No.539842

ソウゲンノカゼ 第1話

この作品は中学校の頃から考えていました。今まで暖めていましたが、この場所で投稿したいと思います。初心者が書いたモノですが、手にとっていただけるとありがたいです。コードネーム「草原の風」 護りたい者の為、今こそ戦う時。あの日果たすことができなかった約束を守るべく・・・。

2013-02-04 01:12:09 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:233   閲覧ユーザー数:230

 
 

ひとつの物語を紹介しよう。

私が記したシナリオ、文字通りの物語。

かつての宿業と無情の権化、それこそが私の生き涯だと自負している。

求める物は一つだけ、私は未知が知りたい。

敷いたレールだけを通る一本道、ただそれだけが物語ではあるまい。

もっとたくさんの可能性を持ち得た一つの理。

選択肢という物がある。

選び取ったものこそが未知へと繋がる。

私の置いた未来へと歩くか、私の知らない未知へと歩くか。

どうか見せてほしいのだよ。

さて、もしこの物語が破綻するようなことがあれば、私のシナリオを

世界ですら認めなくなる。

唯一無二の絶対が消え失せることを、観客として見定めさせていただく。

風が吹かれるその世界、消え失せるその時まで色鮮やかに染めて見せよ。

私が彼と出会うまで、彼の追憶がどのように語られるのか楽しみだわ。

ではまた、どこかで会えることを・・・・・・・・。

 

草原には風が吹いていた。

草木は風に吹かれ、雲もまた吹かれていく。

どこまでも広がる草原の大地と風が流れる道のり。

そんな場所でも、かつては戦争があったとされる。

自分の為、国の為、護りたかった者のため、理由を出せば限がない。

”譲れない”というその信念が争いを呼び、疑心を呼び、こうして戦争が起こる。

何回ほどか世界が回り、いつしか戦争も終結した。

焼き払われた草原は二度と戻ることはない、そう思っていた者達も多くいた。

だが、草原は五年も経てば再びかつての姿に戻っていた。

その場所で、一人孤独に草原が広がる場所で風に吹かれる一人の少年が

青い空を見てずっと動かずに、その場所で立っていた。

少年は生まれも育ちも一切不明、親も無ければ友達もいない。

彼には何もなかったのだ。幸せも不幸も、感情も自分も。

そんな彼にも、たった一つだけ手を差し伸べられた。

これは運命か、偶然か。

少年にとってはどうでもよかった。

いっそこのまま、餓死で死んでも良かった。

だが、草原はそうはさせない。

少年はこの草原を立ち去る事になる。

しかし、いつか再びこの草原に戻ってくるだろう。

忘れてしまった約束を果たすために・・・。

 

第一話:流れる風

 

それはどこか、砂漠にある廃墟と化した村。

廃れてから幾年経つか、人が暮らした跡はない。

再び住もうとしても、村は枯渇し水もないオアシスもない。

こんな村にある一軒の家に一人、場に即場わない容姿でそこにいた。

『~であるからして、今週の気象は大きく変動しており風向きに注意して・・』

聞こえてくるのは天気予報を知らせるラジオ番組。

90年代物で今でも動いているのは珍しいとされている愛用のラジオからは、

砂漠に付き物の日差しと砂塵の嵐の予兆を教えるものだった。

石でできたソファらしき物に横になり、天井を見上げていた男は憂鬱になりながらも、

何年も付きあってきた砂漠の環境に嘆いていた。

「時代が変わっても砂漠の環境は一向に変化なし、か。

 情報では砂漠化は深刻になり、今もどんどん広がっているっていう話だったっけな。

 なんとまぁ、世の中ってのは自滅主義者で溢れ返ってるもんだ」

頭を掻きながら起きあがったのは男の名は”式春右京(しきはる うきょう)”。

今年で23歳になる彼は、毎回のごとく悪夢に悩まされていた。

二十代前半でこれほど酷い悪夢を何度も見せられるとなると、これからの人生は

詰む一方だと思い、それ以上は追及しないようにした。

「ここに来て二日経つのか、本当にこの近くに廃工場があるのか?

 依頼者である出雲と呼ばれる者から渡された情報では、ここから南東の方角に

 岩々によって隠されてるとかなんとかだったか」

地図を見るが役には立ちそうにない。

砂漠を歩けば方角の感覚は鈍るし、風によって知らずに別方向へと

歩かされるケースもある。更には動けば相応に水分補給が必要となる。

先日偶然会った旅人からは、ここ最近ではテロリズムを働く輩が多くなっていると

あちらこちらに死骸が放置されていると聞く。

戦争が日夜行われてるこの場所に留まるのは危険だ。

「餓死で死ぬか、撃ち殺されて死ぬか。どちらも選びたくはない選択肢だな」

とまぁ、選ぶ前に結果は変わらずだけどね。

立ち上がった右京は手に水筒を持って、水を飲みながら外へ出る。

今日も一層、空は青く日差しが強い。

紫外線防止の為に、一応はローブを着込んで移動しなければならないため、

いろいろと苦労することもあるが、こうしなければ生きていけない。

彼、式春右京の仕事は裏稼業である。

今は覚えてはいないが、かつてどこかの大地で一人の男に保護された。

男の正体は裏稼業を生業にするエージェントテイル(エージェントと同じ)。

異種の代行者だ。

誰かの代わりに何かをする。そういった仕事を男はしていたのだ。

引き取られた後は、生き残るための手段と何かを守るための手段を教えられ、

いつしか、彼と同じエージェントテイルとして生きていた。

男の名前は不明であるが、エージェントテイルにはランキングというのが設けられ、

彼の順位は全てのエージェントテイルに上に君臨する第一位。

実力も人望もあり、彼の存在はいつしか伝説とまでになる。

だが、そんな彼も人間だ。

無敵ではないし、いつか死ぬのは生き物としては当たり前である。

とある諸国で起こった戦争で亡くなったらしいが、真相は語られることはなかった。

 

