No.537022

真・恋姫無双アナザーストーリー 蜀√ 桜咲く時季に 第50話 【雪華拠点】

葉月さん

明けましておめでとうございます。
本年の初投稿になります。

今回は拠点投票第四位の雪華のお話になっております。

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2013-01-28 00:32:04 投稿 / 全10ページ    総閲覧数:6147   閲覧ユーザー数:4784

真・恋姫無双 ifストーリー

蜀√ 桜咲く時季に 第50話 雪華拠点

 

 

 

 

【ぷるん、ぷるん、ぷる!】

 

 

 

《雪華視点》

 

(ぱちっ、ぱちっ……ぱちっ)

 

私は算盤を片手に帳簿が合っているかを確認していました。

 

「ふぅ……朱里先生、帳簿の確認終わりました」

 

「ありがとうございます、雪華さん」

 

朱里先生は筆を止めてニッコリと笑っていました。

 

「雪華さん、大分お仕事が速くなってきたよね」

 

「ふえ!?そ、そんなことありません。私なんてまだまだです」

 

朱里先生の隣の席にいた雛里先生に褒められ慌てる私。

 

「いいえ。雛里ちゃんの言ったとおり早くなってきていると思いますよ。だって、まだお昼前ですから」

 

「え?……あっ」

 

朱里先生に微笑みながら言われ、窓の外を見てみると確かに陽はまだ真上には来ていませんでした。

 

「確か、雪華さんはお昼から非番でしたね。少し早いですけど終わりにしていいですよ」

 

「そ、そんな、先生方より先にお昼を頂くなんて!」

 

「雪華さん、お休みもお仕事のうちですよ」

 

「それに、私たちも切りの良いところでお昼にするので気にしなくても大丈夫ですから」

 

雛里先生は切が良い所と言っていますが、机の上にはまだ大量の書簡や竹簡がありました。

 

「ふふっ、これを全部やるわけじゃないですよ?」

 

「ふえ!そ、そうですよね!わ、私ったら何を考えているのでしょう!」

 

山積みの書簡を見ていることに気がつかれ、笑われてしまいました。ふぇぇ、は、恥ずかしい。

 

「ほ、本当によろしいのですか?」

 

「はい」

 

「ありがとうございます。それではお言葉に甘えて失礼します」

 

私は朱里先生と雛里先生にお礼を言って執務室から出ました。

 

「さてと……少し早いですが、お昼にしましょうか……あれ?お財布が……」

 

廊下に出た私はお財布が無いことに気が付いた。

 

「あっ、そうだった。部屋に置いてきたんでした」

 

お財布を部屋に置いてきたことを思い出し、まずは部屋に取りに行こうと歩き出しました。

 

「今日は何を食べようかな~♪……ん?」

 

「七乃~!どこにいるのじゃ、七乃~~!」

 

何を食べようかと考えながら歩いていると前で大きな声で誰かを探している美羽ちゃんがいました。

 

「ん?おお!雪華ではないか!丁度良い所だったのじゃ!」

 

「どうかしましたか?誰かを探しているようでしたが」

 

「うむ、七乃を探していたのじゃ。優未は見なかったかえ?」

 

「いえ。私も先ほどまで執務室でお仕事をしていたので」

 

「そうか……」

 

「私も七乃さんを探すの手伝ってあげましょうか?」

 

シュンとなる美羽ちゃんに私は一緒に七乃さんを探そうと提案しました。

 

「……大丈夫なのじゃ、妾一人でも七乃を探して見せるのじゃ!」

 

美羽ちゃんは少し考えた後、笑顔で答えた。

 

「がんばってください、美羽ちゃん」

 

「うむ!ではさらばなのじゃ!」

 

「はい」

 

「七乃~!どこなのじゃ~!」

 

美羽ちゃんは手を振り七乃さんを探し始める。

 

「……七乃さんを見かけたら、美羽ちゃんの事を教えてあげよう」

 

「……はぁ、はぁ」

 

「っ!?」

 

そう思い、歩き出した私でしたが、柱を通り過ぎた時に聞こえた息遣いに驚き振り返りました。

 

「な、七乃さん?そこで何をしているのですか?」

 

そこには覗き込むようにして美羽ちゃんを見ている七乃さんが居ました。

 

「もちろん、私を探している美羽様を愛でているんですよー」

 

「は、はぁ……」

 

七乃さんの言葉に

 

「っと、所で雪華ちゃんはこんなところで何をしているのですか?」

 

「あ、はい。お昼を食べに行こうと思い。部屋にお財布を取りに戻るところです」

 

「そうですかー……あ、そう言えば」

 

「?」

 

「先ほど、ご主人様も町へ行かれたような……ご主人様もお昼ですかね」

 

「っ!ほ、本当ですか!?」

 

「はい。探してみてはどうですか?」

 

「そうします!ありがとうございます、七乃さん!」

 

「いえー。頑張ってくださいねー♪」

 

笑顔で答える七乃さんにお礼を言って急ぎ部屋に戻りお財布を持ち町にご主人様を探しに向かいました。

 

「見つからないです……どこに居るのでしょうか、ご主人様は……」

 

急ぎ町へ来たものの、ご主人様の居場所が分からず困ってしまいました。

 

(くぅ~)

 

「っ!ふぇ……お腹が空きました。そう言えば私、お昼を食べに町に出ようとしてたんでした。」

 

それが七乃さんと話し、ご主人様が町へ向かったと聞き、いつの間にか目的が変わっていた。

 

「とりあえず、まずはお昼にしましょう。お腹が空いていては、ご主人様にお会いした時に私の恥ずかしい音を聞かれてしまうかもしれませんし」

 

(くぅ~)

 

「ふぇ……」

 

私の言葉に抗議するかのようにまたお腹が鳴ってしまいました。

 

「ん?そこに居るのは、姜維様ではありませんか」

 

「ふぇ?……あっ」

 

名前を呼ばれて周りを見回すと、こちらを見て手を振っているおじさんが居ました。

 

「あのおじさん、どこかで……あっ!」

 

思い出しました。あのおじさんは!

