「やっほー、織斑君、篠ノ之さん。」
二時限目の後の休憩時間、一年一組の教室に現れたのは新聞部で毎度おなじみの二年の黛薫子だった。
「あれ、どうかしたんですか?」
「いやー、ちょっと二人に頼みがあって。」
「頼み?私と一夏にですか?」
「うん、そう。あのね、私の姉って出版社で働いているんだけど、専用機持ちとして二人に独占インタビューさせてくれないかな?あ、ちなみにこれ雑誌ね。」
そう言って黛先輩はティーンエイジャー向けのモデル雑誌を渡した。
「えっとこの雑誌ってISと関係なくないですか?」
「ん?あれ?二人ともこういう仕事って初めてなの?」
「ええ。箒はともかく俺は公園とかのアルバイトなので。」
「そうなの。専用機持ちって普通は国家代表かその候補生のどっちかなの。だからタレントになるって話もあるの。国家公認のアイドルって言うか主にモデルだけど。あ、国によっては俳優業とかもするみたいよ。」
「そういえばセシリアがイギリスでモデルしったって話があったな。」
「そうなのか?その話は初めて聞いた。」
そこへ鈴がやって来た。
「なによ、一夏。モデルやったことないわけ?仕方ないわね、アタシの写真見せてあげるわよ。」
「言ってないがな。けどお前経験あるのか?」
「馬鹿にしないでよ。ほら!」
鈴が思いっきり顔に画面を押し付ける。見えないだろ。
「お・・・・」
「む・・・・」
モノのついでで一緒に見た箒も一夏と同じ反応をした。
「結構カメラ映りいいな。」
「ふふん。そうでしょ。そうでしょう。あ、こっちは去年の夏の――」
その時休憩時間の終わりを告げるチャイムが鳴り響く。
「一夏君、今日は剣道部の貸し出しよね。放課後また来るから。じゃあ!」
颯爽と立ち去る黛先輩。時間配分考えないといけないことを改めて学ぶな。
「鈴。」
「何、一夏?」
「そろそろ戻らないと織村先生の出席簿アタックが来るぞ。」
「あ!いっけない、忘れてた。じゃあね、一夏。」
そう言って鈴は教室に戻って行った。
「タオルどうぞ。」
「きゃー、本物の織村君だ!」
「こっち!こっちにもタオルちょうだい!」
「ねえねえ、マッサージしてくれるの?」
「そういうことはしません。」
「ちぇ~、織斑君のいけず!」
「じゃあ写真撮って。」
「あ、それならいいです。」
放課後の武道場、一夏は練習を終えたばかりの剣道部一人ひとりにタオルを配っていた。黛の言うとおり、今日は生徒会の『織斑一夏部活動貸し出しの日』である。
「ほれ、箒も。」
「あ、ああ。すまんな。」
面を外した箒は頭の手ぬぐいを取ってタオルに顔をうずめる。
カシャッ
「!いきなりなんだ!」
「いや、いい顔してたから。」
「ふん。」
箒が横を向いた。もしかして照れているのか?
「やあ織斑君?お久しぶりだね?」
「おひさしぶりです、剣道部部長さん。相変わらず疑問系ですね。」
「これは疑問系でね?癖なんだよ?」
なんでいつも疑問系なのかは少し謎だがまあ楯無さんと同じと考えればいいか。
そんなことを考えているうちにすーっと部員の間を縫ってどこかへ行ってしまった。
「ところで箒。」
「なんだ一夏?」
「昼休みに言っていた黛さんの話どうするつもりだ?」
「断る。見世物など、私の主義に反するからな。」
「だろうと思った。」
一夏の予想が的中したときであった。黛先輩が一夏と箒の前にやって来た。
「やっほー、お待たせ~それでね、取材の件なんだけど。」
「そのことでしたら箒が――」
箒が断ることを一夏が言おうとした瞬間であった。
「じゃん!この豪華一流ホテルのディナー招待券よ。もちろんペアで。」
そう言って黛はホテルのパンフレットを一夏と箒に渡した。
へぇ、結構いいホテルじゃん。でも箒が断るって言うなら・・・・
「受けましょう。」
・・・・・え?
「えっ?ほんとに?篠ノ之さん、こういうのイヤかなーって思ってたんだけど。」
「いえ、何事も経験ですので。」
さっきと言ってたこと違ってなくね!?でも本人がいいて言うならいっか。
「あ!そうそう織斑君。」
「何ですか?」
「ウルトラマンの写真今持ってる?」
「ええ、持ってますよ。でもどうしてですか?」
「いや~、こっちも写真撮ろうとすると先生に止められちゃうからね。だからなのよ。」
「わかりました。好きなの持っていってください。」
そう言って一夏は写真の束を黛に渡した。
「じゃあ、これとこれとこれとこれをもらうね。」
「どうぞ。」
「それじゃ~ね~。」
黛は写真の束を一夏に返すと颯爽と去っていった。
「ところで一夏。」
「何だ、箒?」
「このホテルのディナーだがもちろん行くな!」
「ああ。それに取材を受けてチケットもらえなかったら怒る。」
「そ、そうか!そうだな、うむ。そうだな!」
箒は表情を明るくし、パンフレットを握り締めた。
あれ?確かこのホテルって・・・・・
「なになに、篠ノ之さんってば織斑君とデート?」
「いいなぁ!私も行きたいなぁ!」
「あ!このホテルって国際的にも有名なところだよ。へぇ~。」
そこまで一夏達の様子を遠巻きに眺めていた剣道部のメンバーが一斉に集まってきた。
「こ、これは、その・・・・・別に、で、で、デート、とか・・・・・・そういうのではなくてだな!」
『へ~。』
ムキになる箒に対して女子一同はニヤニヤと笑みを浮かべる。
ちゃんと支えあってくれる仲間がいるんだな。それだけわかると嬉しいな。それにしても日曜か。楯無さんに頼まれていた件もあるし今週は忙しくなりそうだな。
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昼休みの時間に新聞部の黛薫子が尋ねてきた。