 

現在は西暦2033年、三月になるくらいだ。

彼がいつ死んだのか、今はうろ覚えであるが俺が23歳になるということは

少なくとも10年以上前には他界しているだろう。

第一位が消えた後の世界の変わりようはすごいもので、エージェントテイルを

憧れとして若者たちが徐々に増えつつあった。

同時に裏世界を牛耳る経済界のトップたちにとっては、迷惑なモノであるのは

間違いないだろう。

彼のような優秀な人材が現れれば、狙われるのは間違いなく彼らだからだ。

だが、彼らにも頭が回る者もいるらしく、エージェントテイルを自ら雇い

専属として傍らに置いている者もいる。

「ふぅ、俺は一生フリーのエージェントテイルでいいか」

なお、式春右京はどこのも所属しないフリーエージェントテイル。

知らない者から依頼された仕事を、情報屋から渡され動く人間。

数々の仕事を完遂し、なおかつ難しいとされるテロ組織を5つも潰した経歴も

あり、噂は世界中に広まっていた。

当然裏世界の人間達にも知れ渡り、警戒対象として狙われるほどにもなる。

そして、一つだけ。

彼らや同業者から忌み嫌われる素質を、右京は持ち合わせていた。

また、第一位から直接戦い方を教えてもらっている彼を、恐れない者などいない。

 

家の中へと戻ると、身支度を済ませる。

今日この日にとクライアント(依頼者)に頑なに言われていた仕事がある。

砂漠に放置された廃工場地下二階にある機密資料を確保せよ。

機密保持の資料を態々俺に探させようとするあたり、どんな雇い主なのかと

疑いたくなるが、これも仕方がないだろう。

自らその場所に行けば、もしかしたらテロ組織が内部に潜んでいて、

警戒もせずに入り込んだ時、果たして自分は生きているのだろうか?

そういう臆病もまた生きるには必要な素質だ。

安全を最優先した結果なのだろう。

「自分から回収できない理由があるのかもしれないな」

廃工場ということは、バイオハザードでも起こっていた?

実験施設という可能性もあるが、依頼者はそこまで教えてはくれない。

何はともあれ、行けばわかるだろうし考えても仕方がないのは明白だ。

仕事は金を生む最大の鍵。

エージェントテイルをやる以上、危険とはいつも隣り合わせだ。

生きていくには、危険な事もする。

それに俺が死んでも変わりはたくさんいるのだ。

悲観しても仕方がない。

俺には親もいなければ、友達もいない。

心はいつもドライで、冷たい人間。

「まぁいい、さっさと仕事を終えてまたいつものように流れよう」

それに今回はまだ優しい仕事内容だ。

人を殺す必要性がない事に、どれほどありがたみがあるか。

考えるだけにゾッとしてしまう。

とまぁ、予め人を殺すような仕事は送らないでくれと情報屋に

言いつけているため、問題はないのである。

「あのような事を二度としない、絶対にな」

消えない過去が右京を蝕む。

終わってしまった事にいつまでも悩まされる現状を、

変えていく必要が彼にはある。

準備を整えた右京は、廃墟の村から出た。

この村もあと数日で完全に砂に埋まるだろう。

過去も同じく、埋まって消えてしまえばいいのに・・・。

強風と日差しに煽られながらも、ぼろぼろのローブで身を包み、

目的地である廃工場へと歩いていく。

 

 

 

西暦2025年、突如起こった世界的技術の低迷化事件により

世界中の技術能力は現代より一歩退化してしまう現象が起こってしまう。

国々の発展も機械技術も産業も全てが低迷を辿り、人々の思想から

徐々に未来意識の志は遠のく一方だった。

最新技術の理論すら、世界技術の在り方が変わってしまったこの世界に

意味を持たず、2000年程度の技術能力しか世界には受けれない。

なぜなのか、その確証も得られないにせよ、世界は変わったのだ。

誰がなんと言おうと、技術力は上がらない。

砂漠化も温暖化も簡単に問題を解決できると申していた評論家も

今となっては無力以上に意味もなく、彼らの考えは脆くも崩れ去る。

人の作り出した産物など、世界にとってはどうだろうか?

良い意味で働く物が果たしてどのくらいあるか、考えたことがあるだろうか?