 

「麻婆豆腐丼のおじさん!」

 

「そ、その呼び方は止めて頂けませんかね、姜維様」

 

「ふえ!す、すみません」

 

苦笑いを浮かべるこのおじさんは以前、平原に居た頃、まだどこにどんなお店があるか分からなかった時にご主人様に連れて行ってもらった定食屋を営んでいたおじさんです。

 

そこでご主人様と一緒に食べた麻婆豆腐丼がものすごく美味しくて度々、一人で食べに行っていました。

 

「どうして麻婆ど……お、おじさんがここに?」

 

思わず、麻婆豆腐丼のおじさんとまた言ってしまいそうになり、慌てて言い直しました。

 

「そりゃ、もちろん。御使い様に御恩がありますからね。御使い様の行くところ、どこまででも着いて行こうとこうして着いて来ているわけでさぁ。ですが……」

 

そこでおじさんはなぜか言い淀んでしまいました。

 

「何かあったんですか?」

 

「着いて行くにも、懐が徐々に寂しくなってきたもので、ここいらで少し懐を温め直そうと、こうして露店を出しているしだいです」

 

苦笑いを浮かべて自分の露店を見るおじさん。

 

「そうだったんですね」

 

「へぇ……ところで、姜維様はここで何を?」

 

「あっ、お腹が空いたのでお昼を頂きに」

 

「なるほど!でしたら、どうぞ、久々の麻婆豆腐丼を食べて行ってくだせぇ!もちろん、お代はいりませんので!」

 

「ふぇ!?だ、ダメですよ!ちゃんとお代は払いますから!」

 

「ですが、さすがに……」

 

「路銀を稼ぐためにお店を出しているんですよね。だったら、ちゃんと稼がないとダメですよ」

 

「へ、へぇ……で、では、お言葉に甘えまして。あ、お席はこちらにどうぞ」

 

おじさんは頷いて席に案内してくれました。

 

私がなんでこんなにおじさんの好意を頑なに拒んだかには訳があります。

 

それは私が以前、点心屋で酷い目に遭ったことが原因にあります。

 

まあ、あれは自業自得でしたが……ですが、あの事件が無ければご主人様とも出会えていなかったのも事実なわけで何とも複雑な気分です。

 

っと話がそれてしまいました。とにかく、あれ以来、私はタダで食べ物やモノを貰うことをしないと決めていました。

 

「ふぅ……えへへ、楽しみです♪」

 

私は気持ちを切り替え、麻婆豆腐丼が来るのを今か今かと待ち望んでいました。

 

「へい、お待ち!」

 

(どんっ!)

 

威勢の良い声でおじさんは目の前に麻婆豆腐丼をおいてくれました。ですが……

 

「お、おじさん。なんだか、量が多いような気が」

 

「気のせいですよ」

 

「えっ、で、でも……」

 

明らかにこの量は大盛りのような……

 

「気のせいですよ。ささ、冷めないうちにお召し上がりください」

 

「で、ですが……」

 

「すみませーん!注文良いですか!」

 

「へい!ただいま!それでは姜維様、ごゆっくりと」

 

おじさんはそう言うと行ってしまいました。

 

「い、いいのかな?」

 

躊躇いながら目の前に置かれた大盛りの麻婆豆腐丼を見る。

 

(くぅ~~~)

 

「ふぇ」

 

麻婆豆腐丼の良い匂いに私のお腹が早く食べさせてと鳴いてしまいました。

 

「あ、あとで大盛りの分もお金出せばいいよね?うん、そうしよう」

 

頷き、私は蓮華を手に取り麻婆豆腐をすくいました。

 

「良い匂いです……いただきます……はむっ!~~~~~♪」

 

ん~~!このご飯に染み込む餡がとても美味しいです。

 

私は久々の麻婆豆腐丼に舌鼓をしました。

 

「~~~♪」

 

「……(ニコニコ)」

 

「……っ!」

 

「やあ、雪華。美味しそうに食べるね」

 

「ご、ごふひんひゃまっ!?」

 

私が麻婆豆腐丼を頬張る姿をご主人様は微笑みながら見ていました。

 

「な、なんふぇほほに!?」

 

「リスみたいで可愛いけど取り合えず、口の中の麻婆豆腐、食べちゃおうか」

 

「~~~っ!」

 

ご主人様は私の頬をツンツンと突いて言ってきました。

 

ふぇ……ご、ご主人様に恥ずかしい所を見られてしまいました。

 

「…………んっ。ご、ご主人様、いつからそこに居たのですか?」

 

口の中の麻婆豆腐を飲み込み、いつから前に座っていたのかをご主人様に尋ねました。

 

「雪華が据わる前からだけど。気が付かなかった?」

 

「ぜ、全然気が付きませんでした……」

 

「周りに注意が向いてないほどお腹が空いてたのかな?」

 

「ふぇ~~」

 

図星を突かれ恥ずかしくなり顔を赤くする。

 

「ご、ご主人様はここでなにを?」

 

「ん?俺も昼食だよ。ここのおやっさんに歩いてるところを発見されてさ。まあ、麻婆豆腐丼も久しぶりだから良いかなって。それに、ここの麻婆豆腐丼はすごく美味いからな」

 

ご主人様は笑いながら空になった丼を手に持って見せてきました。

 

「そういや、雪華は昼からは非番だったよね」

 

「はい。ご主人様は?」

 

「俺も非番なんだよね」

 

「本当ですか?」

 

「ほ、本当だって。そりゃ、ちょくちょく城を抜け出してるけどさ」

 

「ふふっ、嘘です、ご主人様」

 

慌てて言い訳するご主人様に私は笑いながら言った。

 

「ひ、酷いな~。雪華が俺を騙すなんて……俺、悲しいな」

 

「ふえ!?あ、ご、ごめんなさい、ご主人様!別にそんなつもりで言ったわけでは!」

 

「……くっ!くっくっく」

 

「ふえ?……あっ!ご、ご主人様、騙しましたね!?」

 

下を向いて肩を震わせるご主人様を見て、私は騙されたのだと気が付きました。

 

「あははっ、ごめんごめん。でも、これでおあいこだろ?」

 

「む~~っ!知りません!はむっ!」

 

頬を膨らませて拗ねた私は麻婆豆腐丼を頬張りました。

 

「ごめんって、謝るよ」

 

「知りません……はむっ!」

 

「それじゃ、俺が大好きなモノを教えてあげるから許してくれないかな?」

 

「……大好きなモノ?」

 

「ああ、どうかな?」

 

ご主人様の大好きなモノ……興味があります。

 

「……わかりました」

 

「よし!ここじゃなんだし、お昼食べ終わったら行こうか」

 

「わかりました、急いで食べますね!」

 

「ああ、そんなに急いで口の中に入れると」

 

「っ!けほ!けほ!」

 

「ほら、言わんこっちゃない。はい、お茶」

 

「んっ、んっ、んっ……ぷはっ……ありがとうございます、ご主人様」

 

私はご主人様からお茶を受け取り、一気に飲み干しました。

 

「どういたしまして。そんなに急がなくていいからゆっくり食べな、時間はまだあるんだし」

 

「ふぇ……はぃ」

 

またご主人様にみっともない所を見られてしまい、顔を赤くしながら頷き、麻婆豆腐丼を食べました。

 

ふぇ……こんな所ばかりご主人様に見られて、幻滅されちゃったかな?

