いて、今度は手に持った稲崩を持たせる。日本刀の方ならば何回か持った事はある。もっとも、さすがに鞘から抜いた事はないが。
「うん。こっちはかるいよ」
予想通りの答えにクーパーはにこりと笑い、
「実はですね。どちらもそれ程の重さの差はないんですよ。鉈の方は、重さの殆どが刃の部分に集中しているので、バランスが悪いんですよ。ですから重く感じ、振り回すのには向いていません」
クーパーの答えにセリファが驚く。彼は、セリファから稲崩を受け取ると、
「この日本刀という武器は『鉈の重さに剃刀の切れ味』と評されている武器なんです。バランスをきちんと考えて作られていますからね。『斬る』という使い方をする武器の中では、おそらく世界最高峰でしょう」
セリファは今まで自分が持っていた日本刀という武器を、心配そうに恐れの混じった目で見ている。
「こんな武器で戦うんです。恐くない訳がありません。ですが、恐さに耐える事はできます」
そう言って振り向き、沈もうとしている夕日を眺めている。
セリファはグライダのぬいぐるみを背負ったまま、クーパーの背にこつんと額を当てた。それから、どちらも一言も話さない静かな時間が流れる。
「……クーパー。クーパーは強いよね?」
やはり泣きそうな声で、セリファが尋ねた。振り向いたクーパーは静かにセリファの頭を撫でてやりながら、
「強いかどうかは判りません。ですが、鍛えてはいるつもりです」
諭すようで優しい。それでいて強さを秘めた彼の言葉が、セリファの中に染み込んでいくかのようだった。
ク−パーは、セリファの肩に手を置き、彼女の身長に合わせてしゃがむと問いかけた。
「不安なのですか?」
セリファが弱々しくうなづく。
「心配なんですね?」
再び首を倒す。
「大丈夫ですよ、ボクは。安心して下さい、セリファちゃん。約束します」
彼女を優しく抱き締め、静かにそう言った。
コーランは、ナカゴに教えてもらった、魔族のみが判る魔術的な信号を出した。
一日に数度、街の上空に稲光に似た電光が一瞬駆け抜ける。それがメッセージになっているのだ。
そうやって砂浜に来るよう伝言を出してから丸一日経ち、グレーの肌の剣士・創挙が姿を現わした。
前に会った時と同じように背中に細長い包みを背負い、手には抜き身の西洋風の長剣が握られている。
クーパーの方もいつも通りの略式の神父の礼服だ。
左手に納刀したままの彌天を持ち、礼服の上からしているベルトには、稲崩の方を差している。日本刀の使い手は、基本的に刀を二本腰に差す事が多い。
皆が見守る中、クーパーと創挙の視線が重なり合う。しばらく沈黙が続いた後、クーパーの方から口を開いた。
「事情は、築野さんからお聞きしました。お気持ちはお察ししますが、ボクもただ黙って貴方に斬られるわけにはいきません」
クーパーの声を目を閉じて聞いていた創挙だったが、ふるふると全身を震わせ、
「間違いない。
カッ、と目を見開き、歓喜の声をあげる。それから持っていた剣の切っ先をクーパーに向ける。
「今こそ父の仇を討たせてもらうっ!」
すさまじい気合いを表に出す。気の弱い者ならば、それだけで気を失いそうな迫力だ。直後、足場の悪い砂浜を駆け、間合いを詰める。
キィン!