結果的に自然を壊し、世界を荒し、将又同人類で争うまでに至ったのは

誰のせいだと言えよう。

都合のいい世界にさせるものか、そういった世界の意思がこのような現象を

起こしたのではないかと、人々の間で流れる噂となった。

実際、これまでの時代を動かしてきたのは人間なのだから、都合のいい世界を

構築しようとしていたのは紛れもないだろう。

世界としては邪魔以外には捉えられないかもしれないが・・・。

「ま、時代が変わろうがなかろうが、俺らエージェントテイルみたいな裏稼業が

 消えることはない。情報自体が金みたいなもんだから、劣化する自国を

 守るために手を汚す輩も珍しくはないか・・・」

人々の意思はいつだって未来に向いていた。

あの事件が、世界技術低迷下事件を境に全てが終わりの始まり。

俺にとっては何の意味もない。生きているだけでいいんだ。

人は便利を追及すぎる。それ故、だめになっていく。

便利がだめだとは言わないが、全てを便利にする意味はないだろう。

多少の不便が必要なんだ。

技術の発展、それが本当に良いのか?

少なくとも俺は”アレ”を託された以上、認めたくはないんだけどな。

「あと1kmくらいか・・・・うん?」

と、歩みを止めた右京の目の前には、大きな竜巻が起こっていた。

砂嵐というそれは、どんどん距離を詰めて向かってくる。

枯れた木を力の限り振り回すほどの勢いは、間違いなく人間も吹き飛ばす

ほどの威力だろう。つまり、飛ばされたら生きる確率はほぼ0%。

うまく行けば骨折程度で済むだろうが、行動に支障が出るだろう。

それでも右京はそのまま、真っ直ぐ歩いていく。

方向転換もせず、竜巻へと歩いていく。

ごぉお、と轟音を出す竜巻はついに右京に直撃する。

だが・・・・。

「・・・・・・ふぅ」

右京に向かった竜巻は、どうしたのか一瞬で姿が消え収まってしまう。

先ほどまであれほど悍ましい姿をしていた砂嵐は、もう此処にはなかった。

飛ばされていた木は右京の歩いてきた場所に、物音を立てて落ちてくる。

砂のクッションによって落ちてきても、どうやらそれほど音は出ないらしい。

この状況に頭を抱えてため息をする右京。

「またか、一体なんなんだこの現象は?」

式春右京には悩みがあった。

風が自分に当たることがない謎の現象。

それは常時発動している現象ではないのだが、時々彼の周りには風が発生し

先ほどの砂嵐すら受け付けない状況が起こるのだ。

更には風がない場所、密閉された場所ですら彼だけ風が伝わり、

どこに出口があるのか、そういった意味合いでは助けになる。

しかし、この現象が自分だけに起こるため、周りの同業者からは化け物扱い

されることもあり、右京も風を嫌っていた。

今に始まったことでもないし、幼い頃からそうだったという話も聞くと

それだけで恐ろしいとばかり思ってしまう。

最大の謎にして最大の奇妙、解決策はあるのかどうかすら怪しい。

彼に友達がいない理由の最大としてはこれに限る。

「今更気にしても仕方がない。急ごう、目的地はもうすぐだ」

職業柄、考える暇があるなら行動を起こした方が良いと思っている。

答えがない問題をいちいち考えても仕方がないからだ。

人間、割り切らなければならない状況はいくらだってある。

俺たち”エージェントテイル”や裏社会に生きる奴らなら当然のことだが。

 

 

しばらく歩くと、廃工場らしき跡地に辿り着いた。

どうやら此処がクライアントが行っていた場所らしい。

周りは岩々に覆われ、入り口も右京がいる道だけしかない。

なるほど、ここならば周りにバレる恐れもなく工場として機能できる。

ただ本当に、工場として機能していたらの話なのだがな。

 

「放置されて5年程度くらいだろうな。まだそれほど古くない。

 焼き焦げた跡が目立つが、これが廃工場にさせた原因か?」

 

文字通り廃工場と化した建物は一階建ての大きな倉庫のようだった。

わからない機器やらが散乱しており、焼かれた物が密集している。

窓ガラスは割れた跡がちらほら見え、大きな事故が起きたことを

教えるほどの荒れ様が確認できる。

一つだけおかしいのは、工場としては少し小さいという点。

もしかしたらと、探してみたらなんと地下へ続く道のりがある。

「そういや地下二階に機密資料があると言っていたか。

 ふむ、周りを見る限りは別段おかしな点はないんだが、

 どうにも胡散臭い」

そもそもこんな所に工場がある時点で怪しいものだろ。

労働者はどこからやってきているというんだ。周りには村ひとつないという

環境なのに、明らかにおかしい。

 

「果たして本当にここは工場だったのか、お手並み拝見と行くかな」

 

どの道対象物を確保するにも、地下へ行く必要がある。

もしかしたら雇い主はどこからかここを見ていて、監視している恐れもあるため

リスクを負ってまですることじゃない。

辞退することも可能だ。だが、もしかしたら・・・。

この身体が訴える疑念、例えば復讐に似た感情が俺を動かしている。

「・・・・今回の仕事で俺は何か得るのかもしれない」

確信はないが俺にはやらなければならないことがある。

かつての罪滅ぼし、薄れた記憶に微かに残る戻れない過去。

さて、地下一階に行くとしよう。

外に双眼鏡で見ている輩がいるが、この際気付いていないフリでもしておくとして、

不自然な行動はしないようにするかな。

まぁ、地下に行けば監視の目はない。少なくとも、そこからは俺の自由な時間。

地獄へ連れて行かれるカウントダウンを遅らせることもできる。

死ぬ気は毛頭ないんだけどな。

そうして右京は、面倒臭いながらも真っ暗の地下へを向かっていく。

 