 

「それでご主人様。ご主人様の大好きなモノとはなんなのですか?」

 

店を出た私とご主人様は町を歩いていました。

 

あっ、もちろん、大盛り麻婆豆腐丼はその分のお代を渡しました。その時、おじさんは凄く困った顔をしていましたが、最後は受け取ってくれました。

 

「まだ、秘密だよ」

 

「ちょっとだけでも教えてください」

 

「それじゃちょっとだけ。プルプルして柔らかくて、でも弾力があるモノだよ」

 

「プルプルして柔らかくて、でも弾力がある……」

 

なんでしょう、全然わかりません。

 

「そういや、大きいのから小さいの色々あったな」

 

大小さまざまな大きさ……ますます、わかりません。

 

「うぅ~」

 

「はははっ、直ぐにわかるよ」

 

ご主人様は笑いながら私の頭を撫でてきました。

 

「あらご主人様。それに雪華ちゃんじゃありませんか」

 

「ん?」

 

「ふえ?」

 

名を呼ばれ、声のする方を見る。

 

「紫苑さん」

 

私たちに声を掛けて来たのは、この城の元主、今はご主人様の仲間である紫苑さんでした。

 

「ふふふっ、お二人で逢引ですか?うらやましいですわ」

 

「ふえ!?あ、逢引!?」

 

「なっ!違うよ!そんな訳無いだろ!?」

 

「あらあら、そんなに慌てては、ますます怪しいですわね」

 

「ふぇ~~~~」

 

微笑みながら話をする紫苑さん。私はそれをご主人様の横で顔を赤くして俯いていました。

 

「……」

 

(ぷるん)

 

「っ!」

 

紫苑さんがご主人様と話していると組んでいた腕を持ち上げる際に胸が揺れました。そこで私は先ほどご主人様が言っていたことを思い出しました。

 

プルプルして柔らかくて、でも弾力がある……その上、大きさも様々でご主人様が大好きなモノ……

 

「……」

 

「あらあら?どうしたの、雪華ちゃん」

 

「ふえ!?な、なんでもありません!」

 

じっと紫苑さんの胸を見ていた私に気が付き話しかけてきました。

 

「ふふふっ、嘘はダメよ。嘘を吐く悪い子には、こうしちゃおうかしら♪」

 

(ぷにゅ)

 

「ふ、ふぇぇええええ!?」

 

紫苑さんは笑いながら私に抱き着いてきました。

 

わわっ!し、紫苑さんの胸、凄く柔らかいです。でも、弾力もあって……ああ、なんだか夢ごこ、ち……

 

「お、おい、紫苑!雪華が窒息しちゃうぞ!」

 

「あ、あらあら、大変」

 

「ぷはっ!……ふえ?あ、あれ、私……なんだかすごく良い気持ちでどこかに居たような……」

 

「危うく、紫苑に殺されかける所だったんだぞ」

 

「ごめんなさいね、雪華ちゃん」

 

「ふぇ?あ、はい?」

 

なんで謝られたのか分かりませんでしたが、とりあえず、返事を返しておきました。

 

「とにかく、俺と雪華は行くところがあるから」

 

「はい。次は(わたくし)を誘ってくださいね、ご主人様」

 

「だ、だから……はぁ。逢引じゃなく、買い物ならいつでも付き合うよ」

 

「はい♪それではご主人様、失礼いたします。雪華ちゃんも」

 

「はい」

 

紫苑さんは微笑み、私たちと別れました。

 

「それじゃ、行こうか、雪華」

 

「……」

 

「雪華?」

 

じっと紫苑さんの後ろ姿を見ていた私にご主人様が話しかけてきました。

 

「ふえ!?あ、はい!行きましょう」

 

我に返った私は歩き始めました。

 

「……それでどこに行くのでしょうか?」

 

しばらく歩き、ご主人様がどこに行こうとしていたのかを知らなかった私は歩きながら、ご主人様に伺いました。

 

「こっちだよ」

 

「ふぇ?ぁ……」

 

ご主人様は微笑み、私の手を取り歩き出しました。

 

「……」

 

ぁぅぁぅ……ご主人様の大きくて温かな手が私の手を握っています。

 

「あ、あの、ご主人様」

 

「ん?どうした?」

 

「ふえ!あ、あの、その……な、なんでもありません」

 

ご主人様の笑顔に恥ずかしくなり、言おうとしたことが頭の中から綺麗さっぱり吹き飛んでしまいました。

 

「?変な雪華だな」

 

「ぅ……」

 

ご主人様に笑われてしまいました……うぅ、変な子だと思われてしまったでしょうか……

 

ご主人様に笑われてしまったことに気分がドンドンと沈んできてしまっていた。

 

はぁ……普段はこんな失敗しないのに、なんでご主人様の前だとこんなに緊張してしまうのでしょうか。

 

ご主人様に助けて頂いた当初は慣れない環境、それにご主人様が天の御遣いだったことも原因にあったのだと思っていました。

 

ですが、何日、何十日と経ってもご主人様の前に立つと緊張をして言いたい事がはっきり言えません。

 

ご主人様が苦手という訳では無いんです。だって、こうしてご主人様と一緒に居ると緊張もしますがそれ以上にとても安心できるんです。

 

緊張と安心、矛盾しているかもしれませんが本当のことなので仕方がありません。

 

「よし、まずはここだ」

 

自分の中で色々な事を考えていると目的の場所に着いたのかご主人様は足を止めました。

 

「ふえ?ここは……」

「果物屋さん、ですか?」

 

「ああ、ここで果物を何種類か買うよ」

 

ご主人様がまず立ち寄った場所は果物屋さんでした。

 

「これは御遣い様!何にいたしましょう!」

 

「そうだな~……雪華は果物で好きなのはあるか?」

 

「好きな果物ですか?えっと、桃が好きですけど」

 

「桃か……おっちゃん。蜜漬けの桃あるかい?」

 

「へい。五個分ほど漬けてありますが」

 

「それじゃ、それを全部と別に桃を五個、あと葡萄を十房、蜜柑を十個貰おうかな」

 

「ふえ!?あ、あの、ご主人様!?」

 

「直ぐにご用意します。少々お待ちください」

 

お店のおじさんはいそいそとご主人様が注文した品を用意し始めました。

 

も、桃の蜜漬けなんてそんな贅沢なものをどうするおつもりですか!?

