#16
「――――まったく、それならそうと、早く言えばよいものを」
「いいじゃない、愛紗ちゃん。朱里ちゃんのお友達も無事だったんだし」
状況を理解した劉備は微笑み、関羽は溜息を吐いている。
「それじゃ、朱里ちゃんは劉備さんの軍師をしてるんだ」
「うん。雛里ちゃんも、仕える主を見つけたんだね」
「うん」
朱里と雛里は、腰を下ろして近況を伝え合っている。倒れたままの俺の背中に座って、だ。
「あら、一刀。何してるの?そういう趣味?」
「違う……」
そこに、7人目の役者。雪蓮だ。
「あ、雪蓮様…」
「雛里も変わった趣向があるのね」
「あわわっ!?」
それはもういから。
「それで、そっちの娘たちは?」
雪蓮に話を振られ、ようやく2匹の幼女は俺の背から立ち上がった。
「あの、紹介します。以前話した、離れ離れになっちゃった諸葛孔明ちゃんです。朱里ちゃん、この人が、孫策様。私は今ね、孫策様に仕えてるの」
「あのあの、劉備軍で軍師をしてる諸葛亮でしゅ!それで、こちらが劉備様と、関羽さんでしゅ!はわわっ、2回も噛んじゃった……」
「落ち着きなさい、孔明」
「はわっ!?」
狼狽える様子は雛里のそれとまったく同じで、双子ではないかと錯覚するほどだ。雪蓮もその錯覚を得てしまったのか、孔明の頭を、雛里にするようにぽむぽむと撫でる。
ある程度孔明の頭を堪能すると、雪蓮は様子を見ていた劉備たちに視線を向けた。
「貴女が劉備ね。噂は聞いてるわ。義勇軍なのに、次々と黄巾の賊を討伐してるって」
「あ、はいっ!はじめまして!」
「おそらく黄巾党は、今回の戦でおしまいよ。これを機に、領地を貰えるといいわね」
「へっ?あ、えと、その…頑張ります!」
人の上に立つ者の先達としてか、雪蓮は劉備に何やらアドバイスのようなものを送る。劉備は苦笑し、雪蓮は、今度は関羽に向き直った。
「で、貴女が関羽?」
「お見知りおきを」
「貴女……強いわね」
「そういう孫策殿こそ」
「ありがと。でも、うちの北郷には敵わないわよ?」
「えっ?」
えっ?
「孫策殿、不躾だが…その北郷という者は貴女よりも強いのであろうか?」
「えぇ。手も足も出ないの」
いや、何言ってんの?
「そうか…いつか、手合せを願いたいものだ」
「そうね。この戦いが終わって、そっちも状況が落ち着いたら1度くらい遊びにきなさい。紹介するわよ?」
「あぁ、その時は是非」
「待て待て待て、なに勝手にハードル上げぶべふぁっ!?」
「はーい、一刀は黙ってましょうねー」
ツッコミを入れようとした俺の顔を、雪蓮が容赦なく踏みつぶす。
「ごぶっ!?」
「いま失礼な事考えたでしょ?」
「……ずびばぜん」
あー、口の中に鉄の味が充満してるー。
「もっと話したいところだけど、貴女達もそろそろ戻らないといけないんじゃない?」
「あっ、そうですね!孫策さん、頑張りましょう!」
「えぇ」
奥歯もグラついてるー。
「それじゃぁ、雛里ちゃん」
「うん」
「私達、進む道は違えちゃったけど、頑張ろうね」
「うん、朱里ちゃんも気をつけてね」
幼女たちは涙目で互いの無事と健闘を祈り合う。和やかな光景だ。
……俺の視界は若干赤に染まっているが。
劉備たちを見送り、俺はようやく雪蓮の脚から解放された。
「あ゙ー、痛かった。なんで俺踏まれたんだよ?」
隣に立つ雪蓮に問う。
「ずっと見てたわよ。一刀の所為で、関羽すごい怒ってたじゃない」
「そうか?」
「そうですよぅ……」
おっと、亞莎たんは強い者の味方のようだ。
「違っ!?」
「なんとなくなんだけど、劉備とは長い付き合いになりそうなのよねー」
「なんとなくなんだ」
「えぇ。私の勘は当たるわよ?」
知ってる。厳重に隠していた酒を見つけられた時の驚愕と困惑といったら、忘れられないくらいだ。
「その時にでも、相手してあげなさいな」
「俺に死ねと?」
「あら、私が関羽よりも弱いとでも言うつもり?」
「……」
「ま、頑張ってね」
おぅまいがっ。
そんなこんなで、ようやく状況が動き出しました。真っ先に突撃をかましたのは、袁紹。何が理由かはわからないが、兎にも角にも、これから戦が始まる。
「公瑾よ、まだか?」
「まだです。袁紹は、我々から見て砦の反対側。もっと奴らが出て来るまで待ってください」
「ふむ…」
バトルマニアの祭ねーさんは、早くも出陣したそうだが、冥琳に諌められて待機を続ける。
「アイツらが終わらせてくれるなら、それに越した事はないんだけどな」
「ダメよ、一刀。穏も言ってたでしょ。軍功と風評が必要だって」
「へーい」
待てと言われたので戦の様子を遠くに眺めて入れば、また別の軍が動き出した。
「『曹』……アレって、曹操?」
「あぁ。そしておそらくだが、袁紹を焚きつけたのは曹操だろう」
「なんで分かるんですか、冥琳様?」
亞莎が手を挙げた。その細い二の腕を触りたい。
「はややっ!?」
「そういうのは帰ってからにしろ。問いへの返しだが、曹操の軍は、強靭かつ堅実な策を取る事で有名だ。いまだ少勢だが、いずれは大陸でも大きな存在となるだろう。……それはいい。そのような性質を持つ曹操の軍が、他所が動いたからと自分たちも功を焦る筈もない」
へー、曹操って凄ぇんだな。ってか、曹操も女なのかな。
「袁紹の軍は、この中でも最大の兵数を誇る。そこが動けば、黄巾党も大軍を割かなければなるまい。袁紹のところに敵を惹きつけ、その隙に何かをするのだろう。雛里も同意見だろう?」
「はい、おそらくは火計かと」
「ふーん」
じゃぁ、うちはいつ動くんだ?