 

 

「地下一階・・特に異常は見当たらないか」

電気系統はどうやらやられているのか、天井に備わっている蛍光灯は反応しない。

仕方がないと、よれよれのコートからペンライトを取り出す。

小さいながら長持ちするライトは、こういった暗い場所への潜入も容易くしてくれる

ため、お供としては重宝してやると良い。

「どうやら、空気等に問題はないようだ。有害ガスも感じられん。

 依頼したからには俺を犠牲にしてまでも、物を取りたいのだろうと思って

 いたんだが、身体に影響はないし酸素も通常通りだな」

やはり取りに行くのが面倒だったから、代行として行かせたのか?

まったくわからん。ならば、”自分の犬”共に働かせばいいものを・・・。

真っ暗な通路を歩きながら辺りを見渡すが、散乱した物品で溢れ返っているだけで

変なところはどこにもない。

「そういえば、依頼者からは地下三階の火力発電がどうとか言っていたな。

 発電機の暴走で焼け焦げたって話だが、まぁ煙は上に登っていくものだけど」

だからって、地上の建物まで焼けるほどの大惨事を起こしたのか?

何にせよ、地下二階へ行く階段を見つけないとなぁ。

焼けた物を見ても仕方がないし、不気味な空間が支配している。

さっさとこの場所から離れた方が得策だろう。

「どうやら地下一階は地上と同じく、機器を使っての作業してたのか物品が

 散らばっているのが目立つな」

ふむ、やはりただの工場なのかもしれん。

職業柄妄想を膨らませる悪い癖があるようだ。今後の為に気を付けておこう。

地下二階へと降りる階段を見つけ、右京は下へと向かっていった。

 

 

階段を下りて地下二階へとやってきたが、地下一階と同じく別段おかしいところはない。

休眠施設、ぼろぼろのベットやら寝具が見当たる辺りそういう場所なのだろう。

会議室や放送室などあらゆる部屋が用意されているということは、

ここが作業員たちの生活の場に使われていたんだな。

「へぇ・・・・・ん?」

ふと、右京はある一室に目が留まった。

火力発電室と札が張り付けてある場所だ。

おかしい、地下三階に火力発電があるならば二階にも必要なのか?

「鍵が掛けられているのか?開かないぞ」

天井が崩落した可能性もある。下手に触らないほうがいい。

となると確かめるには、地下三階に行ってみるという案が残された。

しかし、今回の目的は地下二階にある品物。

地下三階に行く必要性がどこにもない。

「・・・まぁ、もう少し調べているか」

再び内部の捜索作業を始める右京。

食堂と表記された場所には塵が散乱しており、有害なにおいが漂っていた。

危険と判断した右京は道を戻り、別の通路を歩く。

どおやら中央に食堂が設置されており、それを囲むようにして部屋が備わっている

構図になっているらしく、シンプルな作りになっている。

「ふむ、どうやら放置されてから誰も侵入した形跡がないようだ。

 あたりの埃は事件以降からあるようだし、テロ組織も侵入していない」

ますます怪しい。やはりエージェントテイルを雇う必要もないし、一人で

取りに行けるだろうに、あの”財閥”は一体何を考えているんだ?

式春右京に下された仕事の依頼者は出雲と呼ばれる男である。

しかし、本元は彼ではない。

彼はとある財閥の人間で、代行として俺を雇っているに過ぎないのだ。

何が狙いか?そんなものあるわけがない。

憶測であるが、依頼者の男は代物の中身については知らないはずだろう。

多分、財閥のトップ・・・財閥の象徴が命令したんだ。

「それにしても、生き物の一匹もいやしないな」

 

 

 

地下三階への階段を探しているうちに、ある部屋へと辿り着いた。

この場所こそが事前に教えられていた場所であることを確認する。

「ここが管理室ってことか、対象物はこの場所にあるって話が・・・」

ドアを捻ると、ガチャリと音が鳴り内部へと侵入する。

どうやら落盤せずに無事にこの場所は残っていたらしい。

そして、他の部屋と違い若干ながらきれいに整理されている。

侵入した形跡がないというのに、なぜこの場所だけはこれほど整頓されているんだ?

と考えていた所に、重ねられていた資料の数々に目が行く。

名簿と書かれたファイルを取り出し、閲覧してみると従業員の名前が記載されている。

スケジュール表や監視カメラ等の設置場所、消灯ボタンなどの

工場内部にある物が記入されており、管理ファイルみたいな物だった。

「おいおい・・・・どれもこれも日本人じゃないか?」

名前と容姿、それ全てが異国の国の人々だった。

ますます怪しくなってきたな、こんな離れた砂漠で、しかも隔離された場所で

異国の日本人が働いているんだ?

「・・・人事売買。もしくは拉致されたか、或いは自ら進んで?」

同国の人々がなぜこうして祖国から離れた遠い地で働くのか、その意味とは

一体なんなのか?答えはきっと、地下三階にあるのでは?