 

桃はとても希少です。それなのに更に貴重な蜂蜜や砂糖を使った蜜漬けだなんて……お祝い事くらいでしか食べたことがありません。

 

「ご、ご主人様?一体、なにを……」

 

「さっきも言っただろ?俺の大好きなモノって」

 

ご主人様の好きなモノ……そうでした。ご主人様の好きなモノは……

 

……

 

…………

 

………………

 

『あらあら、ご主人様?そんなに(わたくし)の胸を見て、そんなに大好きなんですか?』

 

『ああ、大好きだ』

 

『あらら、うふふ……では、お味見してみますか?』

 

『い、いいのか?』

 

『ご主人様でしたら♪』

 

『だ、だめーー!』

 

『と、桃香!?』

 

『むー!抜け駆けは禁止だよ、紫苑さん!ね、愛紗ちゃん!』

 

『わ、私は別に……』

 

『もー!もっと積極的にならないと愛紗ちゃん!』

 

『あらあら、これは困りましたね……では、ご主人様に選んでいただきましょう』

 

『お、俺が!?』

 

『はい♪どうぞ、ご主人様♪』

 

『私を選んでくれますよね、ご主人様?』

 

『そ、その……どうぞ』

 

………………

 

…………

 

……

 

「ふ、ふぇ~~~……はふぅ」

 

ふぇ~、わ、私ったらなんてはしたない事を……

 

自分の妄想に顔が熱くなり、のぼせた様になってしまった。

 

「雪華?顔が赤いけどどうかしたのか?もしかして、風邪か?」

 

(ぴとっ)

 

「ふぇぇえ!?な、なんでもありましぇん!」

 

ボーっとする私のおでこに、ご主人様は心配そうに手を当ててきました。

 

私はおでこを両手で隠しながら勢い良くご主人様から離れて平気だと伝えました。

 

「ならいいけど……無理だけはするなよ?雪華は俺の大事な仲間なんだから」

 

「は、はひ!」

 

「よし、なら次のお店に行こうか」

 

「はひ!」

 

額に手を当てられた私は混乱しながらも返事を返しました。

 

………………

 

…………

 

……

 

「お次はここ」

 

「ここは農場?」

 

次に向かったのは町外れにある農家でした。

 

「ここで卵と牛乳を分けてもらうんだ」

 

「ぎうにゅう?」

 

聴きなれない言葉に私は首を傾げました。

 

「牛の乳だよ」

 

「ち、乳!?」

 

ちちってあのちちですよね?む、胸から出るあの……やっぱり、ご主人様は胸が好きなんだ……

 

………………

 

…………

 

……

 

『あん、ご主人様、そんなに吸っても乳はでないよ?』

 

『なら、出るまで吸い続けようかな』

 

『もう、ご主人様ったら……♪』

 

『あらあら、お乳が飲みたいのでしたら(わたくし)のをどうぞ』

 

『し、紫苑さん!?ど、どうしてここに!』

 

『抜け駆けは禁止ですよ、桃香様。そうよね、愛紗ちゃん?』

 

『い、いや、私は……』

 

『ダメよ、愛紗ちゃん。さっき教えた様に言ってごらんなさい』

 

『う゛……ご、ご主人様、わ、私もかまって欲しい……にゃん』

 

………………

 

…………

 

……

 

ふぇぇぇええええっ!!

 

(ばっばっばっ!)

 

自分の妄想に慌てて両手を勢い良く振り打ち消す。

 

私たらまたなんて事を考えているんでしょうか、凛とした愛紗さんが『にゃん』なんて言う訳ないじゃないですか。

 

でも、乳なんか何に使うのでしょうか?

 

「お待たせ、あとは帰りに砂糖を買って下準備は完了だ」

 

「ふえ!?あ、はい!で、では参りましょう!」

 

ご主人様の腕の中にはいつの間にか牛の乳が入っているであろう瓶と卵があった。

 

「お持ちします、ご主人様」

 

「ありがとう。それじゃ、卵をお願いするよ」

 

「そんな、ご主人様に重たいものを持たせるなんて、できません!」

 

本当は重いであろう瓶を持とうと思ったのですが、ご主人様は卵が入った籠を手渡してきました。

 

「それこそ雪華は女の子なんだから、重たいものは男である俺が持つよ」

 

「ふぇ、お、女の子だなんて……一応、武官兼、文官なんですが」

 

「それは役職だろ?性別には関係ないだろ」

 

「そ、それでは天の御遣いであるご主人様にお荷物を持たせるわけには参りません!」

 

「そんなこというと卵も取り上げちゃうぞ」

 

「わわ!だ、ダメです!」

 

卵の入った籠に手を伸ばしてきたので慌てて背中に隠す。

 

「御遣い様、うちの家の前でイチャイチャしないでくれませんかねぇ?熱くて見ちゃいられないよ」

 

「あっ」

 

「ふえ!?」

 

気の良さそうなおばさんが苦笑いを浮かべて私たちを見ていました。

 

「あ、あははははっ」

 

「ふぇぇええ~~」

 

私は恥ずかしさで顔がどんどんと熱くなり、ここから逃げ出したくなりました。

 

………………

 

…………

 

……

 

「ふぅ、到着。ご苦労様、雪華」

 

「は、はい」

 

農場からの帰り道、砂糖を買い無事に?お城までたどり着きました。

 

ふぇ~、今日はずっとご主人様に恥ずかしいところを見られてばかりです。

 

ここまでの行動を思い返し、顔を赤くする。

 

「よし、それじゃ早速やろうか」

 

「ふえ!?い、今からですか!?」

 

「そうだけど?」

 

そ、そんな……あ、あんなことわ、私出来ません!