「いま雛里が言った通り、砦に火が上がったらだ。そろそろ曹操も仕掛ける頃合いだろう。雪蓮、出陣の準備だ」
「はーい」
「待っておったぞ!」
雪蓮ちゃんと祭ねーさんは、冥琳の指示によって自部隊へと向かう。頑張れー。
「お前もだ」
「痛てててててっ!?」
耳を引っ張られてた。
雪蓮は中央、祭ねーさんは雪蓮の副官的な立ち位置。俺と亞莎は遊撃な感じで荒らして来いと言われた。俺のフットワークの軽さをよく分かっているじゃねーか。
「あ、城に火がついた」
「雪蓮様が動き出しました、一刀さん!」
亞莎の言葉に、砦から中央に目を向ければ、雪蓮を先頭に部隊が突撃していた。
「おーおー、雪蓮ちゃんはカッコいいね。1人で飛び出してるよ」
「冥琳様、たぶん怒ってますね……」
真面目な娘だもんな。
「さて、俺らはどうする?」
「あ、はい。私達は遊撃ですので、基本的には敵の薄いところを突くか、弱った部分を潰していきます。そうですね……雪蓮様が止まって戦い始めたら、その少し前方に向かいましょう。敵の中腹を穿ちます」
「かしこかしこまりましたかしこー」
「お店じゃないですよ、もぅ……」
雛里んには劣るが、亞莎だって勉強してるんだ。作戦は亞莎に任せるぜ。
「一刀さんは実地派ですもんね。雪蓮様みたいに」
「アレと一緒にされるのはちょっと……」
「あとで言っておきます」
「やめて?」
亞莎も強かになったもんだ。
そんな感じで待機していれば、雪蓮が止まったらしい。先ほどまで敵が弾き飛ばされていた軌跡が、1か所に留まっている。
「じゃ、行くか」
「はい」
亞莎の許可も出たので、俺は部隊の兵たちに向き直った。
「いいかてめぇら!俺達の仕事は、敵を散らす事だ。我らが王の道を作ることだ!絶対に脚を止めんじゃねぇ!黄巾の奴らを斬り捨て、ひたすら俺について来やがれ!!」
「「「「「応っ!!」」」」」
威勢のよい返事に頷き、俺は彼らに背を向ける。見据えるは、ひと際大きく血しぶきが舞う敵中央。
「突撃ぃぃいいいいいい!!!」
さぁ、お仕事の時間だ。
敵の横っ腹をぶち抜きながら駆けていれば、雪蓮と祭ねーさんに出くわした。弓を使うねーさんはともかく、雪蓮は敵の返り血を浴びて、服も普段以上に紅くなっている。怖い。
「あ、一刀だ」
「相変わらず凄いな、雪蓮ちゃんは」
「一刀に褒められた!なにヤダ照れる!もっと褒めて!」
「あの、台詞とは裏腹に眼が怖いんで、あんま近寄らないでくれますか?」
「一刀に嫌われた!なにヤダ悲しい!嫌わないで!?」
台詞を使い回すな。
「まぁ、いい。俺達はまたどっかに突撃かましてくるんだが、何処に道を作って欲しい?」
「何度も言うけれど、私達が欲しいのは軍功と風評。当然、張角の首級を上げれば、それも凄いものになるでしょうね」
「じゃ、砦に向けてだな」
「えぇ、よろしく」
「あいよー」
普通に会話を行なってはいるが、実際には戦いながらだ。雪蓮ちゃんがひとつ剣を振るえば敵の武器を弾き飛ばし、もうひとつ振るえば首が弾け飛ぶ。俺なんかクナイ2本だぜ?いや、まだあるけど、投げるのは勿体ないし。
「そうそう、一刀」
「ん?」
部隊をまとめて走り出そうとしたら、雪蓮に呼び止められた。
「たぶん他の諸侯も同じ事を考えてるわ。時間的に私が行けなさそうなら、貴方が
「そしたら給料弾んでくれる?」
「えぇ、3倍出してあげる」
「マジか!」
俄然やる気になってきましたよ、コレ。
「一刀さん、部隊を再編制しました!」
「よくやった、亞莎!今夜はれっつぱーりぃだ!
聞け!これより北郷隊は敵本陣に吶喊をかける!砦まで突っ走れごるぁああああ!!」
「「「「「応っ!!!」」」」
さぁ、総仕上げと参りますぜ。
あとがき
という訳で、#16でした。
あー……ダメだ、あとがきすら思い浮かばねー。
ではまた次回。
バイバイ。
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そんなこんなで、#16。
今回もギャグに走りたかった(過去形
どぞ。