職業病が彼に興味心を煽るように、彼の興味は下の階に向いていた。

それは後にしよう。まずは対象物の確保だな。

本棚から散乱したファイル等が見えるが、これらから探すのは非常に面倒だ。

ということで、手っ取り早くデスクに置かれているファイルのみを重点的に

調べることにした。機密保持ならば大事に置いておくだろうという予測。

その予測が吉と出たのか、デスクの引き出しに隠されてた。

手に取ってファイルを取り出すと、埃塗れの対処物が姿を現した。

「ファイル名:機密保持・・・・」

なんとまぁ、捻りのないファイル名だことで。

シンプルすぎると俺みたいな輩が一番触っちまいそうな代物になるから気を付けた方が

良いって思うんだが、まぁ当事者達は既にここにはいないか。

「えーと、確か依頼内容は”機密保持のファイルを取ってきてほしい”だったから、

 これにて任務完了となるわけか。なんとまぁ、簡単なお仕事で」

だけどな、これで終わるほど俺は真面目じゃない。

自分では取りに行かないほどの代物を、俺に取らせに行かせる時点で期待は

してないが、機密保持という意味合いからしてはどうだろう?

例の財閥がなぜこんな廃工場と繋がりがあるのか、その秘密を探れるし俺の知らない

所で何かが動いている可能性も否定できない。

「さて、この機密保持ファイル・・・確認してみるか」

そう言って、躊躇いもなく右京はファイルの内容を見てしまった。

”ファイルの中身を見てはいけない条件”を付け加えられたにも関わらず、

そのファイルの内容を見てしまったのだ。

依頼物の秘密を探ってしまう行動は右京の悪い癖であり、同業者にも嫌われる要因にも

なっている。簡単に言えば、彼は同業者に友達ができない理由は正にこれだった。

条件に応えられないと、エージェントテイルとしての名が穢れるという意味もあり、

同じエージェントテイルの顔に泥を塗りかねないからだ。

依頼者とのトラブルほど面倒はことはない。穏便に終えることが賢明なのだ。

そして、このファイルに絶対に見てはいけない内容が記されていたとしたら?

 

「なん・・だこれは?生体実験の第一号”属性人間”、新たなる可能性・・・」

 

難しい内容が詰め込まれている資料の中で、もっとも異質な言葉を口にする。

『西暦2000年、人類初めての革新者が現れるが行方不明となる。

       科学者”―――河”が唱える――現象が広まった。』

『西暦2016年、アリスが動く。同時に魔女が動きだし、小さな戦争が起きる。

       一年も続かず集結し、後に二人の男女が子供を授かった』

『西暦2020年、永遠の日々事件。我が祖国、日本の民衆たちを管理する計画が遂行。

       一人の少年と一人の男の死によって終結』

『西暦2025年、世界技術低迷下事件。展望台を舞台にし、世界は―――』

『西暦2028年、生体実験第一号”属性人間”完成。新たなる可能性。

       我々は過ちを犯した・・・』

 

「・・・・こっちは日記か?」

右の方に記載されている文章に目を通す。

 

『西暦2028年・・我々の研究がついに実る。――博士と助手によって一つの可能性が

        今日を持って誕生した。人間の手で違う方法で人類を誕生させる。

        彼がこの世界を変える要因になることを説に願おう』

『西暦2028年・・祖国では夏になる頃だろう。徐々に生体実験体の量産が成功。

        現段階でその数約10人になる。通常の人類よりも成長が早いが

        科学者の一人が細胞を研究して作り出した飴を用いることにした。

        これによって、子供たちの姿は約6歳程度が基本となる。

        ただし成長速度が通常の人類と同じくなったのみ。』

『西暦2028年?・子供たちが一斉に変貌を遂げる。周りの研究者や作業員を喰らう。

        どうにかして彼らを捉えるも、博士の助手によって再構成される。

        我々はもしかしたら、取り返しのつかない過ちを犯したのでは・・』

『西暦2028年?・今日は日本に残してきた娘の誕生日だろう。私の命は長くはない。

        どうか私の意思に応えてくれる者が現れることを願おう。A・H』

『西暦2028年?・――博士が助手と共に、日本国へと戻る。後始末を行うことにした

        我々は”一つの世界”を地下へと格納することを決意する』

『西暦2028年末・博士が祖国で暗殺された知らせを受け、ついに私は一つの決断を

        下した。人々の未来は、誰もが望んでいるような結末にはならない。

        君たちの未来はどこにもない。あの女が握っているのだから』

『西暦2028年?・日記は此処までにする。明日には私も死ぬようだ。博士の助手が

        狼の手先であったことに気付けなかったのが敗因だろう。

        娘には会うことはできない。もうこの手に、抱きかかえることは

        私にはできないようだ。娘よ、すまない・・・。』

 

『もしこの日記を閲覧する者が彼の者に抗う存在であるのならば、

 どうか彼女を導いてやってくれ。それこそが、彼の者に対抗する最後の手段

 なのだから・・・・・byA・Hより』

 