 

「あ、あのその……わ、私なんかでいいのでしょうか?」

 

「だって知りたいんだろ?俺の大好きなモノ」

 

「そ、それはそうなんですけど……」

 

私、そんなに胸大きくないのに……

 

「ほら、行くよ」

 

「ふ、ふぇぇえええっ!?」

 

そ、そんな、まだ心の準備が!

 

ご主人様は私の手を取り歩き出しました。

 

私は戸惑いながらも、ご主人様について行きました。

 

「えっと……ここは、厨房、ですか?」

 

「そうだよ」

 

私が連れてこられた場所はお城の厨房でした。

 

え?ご主人様のお部屋じゃない?え?ここで何をするのでしょうか?

 

私は状況が理解できず、戸惑っていました。

 

「それじゃ、雪華。これを着て」

 

「これは、なんですか?」

 

ご主人様より手渡されたのは白い服のようなものでした。端にはヒラヒラとした飾りが付いていてとても可愛いです。

 

「これはエプロンって言って、料理中に服を汚さないようにする為のものだよ」

 

「へ~、可愛いですね……ふえ?料理?今から料理をするのですか?」

 

「そうだけど……何をすると思ってたの?」

 

「ふえ!?そ、それは、その……ふぇぇ」

 

言える訳ありません。あ、あんな恥ずかしいこと!

 

「そ、それより!何を作るのか教えてください!」

 

私は話を逸らす為に今から何を作るのかを聞いた。

 

「う~ん……もう少し秘密にしたかったんだけど、まあいいか。今から作るのは、俺の世界のお菓子だよ」

 

「天の国のお菓子……」

 

「興味ある?」

 

「はい!」

 

「作ってみたい?」

 

「お手伝いしてもよろしいのですか!?」

 

「うん。まあ、手伝ってもらう為にエプロンをあげたんだけどね」

 

「ふえ!?こ、これもらってもいいんですか!?」

 

「ああ、雪華に似合うと思って作ってみたんだ」

 

「~~~~~~っ!あ、ありがとうございます!大事に使わせてもらいます!」

 

私はご主人様から頂いたえぷろんをギュッと抱きしめた。

 

えへへ♪ご主人様からの贈り物……これで二つ目です。

 

一つ目は反董卓連合軍の時に頂いた獲物、龍爪です。

 

「よし、それじゃ、作ろうか」

 

「はい!」

 

「あれ?ご主人様、それに雪華も。こんな所で何してるの?あっ!もしかして摘み食い?」

 

調理を開始しようとしたその時でした。蒲公英さんが厨房に姿を現しました。

 

「ふえ!?た、蒲公英さん!?ち、違います!」

 

「え~、慌てるところがなんかあやしぃー」

 

慌てる私を見てニヤリと笑う蒲公英さん。

 

「ほ、本当に違うんです!そ、そうですよね、ご主人様!」

 

「ああ。違うぞ」

 

「ご主人様が言っても説得力無いよ。だって、この間も愛紗に摘み食いしてたところを見つかってお説教されてたよね」

 

「うぐっ……見られてたのか」

 

蒲公英さんの証言にご主人様は言葉詰まらせてしまいました。

 

「そ、そうだ!蒲公英も一緒にやらないか?」

 

「え?やるって、なにを?……はっ!ま、まさか、二人ってそう言う関係だったの!?」

 

「ふぇ!?ち、違うよ、蒲公英さん!」

 

「にしし、照れることないよ。蒲公英は二人の邪魔なんてしないからさ」

 

「ほ、本当に違うんです!た、蒲公英さん、私の話を……」

 

「さてと!蒲公英はお邪魔だと思うから居なくなるね~♪」

 

「ふぇぇえええっ!?ま、待ってください、蒲公英さーーーん!……うぅ、行っちゃいました」

 

蒲公英さんは私の話を聞かずに厨房から出て行ってしまいました。

 

「残念だな。用事でもあるのかな?」

 

「あぅ……」

 

ご主人様はどうやら蒲公英さんの言っていた意味が分かっていないようです。

 

それもそうですよね、ご主人様は料理を一緒に作らないかと誘い、た、多分ですが蒲公英さんは私とご主人様があ、逢引しているのだと勘違いしていたのですから。

 

うぅ……あとでちゃんと蒲公英さんの誤解を解いておかないと……

 

「それじゃ、気を取り直して作ろうか」

 

「そ、そうですね。うん……美味しい天の国のお菓子を作りましょう!」

 

そうだ!作ったお菓子を蒲公英さんに持っていけば直ぐに誤解だったって分かって貰えますよね。

 

私は気持ちを切り替えて天の国のお菓子を作ることにしました。

 

「雪華、料理の経験はあるのか?」

 

「はい。よくお母様の手伝いをしていましたので大丈夫だと思います」

 

「そっか。頼りにしてるよ」

 

「ふぇ……はい!」

 

ご主人様に頭を優しく撫でられて私は恥ずかしくなりながらも元気に返事をした。

 

「それじゃはじめよう」

 

「ご指導、よろしくお願いします」

 

私はご主人様にお辞儀をした。

 

「えっと……こんな感じでしょうか?」

 

私はご主人様に言われた通りに卵を割り砂糖を入れて、箸で解いたものを見せた。

 

「うん。良い感じだ。次は牛乳を加えて、火にかけるんだ」

 

「は、はい」

 

「そうそう、沸騰しそうになったら火からあげて」

 

「わ、わかりました……」

 

「よし、こっちは完成だ。これを湯呑に入れてっと」

 

「その茶色い物がお砂糖だったとは思えませんね」

 

私は沸騰しないように見張りながら湯呑に移している砂糖だったものを横目で見た。

 

「これが後でいい味を出すんだよ。舐めてみる?」

 

「いいんですか?」

 

「ああ。ちょっと待ってくれよ……はい。あ~ん」

 

「ふぇええ!?じ、自分で食べられますよ!」

 

「いいからいいから。ほら、早くしないと沸騰しちゃうぞ」

 

「ふ、ふぇぇ……」

 

笑顔で蓮華にすくったからめるを差し出してくるご主人様に私は恥ずかしさで顔を赤くした。

 

だ、誰も見てないよね。

 

「あ、あ~~ん」

 

私は周りを見回して誰も見てないことを確認してから口を開けた。

 

「ん……っ!?に、にが……これ、焦げてませんか?」

 

口に入れた瞬間に広がるであろう甘い味と違い苦さで顔をしかめる。

 

「これくらいが丁度いいんだよ。大丈夫、きっと気に入るからさ」

 