カン高い金属音が響いた時には、創挙の剣の切っ先を刀の柄で受けとめているクーパーの姿が見えたのみ。バーナムやグライダ、そしてコーランでさえも、創挙がテレポートした様にしか見えなかった。
そして、残像が浮かびそうなスピードの突きを中心に薙ぎ、払い、と次々と攻撃を繰り出す創挙。
「なっ、何てぇスピードだ」
「あんなの食らったら、あたしなんか一撃でやられるわ……」
バーナムとグライダも青ざめた顔でその光景を見ている。それほどまでに素早い連続攻撃だった。
「あれ……魔法は一切使っていないわね」
コーランの言葉に皆驚く。築野ですら、
「……あれは、
と、震える声で呟き、驚きを隠せない。
「どうやら、本来の魔族に戻った様ね。普通の人間にできる芸当じゃない」
コーランが淡々と呟く間にも、目にも止まらぬ創挙の猛攻を、クーパーは刀を鞘に収めたままで防ぎ、避けるのみだ。着ている略式の礼服の端に、次々と切れ目が入る。
「なぁにやってんだよ、クーパー! とっととブッタ斬っちまえ!」
イライラが押さえられないバーナムは砂浜に拳を叩きつけ、彼に向かって怒鳴る。
その時、セリファがいきなりグライダの胸に顔を埋めた。小さく嗚咽が聞こえる。
「おねーサマ。クーパーはだいじょーぶだよね? ぜったいかつよね?」
グライダは泣きじゃくるセリファの頭をそっと撫でながら、自分に言い聞かせるように言った。
「セリファは、クーパーの事、信じてる?」
セリファは顔を上げ、コクン、と小さくうなづく。それを見たグライダはニッコリと笑うと、
「それじゃあ、ちゃんと最後まで見ていなさい。クーパーは、大丈夫って言ってたんでしょう?」
「うん。でもぉ……」
「『世界は広い』と言っても、クーパーがどれだけ強いかは、あたし達が一番良く知ってる。そうでしょう? だったら、クーパーを信じなきゃ。『絶対大丈夫』って」
「……うん」
セリファは自分の服で涙を拭いて、戦う二人の方を見た。そして、防戦一方のクーパーに向かって、思い切り大きな声で叫ぶ。
「クーパー! がんばってーっ!」
その時、絶え間なき連続攻撃の刹那ほどもない隙間を斬り裂く様にクーパーの刀が一閃!
創挙は脇腹から肩を大きく切り裂かれて宙を舞う。クーパーも肩口に傷を負い、刀を振り上げた状態のまま肩で大きく息をしている。
その直後、創挙が砂浜に叩きつけられた。
しかし、斬られた痛みを(少なくとも表面には)全く出さずに立ち上がると、
「まさか、この技を破るとは。驚いたぞ。しかし、残念だったな。この我の血は強酸性でね。その刀は、もはやなまくら以下」
それから、切っ先についた血を嬉しそうに見て、
「おまけにこの剣は、血を吸えば吸うほど強くなる魔剣。これまでに何百人もの血を吸わせて、無敵の力を持つ剣となった。この剣さえあれば、もはや我が勝ったもどうぜ……」
パキン……。
創挙の台詞の途中で、その魔剣が真っ二つに折れた。創挙は折れた剣の切り口を見つめ、
「馬鹿な! この剣が折れるとは……。だっ、だが、そちらの刀も……」
慌てて創挙がクーパーの持つ刀を見ると、酸でボロボロになるどころか、今まで通りの輝きを保っているではないか!
「この刀には、亡き作り手と使い手の魂が込められています。そう簡単に壊れはしません」
クーパーは血を拭って刀を収め、口を開いた。
「ボクの使う石井岩蔭流は、古代武神・
クーパーが説法でもするような調子でそう語りかける。
「ですが、今の貴方は魔族としての天性の能力に自惚れて、技の形だけを真似し、技の本来持つ力を引き出せていません。それでは、何度やってもボクには勝てませんよ」
すると、創挙は折れた剣を無造作に投げ捨てた。そして、背中に背負ったままの細長い包みを解く。
「ああっ、あの刀は!」
何かわかった築野が驚きの声を上げる。
「これは、我が流派に代々伝わる神刀・
言いながら刀を抜いて鞘を捨て、今度は刀を順手に持ったまま刀を収めるように左腰に下ろした。剣道でいう脇構えと呼ばれる構えだ。
「神父殿! その刀とまともに斬り結んではいかん!」
築野の叫びが合図となったのか、創挙はさっきよりも速く一気に間合いを詰めてきた。
クーパーも「何かある」と思ったのか、とっさに腰に差した稲崩の方を抜いて受けとめるが、逆にクーパーの方が天高く弾き飛ばされてしまった!