ファイルはそれほど分厚いわけでもなく、単なる日記と成り果てていた。

なぜこのようなファイル、資料を持ってくるよう仕向けたのかわからない。

ただ真実というのは己のみ知ってることだけでは、本当の意味を持つことはない。

自分以外の誰か、その存在がいなければ事実ではなく妄想として扱われる。

「・・・科学者、か。この男も世界にとっては単なる道化としか、認められなかった

 ということなのか?結局のところ、何を意味するのか不明だ」

一つだけどうしても気になって仕方がないのは、地下に封印された”一つの世界”。

これの意味は何を指すのか、現実にありえる事実として受け止めることができるのか。

今日までの科学者達の行動は未知数すぎる。誰も彼らを知ることができない。

「行ってみるか、直接見ればわかるだろう」

ファイルを持って管理室を出る。

此処に滞在して大体8分程度、到着するのに軽く13分。

合わせて21分くらい経ったってことは、そろそろ上の連中も動く頃だろう。

どの道、連中は機密保持を手に取った者は問答無用で排除するに違いない。

ならば少しでも時間を稼ぐならば、この下の地下三階へ行くことも良いのではないか?

「とまぁ、本音はこの場所に封印されているパンドラの箱を解放していいのか。

 そこに留まるわけだが、連中に悪用される物が兵器である可能性もある」

世界中の各都市に毒ガスを撒く程の技術や戦車や戦闘機に変わる戦力。

ありとあらゆる武装が封印されているかもしれない、”一つの世界”意味する内容は

わからないがとんでもない物が隠されていたとしたら?

「あの財閥ならばないことでもない。やはり、野放しにしておくのは危険かもしれない」

とにかく今は地下三階へ行こう。考えるのは先にしておいてもいいだろう。

考えるよりも体が既に反応していたのか、右京は通路を走っていた。

地下三階へと続く階段を見つけるのはそれほど難しくはなかったため、急ぎ駆け下りる

とこれまでの階段と違い、埃一つも存在しなかった。

怪しいな、なぜ地下三階への怪談だけがこれほど綺麗に残っている?

「現在、潜入して25分。そろそろ、監視している連中も騒ぐ頃だな。

 様子見するくらいならば自分たちで取りに来ればいいのに、わからん連中だな」

そのおかげで、奴等が隠蔽している真実にたどり着くことができるのだけどね。

よれよれのコートの上着から煙草を取り出し、ライターで火をつける。

煙草を口で咥えながら、右京は地下三階へと降りて行った。

 

 

その頃、地上では彼が廃工場へと潜入してからずっと双眼鏡で監視している者達は、

彼が戻ってくる時を今か今かと待ち望んでいた。

手入れを済ませた狙撃銃で、やってきた右京を打ち抜くためであるが出てくる気配が

全くないため、双眼鏡でずっと監視する以外に何もできないでいた。

八名の迷彩服を着用した傭兵部隊と彼らを指揮する一人の男は、時間が経つ今も

その場から動かずに待っていたのだ。

指揮している男の名は”渦流出雲(うずりゅう いずも)”。

彼は日本に拠点を置いている財閥、相坂グループの幹部の一人である。

相坂グループは一代で巨万の富を得たとされるほど、世界的に有名が財閥である。

それにも関わらず、こんな砂漠の地に用があるのだ。

なぜこのような砂漠地帯にやってきたのか、出雲も実際わからないでいた。

突如辞令が下り、一人のエージェントテイルを雇って訳も分からない廃工場へ

潜入させ、機密保持のファイルを取って来させようと言われたのだ。

「なぜ、総帥は我々に直接ファイルを取りに行かせず、エージェントテイルを

 雇えと言ったのか。疑問がまったく尽きないが、決定事項だから仕方ないか」

そもそもこのような場所に来るほど重要なファイルが眠っているならば、

自ら回収してしまった方が安全ではないのか?

なぜ彼は我々に回収させないのか、まったく上層部の考えはわからないな。

「まぁいいか、おい奴が潜入してから何分経った?」

傍に控えていた通信兵を呼び出し、右京が廃工場へと入ってどのくらいの経ったか。

通信兵は時間が記されているPDAを取り出して、現時刻を告げた。

「はっ!現在の時刻は1:00。昼を越える時刻です」

「あのエージェントテイルが潜入してから何分経つ?」

「はっ!およそ27分程度かと思われますが?如何しました?」

27分、明らかに遅すぎる。

事前に廃工場の見取り図を見た時、機密ファイルが眠っている場所など

10分もすれば辿り着く、通路が封鎖してる場合や暗闇の行動で移動の制限があっても

15~20分あれば任務が完了するはずだ。

なのになぜ、奴は現れない?

「もしや、あの男。我々の存在に気づいて、外に出てこないのではないか?」

「確かにその可能性も捨てきれませんね。エージェントテイルはどこにも所属しない

 故に自由に行動する者が多いと聞きます。もしかしたら、気付いたかもしれませんね。

 侵入する時から、周りを何度も見ていたことからして%は高いかと」

「ふむ、そうか。ならば仕方あるまい」

考えはまとめた。あの男は多分外に出ない。

ならばパターンAからBに移行せざるを得ないか。

出雲は武装の手入れをしている傭兵たちに命令を下した。

「貴様ら、これよりオペレーションを変更する。パターンAからパターンBに移行。

 内部へ侵入する。ただし、内部に毒ガスの恐れがある以上、ガスマスクは装着しろ。

 武装もRPG-7程度のロケットランチャーは控えて、拳銃のみを推奨する。

 これより、あの男を抹殺する。行くぞ」

「「了解」」

「「ラジャー」」

「「任務遂行」」

それぞれが出雲の命令に応え、順序良く行動していく。

彼らはプロの傭兵、エージェントテイルのような腰抜け共とは違う。

可能性であるが機密保持ファイルを閲覧したかもしれんな、こうなってしまえば

見ても見なくても問答無用で消し去るしかない。

あまり人を殺すのは好きじゃないが、総帥の命令をたった一人の人間の為に

無為になどできようか?