苦いのが気に入るって本当にそんなことがあるのでしょうか。

 

ご主人様の言ったことが疑問に思いつつも、ご主人様は嘘を言っているようには見えませんでした。

 

「……天の国のお菓子は不思議ですね」

 

思わず関心をしてしまいました。

 

………………

 

…………

 

……

 

「よし、それくらいでいいかな」

 

「は、はい。次はどうすればよいのでしょうか」

 

「次は滑らかになるまでこすよ。熱いから気を付けてね」

 

「わかりました」

 

私は沸騰寸前の煮立った液体をこし機で何度もこしました。

 

「よし、それじゃこのカラメルが入った湯呑に入れるよ」

 

「はい」

 

私とご主人様は手分けして湯呑に液体を注いでいきました。

 

「これで完成ですか?」

 

「まだだよ。次は湯せんで蒸すんだ」

 

「あ。だかささっき蒸籠を持ってきてたんですね」

 

ご主人様は私が液体が沸騰しないように見ていた時に蒸籠を持ってきていました。

 

「もうお湯も沸いてるから早速湯呑を蒸籠の中に入れよう」

 

「はい!」

 

蒸籠の中に湯呑を入れていき、最後に湯呑の上に薄い布を被せていました。

 

ご主人様が言うにはこうすることで、上から垂れてくる水滴から守るのだそうです。

 

「なんだか出来上がりが楽しみです♪」

 

私は蒸籠を見ながらワクワクしていた。

 

「お次はこれだ」

 

「これはなんですか?」

 

「これは粉ゼラチンって言ってね。動物から取れる液体を粉にしたものなんだよ」

 

「ふえ!?え、液体って粉になるんですか!?」

 

「厳密にいうと違うんだけどね。こういった方が分かりやすいかなって」

 

「なるほど。それでこの粉ぜらちんをどうするのですか?」

 

「これでもう一品作るよ」

 

ご主人様はそう言うと手早く準備を始めました。

 

「まずはこの粉を水に戻す。多分すぐに戻ると思うけど」

 

「わわ!本当です」

 

「次にこの中に桃の蜜漬けの蜜を入れて、また火にかけるんだ」

 

「そ、そんな大量に入れるんですか!?」

 

ご主人様は何のためらいも無く蜜を入れてしまいました。

 

ふぇぇ……な、なんだかすごく贅沢なお菓子になりそうです。

 

「これは沸騰するまで熱しなくていいんだ。ある程度、温めたら火から離して粗熱を取る」

 

「せっかく温めたのにですか?」

 

「うん。ゼラチンと蜜を混ざりやすくするためだからね。さあ、ここからは雪華も手伝ってもらうぞ」

 

「何をすればいいのでしょうか」

 

「これも同じように湯呑に入れていくから雪華は買った果物を好きなように入れていって」

 

「わかりました!」

 

私はご主人様に言われ、透明な液体の入った湯呑に桃や蜜柑、皮をむいた葡萄を入れていきました。

 

……桃の蜜漬け……これだけ多めに入れちゃおうかな♪

 

私はこっそりと一つだけ桃の蜜漬けを多めに入れました。

 

「ご主人様。終わりました」

 

「お!こっちも丁度。蒸し終わったところだ」

 

「完成ですか?」

 

「そう言いたい所だけど。今度は冷やすんだ」

 

「ふぇぇえええ!?ま、まだ食べられないんですか!?」

 

「冷やすとさらに美味しくなるんだよ。ごめんな」

 

ご主人様はがっくりと肩を落とす私を見て苦笑いを浮かべ済まなそうに説明してくださいました。

 

「いえ。さらに美味しくなると言う事でしたら待ちます。ご主人様の言うことに間違いはありませんから」

 

「俺が言うからっていうのは言い過ぎだと思うけど。美味しくなるのは本当だから」

 

ご主人様は力説する私に苦笑いを浮かべました。

 

「それじゃ、冷えるまで稽古をつけてください」

 

「了解。それじゃ、後片付けをして中庭に行こうか」

 

「はい!」

 

私とご主人様はお菓子を水に浸からない様にして水で冷やし、後片付けを終えて中庭に向かいました。

 

「はぁ、はぁ……ふぇ~。やっぱりご主人様はお強いですね」

 

「はは、まあ、俺もじいちゃんから結構しごかれてたからね」

 

両ひざに手を置き肩で息をする私、ですが、ご主人様は息も乱れず、汗一つかかずに立っていました。

 

「どうしたらご主人様の様になれるのですか?」

 

「え?う~ん……でもなぁ、さすがに雪華にはきついと思うんだけど」

 

「が、がんばります、教えてください!」

 

胸の前で両手を握りしめ気合をご主人様に見せた。

 

「う、う~ん……まあ、その話はあとで考えることにして。そろそろ冷えた頃だよ」

 

「ふえ?……あっ!」

 

天の国のお菓子が冷えるまでの間、ご主人様に稽古をつけて貰っているのを忘れてました。

 

「激しい運動の後には甘い食べ物。体にご褒美を上げないとね」

 

「はい!」

 

私とご主人様は天の国のお菓子を食べる為に厨房に戻りました。

 

………………

 

…………

 

……

 

「どうかな~」

 

ご主人様はそう言いながら一つの湯飲みを取り、軽く揺すったりしていました。

 

「……(ごくんっ)」

 

私はそれを息をのんで見つめていました。

 

「うん、大丈夫そうだ。出来たぞ雪華」

 

「本当ですか!それじゃ、早速食べてみましょう」

 

「うん。でもちょっと待ってね」

 

「ふえ?完成したのではないのですか?」

 

「したよ。でも、きっとこれを見ると雪華は驚くと思うんだ」

 

「?……ふえ!せ、折角冷やしたのに温めちゃうんですか!?」

 

ご主人様は笑顔で言うと一つの湯飲みを取ってお湯で温め始めました。

 

「ちょっとだけだよ。湯呑から離れやすくするためにね。ちょっと見ててご覧……」

 

「は、はい」

 

そう言うとご主人様は湯呑をお湯からあげて、お皿を被せて逆さにしました。

 

「……よし」

 

「ふぇ~~~……」

 

軽く揺すり湯呑を持ち上げるとそこからプルプルと揺れる塊が出てきました。

 

「はい。これが俺の世界のお菓子。プリンだよ」

 

「ふわ~~~~!」

 