「クーパー!」
「神父殿!」
皆の悲痛な叫びが響く中、弾き飛ばされたクーパーの体は海に叩きつけられた。
「皆、あの技にやられたのだ。稲泯の刃を受けられるのは、対となった稲崩のみ。我は技量不足ゆえに傷を負ったが、神父殿ならばとあるいは思ったのだが……」
築野の声が震えている。自分の剣士としての命を奪った技を再び目の当りにして。自分と同じ運命となってしまった事を恨んで。
しかし、創挙の方はもう一度刀を振りかざし、
「さっさと出てこい! 大して効いていない事はわかっているぞ!」
そう叫びながらクーパーが落ちた辺りに剣風を叩き込む。
クーパーは立ち上がりざま手にしていた稲崩を手放し、彌天による抜刀術の剣風でその剣風を相殺すると、創挙の方を睨みつける。
その彼の無事な姿に安堵の息を漏らす一行。
「……なるほど。築野が稲崩を渡していたのか……」
創挙は、クーパーの被害が裂かれた上着と斬られたベルトだけなのを見て、小さく呟いた。それから、波打ち際に落ちていた稲崩の鞘を踏みつけると、
「確かに岩田秀英流は、石井岩蔭流より派生したもの。だが、抜刀術しかない石井岩蔭流が、鞘のない状態でどう闘う気だ? 稲崩でなければ、この刃は受けられんぞ」
創挙の顔に、勝利を確信した笑みが浮かぶ。 だが、クーパーに動じた様子はない。
「貴方は、一つだけ勘違いをしています。ボクは、石井岩蔭流が
創挙の驚きを知ってか知らずか、彼は更に続けた。
「抜刀術以外は難しいものが多いので、あまり覚える人がいないのです。ちゃんと存在していますし、ボク自身も、抜刀術が得意というだけです」
そう言って彌天を自分の前に突き立ててから稲崩を拾い、軽く振って水を切る。それから立てていた彌天を左手で持ち直す。
何と、クーパーは二刀流の構えを取った。
「貴方が本気を出してきた以上、こちらもそれ相応の闘いをしなければなりませんね……」
その構えに皆驚く。
「え? クーパーって、二刀流もできるの?」
グライダは、自分も二刀流だから、それがどれだけ大変なのかわかっているつもりだ。
二刀流とは剣を両手に持てばいいという訳ではないのだから。
「しかし、稲泯の刃を受けられるのは稲崩のみ。実質一刀流と大差ない……」
築野も不安の表情を隠せない。
「でも、あれがハッタリとはとても思えない」
心配そうに対峙する二人を見つめる。クーパーの全身から静かにオーラのような物が立ち上っている。
「いきますよ。石井岩蔭流が抜刀術だけの流派ではない事を証明してみせます」
クーパーは、海の上を滑る様なスピードで走り、右で突きを入れる。
創挙もそれを見切って紙一重でかわすが、クーパーが続けざまに左の払い、右の打ち込み、と先程の創挙のお株を奪う様な連続攻撃!!
それもだんだん早くなり、次第に創挙の体にうっすらと傷が浮かぶ様になってきた。かわしきれなくなってきたのだ。
そして、ついに稲崩の突きを左肩に受けた。
「師匠!」
築野の叫びがむなしく響く。しかし、創挙は左肩に刺さったままの稲崩の刃を握ると、そのまま稲泯をクーパーに振り下ろした。
そして、高い金属音が辺りに響く。
「ああっ!」
驚いたのは一行だけではない。刀を振り下ろした創挙が一番驚いていた。
なぜなら、稲崩でのみ受けられる稲泯の刃を、
「そんな筈は……ある筈がないっ!」
そのままギリギリと刃の擦れる音がし、力比べになる。
「これが、ボクが先程言った『技の形だけしか真似していない』という証拠です。それでは、先程の様にノイエハース流の剣技と融合させても意味がありません」
「黙れ黙れ黙れっ!」
創挙はより力を込めて押し返すが、クーパーの方はまるでびくともしていない。
「……やむを得ませんね」
クーパーは静かにそう言うと、いきなり彌天を跳ね上げ、稲泯を頭上に弾き飛ばす。
その一瞬の隙に彌天を反対の肩にも突き刺したかと思うと、刀を手放して創挙の体を蹴って高く飛び上がり、空中で稲泯を掴んで、落下の勢いを加えた一撃を脳天に加える!