「さて、ネズミ狩りの時間だ。こちらの存在に気づいた所で、どうしようもできまい。

 エージェントテイルの実力、この機会に拝見させていただくか」

準備を終えた傭兵たちは次々と廃工場へと潜入していく。

各々、必要な武装を持っていくが、出雲は何も持たないでいた。

もしかしたら戦うかもしれない。だけど、銃など必要ないんだよ。

手にグローブを装着しただけで、彼は銃を持たずに廃工場へと向かっていく。

 

 

「なんだここは?」

階段を下りた先に待っていたのは、頑丈で大きな扉だった。

鍵が掛けられていた形跡があるが、開いている状態になっている。

やはり、誰かがやってきたのだろう?

そんな疑念もその先へと入った後ではどうでも良い事になっていた。

「何が地下三階にある火力発電だ。どう考えても違いすぎるだろ?」

目の前に広がる空間は、これまで見てきた階よりも違う構造になっていた。

大きな空間、例えるならば学校の体育館。およそ800人もの学生が

入るようなほどの空間が、右京の目の前に現れたのだ。

中央に大きな柱が立ち、そこにあるコンソールに目がいく。

どうやら何かの制御機構があるようだが、詳しくは理解できそうにない。

未知なる装置、何をすればいいのかまったくわからないそれが、明らかに今の

時代に似つかわしくないモノか、誰でも思ってしまうだろう。

「ん?なんだあれは?」

巨大な柱へと向かう前に、何やら別室がいくつもあるようで研究者達が利用していた

部屋なのだろう。それはいい、だが一室だけ光が漏れている。

「行ってみるか、誰かいるかもしれん」

いたらどうするか?その時は事情を説明してもらうしかない。

従わないのならば、脅迫してでも吐いてもらうしかないが・・・。

光が漏れている部屋のドアの前に経つと、警戒しつつその扉を開けてみた。

蛍光灯が灯るその部屋にあったのは、場違いなものだった。

「金髪ツインテールの、少女だと?」

容姿からして10代前半の少女が、金髪の髪を二つに結ったツインテールと言うのか?

白衣と奇抜な服装でおまけにニーソで横たわっている。

なんだこいつ、明らかにおかしいというよりも怪しいな。

「誰がおかしいって?」

「!?」

「よっと、ふわぁ~。よく寝たな!」

近寄ると目を開けた少女は、俺の思考を読み取ったのか口に出すと起き上がった。

隣に置いてあったキャスケット帽子を手に取って被ると、こちらを再度見てくる。

じーっとこちらを見る目は透き通っており、引き込まれてしまいそうになる。

神秘的な瞳が見てくると、耐えきれなくなり視線を逸らす。

「うん?見ない顔だなぁ、シグナに何か用があるのか?そもそも、寝てからどのくらい

 日にちが経ったのかわからないな。えーっと、教授はどこ行った?」

何を言っているんだ?この少女は。

「俺は式春右京。とある依頼でこの場所に置かれているファイルを見つけてこいと

 言われたただの人間だ。お前は誰なんだ?」

「ほぅ、自ら名乗るとはさすがだと言える。私の名前は、えーっとそうだなぁ。

 面倒くさいから”シグナ”とでも呼んでくれるとありがたいな」

シグナと呼ばれる少女はそういうと立ち上がる。

長いツインテールが揺れた。

「ところで君は一体、なんでこんなところで寝ていたんだ?」

「うん?それはシグナにもわからんのだ。知らん間にこんな場所で寝ていてな。

 おぉ、こうしてはおけん。そういえば、次に出会う者が現れたら頼むと言われていた

 ことがあったな。おい、右京よついて来いな」

「お、おいっ!手を引っ張るな」

強引に手を引かれると、先ほどのコンソールの場所まで連れてこられた。

改めてみるとこの空間は外とは違って、未知の力?みたいなのが流れ込んでいるような

気分になってしまう。オカルトなど信じない性質だったのだが、これだけは異質だ。

先ほどからコンソールを操作しているシグナの顔は、真面目そのもので邪魔はできそうにn

ないため、しばらくは彼女をそのままにしておき空間全体を見てみる。

「この材質、地球上の物なのか?深い蒼の色を出している石のようだが?」

鉱石についての知識のない俺にはわからないが、こんなものが実在するのだろうか?