私の目の前に置かれた天の国のお菓子。ぷりんを見て声をあげました。

 

「……」

 

私は軽くぷりんを突っついてみました。するとプルプルと振るえました。

 

ご主人様が言っていたように、プルプルと柔らかく、でも弾力がありました。

 

「食べてごらん」

 

「はい、はい。それでは、頂きます……はむ……っ!~~~~~~♪」

 

蓮華を手に取り、端を少しだけすくい口へと運びました。

 

口に入れた瞬間、口の中に甘い味が広がり私は頬を綻ばせました。

 

「お味はどうだい?」

 

「とってもおいしいです!それにこんな食感初めてですごく驚きました!ですが」

 

「ん?どうかしたのか?」

 

「本当にこの焦げたからめるが美味しくなるのですか?」

 

天辺にある焦げた砂糖、からめるを見つめました。

 

「一緒に食べてごらん。甘さで少し苦味も薄れると思うから」

 

「は、はい。それでは……はむ……っ!ほ、ほれは!?」

 

確かにからめるは苦かったのですが、ぷりんの甘味で程よく中和され、逆にぷりんの甘さをさらに引き立てて居る様に感じました。

 

「お味は?」

 

「からめると一緒に食べるとぷりんがさらに甘く感じられてとても美味しいです!」

 

「だろ?」

 

ご主人様の言った通り、この苦味がちょっとだけ癖になりそうです。なんだか大人の味、みたいな。

 

「ごちそうさまでした。とても美味しかったです」

 

皿に乗っていたぷりんを完食して想った感想を口にした。

 

「それはよかった。それじゃ、もう一つも試してみようか」

 

そう言いながらご主人様はまたお皿で蓋をしてそのまま湯呑を逆さまにして揺すっていました。

 

そう言えば、もう一種類あったんでした。あ、でも……私がこっそりと多めに入れた桃の蜜漬けが。

 

私は机に置かれたいくつもある湯呑を見た。

 

「ん?どうかした?」

 

「い、いえ。なんでもありません」

 

折角ご主人様がお出ししてくれるのですから、桃が多い奴をくださいなんて我がままを言ってはいけませんよね。

 

内心残念に思いながらご主人様が出してくださるのを待ちました。

 

「はい。どうぞ」

 

「ふわ~~~~~!綺麗です!透明なぷりんなんですね!中の果物が浮いているように見えます」

 

「はは。これはプリンじゃなくて、ゼリーって言うんだよ」

 

「ぜり?」

 

「ゼリーね。プリンみたいだけど全然違う食べ物なんだよ」

 

「ふぇ~。そうなんですか。でも、不思議ですね。本当に桃が浮いているように……あれ?」

 

そう言えば、このぜり、い?桃が多いような……他の湯飲みにこんなに桃を入れていなかったはずです。

 

「ああ、これ雪華が作ったやつだろ?こっそり桃を多く入れてたからさ。そんなに桃が好きなんだな」

 

私が疑問に思っていると、ご主人様が説明をしてきました。

 

「ふぇ!?み、見ていたのですか!」

 

「うん。まあ、見ていたというか見えたというか。それにしても、桃をこっそり入れてる時の雪華、すごく嬉しそうに微笑んでたからさ。可愛いななんて思っちゃったよ」

 

「…………ふぇ!?か、かかか可愛いだなんて!?」

 

ご主人様の言葉に一瞬固まってしまい、その後、思わず声が裏返ってしまいました。

 

「本当のことだよ」

 

「ふ、ふぇ~~~~~~~」

 

はぅ~、か、顔が熱いです。

 

「と、兎に角、頂きますね。……はむ」

 

私は恥ずかしさを紛らわすように目の前に置かれたぜりぃを食べました。

 

「……っ!~~~♪」

 

口に入れた時、ぷりん以上の弾力に驚きましたが、それ以上に蜜の甘味が私の舌の上で踊っていました。

 

「ふぇ~~~、美味しいです♪」

 

「こっちも気に入ってくれたようだね」

 

「はい!それにしてもすごいですね。天の国にはこんなに美味しいお菓子があるんですね。はむ♪」

 

「まだまだ、いっぱいあるぞ。まあ、俺が作れるのは簡単なものばかりだけどね」

 

「他にも作れるものがあるのですか?」

 

「ああ、この世界で作れそうなのがあったらまた一緒に作ろうか」

 

「は、はい!ぜひ、教えてください!」

 

ご主人様とまたお菓子作りができる。私は考えるまでも無く頷きました。

 

「そう言えば、ご主人様はどちらが好きなのですか?」

 

「ん?どっちも好きだけど。どちらかと言えば……っ!?」

 

「?どうかしましたか、ご主人様」

 

急にご主人様は背筋を伸ばしあたりを見回していました。一体どうしたのでしょうか?

 

「い、いや。なんでもなっ」

 

「……何が、好きなのですか、ご主人様?」

 

「っ!?」

 

「ふえ?あ、愛紗さん。厨房に何かご用ですか?」

 

震えるご主人様の後ろに立っていたのは愛紗さんでした。お腹でも空いたのでしょうか。

 

「蒲公英から聞きました。雪華と何をしようとしていたのですか!」

 

「よ、よくわからんが誤解だ、愛紗!俺はまだ何もしていない!」

 

「まだ、何も?」

 

「ふ、ふぇ~~」

 

な、なんだかよくわかりませんが、愛紗さんはご主人様に怒っているみたいです。ど、どうすれば……

 

(雪華ーーーっ!こっちこっち!)