着地したクーパーも一撃を受けた創挙もピクリとも動かなかったが、やがて、
「……無念だが……見事だ。技の名を、教えてはくれまいか」
「……石井岩蔭流
創挙の体がゆっくりと砂浜に倒れた。
クーパーは創挙のそばに稲泯を突き立てると、その体にささった彌天だけを引き抜き、血を拭って鞘に収めた。
「師匠……」
築野が創挙のそばに正座し顔を伏せていた。
「クーパー……殺したの……?」
コーランが彼の耳元で小さな声で尋ねた。
「……いえ。最後のは峰打ちです。魔族の耐久力でしたら、ゆっくり休ませればすぐに回復しますよ」
「おいおい。そんな事したらまた来るんじゃねーのか?」
「大丈夫だと思いますよ、バーナム。一度負けた以上、自分の腕を磨いて、確実にボクに勝てる技量と自信を持つまで、決してボクの所へは来ないと思います」
足元に倒れている創挙を見下ろしたまま静かに言った。
確かに、クーパーの言った通りだった。
創挙は築野と二振りの刀と共に、修業の為故郷に帰って行った。その修業が済むまで、他の使い手や石井岩蔭流道場にも手を出さないと誓いさえした。
「変なの。あれだけ仇って騒いでたのに」
「グライダ。彼だって、今、仇を取るのが無意味な事くらい理解しているわ」
「それじゃどうして?」
諭す様なコーランの言葉に慌てて聞き返す。
「……それでも、父親を殺した奴が憎い事には違いないわ。その矛盾した心を抑えるには、何でもいいから行動に出るしかなかったのね」
「……しっかし、その創挙の仇とやらも、何百年後にこんな事になるたぁ、思ってなかったろうなぁ」
バーナムの言葉にうんうんとうなづくグライダとセリファ。
「でも、石井岩蔭流が元々神様の技っていうのは初耳ね。強いのもうなづけるわ」
グライダが感心した様に言うと、
「ねえ、クーパー。あたしにも何か簡単そうな技教えてよ」
「えっ!? ダメですよ。いくら何でもできるわけがないじゃないですか!」
「そんな事言わないでさぁ。クーパー、この通りだから」
グライダが必死に彼に懇願するが、いきなり、
「ダメなの! クーパーは、これからセリファとデートなの!」
グライダとクーパーの間にセリファが割って入る。
「デート!?」
皆の目が丸くなった。セリファは得意そうに胸をはって、
「やくそくしたんだもん。おわったらデートするって。ねー?」
「はいはい。セリファちゃん。わかっていますよ」
同意を求めるセリファに、クーパーも笑顔で応じる。
「でも、デートって、どこに行くの?」
コーランが苦笑いのまま尋ねる。
「あのね。クーパーのおりょーりを、いーっぱい食べるの」
「それ、デートって言うの?」
グライダもあきれ顔だ。
「いいんじゃねーか。あいつロリコンだし」
バーナムが「我関せず」という態度で言った。クーパーも困った顔で、
「別に、そういう訳ではないんですけどね」
と答えるのみだった。
「それでセリファ。何を作ってもらうの?」
グライダが彼女の頭をポン、と叩いた。すると、彼女は満面の笑みを浮かべ、
「お肉いーっぱいの、カレーライス♪」
<FIN>
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「剣と魔法と科学と神秘」が混在する世界。そんな世界にいる通常の人間には対処しきれない様々な存在──猛獣・魔獣・妖魔などと闘う為に作られた秘密部隊「Baskerville FAN-TAIL」。そんな秘密部隊に所属する6人の闘いと日常とドタバタを描いたお気楽ノリの物語。