疑問に思っていることはそれだけではない。

密閉されている空間だというのに、空気は澄んでいて汚れてはいない。

どこからか地上に繋がっている通風孔があるのだろう。

ただ、とてもではないが砂漠の空気とは違って、水分を多く含んでいるように思える。

「よし、できた!ちょいちょい、右京よ。こっち来てみな」

「ん?なんだ?何ができたんだ?」

「実はな、シグナには一つだけ言われていたことがあるんな!次に目が覚めた時、

 最初に出会った人間がいたら、そいつに託してくれってな!だから、あいつらに

 託されていたやつをお前にくれてやるな」

「あいつら?」

何がなんだかわからんが、どうやらシグナは任されていたことがあるらしい。

最初に出会った人間、もちろんそれは俺なんだろうけど、だからって何か隠している

物を託すとは如何なものだろうか?

俺じゃない人間が来たら、そいつに渡すつもりだったんだろう。

多分、俺じゃない奴に託したいんじゃないか?

やばいそう思うとなんか知らんが、めちゃくちゃ申し訳がない気がする。

「あ、ちょ・・・拒否権は?」

「そんなもの、シグナに関係ないな!」

だよなぁ、だめだいきなりだけどなんか本当に申し訳がない。

あいつらとは誰なのかわからないが、彼らに言おう。マジすまん。

そう思っている間に、徐々に大きな柱に変化が起きてきた。

封印されていると言われていた様々なガードが解除され、装甲と呼ばれる防御が

どんどん剥がれていく。

ふしゅ~っと、煙が出ると現れたのは大きな棺だった。

「これは、棺ようなカプセルなのな!」

「カプセル?これがか?」

ミイラかなんかが眠っているのか?だったらそんなもんもらったところで意味はない。

新聞やらネットに送れば、一部の層がざわめき始めるかもしれんが興味もねぇです。

「なぁ、本当にこれを俺に託すのか?絶対に重いだろこれ、しかも棺とか

 眠っている人にとっては迷惑極まりないだろうが、どう思う?」

「知らないな!シグナには興味もない代物だから、あいつらが託したんだろうな!」

「あいつらって誰だ?」

「シグナの先輩方な。多分もういないだろうけどな!」

「んで、どうしろと?こんな棺を担いで行くのか?どこぞの少女みたいだな」

「安心しろな。多分、棺は担がないな」

「なんだと?」

「最後の封印が解かれた時、右京。君はシグナにとって、善であるか悪であるか?」

唐突に言われたセリフ。予想外過ぎて対応も遅れる。

善か悪か。一度も考えたこともない意味、しかし何か力がある。

彼女、シグナが言うそれが彼女に何の意味があるのか?知ることは叶わないだろう。

だから俺はありのままの言葉を言ってやる。

「善か悪で決まる世界なら、俺はいらない。大事なのは、自分の気持ちだろう。

 シグナ、お前が俺を善であるか悪であるか決めるのはお前の勝手だが、

 俺は善も悪もどちらでもない。ただの、ちっぽけな人間様だ。

 その程度の奴に善も悪もない」

「ふ、ふふふ・・・右京は面白い人間だな。では、見せてもらおうかな!

 貴方がシグナにどのような未来を見せてくれるかをな!」

棺が自動的に開かれた。

真っ白い光を放ち、眩い白が視界を包み込む。

腕で光を遮る。

何が起こったんだ?

光が収まると、右京は目を見開いた。

「こ、これは・・・・・」

呆然と立つことしかできない右京。それを隣で見守るシグナ。

二人の前に、存在を見せつけるそれは紛れもなく人だった。

白いローブに身を隠した少女が、こちらを見据えている。

「さぁ、右京。彼女を呼ぶんだな!きっと、君を導いてくれる世界となってくれる。

 シグナは、そう思っているんだな!」

「・・・・・・・」

何も言えない右京は、シグナの言葉が聴こえてもそのままだった。

こんなこと、本当にありえるのか?

不思議な何かが、俺を操ってこのような状況へと追い込んだのではないか?

疑念は尽きない。だが、俺は目の前にいる少女に問う。

「君は誰なんだ?」

たったその一言を聞いた少女は、ぼんやりした顔をして応える。

赤とピンクが混ざりあった艶のある髪と、真紅の瞳はずっとこちらを見ながら。

少女の言葉を、右京は聞くこと以外何もできない。

「私はナズナ。記憶がないの」

その一言を聞くまで、右京の意思はどこか遠くへと飛ばされていた。

棺から現れた少女”ナズナ”と、会う事すらなかった一人の白衣女子”シグナ”。

二人との出会いにより、式春右京の未来は予測できない結末へと向かう。

先にあるのは希望か絶望か、これより彼は様々な者達と出会う。

お互いに知らない仲であろうとも、誰かを見捨てるほどの邪念は持たない彼らは

見えない意思によって、会うはずもないというのに出会ってしまうのだ。

 

ここに草原の風の物語が、新たな道筋へと流れていく。

本来あったシナリオは書き換えられ、誰もが知らない結末を向う。

若干ながらの軌道修正、いつかはまた物語は本来の道筋へと戻る。

それまでの間、どうか彼らの物語を―――――ご堪能くだされ。

 

 

第1話・・・・・完

 

次回 第2話:風が舞う時

 

「お前らが俺に勝てる手段があるなら、俺がそれをぶっ壊してやる」

「やはり僕が直接相手してやる方が良いらしいな、お前たちは下がれ」

「右京、シグナは知りたいな!お前は一体・・・何者な?」

 たった一つの武器が、奇跡を起こす意味を成す

 

 
 

 
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