No.537871 いきなりパチュンした俺は傷だらけの獅子に転生したたかBさん 2013-01-30 12:37:19 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:5150 閲覧ユーザー数:4679 |
第百一話 新しい『揺れる天秤』の意志。
プレシア視点。
―『知りたがる山羊』の攻略法?それはきっとわかっても躱すことのできない攻撃をするしかないんじゃないかな?…あ、だとしたら俺じゃ対処しきれない、どうしよう?―
以前からタカとはアサキム対策として何度も考慮を重ねてきた。
だけど、タカの言う攻撃方法はフェイトのような高速戦闘。それはこの子、正確にはガンレオンじゃ無理。何より遅すぎるし、攻撃の動作が雑すぎるのである程度受け流しが可能。マグナモードを使えば何とかスピードの方が解消されるが、タカの技量が低すぎるからアサキム相手だと受け流される可能性もある。
かと言って、なのは達の魔力による収束砲。
純粋な魔力だとシュロウガの鎧が弾いてしまう。
よって、ガンレオンでの質量攻撃?(一応魔力で出来ているレンチやスパナ。電動ノコギリ)が一番の有効打である。
「タカ!逃げなさい!」
私の目の前に映し出される映像はフェイト達が足止めを行い、なのはさん達が残った魔力を全てかき集めて放った収束砲でダメージを与えた所で映像が一度消える。
そして、再び浮かび上がった映像は、システムU―Dから『偽りの黒羊』のスフィアを抜き取ったタカ。
その後ろから不意に現れたアサキムが斬りかかってきた場面だった。
ガンレオンの鎧は既に消失している。
彼の魔力が底を尽きたのか、それとも一度に何度も使ったマグナモードの所為か。
どちらにせよ、今の彼は無防備だ。
映像越しにはリインフォースが打ちのめされた姿。何とか意識を保って、空中に浮遊しているのが精いっぱいといった形だった。
私の声が届いたのかどうかは分からない。だけど、今は気を失って腕の中にいる少女を庇うように抱きしめながら、残りかすと言ってもいい最後の魔力を使って、彼は『偽りの黒羊』のスフィアが握られている右手にガンレオンの右腕部分だけを覆う手甲を出現させてアサキムの剣を防ぐ。
だけど、元から基礎能力に差があるタカとアサキム。魔力も体力枯渇しているタカにアサキムの剣戟を受け止めることなどできるはずもなく、ユーリを抱きしめたタカはアサキムに二人まとめて殴り飛ばされる。
海上を水切りの石のように弾き飛ばされるタカは海鳴市の砂浜に叩き落されるまでユーリを手放さなかった。
「リンディ!執務官は!他の武装局員達は何をしているの!」
私は叫ぶようにリンディにタカの援護を要請しようとした。だが、リンディは私以上に焦って、いや、信じられないという顔でモニターを凝視していた。
そこに映し出されていた現実をオペレータのエイミィが震える声で告げる。
「………武装局員。ぜ、全滅。…クロノ君達も戦闘不能」
結界を張っていた魔導師も、結界の外で後詰め役の局員達も皆、意識を失って海上に浮かんでいる姿が映し出されていた。
「そ、んな…。そんな!」
アサキムに弾き飛ばされたタカの映像以外にも幾つもののモニターには戦闘不能になって海上に浮かんでいるマテリアルの子やなのはさん達。自身にかけた浮遊魔法が効いているのか、意識が無い状態で空中に浮遊している騎士達。
唯一、意識を保ちながらも空中を浮遊しているのはリインフォースだけだった。
まるで、彼女だけはそう手加減したかのように…。
『はははははははっ!君は何処まで僕を喜ばせてくれるんだいタカシ!『傷だらけの獅子』の覚醒だけじゃない!『偽りの黒羊』までこうも簡単に摘出するなんて思いもしなかったよ!』
画面に映し出されているアサキムの右手にはタカを殴り飛ばした時に奪ったのか、緑色の光を放つ小さな光の球があった。おそらくあれがスフィア、『偽りの黒羊』なんだろう。
それがアサキムの体。正確にはシュロウガに溶け込んでいく。すると、
ドクンッ!
モニター越しにも、そして、リンカーコアを失った私にもわかるぐらいに膨大な魔力がアサキムから感じ取れた。
もともと、なのはさん達以上に魔力を持ったアサキムの魔力や威圧感が更に膨れ上がったのが感じ取れた。
「そ、んな…。アサキムの総魔力量、計測、不可能。どの計測器もメーターを振り切っています!」
…全滅だ。
誰が言ったのかは分からない。だけど、私達の脳裏に浮かんだ言葉をモニタリングしている局員の誰かが呟いた瞬間、アースラ艦内に悲痛な空気が充満した。
ただでさえロストロギアクラスのスフィアを持っていたアサキム。それがもう一つのスフィアで強化されたアサキムに勝てる要素は無くなった。
あったとしてもそれは…。
圧倒的な力を持った、万全状態の『傷だらけの獅子』だけだ。
『ぐ、ぐがぁああああああああああああああああああああっっ!!!』
『そうだ、タカシ!君の悲鳴を君のスフィアに捧げるんだ!』
アサキムが砂浜で倒れ伏したタカの背中を踏みつける。
魔力も込めていないその動作。だが、マグナモード後のタカにとっては何よりも痛く辛い激痛になる。
『がっ、ぐ、が…』
『…気を失っている時間は与えない。君が今していいのは苦痛の悲鳴を上げることだけだ』
あまりの激痛に目を見開いて気絶したタカの頭を無造作に掴み、波うち際に投げるアサキムの仕草に、エイミィや他の局員たち数名は目をそむける。
そんな時にモニタールームの扉が開く。そこにいたのは待機室でフェイト達の帰りを待っていたアリシアだった。
待機室で待たせていたのは、モニタールームに転送装置があるからだ。アリシアが間違ってもアサキムと戦っている場所に転送されないためでもあった。
「…お、兄ちゃん」
「アリシア!見ちゃ駄目!」
私はタカがアサキムの拷問によって傷ついていく様子をアリシアに見せないように正面から抱きしめる。
『がっ、ぐっ、がぁあああああああ!』
『そらそらそらぁ!!もっとだ!もっと因子を高めるんだ『傷だらけの獅子』!』
『やめ、ろ。やめろ!アサキム!』
リインフォースは疲労しきった体に鞭を入れながらもアサキムを止めようと、タカを守ろうと声を荒げながらも彼等の所へ少し少しではあるが近づいていく。だが、その速度では彼女がたどり着くころには…。
『それは出来ない話だね『悲しみの乙女』。これは君の因子を高めるためにやっていることだからね…』
『な!?』
『タカシを傷つければ『傷だらけの獅子』が。そして、それを目の前で見せつければ君の『悲しみの乙女』も高まる。実に効率的だろ?』
…だから、か。
だからあえてアサキムはリインフォースだけ意識を保てるギリギリまで追い詰めたわけね。でも、それなら他の武装局員は…?何故、全員が重体とはいえ致命傷を負っていないの?