 

「蒲公英、さん?」

 

厨房の入り口で手を振る蒲公英さんに気が付き、私は蒲公英さんの下へ向かいました。

 

「ごめん、雪華!」

 

「ふえ?なんで蒲公英さんが謝るんですか?」

 

「実はさ。ご主人様と雪華が逢引することをお姉様とおば様にだけに教えようとしたんだけど……愛紗にも聞かれちゃって」

 

「ふえ!?」

 

「ホントごめん!」

 

蒲公英さんは手を合わせて謝ってきました。

 

「あ、あの、誤解なんです」

 

「何が誤解なの?」

 

「別に私とご主人様は逢引なんてしていません」

 

「そうなの!?蒲公英はてっきり逢引してそのまま、閨にって思ってたのに」

 

「ね、ねねね閨だなんて!」

 

閨と言う単語に一気に顔が熱くなりました。

 

「はっ!そ、そんな事より早く愛紗さんを止めないと!」

 

「いや、もう手遅れみたいだよ」

 

「ふえ?それはどういう……あれ?」

 

「雪華、あっちだよ!」

 

振り返るといつの間にかご主人様と愛紗さんが居なくなっていました。

 

蒲公英さんの声にもう一つある出入り口を見るとご主人様が引きずられている所でした。

 

「ふぇ!?ま、待ってください。ご主人様!愛紗さん!」

 

私は慌ててお二人を追いかけました。

 

その後、愛紗さんに事情を説明して、なんとか分かってもらえました。

 

そして、みなさんに私とご主人様とで作ったぷりんとぜりぃを食べてもらいました。

 

みなさん、とても美味しいと言ってくれました。

 

ご主人様の好きな方は聞けませんでしたが、今度は一人で、ご主人様の為に作って差し上げたいと心の中で思っていました。

 

《To be continued...》

葉月「あけましておめでとうございます!本年もよろしくお願いします」

 

愛紗「年が明けてもう4週も経つのだが?」

 

葉月「うぐっ!し、仕方ないじゃないですか。仕事も忙しくて中々書く時間が取れなかったんですから」

 

愛紗「言いたいことはまだあるが……まあ、いいだろう。それより早く呼んでやったらどうなのだ?」

 

葉月「そうですね。では、今回のお話の主役である雪華の登場です!」

 

雪華「お、お久しぶりです、雪華です。あ!そ、それと、明けましておめでとうございます」

 

葉月「うんうん。雪華は礼儀正しくて良い子ですね。頭をなでなでしてあげましょう」

 

(なでなで)

 

雪華「ふぇ……は、恥ずかしいです。読者の方々が見ている前でなんて」

 

愛紗「ぁ~~♪(ああ、なんて可愛いんだ。あの表情。まるで子犬の様ではないか)」

 

葉月「えっと、愛紗がトリップしているようなので放っておきましょう」

 

雪華「ふえ!?あ、あの、よろしいのですか?」

 

葉月「そのうち戻ってくるので構いません」

 

雪華「は、はぁ……」

 

愛紗「~~~♪」

 

葉月「さて!では、今回のお話は如何だったでしょうか?勘違いから慌て、ちょっとヤキモチを焼く雪華を書いてみましたが」

 

雪華「ふぇ……で、ですが、あのような言い方をされては勘違いしても仕方がないかと思うのですが」

 

葉月「プルプル柔らかく、そして弾力もあり大小さまざまな大きさがある、ですか?そりゃ、もちろん、そう思わせる為に書きましたから!」

 

雪華「ふえ!?そ、そんな、酷いです!」

 

葉月「でも、内心期待していたのでは?」

 

雪華「ふえ!そ、そんなことありません!それに私は愛紗さんは桃香様の様に胸大きくありませんし。こんな胸じゃ、ご主人様は満足して下さらないと思いますし」

 

葉月「そう言えば、そう言う知識はどこで手に入れたのでしょうね」

 

雪華「そう言う知識?」

 

葉月「閨とかそれと、あの妄想とか」

 

雪華「ふぇぇえええええっ!!そ、そんなこと言えません!」

 

葉月「どうしても?」

 

雪華「どうしてもです!」

 

葉月「ちょっとだけでも」

 

雪華「ダメです!そのことを教えてしまっては朱里先生と雛里先生に申し訳が……ああ!?」

 

葉月「やはり情報源は朱里と雛里でしたか。まあ、何となく予想はしていましたが」

 

雪華「ふぇ~。で、ですが先生方は悪くはありません!用事があり朱里先生のお部屋にお邪魔したところ床に落ちていた本を読んだだけなんです!」

 

葉月「雪華って結構えっちなんですね」

 

雪華「ふぇぇえええ!?そ、そんなことありません!」

 

葉月「だってあんな妄想普通しないと思いますよ?」

 

雪華「ふ、ふぇ……ちがうもん」

 

愛紗「雪華を困らせるなこの痴れ者がーーーーーーっ!」

 

葉月「ぐは!」

 

雪華「愛紗さん!」

 

愛紗「はぁ、はぁ。大丈夫か雪華。あのバカの言ったことは気にするな、この話だってあいつが書いているのだ。きっと湾曲して書いたに決まっている」

 

雪華「はい……ありがとうございます、愛紗さん」

 

愛紗「~~~~っ!い、いやなに、あ、当り前のことを言ったまでだ(はぅ~!そ、上目遣いで見てくるのは反則だぞ雪華よ!ああ、ぎゅ~って抱きしめたい!)」

 

雪華「?どうかしましたか。愛紗さん」

 

愛紗「い、いや。なんでもないぞ」

 

葉月「げほ……あ、愛紗だって雪華をい……ぶべら!」

 

愛紗「お前は黙ってそこで寝ていろ!」

 

葉月「ひ、ひどい……がく」

 

雪華「ふえ!?は、葉月さん!?」

 

愛紗「大丈夫だ、雪華よ。あいつはこれしきの攻撃では死なん。殴りがいのあるやつだよ、本当にな。ふふふふ……」

 

雪華「あ、愛紗さん?」

 

愛紗「っ!おっとすまん。気にするな」

 

雪華「わ、わかりました」

 

愛紗「それよりもあいつが伸びてしまったからな。我々でこの場を〆るとしよう」

 

雪華「わ、わかりました。精いっぱい頑張ります!」

 

愛紗「うむ。その意気だ(うぅ……気合を入れた表情もたまらん!あ、あとで撫でさせてもらおうか……)」

 

雪華「え、えっと……こほん。読者の皆様。本年も作者である葉月さんと私たち共々がんばっていきたいと思いますので。応援よろしくお願いします」

 

愛紗「次回の話は拠点投票第三位の紫苑・璃々の話だ。みな、」

 

葉月「お楽しみに!」

 

愛紗「き、貴様!?折角良い所だったのに!」

 

葉月「愛紗に美味しい思いはさせませんよ!それに!」

 

雪華「ふ、ふえ!?」

 

愛紗「雪華!」

 

葉月「雪華は愛紗には渡さないのだーーーーーーっ!では、さらば!」

 

雪華「あ、愛紗さ~~~~~~~~ん!!」

 

愛紗「くっ!今年もこうなるのか!皆の者!今年も葉月の逃亡情報を待っているぞ!皆の力で雪華を取り戻すぞ!待てーー葉月ぃぃぃいい!」


 
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