『そして、己の無力感も後々感じて悲しんでいくだろう。他の君の仲間達も…。悲しんでいる人が多ければ多い程、それは君に伝播しやすい』
今、戦闘不能に陥っている人達が目を覚ました頃には…。
『やめろ!やめてくれ!私は、…私は彼に何も。彼に何もしてあげてない!』
「…や、めて。…やめてよ。お兄ちゃんをこれ以上傷つけないで!」
アリシアとリインフォースの悲鳴が重なる
だけど、それは叶わないことだった。
リインフォースだけじゃない、ここにいる全員がこれから起こりうることを、結果を想像した。その時、
『…あ、アサキ、ム。俺の、命。スフィアが、欲し、いなら…。くれて、やる』
目も虚ろながらになりながら、アサキムに首元を掴まれ、持ち上げられているタカが途切れ途切れになりながらもアサキムに話しかける。
『だから、だから…。リインフォースとあの子は…、見逃してくれ…。やっと、やっと普通の女の、子に成れたんだ…。普通の生活が出来るんだ。だか、ら…』
『………』
っ!
タカ、貴方は何処まで…。他の人の命を…。どこまで自分の命を…。
『…俺が、…『悲しみの乙女』のスフィアを。…がはっ。取ってお前に渡す。だから…。ぐぁああっ!』
『それは出来ないよ。タカシ。…それにどう言う事だ?君を痛めつけても『傷だらけの獅子』の因子が強くならない』
アサキムは高志の懇願を無下に捨て去ると、砂浜に再び彼を投げつける。
『がっ…。はっ…』
砂浜に投げつけられただけだというのにタカは息をするのも辛そうに嗚咽を漏らしながらもアサキムの方を睨む。
『…そうか。もう君には肉体的痛覚は意味をなさないんだね。それ以上の怖さ。いや、
ギィンッ!
アサキムは人が一人が通って来れそうな大きさの魔方陣を展開する。するとそこから現れたのは…。
「フェイト?!」
「フェイトさん!」
全身を海水で濡らしたフェイトがアサキムの足元に現れる。
まさかっ…。
『…アサキム!お前!』
『守りたい者を守れなかった時。君の心は、どれだけの悲鳴を上げさせるんだろうね』
アサキムは赤黒い剣を大きく振りかぶる。
その剣の軌道の先にはフェイトの首が…。
『やめろ!やめてくれ!アサキム!』
『やめろ!アサキム!』
リインフォースとタカは同時に叫ぶがアサキムの動きには躊躇う気配がない。
「フェイトさん!起きて!」
「フェイトちゃん!」
「フェイト!」
「フェイト!逃げてぇえええええええ!」
エイミィやリンディ、そして私とアリシアの悲鳴もアースラに鳴り響く。
だけど、フェイトには一向に目覚める気配は無くて…。
『さあ、至高の悲鳴を上げろ!『傷だらけの獅子』!『悲しみの乙女』!』
その剣が振り降ろされる。そして…。
ドンッ!
と、固い何かを弾き飛ばすような音と同時に
―ジャストワン・チャンス!撃ち抜け!ファストステップ!!―
『揺れる天秤』が放つ碧の光を纏った何者かがアサキムに体当たりを敢行しながらフェイトやタカの傍から突き放していく。
『がっ?!な、こ、この力は!『揺れる天秤』!?』
アサキムは突然体当たりされたものをみて、驚愕する。
アサキムだけじゃない、それをモニター越しに見ていた私も驚いていた。
あの
『これ以上の蛮行は私が許しません!何より私の大事な教え子を殺そうとするなんて絶対に許しませんよ!アサキム!』
「…リニス。…なんで?」
リニスの登場に驚いたアサキムだったが、ズタズタのボロボロになったタカの方を見てあることを思云ったのか自嘲めいた笑い声を発した。
『…は、ははは。そうか、そういう事か。スフィアを
体の全身からスフィアの力。タカと同じライトグリーンの光を噴き上がらせた私の元使い魔。リニスがそこに映し出されていた。
『…『傷だらけの獅子』から新しく貰ったその命を散らせる気なのかい?新しい『揺れる天秤』?』
君では僕には勝てない。そう言っているアサキムに対してリニスはさも当然のごとく声を荒げながらに叫んだ。
『大の大人が小さな子供に頼ってばかりでなにが大人ですか!!例え、この身と命が砕けようともあの子達は私が守り抜きます!それが!』
―私、『
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